【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
翌朝。
何時まで経っても起きてこないキングダムの様子を見に行った先生が血相を変えて戻ってきて、事態を知った僕らは館中を探し回るも結局書き置き一つ見つけられなかった。
……でもこの辺りまでは、保護監督者たる先生はともかく、他のみんなはたいして焦ってないように僕は感じていた。
なんせ同じ高校生だしな。教師やクラスメイトに隠れてコッソリとなんか企むなんてのも、わからない話じゃ無かったろう。
修学旅行で宿を抜け出す生徒なんて、毎年恒例のあるあるなワケで。
そんな大げさにしなくても別に里の中で襲われる事も無いだろうし、っていう極々当たり前の感想。
明星先輩も「まぁまぁ、朝飯前にゃ帰ってくんじゃないスか」と、珍しく慌てる先生をなだめていたくらいだった。
けれど僕の心には、先生と同じように言いしれぬ焦りが募っていた。
『……なぁ、青海、余は……』
なんとなく、昨夜別れる前の王城さんの言葉がリフレインする。
あの時呑み込まれた言葉の落ちていった先は、腹の底ではなく、どこか……もっと深い場所だったんじゃあないか?
とりあえず外部の人に情報を聞きに行こうと、外へ飛び出ようとした先生を追った僕らと玄関で鉢合わせしたベルフィエッテさんは、事情を聴いて不思議そうに首を傾げた。
「? ハイ、風の方の命により露払いをされるとの事でしたので、明け方近くに他の者が世界樹へお送りさせて頂きましたよ。帰りは一緒でいいからって、案内役ももう帰ってきてましたし」
その言葉を聞いてようやく「なにかとてつもなくマズい事が起きている」ことに、パーティ全員が気づいたのだった。
「今すぐ追いかけなきゃ! いえ、何があったのかわからない以上、あなた達も危ないかも……私、私一人で!」
「えぇ、先生。すぐに、みんなで向かいましょう。日本ならいざ知らず、ここでは力を合わせないと、逆にもっと危険な目に合っちゃいます。だから、みんなで行きましょう」
「……えぇ、えぇ。そうね、そう……ごめんなさい」
顔色の悪い先生が吐き出す思い詰めた言葉に、同意を返しながら方向を修正しゆっくりと減速をかける。
そもそもキングダムの実力なら、ワームにも通用すると昨日証明されている。
生徒が危険な目にあうのを危ぶんでいるとしても、それは異世界に来てから常につきまとっていた思考のハズで、今回ことさら問題にする程の理由が無い。
なのにどうして彼女がこんなに焦っているかといえば、それは『わからない』からだ。
昨日まで平素と変わらない素振りだった相手が、あくる朝突然意味不明な行動に出たら、想定外の事にとまどうのは当然の話。
事情が分からないから、よからぬ想像ばかりが膨らんでしまう。
『悪い人間に連れ出されたのか? もしくはキングダムだけで来るよう脅迫を受けた? なにか大事なものを人質に取られて相談できなかったとか?』
そんな感じの矢継ぎ早に流れて行く暗い思考が、先生の忙しなく動く視線や多量の発汗から見てとれる。
どれもこんな状況じゃ正直薄い線だが、むしろ長年の教師の勘が緊急事態において極めて地球的なそれらの可能性を想起させるのは、ある意味まっとうな感性だと言える。
立派な大人である彼女は、僕らよりもしっかりと地球の常識が染みついている。
焦ったら湧き出す嫌な予想は、無意識下ゆえにそれらに引っ張られるのだろう。
わからない、不安だ、気が逸る、急がなきゃ。
不明が恐怖を呼ぶ。恐怖は焦燥に変わる。焦燥は無謀へ繋がる。無謀の先に待つのは、きっとこの世界では死だろう。
……生徒を思う彼女の気持ちを無謀とは呼びたくない。
けれど、そのもっと尊い何かの為に暴走していしまい、他のみんなを危険にさらすことになれば、それこそ彼女は死んでも死にきれないハズだ。
だから落ち着かせなきゃならないし、スタンドプレーに走らずみんなで一丸となって彼らを追う事を理解してもらわなきゃならない。
なにより……彼女の懸念自体は外れていたとしても、大急ぎで助けに行かなきゃならないってのには、僕も同意するところだから。
「オゥ、準備終わったぞ」
「こちらも整いました。いつでも行けます」
それぞれ準備を終えたみんなが、割り当てられた個室から出て来る。
『もしかすると彼らが危ないかも知れない』と伝えると、詳しい話を聞く前に一切のラグなく準備に取り掛かってくれた。
無条件の信頼は良くないと言いつつ、舌の根も乾かぬ内に早速濫用だ。どんどん信頼できない語り手になってく自分が情けねぇや。
荷物や武器を背負った彼女たちはこちらへ歩み寄ると、金貨を1枚ずつ手渡してくれる。
僕は粛々とそれを受け取ってゆく。
今回ばかりはインフレだの尊厳だのと小賢しい理屈を言うつもりは無いし、申し訳なく思う時すら惜しかった。大事な時に力を惜しんでは本末転倒だ。
本当に大事なものの為なら、信頼や尊厳ぐらいくれてやる。
「ありがとうございます。細かい事情は向かいながら話すので、とりあえず出発しましょう」
里長からの届け物を届けてくれた後、別室で待機してもらっていたベルフィエッテさんを連れて、僕らは昨日に引き続き再び世界樹へと駆け出した。
「じゃあなにか、王城たちは魔王に操られてっかも知れねェってことか?」
「確証までは無いですが、最悪のケースとして考えられます。……雪兎を筆頭にハーフエルフたちは、一様に予知夢を見て世界樹へと集ったそうです。結果的にエルフの外敵を呼び込む事になったその天啓が、魔王によるものじゃないかと疑っていたのは僕だけじゃなく王城さんもでした。……そして昨日の夜に、彼女たちの身に同じ事が起こった可能性は否定できない」
ほとんど駆け足でワープゾーンを潜り抜け世界樹へと向かいながら、僕は昨日ネリッサさんから聞いた事情をみんなへ報告する。
雪兎さんの生い立ちは一旦横に置いて、今回の件に関わっているだろう「彼らが世界樹へとやってきた理由のところ」だけ。
僕らの間で交わされる会話を聞いて、ベルフィエッテさんは衝撃の事実に目を白黒させっぱなしだ。悪王寺先輩の腕の中へ抱かれた時は頬を赤くしてたし、舐めてたら色の変わる飴くらい移り変わりが激しいな。
バフで強化された僕らパーティの速度についてこれるハズも無く、早々にベルフィエッテさんは悪王寺先輩にお姫様抱っこされ僕は明星先輩におんぶされている。これが一番早いんだからしゃーない。
ベルフィエッテさんにというより、エルフさんには昨日あったアレソレはまだ隠しておきたかったけれど、もはやこうなっては隠し立てもしてられん。
一分一秒を争う中で、悠長に「世界樹の中で話すね」とは言ってられなかった。
最低限情報元の詳細は明かさず僕が聞き出した体で話したけれど、それでもこんなん怪しもうと思えばいくらでも勘繰れるだろう。
つまり僕らのハーフエルフ密輸事件も白日の下に晒されちゃったワケだ。申し訳ないけど僕の投獄は帰ってきてからにしてもらおう。メロスのセリヌンティウス抜きで頼むよ。
「自分の足で出て行った、となると……もちろん誘拐や拉致の線は消える。功績を求めての抜け駆けは論外。少なくとも闇無クンが居る以上そんな事にはならないと思う。知名クンによる助手クンへの反発……に至っては、王城さんだって止めるだろう。そうだね、洗脳以外に自発的に出ていく理由も思いつかないや」
比較的冷静な悪王寺先輩が他に考えられる理由を指折り数えるが、しかしそのどれも当人とてしっくりきてはいないようだ。
今彼女が挙げた理由は、普通に考えれば可能性が高い順当な択ではある。
そもそも人が行動を起こすワケなんてのは、そこまで数があるもんじゃない。
みんな思いの外シンプルな心の求めに突き動かされて、足を踏み出すものなのだ。
であればその真っ当な選択肢を弾いて残るレアケースは、自ずと外部から加わった力によるものに限られてくる。
「だから恐らくですが、昨日の夜三人は夢を見たんでしょう。なにかおぞましい、人の心を擽り意のままに操る、悪夢を」
「悪夢……ネコ型配膳ロボットとかが出るヤツっすね……」
先生が『今すぐ追いかけなきゃ!』と言った瞬間に走り出し、続く僕の言葉で急カーブしUターンして戻ってきて準備を整えたりと大忙しだった鹿野ちゃんが、身長の低さ故に他の人の三倍は足を回しながら、人の苦しみを思って心を痛め表情を曇らせる。
ネコ型配膳ロボットが出るのは僕の悪夢に限られるが、首肯しつつ感じたことを話してゆく。
正直に言うと、昨夜の王城さんは少し思うところがありそうでした。
けれど、それは今すぐにこんな大きな問題を引き起こす程、切羽詰まったものではなくて。
部屋に帰ったのはもう夜遅くで、恐らく他の二人は寝静まっていた頃合いです。その証拠に、彼らの部屋の明かりは消えていた。
あの後彼女が起こして話し合いの場を設けたならともかく、そうでもなければ突発的に三人の考えが突然変わるとは思えません。
もしたった一夜の心変わりに、なにか契機があるとすれば……それは夢の中で何かが起きた可能性がある。
雪兎は夢で見た内容を疑いもせず信じ込み……多くのハーフエルフが、そんな不確かな情報だけでこの危機に集っていました。
この世界では予知夢が普通だとしても、あまりにタイミングとその相手が悪過ぎる。
状況証拠から察するに、夢で人を操る存在が今度の騒動の黒幕に居ると考えるのが妥当です。
あの雪兎の素振りを鑑みるに意識を奪うとか、人格を書き換えるみたいな強力な催眠ではないんでしょう。
だから例えば、誰しもの心に眠るほんの小さな闇を煽りたて、断崖へ向けて背中を少しだけ押すような……極めて悪趣味な力。
恐らく魔王にはそんな最悪の力があると、今は考えるべきだと思います。
「なるほどね、確かに辻褄があうよ。まったく、"存在しない友人"の次は"夢で悪事に誘う"かい? 今回の旅路は、ズルい能力にほとほと縁があるね」
「……そうね。昨日まであの子たちになにか変わったような所は見受けられなかった。事前に何かを植え付けられていたにしろ、夢に干渉されたにしろ、昨日の夜に何かきっかけがあったと考えるべき。学生の心なんてまだ未成熟で、いろんな思いがあって当然のもの。心配だわ……!」
先生も真剣に話を聞いてくれてはいるが、それでも生徒が危険に晒されているかもしれないという状況に、焦りの色が隠しきれていない。
「えぇ。彼らが行動を操られているとして、完全に向こうの手に落ちるまでに、首に縄をつけてでも連れ戻さないといけません。世界樹へ誘導するのがどういう意図あっての行動かまでは不明ですけれど、目的を達成される前にインターセプトできるのが最善です」
こんな事をしてくる奴が、ロクな事を考えてるとは思えないからな。
洗脳してさせる事が世界樹の落ち葉拾いボランティアなワケがねぇ。
どうか致命的な闇バイトをさせられる前に、間に合えば良いんだが……。
「姐御、任せてくださいよ。洗脳でもなんでも、オレが神さんにお願いして解いてみせます!」
冷静さを欠いてしまっている先生に、明星先輩が自分の胸を叩いてことさら明るくそう言い切ってみせた。
その言葉に、先生はハッと気づいたように先輩を見て、「そう、ね……ありがとう、明星さん」と小さく笑う。
ぎこちなくはあれど、笑顔を見せてくれたのは良い傾向だ。
いたずらに心が急いても、スピードが上がるわけじゃない。落ち着けない時こそ、周りが落ち着かせなきゃいけないものだ。
また、明星先輩の仰る事はたしかに、僕も期待させてもらっている部分だった。
聖女たる彼女が祈祷によって状態異常の解除ができるのは、僕らが初めて会った時に証明されている。
僕がたまたまえっちな洗脳能力者じゃなかったから解除されなかっただけで、既に奇跡は彼女の願いにより地上へと一度舞い降りているのだ。
聖女の祈祷が魔王の洗脳に打ち勝っても、別に不思議でも何でもない。
……ただ同時に、それが通用するか不安な気持ちも心の隅にある。
人の心を意のままに操れば、それは確かに洗脳だろう。
けれど、人に潜在する闇を熾して大火とする行為は……はたして"洗脳"なのだろうか?
「そ、その……」
うん? どうしたの目黒さん。
今まで沈黙を貫いていた目黒さんがおどおどと上げた声に、僕以外の全員が驚いてそちらを見る。
いやまぁ僕もビックリはしたけれど、わかりやすく驚かれると萎縮しちゃうかもだしね。
こういう場面で彼女が自発的に声を出す事なんて今まで一度も無かったから、みんなの反応も仕方ないけどさ。
「あ、あの……あ、あ、青海君が、言うなら……だ、大丈夫、だとは思うん、ですけど……こ、これが、また相手の罠って、可能性は……? お、追いかけて……いった先、で、わ、私、たちまで、おかしく、なったら……もう、取り返しが……つか、ない……よう、な……」
しかも長文の懸念表明である事に、僕らは二度驚かされる事となった。
おわー! 凄い、えらいぞ目黒さん!
遠慮しがちで自分の意見を表にまったく出せなかった大好きな人の成長に、僕は心の中でぱちぱちと拍手を送る。
しかし、素晴らしい成長ではあるのだが。
「いえ、その点は大丈夫だと思いますよぉ。あの三人だけが操られて、私たちだけが操られていないのには理由があるハズです。たまたま無作為に選ばれたのが彼らだった、というのは自然じゃあありません」
だからといって、無条件にその内容を受け入れるワケにはいかなかった。
きちんと受け取り、吟味して考えた上で山算金が反論する。
目黒さんの心配も一理あるが、これは山算金の言い分の方が筋が通っているかなと僕も思う。
そもそもハーフエルフは一気に操ってるにもかかわらず今回は三人だけなのも変だし、もしも転移者の場合同時に影響を及ぼせる人数に限りがあるとしても、紐帯を切り離すならこちらのパーティメンバーからも引き抜いた方が明らかに効果的だ。
相手は僕らの嫌がることしかしない最悪の性格をしたクソド外道人格破綻者で、なおかつ攻略wikiばっか見てる効率厨だ。
なら、これがヤツにとってベストだったと思うべきだろう。
これ以上のことが、ヤツにはできなかったのだ。
会ってもないのにもう底が見えちまうとは、闇無君を見習って欲しいくらいだぜ……。
まぁ、ともあれ。
「けど鋭い視点だ。考えておかなければ、まさしく僕らがミイラになっちゃう可能性もあったからね。思考の抜け穴を埋めるのはとても大事な事だ、ありがとうね目黒さん」
それとは全く別ベクトルの理由で、僕は真剣な顔をして目黒さんへ肯定の言葉を送る。
山算金の反論を受け目に見えてシュンとしていた目黒さんが、その言葉に嬉しそうに頷いてくれた。
泣いた烏の濡れ羽色の君がすぐに笑ってくれて良かったぜ。
失敗をバネにして成長できる人間はとても少数だ。
何かにチャレンジした時に失敗してしまうと、ほとんどの人は再び挑戦しようとはしなくなってしまう。
実際意見を言うようになってくれれば、いつか彼女だけが気づけた事で危険を回避できるかも知れない。
伸びしろがある部分はどんどん伸びてもらうべきで、成長を促すのはいつだって肯定と賞賛である。
甘えた話もおおいに結構、僕は育成系ゲームじゃ常に溺愛タイプなんだ。精神論は今時流行らんし。
つーわけで、最悪の事態も否定された以上、もはや時間をかける暇は無い。
「ごめんなさい、ベルフィエッテさん。ダンジョンへ入る為の魔法を、お願いできないかしら……どうか、頼みます」
ようやっと辿り着いた世界樹の根本で、抱っこからようやく解放され未だ頬の赤いベルフィエッテさんに、先生が頭を下げ頼み込む。
僕らもそれに続いて、彼女へと頭を下げた。
僕らは彼女らに故意で隠し事をしてたし、なんか既に魔王の術中にハマってるぽくて頼りないし、しかもその尻拭いに依頼人の関係者にご足労までさせちゃうわと、やむを得ずとはいえ冒険者として信用に値しない情報を露呈しまくった。
本来ならやっちゃいけない事ランキングを上から順に制覇していってるような有様だ。
だからこそ、どうかお願いしますと懇願するしかない。
こんな時に風の方だのなんだのと、肩書使って指示したところで反感を買うだけだろう。
いや、エルフさんならそれも従順に受け入れるかもしれないが……
「頭を上げてください、風の……いえ、ヒジリ様、みなさん」
降ってきた芯の通った声に、顔を上げる。
既に精霊を指にまとわせ魔法を行使していたベルフィエッテさんの瞳は、今までと違う場所を見つめていた。
それはエルフさんたちから常々向けられていた、先生の中に幻視した存在しない誰かに縋る視線ではなく。
ただ目の前で大切なものの為に奔走する、地に足をつけて生きる"誰か"を捉えた目だった。
崇拝では無い、敬愛の瞳。
「確かに、いろいろな話を一度に聞いて動揺はしています。けれど、エルフだけでなくハーフエルフのことまでも想い、お仲間の為に必死になれる貴方様のお手伝いを断る理由など、この国のエルフにはありません。さぁ、乗って……急いで向かってあげてください。私は至急里へ戻り、みなさまが再度攻略へ向かった旨を長へ伝え、何があってもいいように支援を求めた後、ここへ取って返します。それまで、どうかご無事で」
「……ありがとうございます、恩に着ます!」
後の事を万事請け負ってくれた彼女に心からの感謝を告げて、僕らは浮き上がる葉に乗り込み、キングダムを吞み込んだ世界樹の洞へと向かった。