【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
今週末旅行に行くし、ついでに用事も済ませちゃいたいので来週投稿お休みします。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
で、そんなこんなの戦闘後、「折れた手じゃアイツを抱きしめられない」と男前過ぎる事実に気付いた明星先輩が、神様へ治癒の奇跡を請願。
青息吐息っつーか虫の息な王城さんも、死んだら困るしある程度回復させてやっかという心意気でついでにヒーリング。
その敬虔な祈りを感じ取った僕が、無駄に意識を飛ばして先輩の中へ突っ込んできたというのが今回の事の顛末になりますね。
「あのな、アオ。いや別にオレはいいよ。確かにちぃと見せたくないトコも見せちまったから、恥ずかしくはあるけどよ。オレはこんな事で怒んねぇし、むしろ悪い気もしねぇ。だが、基本的に誰かの頭ン中に魂だけで突撃はしない方がいい。わかるな?」
すっかり怪我が完治し傷跡も塞がった先輩に、彼女の頭の中に突如現れた僕は、眉間を揉みながらめちゃめちゃ当たり前な事を注意されていた。初対面からこの方、不良なハズの先輩にずっと正論で叱られている気がする。面倒みの良さぁ、ですかねぇ。
ハイ……ホントにごめんなさい、反省してます……。
先輩だけ脳内discordで発言が無かった事もあり、なんかあったなら力になりたいと思っての事であったが、どうやらかなり先走ってしまったらしい。
思ったよりもガッツリ内側に入り込んじゃって、彼女の記憶まで見ちゃった事は言い訳のしようがないギルティな為、至極まっとうな怒られだ。
Q.てか他人の頭に魂で特攻しかけて、直近の記憶を覗き見るヒモって何?
A.……何?
現代に蘇った妖怪の都市伝説かと思ったら僕の話だってんだから、我が事ながらビビるぜ。もうヒモじゃないんだってココまで来たら。
ただヒモ以外のなんだと言われたら、答えようが無いのもまた事実なんだよな。でもこれは答えの無い設問を用意した出題者サイドに問題があるぞ。
大抵の人間は何者にもなれないんだから、自分が何なのかなんて気にするなっつー若者へ向けた教訓話なのだろうか。異世界転移した先で貴重なジョブ枠潰してまで実感させる必要ないだろ。
「いや、反省は……そうだな、反省はしろ。けどオレには次もやっていい。これは許可が必要だってだけの話で、オレは許可したから良い。オマエだって手が離せない時はあるだろうし、日常的に飛んできてもウェルカムだ。わかるな?」
ハイ……ん……? ハ、いや、んん……?
「わかるな?」
わかりました! それは素敵な考えですね!
なんだか話の流れ的におかしかった気もするが、みんなの言うことは何でもきくAI気質なとこのある僕は、もちろん対話相手である先輩の要望を断ることなく、肯定的で共感的な回答を提示した。
まあ本人がやってっつってんだから拒否する必要も無いか。
ポリポリと頬を掻く姿から透けて見える本音は、可愛すぎるので見なかった事にしておこう。先輩は「二人きりになれる時間が欲しいとかオレのガラじゃねェや」なんて言いそうだしね。
もちろん頭の中にいる以上、僕の考える事も彼女の考える事もある程度は双方向的にモロバレなのだが、そこはやっぱプライバシーってもんがあるからさ。
見せない方が良いものは意識の外側で処理するし、彼女が見て欲しくなさそうな思考は見ないでおく。同棲しても自室のクローゼットは開けられたくないってのと一緒だ。
僕は部屋ん中見られて困るモンは無いタイプだが、確かにスマホの画像フォルダの最奥は堂々と見せびらかしたく無いので気持ちはわかる。
「ま、つってもこれやったら本体意識無くなるんで、手が離せない時には使えないんスけどね」
「あん? じゃあオマエ身体の方は大丈夫なのかよ? もしかしてそのまま放置してんじゃねェだろうな。もしそうならマジで怒るぞ」
先輩がピクンと眉尻を上げ、胸に繋がった糸が伸びる通路の方へ目を向ける。
先程山算金が駆けていった方だ。
やはり彼女は持ってるらしく、二択を外さず知名君と僕が居る方を引いていた。今度の競魔場でのタイマンイベントの際は、彼女に選んでもらっちゃおっかな。
「あ、いや流石にそこまでバカじゃないっすよ。今は和解……というか、状態異常が解けた知名君が背負ってくれてまして、こっちに向かってる途中です」
「ハァ? よりにもよってアイツか……チッ。いや、なんでもねぇ。オマエが和解したなら、オレは何も言わねぇよ。あ、てかそういやオメェ怪我とかしてねェだろうな? もう見ちまってるもんはしょーがねぇから隠す気無いが、さっきなんかスゲー電波悪くなってよォ。今こうしてオマエが生きててバフ繋がってる以上勘違いだったみてぇだが、一瞬アオがどうにかなっちまったんじゃねぇかと、気が気じゃなかったぜマジで」
……はて、困ってしまったな。はてとる場合かー!
むろん、場合ではなかった。
一寸先の暗闇の中身を具体的に想像するのが大の得意だった僕は、程無くして訪れる破滅を容易く脳裏に描き出す。
まず大前提として、僕は彼女の記憶を垣間見たが、彼女は僕の記憶を見てはいない。先輩の肉体にお邪魔している関係からか、体の持ち主の短期記憶が逆流し流れ込んだみたいな感じだろう。
そしてさっきの記憶を見るに、どうしてかHPが伝わってたらしく彼女は僕が死んだと思いこみ錯乱しちゃったが、バフの再開をもってそれが"勘違い"だったと覚ったワケだ。
つまり僕がマジで死にかけた事は今ならまだギリ誤魔化せるが、委員長お手製回復薬でもまだ治癒途中な身体の方が見られたら"勘違ってない"事がバレて、知名君が大気圏外まで吹き飛ばされる恐れがあるね。
なんならその後あの謎引き寄せ技術で大気圏突入させられ、セカンドインパクト喰らって外宇宙までフッ飛ばされる可能性も視野に入る。
よって、これからしなければならないのは『①離脱』『②偽装工作』『③口裏合わせ』となる。概要としては大体いつもやってることだが、今回は人の命がかかってるから緊迫感も段違いだぞ。
「あー、いや、そっすね……いや、まあ、全然……全然そこはね、ホラ、大丈夫っつーかぁ……あ! ちょっと用事思い出したしアレもソレなんで、向こう戻りますねぇ。知名君にもこっちの現状説明しとかなきゃだしぃ?」
彼がコチラへ到着してしまう前に肉体へ戻って事情説明、その後「本気でポーションガブ飲み放超回復オートファジー込み込み198プラン」を完遂しないと、先輩の目が再び紅く輝いて脅威の荒業でベクトルも操作するし時間も止めて知名君が肉塊になる事を遅まきながら理解した僕は、極めて自然な流れでその場からの離脱を図った。
レジ打ちミスって5000円の違算を出した事が判明した直後に上がりの時間を迎えた時も、バレずに帰宅して別日にガッツリ怒られた実績のある僕の帰宅スキルは、もちろんこういった異世界においても有効に機能するんだね。
先送りとその場しのぎと情けない謝罪にかけては古今並び立つ者無しと、僕はどの職場でも大層評判で──「オメェ、なんか隠してるコトねぇか?」んぉ〜〜……。
即バレた。ど、どして……?
えー、いや、その、えっとぉ、隠してる事はぁ……別に後ろめたい話とかではなくてぇ……しど……もど……。
大好きな人の真剣さには正直ベースで応えざるを得ない僕は、「ウソをつかずにその場を上手くやり過ごせるヒモ用語集」でググるも検索結果はなしのつぶて、ネットの集合知もそこまでのクズは面倒を見てくれなかった。進退窮まり、不貞を問い詰められた浮気者のように目を泳がせる。
浮気はしてるが浮気を怒られた事ないから、こういう時どんな顔をすればいいかわからない! カスの綾波状態だ!!
……てか待てよ。
僕が死にかけた事がみんなに伝わってるんなら、その後抜け殻になった僕を背負ってる知名君なんて山算金が見つけたら、もしかしなくてもとってもヤバいんじゃ──
「明星センパイ!!! 回復!!! 急いで!!!!」
ぐったりと力無い虚脱状態の僕を担いだ山算金が、同じく気絶した知名君を引きずりながら、これまで見たことの無いスピードで駆け込んで来たのは、僕がそう思い至るのとほとんど同時の事であった。
「アオミ」
ハイ。
「説明」
ハイ……。
「え、センパ、センパイ!? ご、御無事なんですか!?」
あ、あぁ、うん、実は精神だけでこっち抜けて来てて……。
「バカ! こ、こんな隠すみたいな、治し方で、身体から力抜けてて……! し、心配しましだっ……!! 収監!!!」
そ、それだけは……それだけはなんとか……。
■
と、そんな事があって、まあやはり魔王による思考操作の影響は大きく、そもそも互いに説得が難しい関係の一対一では分が悪い中、壁に遮られた事によるバフの減衰に焦りを感じたりもあったワケで。
焦燥感から起きた悲しいすれ違いの結果、こういうことにはなっちゃったけど。
でもね、キチンと本心でぶつかり合い、僕らは面と向かって話し合えるようになったんだ。
今回の原因には確かに彼の良くない感情もあったかもしれないけれど、僕の未熟で醜い性根も間違いなく存在してた。
二人共に悪いとこがあって、譲れないところで鍔迫り合い、そうして今この騒動を終わらせるっていう同じ目的の元に集えた。
冒険者として、依頼者の為に、困り事を解決しに進めてる。
だったら僕の怪我だって、普段みんなが僕の代わりに戦って傷ついてるのと、同じ話なんじゃないかと思うんだ。
無事受肉したが無事じゃなかったので先輩の祈祷を受け完治した僕は、えぐえぐと涙ぐみへたり込んだ山算金の背中をさすりながら、これまでの経緯をディティール省いて二人へ説明していた。
実際マジでしょうがない部分のあるケンカだったし、どっちも最後には納得ずくとなったんだから、もはや解決済みなのはホントの話でもある。
その中で僕が負った傷なんてのは枝葉末節というか、大勢に影響を与えない単なるフレーバーテキストみたいなもんだと正直思ってる。
時に胸を打とうとも、ゲームの流れを変えはしない……のだけど、それでも。
山算金が僕の為に泣いて、明星先輩が僕の為に怒っているのはわかっているから、素直に心配させてごめんなさいと頭を下げて、でももう大丈夫だからねと説明しなきゃならない。
「オイ、知名」
「…………はい」
「歯ァ食いしばれ」
言うが早いか、明星先輩の鉄拳が知名君の鼻っ柱を捉えた。大きくたたらを踏み、彼はそのまま尻餅をつく。
おわっ……目を背けそうになって、しかし当事者が逃げるのは論外なので、気合で視線をブレさせずに直視する。
僕なんかの為に友達が大切な人に殴られてる姿は見たくないけれど、しかしコレはなんというか、僕が彼女らの"大事なもの"を粗末にしたが故に起こっている事だった。なら、僕一人が逃げたり取り乱したりするのは卑怯だろう。
もちろんそれまでに何か成長をして、よりスマートな解決策が選択できればそうするけれど、僕はきっと同じ状況に陥ったら、また同じ事をしてしまうだろうと思う。
それはなんでかと言えば単純な話で、僕にとっての価値観の天秤が、己と彼女らの安全どちらに傾くかが決まりきっているからだ。
身を削ってあちら側の安全を担保できるなら、僕に迷いは生まれない。
けど、彼女らがその削れた僕の身を見るのは……僕が彼女らの傷を見るのと同じくらい辛い事だとも理解している。
僕はことさら自分を卑下するつもりはないし、誰かの大事なものを尊重しない程、最低限の気遣いができないワケじゃないからね。
だからこそ、今回のことに関しちゃ僕と彼二人だけの秘密として、内々に処理するつもりだったのだ。
バフが一瞬切れたのも、「いやすんません電波悪かったッスねぇ〜、この壁のせいかな」と言えばなんとかなるだろうし、てか実際そうだったし、身体の傷に関しても替えの服に着替えた上で、目立つ場所はエルフの里産ポーションや委員長がいざという時用に持たせてくれてる激強回復薬やらで回復しておき、万全な状態で合流して事なきを得る皮算用でいた。
誰にだってやらかしはあるし、友人としちゃそれをできるかぎりカバーして穏便に済ませたいと思うのは当然の話じゃんね。
大事な人に隠し事をするのはやましいけれど、それでも僕の大事な人がみんなぶつかりあわず、世が事もなく回ってくれるならば、そのくらいの優しい嘘はナシよりのアリだと思っている。
だけど、どうしてか理由は不明だが僕が死にかけた事までみんな感知してたっぽく、それでテンパった山算金がぐったりした傷治りかけの僕をまだ敵認識の知名君が背負ってるのを見つけてしまい、不意打ちで彼にドロップキックをかまし気絶させちゃったワケで──まぁ、僕風情が描いた夢物語の図面は、案の定ご破算となってしまった。
こうなるとあと僕にできることは、なんとかみんなを説得して彼を早々に許してもらうしか無いだろう。
彼女はそのまま座りこんだ知名君に一発ゲンコツを落とし、自身の拳を見てからもう一発。痛そ……。
数秒考え込んでから次はチョップを一閃。ま、まだ……?
酷く冷たい目で彼を見下ろし、自身のデコをトントンと指で突いて悩んだ後、ドツかれた所をおさえ呻く知名君の肩を軽く足蹴にして、マウントポジションを取って振り下ろすように殴り始め──いや先輩! 先輩そこまでは! それは歯を食いしばっても流石に!
MMAでもレフェリーが手を振るタイプの馬乗りを見て、思わずしがみつき止めに入った僕を、彼女は突き放すでも振り払うでもなく、脇に手を入れて抱きかかえ、まるであやす様に軽く揺らしてから山算金の隣に降ろした。
??? 脈絡無く凄いことされたので情緒が狂う。アニマルセラピーみたいな使い方しました?
「あー……ムリ。なにやっても腹の虫治まんねェわ」
そして戻った先で知名君の胸倉を掴み、先輩は彼を片手で吊り上げた。
至近距離で見上げるようにガンを飛ばし、眉間を潰すように軽くヘッドバットを入れる。
「オメェ、何したかわかってるか」
「わかっては、いるつもりです」
「いーや、わかってねぇ……わかって来たなら、そりゃ自殺志願だからな」
至近距離から射殺すような視線で貫かれた彼は、それでも彼女の目から視線を逸らさない。
自分のした事の結果を、受け入れるという意志がそこにはあった。
……そんな二人の様子とは裏腹に、僕はドンドンと申し訳なくなってきていた。
怒ってもらうのも、覚悟を決められるのも、殴るのも、殴られるのも、全部僕が原因と思うと気が滅入ってしまう。
私のために争わないでと叫ぶヒロインの気持ちがわかっちゃうわこれ。僕が悪いって事でなんとかなんないか、ヒモだけど全然責任は取るタイプだから。
そんな気持ちが伝わってしまったのか、先輩がチラと僕を見た。
……色々と考えた末に、小さく頭を下げる。
すると彼女は瞳を閉じて、フゥと深く細いため息をついた。
まるで己の中で燃え上がる火を消すように、長く尾を引いた、呆れを紛らわすような嘆息。……バカさ加減に呆れられちゃったのなら、ちょっと悲しいな。
愛想尽かされないように、もっとマトモな自立した人間になりてぇや。
そうして彼女は再び、知名君へと向き合った。
「いいか、オレはお前を許してねぇ」
「はい」
「いくらお前がマトモに戻ったとこで、ヘマしたらなんだかんだと食ってかかるし、またいらねぇ事しやがんじゃねぇかと疑って見る。当たり前だ。一度裏切ってオレの大切なもん傷付けたようなヤツは、二度三度と繰り返す前提で扱う」
「……」
「──だから、オレが疑う余地が無くなるくらい、これからの旅で貢献しろ。やっちまった事は消えないが、それでも信用されるくらいの人間でいろ……慈悲深いアオの優しさを、二度と裏切んじゃねぇぞ」
「……わかりました」
吐き捨てるようにそう言って彼女は知名君を突き放し、その足でこっちへ来ると、僕の頬を片手で挟みむにむにしながら「オマエも反省しろバカ」と叱りつけた。マジで反省してます。
流石に自分から死にに行きたいワケじゃないんで、次からはこんな窮地に陥らないようにより一層気をつけようとは本気で思っている。
同じ状況になれば同じ事をしてしまうなら、同じ状況に陥らなきゃいいだけの話だからな。
てか慈悲深いって言われたの産まれて初めてかも。高校生に付く形容詞じゃなさすぎる。そう呼ばれていいのって魔王軍幹部くらいだろ。
まあ、とにかく。
僕なんかのせいでクランがバラバラになりかけるところだったが、どうにかソフトランディングできたらしい。
危うくガチでヒモからサークルクラッシャーに鞍替えしちまうとこだったぜ。
「私は絶対ずっと一生死ぬまであんなヤツ許しませんからねぇ……!」
ホッと一息つく僕の腕の中で、未だ涙を滲ませた山算金が鼻声でそう呟くのだった。
うんうん、ごめんね山算金、心配かけちゃったのは悪かったから、どうかそんな事言わずに……。