【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
神への祈りによりもたらされたヒモによる支援効果は絶大であった。
たった一文で論理破綻を感じるがそうなのだから仕方ない。
「おわーーーっ! なんか出たっす!」
今度は戦いの火蓋を切ることとなった鹿伏さんは、自らの砲から放たれた弾丸を見てすっとんきょうな悲鳴をあげた。
それもそのはず、先程と異なりその弾丸は空にて渦を巻き螺旋状の雲を引くと、すさまじい速度で前衛の間を抜いてクソデカトカゲに着弾。
黄金(なお弾丸はおそらく鋳鉄製)の回転による円の運動エネルギーで、突貫しながらも撹拌し、ミキサーにかけるよりも効率的に獣汁100%のトカゲジュースへと変貌させてしまったのだ。
その栄養満点な液体は、慣性そのままに散弾銃のごとくまき散らされ、辺り一面を血で染め上げることとなり。
遠からぬうちに、この草原が草花咲き乱れる自然の楽土へと変貌するであろうことが容易に想像できた。
緑化運動には植樹以外にもこういう形がある。
日本企業には到底真似できまい。なんてったってクソデカいトカゲに襲われないからな。
「えっ!? わっ! ちょっ!」
そして次に接敵した黒井さんは、距離を詰めた瞬間にはなぜかすでにトカゲの背後に回っており、自然とそのまま流れるように首を掻っ切りながらビビっていた。
なお見てた僕は3倍ビビった。し、CQCの極意!?
けして派手さはないが、ただ作業のごとく効率的に相手の命を
なまなかな暗殺者では到底不可能な、並々ならぬ仕事人でなければ成しえない染みついたプロの体裁きであった。アサクリやってる?
自分でも驚いてる様子を見るに、本人的にはそんな動きをするつもりは毛頭なかったらしい。マクロはチートとしてBANされるから気を付けた方がいいぞ。
スキルを使用した際に格下判定でオートキル確定、勝手に体が動いたみたいな話なのだろうか。
そんな後半からは雑魚狩りにもってこいな便利スキルを、こんな序盤で!? Alchemy!?
「っっだああありゃあぁぁぁぁッ!!」
通常運転な裂帛の気合を雄叫びながら聖先生は、他2匹の尋常でない殺され具合に完全に腰(トカゲにあるのか?)が引けて
斬りかからなかった。
斬りかからぬまま、斬っていた。
踏み込んだ脚を見せず、振った腕を見せず、薙がれた剣閃を見せない。
ただ後の世で創作されたような逸話とは違い、斬られたモノが斬られたことに気づかないなどという非現実は無く。
真っ二つに両断された際に叩き込まれた超常的なエネルギーが、分かれた両の身体を
それは刃を振るう者の目指す頂であり、只人の身には生半可な努力では辿りつけぬ領域。
残るのは、ただ返り血の一滴すらかかることなく、残心を終えた
その刃にはあまりの速さに返り血が付くこともなく、であるからして振り払う必要もない。
振らずの刀。
至天・流月。
かすかに聞き取れる声量で、先生はそう呟いた。
な、なに? け、剣聖? カッコよすぎる……
転覚えた後の剣豪プレイでも見たことないものを見せられて、僕の中二心が思わず血沸き肉踊るのを感じる。後で先生と二人で次の技名も考えよう。
おそらく流月は鉾で刺突するのではなく斬撃として使う場合の技名で、至天はマジでスゲー頑張ったら相手が爆散した時に付くのではないだろうか。考察厨の解析が待たれる。
と、そんなワケで。
「……すさまじい成果です。現段階では他のバッファー職がどれ程の増幅効果をもたらすのかわかりませんが、恐らくこれだけの効果をおよぼすことはないでしょう。こうなれば認めざるを得ません」
僕が無事産廃ではなく。
「青海君、あなたは優れたヒモです」
立派なヒモである事が証明されたのであった。
良い出目が良い結果をもたらすとは限らない。
クリティカルを引いた結果身分が最下層に落とされるゲームバランスは本当に正しいのか?
「ほら見てください、私が今
しかも戦闘中だってのに薬研を出して薬草を磨っていたらしい。
いやまぁね……?
こんな初心者だけで構成されたパーティーが戦うんだから、怪我人が出ると予測するのは間違いじゃないし素晴らしい事だよね……?
僕は興奮気味に説明する彼女に、モキュメンタリーホラーを見た時のような言い知れぬ恐怖を感じながら「めちゃめちゃいいね」とだけ返した。未だヒモの道は辛く険しい。
さて、戦闘も終わりみんなの無傷を確認し、ここからは僕のヒモでないもう一側面の出番である。
つまりは荷物持ちだ。
僕はヒモと荷物持ち両方の性質を併せ持つ。両面に雑魚と書かれたコイントスか?
前世は蜘蛛を踏み潰した場合のifカンダタかもな。
そんな自虐はおくびにも出さず、いそいそと前線でお戦いになられたみなさまがご用意してくだすったお荷物をお持ちしようとごまをすりながら近寄った僕は、はたと気が付いた。
戦闘職二人が出された試験は「モンスターの素材の採集」、つまり必要な部分を持って帰らなければならない。
ならない、のだが……。
「このトカゲの素材になる部位って『ジュース』とかだったりする?」
するワケがない。
初回はともかく、僕のバフが効いた状態での鹿伏さんと先生の倒した素材は、もののみごとに液状と化していた。
そうなってくると、今回の戦いでは黒井さんの一匹以外ほとんど無いのだ。
持ち帰れる部分が。
地面に現在進行形で吸い込まれていく体液しか残ってねぇ。
負けた高校球児でもないんだから、地面ほじくり返して持ち帰るわけにもいくまい。
「えー! でもでもアタシたち倒したワケじゃないっすかぁ! なのにダメってそんなのないっすよぉ! です!」
「…………」
「うーん、心情的にはその通りではあるんだけど……まぁ初回の試験でそこまで厳しくは言われないかな、冒険者なんてそんな最初からソツなくこなせる人も少ないだろうし」
ちなみに間に挟まった無言は『そうかな……そうかも……』と小さく首を傾げてから何度か頷いていた黒井さんである。かわいい。
で、本題に戻るがここまで極端な事にはならずとも、このクエストに際して素材を上手く持ち帰れない駆け出しも多いと思うのだ。
どうも冒険者になろうとする人たちは、教育らしいものをほとんど受けてないっぽいからな。
現代日本なら炎上必至な差別的発言だが、実際中世異世界だからねココ。
昨日の飲み会でも時折話題の俎上に乗ったが、この町ボゥギフトに出てくるまでは半分野盗半分農民だったみたいな人も何人かいたくらいなのだ。
それでも今は立派な市民なんだから、たいした救済措置だと言えよう。
力自慢や体だけが資本の農民の子せがれでも、仕事にありつけて生きていけるならそれは素晴らしい話だ。
ヒモとして労働に従事していない僕が言えた身分ではないがね?
だから、まぁ。
多分大丈夫だ。
綺麗に殺せませんでした、なんてのは初心者のうちは日常茶飯事だろう。
とはいえ一切証拠なしの手ぶらで達成報告はできない。
僕はヒモだがペテン師ではないのだ、少なくとも今はまだ。
いつかの将来、あり得たかもしれないifとしての分岐進化先にはあるかもしれないのが怖いとこだな。
一歩間違えるとヌメモンになっちまうからデジモン育成は気が抜けねぇのさ。
ぜひとも僕の事はドリモゲモンに進化させてほしいね。僕を攻撃力100まで育てるのは相当骨だぜ。なんてったって筋トレは2日でサボるからな。
爆発地点あたりをウロウロ見て回れば、流石に残骸程度は残っていた。
中身が掻き出されたミキサー後の搾りかす状態でも皆無よりはマシだろう。
栄養が全部体外に持ってかれてるから煮込んでも味も出なさそうだ。
相当にショックな絵面だが、頑張ってくれたみんなの事を思えば嘔吐なんかしてられんわ。
渡されたギルド側は果たしてこれを何に使えばいいのか……まぁそれを考えるのは僕の仕事ではない。つかヒモに仕事は無い。悲しい話や……。
まずは出発前に防具屋のお母ちゃんとこ寄って銅貨4枚で買ったゴツめの手袋を装着。
骨が飛び出ないようにできるだけ気を付けて畳み込み、購入時に分けてもらった革の端切れで包み縛って、事前に用意しておいた銅貨15枚のナップサックに詰め込んでいく。
これはスライムの皮膜を使ってるらしい。あの終わってる性能の環境ぶち壊しTier.1たる風船犬スライムの皮ではもちろん無い。
普通のスライムもこの世にはいるらしく一安心である。ホントに安心か? 普通とか言いながら出てきたのがダクソのスライムだったら終わりだぞこの異世界。
「青海君、その透明なのは……鞄ですか?」
作業をしていると、背後から大きな胸が手元を覗き込んで……違う、視覚情報だけで判断してしまった。先生が手元を覗き込んでくる。
「えぇ、先生。一応先達から話は聞いてきましたから。まぁこういうのも必要になるだろなー、と。いやまさかぶんぶんチョッパー使った後みたいな物体を入れることになるとは思ってなかったので、耐水性がここまでしっかりしてたのはラッキーですけど」
はい、ぶっこんで詰め込み完了。
めちゃ汁気が残っててタプタプだが、漏れること無く保たれている。青特:耐水性○がついてるかもな。鞄の中がパンパンだぜ……。
先程倒したトカゲ三体(骨まで溶けたものは除く)はしっかり体が残ってた為、引いてきた大八車にONしてあるので、これで必要分はすべてクリアだ。
小型モンスター狩猟&採取クエスト完了である。
村クエはさっさと全部クリアしてしまうタイプとしてはこういうのは早く終わらせたいんだよな、ハンコの押されてないクエストがあるのが我慢ならねぇ。
……ま、ゲーム脳でファンタジー世界を生きるのはちょっと不謹慎か。暇を見つけたら自省しておこう。
そんなことを思いながら、僕は和やかに話し始めたみんなの後ろを、ごろごろと大荷物を引きながら歩き始めた。
大八車で大荷物を運ぶなんて貴重な経験だ。昨今じゃガキにやらせても田植え体験までがせいぜいだからな。
つまりひ弱な現代っ子の僕にとって半端ねぇ重労働ってワケ。明日は筋肉痛確定演出だし果たして街まで引いていけるかも自信あらへんよ。
……とはいえ、命懸けでみんなが頑張ったんだから。
男の子として、意地を見せなきゃな。
楽しげに会話を弾ませる4人を見て、僕は腹にフンバリを入れた。
ちょっと先生が移ってきてるなコレ。