【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【117】 選ばれし者の心

 つつがなく出発した僕らは、曲がりくねる通路を縦横無尽に走り抜けていた。

 なんせ今回は王城さんからも銀貨を二枚貰ったことで、全員が僕のバフを受けている状態になっている事もあるし、一本道を駆け抜けるだけとなればなんの遠慮も要らないので、最高速度を叩き出している状態なのだ。

 行きみたいに「キングダムがどこで待ち伏せしてるか分からない状態」でもないし、もはや手探り感は無い。

 

 つまり、ついに僕の扶養主が正式に二人増えてしまったという事になるな。

 あなたが何してもいいって言ったからって、今日はモラルハザード記念日なのか……?

 

 ベテラン飼い主のお二人側からは「ついに男もか……」という諦念を感じとれるも、べつにそもそも女性には養われて良いってワケでもないんだよな。麻痺をしてきている、僕ら全員が。

 まあそりゃ、同級生男子に養われる事に抵抗を感じない事もないけど……いかんな、冷静になったせいで、現状の破滅加減に目の前がまっくらになってきた。ちゃんと目を逸らさないと。

 

 僕の中でそんなこんなな葛藤もありつつも、バフのもたらす効果はいつもどおり絶大だった。

 激しい勾配のついた坂は壁を蹴って飛び上がり、崩壊した瓦礫が硬質化した膜に覆われ中空で固まった狭小な隘路は、近距離パワー型二人の突貫でブチ抜いてゆく。

 そうして砕けちった破片は、僕らに当たる前に知名君の魔法による風の鎧で弾き飛ばされ、偶にそれに混じって飛んでくるワームは山算金の金棒でホームラン。

 まるで無人の野を征くが如く、僕らは全てを貫いて歩を止めない。

 

 なるほど完璧な布陣だ。僕がなんにもしてないという点に目をつぶればよぉ〜!

 

 

「ハッハッハ! 素晴らしい……! 素晴らしい力だぞアオミ! これであれば余が負けるのも納得だ! これからは王天流の奥義にお前を加える事にしよう!」

 どういう事なんだよ、奥義のコマンドに個人が入ることないだろ。そこ人入れていい関数じゃないからね。アケコンのどこに僕ボタンが在るってんだ。

 

 彼女お手製の流派が、門弟の数が増えるほど僕を養う人間が増えるという意味不明なネズミ講と化してしまいそうになったのはすんでで阻止したが、しかしまあ確かに王城さんの強化具合は目を見張る物があった。

 さっき金棒すり抜けて肉薄したワームが、彼女の身体に触れた瞬間弾け飛んだからな。どういう原理? スター取って無敵状態になってるとかじゃないと説明つかないぞ。

 恐らくは強化された爆発的肉体反応装甲による寸勁が、あずきバーより硬いカチカチワームの防御を貫き爆散させたのだと思うが……じゃあもうこの人、誰にも倒せなくない?

 

 なんか知名君と違って、初回からリッチキング戦の時のみんなくらいの繋がりを彼女から感じていた。

 そりゃまあそもそも仲違いっつーか恋の鞘当てっつーか、悪のヒモ対善の道徳をしていた彼と、元から普通に仲良くしてくれてたし、帰ってからの関係まで約束した彼女とでは信頼度ゲージの絶対数が違うってことかも知れんけれども。

 マジで我が事ながらヒモの能力は相当にファジーで、簡単に振れ幅出して出力ブレまくるから、これといった確実な答えを出せないんだよな。

 ひとまず言える事は仲良しさんであればある程、差し出してもらう対価がその人にとって価値があればある程、僕からみんなへお返しできるものも増える……くらいが関の山だしさぁ。

 つまるところそれを鑑みるに、彼女はなんか相当僕の事を親しく思ってくれている、もしくは銀貨二枚が王城さんにとって相当な大金である、という二つの仮定が考えられるね。

 

 ……普通に後者なんじゃねぇか?

 そりゃ僕へふざけてじゃれつくくらい心を許してくれてるし、少し的外れな事言って構ってもらいたがってるのとかが察せない程鈍くは無い。

 きっと、隠し事無しで接することができる初めての友達だからだろうな、ってのもわかる。

 が、それでもちょっとバフ効き過ぎてんだよな。

 

 なんかすっかり忘れていたが、よく考えりゃ銀貨二枚って六万円なんだもん。ろ、六万!?!?!? 大大金(だいたいきん)(大きな大金の意(奥大山と同じ用法(親戚多い子供が貰うお年玉とほぼ同額とされる)))過ぎる……!

 そういや防寒具オーダーメイドする時に言ってたけど、そこまでお金に余裕あるワケじゃないっぽかったもんな。

 僕らがひょんなことから意味不明なまでに異常な大金持ちなだけで、転移者といえど銀級冒険者くらいじゃあそんなに稼げるワケじゃあないのだ。

 うーん、そっか、なるほどなあ。ほんだらちょっと悪い事しちゃったかもしれんね。

 もちろん、これからボスワームともやりあう予定なんで"力"が入り用であることは間違いなく、大事な時にリソース惜しまずブッパするのは大切な事だ。

 けれど金銭的に余裕のある僕が、生活が豊かという程ではない彼女から六万円もらっちゃったらそりゃ心苦しいだろ。

 

 ふむ……街に帰ったら、なにかにつけて彼女をご飯に誘って奢ったりするとしようか。

 なぁに、鹿野ちゃんにお菓子買ってあげるのは大丈夫という前例がある。飯を食わせるくらいならヒモと扶養主の条件付けが外れない事は確認済みだ。

 ……じゃあもう僕ヒモじゃねぇだろ、どうやったら外れるんだよこの呪いの装備。

 

 ま、冬場に食費が心許ないのって、本当に気が気じゃないからな……大切な友人が生活費にだけは困んないように、先んじて気を回していきたい。

 へへへ、任せてくれよ、安くて美味しいトコは何件か知ってるんだ。

 基本的にヒモとして誰かのお金で遊興費を捻出せざるを得ない生活だったから、自然と安価な店には詳しくなっちまってね。そんな悲しい事情が回り回って誰かの助けになるなら、根っからの貧乏性も報われようというものよ。

 ヒモとして飼い主様が腹減らさないように、キチンと面倒見て差し上げようじゃねぇか。

 『本来僕がお金貰わなかったら貧乏に喘ぐことはなかった』という因果関係に目を瞑れば、こんな美談も無いな。ヒモはライターとスプリンクラー、両方の性質を併せ持つ♣ そろそろ誰か僕を狩ってくれ……♠

 

 

「ふぅむ。あやつ、珍しくなにか致命的な勘違いをして、勝手に納得しておる気がするぞ」

「そうですかねぇ、あの人はそういうのキチンと分かってくれるタイプですよぉ? てことはつまり、王城先輩の方の問題では無いですかぁ?」

「……まことに耳の痛い話である。なにせ心という物には、ラベルが貼られておらんでな」

「説明書きが無きゃわかんない程度のものならば、あってもなくても同じようなものですよ──と、言いたいところですが……なかなかどうして度し難く、私は彼を悲しませたくない。あなたが自身の中身を見定めるまでの間、要らぬ口出しはやめておきましょうか」

「ご厚情、恩に着るよ小金井」

「あー、あー、あー、あー、同郷の人間裏切った上でちょっと心許してた男に親身に説得されたらコロッとヨリ戻す、生後六ヶ月の赤子みたいな寝返りゴロゴロ女の感謝は聞こえませーん」

「く、口の悪いこのガキャホンマ……まあ概ねその通りである故、何も言い返せぬが……」

 

 僕を抱きかかえている都合上、後ろめに陣取った先輩の腕の中から、前を行く王城さんと山茶花が、なんだか近い距離間で言い合っているのを眺める。

 さっきは木偶の坊だの絶対許さないだの言っていたけれど、どうやら絶交とかにはならずに済んだらしい。

 なに、スタートはちょいとギクシャクしても、段々元通りに仲良くなっていければそれでいいじゃんね。

 

 鷲掴みにされた尻たぶをパン生地みたいに揉み込まれながら、僕は訳知り顔でうんうんと頷いた。

 触っていい場所の外縁をなぞるような先輩の際どい手つきは、熟練のパン職人の生地捏ねにも匹敵する熟達したソレだ。

 なお、これはけしてパン職人のことをセクハラ達人みたいに認知してるワケじゃなく、出来るギリギリのフォローをむりくり捻り出しただけである。文句はないが、流石に尻触られて褒めまではできねぇんだわ。

 

「おっ……この先開けてんな。オイ、次の広間だ! 気ぃ引き締めろ!」

 

 最後に一際ヤバい場所を掠めて一撫でし、パァンと小気味良い音を立てて張り手をかますと、彼女は出口へとギアを上げた。

 コブラでもポスターにしかやんなかった事を人にやるんじゃありません。

 

 

 

 ■

 

 

 

 そうして長い通路を抜け、辿り着いた先には、予想だにしない光景が広がっていた。

 

 穴だらけの壁に、巨大な深淵に頭から半分飲み込まれ、くったりと脱力して倒れ付すハーフエルフの下半身たち。まぁ色々あったらしいって事はわかるな。

 しかし僕らを驚かせたのは、そこじゃあなく。

 

 それらの残骸や気絶者たちの真ん中で、銀色が燕の様に空で翻り、落葉の如く舞い踊る。

 

「……マジかよ」

 

 明星先輩が、信じられないとでも言いたげに呟いた。無論僕も同意見だ。

 死屍累々な周りの事など意識の外へ追いやられる程に、その光景は衝撃的だった。

 

 先生と、委員長と、鹿野ちゃんと、目黒さんと、姿は見えないが気配を感じる悪王寺先輩。

 残りのメンバーは既に一所に集まれていたらしいのは僥倖であるが、しかしその置かれた状況は未だ尋常ではなく。

 ハーフエルフは暗闇に呑まれているので全てなのか、彼女らと向き合って自らの足で立っている相手はただ一人しか残っていない。

 そしてそのたった一人は、鈍い()()に煌めく剣を振るい、今この時も先生たちと戦い続けている。

 

 ──戦いが、続いているのだ。

 

 

 彼、闇無 晶は黒く輝くオーラを周囲に巡らせ、バフを受けたウチのメンツ五人と真正面から切り結んでいる。

 

 

 分断してから数十分は経ったか、繋がりの途絶後にはもしかすれば、先輩みたく謎の力の覚醒もあったかも知れない。

 そして今やより強固に繋がった絆の力を振るう五人と、闇無君はなお対等に……ともすれば、それ以上に渡り合ってみせているのだ。

 ウチのパーティーの身体に血は見えないが、しかしそれはむこうも同様である。

 

 今の今まで五人を相手に、たいした怪我もなく……?

 言葉にしてなお壮絶なそれは、体現するとなればもはや人の身にて成せる行いではない。

 

 しかし目の前では、その隔絶された離れ業が着実に現実として折り重なってゆく。

 放たれる弾幕の間隙を縫うように身体を逸らし、直撃弾は弾き、弾いた衝撃を転用し真紅の鉾を受け流す。

 その間も神出鬼没に足元へ張り巡らされてゆく、踏めばハーフエルフのように囚われるのであろう暗闇の罠を、まるで事前に出現位置が分かっているかのように、足運びだけで回避してみせた。

 何故かこっちのパーティー側の足元に、トリモチがベッタリとこびりついているのは……投擲された薬瓶を剣で弾き返した、という事だろうか。

 

 なんでもないことのように行われたそれらの神業は、一切途切れることなく延々と繰り返される。

 パターンのわかった死に覚えゲーのボスを、歴戦のプレイヤーが縛りプレイで戦っているみたいに。

 彼の動きに、誰一人としてついていけなかった。

 

「当たり前の事を言うが、君らは"なってない"。見るべきを見ず、振るうべきを振るわず、踏まずともよいところで踏みとどまれない。まずもって基本的な対人技能が低過ぎる。先生は場慣れしてるみたいだけど、それもおそらくは路上の喧嘩(ストリートファイト)の域を出ないだろう。なにより人並外れた力を授けられ、これだけの時間があったというのに……それに合わせた体捌きを身につけられていないのは、もはや論外だ」

 

 息を切らすことも無く語りかける彼は、戯れのように歩を止めて、迫りくる弾幕を全て剣のみで切り払ってみせる。

 そして一呼吸おいて前方に二歩分跳躍すると、その瞬間彼の立っていた場所に目黒さんの暗闇が漆黒の口を開いた。

 着地に合わせふいと真横に剣を伸ばせば、なにも無い虚空から鋼をぶつかり合わせる金属音が響き、認識阻害が切れたダガーがポトリと地面に落ちた。

 

「つまらない、とは言わない……けれどそれも、天与の借り物(ギフト)に対する評価だ。持ち主たる君たち自身は、欠けたるものが多過ぎる──誰一人として、及第点にも及ばない」

 

 彼が僕らを見るその瞳は、エルフの里を共に歩いて、調子外れな僕の歌を笑いながら聞いてくれたあの時とは、まったく違う色をしていた。

 何度も繰り返し読んだ漫画を読み返さざるを得ない子供みたいに、飽き飽きした暇つぶしを無限に繰り返すのに倦んでいる。

 

 しかし、それは……いや……いったい、どういう事だ?

 そんな彼の姿を見て、しかし僕の頭を占めたのは"混乱"であった。

 

「青海君……! 無事で良かった! いろいろ聞きたいし、言いたいこともある。でも、まずは全部彼をなんとか正気に戻してから!」

 合流した僕たちを視界の端にて捉えた先生が、鉾を振るう手を止めず大声を上げる。

 

 は、はい! あ、ですけど、えっと、先生、これは……。

「闇無、君がッ! 止められ、フンッ!! くっ、止まらないの! この子、いくらなんでも、っどおぉォっせェいやあああぁァッ!!! ……ちょっと、強過ぎる!」

 

 会話の途上にて緩急をつけられた歩み足のまま放たれる石突きを、彼は刀身で捻るように絡めとり引き下げ、足先にて蹴り上げた。

 けして力負けはしていないが、想定しない挙動にはどうしたって人は全力を返せない。

 思わず取り落しかけた柄を咄嗟の動きで中空にて再び掴んだ先生は、再び大上段から振り下ろすももはやその場所に彼は居らず、傾けた刃にて易々と受け流される。

 見事に重なった刀身の血溝と石突の尖部が、あまりの速度に火花を飛ばした。

 お返しとばかりに振られる彼の剣筋は鋭さを増し、先を読むかのような踏み込みは先生の回避を正確に追従する。

 今にも刃が先生の身体に届きそうになった刹那、彼は一切の躊躇なくバックステップで距離を取る。その瞬間、空間を割くように飛来した砲弾が、二人の間を突き抜けて床へ風穴を開けた。

 

 ……今しがたの衝突を見た所、出力では先生が上回っている。

 技量とて彼のソレと遜色無い。

 けれど何と呼ぶべきか……『センス』とでも表現すべき部分において、五人は遅れを取っているようだった。

 

 こと戦うということに関して人後に落ちぬハズの聖先生が、潰しの青龍が、たった一人の高校生に明らかに後手に回っているのは、その差だ。

 "距離感"、"武器の取り回し"、"フェイント"、"人読み"──それら感覚的なすべてにおいて、彼はおよそ人の出しうる最適解の理論値にて回答を叩きつける。

 

 つまり万能であるということは、120点を取れる相手に全種目100点で渡り合うということ。

 例えば先生が強靭120点、器用さ80点、俊敏90点だとすれば、彼はすべてが100点だった。

 万能の天才にどこか一つで勝ち越せても、総合点では決して上回れない。

 

 そして学習・戦闘・歩法・呼吸・足趾の使い方・筋肉の収縮…と、細分化される生命としての総合評価の採点項目において、すべてが満点であるのなら、彼の取れる点数は果たしていかばかりになろうか。

 

 一部の隙も無い完璧な道理で、同時に無茶苦茶な暴論。

 まるで物語における役割としての怪物の如き、どうしようもない舞台装置じみた天賦の才。

 天才(ギフテッド)に与えられた祝福(ブレス)厄災(カース)

 

 天と魔が三物を与えたもうた、この世で唯一の人。

 

「……あぁ、王城と知名も来たか。ちょうど良かった」

 

 耳に入った先生の言葉で、ようやく僕らに気付いたらしき彼は、酷く冷めた目でこちらを見た。

 ゆらとこちらの三人をなぞるように振られた視線が、僕のそれと一瞬確かにかち合う。

 疑念が、確信に変わる。

 

「お前らも、向こう側に付いてくれよ。少し歯応えが足りなかったところだ。雑魚相手でも、十対一なら勝負にくらいなるだろう。いや、青海は戦力外だから九人か?」

 

 そんな彼のあんまりな言い草に、僕はムッとする。好きな人をそんな風に貶されて、腹の立たない人間も居ないだろう。

 おいおいなんだよ、エラい物言いじゃんか。指摘するにしたってもっと配慮ってもんがあるでしょ……と言いたいとこだが、けれど戦闘に関して僕はとことん門外漢だ。

 知り合いであっても厳しく当たらなければならない時もあるだろうし、ここは口出しをしちゃいけないとこなのかも知れない。

 ……いやというか、違うなこれ、そもそも多分。

 

「えーっと、ごめん。これは……もし僕の勘違いじゃ無ければ、酷いすれ違いみたいに見えるんだけど。これは、そのー、模擬戦……? で、良いのかな」

 

 状況を上手く呑み込めない僕が恐る恐る問いかけるが、しかしその言葉にこの場の誰もが不可解そうな表情を浮かべる。

 つまり、やっぱり彼女たちはそう思っておらず、そして──。

 

「……なんのことだ? この中で最も欠落の多い君の考えることは、正直理解に苦しむ」

 

 彼は、それを明かしていない。

 

 ……そうか、そうか。

 つまり君は、そういう奴だという事か。

 

 

 なるほどね……でもまあ僕は正直なとこ、安心したよ。なんとなくホッとしてるまであるね。

 言ってしまえば当然とも言えるかもな、当たり前の話だ。

 欠けた所のない人間など、この世には存在しないのだから。

 

「さっきから何の話をしているんだ。妄言ばかりでまったく要領を得ない。愚か者は、話し方一つとっても不出来が露呈する」

 

 あー、あー……そうね。そうだな、闇無君。

 どうだろう、一旦、一旦で良いんだが、木の外でやんないか?

 君が僕みたいな凡夫に飽き飽きしてたのはわかってるけれど、キングダムの三人の中において闇無君の『願望』だけは、別にココでやんなきゃいけない事じゃないハズだ。

 ホラ、足場とかもさ、外の平坦な地面で戦った方がやりやすいんじゃないかな。

 今ってあのクソでっかいワームがいつ襲ってくるかわかんないし、なにも君自身が危ない場所で戦闘を続ける必要も無いと、僕はそう思うんだけど。

 

「……場所も時間も関係ない。どれも俺の知った事じゃ無い。今ここでやらない理由は、俺の中には一つもない」

 

 そっか~、いや、え~、わかった。

 あ、じゃあさぁ、多分だけど闇無君の望みって、要約すると分不相応な夢を見る相手を叩き伏せるなワケじゃん。

 それに関して言えば、あのデカい芋虫も結構そういうとことか感じたりしない?

 共闘しようなんて言わないよ、でも先によりデカい顔してるデカブツから叩くのはどうかな?

 その後で回復もして、心置きなく戦える万全な状態で僕らと戦ってみるとかさ。

 

「……」

 

 ほら、そうすればもしかすると、芋虫との戦闘で得た経験から何か新しい技を覚えて、君とも渡り合えるようになるかも知れない。

 頂点故の孤独みたいな、そういう場所に手が届くだけの素質を、ウチのクランの僕以外のメンツは全員備えてると思うんだよ。

 だったらさ、可能性のある方に賭けてみるってのも悪い手じゃないだろ?

 それはきっと、君の望みを叶えるもう一つの手段でもあるハズだ。

 

 

 

 突然べらべらと話し始めた僕を、彼を除いた全員がきょとんとした顔で見つめている。

 戦闘音が途絶えた戦場にあって、ただ言葉を交わす僕と彼だけが異物として場から浮き始めていた。

 こんな時間が続いていれば、多分だけど君だって都合が悪いだろ。

 きっとバレない内に、さっさとこの会話を終わらせたいハズだ。

 たった今この瞬間だけ、ほんの少しだけ妥協して欲しい。

 頷けとは言わない。なんなら走り去るだけでもいい。

 後の事は、君が望むようにやるのも全面的にサポートしよう。

 

 だからさ、どうか、頼むよ。

 こんな危ない場所で遊ぶのだけは、やめにしてくれないか。

 

 

 

「……っはァ~、つまんないな。萎えるんだよね、そういう気を利かせたみたいなやり方。バレないようにちょっと遊んで俺が勝ったら、そっちに戻って協力してやるつもりだったけど気が変わった。なんにもできない無能が、賢しげに俺と通じ合おうとするな。「人を見る目はあるんです」って顔して、数字にならない部分で帳尻合わせたフリしても、土台何もできない人間の無価値さは変わらない」

 

 けれど、そんな僕の願いは通じず、むしろ必死な懇願に呆れかえったように、彼は剣を真っすぐに僕たちへ突き付ける。

 冷え冷えするような感情の乗らない視線は変わらずに、しかしその言の葉に侮蔑と嘲りをたっぷりと乗せて。

 

「なるほどね、そういうことかい。そりゃまたなんとも、悪趣味な話だ」

「……闇無君。貴方、もしかして」

 

 

「当たり前だろ。一体どこの世界に、魔王に操られる勇者がいるものか」

 

 

 魔王から授けられた狂化を総身に漲らせながら、その心に狂気を微塵も踏み入らせなかった『勇者』が、本性を現した。

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