【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
そうして飛び込んだ世界樹の洞の中は、昨日の下見とは全く異なる様相を呈していた。
薄暗く発光する壁や、ねじ曲がった回廊は変わっちゃいないが、しかしそこには僕らが先日さんざ探し回ったモノたちが跋扈していたのだ。
「探せば見つからないのに探していないと山ほど出てくるモノってなーんだ?」というクイズの答えは、ワームと耳かきである事は間違いなさそうやね。
昨日まであれだけうろちょろしても影すら見せなかったワームが、壁に空いた小さな穴や地面のへこみの影から、ぞろぞろと這い出ては僕らへと飛びかかってくる。フェイスハガーみたいな動きやめてね。
二十や三十じゃきかないその数に、僕らの勢いは逆噴射したかの如く一気に減速を余儀なくされた。
「ッあぁ、もう! 数がッ、多いわねっ! どこに隠れてたのよ!」
先生が大きく振り回した鉾の刃が、飛びかかるワームらの細長くも堅固な身体をまとめて両断する。
あんだけ硬い硬いと言われていたその外皮も、金貨分のバフを受けた彼女が天与の武器を力いっぱい振るえば形無しだろう。もちろんギコギコする必要もなし。
つっても、流石に刃を添えるだけで切れる柔らかさとまではいかず、全力で叩き込まねばならないのは変わらない。こりゃ食えそうにないな、噛みきれんわ。
一体何匹いるのかという程、次から次へとどこからともなく這い出てくるワームたちに、僕らはここに来て完全に足止めをくらっていた。
一撃でワームを倒せるのは先生と鹿野ちゃんの砲撃くらいのもので、他のみんなは一匹倒すのに何度か攻撃をしなければならないのもその要因となっている。
とはいえパーティで合わせればかなり数を稼いでいるハズだけれど、スコアを稼げば稼ぐほどタイムリミットが相対的に迫ってくるのが道理で。
そして現実の厄介なところは、残り時間が表示されないってことだ。
今すぐにでも取り返しがつかない事になるかもしれないという事実が、否応にもみんなの中の焦燥感を煽ってしまう。
「増えるんじゃないかとは聞いちゃいたがッ、まさかここまでとはなッ! だぁー、クソっ。オレも長剣くらい見繕っときゃあ良かったぜ。おい、イインチョー! 殺虫剤とかねぇのか!」
刀身の短い「焔鋼」でワームと戦うのに苦戦している明星先輩が、苛立たしげな舌打ちとともに過去の自分へ悪態をつきつつ委員長へ尋ねる。
するとトリモチ爆弾で一定範囲にまとめて移動速度低下のデバフを撒いていた委員長が、真面目な顔で鼻を摘まみながらヤバい色の薬瓶を鞄から取り出した。
「さっきから撒いてるんですが、一向に効いている様子がありません。もっと濃度を上げてみましょうか? これ以上少しでも濃くすると、私たちの視神経にもただちに影響が出る計算になりますが、とはいえ試してみなければわからない事も確かに」
「じゃあ却下だ、ッと!」
そんなギリギリ攻めた強さの薬剤を既に撒いてたってマジ? もしかして先日突然行われたパッチテストってその為だったの? つかまず眼から来る薬って怖すぎない?
用意周到で大変素晴らしく頼もしい話だが、今度からは目的も共有しといてくれると心構えできて助かるかも〜!
ほら、このワームの襲撃とかも、わかっててなお手一杯なワケだし?
そう、この昨日とは打って変わっての大攻勢は、ある程度予見されていた事だった。
とはいえここまでになるとは思っていなかったけども。
その理由はネリッサさんから渡された、雪兎のドロップ品。
『
特定の兎獣人の氏族に伝わる、虫を呼び寄せる為の道具だそうだ。
彼女は父親の遺した品の中にあったコレを使い、ワームを引き付ける事で結果的に都合よく扱っていたのだろう。
僕はてっきり『虫を操作できる笛』っつー、それさえ手に入れば半ばダンジョンクリアに等しいキーアイテムだと思ってただけにいささか拍子抜けではあったが、これはこれで探索を便利に進められるアイテムだと思うので有難く頂戴しておいた。
そしてこれが無くなった以上、ワームはハーフエルフさんたちの意図から外れ、無秩序に暴れ回る事になる。
そうなりゃ自然、罠もへったくれもないランダムエンカウントが僕らを襲うようになるだろうってのは自明の理だ。
つまりはハーフエルフさんたちがワームを利用できていたのは、魔王の洗脳もなにも関係が無いたまたまのシナジーだったってことッスねぇ! フザケないでもらってもよろし?
そんなのアリ〜?って感じだが、リッチキングの時は偶然こちらがメタ構成を組めてたんだから、逆もまた然りっつー事だろう。意図しないシナジー発見するのもローグライクの醍醐味だしな。
むしろそんな理外の連携を理論値みたいな速度で断ち切れたのは、それこそ望外の幸運とも言える。
相手も『やる』ようだが、ウチのパーティはもっと『やる』ってトコを魅せてやんなきゃな。
さっさとワームの群れを駆除し、このままキングダムの面々も奪還して、居るだろうワームの親玉もブッ飛ばすことで、それを証明してみせよう。
「わっ、やっ、ちょっ、キモ! みんなもっと頑張って! ほら、フレーフレー!」
「ええい、楽をしてるクセに……! 絶対青海センパイを落とさないでくださいよぉ!」
キメ顔で決意も新たに意気込んだ僕は、武闘派じゃないので戦闘に加わっていない悪王寺先輩に、それより非力という理由で抱きかかえられているのだった。
世界樹くんだりまで攻略に出向いてる冒険者の姿か?これが。僕は悲しい……。
「うーん、キリが無いっていうかー……あ、そうだ! 先輩! いいこと思いついたっス!」
遅々とした歩みにならざるをえない現状に、みなが焦れた思いを抱える中。
迫りくる激キモワームノーツを、perfect判定で漏らさず撃ち抜き爆散させていた鹿野ちゃんが、名案をひらめいたとでも言うように大声をあげる。
おぉ、流石は鹿野ちゃん! それで、そのいいこととは一体ンムッ
「……的が多いなら、弾も増やせば良いんすよ」
お姫様抱っこされている僕の肩の上へ、ヒョイと一足で飛び乗った彼女は、僕の顔めがけて前屈し唇を重ね合わせる。
ぺろりと唇を舐めた、逆さ向きの彼女の表情は、一つ下の後輩と思えない妖艶さを放っていた。
ホントにイイコトされちゃっためう……。
なお腕の中の助手クンの唇を目の前で奪われた悪王寺先輩の顔は見えていないものとする。見なくても分かるが。
背筋が釘打てるくらいに凍って肝がバチコリ冷えているのは、そろそろ冬の訪れを感じさせる木枯らし一号によるものかも知れんね。
……すんませんが今はどうしようもなく、贖罪するも断罪されるも帰宅後になります。ちょうど投獄予定なんで、刑期の加算はその時にでも。
みんなの命がかかってる時は、どう思われようと一旦バフ自販機に徹する覚悟です。背筋も肝もキンキンだし、つめた〜いしか無い夏専用筐体やね。なんなら昨今流行りの冷食用まである。
覚悟という言葉の鼎の軽重は、この後に命があったら問うといてくれ。
不意打ち気味に誓われた愛の証として、銀の鎖が僕と鹿野ちゃんの間を繋ぐ。
一定量以上のバフをかけた状態でなにがしかの行為が行われると出る『
ちなみに命名は先生。キチンとルビまで振って教えてくれた。そろそろ僕も必殺技の一つくらい欲しかったしありがたいね。
彼女はそれをくるりと指で絡めて巻き取って、そのまま中空へと放り投げた。
鎖はじゃらじゃらと音をたてながら絡まり合い鈍く光を放つと、特徴的な円盤型のマガジンへと形を変える。
おわ〜、何それ! 変形って別パターンもアリなの!? スゲー良い!
「的の方から来てくれる撃ち放題なんて、ココはサービス精神二重丸ッスねぇ!」
恐らくスターやゴールデンバナナと同じ原理で宙に浮かぶソレを彼女は片手で掴み取ると、いつの間にか砲上に空いていた弾倉室へと勢い良く差し込んで。
深く腰を落とし、片目を瞑り照準を合わせて引き金を引いた。
『超々々々
え、な、なにその……めちゃくちゃカッコいい技名みたいなのは……? は、流行ってるのか……? 必殺技命名が……?
轟音、轟音、轟音。
リッチキングの時に見せてくれたソレを遥かに凌駕した精度、速度、威力の鉄の波濤が、ワームを正確無比に撃ち抜いてゆく。
本来単発だったハズの咆哮が重なり合い、絶え間ない地鳴りのように大気を揺らす。てか世界樹もちょっと揺れてない?
巣口から吹き出るマズルフラッシュが空を焼き、硝煙と煤の香りが辺りに満ちる。
戦場さながらの4D体験に、みんなも手出しをやめて慌てて彼女の後ろへ退避する程。誤射はしないとわかっていても、もはや手を出すより見守る方が早いと体感的にわかるのだ。
ドラムマガジンを付けたマシンガンならぬマシンカノンを連射する彼女は、タイムクライシス2のチーTAS動画みたいな挙動でワームが顔を出した傍から蜂の巣にしてしまう。
言うまでもなく、その殲滅速度は先程の比じゃあない。
ラピファと拡マガ付けたUMPみたいなレートと弾保ちの大砲とかいう通報不可避の壊れ武器だが、幸運なことにこの世界にBANの権限を持った運営は居ないらしく、彼女はつつがなくたった一人で戦場の支配者となった。
途切れるとは思えなかったワームのウェーブが、数分と経たず気付けばおさまり始めている有様だ。
おやおや、弾切れかな?
あいにくこっちの砲術士はMPを弾に変えてっから、バフ付き自己回復を上回んねぇ限り実質無限でさぁ。
そういうリソース管理とは無縁で助かるぜ。ホラ、本人も
「よっしゃ、よーくやった鹿伏! オレもいいこと思いついた! オラ、行くぞ!」
「あーい! 友情連結合体アカネカノン、発進ッス!」
明星先輩は鹿野ちゃんを担ぎ上げ肩車すると、もはやまばらとなったワームの生き残りを吹き飛ばしながら猛進し始める。
な、なるほど……! 鹿野ちゃんが射撃時に静止する関係上、機動力を犠牲にしてしまうのを仲間が補う最高のフォーメーション!
それに大筒による射撃の反動程度で先輩の足腰が揺らぐはずもなく、人に乗って運んでもらう程度で鹿野ちゃんが狙いを外すはずもない! なんという冷静で的確な判断力なんだ……!
「ちょっと無理あるだろ」っていう仲間の作戦は、とりあえずベタ褒めする事でなんとなくなぁなぁで上手くいくと少年漫画で学んできた僕は、手放しに彼女たちを賞賛した。こういうのは気付いたら負けだ。
実際なんでか破綻してないし、自分たちのリアリストな側面を騙してこのまま突き進むぞ!
そうして完璧な核非搭載二足歩行砲台『アカネカノン』と化した二人に血路(なお流れるのは虫の血)を開いてもらいながら、僕らは再びハイペースな侵攻を開始するのだった。
■
「次んとこ右でS字を道なりに真っ直ぐ、2本先の横道を左に! 残念ながらサービスエリアは無さそうです!」
手が空いている僕がナビゲーション役となり、山越え谷越えいくつもの分かれ道をダッシュで突き進む。
なんせお姫様抱っこされてるだけだからな、手持ち無沙汰とかいうレベルじゃねぇ。流石に文字通りのお荷物に落ちるのは勘弁です。
こうして走ったりロープを登ったりしてる間も絶えずワームの襲撃は続いているのだが、「アカネカノン」によって出るそばから爆散というワニワニパニックかつ黒ひげ危機一髪みたいな状況になっていた。定番玩具の美味しいとこ取りじゃん。しかし子供にゃちょいと刺激が強過ぎるから、CEROはD認定ってとこだろうな。
最初はその絵面から少し心配な友情コンボだったが、思いの外噛み合ってるっていうか、互いの動きを理解して邪魔をしないように立ち回れていて、二人の信頼度の高さが良い具合に作用しているようだ。
けどさぁ、もしこのままの路線でいくならマジでいつか僕ら合体ロボになっちゃわない……?
合体ロボVS魔王はちょっと路線として目新しくて良いかもだけど、戦闘訓練やレベル上げの果てってホントにソコでいいのか。
……まぁ、もしもホントにそうなった場合は、みんなのお金で動く史上最悪の内燃機関として、命と金貨を燃やしタービンを回させて頂こう。
悪王寺先輩の腕の中で広げたマップに鉛筆で印をつけつつ、みんなを間違えた場所へ導かないよう慎重に動きをトレースし、次の経路へと導いていく。
ちなみにこのマップも、もちろんネリッサさんが雪兎から聞き出した物です。ヤバすぎる。絶対あの人とだけは敵対したくない。
この前はまぐれでなんとかなったけど、僕のいない間にクランに潜入されたら防ぎようが無いかんな。
基本的にこの世界樹ダンジョンには開けた場所が数ヶ所しかなく、ハーフエルフさんたちはそこに罠を仕掛けたり拠点としたりしているらしい。
多分だが今回僕らの目的地となるのも、その内のどれかだと目星をつけている。
便宜上最悪の想定としてキングダムが魔王に洗脳されたという前提で今は話を進めており、それに則って考えれば相手方はまず戦力を固めたいはずだ。
なぜってつい十何時間か前に雪兎が単独行動に出てアッサリ捕縛されてっからね。
敵対者が同じ愚を二度繰り返してくれる、なんて期待するのは流石に相手を馬鹿にし過ぎだろう。
狡猾な悪人と相対する時、一度失敗したら学習して次に活かすだろうと考えて動かなきゃなんない。
まずもうすぐ突入する一つ目の広間は、前回僕らがギリギリで引き返した場所。
前回は結構迂回しちゃってたようなので、今回はマップに描かれた最短のルートを選び走り抜けてゆく。
とはいえココは常識的に考えればハズレな確率が高いんだよな。
生活拠点じゃないからキングダムとハーフエルフのタッグチームで戦いやすいのは間違いないが、しかし前回警戒されて手を出さなかったのと同じ場所でもう一回待ち伏せをしかけるのはちょとおバカっぽいっつーか。
だって向こうにゃ昨日同行した王城さんが居るからさぁ。
つまり僕がネリッサさんから地図を受け取ったことも、向こうには知られているワケで。
となると本命はその広間を通過して更に進んだ先、前回は罠も何も仕掛けてなかったらしいもう一つの広間が怪しかろう。
何もないからこそ存分に戦える。そして待ち受けるにしても、距離があり時間的な猶予が産まれる。
もしも僕が相手の立場だったとしても、選ぶならそっちだ。
というか、他の場所がだいたい不適格なんだよね。
狭くないか、戦闘に使っていい場所か、まだ使ってないか、そんな十分条件をクリアしている場所はココくらいのもんなのだ。
そういった推論から導かれるいくつかの候補地と可能性はみんなに走りながら伝えており、「まぁそうだろね」とおおむね納得もしてもらえている。
──が、それはそれとしてもう一度みんなをぐるりと見回し、最終確認しておく。
ベルフィエッテさんから受け取った物を、きちんと首から下げてるかどうか。再三確認したが、念には念ってヤツだ。
なんせ、アクセサリは装備しないと意味がないからな。
こういった場所の選定はもうある程度の八百長っつーか、暗黙の了解じみた不文律で為される。
「お前もこの事前情報を知ってるんだから、ここまで来いよ? わかってんな?」という、相手が最低限これくらいは頭を回すだろうと期待したプランニング。
敵がこう考えるだろうと見越して、それに対応する為に次の策を用意するというのは、実際相手を信頼していなければ成り立たないことだ。
人間は敵にすらも相互理解を期待して、闘争というコミュニケーションを行っているのだ。
だからこそ、"裏をかく"という行為が成立する。
奇襲・不意打ちとは、期待の逆を突いて行われるものなのだから。
「足を狙え、殺さばお前らを殺す。斉射」
前回引き返した広間へと僕らが足を踏み入れた瞬間、狙い澄まされた一斉射の矢が僕らへと飛来した。