【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
これもひとえに皆様に読んでいただいているおかげです、ありがとうございます。
次の投稿は一週間後の予定。
3/5:ストーリー上誤った表現になってしまう為、知名の発言を修正。
「方向はこちらでいいんだな?」
うん、そうそう。たぶんこっちだと思う。
「わかった、助かる。再構築後の正確な構造までは、流石に事前に計画できなかったからな。瓦礫の崩れ落ち方まで、指示できようはずもない」
そっか、まあそらそうよね。スパコン使ったCG作成じゃないんだから、崩落を脳内で完全再現などできようはずがない。……ん? じゃあ三人はどうやって集合するつもりだったの?
「一本道の造りにするようには、ハーフエルフに言ってあったからな。杖から大音でも出しておくから、終わったら来いと伝えてあった」
ははぁ、なるほど、それは……知性溢れるやり方ですねぇ。言って良いことと悪いことの分別が付く年の頃である僕は、悪いこと8:良いこと2の割合の言葉のカクテルを飲み下し、失言と無難の間に挟まった紙に書かれていた感想でお茶を濁した。実際よく他の二人が反対しなかったなとは思うし、それは逆説的に彼らの関係が良好である事を証明しているようなもんだった。
綿密な計画と杜撰な力技という両輪を持つモンスタートラックの製造責任者を前に、僕は魔王の洗脳のせいだから仕方ないなと無理矢理納得してみせる。
そんだけなりふり構ってられなかったんだろうと思えば、それはそれで真剣さが伝わるってもんじゃないか。そうかな……? そかもな……。
クソデカワームくんの破天荒な入退場によって、事前に入手していたダンジョンMAPが一切使い物にならなくなった崩壊した通路を、いつの間にか獲得していた扶養者レーダーを頼りに僕らは進んでいた。
代償まで捧げた効果か、方角っつーか方向っつーか、なんというかなんとなくそっちに大切な誰かが居る感じがする……みたいな大雑把な感覚で、今の僕はバフが繋がったみんなの居場所を把握できるらしい。伝聞調なのはこんな事できるのを今知ったからです。自分でもビックリだよ、どうしてヒモにそんな機能が。
もしかして他のヒモやってる人たちも、デフォでそんな便利機能がついているのだろうか。であれば実はかなりの特殊技能持ちじゃないとなれないじゃんね。だからヒモってこんなに数が少ないのかぁ……(納得)
ヒモってもっとやることなくて怠惰に昼まで寝て、家事掃除も適当に小遣いせびるだけの存在だと思ってたから、見識の狭さを恥じるばかりだ。ヒモである事も恥じた方がよい。
世のヒモたる先達たちは常日頃からこんな逆エアタグみたいな役割を担ってたなんて……と感銘を受けかけたが、ヒモによる飼い主追尾機能がどう世間様や、ましてや飼い主様当人の役に立つのか皆目検討もつかなかったので、受けかけた感銘は急遽取りやめとなった。当たり前だ。
ゆっさゆっさ、と荒れる道に相応しい揺れに、焼けた背中の皮膚のひきつれる痛みを感じ顔をしかめる。
火事場のバカ力のタイムアップか、もしくはアドレナリンが切れてきたのか、さっきまでどうでもよい事と棚上げされていた痛みが、着々とぶり返して僕を苛んでいた。
まったく、知名君に顔を見られる状態じゃなくて良かったぜ。物理的に。
そう、僕はさっき殺されかけた相手の背に揺られながら、一路はぐれたみんなの元へと向かっているのだ。
なんも良くない!!! コイツずっと背負われてますねぇ!!!!!1 冒険者名乗るのやめよっかな~~~、もうな~~~~~。明確に自信が無くなってきている。
自分の足で歩けない他力本願な生態はヒモらしさがありますが、しかし実際のヒモも別に歩行は自分でするので僕は今ヒモ以下に身を窶しているぞ! ヒモより下って何があんだよ、大叫喚地獄とかかな?
こんな若い身空で楽を覚えたら将来ロクな大人になれないぜ、危機感が募るわ。
日本帰ったらこれからの生活に備えて、隙間バイトを隙間なく埋める予定なのに、歩くのすらサボり癖がついた廃材じゃどこも雇ってくんねーぞ。
僕は取り急ぎタスクリストの一番上に「自立」と書き込むのだった。なんか象徴的な皮肉みたいになっちゃった。真人間への更生物語じゃん。リスト見た相手もまさか文字通りの意味とは思わねぇだろ。
まだちょっと力が入りにくい左手のせいでずり落ちてしまう僕を、知名君は文句ひとつ言わずグッと持ち上げ担ぎなおしては歩き続けてくれる。いつもすまないねぇ。
めちゃめちゃに申し訳なくて早々に自分で歩くと申し出たのだが、彼は「背負われておけ」と頑として譲らなかったのだ。
責任を感じてしまっているのはわかっていたので、諦めて甘えさせてもらっている状態である。
山あり谷あり、酷くいびつな形になった通路を人一人背負って歩いているにもかかわらず、知名君はほとんど疲れてる様子を見せなかった。
たとえ天職が魔術師でも、レベル上がったらちゃんと体力も人一倍つくらしいね。ヒモ君さぁ……。
てか今までの経験から言うと、別に現地の方でもこれくらいは余裕な感じがある。ヒモ君さぁ……。
「む、『氷棘』・『魔術付与:
ヒモに秘められた潜在無能力に、僕が肩を落とし落ち込んでいる隙を突いて物陰から飛び出してきたワームは、射出された氷の棘が突き刺さるとたちどころに痙攣し動きを止め、地面に落ちたところを燃やし尽くされた。
もちろんそれをやったのは、僕の足を両手で持っている為に杖すら構えていない知名君である。マジ?
人間担いだ杖無し状態とかいう戦闘どころじゃない姿勢で軽々とそれをやってのけるのだから、さっきの戦闘がどれだけ手抜きというか、手加減されたものだったのかを思い知らされるな……どうやらそんな「みねうち」みたいな攻撃を食らって死にかけたヤツが居るらしい。
なんなら杖代わりに僕の足使ってもろてもかまいませんけど……。
「いや、気持ちだけで遠慮しておこう。魔力の通りが悪い」
既にお試し済みだったらしい。だからさっき僕の足先が青く光ってたんだ。てっきりなにがしかのシュート技に目覚めたのかと……。
彼が呼集を止めてからというもの、時折ワームが現れるようになっていた。
一応"ヒモ"という特殊な職種について説明をした際に、「ま、まあ、そう言うなら……」と半信半疑っつーか「マジで言ってんのかコイツ」って感じで銀貨を貰いバフはかかっているのだが、信頼関係の問題かそれとも積み上げた時間の差か、最初期の頃くらいの細く頼りないオーラしか出なかったのだ。
この程度のバフじゃあ、『
「いや、それでも十分この力は凄まじいものだ。これでもまだ本調子ではないと言うのだから、なるほどあの王城が競り負けるのも頷ける。というより、魔王の恩寵と同じだけの強化を他者に施せたら、その方がおかしいと思うぞ」
えー、そう? こんだけ凄い事をサラッとやってのける凄い人に褒められると、こんな能力でも照れちゃうな、へへへ。
「しかし、ヒモ……ヒモか……ヒモ……いや、僕に言う権利など……うん……」
あ、え、えーっとぉ! いやそれにしてもダンジョンも様変わりしちゃったなぁ!
こりゃ平和になった後は、昨今流行りの体験型アトラクション的アスレチックとして一山当てれるかもな~!
完全な後出しで、想い人の隣を譲った相手の職業がヒモであったと知った彼の目が、言い知れぬ深い悲哀に染まっていくのを感じ、僕は急いで話題を切り替えた。
つっても、べつにそう思っているのは嘘でもなんでもなく、マジで昨日までとは全く違う構造と化してんだよね。足元はデコボコだし、いたる所に穴だの坂だのができてるしで、どっちかっつーと洞窟とかゴブリンの巣穴みたいな様相だ。崩落は想像よりも大きな範囲で起こっていたらしい。
まああんな化け物が食い漁ってたなら遅かれ早かれこうなったとは思うが、これ予後とか大丈夫なんですかね……?
僕ら一応建前上は調査とはいえ、世界樹を正常化させる為に派遣されてるんですけど。
食害で立ち枯れしちゃった、みたいな展開になったら本末転倒っすよ。
「……それに関しては、正直望み薄であるように思われる。いや、アイツを利用してダンジョンを崩落させる計画を建てたのは僕の責任だが、しかしその前段階──僕らがココへたどり着いた時点で、既に手遅れだったのかも知れない」
そりゃ困った、じゃあ次善策を考えよう。
なんとか形だけでも残せるのか。それとも全て更地になっちまうような最悪の事態が起こり得るのであれば、世界樹が無くなっても仕方ないと許容されるだけの何かを残せるのか。
例えばあのワームだってあれだけ巨大なんだし、それ自体を苗床として次の世界樹の苗木でも生やせないかな。
むろんこんなのはちんけなガキの思い付きだけど、実現可能性は置いといてまずはブレインストーミングさ。まとまんない話し合いの手本みたいな流れだ。
「……疑わず、責めないのだな。いや、なんでもない、聞き流せ。そうだな、詳しく説明をしておいた方がいいだろう。これからを考えるならば、まずは原因を知っておく事も肝要だ。とはいえ僕が魔王から夢で見せられた内容はごくわずかで、全て推論の域は出ないことをまず了承して欲しい」
「はーい先生、よろしくお願いします……おん?」
そうして唐突に始まった「世界樹異変特別解説講座」に、これ幸いと聴講の体勢に入った僕だったが、脳裏に走った虫の知らせによりストップがかかる。
「なんだ、どうした」
あー、ちょっと待ってね、いや足は止めなくて大丈夫なんだけど。
なんか……なんかむこうであったみたい。これは明星先輩かな? 怪我したとかじゃあないだろうけど、なんだろな。
ごめん、ちょっとだけ話せなくなるかも、少しあっち見てくるから。
「……規格外に過ぎるな。わかった、無防備になるか?」
たぶん、こっちは抜け殻みたいになっちゃうかも。
さっき初めてできたことだから、正直あんま勝手がわかってないんだよねぇ。
つい先程僕がたたかいのドラムとして悪王寺先輩の『どうぐ』欄に入っていた時、みんなの視界を通じて戦闘の様子を視認できた。
今ほど繋がりが強固になっている状態ならば、多分だが距離が離れても似たようなことが可能だろう。
というか、なんとも名状しがたいが「できるな」という感覚があった。
これはきっと、例えば委員長が薬学関連の本を容易く理解できるように、悪王寺先輩が街中でスレる対象を識別できるように、天職が僕へと告げているのだ。
"お前ならば、それくらい容易い事だ"と。
できたらあんまり話しかけてこないで欲しいもんだがね、ヒモの話なんか聞いたらヒモになっちゃうよ。
我が事ながらもう戦闘以外何でもできるなこの職業。ちょとヒモの拡大解釈が過ぎるんじゃないか? ヒモの定義が乱れる。うごご……ヒモとは……。ただでさえヒモなんか生活と貞操も乱れてるのに、これ以上乱れてる部分は増やすべきではないぞ。
「抜け出て返ってこれない、なんてのは勘弁してもらうぞ」
「その場合はあっちで1セント硬貨浮かせて待ってるから、到着次第フワフワ漂うエクトプラズムを身体に叩きこんでもらって……じゃ、ちょっと行ってくるね」
「あぁ……気をつけろ」
口をひくつかせながら呟かれた知名君の言葉を背に(背に乗ってるのは僕だが)、僕の意識はパスを通じて飼い主様の元へと飛び出して行き……。
辿り着いた先で、自身のエクトプラズムより先に、ここ数十分……たぶん別れた直後からの、彼女の記憶が叩き込まれるのだった。
■
「だあ゛ぁぁっッ! クソがッ!」
割り砕くことのできなかった何枚もの壁へ、オレはもう一度拳を叩きつけ粉砕する。
けれど何枚割ろうと、その先にアオの姿が見える事はなかった。
スライムみてーに変形した壁に呑み込まれていくアイツの姿が、ずっと目に焼き付いている。
届くはずも無い距離を、こちらへと必死に手を伸ばすアオ。
そして……届かないとわかったアイツは、最後の最後に目が合っていたオレへ。
心配するなとでも言うように、笑ってみせた。
いくら頑張ったってズルしてるオレたちに追いつけるハズも無いのに、それでも一緒に隣を歩きたいと死にものぐるいで食らいついていたアオの身体は、そんな努力を嘲笑うかのように平均的な日本の高校生の枠に収まっていた。
これだけ死の危険に満ちた、バカみてーに理不尽な世界を、アイツはずっと丸腰のまま歩かされている。
だからこそ、オレらが、オレが護ってやんなきゃいけなかったのに。
なのにアイツは自分の命の危機を顧みず、オレらを気遣って笑ったんだ。
一度やらかしたオレは、その事を肝に銘じていたハズだったのに。
また、護れなかった。
テメェのあまりの不甲斐なさに、頭の血管がブチ切れそうだった。
一本の感情がオレの無駄にデカい図体を、ドタマからケツまで杭を打ち込んだみてーに貫いている。
"怒り"が、オレという器を満たしていた。
カチキレている。
「素晴らしい。命じられた事を完璧にこなせる人間というのは実に貴重である。その点において、奴ほど融通の効く人間は他におるまい」
こんな事をしでかした元凶が、ブツクサとワケわかんねぇ事をほざきながら、こちらへと歩み寄ってきている。
この場に居るのはそのバカと、オレと、たまたま近くに居た山算金だけ。
せめて、せめてパーティの誰かが、アオの傍に行けた事を願うしかない。黒井なんかだったら、滑り込むこともできたかもしれない。
こんな危機的状況で、アイツの隣に立つのがオレでなかったことは心底腹立たしいが。
その怒りをぶつける先がむこうから歩いて来ている事は、不幸中の幸いだと言えるだろう。
たった一歩で王城の元へ辿り着き、握りしめ過ぎて血が吹き出した拳を、顔面めがけて力一杯振り回して叩きつける。
型も何もない無様な暴力が、憎い敵の横っ面で爆発した。
まるで首が千切れたみてぇに真横へカッ飛び、それにつられて身体も吹き飛んで壁に激突した。
あぁ、死んだだろうな、と他人事みたいに思った。
日本に居た頃にゃ絶対できないマンキンのぶちかまし。
やっちゃいけないラインを薄々わかってたオレが、越えなかった一線を軽々と飛び越したマジの一撃。
人殺しの拳。
だがそれは、日本での話だ。
「っ、あ゛ぁ゛ー……驚いたな、奥歯が折れたぞ。今までは本気では無かったのか」
血と白い塊が混ざった物を吐き出すと、首を回しながら王城は立ち上がる。
鼻血も出てるし吐血もしてるが、いたって平気そうな様子だ。
まぁ、そうだろうな。元よりコイツの強靭なタフネスが、この程度でなんとかなるなんて思っちゃいねぇ。
あたりめぇの話だけどよォ。
オレはテメェの不甲斐なさにも嫌気がさす程にトサカにキてるが、こんな状況を作り出したドアホに対してもそれ以上にムカついてんだ。
「ベツに、ずっとマジだったさ……だけどよ、フツーはガチじゃやんねぇだろ」
殺しちゃ、マズいんだから。
「なァ、王城、お前さぁ……アイツをオレから切り離しといて、生きて帰れると思ってんのか?」
「……なるほどな。藪を突いて鬼が出るとは思わなんだのは確かだ」
オレの本気度を感じ取った王城が、あの奇妙な構えを取った。
アオは戦闘力53万とか言ってたか?
こんな時でも、いや、こんな時だからか、思い出されるのは、アイツの言葉ばかりだ。
これまではなんとも思わなかったその構えも、今ばかりはヒトをナメ腐った態度取りやがってと腹が立ってくる。
燃料は際限なくくべられ、オレの中の怒りは火力を増してゆく。
チリ、と。焦げ臭いにおいが鼻について、ドロリと口元に何かが垂れた。
拭えばそれは、鼻血だった。
ドタマに昇り切った血が、行き場を無くして溢れている。
血で汚れた手の骨が、極度の力みに堪えかねて、ゴギンと凄まじい音を響かせた。
「オラ、やんぞボケキング。さっさとオメェブッ殺して、オレのオトコを迎えに行かなきゃなんねェんだから」