【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
青海、お前は本当に人から本心を引き出すのが上手いな。
無能と言ったのは取り消す。
そこまで突き詰めれば、それは多分他の誰にもできない才能だ。
確かにお前は、ある一点において俺よりも優れている。
……それが俺が認めた二人じゃあなくお前だってのは、正直複雑なとこだが。
あの日の夜、なんかまあそれらしい夢を見たよ。
紺よりも黒に近い蒼穹の下、幾重にも重なったガラスの道が、遥か彼方地平線まで続いている。
誰かの夢を叶える度、いつも幻視してしまう景色。
他ならない自分自身のみが知っている、見飽きた心象風景。
俺が普段から感じていた退屈、目を逸らしていた他者との違い。
きっとこれからの生涯で俺は、誰にも引き上げてもらうことなんて無いんだろうなとぼんやりと感じる、自身より上に立つ者の不在。
そういった俺の中に巣くう心情を形にした……まあ、イタいからあんまり他人には話したくない、全能感と無力感の相反する投影だ。
我ながら中二病じみてるが、しかし本当になんでも出来ちまう俺が言うんだからな。自分より優れた相手以外からの冷笑は、残念ながら痛痒も感じないよ。
別に、俺が全ての人間よりも、万事において上回ってるなんて思い上がっちゃいない。
けれど、俺が今まで出会った中で、俺と同じ高さで話してくれる人間は、一人だって居なかった。
そして足元のガラスの下には、いつも通り二種類の人間が居た。
友人達と、その他大勢。
日々を過ごす中でかけがえの無くなった、この道の先へ歩いて行くのを見届けてやりたい、分不相応な夢から現実へ連れ戻してやんなきゃなと思える、ほんの一握りと。
俺という突出した存在におもねる事で、少しでも自分を特別な物であると錯誤しようと必死な、特別じゃない有象無象。
もちろんこの俺が一度知った名と顔を忘れることはないけれど、覚えている価値があるとは到底思えず、手を引いてやる気にもならない、自己顕示欲と虚栄心でパンパンに膨れ上がった肉風船。
努力も、才能も、性格も、何一つ秀でた所の無い、夢を見ることすら不遜な無能ども。
身の程知らずな夢を取り上げずにはいられない、俺の人生に縋りつく滓。
いつも通り友を引き上げてやって、無能の戯言をさっさと終わらせてやって、その先にあるのは……視界の果てまで続く、下から無数に伸びる手だけ。
同じ事を何度繰り返そうと、同じ場所まで上がってくれる奴はついぞ現れず、友人達ですら二段も三段も下の場所から、恥ずかしげもなくハイタッチを求めている。
そんなに下から見上げてちゃ分かんねぇだろうけどさ、俺の胸元でピカピカ光ってるのは、お前らが嬉しそうに掲げるメダルでも、ましてや誰かの為に生きてきた誇りでもないんだよ。
ガキンチョの学芸会で無双するだけの人間の胸にそんな物はなく、精々折り紙の勲章が良いところだ。
空虚な人生の象徴が、足元の硝子に空しく反射していた。
と、そんなところで俺のつまらないありきたりな悪夢は醒め……俺の内側にいつの間にやら、誰かの黒い意思が入り込んでいるのに気付いた。
多分呪いみたいなものかな、詳しくはわかんないけど。
随分くだんない事するもんだと、思わず呆れたものさ。
俺の知っている、俺の感じた事を、俺にわざわざ再認識させて、何かが変わるとでも思ったか?
ま、人を不快にしたかったってんなら、なかなか上手い手だと言ってやっていい。
気分の良いものじゃあなかったからな。
ようやく見なくて済むようになった飽き飽きした光景を、気分良く異世界旅行してた時に突き付けられたんだから。
……あー、今の話を聞くまでもなく、お前にはわかっちゃいたんだろうけど、俺は無理して猫を被ってたわけじゃあないんだ。
誰も彼もが何に関しても俺より上手くできないとは理解してたし、その事について常々どうしてこれくらいの事が、とは思っちゃいたけどさ。
でも別に……全員を足手まといのゴミだなんて、思っているワケじゃなかった。
一番縁遠かった青海にはわかんないだろうけど、チームスポーツやバンドってのはさ、たった一人なんでもできる奴が居たって上手くいかないんだよ。
先生がパワーだけ俺より勝っても総合力で負けたみたいに、そのほとんどを天才に近い実力者で占められた相手には、エース頼りじゃ結局負けちまう。
他の手札もある程度は強くなきゃ、そもそもお話になりゃしないのさ。
だから、あいつらの願いを叶える為の行為の中には、あいつら自身への鍛錬ももちろん含まれていた。
そして俺は、わざわざゴミを育ててやる程ヒマじゃない。
そもそも俺は、自分の事を人間性まで完璧だなどとのたまうつもりは無い。
隔絶した能力差故に同類が居ない孤立はしてても、孤独に耐えられる程老成してない。
つまり、お前と違って友人くらい居るって事。
……ふぅん、怒らないんだな。「自覚があるから」? 寂しい事言うなよ、俺とお前は友達なんだろ?
ま、ともかく、自分の学生生活の見栄えを良くする為だけに近寄ってくる、気に留める事すら無い有象無象とは別の、俺がわざわざそう呼称するに足る、友と呼ぶに相応しいだけのモノを持った存在が居る。
そいつらはさ、基本的に良いやつばっかだよ。中にゃどうしようもないバカもいるが、そこもまあ苦笑いで済ましてやれる程度。
マジで面白い話をされて腹から笑い転げたりもするし、放課後に遊べば時間も忘れちまう事もあった。
例え同じ高さに立ってなくても、ずっと見上げられていようとも、友人は友人だ。
才能や能力の有無は、友達を選ぶ基準足り得ない。
周りが猿にしか見えない、みたいな勘違い拗らせたイタい人間性してたら……むしろこうはならなかったろうな。
天才がもし孤独だとすれば、それは単にその天才の性格が悪いか、人付き合いの才能が無かっただけだ。
俺はその点、上から言っていい事も、相手が言われたい事もわかった。
犬猫を家族だと認識する事もある人類が、パラメーター低いだけの同種族と友人関係になれない理屈は無い。
崩れたバランスの上でも、積み木が立つなら城だって築ける。
そいつらが俺の言葉を常日頃から心待ちにし、目と目が合うだけで浮足立ってしまうくらい特別視されていたとしても、それは俺の非凡さ故だと理解しているから、特に気にはならなかった。
少なくとも、俺は孤独じゃなかったんだ。
そして当たり前の事だが、そんなあいつらには全員それぞれの人生があった。
どいつにもひっくいハードルながらも目標があり、大抵は身の丈にあった夢を思い描いてる、月並みであれど幸せになれる道程。
見通しが甘いとこはあれど、俺から見ても努力次第でなんとかできるだろうと予測できる、まっとうな進路をみんな持っていた。
なのに誰しもが時折、どうしてか絶対に成就するはずのない高望みをしてしまう時があって……目ン玉キラキラ輝かせながらそれを語る姿を見ると、無性に苛々するんだ。
そんなトコで無駄に足踏みしてるヒマ、お前らなんかにあるわけねぇだろって。
自分の可能性を知らないガキみてぇに、正気失ってうわごと言ってねぇで、キチンと自分に許された領分の中で人生を完結させろよ。
そうしないと、お前らは幸せになれないじゃないか。
幸福な人生なんていう、アホみたいに簡単な目標にすら、お前らは日々打ち込まないと到達できないだろうがよ。
……俺は、あいつらに不幸になって欲しくない。
当たり前の事として、友人には幸せになって欲しい。
上限までは引き上げてやるから、そこまでで満足して現実的な地平を目指して歩いてけ。
そんな風に思い直してくれるように、俺はみんなが語る夢を叶えてやって、程々んとこで切り上げて現実へ回帰させてやる。
だから俺は何度も何度も何度も何度も、誰かの夢を手伝って、そしてさっさと終わらせてきたんだ。
サッカーは県ベストエイトで、バンドはSNSや動画サイトでもある程度数が回って、勉強会すりゃ期末テストの平均点は学年一だ。
……『なんだ、あんまりパッとしないんだな』って、そう思うだろ? あぁ、いや、お前は思わないか。
でもさ、県ベストエイトもプチバズも、言っちまえば上の下か中の上くらいだ。
それくらいじゃないとダメなんだよ。
俺の目的はあいつらと一緒に夢のその先へ行く事じゃ無い。
叶わない夢を見続けて苦しみ魘されないように、肩を揺り起こして幸福へと続く日常へ立ち戻らせる事なんだ。
そこにあるのは、有象無象が不遜に語る夢を呆気無く終わらせて取り上げるのとは、まったく違う想いさ。
独善的で身勝手な行為である事など百も承知だが、しかし俺がしている事は、親しい者の幸せを願って一時夢を見せた上で、現実に軟着陸させてやってるだけ。
それでもなお夢を追うならば、それを止める術は俺には無いだろう。
しかし、懸命で健気な友人達の中に、夢を容易く叶える俺の姿を見て、自分の限界を思い知らされてなお足掻こうとする者は、一人も居なかった。
それが、答えだろう?
あいつらは俺の背中を見ただけで、ことごとく折れてしまった。
善良で平凡な平均点の人間は、見誤った高すぎる目標を目指して、その分野の天才達と鎬を削りながら飛び続ける事なんてできないんだ。
いつかは気力も体力も失い、蠟の翼は溶けきって、浪費した時間分の代償を支払う時が来る。
……話が逸れたな。
いや、実際俺が話したかったのは、魔王とかいうどうでもいい、俺が倒す為だけに用意されたイベントじゃなく、俺とお前の話だから、これはこれで良いんだけどな。
まあともかく、俺は魔王から呪いを食らった。
嫌な夢見せて、それに揺れる感情を増幅させて、トラウマに近い感傷を刻み込むみたいなものだ。
まあ、確かに嫌かもな、鬱陶しいし。悪夢をずっと見てるようなもんだし、嬉しい置土産ではない。
だから消し飛ばした。そんだけ。
ん? そりゃできるだろ。
自分の心の中の問題なんだから、その主人たる自分の自由にできない理由がない。
そんなことはお前にだってできるだろう、謙遜するなよ。
そういう分野において、俺よりお前の方が格上だと認めたんだ。
だってのにさ、あとから起き出した二人はもう分かりやすく動揺してて、なんか世界樹に行くぞとか操られて言い出すしで、正直……まあ、ちょっとガッカリしたかな。
俺は最初の119人の中で、感知しうる限りもっとも良い人選をした。周りから群がられるのではなく、俺の選ぶ人間として二人を選択した。
特に親しい奴らは連れてこられて無かったから、一番視線の高さが近そうだと思って、知らない場所に来てもやっていけると信頼して、王城と知名を選んだんだ。
もしかすればこいつらは、俺と同じ高さまでやってきてくれるかも知れない。
そうでなくとも、俺が終わらせなければならない夢を語らず、少しずつ地道な努力を重ねて俺へと近づくかも知れない。
そんな、いつ以来かわからない期待が無かったとは、けして言えなかった。
これまでの旅路だって満点じゃないけど、概ね満足はしてたんだぞ。
あいつらと居て、一度たりとも足を引っ張られたと思わなかった。
神様からのギフト込みとはいえ、肉体的な強度において王城は俺を凌駕したし、知名は俺より魔法を上手く使えた。
総合点で俺まで至れずとも……いや、もしかすれば、このまま成長を続ければ、いつか魔王とやらの根城に辿り着くまでに。
……わかるか? 俺は初めて、夢を見てしまったんだ。
……なのにあいつらは、こんな物に簡単に引っかかり、暴走を始めた。
愕然としたね。
蓋を開けてみれば──そこにはこれまでと変わらない中身が詰まっていた。
寄生虫に乗っ取られて、捕食者の食いやすいよう陽のあたる場所へ這い出てくる、愚かな餌しかそこに居なかった。
いや言い方が悪いか。俺が勝手に期待したんだ。そうして、勝手に失望したに過ぎない。
いつだって俺は自分自身で完結してきた。だから、今回もそうだったんだ。
今回も、そうなってしまったんだ。夢などという、愚かな期待に踊らされたせいで。
でも、その不様を見ながら、ふと思ったんだよ。
俺より心が弱かった二人は、自分の思うまま好き放題やろうとしている。
なら……俺だって少しくらい、遊んだっていいだろうが。
言うべきではないからと自制してきたことも、隠し通してきた本音も、なんでもかんでもブチ撒けて大暴れしたって……全部魔王のせいにできるんだぞ?
弱い奴は弱いが故に、不出来を許される。
どうして最も強く、何をしたって失敗しない俺が、一番不自由なんだ?
ハメ外して自由を謳歌する大義名分、またとない好機を目の前でチラつかされて、それでもなお俺だけは我慢して割を食わなきゃならないのかと思った瞬間。
俺は光り輝く、甘そうな
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「以上が、俺の自己紹介。とっくにわかっていただろう内容でも、本人の口から語られるとまた違う味わいがあるだろ?」
いやいやいや、買い被りが過ぎるぜ闇無君。
当然だが、僕は君の来歴を知らないんだぜ。
どんな事が起こったかなんて、今君から話してもらうまで知りようがなかった事だ。
君がどう思ったかはともかく、何をしてきたかに関しては全て初耳だよ。
素晴らしい自己紹介でしたと拍手を送りたいくらいさ。なんせ僕がこっち来て初めてやった自己紹介はマジで酷かったからな。時が戻せるならあの時に戻って、冊子にまとめた「ヒモ乱用防止啓発資料」を配布し、みんなへ僕を利用する上での注意喚起をしときたいくらいだもん。
「あぁ、だから俺はお前を評価しているんだ。これまでの足跡を知らぬまま、俺を理解しきった化け物。ただここに在る分の俺自身の情報だけで、よりにもよってこの俺の思考をトレースしてみせた異才」
うひぇ……! なんか背筋ゾワゾワしちった! 異才の化け物て、一夫多妻の怠け者の間違いじゃないか?
やめてよ、そんな持って回った仰々しい褒め殺しは。目の前に居んのは単なるヒモだぞ。
もしかして闇無君も『褒め殺し催眠による自尊心増大プラン』に加担してたりしないだろうな。
「……お前、そんな事をされているのか?」
おっと収容違反。
へへへ……口が滑っただけでさぁ、マジで全然そんな事実は影も形もありませんぜ(まだ実行に移されていないので)。
ま、そうさね。
実際仰る通りで、彼の話を聞いてみていろいろと思う所はあった。
それは、僕がやってる彼の好き嫌いや傾向や思想や人格や癖や価値基準から、彼という人間を脳内で勝手に象るなんていう、ままごとみたいなプロファイリングもどきじゃあ得られなかった所見だ。
まずもって、彼は僕にしゃべり過ぎている。
自己紹介と彼は言ったが、こんな傷も弱味も全部曝け出す自傷じみた開示を、普通そうは呼ばないものだ。情報を開示して得があんのは呪術師くらいのもんだし。
そうしたい気持ちもわかるし、そうなってしまう理由もわからなくはない……というか、推測が付く。流石にオールマイティな天才とおんなじ感覚がありますとは、嘘でも言いにくい。
ある事象について人が下す裁定の全容は、その本人にしか知悉しえない。僕ができるのは、精々回答シミュレーションくらいのもんだ。
内面的な思考の微かな揺れ動きまでは、そもそも「答え合わせ」ができないからな。
で、それを踏まえた上で、闇無君はどうしてこれ程まで詳らかに、己の話をしてくれたのか。
もちろん言うまでもなく、そんな「答え合わせ」の為である。
話せば話す程に、僕の中で彼の虚像が一つの立体的な形へ浮かび上がっていく事を、闇無君は既に知っていて、その上で自分の秘めたなにもかもをぶちまけた。
だからこそ、そうしたい気持ちもわかった。
果てまで続く暗闇の荒野にてようやく見つけた、頼りなく揺れる光明を前にすれば、人は歯止めが利かなくなってしまうものだから。
寂しさ、いや、空しさ故に君は己を明かした。
それは君ほどの天才でも、天才だからこそ抗えない欲求。
思い返すまでもなく、知名君も王城さんも、みな告解するが如く、秘めた心の底に溜まった澱を切実に吐き出した。
才あるハズの彼らがことごとく膝を付き、縋るように他者へ心の内を吐露したのは……才能と実力に裏打ちされたその生き様が、日常生活において"弱さ"を許さなかったから。
僕なんかが君に点数をつけるなんて恐れ多くて、とてもできやしないけれど、なにもかもが全部できる君は、だからこそやれなかった事があったんだろうね。
初めて君が満点以外を取っている部分を見つけたよ。
元より正解の無い「人との接し方」に、もし百点満点なんてものがあるとすれば……それはきっと、弱みを見せる事も甘える事も、当然の様に含まれていなければならないだろうからな。
人は己に無いモノを他人の中に求める。
であるならば、全てを持っていたハズの君の唯一欠けたる部分を見つけた以上、君のしたい事も自ずと導き出せる。
彼は僕に、理解されたがっている。
「ホントの自分を理解して欲しい」……なんとも、思春期の僕らにありふれた願望じゃないか。
そもそもあまねく全ての人間は、自分を誰かに知って欲しくてたまらない。
隙あらば自分語りするのも当たり前の欲求に過ぎず、特別な人間ですら例外無く、何も特別な事じゃない。
もちろんその願いを、僕は肯定しよう。
友人たってのおねだりを断るような、薄情でノリの悪いタイプじゃないんでな。
こちとらもう同い年の男子に養われた後なんだ。ついでに同い年の男子に甘えられる経験積むくらい屁でもねぇ。
いいぜ、存分に胸を貸してやる、なんならバブ海蒼とでも呼んでくれたって構わんぞ。
ただ理解されたくない部分は、きちんと隠しといてくれよ?
僕にはデリカシーもちゃんとあるんでね。
エッチな本と一緒に本棚に並べた本の奥に横向きで入れといてくれれば、そこは見ないフリしておくからさ。青海お母さんとの約束だ。