【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【111】 やらなければいけなかったこと

 DDoS攻撃を受けていますか? ってレベルで、意識が処理落ちしかける程のポップアップと通知音が脳内で鳴り響く。

 うんうん、みんなも無事そうで何より。とはいえ予断は許さないし、さっさと合流したいところかな。

 そんな風に考える頭とは裏腹に、僕の身体はフラフラとおぼつかない足取りだ。

 

 王道少年誌で連載される漫画だと、死にかけた後は戦闘力爆上げで復活するものだが、悲しいかな現実で死にかけた後は最大HPごとゴリ減った重篤な怪我人が、いろいろ合併症も起こして病人へと移行しかける段階まで進んじゃうのが関の山だ。

 みんなへのバフが通ったからかなりメンタルが安定し、わりと軽口も出てくるようになったけれど、依然フィジカルは不安定待ったなしである。不整脈とか出とる。まあ恋は常にしているから、この胸の高鳴りがときめき由来な可能性も否定できないがな。

 例えるなら格上の相手の攻撃を食いしばったそのターンに、『自分からの補助魔法無効』という使いどころのなさすぎる耐性持ちキャラが、ベホマズンじゃなくマハヒートライザ(なおそんな名前の魔法は無い)をブッパなしたようなもんだ。よっぽど環境を荒らし回ってナーフされた後じゃないと言い訳つかないだろそんな糞耐性。

 つまりなんか勢いで気圧せてはいるが、僕自身はさっきから時間経過するごとに容態が悪化の一途を辿っていってる有様ということである。

 

 ……つっても、もうそんなのは関係ないかもね。

 一人一人のテレパスを全部読み取り返信を返していく作業を意識の裏側で進めつつも、僕はへたり込んだ彼へと歩み寄る。

 死んだと思った相手が光を放ちながら復活を遂げたところで、彼はへなへなと力が抜けたかのようにうずくまってしまっていた。

 呆然と開かれた目、ちいさく震え揺れる瞳、わずかに開いて閉まらない口、滲み出た冷や汗。

 その心に満ちたるは"安堵"。

 あまりにも露骨で見え見えなその情緒は、ヒモになる前の僕でもわかりそうな程だ。

 

 おかしいじゃないか、えぇ? ぶっ殺しかけた相手が、ネコならぬヒモのド根性でガッツ見せてギリギリ立ち上がったんだ。

 "苛立ち"や"不満"でも滾らせ、次は入念にスリップダメージでも入れて、完璧に殺しきりゃあいいじゃないか、なぁ?

 ……なんて、意地悪言ったら怒られちゃうかな?

 まあ少しくらい許してくれや、なんせこちとら死にかけたんだぜ。

 ヒモなんていう聖人君子から一番かけ離れた存在なんだから、こういう気持ちだって皆無っつーワケじゃあない。

 なんとなく知り合いみんな僕を善性100%好意2000%合わせて21人前の純粋無添加オーガニック善人チャーハンだと思っているフシがある。

 けれど僕だって殺されかけたら「オイオイなになにヤバ過ぎん? マジで()ってらっしゃる? やめろやめろ死んじゃうだろバカ!アホ!体育赤点補修仲間!」と思わないワケじゃあねぇのだ。

 なんせ僕も記憶にある限り初めての経験だったかんなぁ。

 思ってたよりも辛かった。痛いし苦しーし内臓ごちゃまぜでぎぼぢわるいし、こりゃリピは無いですね。

 みんなの為なら怖くはなかったけれど、というか怖いとか考える余裕も無かったが正しいが、しかし愚痴の一つや二つは言いたくなるのが人情ってヤツだろ?

 

 たとえ君が魔王に唆されていたとしても、たとえ端から僕を殺す気が無かったとしても、たとえ彼女たちに危害を加えない予定だったとしても、だ。

 憎みはしないし、嫌いになんかなれるわきゃないが、皮肉くらいは言わせてもらって、バチは当たんないんじゃないか?

 

 

 そう、彼はあそこまでやっておいてなんだが、僕を殺す気はなかったらしい。

 というかむしろ、殺す気が無いからあの程度で済んだのだろう。出会い頭にTILTOWAITって言われたらお終いだったからな。

 

 

 命の軽い異世界へ来て、なんとなく擦れたつもりになって、僕らは軽々しく『死』を口にしていたけれど。

 人が死ぬという事はこの世のなによりも恐ろしいことであるし。

 そして人を殺すという事は、きっと二度と立ち直れない程に深い傷と重い枷を己に残すもんだ。

 

 一瞬でも『手加減を誤って相手を殺してしまったかもしれない』と思った彼は、あの刹那にどれだけの嫌な想像が頭を巡り、どれほどの自責の念に苛まれ、どこまでの暗澹たる未来予測が人生に立ち塞がっただろうか。

 そのショックたるやいかばかりか。

 当人でない僕にゃ知る由もないけれど、きっと冷や水をぶっかけられるような、頬を叩かれるような……思わず正気に戻ってしまうようなものだったに違いない。

 まあ、こちらもショック死しかけたワケで、そう思えばどっこいどっこいか?

 

 そもそもが殺す気までは無かったことなんて、冷静になった今なら考えなくてもわかる話だ。

 僕を殺したら委員長が知名君を好きになる? もちろんそんなワケがない。

 このプランで誰かが死んだらパーティのみんなはどう思う? 言うまでもなく仲間を殺された事にブチギレて泥沼の争いに発展するだろう。

 僕を殺して……一体何の得がある? もし彼が悪人ならばスッキリはするかも知れないが、残るは手間と面倒と悪感情と体裁の悪化に前科くらいのもんだ。

 そんな悪い事尽くめの選択肢をわざわざ選ぶほど、彼は愚かじゃあないってこと。

 

 そして彼は悪人でもなかったから、今こんなにも動転している。

 

 僕を殺したって彼女は振り向かないと、聡明な知名君は最初から分かっていたから。

 ただどうしようもない想いを操られ、その衝動のままただ憎い恋敵に怒りをぶつけていただけ。

 憎い相手に一発ぶん殴ってやりたいと思う時くらい、誰にだってあるだろう。彼はたまたまその思いを増幅され、そしてたまたま実行に移す力を渡されていた。

 が、僕は彼の想像の遥か上を行く弱さをしており、ジャブの連発であっさりKOされてしまった、というのが実情か。

 

 小突いただけで死んだ僕を目の前にして、彼は殺人という罪を犯したと思い込み……我に返った。 

 結果論的になってしまうが、精神的動揺につけこまれ魔王の魔の手に堕ちた相手を、正気に戻らせる為に必要なのも、またショック療法だったということだろう。

 欲を煽られてドツボにハマったなら、現実見せて加熱し過ぎた思考にブレーキをかければいい。つまりギャンブルと一緒だ。一緒にするべきではない。反省。

 

 

「……理解(わか)らされた」

 

 ぽつりと呟くような声が彼から漏れる。

 未だに知名君は弱弱しくへたりこんで、杖を支えになんとか姿勢を保っているような状態だ。

 よっぽど驚いて、もしかしたら腰も抜けてしまったのかもしれない。手を貸すべきかな。

 

「あの告白の時、彼女に拒絶を突き付けられた時、彼女の無上の肯定を聞いた時……僕はお前に敵わないと、理屈で理解してしまった。どんなに言葉を重ねようと、僕は彼女にそんな風に想ってもらう事は出来ないだろうと、自分自身で思ってしまった……だが、けれど、だからこそ! そんなものは関係が無い! 僕は、お前を認められなかった!」

「うん、そうだね。その気持ちはなにも間違っちゃいない」

 

 苛烈な激情が込められたその情念を首肯する。

 人間の心の動きとして当たり前な、常識的な感性をもったヒトとして当然の、誰もが生きていく上で抱かないことはない、知恵者も愚者も等しく持つ薄暗く熱された乱暴でひたむきな希求を。

 すべてをなぎ倒してでも叶えたくてしょうがない渇望を。

 

 飢えたる愛を。

 

 僕は心からの同意を以て肯定する。

 

「初めて! 初めて好きになった人なんだよ!! 心の底から愛おしいと……初めて、そう思えたんだ!! 理屈じゃあない!! 絶対に嫌だ!」

「理解できるし、納得もするよ。その心からの言葉は、きっと君の間違いすらをも正当にし得る程にまっすぐだ」

 

 情熱的でひたむきな愛の言葉。それに乗って伝わる彼の想いに、寄り添ってただ触れる。

 これまで触れようとしなかった君の真意に、僕は思わず手を伸ばす。

 ……考えてみれば、僕は意識的に彼と対面するのを避けていた。

 どんな顔で会えばいいんだよって話だし、向こうだっていい気はしないだろうしなんていう……そんな小賢しい理由で茶を濁して。

 僕は無意識の内に、逃げていた。

 

「……嫌、だったんだ……お前なんかに、取られるのは……ただ、やりこめてやろうって……」

「……うん」

 

 だからだろうか。

 今こうして殺されかけて、後ろめたさや引け目が多少緩和されて初めて、彼の目を見て、彼の心に触れようと話をして。

 肩を落とし、纏った黒いオーラを薄れさせてゆく知名君を前にして。

 

「認めたく、なかった……けれど……」

「……」

 

 一つのことに、気づいてしまった。

 

「殺そうなんて……思って、なかった……」

「そっかぁ……」

 

 彼の絞り出すような言葉に、僕は天を仰ぎ長く長く息を吐く。

 この期に及んでやっと僕は気付いたのだ。まったく鈍感で笑ってしまう。いや、笑えない話か。

 結局僕は異世界に来てヒモになったって、元々のコミュ力激低ぼっちくんの気質が消えてなくなったワケじゃあなかったのだ。

 相手の望みを、僕は見ようともしていなかった。ヒモ失格だ。

 ……まあ、僕は別に彼のヒモじゃあないから、それはそれで意味不明なんだけど、とりあえず。

 

 今、こんなわけのわからない回り道をした先で。

 僕は彼と本当の意味で向き合えて、相互理解を始めて(はじめましてを言えて)、ようやく自分のしでかした罪を思い知らされた。

 

 

 じゃあ、まあ、僕が悪いよなぁ。 

 

 

「立ちなよ」

「……え? な、何……?」

 立ちなって言ったんだ、僕がこうして立ち上がったように。

 そんな風に座り込んでちゃあ、対等じゃないだろう。

 安心してよ、この通り僕はまだ死んでなんかいない。

 ……つっても血は流れ続けてるんで、十分もしたらわかんないけどね。

 

「あ、あぁ……そ、そうだ! コレを使ってくれ! 朝方エルフたちから受け取ったポーション! 彼らも効き目は保証すると言っていた! これなら、ある程度は……!」

 

 あー……うん、ありがとう。

 そうだね、使っとかなきゃ君も納得しにくいか。

 

 受け取った瓶のコルクを歯で開け、砕けたコルクの欠片ごと薄緑のクリアな液体を飲み下す。カッコつけたが歯ぁ抜けるかと思ったぞ。

 味が全然青リンゴじゃなかった事に、なんとなく少し笑ってしまった。

 内側からじわじわと焼けるような、賦活の熱を感じる。

 それは凄まじい即効性で、どういう原理か流れ続けていた血はもう止まる気配を見せていた。すげーな。

 失った血までは当たり前に戻らないのでふらつきはまだあるが、正直彼我の戦力差を思えばそんなもの誤差みたいなものだ。

 

「じゃあ、やろうか」

 

 そうして僕は立ち上がった彼に対してファイティングポーズを取る。

 とはいえ、拳を構えたりはしない。僕なんかじゃ殴ってもダメージ入んないからな。

 ただ戦うという意思を宿して、今日命を落とす覚悟をして、眼前に立つ。

 それが僕程度に許された、戦いの姿勢。

 

「は……?」

 

 僕が間違っていた。

 『相手の心を慮る』なんて耳障りの良い言葉を口実に、彼から逃げていた。

 本当に大事な事ではけして譲らなかったけれど、意識的に衝突を避けてきた。

 本気の言葉に、本気の心で応えれていなかった。

 僕は今まで真実、不誠実な輩だったとさえ言えるだろう。

 

「君の怒りから逃げ回っていた事を、心から謝罪するよ。遅くなってしまい申し訳ない。彼女は「喧嘩が強い方が好き」なんて絶対に言わないだろうけれど、それでも」

 

 ホントは僕も交戦の意思を表明せねばならなかったのだ。

 友達になるのを諦めるだのなんだの眠たい事言ってないで、恋敵として真正面から殴り合わなきゃいけなかった。

 嫌なヤツになってでも、憎まれても嫌われても恨まれても、僕は君と真っ向からぶつかりあうべきだった。

 

「僕らは男として──譲れないその場所の為に、決着をつけよう」

 

 不埒なワガママを通したいのなら、僕がすべき事は最初からたった一つ。

 君に嫌われてでも君に認められ、君を諦めさせる事だった。

 

 八方美人で事なかれ主義の愚かな僕が、誰かから好かれないという「ごく当たり前」の事を恐れた僕が、避けてしまっていた道。

 

 愛を求めて愛から逃げて、不相応に愛されたからと嫌悪から逃げた。

 不出来な僕はいつだって遠回りをして、頬を叩かれなければ"正しい道"に気づけない。

 

「本当に君がやりたかった事をやろう。魔王なんて無関係な赤の他人は放り出して、僕と君の為だけに」

「……青海、お前……」

 

 僕の言葉を受けて、彼は呆然とこちらを見つめている。

 そもそも彼がなぜ魔王に唆されたか、という根本的なことを考えれば、その理由なんてのは一つしか考えられない。

 火元を辿ってみれば導火線の先にあるのは、間違いなく僕の火遊び……ではなくマジ放火だろう。遊びの関係じゃないと言いたかっただけなのに、放火魔の自供となったのは日本語の不都合だ。

 

 まあ、つまりいわゆる諸悪の根源は僕であり、だったらこれは、なんというか。

 人の恋路を横紙破りでぶんどった浮気者へ与えられる正当な罰と言えるなぁと、僕は納得してしまったのだ。

 

 彼女たちと一緒にいることに付随する困難なのだから、これも僕には受け止める義務がある。

 

「無論、僕の力で君に勝てるとは思えない。君にはこの世界で求められる力があって、ついさきほど僕を簡単に打ち負かしてみせた。対して……僕はなんにもできやしない。才能も努力も足りなくて、こうして真剣に闘志を燃やしたところで、拮抗どころか抵抗すらできないかも知れない」

 

「けれど、降伏はしないし、諦めもしない」

「例え──今本当にこの場で死んだとしても、僕は彼女の隣を退かない」

 

「愛する相手を諦められないのは、けして君だけの特権じゃあないのさ」

 

 勝てなくたって認めさせてみせるし、殺されたって認めやしない。

 そういう『覚悟』を、僕は白手袋の如く彼へ叩きつけなければならなかった。

 

 そうじゃなければ、知名君はどうやって諦めをつければいいっていうんだ?

 

 諦めないのも彼の自由、なんて反吐の出るおためごかしは、僕らしいカスの言い訳だ。諦めなきゃ、人は永遠に前へ進めない。後ろを向いてちゃ歩けない。そんな事すら、僕はわかっていなかった。

 僕の認識の甘さが招いたこの惨事に、僕は僕の責任において幕を引こう。

 精一杯の礼儀をもって、彼のお相手を務めさせてもらわなければいけない。随分と待たせてしまった事を、詫びながら。

 

 

 

 

 しかし……いつまで経っても、立ちはだかった僕へ魔法が飛んでくる事は無く。

 

「……すごいな、お前は……すごいよ……日本にいた頃と変わらない体で、本当に死にかけて……それでも、僕の……」

 

「殺しかけた相手の為に立ち上がって、手を、差し延べてみせる……!」

 

 彼は、泣いているような、笑っているような表情をして、こちらを見るばかりだった。

 もはやその周りに、輝く黒いオーラは見られない。

 下衆でつまらない呪いは、十二時を迎えずとも呆気なく解けてしまった。

 

「ありがとうな、青海……でも、もういいんだ。……勝負はもう、ついている。お前が息をしなくなった時、靄が晴れたみたいに頭が真っ白になって、そして……思ってしまった。『こんな事で、人を殺してしまった』……と。……僕にとって他人の命どころか、正親さんへの想いよりも自分の方が可愛かったんだ。……本当に、情けない。お前には、好きな人の為に死ぬ覚悟があって……僕には、好きな人の為に誰かを殺す覚悟なんて、なかった。……その時点でもう、僕の負けだったんだ」

「……そっか」

 

 ……そんなのは、そんなのは胸を張れるようなことじゃないし、想いの軽重を量る示準とするもんでもない。

 だってそもそもズルい話でしかないじゃんか。

 なんてったって、僕と彼じゃ人生の重さが違うんだから。

 そりゃ箸にも棒にもかからない木端みたいなアホの人生と、将来を嘱望される旧帝目指す秀才の人生じゃ、そもそも賭け金が違いすぎる。

 持たざる者が才人に勝てないからって「何も持ってないコンテスト」で勝負ふっかけたようなもんだと、そう思うけれど……確かに彼はもうそれを受け入れて、吹っ切れたようだったから。

 だったら、僕が口を挟む話ではなかった。

 

「……すまなかった、青海。未練がましく嫉妬して、お前を殺してしまいかけた……本当に、すまなかった……!」

「うん、謝罪は受け取るよ。じゃあこれからは……よければ、友達として扱ってくれると嬉しいな。後は残り二人も呪縛から解放して、みんなでこの依頼を終わらせて……祝勝会でも盛大にやろう。さ、みんなの所へ行こう」

 

 深く頭を下げる彼の言葉にそう返すと、どうしてか彼はまた驚いたような顔をして。

 少し呆けてからゆっくりと頷いて、伸ばした手を取って立ち上がった。

 

 まあ結局僕生きてるし、男同士の喧嘩なんてわざわざ謝る必要ない気もするけれど、変に遠慮すると相手に罪悪感が残っちゃうんでな。

 いろいろ絡み合っちゃって僕だけにかかわる問題じゃないから、気にしないでとは言えないが……何かの形で君たちの思う償いをすれば、きっとそれでみんなは許してくれるだろう。

 僕の大好きなあの人たちは、誰かの弱さを許せない程に狭量じゃあないと、手前味噌ながら思っているからだ。

 

「よっし、さっさと登っちゃお。ヒモバフはかかってるけど、あんな化け物が居る以上安心はしてらんないからさ」

「ヒモ……? あ、あぁ、わかった。壁は僕が登るから、青海は背におぶさってくれ。というか、目的地まではずっとそのままでいい。デカブツはできるかぎり遠ざけたが、魔王の狂化が無くなって遠隔励起の維持はできていない。戻って来られるとマズい」

「え、そう? へへ、すんませんね……。っと、そりゃますます良くない情報だ。あ、じゃあお金を貰えたら、力になれるかも」

「お、お金? 賠償の話か……? 償いはもちろんするが……」

「あー、いや、えっとね。話せばだいぶ長くなるんだけど──」

 

 そうしてまだぎこちないというか、だいぶ気を使われてるのを感じつつも、僕たちは悪い夢から醒めたように、本来の道をともに目指し始めた。

 悪夢の時間は終わり、彼は現実へと自分の足で立ち戻った。

 であれば……夢の中で大暴れしたことくらい、誰かから咎められる謂れは無いだろう。

 この話の中で僕がもし軽蔑する相手が居るとすれば、それは「軽薄で人の心の機微に鈍い僕」と「誰もが持つ負の感情を弄ぶ悪魔」のみだ。

 

 ほら、なんせ──人の弱さをあげつらっちゃうと、弱味しかない僕なんか立つ瀬がないじゃんね?

 

 

 そうして彼に険しい道をおんぶして運んでもらいながら、今更になって「コレ見られたらヤバくね……?」と思い至った僕は、エルフさんから受け取っていた秘薬やらハーフエルフさんたちからくすねまくったポーション類やらを、耳や左手に空いた穴や火傷にかけまくっていくのだった。混ぜるな危険だった場合、僕の体内で危険が生成されることになるが背に腹は代えられん!

 あ、背中にこぼしちった、知名君ごめん。

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