【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「なんかケンカ続けるみたいですけど、じゃあ私要りませんよねぇ? センパイ放っとくとか論外なんで、もう行きますよ」
崩落からのドタバタで乱れた荷物と装備を整えた山算金が、マジで興味ねぇって感じの呆れ声でオレに声をかけてくる。
羨ましい話だ、オレだって何もかも無視してアイツのとこへ走りてぇ。
けど、やることやっとかねぇと、またクソしちメンドくせぇ事になる。
「あぁ、先行っとけ。オレもすぐ行く。このバカ放置したらまたなんかアオに要らん事しやがるだろうから、いい加減シメるわ」
「あー、なるほど。じゃあ手早くお願いしますよぉ。バフ届いてるし、センパイも無事は無事でしょうから。てかこれ通路左右にありますけど、どっち行けば──「行かすと思っ──「ジャマすんじゃねぇよ、タコ」
決闘ン時みてぇな超スピードで山算金の前に飛び出してきた王城の土手っ腹に、オレが置いておいた前蹴りがブッ刺さった。
寸勁だかなんだかのシャラ臭い手応えを、そのまま腰の回転を加え捻じ伏せ、腹筋を食い破るみてーに蹴り穿つ。
踏ん張る事もできなかったバカのオウサマが、後方へ吹っ飛んで血を吐いた。
おーおー、また盛大にいったな。こりゃ一週間はオレの足跡腹に付けたままだろうぜ。どうせなら顔面の方が良かったか? 十六文キーック、つってな。
蹴られた瞬間のハトがマメデッポー食らったみいなマヌケ面も、普段なら笑ってやれただろうが、今は苛立つばっかだ。
噛み締めた奥歯が擦れあってガリと音をたてる。
こんな姿、アオにゃ見せらんねーな。
「ああぁ、もう……! なんでこんな根拠のない二択をしなきゃいけないんですか! 明星センパイ、私はこっちの通路行きますからねぇ! 駄々こねてるガキなんてさっさとブチのめして、もう一つの通路行って青海センパイ探してくださいよ!」
「言われるまでもねェよ! とっとと行け!」
まあバフが効いてりゃ、山算金でもそこらの敵にゃ負けねぇだろう。
喚きながら右手の通路へ小走りで駆けていく山算金の背を尻目に、オレはケンカ相手へ向き直る。
既に目の前へ迫っていた上段蹴りを少し顔を反らして躱して、足首を掴んで軸足を払いブン回し、中空で横回転する身体に唐竹割りの手刀を叩き込む。
巨体が叩きつけられた衝撃で、砕けて再結合した床に再び亀裂が走った。
今のでアバラ何本かヤった感覚があるってのに、まだコイツの目は諦めていない。
殺さない程度に痛めつけるのは得意だが、ここまで頑丈なヤツでやった経験がねぇから加減がわからん。
取り敢えず立ち上がろうとした手を払って、そのままドタマを蹴り飛ばす。
もっとキツくやってよかったか?
「あ……がッ……!」
うめき声を上げながら、王城が転がってゆく。
サッカーボールキックはあんま好きじゃねぇんだけどよ。絶対に殺しちまうから。フツーのサッカーボールも本気で蹴ったら破裂しちまったくらいだし。
たぶんコイツなら大丈夫だし、これくらいやんないとダメなんだろう。
手っ取り早く気絶させるならチョークスリーパーが早いんだが、王城相手だと加減が難し過ぎる。
本当に殺しちまいかねない。
それはショージキ、避けたいところだ。アイツを泣かしたくないから。
「なぁ、オマエなんでオレがここまでキレてるか、わかるか?」
返事は無い。いや、わかんねぇのかもな。
オレはオマエが魔王にそそのかされて、ガキみてぇにダダこねてるのもどうだっていい。
そこには別に怒ってねぇし、「勝手に思い詰めてんのな、まあ好きにしろよ」と思ってる。
メガネもそうだしアキラもそうだ。アイツらの秘められた欲望みてーなのも、なんか薄暗ェ性格してんなと思いながら、人間いろいろあるわなと相槌打ってやるくれぇが精々だ。
大事なモンの為に必死なんだろ、とは思うさ。
でもな、その大事なモンは、オレにだってあったんだ。
その事をオマエらは自分可愛さでスッカリ忘れて、こんなアホみてぇな粗相やらかしやがった。
「いいか……オレがこうやって鼻血出すほどキレ散らかしてんのは、アオをオレらから遠ざけて危ない目にあわしてるっつー、たった一点に尽きるんだよ」
口元まで垂れた鼻血を舐めとる。
焦げついた怒りの赫さ、煮えくり返る腸の味。
オレが激怒している事を、味覚すら通して己に再認識させる為の液体。
オマエらを穏当に許してやりたいっつーのもアオがそう考えてるからだし、世界樹をなんとかしてやりたいってのだってそうだ。
正直この木が倒れてキレたエルフにバカどもが火炙りにされても、オレは『あーぁ、後味ワル』と思ってあの街へ帰ったろう。
そんくらいのことをオマエらはしでかしてるし、エルフっつーのもたいていクソみてぇな性格してるからだ。ちょっとカワイソーなのはハーフエルフくれぇだが、邪魔してくんならアイツらも敵。
オレん中ではココはこの旅始まって以来のどうでもよさだし、ドラクエだったらテキスト全部飛ばすくらい興味がねぇ。
聖女が聞いて笑わせるだろ? やっぱオレにゃ僧侶なんか向いてなかったんだよな。カミサマも案外人見る目がねーや。
だけど、アオが全部望んだから、オレは全部叶えてやる気でいた。
当たり前だ。
オレはアイツを愛してるから、アイツが欲しがりゃ全部やってやる。無茶苦茶だよな。でも無茶苦茶でいい。
オレはもう、それだけヤられてるから、それで良かった。
そんな、天から垂らされた救いの糸を、オマエらはツバ吐きかけてぶった斬った。
もうオマエらに情けをかけてやる理由が、一個も無くなっちまったんだよ。
だから、許してほしけりゃアイツに言え。
「オマエらのワガママ気にしてやってんのは、アイツと姐御くらいだ。いい加減意味ねぇコトやめて、アオ頼って建設的な話でもしろクソガキ」
……ここまで言っても、王城の目は変わらなかった。
やっぱダメだな。オレじゃ言葉でなんとかするとかは無理だ。説法なんかしたとこで、目の前の相手の心を変えれる気がしねぇ。
説得とかそういうのはアオに任せて、オレはオレにできることをしよう。
動く気無くなるまで、ボコボコにブチのめす。
それで万事解決だ。
汝、気絶するまで左の頬を打たせなさい、っつーコト。
「な、ぜ……ッ!」
「あ?」
「聖教諭、には……負けた、が……先輩に、なぜ、ここまで……っ」
「あ゛ァ゛!? ……ハァ……まあ、そうだな、一言で言うと」
ナメ腐った物言いに一気にプッツンきそうになるが、実際その通りだった事を思い出して、深く溜息をつく。
オレがコイツにいっぺん負けたのは、本当の事だ。
それを今更蒸し返されたのはかなりクるが、それでも間違った話じゃねーから認めないのは情けねぇ。
ウソにするつもりはない。オレはあの時コイツより下だった。
そこに魔王からエネルギー貰ってんだから、オレがここまで一方的に勝てる理由がわかんねーわな。つっても、考えりゃ分かるだろうに。現実から目を逸らしてぇだけか?
「アオがオレに力をくれてる──だから今のオレが、オマエに負ける理由がねェだろがッ、と!」
大上段からの力任せのストンピングを、王城はすんでの所で転がって避ける。
立ち上がろうとしても上手くいってねぇ。足にキてんな。
精神に身体が追いついてない、そろそろ限界が近いって事だ。
「ぐッ……! バカな……それでは、その理屈が罷り通るなら、青海の強化は、魔王のソレを凌駕しているという事になる!」
「あー、まあ、そうか、そうなるわな」
オレでもわかる簡単な足し算だ。
オレより強い王城が魔王から力貰っても、アオのバフかかったオレに負けるなら、自然答えはそういうことになる。
でもまあ、別におかしなことじゃあねぇだろう。
愛の力が悪に打ち勝つのは、物語としちゃありきたりなもんだからなァ?
「なる、ほどっ……まさしく、我が家臣の言葉は、的を射ていた、わけか。……なら、そろそろであろう」
あァ?
その瞬間、フッと……身体から力みが抜けた。
なんだか、違和感がある。何かされたか? ……いや、違う、これは。
怪訝に思う間も無く、オレへと注がれていた暖かなモノが、徐々に絞られていくのを感じる。
は? オイ、いや、なんで。
繋がりは淡く小さくなり、今の今まで届いていたハズのアイツの思考が急に揺れて言葉にならぬ感情だけになって、その感情も焦りが殆どを占め始めた。
何があったら、いや、違う、どうして、何が。
考えが堂々巡りする。
わかっているが、オレの心が理解を拒絶していた。
アオとのパスが絞られていっている。
身体から力みが抜けたんじゃない、オレが全力全開で力めなくなっただけだ。
その事実は端的に、アオになにかあった事を示していた。
……いや、落ち着け! まずいの一番でやんなきゃなんねぇ事がある!
こんな事してるヒマねぇだろが!
まずはアイツの元に向かわなきゃならない。何が起こったのかなんてのは、アオの口から聞けばいいだけだ。
なんでもかんでも嬉しそうに話す、あの愛おしい人の口から。
山算金が向かったのと逆の道へ、無言で走り出そうとしたオレの前に、王城が立ちふさがる。
「どけ。オマエの遊びに付き合ってらんなくなった」
「余らとて、何も考えず感じぬ木石ではない。先輩らが嘯く愛とその力の実在も、とっくに勘付いてはおったさ。小金井は行かせてしまったが、非戦闘職一人くらいならなんとでもするであろう……さて、足し算の次は引き算の時間だな?」
「……アイツに何やった」
「貴方に大事なのは、今ここで何が起こるかではないか?」
不敵に笑う王城の顔が、赤く染まり歪む。
目の前が真っ赤になる。
この世で一番大事な何かが、弱く小さくなっていくのを感じていた。微かなラインが、もう切れかけている。
大切な人が危ない目にあってるというのに、その側に居てやれない事が、オレに極限のストレスをもたらす。
直拳。胸部へ突き出した拳を王城が弾くが、押し切って打ちつける。たたらを踏んだ王城の糸目が苦しげに歪んだ。
心臓を止めかねなかった一撃のハズが、たったそれだけのダメージで済んだ事実に、出力が明確に落ちている事を否が応でも理解させられる。
思わず舌打ちが漏れた。
「──どけよ」
「行か、せぬ。貴方の、相手は、余だ」
「どけ……つッてんだよッ!!」
ミドルキックがアバラの折れた脇腹を強かに打ち据えた。息もできないだろうに、それでもコイツはオレの前に立って構えを崩さない。
焦りが心を蝕む。
力で上回っていようと、流石に背中は見せられない。逆に気絶でもさせられたら、とりかえしがつかなくなる。
それだけは避けなきゃならないのに、目の前の女は一向に退こうとしない。
カチキレるだのドタマにクるだのと、言葉にできる時点でたいしてキレて無かったんだなと、頭のどこかで思った。
殴りかかり、避けられる。こんな見え見えの右ストレート当たるワケがない。クソが。追撃の回し蹴りが寸勁で弾かれた。左足に痺れ。バフが時を追うごとに弱くなってる。今や寸勁を貫けない。王城の貫手。避けきれず肩を抉られた。武器化されている。弾くか避けないと切れる。ウゼェ。続けて放たれた足払いを躱す跳躍に、当身を合わせられた。勢いを逃せない。壁に叩きつけられる。背中が軋む。冷静にならなきゃ勝てない。目の前に踵。ギリギリ顔を逸らすが、肩に打ち込まれる。痛み。骨はやっていない。大振りの踵落としを許した事に腸が煮える。オレの弱さに。冷静になれ。掴みかかるも指を取られた。指を支点に投げ。同時に跳んで折られる直前になんとか抜ける。冷静に。ニーキックを足裏で止めるが、次は押し切られた。力でも負けてきている。冷静。顔面に、王城の右拳が触れる。れい、せ──。
気付けば、黒い輝きを纏った王城が、立ち上がろうと這いつくばるオレを、どこか悲しそうに見下ろしていた。
ふざけんな。何だオメェ、ナメやがって。すぐ行くからな、アオ。待ってろ。オレが一番に、駆け付けて。
視界がぐわんぐわんと揺れて、足に力が入らない。なんで立てねぇんだ。
……オレは、こんなに弱かったのか?
「勝てんよ……貴方、一人では」
ボヤけた王城の声が、ひどく脳の中で反響する。鼓膜をやられたのか、それとも脳ミソの方か。
アオに頼んなきゃなにもできないで、バフが切れたらこうやってツエー奴にボコられるのがホントのオレなら、今までのオレの人生はなんだったんだ?
ヒトのフンドシでチョーシに乗って、カチキレただのなんだの抜かして格上相手に勘違いして、最後にゃ大事なヤツが危ないってのに何もできずヘバってるだけ?
頭がぐらぐらする。
情けなくて、ヘドが出そうで、殴りつけたくて、死にそうで、それら全ての根っこに怒りがあって、何もかもの先はどうしても許せないオレ自身へ突き刺さる。
目の前が明滅し、噛み締めた歯が砕けちる。
自分の無様な荒い息が、ひどく耳障りだ。
ラインから繋がるアイツの、不規則でか弱い鼓動が聞こえなくなる事が、今何よりも恐ろしい。
繋がりが、消えてゆく。
なぁ、待てよ。ホントに、すぐに行くから。
急いで、行かなきゃ。待っててくれ。こんなヤツ、今にブチのめして。
そうだ、コイツに勝たなきゃ、今すぐに、行ってやんなきゃ。
アオが、死ぬかも──
そうして、あの日からオレたちの間に、絶えず架かっていた金色の線が、プツンと切れた。
「あ」
テレパスは途絶え、鼓動が脈打つのを止めた。
決定的な何かが、どこかで起きたのが、なんでかわかった。
それはオレの中ででもあったし、そしてオレが見ることのできなかった知らない場所で。
"誰か"が、死んだ。
信じられない量の冷や汗が、頬を伝い地面に落ちる。
アタマのテッペンから血の気が引いて、周囲の光景がチカチカと明るくなり暗くなるのを繰り返す。
埋まったハズの右手は、ただ冷たい地を掴み。
オレの隣には誰も立っていなかった。
産まれてこの方飢えてきて、こんな遠くまで来てようやく見つけた"家族"は。
もうどこにも居ないんだ。
出鱈目に浮かんでは消える思考の中で、流れていくたった一つのどうしようもない真実が、ぼぅっと脳裏に焼き付いた。
身体というものを無視して、オレは立ち上がる。
筋肉が断裂し、腱が千切れて、骨に罅が入ったのが、どこか遠くのことの他人事みたいに思えた。
全部どうでもよかった。
全部どうでもよくなってしまった。
骨が折れるのも、オレが死ぬのも、走ってった山算金も、教会の知り合いも、他の誰も彼も、どの世界の何もかも。
一切合切が、価値を喪った。
「───、──!」
目の前のデカブツが何か言っているが、意味を成さず耳の中をすり抜けていく。
オレはオマエのことを。
許せなく、なってしまった。
燃えるように身体が熱い。
熱いのに、空っぽだ。
これまで繋がってきた分の、ほんの僅かな残滓すらも、今のオレの中には残っておらず。
自分の中身ががらんどうになったみたいに、まるで重さを感じなかった。
その中でただただ火が燃えている。
ハラの底でヘドがコゲついて黒い煙が上がる。
空虚な虚空が狂った熱に膨らんで、オレの中から飛び出ようとしている。
気持ちが悪かった。
壊れるほど握り締めた右手のその内側に"何か"を掴み、それを思いっきり振りかぶる。
不意に引っ張られたみてぇにコチラへよろけて来た憎い敵へ、その拳を叩きつけた。
ヂリ、と音をたてて火花が散った。
拳の軌跡にあわせて、世界に小さく紅い火が爆ぜる。
殴られた敵が咄嗟に対応しようとして、何もできずに吹き飛んだ。
壁を突き破り、周囲を血に染める、今までよりもずっと重篤で致命的な破壊。
オレの折れた右手の袖から覗く、爛れたような皮膚が、白い煙を上げていた。
ギラギラ輝く紅い燐光が、視界の端にチラついて目障りだ。
もう一度握った何かを振りかぶると、敵は逆から殴られたみたいにこちらへ吹き飛んでくる。
再びのインパクト。
地面を何度もバウンドしながら転がってゆくのを、三度振りかぶることで
必死に衝撃を受け流そうと抵抗するのが腹立たしくて、オレは逆の手を壊れんばかりに握り締め、そしてまた"何か"を掴み取った。
自分以外のなにもかもが動きを止める。
新しい"何か"を掴んだ手が滅茶苦茶に重くなって、血が吹き出て骨が飛び出るが、どうでもいい。
空中で間抜けな格好をして固まっている敵に近づいて、その土手っ腹に右アッパーを叩き込み、同時に左手を開く。
爆発したみたいな音をたてて、敵が天井に当たって跳ね返り、地面に激突して空を舞う。
どぅ、と地面に大の字で倒れた敵は、もはや気を失っているのか、ピクリとも動かない。
けれど、まだ死んでいない。
■■は■■■のに、コイツは。
「死ね」
頭めがけて拳を振り下ろそうとした、その時。
オレの体目掛けて、真っ白な糸が飛び込んできた。
鼻を掠めた大好きな匂いに、顔面を砕く直前で拳が止まる。
胸の真ん中に溶け込んだソレから、心地よい鼓動が伝わってくる。
ただ大切な相手の事だけを想った、健気で暖かい意思がオレの身体に力を与えてくれる。
今ここに確かにある黄金の輝きが、視界を埋め尽くしていた紅い燐光を洗い流していった。
流れているのを忘れていた血の気が、強張った手足や痙攣する内臓へ戻ってゆく。
必要が感じられなくて止まっていた横隔膜が、無意識に収縮と弛緩を繰り返す。
オレの拳の真下で、ぜいぜいとか細く息を吐く後輩の顔に、ずんと身体が重くなるのを感じる。
手の中に握られていた何かは、開いてみても見当たらなかった。
今まで生きてきた中で一番長く、深いため息をつきながら、オレはしゃがみ込んだ。ズキズキと全身が痛む。
病院送りにはしてやったが、こりゃテメェも入院はまぬがれなそうだ。
苦痛に歪む糸目の鼻っ柱に思いっきりデコピンしてやったら、フガと変な声で鳴いた。イッッッデ!! ……骨飛び出てるの忘れてたわ。
「……幸運だったな、オレもオマエも。死なずに済んだし、殺さずに済んだ」
そのままオレも背中から倒れ込んで、まぶたを閉じる。
気付けば流れていた涙を拭った手には、べっとりと血がついていて、なんだか見るのが嫌になったのだ。
復旧した脳内通信が怒涛の勢いで書き込まれ更新される。
誰がどれ言ってんだかわかんねぇような混線に、けれどアイツは一人一人手を取るみたいに正確な返信を重ねていた。
どうしてか、その中に混じってわざわざ手間かけさすのも悪い気がして。
胸元の糸を小指で絡め取り口付けたオレは、「心配させんなよバカ野郎」と呟いた。