【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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次回は25日の21時にお知らせと番外編の更新があります。
本編は変わらず一週間後予定。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。



【131】 天上の雫

 「ヤバい薬と聖なる力のヒモパワー煮込み」という、バベルの塔よりむしろこっちに神の怒りが向きそうなクックパッドにも未だレシピの載ってない劇物を、繊細な火加減でじっくりコトコト煮込んでいる委員長の下へ、山算金が何かを持ってやって来た。

 革手袋を付けたその手には、ぞるぞると僅かに蠢いている黒い球が握られている。

 

「はいはい、たいへんお待たせいたしました。どうせコレ、必要になりますでしょう?」

「ボスワームの魔核ですね、助かりました。最後の工程で浄化してもらったこれを削り入れますので。毒を反転させ薬と成すのが薬学ですから」

 良いめのイタリア料理屋? 毒裏返させるのはどっちかっつーと中華薬膳感あるけどね。

 まさかイモムシ君も、自分がストップって言うまでかけてくれるチーズみたいな末路を辿るとは思ってもみなかっただろうな。

 凄まじい尊厳破壊な気がするけれど……他人様の尊厳を虫食いにした報いとしちゃ上等か。

 とか言うてる内に、明星先輩が手を組んだままピッと人差し指だけ動かして光線を飛ばすと、瞬く間に不吉な呪物は光る水晶玉と化した。こうなりゃボス敵の尊厳もクソもねぇな。

 

 

「こういう場合、ボスエネミーのドロップアイテム使うってのが定番らしいですからねぇ。……そう使うのは予想外でしたが、まあ概ね合っていたようでなによりです」

 ほぁー……流石は天才商人。

 あんまりその手のサブカル触れてないみたいな話だったのに、よくそんなとこまで気を回せるねぇ。

 

 用事は終わりとばかりに僕の隣に並んだ彼女へ、素直な賞賛が口をついて出た。

 天性の察しの良さというものは、未履修範囲までカバーしてしまうのか。もしかして苦手科目とかお持ちでない?

 数学英語生物日本史全て赤点だったあの頃の僕が、あまりのキャラパワーの差に泣いてるぞ。

 実は僕以外の人って人生の課金DLC買ってたりしませんよね?

 

「いえいえ、流石に趣味でもなかったジャンルのテンプレなんてわかりませんよ。いくら周囲におだてられようと囃し立てられようと、私だって単なる一人の人間ですからねぇ」

 へ? でも現に今先んじて魔核を取りに行ってたじゃんね。

「えぇ、えぇ、そうですねぇ。だって、それがテンプレートなんですよねぇ?」

 ま、まあテンプレって程じゃないけど、たしかに言われれば納得する程度にはありそうな話っつーか。

 ドタバタしてたからそこまで気ぃ回んなかったけど、後から考えればいかにもだなって。

「青海先輩はそんな風に思っている──ですよね?」

 ……えっと、うん、その……さ、山算金……?

 

 

 そう言いながら僕をジッと見つめる山算金の光の消えた瞳は、まるで揺れる水面のように見通せない。

 いや、先が見えないのではなく……『見られて』いる。

 

「先輩がそんな風に"仰った"ので、不肖小金井山算金が先回りして取りに行ったワケです」

 

 

 目から光を無くした彼女が、誇らしそうに胸を張る。

 言いつけを守った子供のように、言われた芸ができた飼い犬のように。

 自らが言われた事に必ず従う従順さを持ち、なおかつそれを必ず達成する能力があると誇示する忠実さは、もはや国をまたいだ大商いを行っている商会の会頭とは思えぬ振る舞いだ。

 

 けれど僕は彼女にそんなこと、一言たりとも言っていない。

 ならば彼女の言う『青海先輩』とは、僕自身のことではないのだろう。

 ……なんか、あんまり良くない流れでは無いですか?

 

 

「先輩の命が危ぶまれた時、非力な私には何もできませんでした。貴方の鼓動がどこかで弱まるのを感じる度、私が感じられる上限一杯の焦燥感に追われ目眩がした。何をすればいいかわからない、どうしたらいいか教えて欲しい……誰かに導いてもらいたいなんて、心底思ってしまったんです。この私、小金井山算金がですよ? 生まれてこの方あそこまでの無力感に苛まれたのは初めてで──気が、狂いそうだった」

 

 少女の口から語られる狂気のいたわしさに、心が苦しくなる。

 今もなおその時の事をありありと思い出せるのか握られた手が震えていたので、そっと自らの手を重ね合わせた。

 

「そんな時、こう思ったのです……『先輩なら、どうしただろうか?』。誰かの為に自らの命を惜しげもなく手放せるあの人なら……こんな時にも、起死回生の一手を思いついたのではないか」

 

 ンなワケない。

 ンなワケはないのだが……それは、彼女が生まれて初めて誰かに抱く"期待"。

 若くして成功者になり極まりきった自信の中に湧いた、たった一滴の"信仰"だった。

 

 実際のとこ「そいつは山算金よりよっぽど無力なので、たぶん解決策なんて一つも思いつかなかったですよ」と言いたくはあれど……どうしようもない時、そこに居ない誰かにすがりたくなるのは人の性だ。

 自身の力が及ばぬ大いなる流れを前にして、人は「なんとかしてくれ」と願わずにはいられない。

 そんな時に浮かび上がるのは、意識の深層にて心底信じられる『何か』である。

 その対象が僕である事は面映ゆくもあり、また申し訳なくもあるのだが。

 とどのつまり、うっすらと見えてきたこの話の行き着く先は──。

 

 

「その瞬間、私の中に『先輩』が居た」

 

 揺らめく瞳の奥、彼女の中の『僕』と目が合った。

 

 ……やっぱり? マジ?

 

 

「追い詰められ爆発寸前まで膨れ上がった私の思考能力が、『青海 蒼』を再現してみせたのです。『あなた』はココで私に様々な事を教えてくれる。最初はいささか戸惑いましたが、そうやって私の知らない事を教わる度に嬉しさが込み上げるのです。……ようやく私も、貴方の傍に立つ権利をちゃんと得たような気がするから。『彼』が私の知らぬ事を知っている以上、それは私が都合良く作り出した妄想ではなく、観察による他者への理解の果てに組み上げられた虚像に他ならない。つまり先輩が普段しているのと同じ事が、私にもできるようになった」

 

 「ココ」と言いながら胸の中心をトントンと指先で叩く山算金の表情は、どこか陶然としている。

 湧き上がる歓びに酔いしれているような、上気した頬が愛らしい。

 

 未だに誰かに愛されるには権利がいると思っちゃってる辺り、分相応な人一倍の自信を搭載した堅固な人間性しときながらも、愛というものにあまりの高値を付けてしまっているとこが垣間見えて、権利なんてものはいらないんだよと言ってあげたくなる。

 

「自身が知らない事に対しても、『彼ならこう言うのではないか』と思考をトレースして反応する、現実の写し絵を胸に宿してみせる。それはこと人読みについて、私の遙か先を歩む青海先輩に追随するための第一歩足り得るでしょう。誰も彼もを理解してしまう先輩の隣に立つなら、愛するたった一人くらい自らの中で再現してみせないでどうするか。なにもできぬ小娘が、素知らぬ顔でアナタの愛をせしめようなどという厚顔無恥は……他の誰でもなく、私自身が我慢ならなかった」

 

 色々とツッコミどころもあるが、それらは一旦置いとくとして……。

 つまるところヒモ一人じゃ飽き足らず、頭ン中でおんなじヤツの幻をもう一匹飼ってるっつーことだよね?

 や、やめた方がいい……マジで心配になるから……。

 てか多頭飼い希望者どころか実践組がもう出てきてんの? 願望出てから実装までが早過ぎる。

 このダイレクト終了後に配信予定とかじゃなく、クエストが終わる前に無から発生した僕を飼育するのはバグ技だろ。

 

 いやいや、勘弁してくれよ。大好きな人と見つめ合ってる時に、鏡合わせで間の抜けた小男見せられたらたまったもんじゃないぜ。

 頼むから良い雰囲気になったら空気読んで引っ込んどいてくれよな。 

 

「ま、とはいえ私は先輩程の度量を持ちえませんで、愛するたった一人で精一杯ですが……これでも安い女じゃあありませんから、もとより何人も招き入れるつもりは御座いません。私の心に住まわせられるのは、後にも先にも先輩ただ一人だけですよぅ。……おや、おや、おや、それはなにより。特等席からの見晴らしは気に入っていただけたようで、一安心といったところでしょうか」

 

 彼女の中で組み上げられた僕が返す回答に満足したのか。

 ハイライトのレイヤーを消したまま結合しちゃってる笑顔で、山算金は満足気に頷くのだった。

 

 

 いや〜、どうかなぁ……。

 そりゃ山算金の心の席はクッションフカフカな高級品だろうし座り心地はバツグンに良さそうだけど、今ソイツに見えてる光景に関しちゃ同じ顔したバカがポケッとこっち見てるワンショットなワケでしょお?

 それで見晴らし良好たぁ、僕と同じ美的センスしてるとはあんま思えないけどねぇ。

 

 つまり彼女の中の僕は、彼女の心に引っ張られている。

 自身の好みというバイアスに僅かに歪められた姿で映ってる、って感じかな。

 きっと屏風からその『もう一人の僕』を出したところで、僕とはどこかズレた別人が現れるのだろう。

 ……でもまあ、それはそれでいいのかも知れない。

 

 僕の考えそうな事を先回りできたのは本当なのだから、それはつまり自分とは異なる視点を手に入れたということである。

 「人の気持ちになって考えましょう」と教えられてきた僕らが、ちょいとそれを発展させたに過ぎないワケだ。

 そもそも僕だってこれまで誰かを心の中に作り上げてきた際に、その虚像が対象の人物の完璧な相似であるという保証はどこにもなかった。

 根本的な大前提として、頭の中で完璧に誰かを再現できるハズがないのだ。

 「みんな違ってみんないい」とも言うし、頭に飼ってる僕をどんなハイスペなメロい男に仕立て上げるのも個々人の自由っつーコト。

 ただそんな妄想の『スーパー青海君』と現実のヒモカスとの落差に愛想尽かされたら流石に泣いちゃうかもしれないんで、ちょっとだけ手を打たせてもらおう。

 

 他人ならともかく、自分に恋人NTRれてたまるかよ。

 

「うーん、でも僕が山算金にかけたかった言葉を先取りされて楽しげに話されたら、君の中の僕に嫉妬しちゃうかもしれないや。……そんなヤツから切り離して、君を独占したくなる」

「……ンフフフフ、センパイは流石ですねぇ。私が考えたアナタでは思いつかない、もっと嬉しい事を言ってくださいます」

 

 他者理解が僕だけの特権ではないのと同じように、言うまでもなくハイライトオフもそっちだけの特権じゃねぇ。

 全然ヤンデレの気質がある僕も即座に目から光を無くし彼女の中の『自分』に嫉妬して高重力を纏うと、彼女の病み力場とぶつかりあって格闘漫画で強者同士が相対した時のように空間が歪む事となった。

 こっちだって気ぃ使って重くなり過ぎないように感情絞ってんだから、そっちがその気なら僕も蛇口緩めて極彩色した原液をドバドバ放出してゆくぞ。

 

 

 ウチのパーティーは傾向的に監禁とか束縛とかに寄りがちだが、僕はどちらかといえば相手の全てをわかりたいタイプの病み方だ。スタンドも遠隔操作型非生物タイプだろうな、ほんで変化系。

 いやね、隠しカメラでずっと監視したいとかでは全然なくて、どちらかっつーと相手が何に対してどう思ってるかを理解しておきたい……というよりはむしろ、ついつい全部わかろうとしちゃうって感じかな。

「あー、青海先輩たしかにそういうとこありますねぇ。と言いますか、そういうとこしか無いですよね」

 そうなんだよねぇ〜。

 僕って結構みんなが許してるから許されてるだけの、原罪的ヤンデレを保有してる不審者予備軍なんじゃないかとは薄々わかっててさぁ。

 でもみんな多少のクセくらいあって当然だしね?

 それぞれの欲しいとこと譲れるとこを干渉させて、おさまる形を探していくのが丸いやり方だと思うわけよ。

「……確かに仰る通りですねぇ。それじゃあ私の中の『先輩』には、次なるピンチまでは眠っておいてもらいますか」

 うん、ごめんね?

 僕のわがままを聞いてもらった分、山算金のお願いもできるだけ叶えていくようにするからさ。

「おっと、言質は頂きましたからねぇ? フフン、楽しみがまた一つ増えてしまいました。ゆっくりと考えておきますよぅ」

 

 

 にまにまと悪だくみするように笑う山算金の瞳には、再び光が戻っている。

 同じ熱量で愛することにより安堵感が生まれ、彼女のヤンデレ属性が薄まったのを感じとると、僕もそれに合わせて開け放っていた蛇口を再び絞ってゆく。

 たいていの人間は情緒のバランスを安定させれば、感情の放出も均衡がとれるようになっているからな。

 そして揺れている船を安定させるには、適度な荷重をかければいいのだ。

 

 

 突如始まったスーパーヤンデレ大戦εを後ろから見ていた闇無君が、終息したのを確認してからコソコソと近付いて耳打ちしてくる。

 

「……なんか、お前の周囲かなり振り切れてきてないか? 【病み】の方に」

 えぇ、そうかなぁ?

 世間一般の恋人たちもこんなもんなんじゃない? ほら、確か結婚式でも似たようなこと言うじゃん。

「バカ。健やかなる時も病める時もってのは、健全なのもヤンデレなのも大好きみたいな意味じゃないんだよ」

 いやいや案外そうとも言い切れないよ。

 なんせこの世界の天使様は、特殊な嗜好に理解があるからね。

「マジ? とんでもないトコに飛ばされちゃったな……世界運営側に特殊性癖持ちが紛れ込むの、環境型セクハラの最終形態みたいなもんだろ」

 一理あるね。ただあったところで僕らには訴え出る場所も無いんだけど。

「ここは本当に救わなきゃいけない世界なのか……?」

 

 

 

 ■

 

 

 

 出番のない僕らが小声でコソコソと会話をしている間にも、委員長による錬金術と薬剤の反応は続いていた。

 改めて見やれば、なんだか釜の中味の発光が頻繁になってきた気がすんね。

 爆発のカウントダウンみてぇでたいへん怖いが、多分これは完成間近と見ていいのだろう。

 ……いいんだよね?

 ここばっかりは楽観的な視点で行かせてくれよ。

 流石にファンブって救うはずの世界樹やエルフの里もろとも大爆発する可能性は考えたくないぜ。面白TRPGリプレイ動画として投稿するハメになっちまう。

 

「ん? んー……なんか足んねぇな、コレ」

 

 しかしそんな僕の願いも虚しく、両手を組んで祈り続けていた先輩は突然不穏なことを呟いた。

 え、マ、マジすか!? やっば爆発するの!?

 あ、じゃあ足りないならなんか取ってきますよ! えっとなんだろ、ボスワームの紅玉とかですか!? なら激運付けてからもう一匹ボスワーム探しに……オワッ。

 

 「やっぱ大爆発すんのかよ!」と、薄々予想していた最悪のシナリオが突如現実味を帯びた事にビビり散らかした僕が、メタキンばりにレアモンスターであろうボスワームと再びエンカする為走り出そうとして──

 首根っこを先輩にガシリと掴まれ、軽々と持ち上げられるとそのまま唇を奪われた。

 

 またこのパターン????

 

 魔力枯渇酔いが抜けていない先輩は本当に容赦が無く、僕らの旅路がゲーム化される際のCEROが一気にDまで跳ね上がった。

 今日一の吹っ切れた濃厚接触に、僕の中の初心なねんねメーターがバチコンと一気に振り切れ、端っこの「MAX!!」と書かれた赤い目盛りの上で針が踊り狂う。普通に鼻血も出ちゃったぞ。

 せ、先輩、せめて続きはfanboxで……!

 

 最近はみんなの触れ合いがどんどん過激化して法の目を掻い潜るレベルになってきてっから、ほとんど毎回メーター振り切れちゃうんだよな。もはや狼少年みたいになってきてんのよ。

 しかし狼少年は嘘をついてはいけないという寓話であって、毎回初心なねんねたる僕が彼女らの驚くべき豪胆な振る舞いに翻弄されているのはホントの話だろ。狼がどんどんデカく強くなってってるだけで、狼には毎回食われてんの!

 このままじゃいつかみんなの感覚が麻痺して、公衆の面前で凄まじい不道徳が行われてしまう可能性がある。

 いくら国を滅ぼさんとする魔王の走狗は倒してても、正式な手続きを踏んで発行された令状を手にした行政機関が宿を訪れたら旅の終わりが来ちまうよ。

 

 しかしその甲斐あってか、普段は丹田を介したオーラの繋がりからみなへ流れ込む何かが、明確に接触した部位から先輩へと流れ込んでいくのを感じる。

 なんの甲斐あってだよ。べつにイチャつくことってヒモと直接的な関係なくないですか?

 

「ほれ、イインチョーもだろ」

 

 きっかり一分間貪られて垂れた鼻血も舐められた後、グルンと逆の方向を向けられて着地したかと思えば、待っていましたとばかりに両頬をピタッとした感触が覆う。

 スライムゴム手で僕の顔を包んだ委員長が、なんの躊躇いもなく先輩に続いた。

 こちらでもまた、希釈されていない力の源がそのまま彼女へと注がれてゆく感覚がある。

 

 ……もしかして度重なる強引なバフ盛り行為によって、コレが正当な強化手段の発展系として天職に誤認されてきてないか?

 このままだと毎回ボス戦前のセーブポイントでみんなとキスする事になっちまわない?

 ダンジョンをなんだと思ってるんだよ。ダンジョンマスターにキレられて出禁くらっちまうだろ。

 

 ガチ恋距離を超えて視界の殆どが委員長で埋め尽くされる中、ギリ見える場所で知名君が自身に目潰しをしているのが見えた。見えるとこでここまでやってしまうのは本当に申し訳なく……いつか闇無君や知名君ともコレやることにはなんねぇよな?

 僕にそっちの気は無いぞ、養われるだけでギリギリなんだから。

 いや養われるのも本来全然余裕でアウトなんだけど。

 

 

「……なるほど、確かに。これが無ければ、この薬は完成しなかったやも知れません」

 

 一分と数秒後、顔を離し自身の口元をツゥと指で拭った彼女が、逆の手で取った例の劇薬を大窯へと数滴垂らし入れると、釜から凄まじい白煙が上がった。

 激しい反応を繰り返す釜の中の中味が色とりどりに発光し、噴き上げられる煙が翡翠や真紅へと目まぐるしく色を変えてゆく。

 錬金術ってこんなガチャの激レア演出みたいな反応すんの? なんだか現代日本人として不思議な親近感が湧いてくるな。

 UR(ウルトラレア)の排出率はどんくらいなのかが気になるとこだ。

 プラットフォームが表示義務付けてないからと提供割合誤魔化されてたら、僕あと何回公開キスすることになるかわからんぞ。

 

「では、仕上げです」

 

 そうして彼女は宣言通り、浄化されて光り輝く珠となった魔核を削り入れる。

 すると、まるで天を貫くサーチライトのような光が釜から放たれ、周囲の全員から驚いたような声が上がった。

 その光も徐々に収まってゆき……最後にポンッと小さな煙を吐くと、まるで何事も無かったかのように、澄んだ緑色の液体だけが釜の中に残されていた。

 

 

 委員長はそれを手慣れた様子で一匙掬うとおもむろに一舐めしたので、流れるように僕も死ぬほど驚くこととなった。絶ッッッッ対舐めて良いもんじゃないでしょ。

 

「……ちょっと甘みが足りませんね。もう少し砂糖を入れるべきでしたでしょうか?」 

「ウチも! ウチも一舐めしたいっす!!」

「……たぶん、正親さん、以外……舐めちゃ、ダメなヤツ……だと、思い、ます」

 

 餌を前にしたわんこの如きテンションで突撃しようとする鹿野ちゃんが、目黒さんによりヒョイと持ち上げられる。

 ぐるぐると回る彼女の小さな手足が猛烈に空を切ると、業務用の扇風機を前にしたみたいな暴風が僕の顔を叩き撮れ高を作り出した。ワイプでひな壇にややウケされる変顔を晒させないで。

 急いでオヤツ袋から取り出したドライフルーツ入りミールブロックが鹿野ちゃんの口に入れられ、荒ぶる後輩のケイデンスが徐々に下がっていく裏で、委員長は丁寧に掬い取った上澄みを容器に移し替えていた。

 彼女が持ったフラスコの中で、陽光を受けて輝く緑色の液体がちゃぽんと揺れる。

 

「どうやら、仮説は正しかったようです。植物用上位ポーション……名前はそうですね、古代の遺物につけられた前例に倣って言うと『プランテラ・エリクシル』といったところでしょうか?」

 

 バフを受けた錬金術師の製薬と、バフを受けた聖女の祈りにより、本来手が届くはずの無かった神秘へと今人類は到達したのだ。

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