【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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次の投稿は二週間後、25日の予定。
頑張ってやらなければならない事があり、一週開きます。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【123】 勢揃い

「さぁて、それだったら話は早い。ほんじゃまずは外へ出ようか。虫を倒してからか一旦退却かは、相談の上でね」

 

 ポン、と膝を打って、僕は立ち上がった。

 未だ座ったままの闇無君は、興味深そうに僕を見上げている。

 いやはやこれだけ期待されちまうと、ちょいと重く感じちゃうね。

 君の目の前のヒモにたいした事はできないぞ。地獄宴会芸くらいが関の山だし、アレは同級生陽キャ男子には見せれません。(☓:同級生陽キャ男子でなくとも誰にも見せるべきではない(自動車免許の学科試験に僕をクソ問題として載せるな))

 

「へぇ、どういう事だい。俺に話すだけ話させといて、そっちは回答の一つも出さないのか?」

「んー、それはたしかに。一方的に聞くばっかじゃ、コミュニケーションとしちゃ片手落ちだもんね」

 

 へへへ……口ではそんな事言ってるが、体は正直なもんだぜ。非難めいた口振りに反して、随分と楽しそうな顔してんじゃないか。

 女性陣を相手にしてる時は絶対に考えもしちゃいけないボケも、同い年の男子相手ならある程度遠慮しなくていいから気楽だ。なんせパーティーメンバーには頭の中も筒抜けだからね。

 今時、学生の身分でもセクハラにゃ気を付けるのは当然の話。バイト先で叩き込まれたコンプラ意識は、僕の中にしっかりと息づいていた。あと遅刻しそうな時の言い訳バリエーションと、仮病を使わざるを得ない時の弱々しい声音の出し方とかも。だいぶ要らん物も抱えてますね。

 

「ま、たしかに君の話も聞いたんだ。それじゃあお言葉に甘えて、次は僕の言葉を聞いてもらおう。これは僕なりに君のお話を咀嚼して、考えた結果を手短に纏めたものなんだけど……」

 

 彼から語られた身の上話には、いくつかのトピックがその主たる願いとして随所に見え隠れしていた。

 不満、自棄、じれったさ、疎外感、空しさ……ほとんどがマイナスの想いだけど、人が常日頃から胸に貯め込んでいる衝動なんて、たいていはそんなもんだ。不平不満を口に出さないってだけで、十分褒められた話だよ。

 

 問題なのはその中身じゃなく、そこから発された矢印。

 それらの悪感情が結局どこに向けられていたか、その行き着く先の所在さえ察してあげれば、それだけで良かった。

 超人つったって、悩みまでスーパーなワケじゃあねぇ。

 どれだけ才能に開きがあろうと同じ人間で、なんてことはない同い年の学生なのだから。

 

「君の求める生き方の答えは、こんな狭苦しい木のウロん中でグダグダ話してちゃ憂鬱なモノにしかなんねぇってこと。壁が光ってるたぁ言え、閉塞感あって気が滅入るだろ? 人生についての問答は、明るいトコでやるべきだぜ。思春期の青年らしく陽光の下草を踏みながら、はたまた思春期の若者らしく隠れて酒でも引っ掛けながら……どっちでも構わねぇが、陽気な場所で建前抜きにして気分良く語り合おうよ」

 

 初めて自分の内心を打ち明けた相手からの、人生観変わっちゃうような気の利いた一言を期待してた天才は、そんな僕の放言にぽかんと鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をする。

 僕がしたらとんだ間抜け面なのに、闇無君がするとモデルが見せた貴重なワンシーンになるのは、社会保障制度とかでなんとか是正できないか?

 

 いやね、よく考えてみなよ。

 もう君は、いついかなる時でも好きな時に、ざっくばらんにぶっちゃけていい相手を手に入れたんだ。

 気を急いて、今すぐに“何か”答えを出そうとしなくてもよくない?

 回帰した日常の中で──思えば異世界転移なんて非日常なのに、その中にも日常ができるんだから驚きだね。とにかく、どうせ魔王も今日明日来るワケでなし……気が済むまで話し合ってみて、納得できる何かを、腹落ちできる自分の解答を見つければいい。

 そうだろ?

 

「……そう、か。うん……なるほど……」

 

 我ながら胡散臭いと思うくらい立て板に水で流れ出る詭弁の真意を探ろうと、彼はまるでパズルを解くみたいな集中した面持ちで、目の前の詐欺師を凝視しながら曖昧な返答を呟く。

 わざわざ僕が言葉にしないのは、それをこそ彼が望んでいるからでもある。

 ペラペラクドクド全部言葉にするよりさぁ、こういう普通じゃないコミュニケーションは楽しいだろ?

 飽き飽きした「ありきたり」じゃない、僕としかできないことに君は価値を見出す。

 

 示すべきは理解であり、また理解を示されたという事実である。

 つまり僕は君を分かっていて、君は分かられている事を理解しろと傲慢にのたまってみせるのだ。

 聡明で隙の無い人間を説得する時は、過剰ではない自負心で己を完璧に包まねばならない。矜持も、自身の能力への自信も、相手と同程度無ければお話にすらならないからだ。

 持てる者は、相手の持ち物もちゃんと見る。素寒貧の能無しの言葉に、彼らはけして絆されない。

 

 

 べつに当意即妙な答えがこの場で用意できなかったから、問題を先送りしようとしてるワケじゃない事くらい……彼は僕から見抜いていることだろう。

 ならば僕がこんな風に語る意味は何か。

 戦闘中に戦ってる相手の筋肉の収縮や、意識の弛緩すら見逃さない観察眼と、それらから少し先の未来を予測する演算機能が、贅沢にも僕との他愛無い会話に使われていると思うと、流石に気後れはしちゃうな。

 終わってない夏休みの宿題の為に量子コンピュータ出してくるようなもんだぞ。僕の気の小ささ見るにしても、流石に電子顕微鏡は必要無いみたいな話。

 

 まあ、そもそも彼が何を必要としていたのかってことなんだよな。

 誰もがついやっちゃう自分語りは、己を理解して欲しいから。

 ならば、理解者を得たいのはなんでだ?

 闇無君は、ただ理解者がいれば他に何も要らないっつータイプではない。

 その理解者に、一体君は何をして欲しいのか。

 彼はもう、答えを出している。

 

 君は僕相手に、すでにそれを成し遂げた。

 だからこれからの相談相手は、なんなら僕である必要すらない。

 先生でも、キングダムの二人でも、あなたが信頼の置ける相手でさえあれば、誰だってかまわない。

 

 君が本当に必要としていたのはなんでもかんでも受け入れてくれる理解者ではなく、他者へ本音を話す勇気だったんだから。

 

 君が理解者を欲したのは、幸せを願う友人たちとの付き合いで抱いてしまっていた……「ある感情」を、ただ打ち明けたかったからに過ぎない。

 それは軽蔑とも少し違い、けれど引け目ではあり、憤りにも似ている鬱屈とした葛藤だ。

 単一の言葉で表せられない、幾つもの心情が混じり合った、暗く閉じられた情動。自分の語彙の少なさを棚に上げて言ってのけるが、人の感情ってのはそんなに単純なもんじゃないからな。なんだかんだ混ぜこぜになるし、混ざった方が強いのは虚式「茈」が証明している。

 それを腹の中にずっと抱えとくのに、いい加減倦んできてたんだよね。

 

 被った模範的な社会性の下の本音を、油断してたからとはいえ覗き見た出歯亀が現れたのは、ある種彼にとっても好機ではあったのだろうが……それでも、全部晒すのは勇気のいる事だったろう。

 人は取り繕わぬ己を容認し難い。

 社会性があるが故に、非社会的な思考を隠したい。

 ペルソナでも「もう一人の僕」を最初は否定してしまうのがお決まりだろ?

 それでも君は惚けず、誤魔化さず、堂々と自分のワガママを認めた。素直に尊敬するよ。僕もその勇気ってヤツを持ってないって奇しくもこの前指摘受けてさぁ、今度出し方教えてくんない?

 

 良い人だからこそ、良い人じゃない面を見せられなかった。

 外圧ではなく自戒として閉じこもっていた善性の檻から、君はもう解き放たれている。

 勇者の名に恥じず、君は勇気を出せた。

 だからもう君は本来、他人の心を読んだつもりになってる胡乱な輩の手なんて借りる必要も無いのさ。

 

 ……ま、とはいえ、親しい友人にこそ言い難い事があるのは当然だ。

 都合のいい感情の壁打ち用衝立、兼、忘れて欲しい内容はすぐ忘れる相談相手として、膝突き合わせるのは大歓迎だ。

 なんせ僕はボゥギフトきっての「分かり手」と評判らしいからな。ネットスラングがリアルで自然発生する歴史的瞬間に立ち会ってしまった。

 

 

「……それもそうだな。俺より俺をわかりきった相手との会話ってのは、まったく忌々しいくらいにペースを握られるのだと、一つ勉強になった。飽きるまで付き合わせるから、覚悟しておけよ青海」

 うん、もちろん喜んで付き合わせてもらうよ。

 良い飲み屋はいっぱい知ってるから、何回だって飽きさせずにエスコートしてみせるさ。

 今度は肩組んで帝国国歌でも歌おうよ。歌詞は教えるからさ。

「二度とあの音程無茶苦茶な歌声は聞かせるな音痴。俺がボイトレしてやるまで、絶対に外では歌うなよ。クランメンバーがあんな恥を晒したら、俺の評判まで落ちる」

 そ、そこまで言う!? 自覚はあるけど酷くない!?

「うるさい、馬鹿、プロトタイプ蓄音機、工場の隣で飼われてるオウム、違う惑星の自然現象、アオカリプティックサウンド、壊れた餅つき機のサンプリングボイス、こうかがばつぐんだった時のいやなおと、ガラスで出来た剣の鍔競り合い、可聴域に調整されたP波」

 ここまで多彩な例えで貶されると、もはやなんだか褒められてすら感じるねぇ!

 くそー! 今に見てなよ! 特訓して魅惑のビブラートで、AI採点100点取ってみせるからさぁ!

「だから俺が教える前に外で歌うなって言ってるだろ。てか考えなしのビブラートは無駄だからやめろ。そもそもさ、青海はべつに声が悪いワケじゃないんだから、むしろわりと良い声してるんだから、後は技術と練習なんだよ。どうせぼっちだったからカラオケもほぼ行った事ないんだろ? こっちの世界は娯楽が少ないからな、暇つぶしにはちょうどいい。街の外に出りゃ歌の練習くらいし放題だし、帰ったらまずはそっちから着手して……」

 

 なんでもない話をしながら、立ち上がった僕と彼はみんなの下へと歩み始める。

 ふと見れば、彼が手に持つ剣は、銀から青銅へと、再びその色を変えていた。

 

 戯れに裏切って、産まれて初めて好き勝手遊んで、看破されて自棄になって……結局元の鞘へと勇者の聖剣は収まった。

 

 ま、そういうのはたいてい使い手を選ぶじゃじゃ馬って、相場が決まってるからね。

 ちょっと個性の強い人が、周囲と馴染めるように取り持つのが潤滑油の役目。

 しっかり果たさせてもらいましょうか。

 

 一足お先に合流し、さっそくみんなともめてる勇者様の横へ、僕は小走りで駆け付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「えー、さっきの見てれば分かる通り、騙してからかって遊んでました。どーもすいませんでしたぁ」

「ク、クソガキ過ぎる……! あんな模範的優等生面しといて、とんでもない本性かくしてたもんだねぇ! ホントにコイツ反省してるのかい助手クン!? ボクらにあんだけしといて責任取らずどっか行きかけた助手クン!?」

 

 "真心含有率0%な形だけの謝罪です"と、顔に書かずとも態度でしっかり分かる闇無君のおざなりな謝罪を受けて、悪王寺先輩は彼を指差しつつ僕の肩を揺さぶったし、揺さぶった勢いで頬に三回キスもされた。

 もう怒ってんだかホッとしてんだかわかんないっすね。全ての感情がメーター振り切ってる。まあイラつくもムラつくも一文字違いだし似たようなもんか。

 心配かけてごめんなさいセンパイ、もうどこにも行きませんよ。

 

「そもそも俺は操られてなかったわけで、感情煽られて敵に回った二人の方が戦犯度高いんじゃないか。魔王の手に堕ちず、結果的に計画を引っ掻き回せてるんだから」

「……立場上僕も大きな口を叩けないので反論がしにくいが、良い悪いは置いといて自由意思で寝返った奴の方が厄介な気はするぞ」

「うーん……魔王に煽られて俺の信頼裏切ったメガネの言葉は、どうも俺の心に響かないかも知れない……あだっ」

「余らのように素直に謝れんのかお前は。真に受けるなよ、知名。余から見てもコイツは一等性格が悪いし、まともに謝罪もできない分心証も同じく悪い」

 

 闇無君でもちゃんとダメージが入る力加減で頭をはたいた王城さんが、改めて信頼を裏切ったことを突き付けられ、わりとしっかりショックを受けている知名君を慰める。

 なんだかんだ関係は変わっちゃったみたいだが、しかしこうなっても変わらず良いパーティーではあるのかもな。

 

 しかし色々バレたからって、一気に正直になり過ぎだねぇ闇無君。

 まあ猫被ってない時は、素直に謝罪するタイプじゃないわな。

 莫大なプラスをもたらすからそれくらいのマイナスは許容しろ、と言外に要求している感じかね。

 彼の本音としちゃ端からず-っとそんなもんだったんだろうなとは思うが、しかしこれじゃ流石にクランとして立ち行かない。

 

 はたしてどの様な落とし所に持っていくべきかと思案しかけた瞬間、一瞬彼の視線を感じた。

 チラとこちらを一瞥した闇無君は、やれやれとでも言いたげに肩をすくめて、皮肉げに歪めた口を開く。

 

「そうは言うけどな。悪王寺先輩たちにしても、俺が敵に回っとかないと、ハーフエルフたちに取り返しがつかないことしちゃってただろ? 俺が彼女らの暴走をほとんど引き受けたから、向こうで伸びてるヤツらは半分闇に呑まれるだけで済んでる。その点で言えば、むしろ感謝して欲しいくらいだけどね」

「……それは、そうかも」

 

 思い当たる節があったのか、ヒートアップしていた悪王寺先輩は口をへの字にしながらも、伏し目がちに大人しくなった。

 刺々しかったみんなの視線も、それぞれ萎れるように力を無くしていた。

 うっ……やっぱ僕が死にかけた時は、みんなそれぞれだいぶ酷い事になってたのかぁ。

 自分のせいで大好きな人たちが落ち込んでるのめちゃめちゃ嫌だ……これからはもう死なないようにしよう……。当たり前。

 

 その暴走の副産物なのか、なんか今も手乗りサイズの目黒さんが、時々僕の襟元から顔を覗かせてるからな。服と体の間に出来た影がにょろりと形を変えると、小さな彼女がまた一人増えた。めちゃめちゃかわいい。

 影を操る事は出来たけど、生き物みたいな細かい形を作ることはできなかったもんね。なんか時折顔擦りつけたり、ヌルッと皮膚を何かが這ったりしてるんだけど、もしかして味や匂いもわかったりしてんの?

 本人もその度にプルプル震えてるが、バレなければここまでのペッティングって人前でやっていいんでしたっけ? 最近もう分かんないんだよな、公序良俗が。

 

 みんなのできる事が増えたのは喜ばしいけれど、心を痛めての無理な成長は健全じゃない。心配かけてごめんね。

 ちょいちょいと指で撫でると、小さな手が抗えない強さで僕の指先を闇へ引きずり込もうとする。しっかりバルクは本人並なんだ。群体型スタンドは最強だぞ。

 

「そうなんですか? あの時の記憶が曖昧なので、何をしていたか覚えていないのですが」

「……正親さんは本当に気を付けた方がいいぞ。なんか部屋の隅でおもむろに調合始めたかと思えば、よく分かんない紫の煙を吹き上げてたからな。即座に容器蹴とばしてブチ割ったけど、アレ結局なんの薬だったんだ?」

「覚えていないのでわかりません。ですが割れた容器からこぼれた試薬の毒性から試算するに、完成してないならあの量では世界樹は枯れないと思います」

 

 眼鏡の弦を摘まんでクイッと上げた委員長が、まったく心配には及びませんと言いたげに本当にヤバ過ぎる情報を出した。

 完成してたらその量で足りてたし、未完成でももうちょいあったら枯れてたかもしんないってコト?

 僕らは世界樹に仇成すワームを退治しに来たのであって、ワームと世界樹枯らしタイムアタックレースを競いに来たワケじゃないんだぞ。

 

 衝撃の事実を聞き僕が完全に固まっているのに気付いた委員長は、自分の失敗を知られたのが照れくさいのか、少しバツが悪そうに口を尖らせる。

 

「……心配しなくても使ってしまった素材は少量ですし、そんなに珍しい物でも無いから買い直せば済みます」

 

 どこにでもある何かを少し使っただけで世界樹枯らしかけたってコト!??!?!?!?

 みなさまがお手軽に手に入れられる範囲でできていい効能のお薬じゃないんですけど、それってレシピが世に出回ったら本当にマズくありませんか……? 変な動悸がすりゅ……。

 話を聞けば聞く程心配事のスケール感と総量が累乗されて膨らんでいってるんだけど、もう素直に委員長に殺虫剤の研究してもらった方がワーム早く駆除できるんじゃないっすかね……。

 

「いえ、なぜかこの薬だけ、これまでのバフではありえないくらい効果が増強されています。今の私では、あれらの材料からこの薬剤は作れません。……つまり青海君のバフには、まだ先が存在しているのかも知れません。あの時の事をもう一度再現する気にはなりませんが、他の方法でアプローチをしてみるのは無駄にはならないでしょう。これは検証が必要です。ボゥギフトに帰った越冬の間にやる事ができました。共に手を取り合って解明を目指しましょう」

 

 僕の懸念をよそに、我らが『県立翔葉高校 青海君の【ヒモ】能力とそれにまつわる課金や扶養の関係研究評議会』初代議長である正親さんは、文字通りぎゅっと僕の手を握り締めると、新たな研究テーマを前にモルモットへ力強く頷きかけた。

 新たな研究が降って湧いても予算をどこかへ要求したりせず、逆に議会から被検体Aへと追加予算が降りてくる世にも奇妙な唯一の集団である。

 議会の正式名称を知ってからというもの、生真面目な彼女が名刺を作って会う人全員に配り始める前に、なんとか【ヒモ】の全貌を明らかにして、彼女をこの呪われた役職から解き放たなければならないという使命感が僕の胸には宿っていた。魔王はちょっと座して待っててくれ。暇ならソリティアでもしといて。

 ……まあでも、実証実験大好き少女である委員長は、例えヒモの検証が終わっても、また新たな何かに熱を上げて、目を輝かせながら取り組むのだろう。

 モルモットで無くなった後も、その横でずっとそのお手伝いをさせてもらえるなら、たぶんそんなに幸せな事ってこの世にはないよなぁ……と、そんな風に思った。

 

 

 そうして出来上がった、頬にキスマークを何個も付けて、胸元から小さな目黒さんを溢れさせ、ぼぅっと委員長の横顔に見とれている、痴情がもつれにもつれきったバカの耳元へ、闇無君が顔を寄せて囁く。

 

「青海、お前んとこのパーティーはお前に依存し過ぎだ。何股かけるのも好きにすりゃいいが、居なくても暴走しない程度には躾けとけ。自分のせいでこの人らの評価が下がるの、お前は一番見たくないだろ」

「僕って結構吠え癖があるから、躾けはされる側なんだけどね……みんなの暴走を止めてくれてありがとう、闇無君。とんでもない借りができちゃった」

「あぁ、そうだな。お前に貸しとけば配当で生きてけそうだし、これからも気ぃ抜いたら恩売るようにするから覚悟しとけ」

 

 そんな捻くれた勇者様の頼りになるお言葉に、クランの人間関係の心配なんてのはとんだ杞憂だったと理解する。

 ほどなくしてみんなも、軽口なんかじゃ覆い隠しきれない彼の優しさを理解することだろう。潤滑油なんてほざいていた自分が馬鹿馬鹿しくて笑っちまうぜ。

 

 なんだよ、ぽたく君は需要無いとか否定しがちだけど、男のツンデレも全然良いモンじゃん。

 

 

 ……え? いやいやいや、違うって山算金。違う。マジでオチてないよ。「まさか本当に男まで入るとは思わなかった」とかじゃなくて、僕と闇無君はそういう関係じゃないから。ううん、まだとかじゃなく。

 いや、確かにそんなモノローグは入ったけど! 違くてさぁ! 僕のストライクゾーンが広いんじゃなくて、これは相手が魔球なだけだから!

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