【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【132】 揺籃の再誕

「おぉ……! それは、まさか!」

「神代の時代、風の方が精霊女王よりもたらされたというエリクシール!」

「なんたる量の魔素を秘めた……!」

 

 委員長の作り出した薬剤を見たエルフさんたちから、もうコテコテな驚きの声が上がる。

 

 オイオイオイオイ、ベタ過ぎる! もしかして僕らって異世界にチート持って転移してきてたりしましたっけぇ!?

 なんだかんだ今一番なろうポイント高いことやってんねぇ! 異世界に来たみてぇだ、テンション上がるなぁ〜!

 

 やっぱ長命種に驚かれて「す、凄い……!」っつわれてこそのなろう系ってとこあるからさぁ。

 まあ一つだけちょっとした問題をあげるとすれば、そんな超凄い事をやってのけたのは委員長と明星先輩であって、僕自身は周りのエルフ達からすると彼女らが突然キスしまくった謎の人物であるというくらいか。

 

 フフ……どう挽回すればいい?

 義務教育含めた10年にも及ぶこれまでの学校生活で、どの先生も『致命的なまでに社会的に詰んだ時の対処法』を一切教えてはくれなかった。

 もしかして、無いものは教えられないということですか……?

 

 ま、まあ? 僕だって本気出せばさぁ?

 魔車では風の方のスケベ衣装エルフ連峰に挟まれた状態で赤裸々に生活費をせびり、降りれば良い関係になってる大八車を引きながら周囲の女性陣にとっかえひっかえキスされ、体中から黄金のオーラや銀の鎖を放出してみせる事で見る者全てを驚愕の渦に叩き込むことも可能ではあるのだが?

 

 ……あるのだが何?

 何がしたいんだよソイツ。キャラ付けってなんでもすればいいってもんじゃないから。嫌味な金持ちキャラでももう少し控えめに生きるぞ。

 驚かせたいだけなら別にこの場で突然自爆したってそりゃエルフさんも驚くだろうけど、いくらなんでもその後に続かない単発のビックリ過ぎる。

 

 「なろう」感ある外連味が羨ましすぎてついつい競おうとした割には、普段からやってる事が意味不明過ぎて、対抗策として出せる物が使うにはノイズの多すぎる実用寄りCG集になっちゃったわ。齢十六にして生き方を見直す時期に入ってきたな。

 持ち味が死んでるっつーか、活かされた持ち味が『甘・塩・酸・旨・苦』に続く味覚の六角目とされる「死味」だったせいで、結局出てきた料理が反物質のっけ丼になり僕の人生と衝突して対消滅する始末だ。

 これまで生きてきて培ったカルマ値が、回り回ってこういうとこで分岐点を作るんだろうな。もう少し他人様に顔向けできる異世界ライフを送ろう。

 

 

 

 なろうじゃなく理不尽ギャグ漫画くらいしかできないそんな僕とは違って、キチンとした成果物で森の賢人たちを驚愕せしめ、小瓶を掲げて胸を張る委員長の鼻息はむふんと荒い。

 一見すると真剣な表情に見えるかもだが、あれは全力全開の誇らしげなドヤ顔だ。

 きっと彼女は日本にいた頃、満点の答案でも同じことをしていたのだろうな。微笑まし〜、写真に残したい。

 このままじゃ地球帰ったら、僕のサイバーウェアに刺した2TBの外付けSSDが容量いっぱいまでみんなの思い出で埋まっちまうよ。

 走馬灯で流れる用のメモリーが多すぎて、ともすれば走馬灯眺めてる間に全然余裕持って死を回避できる可能性すらある。なんなら七色の残像を残して敵の後ろに回り込む事も可能……!

 

「では、出来上がりの確認といきましょう」

 

 そうして満足するまで誇り尽くした委員長は、スンとスイッチが切り替わったみたいに踵を返して世界樹の根本へと向かっていくので、僕らもカルガモの子どもみてぇにわらわらとそれに続いた。

 

 まるで広場にすら見える程の大きな根の分け目に辿り着くと、彼女はまったく躊躇せず容器を傾け、その中身を根っこにふりかけ始める。

 ホントにまったくラグが無かった。そういうとこだよね、委員長の常人離れした強みって。

 およそほとんどの人間ならば感じそうな緊張感とは無縁で、よしんば失敗したとて「できることを試してみただけで、ダメ元なのだから仕方ないでしょう」と真顔で言ってのけることだろう。

 まったくもって大正論だが、イケるかもと言われてからご破算にされるのが人は一番堪えるからな……たとえ何があっても、僕らは彼女の味方でいなくちゃなんねぇ。

 

 

 プランテラエリクシルが、天性の錬金術師によって世界樹の根本へと注がれていく。

 その様を、ここに居並ぶ周囲の全ての面々が、固唾を飲んで見守っている。

 無意識の内に、僕の喉がごくりと鳴った。

 

 全く濁りのない、極めて透明度の高い緑の液体が、小瓶から根を伝い地面へと染み込んでゆく。

 

 ……とぽとぽと、生命の雫が流れ込む。

 

 …………まだ注いでいる。

 

 ………………な、長くない?

 

「……正親ちゃん、さっきの袋みたいにその瓶も、どこかの水道とかに繋がってたりするのかい?」

「いえ、これは単に青海君のバフがかかっていると、出来上がった薬を使う際に内容量が数倍になる現象かと思われます」

「ああ、そういう」

 

 薬が増えている事の説明にはまったくなっていない内容だったのに、悪王寺先輩はそれなら納得だとでも言うようにしたり顔で数度頷いていて引き下がった。

 ……え、理屈は? なんで悪王寺先輩もそれで理解できるんです?

 

 いやすごいな、もう行くとこまで行ってたんだ僕らの力って。

 少なくとも出来た薬と同じ体積分が無から補充されてる事になりますよ。

 とりあえずみんなで飲む土産用に買ったエルヴンアップルシードルは、今度絶対に委員長にお酌してもらうことにしよう。

 以前はそんなヒモみたいな事できるかと思っていたが、ここまで来るとそうも言ってらんない。なんせあれ銀貨2枚もすっからさぁ。

 

 

 

 ヒモの力により虚空から充填される分も含まれていると思うと、なんとなく一気に効くかどうかが怖くなってきたエリクシルだが、しかしその本質は委員長が考え抜いて創り出したものでもある。

 本人はなんの気負いもなさそうではあれど、しかし委員長がどれだけ真剣にずっとこの解決策を考え続けてきたのか、僕は知っていた。

 旅の間中ただ必死に問題の答えを模索して、ようやく見つけ出した正道だけの数式。

 

 今、その正誤が試されようとしているのだ。

 

 周りの大き過ぎる期待に比べれば、あまりにも小さな彼女の後ろ姿を見ていると、僕は自然と手を組み祈り始めてしまう。

 経験が無いからやり方は先輩の見様見真似だけど、まあ特定の神様への祈りってワケでも無いし良いだろう。

 なんというかこれは……聖女である彼女の祈祷と違って、単なる僕の"願い"でしかない。

 

 その願いはもちろん正道に向けてでもあり、エルフさん達の生まれ故郷の為でもあって、またハーフエルフさんたちの今後の為でもあるし、そしてきっと天を貫く美しい巨大樹を純粋に想ってでもあった。

 

 

 エルフさんを通して僕は、様々な恵みをこの森の自然から受けた。

 出してくれたご飯も美味しかったし、叔父さんに見せてもらった風景画は心を奪われる程に綺麗で、散歩しながら虫や鳥の声に耳を澄まして時を忘れることもあった。

 それに実際のところ、たぶんボゥギフトにいた頃でさえ、すでにこの大木の恩恵を、僕らは受けていたハズだ。

 世界樹とはこの大森林に在りながら、世界に根付いているものなのだから。

 おそらくはこの大陸、ともすれば星単位であまねく生命の循環に関わっていたと考えるのが自然だろう。

 

 僕がこちら側の世界に来てから出会った、全ての素晴らしい物事の源であるこの美しい存在が、この世から消えてしまうかもしれないという事に、僕は言葉にもできぬ程の深い悲嘆、言いしれぬ喪失感を抱いてしまう。

 魔王の陰謀を防ぐなんて事よりも、まず生きとし生ける全てのものの為にも……どうか無事に、これからもここに在り続けて欲しいと思わずにはいられない。

 

 

 丹田のあたりにある、僕に空いた穴をゆっくりと広げる。

 願いに比例して、委員長と繋がったオーラがさらに太く輝きを増し、彼女とその手の中の薬を通して、今まさに枯れかけようとしている大樹に黄金色の光が流れ込んでいく。

 

 

 結局その身に巣食った寄生虫を駆除する時も、こうしてその命を繋ぐ回復薬を作る時も、なにもできなかった無力な僕なんかが、こんなことを言うのもおこがましいかもしれないが。

 

 どうかできることならば……あなたの力に、僕はなりたい。

 

 

 まぶたを閉じて、浮かび上がるそんな気持ちで心を満たしていくと、ゆっくりと自分の中から何かが出ていくのを感じる。

 新たな場所に、繋がった感覚。

 

 ん、んん……今なんか……?

 良いことか悪いことかは分からないが、もはや慣れてきてしまったその感覚に目を開けば、頭上に影がかかっている事に気付く。 

 

 ひょいと上を見上げた僕の顔に、パサリと何かが覆い被さった。わぶ。

 手で取ってみればそれは、青々とした小さな若い葉っぱであった。

 更にその葉の上に、クルミに似た小さな木の実がぽとりと落ちてくる。おっとあぶね。

 その真横に靭やかで鞭にも見える蔦が、ぼとんと落ちてきて僕の腕を叩く。あでっ。

 

 そして間髪開けず、ドカドカドカドカドカと実や葉や蔦や樹液その他諸々が次々と降り注いだ。

 

 ちょちょちょちょなになになになになに多い多い多い多い!!!

 

 あまりの量に、すぐに僕の手からこぼれ落ちるほどに積み上がったそれらは、紛れもない世界樹の恵みであった。

 どうして急に今こんな……と思った瞬間、その答えが僕の奥底から吹き出てくる。

 きっと最初の仄かな繋がりによって、相手はその力の条件を理解したのだ。

 

 

 価値のある物が僕へと手渡された以上。

 木の実が地面へと重力に従い落ちるのと同じ世界の摂理として、僕の体から飛び出た特大の黄金のオーラが、天を貫く巨大な木の幹へと放たれる。

 

 本来人の身でありえてはならない何かと、はっきりとパスが繋がった。

 

 

 え、まさか、これ世界樹にバフが──

 

 そこまで考えて、僕の意識は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 ────また顔出すからの。

 ──ホレ、さっさと起きるんじゃよ。

 

 

 なんだか、ほんの短い夢を見ていた気がする。

 白い空間で、誰かとお話してたような……。

 思考がまとまらず、頭がぐわんぐわんする。

 

「──海君、青海君、大丈夫?」

 

 ゆっくりと肩を揺さぶられ、意識が微睡みの底から浮上してゆく。

 いつの間にか閉じていた目を開く……が、開いても真っ暗だった。あれ? もう夜?

 

 暗いし顔が暖かいし良い匂いがする。夜ってそういうもんだっけ?

 なんならズシッと重くすらあるんですが、知らねぇ内に『夜』そのものにアプデ来て、目元温め加圧機能とアロマディフューザーを標準搭載するようになったのか? めっちゃ良いじゃん。

 これは「美しい夜のアザレア」のフレグランスですか? バリ落ち着く、もっかい寝ちゃいそう。

 古今稀に見る良アプデだ、なんせ現代人はみんな眼精疲労と花粉症を抱えてっからな。

 しかし夜がそんなに便利になっちったら、アイマスク会社がのきなみ路頭に迷っちゃうぞ。

 神様のホスピタリティで逆に職を失う人も居るのだから、まったく禍福は糾える縄の如しというか……。

 

 

「あ、目が覚めたのね。急にふらっと倒れるから、先生ビックリしちゃったわ。まあ息もあったし頬も掻いたりしてたから、大丈夫だとは思ってたけど……ずっと頑張って動き回ってたから、疲れちゃってたのかしらね」

 

 寝ぼけた頭でぼんやりそんな事を考えていると、夜が真ん中から開けていき、その間から陽光とともに見知ったエルフ耳と橙色の瞳が顔を出した。

 え、天の岩戸からの景色?

 ヒモを閉じ込めるのに使うには大仰過ぎる。あれは引きこもりの話であって、監禁に使う物じゃないんですけど。

 しかし巨大な山の合間から、先生が僕を見下ろしているのはれっきとした事実だし……。

 

 

 と、そこでようやく後頭部に感じる、柔らかながらも芯にしっかりと鍛え上げられた筋肉のある感触に気付く。

 それを意識した瞬間、読み込み中のぐるぐるマークが回っていた脳がフルスロットルで動き出し、完全に目が覚めきった。

 

 あー、なるほど、名探偵の助手である僕が推理するに……そもそもこれは先生による膝枕であり、胸元の大質量が無自覚に僕を襲い、期せずしてハチャメチャえっちヘッドロックが極ってしまっているってコトですか?

 

 あまりのシチュエーションに一周回って冷静になってしまう。

 普通こんな事されたら、性癖が壊滅的にねじ曲がって知恵の輪みてぇになっちゃいますよ!

 流石は森の賢者であるエルフ、とんでもねぇ叡智を感じる秘伝の寝技だ。

 

 色々と言いたいことはあったが、どれを言っても余計なことまで口走りそうだったので、とりあえず自身に起こった事の説明をする。

 

「おはようございます。すいません、えっとなんか、世界樹との間にラインができた途端、突然ブワッと一気にいろんなのが飛び込んできて……たぶんそのせいで気絶しちゃったんだと思います」

 

 そう、世界樹とパスが繋がった瞬間、莫大な量の何かが僕へと逆流してきたのだ。

 その衝撃でバチンとヒューズが飛び、たやすく僕は意識を手放したワケである。

 

 つまり僕はついに、世界樹のヒモになっちゃったってことになるな?

 

 いやそりゃ恵みを受けてるとは言ったけど、そういう意味じゃ無くない?

 そんな歪んだ捉え方したら、全生命が星そのものに養われてはいるだろ。

 森羅万象に可能性を見い出せる言葉遊び的牽強付会なゴリ押しを、僕が能力側に働きかけるならともかく逆が勝手にすな。

 ……イエーイ、魔王クン見てる〜? 君が滅ぼそうとした世界樹なら僕の隣で寝てるよ。(涅槃)

 ご両親への挨拶は、星の核にでも行けばいいのか?

 

 

 ……まあ、そうなると気絶した理由も説明がつく。

 思えばヒモの力は、常に双方向性を持っていた。

 脳内通信が良い例だが、この繋がりは僕からバフを流し込むだけではなく、意志の疎通を可能とする。

 そしてそれは大八車のハッチーの感情がなんとなく分かったみたいに、言葉を発さないし本来思考も無いだろう無機物すら例外ではないのだから、いわんや植物であっても同じだろう。

 今回とんでもない相手と繋がってしまったが故に、質・量ともに人の受け取れるキャパを超えた何かを受信し……こうなっちゃったのだと思う。

 

 あ、つーか、まずそもそも──

 

 

「失礼します」

「わひゃっ!?」

 

 ご来光見てるみてぇな谷間越しの会話を遮って、グイッと大連峰の片側が横へ押しのけられる。

 そうしてのれんをくぐるように、質量兵器の間から委員長が僕の顔を覗き込んできた。

 

「……目が覚めたのは、先生の番でしたか」

 

 僕の顔を見た彼女は、ほんの少し残念そうな声音でそうこぼす。

 なるほどね、察しました。

 もしかしなくてもこれ交代制でやってくれてたんスね?

 マジかよ気絶してる場合じゃなさ過ぎる。

 めちゃめちゃ惜しい事しちゃったな、口の中にガラス片入れといてでも起きてりゃ良かった。

 

「オホン──それはともかく、助かりました。どうもあの感じでは、私の薬だけではギリギリのところだったようですので。……正直なところ、これはほとんど青海君がやったものみたいな気がしますが」

 

 そう言って、彼女はちらりと後ろを振り返る。

 その言葉はなんというか、残念そうというよりどこか安堵したような響きがこもっていた。

 自分の力だけでやったとはあんまり認めにくい、みたいな風に。

 

 つられて目をやって、僕も小さく笑ってしまう。

 

「……それこそ悪い冗談だよ、委員長。これは全部、みんなの頑張りのおかげであり……正道のお手柄だ」

 

 僕らが見上げる視線の先では。

 色とりどりの巨大な花をいくつも咲かせた世界樹が、青々としたつややかな葉を繁らせて、蒼穹へとその枝を更に大きく高く伸ばしていた。

 

 なんかさっきより、ちぃとばかし背丈もデカくなってんねぇ。

 僕らと同じく成長期か? 横にも縦にもパンプアップしちゃってまぁ。

 いやはや、よっぽど天才錬金術師特製の栄養剤が効いたようで……。

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