【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
銅像広場にてネズミ獣人のバザーを見て歩き、なんだかんだと冷やかしながら物色。
鹿野ちゃんには紅葉を水晶に閉じ込めたネックレス型のアクセサリー。
目黒さんには艷やかな白い素材でできたピンキーリングをプレゼントした。
「うわーっ! キレー! いいんスカ先輩! こんなの貰っちゃっていいんすか!? わー!」
「……す、すごく、嬉し、い、です……ありがとう、青海君」
とそれぞれとんでもなく喜んで、すぐに身に着けてくれた。
こんなにプレゼントしがいのある相手も居ないよな。よう似合っとる。
思わず正面腕組み頷きオジサンになってしまう。不審者?
もちろん代金は朝貰った競魔代から出ているので、結局出処は二人の財布であり何故か僕を経由して商品を購入したようなものなのはご愛敬だ。愛嬌で済ませていいクズ度じゃないのはさておき。
論理的に考えると、なんか課金代行業者みてぇな立ち位置になっちまってんな。
もしかしてマネーロンダリングの片棒担がされてたりしないッスよね……?
二人に隠れてコッソリと、おんなじとこのネズミ商人からどっちも買ったせいでとんでもないカスを見る目で見られてしまった。
この街の人間ならとある事件(『統括ギルド水晶玉くん驚愕のヒモ暴露事件』として名高い(既に吟遊詩人の詩になっていた。どこから著作権使用料取ればいい?))のせいで、だいたい僕がヒモである事を知ってるから新鮮な反応だった。
普通はこうなんだよな……。
ぬるま湯に慣れちまって、世間一般のヒモ兼浮気者に対する凍った態度への耐性が下がってしまっている。誰かフバーハでもかけてくれや。
そうこうする間に正午を迎え、二人はやっぱりすいてるうちに報告と依頼の確認を済ませたいと、冒険者ギルドへ行くことになった。
名残惜しそうに何度も振り返って手を振る鹿野ちゃんと、なんならやっぱついてきて欲しそうな目黒さんだったが、僕が冒険者ギルドに行っても暇するとわかっているので我慢してるらしかった。
健気すぎんか?
僕を養ってくれている女の子たちが良い子過ぎて涙が出ますよ。言葉にしたせいで女の子に養われてる現状を再確認してしまいホントに泣けてきた。
ヒモなんかいくらでも暇させて問題ないのにな。時間があればパチ屋か競馬で金溶かす人種だぞ。いや、それを警戒しての事か?
ヒモ閑居して不善を為すとの故事もあるからな。
冒険者ギルドで暇な僕が、なんか受付嬢とかに悪さしてぶっ飛ばされる事を警戒しての事なのかもしれん。安心して欲しいが僕はもうこれ以上女性に手を出すつもりはない。
なぜなら出してもないハズの手が引っ張りだこで綱引きされてる状態だからだ。八つ裂きにされちまう。タコの大岡越前か?
まぁそんなワケでついていっても良かったのだが、そうするとなんだか彼女らの気遣いを無にしてしまうような気がして、夜まで一旦お別れとなったのであった。
彼女たちへと手を振り返しながら、ふと益体も無いことを考える。
……いつか、僕たちは地球へと帰還する。
その時まで、僕は彼女たちのヒモとしてバフを振りまいて一助となり続けたいし。
その時が来れば、正気に戻り立ち去る彼女らに対して「これまで本当にお世話になりました、正しい人生に戻って幸せになってください」と、笑顔でお別れをしなければならない。
そこを踏み越えてしまえば、僕はヒモどころか人間の屑になってしまうから。
……けれど、もしも、もしも正気に戻らない人がいた場合、その人が"これから"を望んでくれるのならば。
僕は喜んで異世界では娘さんに養って頂いておりましたとご挨拶し、
さて、それじゃウィンドウショッピングを続けて、他のみんなにもお土産を買って帰るか。
……。
……さ、寂し~~~~~!! やっぱついてきゃよかった!
ここんとこずっと誰かと一緒にいたせいで、すっかり地球でぼっちやってた頃の孤独耐性が無くなってしまっていた。
人間強度が下がっとる! アララギ君の言ってた事は正しかったんや!
これ僕地球に帰って一人で生きていけるのか……?
寂しくて死んじゃうとかウサギしゃんじゃねンだけどさぁ……。
よよよ、と涙ちょちょぎれつつ出店の間をブラついていると、グイッと腕を引っ張られテントとテントの合間に引きずり込まれた。
思わず「キャー! 男の人呼んで!」と大声で助けを求めようとするも、その前に口が塞がれる。
「……ぷぁ。……寂しそうだったから
吐息がかかる至近距離に、ド派手な盗賊
か、顔が良すぎる……!
ド派手イケメンの尊すぎるご尊顔は、今は効かないがいずれ万病に効くようになるとされている。
そんなスーパー百薬の長に口付けをされた僕は、もしかすると不老不死になった可能性すらあるぞ。
後からこの旅路を思い出して短命種の寿命の短さに涙するんだろうな。葬送して回るのはヒモには荷が重いが。
とんでもねぇ力業で僕の中の親愛度メーターがゴリゴリと上がっていくのを感じる。
GTAでコマンド入れて指名手配度を増やすみたいな状態だ。恋愛ADVでチートを使うんじゃねぇ!
……そもそも相手の親愛度メーターがMAX振り切って限凸されているのを思えば、チートを使ってる疑惑がかかるのは僕の方かも知れんな。
「えっと、子王先輩は調査帰りですか?」
「んふふ、照れてる」
たりめぇだろ、死ぬほど照れるわ。
こんなイケメン女子にキスされたら、たいていの生物は照り照りのチーズてりたまになってしまうのだが、本人はご存知でないらしい。
てかサラッと「寂しそうだったから攫っちゃった」なんて言葉が口から出るの、もうそういう生態の生き物じゃないと説明つかないでしょ。
人間の声でタスケテと鳴き獲物を呼び寄せるクリーチャーのように、絶対に今まで言われたことのない胸キュンセリフで獲物を絡めとるイケメン女子だよ。
生態系の上澄みになれちまうポテンシャルだ。つまりナキカバネとタメが張れる。
「ここらでちょっとばかしキャラバンの商人たちと立ち話……してるのを盗み聞きしたりしてきたのさ。どうも南方の大森林がきな臭いらしい。彼らもそれを避けてのボゥギフト入りだって」
この人こんな社交界に降り立った超絶ド派手パーフェクトプリンスみたいな
同量のバフを盛った鹿野ちゃんだけ「なんとな~くソコにミラーボールがある気がするっす!」って見破れるんだが。なんで隠れてなおミラーボールで居られるんだよ。
で、南方の大森林っつーと、確か飲み会で覇剣と強弓(自称)のマグニフィス兄弟が次に向かうとか言ってた……
「エルフの国の?」
「その通り。どうやらエルフの世界樹に、なんらかのトラブルがあったんじゃないかってもっぱらの噂のようだ。森の境界線までほとんどのエルフが総出で巡回中、少しでも怪しい動きをした者で帰ってきたヤツはいないらしいよ」
随分と物騒な話だ、おいでよみみながの森と言われても絶対に行きたくねぇ。
まぁウチの激烈ドスケベスーパーエッチ人3な先生が特例なだけで、創作物とかでも排他的な印象あるもんなエルフって。
実際に異世界に来てまで創作物の印象を持ち続けるのは危険だが、警戒するに越した事は無いだろう。
しかしそういう意味じゃ僕はドスケベエルフモノの知識も総動員して警戒した方が良いのか……?
電子で買った薄い本たちがこんな形で役に立とうとは、このリハクの目をもってしても。
「難しい顔してる。なにか考え事かい? キミはいつも自分の中で話を煮詰めてしまう。それは美点でもあるが、できればボクはもっと旦那様に頼って欲しいんだけどな」
は、はわわ~~~~~!
あまりの卓越したイケメン度に、きらら漫画の登場人物みたいな言葉しか出なくなってしまう。
リアルではわわって言ったの初めてだよ。また一つ初体験を先輩に奪われてしまった。このままじゃ僕は乙女でいられなくなるぞ! つか難しい顔して考えてたのもエッチなエルフの事だし!
顔を真っ赤にして目をグルグルさせながら、なんとか口をぱくぱくさせて声にならない言葉を発しておく。
ダメだなんもできてねぇ!
「かわいいよ、蒼」
僕の下腹がキュンと甘く切なくときめいた。
どこ? 今どこときめいたの? 勘違いするな身体ァ! そこには大腸しかねぇ!
思わず最近流行りのTSに手を出そうとする体を戒める為、フン!と腹筋に力を籠め活を入れ、ゆっくりと先輩の手を取る。
「じゃ、調査はもういいってことっすよね。今暇なんでしょ? 一緒にご飯食べ行こうよ」
ドラ見た事かァ! 見さらせこの僕の男らしい立ち振る舞いをォ! ヒモの本領発揮じゃい!
上がったメス度メーターを下げつつ漢ゲージを貯める、一挙両得のナンパしぐさだ。
はたから見れば冴えない男がイケメンに必死にコナかけてるみたいな構図だ。結構良いBLの導入か?
「はは、良いね。じゃあエスコートはお願いしようかな、ボクの王子様?」
パッと身を離し、切り替えるように先輩が笑う。うぉっ、まぶしっ……!
手を引かれるままテントの隙間から目立つ事なくするりと抜け出し、僕ら王子様と超ド派手隔絶イケメン王子様のコンビは雑踏へと足を踏み入れた。
熱くなった顔を、秋に差し掛かった涼やかな風が撫でていく。
頬の赤さは、まだきっと取れていないだろう。
この人には全然勝てそうにねーや。
■
「ねぇ~、蒼ク~ン。あ~んしてよ、あ~~~~~ん」
数十分後、超イケメンはぐでんぐでんになっていた。
僕が前日に乾物屋の親父から聞いていた、商業ギルド近くにできた新しいレストランにて。
先輩が自信満々に食前酒としてオーダーした果実酒で、一発ノックアウトされていたのだ。
ウィスキーボンボンで酔っぱらうラブコメヒロインみてーな属性も持ってんのかよ。持ち技が多様過ぎる。
「はいはい先輩、あーん」
「わぁ~い! あ~ん」
ご要望にお応えして、薄く切ったなんかの肉のサラミにマッシュされた紫の芋を載せて口へ運ぶ。
あ、コラ! 指ごと咥えるな。興奮するでしょ。
まぁ別に酒乱の虎になるワケでなし、多少酔いが回ったところでなにか悪いわけじゃあない。
突然異世界に放り込まれて精神的にも疲弊してたのもあるだろう。
今日くらい、ゆっくりハメを外して羽を伸ばして良いじゃないか。
珍しい一面を見せてもらえた事を、素直に喜ぼう。
ククク……これでやり込められた時に意趣返しできるネタが一つできたぜ……。
「ね~ぇ~、蒼クン? キミはさ~、いつになったら……」
ふと、これまで楽しげな雰囲気だっだ先輩が、物憂げに顔を歪ませて黙り込む。
酔って情緒が不安定になってんのかな?
頼んでおいたマールソヒェのソース和えをフォークで絡めとり、先輩の口元へと運ぶ。
暗い気持ちはあったかい飯食ってりゃどっか行くものだ。
僕は情操教育をトリコで済ませた男だからな。
「ハイハイなんですか先輩。ほらパスタ……いや違うのか、なんだこの謎の構造の麺、折り紙の天の河みてぇ、麺の河ですよ~、あーん」
「わ~! すご~い! もっとやって、もっとやって! あ~ん!」
なにかを取り戻すみたいに、子供に戻ってキャッキャッと喜ぶ先輩とイチャイチャしなから、賑やかな正午は過ぎていった。
食後、お酒も回りお腹もいっぱいで完全に幸せに出来上がってしまった先輩を抱えて宿へ戻り(僕より背が高い為たいへん苦労したがめちゃめちゃ良い匂いがして、苦役と幸福の二律背反で頭おかしなるかと思った)。
今や一人一室とっているお部屋のベッドへと放りこみ、帰りに買った小鳥をかたどった翡翠があしらわれたブレスレットを、テーブルに置いておく。
宿屋から出ると、教会の鐘の音が大体午後3時前をお知らせしてくれた。
……この時間なら、最後2レースくらい間に合、っちゃう、な……。
……これも、委員長からスケジューリングされた予定だし?
「ヘイタクシー! ボゥギフト競魔場へ急いでくれ!」
タイミング良く止まっていた乗合馬車へと上がり込み、ちょうど隣に乗ってた同好の士であるトラッパー姉御と肩を組んで歌いながら、僕は一路欲望渦巻くダートの魔城へと向かうのであった。
待ってろよ! 僕の▲サラマンダースコーピオン!
なお結果は言うまでもない。