【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
次の投稿はたぶん一週間後の予定になります。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
見つめ合う時間はそう長くならず、流れる涙を自らの指で拭った目黒さんがスッと離れてゆく。
彼女の黒髪がサラと触れる感覚があったかと思えば、僕の顔は御簾の外へと出ていた。
この空間を満たす暗闇と半ば同化するように、薄っすらと溶け消えようとしている彼女は、らしからぬ力強い言葉で僕へ告げる。
「安心、して……待っていて、ください。終わらせて、きます。私が……いえ……」
ゆっくりと左手を自身の右肩へ伸ばすと何かを掴み、バサリと翻せばその身が夜を切り出したような外套に包まれる。
指先まで通す為に漆黒の手袋が強く引かれ、ギチと音を鳴らした。
足の着く地面も無いハズなのに、磨き上げられたように鈍く光るブーツがカツンと何かを踏み締める。
いつ以来かぶりの暗夜の王が、己の領域にて顕現した。
「わ、私たちが……あなたの為に……」
伸ばされたその手が、僕の頬へ触れる。
ゆっくりと撫でるように、大きな指が僕の輪郭を這う。硬い革の感触。
けして器用とは言えない彼女の、けれどまるで誰かの心臓に触るみたいな、いつくしむように慎重な指使い。た、耽美……スパダリ過ぎる……!
以前僕を助けてくれた時も、目黒さんはこんな風にハチャメチャにカッコ良い姿になり、ヒラヒラと手を振ってくれた事を思い出す。
今もまた彼女らにおんぶにだっこ(文字通り)で助けて貰おうとしているのだから、まったく笑ってしまう程に成長の無い自分に乾いた笑いが漏れそうだ。
まあまだあれから数カ月かそこらしか経ってないので、そんな急成長を望むのは傲慢な話なのかも知れないが……。
けれど、今の僕は知っている。
あの時知らなかった貴方の穏やかな目元も、可愛らしい微笑みも、その瞳の色も。
たとえ僕自身は足踏みをしてばかりのつもりでも、僕らの関係はまっすぐに前へと歩を進めている。
ならきっと、不格好で世話焼いてもらってばかりではあれど……彼女に手を引かれて共に歩めているのだろうと、そんな風に思った。
……うん、ありがとう目黒さん。
どうか、気をつけて。みんなの無事が、僕にとって他の何よりも大事なことだから。
怪我だけはしないように、祈ってます。
「……任せ、て……ください。あなたを、悲しませは……しま、せん」
そこまで言うと、少しおどけるように彼女は小さく笑う。
「そ、それに……さっき、みたいに、魂……だけ、で……誰かの中、に、飛んでくる……で、しょう?」
あ、それはその通りで……やっぱり、いざという時に僕が力を貸せるようにはしときたいからね。
だから、目黒さんの勇姿もしっかり見届けるよ。
「……す、少し恥ずかしい……です、ね」
張り詰めていた気を緩めはしなかったが、それでもはにかむように口角を上げたのがわかった。ちゃんとお顔見せてもらったからさ。これからはより深く正確に、あなたの気持ちを推し量れるぜ。
この微笑みは、なんというか……今までの彼女には無かった、『余裕』のようなものだと思う。
きっとどんな時も感じていただろうしこりが、彼女の中で薄れて消えていくのがわかった。
その存在自体を僕は別に否定するつもりはない。どうにもできないコンプレックスも、その人を形作るアイデンティティの一つであるからだ。
抱えたひずみごと受け入れて欲しい時はあるもので、なにより大切な相手のものであれば、欠けた心の形だってみなそれぞれ愛おしいタイプなんでね。
諦念の中でうずくまるならば座って寄り添えばいいし、傷付いたならば流れる血を舐め合おう。たとえ心のどこかが欠けていても、人は生きていけるのだから。
……けれど、それが無くなって、彼女が何一つ気にせず笑えるようになったのならば、その方が僕は嬉しい。
彼女がそうなりたいと望んでいた姿になれたのは、なによりも幸福なことだ。
「じ、じゃあ、行ってき……ます……ちょっとだけ、待ってて……。……青海君、のこと、頼みます……ね」
黒髪の間から覗かせた綺麗な薄い唇を、僕の額に軽く押し当てると、そのまま彼女の姿は闇の中へ溶けるように消えていった。
目黒さんが掻き消えると同時に、再び背後から強い力で引っ張られる。
数瞬の浮遊感の後、柔らかなクッションに受け止められた身体が跳ね、跳ね返った身体が前に回された手でガッチリホールドされた。ピンボールなら多段ヒットで高得点叩き出す挙動してます。
そうして最後には、もう逃さないとでもいうように、キツめに締め上げられる。あとついでとばかりに耳も噛まれた。
「ハン、頼まれるまでもねーっつの」
──僕のした事の酷さを思えば、このくらいで済ませてくれる彼女の寛容さに感謝すべきだろう。というか本段の感謝がそもそもまだできてないからな。
状況もあったし、流れとしてどうしょうもなかったとはいえ……助けて貰っといてアイサツも無しじゃあ、人間として最低だ。
前提条件がとっくに最低な気はするが、そっちはもう挽回のしようがない。諦めや開き直りじゃなく覚悟とでも受け取って欲しいね。物は言い様だ。
「……お待たせしました、明星先輩。改めて、さっきは助けてもらって本当にありがとうございました。あの時のセンパイ、まるでヒーローみたいでしたよ」
「……ん! 先に他の女に絡んだのは業腹だが、まあ許してやるよ。オレも黒井に助けられたワケだし、それ合わせてトントンだ」
後頭部にぐりぐりと頬擦りされたかと思えば、つむじの辺りをこそばゆい感覚がくすぐる。……頭皮、吸われてない?
ちょ、先輩! 絶対そこは汗とか臭いからやめてください! は、恥ずかし……! せめてお風呂入ってから!
「いーや、ダメだ。コレは蔑ろにされ泣いてるオレの心の補給だからな。お゛あ゛ーーっ……クセになる……」
ならないでくれ、頼むから。絵面ヤバ過ぎますよ。
自分がどんなお願いもホイホイ喜んで応えたくなっちゃうタチな自覚があるだけに、みんなが世間一般で受け入れられにくい嗜好に目覚めかけたら、矛先を別の場所へ誘導する事も必要なのである。これホントに異世界転移した先でやんなきゃなんない事なのか。
「……ま、これで黒井もちったぁ自分に自信持つだろ。仲間がずーっとうじうじしてちゃ、オレだってモヤモヤしちまうからよ。オレはオマエじゃねぇから、アイツに何があったかまではわかんねぇけど……なんかに縛られたまま生きてくのはツマンねーぜ」
彼女があまりにも優しい声音でそう言うものだから、僕は思わず抵抗をやめてしまう。情け深いこの人の行動に抗うのが、なんだ子供じみた反抗というか、いけないことの様に感じられたからだ。
聖女の慈悲を前にすれば、罪深い只人は己の愚行を省みずにはいられない。
なおその結果吸われるがままになった。流石にいけないことしてるのは向こうでは?
……面倒見の良いこのセンパイは、きっとずっと目黒さんの事も気にかけていたのだ。
明星先輩は、『家族』という集まりを神聖視している。
憧れの中に描かれたそれは、理想にとらわれることも無く、現実的な範疇において、ただ幸福を目指し己を土台として組み上げられている。
現実に叩きのめされた故にリアリストでありながら、生来根差した気質として他人の為に自らを差し出す事に躊躇が無い。
僕らの関係が他者から見ればどれだけ歪んだ形をしていようと、そこに真剣な想いがあるのならば赦し、自分が犠牲となって礎になることを厭わなかった……その果てにあるのが、転移当初の背負う事に疲れきったあの姿なのだろう。
幸せにならなければならない人だ。
僕なんかに対し彼女はそう評したけれど、彼女こそそうならなければならない人なのだ。
本当はもっと真っ当で当たり前の家族を作れていただろうに、意味不明な状況でヒモに引っかかり、こんな目に遭っていしまっているのがひどく心苦しい。
だからこそ僕は、どんな手を使ってでもこの人を幸せにしたい。
しなければならないのではない。幸福にならねばならない彼女を、そうしてみせるのだ。
「あんだけタッパあんだからよォ、もっとシャンとしてりゃ似合う服いっぱいあると思うんだよな~。アイツあの黒装束以外、ほとんど服持ってねーんだぜ? 髪型はコダワリあんなら好きにしてりゃ良いけど、ちともったいねーよなァ。だから今度オレと悪王寺で服見繕ってやるつもりなんだよ。オメーもそん時ゃ来いよなぁ、アオが褒めりゃこれからも着るだろーぜ、ケケ」
抱えた男の耳たぶを吸いながら、魔力枯渇状態特有のフワフワした様子でこれからの話をする彼女に、僕は決意を新たにするのだった。
差し当たりボゥギフトに帰ったら、噂で聞いた魔導駆動機を本格的に探してみるか。バイク乗りたがってたからな、似たようなもんでも無聊の慰めにゃなるだろう。
髪染めは既にエルフさんに相談済みで、そっちも帰るまでに用意してもらえそうだし。
「っと、そろそろオメェ向こう見に行かなきゃか……なァ、魂だけで行くって事はよォ。アオの身体はココ残って、その間意識ねンだよな?」
? まあ、ハイ、そっすね。
センパイにヒマさせちゃうというか、お相手出来ないのは申し訳……いや、待てよ。
「うし! わかった! オメェの身体はオレがちゃんと面倒見ててやっから、存分にバフ撒いてこい! 任せとけ!」
……ま、まあ、センパイになら何されても良いし、かまへんか。
本音を言えば意識ある時に全部受け止めたいけど、そこまで求めるのは贅沢ってもんだよな。
まだ僕が中に入ってるのに、さっそく服の下へ手を潜らせ直接腹部を揉み始めた彼女を尻目に、お言葉に甘えて暗闇の外へ飛び出すのだった。
■
一瞬視界がホワイトアウトし、気づけば僕は再び先生の中に居た。
車も行き来できそうな程に巨大な枝の上で、彼女らはボスワームと戦っていた。
下を見れば目も眩みそうな高さで、大森林の向こう遠く彼方に地平線が見える。空があまりにも近く、僅かに黒みがかっていた。もしかすれば、空気も少し薄いのかもしれない。
言うまでもなく落ちれば無事に済みそうもないが、しかしそれはボスワームにしても同じ事だろう。突進を主体にしていた攻撃は、噛みつきや尻尾の振り回しに限定されている。
そしてなにより……万が一があれば、僕らの方は助けてくれる人たちがいる。眼下に小さく見える、ベルフィエッテさんが集めてくれたらしきエルフの集団。彼らの精霊魔法の力を、僕らは既に知っている。
「ッ、無事でなにより! すぐに削り切っちゃうから、ポップコーンでも食べながら観戦しててちょうだい!」
事前に今から行く事は脳内通信で伝えてあった先生が、動揺することなく僕を受け入れ、噛み付こうと迫るボスワームの顔面へ鉾を全力で投擲した。
ドガンと鉾とは思えぬ衝突音を立て、棘だらけの醜悪な顔が殴られたように弾けとぶ。そのまま落下してゆく武器を、繋がった銀の鎖で即座に引き戻し、再び砲台のように絶え間なく投擲。
その度に数メートルはある頭部が左右へ大きく仰け反る様は、まるで巨人に拳で乱打されているかのようだ。
「おーおー、すごいな……これやられてたら、俺も普通に対処できなかったかも」
「生徒にッ、こんな事ッ、やるわきゃッ、ないでしょうがッ!」
一斬り毎に着実に手傷を増やす闇無君の呟きに、先生が手を止めず薄く笑って返した。
殴られ斬られるままのワームの動きは精彩を欠いている。
自身が権能にて支配するダンジョンから叩き出されて、溢れ出る魔力による補助が無くなり、巨体を持て余し始めているのだ。
元より魔王によって改造されたその身は、尋常な環境では十全に機能しないのだろう。
皮肉にも、寄生して枯死させようとしている世界樹と同じ末路を、彼の虫は辿ろうとしている。
だがそれでも、目の前の敵は紛れもなく魔王の恩寵を受ける、この異世界でも屈指の怪物であった。
表皮の被膜を操作し滑るように後退したボスワームは、鎌首をもたげて全身の筋肉を蠕動させ、奇怪な擦過音を立てる。
次の瞬間、先生が大きく反らした顔の真横を、何かが通過した。
樹皮に刺さったソレは、透明な膜に覆われた棘。そういう事もできんのかよ……!
続けざまに射出された数本の棘を、先生はバク転して躱す。
知名君へと飛来した一本は、その前に躍り出た王城さんの人差し指と中指にて受け止められた。に、二指真空把!?
事も無げに摘んだ棘をペン回しのように手中で転がしながら、彼女はかんらかんらと傲岸に笑う。
「フハハ、ナメるでないぞイモムシ。なんの為に後衛の前に余が居ると思う。余は万夫不当の城壁である。余の背後に、この程度の飛箭が届く事はあり得ない」
過剰とも取れる自負に溢れたその不敵な表情は、絶大な実力に裏打ちされた本物の強者にのみ許されたものだ。
戦闘時は常に最前列に近いポジションを維持する彼女の後ろへ、敵がその手を届かせた事はこれまで一度たりとも無い。
「そしてまた余は極めて律儀でもある。王たる者、返礼は欠かさない。それが例え敵であろうと」
くるくると手の内で回っていた棘の切っ先が、ボスワームの方を向いた瞬間。
デコピンでもするみたいに、親指と中指の先にて矢がつがえられる。
彼女の右前腕部が爆発的な力みに膨れ上がり、コンクリートに鉄球がブチ当たったような轟音をたてて
「──城壁からは、矢が飛んでくるものであろう?」
放たれた棘はワームの眉間に深く突き刺さり、けたたましい鳴き声が上がる。
手痛い反撃に気を悪くしたか、ブヨブヨと弛んだ身体が一際大きくブルリと震えた。
嫌な予感がする。なんていうか、ゲームのボスが発狂モード入ったみたいな……。
その予感が的中した事を示すように、ワームは力を込めるように縮こまると、全身の棘が奇妙に揺れた。ちょ、ヤバ……。
あまりにもわかりやすい予備動作。逃げ場のない樹上にて、無慈悲にも行われようとする全方位攻撃に、四人それぞれができる限りの防御を固めようとし──足元から湧き上がる、煙のような影に包まれた。
『宵の口』
樹皮を猛烈な棘の雨が叩く音が響くと同時、人のものではない絶叫が轟いた。
瞬く間に影が霧散すると、自身が放ったはずの棘に塗れたボスワームが、聞き苦しい悲鳴を上げ身をよじっている。
察するに先生たちを覆った影が飛翔物を吸い込み、別の場所に湧いた影の中から勢いそのまま放出した……のではないだろうか。
……それつまりはワープって事じゃないすか? なんか宇宙規模のとんでもない事を軽くやってのけてない……?
「素晴らしい! 今のは流石に余の手が足りんかったのでな!」
薄暗い煙の中から姿を現した目黒さんは、そんな賞賛に対して照れくさそうに両手を振った。
今や太陽の下であっても、彼女は闇を自在に操れている。
これまで光の中で影を出せなかったのは、彼女が光を受け入れていなかったから……
そもそも以前垣間見た彼女の心中には、太陽のように光り輝くモノと影が同時に存在していた。こうなるだけの素地が、最初から目黒さんの中にはあったのだ。
なのにこれまでそれが出来ていなかったのは、その心の中心を占ているソレと自分とでは、釣り合いが取れないと彼女が思いこんでいたからである。
高身長暗夜の王スパダリになっといてなにもそんな卑屈にならんでも……と思わないでもないが、自認と他の人からどう見えるかはまったく別の話だからな。
けれど今、それをある程度克服できたからこそ、彼女は光の中でも闇を現出させ得る真なる暗夜の王になれたワケだ。
僕らの天職なる力は、その心に由来している部分が大きい。
であれば彼女が一歩前に進めたのなら、それに呼応して力が強さを増すのは当たり前の事なのかも知れなかった。(む? という事は僕がヒモに相応しい心の持ち主ということになってしまわないか……?(不都合な真実に気付いてしまった僕は、後日河原で身元不明の遺体として見つかるのだった(大アオミンわんにゃん帝国の闇は深い……)))
この大規模なカウンター攻撃にて、趨勢は大きくこちらへ傾くかと思われたが、しかしワームの規格外な防御は未だ健在であった。
むしろ全ての余力を注ぎ込んだかのように、身に纏った被膜は刻一刻とその厚みを増してゆく。
過剰な攻撃力は無意味であるが、しかし過剰な防御力さえあればどれだけ相手に与えるダメージが少なかろうと、いつかは敵を打ち破れる。
矮小な二足歩行の餌ではなく、ある程度の損耗を覚悟して戦う難敵でもなく、自らの持ちうる全てを費やして戦わねばならない天敵であると、奴がこちらを認識したのであろう。ずいぶん遅い判断ではあるが、今更であろうとやる気を出されちゃ困るのは間違いない。
確実にヤツの表皮を斬り裂いていた剣が弾かれ、お返しとばかりに振るわれる尻尾を受け流した闇無君が舌打ちをする。
いくらこちらは目立った怪我人が無く、むこうは小さな傷だらけとはいえ、スタミナ勝負になってしまうと分が悪いのはこちらだった。
「『獄炎鉄牙』・『魔術付与:
状態異常に強く振った魔術を、連続で行使していた知名君の詠唱が途中で止まる。
見れば、度重なる酷使からか、彼が掲げる杖に大きな亀裂が入っていた。その隙間からは青い光が漏れ、今にも砕け散りそうな様子だ。
「クソっ、こんな事なら到着早々買い換えておくべきだった。神もあんな本だけでは無く、壊れない杖くらいサービスしてもよいものを……! こちらではあまり大きな魔術には耐えきれんが、止むをえまい」
苛立ちながらも彼が予備らしき小さな杖を懐から取り出すのを見て、僕の中で何かが引っかかった。
すんません先生! ちょっと忘れ物したんで抜けます!
「へ?」/「おわ、どした?」
返答を待たず彼女の脳内から肉体へと舞い戻った僕は、驚く先輩に一言謝ると脱げた上着とズボンを着なおす時間も惜しみ、隣に置いてある鞄を漁る。
整理はしてあるが使用頻度順だから、あんなもん一番下だぞ……! えぇいこれでもないあれでもない!
往年のタヌキ型ロボットばりに中身をバラ撒きながら掘り進め、かなり奥の方に眠っていたソレをようやく見つけ出した。
ごめん目黒さん、知名君の近くに繋いでもらえる!?
即座に脳内通信でこの空間の主にメッセを飛ばすと、瞬時に僕の手元の影が薄まって外の景色が透けて見えるようになった。
そこに上半身を突っ込むと、知名君の真横にぬるっと僕の上半身が無からまろび出る。どういう絵面だよ。
「うぉわっ!? 驚かすな、馬鹿者! ……なんでお前上裸なんだ?」
いやごめん、でもマジで急ぎだったから! 良ければコレ使って!
そうして僕が、手触りの良い上等な布袋から出して手渡したのは、ガラスのように透明な杖だった。
怪訝な顔をして受け取った彼の手の中で、透けて見える内部に青い光が満ち、淡く輝いている。
「これ、は……」
元々は僕らが倒した魔王の走狗が使ってたのなんだけど、明星先輩が浄化して教会でも聖別され危険性は無いとお墨付き貰ってるヤツ。
魔術に精通した大司教曰く、自身でもその力を引き出しきれない業物との事でさ……きっと君なら、使いこなせると思うんだ。
おっと、邪魔にならない内に引っ込むね。何もできなくて申し訳ないけど、どうかみんなを頼みます。
会話中に下半身が軽く何度か引っ張られるのがわかった。
あんま長く外に出たら危ねぇぞと、先輩が心配しているのだろう。
「いや、待て……施しは受けん主義だ。取っておいてくれ」
そうして中空に開いた穴の中へ、チンアナゴの如く引っ込もうとした僕の手に、強い力で何かがねじ込まれ……そのままきゅぽんと影の空間へ引っ張り戻された。
「コラ、あんま生身で外出るんじゃねぇ。まったくオメーはすーぐあぶねぇ事すッから、目ぇ離せねぇなァ。コッソリ宿抜け出したりしねぇ様に見張っとけるか、今から心配だぜ。……で、大事なもんは渡せたか?」
あ、ハイ、ごめんなさい。大丈夫です、渡せました渡せました……てか、センパイの中でも軟禁は確定なんすね。まあ良いんですけど。
ただなんか、代わりに渡されて……。
そう言って手を開けば、そこには銀貨が十枚程度入った革袋があった。
おっとぉ~……? こ、これは正当な取引の対価な気もするが~……?
しかし僕に内在した職能はこれを立派な"扶養"と判断。
おそるおそる手のひらから視線を下げた先で、彼と繋がる黄金色のオーラがこれまでの比ではない輝きを放つのであった。
試しにと銀貨一枚貰った時のソレとは違う、もう言い逃れができないレベルの繋がりを彼と感じる。完璧に元恋敵のヒモになっちゃったねぇ……。
戦闘後に知名君へなんと謝ればいいのかという難問には、流石の僕の中に宿る【ヒモ】も答えてはくれないのだった。