【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
勝手に口が開き声帯が震え、僕のものではない声を紡ぎ出す。
言葉にしてみればずいぶんと恐ろしいというか、なんだか怪談の怪奇現象じみた、決して歓迎されるタイプの経験ではないだろう。
しかしそれが甘々のじゃロリボイスなら話は別だ……!
山算金から薫陶を受けた僕は、このハプニングに商機を見出した。
そんな事が可能になった暁には、それはもう微に入り細を穿ったシチュエーションを練り上げて、必ずや誰かの琴線を爪弾くであろう音声作品を量産し、ピンク地の屋根に薄紫の螺旋が描かれた和風建築の豪邸『えっち催眠ASMR御殿』を我が街にブチ建ててやるぜ。なんなら壁面はデジタルサイネージにして催眠アプリ流しちゃおっかなァ~! 地域の美観壊滅! 珍百景にも出るぞ!
しかし直接文句を言いに来た町内会の人間は、打って変わって帰宅後からハイライトの消えたぐるぐるおめめで、なぜかウチの家のデザインを褒め称えるようになるだろう。
ついでにダミーヘッドマイクを模したハコを作り体験型施設として運営、目隠し付けたお客様の耳元でリアルに僕が囁きかける臨場感溢れたアミューズメントも提供しちまってもいいな。『のじゃロリボイス囁き音声町おこし』じゃい! 地方創生の新たな形のご提案だ、この分野で行政に食い込んでいくぞ。
そして施設からの帰り際に顔出しした僕が「お兄ちゃんバイバ〜イ♡」とネタばらしをすることで、一生残る恐怖と衝撃で一生残るロリと耳かきを体験させてやろうじゃないか! 今後もご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます! ガハハハハ!
……と、勢いでいろいろ考えはしたものの、そこまでやるなら流石に声の主の同意がなきゃな。
だからまずは自己紹介からいこう。
僕のことをご存知のようではあれど、他人に尋ねるならまず自分からっつーしね。
どうもお話した記憶がてんで無いので、便宜上はじめましてと言っておこうかな。
僕の名前は青海蒼、可愛いお声のあなたのお名前は?
突如見知らぬ誰かの声音を発した僕を凝視しているみんなへ、片手を小さく上げて平気である旨を伝えながら、自身の中に居る誰かへと語りかけた。
言葉遣い。長寿。エルフ? 女性。知らない。魔王……否。友好的。対話。
彼女にどこまで見られているのか不明な為、インパクトが大きい与太話に頭の容量を大きく割いて前面に出しつつ、細かな思考はその裏側でバラバラに千切れた断片的な形で行っている。
とまれ、考えることは多々あれどまずは会話だ。
相手を知らぬまま恐れたり、敵対しようとしても、結局は徒労に終わっちまう。
敵であればそれこそよく知るべきだし、味方ならばぜひ仲良くお話したい。
『ほ、そう怯えんでもよいぞ。やはり覚えてはおらぬようじゃが、既に先ほど会話は交わしておる。ワシはお主に害を与えるものではない。むしろ恩を返そうと思っとるくらいじゃ。その、えーえすえむあーる? なるものも喜んでやらせてもらおう。我が子らを助け、ワシを死から救い、意識の光を取り戻してくれた恩は、それくらいしてもなお返しきれぬ』
え、あぁ、アレはね……突然の出来事に驚いて、思わず思考が突拍子も無い方向行っちゃっただけで、まったく本心ではないから大丈夫っす。まさか乗ってくるとは思わなかったぜ。
それよりも先ほど会話したっていうのは……そうか、世界樹と繋がって気絶した時だ。
あの時たしかに夢で誰かと話した記憶が、おぼろげながら残っている。
という事はこの人は世界樹の──
『いやいや、子どもが遠慮するでない。これなババアに任せておけ。こう見えて若い頃は、性欲の薄い男エルフどもすら手玉に取ったもんじゃからのぅ。そういうツボは心得ておる、どーんと任せておき』
いやいやいや、目上の方にそんな事させられませんって。あんなん冗談ですよ冗談。
ついつい緊張したら軽口が出ちゃうタイプなもんでして、若輩者の悪癖だとだも思って流してくださいよ。
やっぱホラ、お金って自分で働いて稼いでこそ気兼ねなく使えるっていうか……。
いかん、話が逸れた。
というか若い頃? となると純粋にそうなワケじゃなく──
『いやいやいやいや、そういじらしいことを言うでない。年寄りというのは子どもに小遣いをあげとうてしかたない生き物なんじゃよ〜! さっきのアレはワシからってより木そのものからじゃし、ワシもなんかアオ坊にあげたいあげたいあげたい! 後生じゃから〜!!』
お、押しが強過ぎる……!
小遣いでダダこねるのは貰う側の方でしょ普通、なんで上げる側の年上が地団駄踏むんだよ。
遮蔽物も兼ねて考えたカバーストーリーである適当与太話に、どうしてか彼女があまりにも前向きなのだから、僕もちょっとタジタジになってしまう。
僕は脳内で語りかけているが、彼女の声は変わらず僕の口から放たれている為、周りのみんなは「またなんか女に変なこと言って自滅してるなコイツ」という目で僕を見ていた。ヒモにも言い訳できない事もあるんだね。
その場限りでハッタリ利かすにしても、あんまり適当言うもんじゃねぇな。反省。
……だがそのおかげというか、怪我の功名でおよそ彼女のプロフィールは理解できた。
もしこのヒトが僕の想像通りの方であるのなら、警戒する必要はたぶんなくなるだろう。
「えーっと、まあ一旦その話は横に置いといて……やっぱりまずはお名前を、お聞かせ頂けませんか? いつまでも『あなた』じゃあ味気無い」
ここからは全てみんなに聞いてもらうべきだと判断し、僕も自身の思いを言葉に変えて声に出してゆく。
傍目から見れば一人二役でのじゃロリと会話する高校生が爆誕してしまうが、しかし異世界ファンタジーならばそういう事だってあるだろう。あるのか? まあ、現に今ココにあるのだからこれがエビデンスです。
『おお、おお、そうじゃったな。申し遅れたみなの衆、ワシの名は『ユグド=フィルルエル・シルヴァ』という』
「フィ、フィルルエル・シルヴァ様……!?」
その名を聞いた途端、怪訝な顔で僕を見ていたお祖父ちゃんと叔父さんたちが、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。
信じられないものを見た、聞くはずのない言葉を聞いたとでも言いたげなその顔は、驚愕の色に染まっている。
彼らの反応を見て、僕の予感は確信に変わった。
ともすれば彼女の名前は、きっと先生の存在よりもエルフという種族にとって重要な意味を持つだろうから。
『生前のワシを知っておる者もおるやもしれぬが、精霊女王に作られし最初のエルヴンであり、センセイという2代目が居る今となっては、初代ということになる"風の方"だった者……その名残りじゃよ。よろしくの』
「なるほど、可愛らしいお声にピッタリな素敵なお名前ですね。それじゃこっちも自己紹介が必要かな? 右から順に名乗っていっても良いんですが」
『ああ、いや、それには及ばんよ。アオ坊の知ってることがある程度共有されておるからして、名前や立場くらいは事前に把握できておる』
「そりゃなんとも便利な、話が早くて助かりますねぇ。全ての会議がそうあって欲しいものです」
「青海の認識引き継いでたら、それはそれで偏見混じってそうだな。お婆ちゃん、ちゃんと王城のこと裏切者の首魁だと思えてます?」
「うるさいぞ、黙っておれ愉快犯」
『坊の知識通り仲良しさんでなによりじゃのう』
呆然と立ち尽くすエルフさん達とは対照的に、事態の重みを理解していない僕ら人間族は気軽にフィルルエルさんと接している。
なんせ中身は知らない人であれど、外身はそのまま僕な上に声は幼い女の子ボイスだからなぁ。
ちょっと気安すぎるというか、礼儀がなってないとこもあるだろうけど、ご本人も気にされていないようだしわざわざ改める事も無いだろう。
孫みてーな年の頃の子どもにかしこまられるよりは、フランクに来られる方が好みっぽいしな。
「はーい! ウチは鹿伏鹿野ッス! よろしくお願いしゃすフィルルエルさん!」
『ほっほ、こちらこそじゃよカノちゃん。うむうむ、おっきな声で挨拶できてほんにええ子じゃ、アメちゃんをあげような……ぬっ、そうか、身体が無いんじゃった。ワシお手製花蜜アメ、いつも巾着入れて持ち歩いとったんじゃがのぅ……すまん……』
お、そういうことなら代わりに、手作り翡翠ハチミツアメ・オリジナルハーブブレンド風味をあげようね。
「はむっ……ん゛あ゛ぁ〜ッ! これこれ〜! ガチでキクっスねぇ〜! 翡翠ハチミツ特有な強い甘みのしつこさをハーブの鮮烈な香りが無理矢理打ち消して、鼻に抜ける頃には花のような薫香だけが残る……! アオミ先輩手作りお菓子史に残る傑作……!」
僕が差し出した手ごと唇で食みつき、舌でアメを舐め取っていった鹿野ちゃんは、両手を頬に当てウットリとした顔でぴょんぴょん飛び跳ねた。
今回は似たような「アメちゃん」がこれしか無かったからあげたけど、なんか食べた人の反応を見るにあんまり良くない作用してる気がすんだよな。無論僕も試食済みで、確かに後引く強烈なクセがあんのは確かなんだけど……。
本当にこれ人体に影響ないのかな……? 今合法なだけじゃないよね……?
入ってるハーブもハチミツも全部よく使う普通のモノだし、委員長が成分分析した結果毒性も依存性も無いと判明してるから問題はないハズなんだが、いかんせんここまでキマられるとちょっと怖いぜ。
『……坊はほんに優しい子じゃなぁ。婆にまで気をつこうてくれて、ありがとうの。まったく身体がないというのは不便なものじゃ、お主の頭を撫でてやることもできん。代わりに触れれそうなトコ撫でてやろうか、ほれええこええこ』
あぶぶぶ……!
完全に未知の刺激に、白目を剥いて震えてしまった。孫の脳を直接触るのやめてねユグドお婆ちゃん。
「……ご歓談中、口を差し挟むご無礼をお許しください、フィルルエル・シルヴァ様。私は現"枯れた蔦の里"の里長を務めるアラノスでございます」
先生との初対面の時以上に緊張した面持ちのアラノスさんが、恭しく最大限の礼儀を払い最敬礼の姿勢を取って僕の中のフィルルエルさんへ話しかける。
『ほ、アラノスよ、そう硬くなる必要はないぞ? もっと気軽にフィルルエルと呼ぶがよい。どうしたかの?』
「ハッ、かたじけなく……であらば、率直に申し上げます。フィルルエル様は……お隠れになってしまっておられたのですか? 貴方様は"無形の魔王"との戦いが終わるのと時を同じくして、ひっそりとその御姿を消されたと我らには伝わっております。恐らくは再び精霊女王様の元へお帰りになられたのだろうと、その様に考えておりましたが……」
"無形の魔王"……遥か古の時代にエルフの国を襲った、超巨大なスライムの魔王だったか。
今回の依頼を受けるにあたってギルマスから話を聞いた時に、彼が少しその辺りにも触れていた。
たしか当時の賢者総出で、世界樹を杖代わりにとんでもない魔術ぶっ放して討伐したみたいな、そんな感じの話をしていた覚えがある。
『んー、まあその事なんじゃよね。それを含めてというかのぅ……ワシがどうしてアオ坊の中におるか説明するにあたって、センセイはともかく他のエルフに聞かせるかは迷うたんじゃが……アオ坊が信頼しとるようじゃし、お前らにだけならええじゃろ。他言無用で頼むぞ』
時折言葉を途切れさせつつ思案した果てに、彼女は話すことを選んだようだった。
僕の言葉を信用してくれたのはもちろん嬉しいことであるが、しかしヒトはそうそう知り合って間もない相手を信用しない。
だからこそ、彼女の全幅の信頼には理由がある。
それこそが彼女の現状へと繋がるのだろう。
『簡潔に言えば、今のワシは昔のワシ──最初のエルフ『フィルルエル・シルヴァ』ではない。世界樹の精霊がフィルルエルの残滓と混ざり合った、曖昧な精神混交体……言わば魂のキメラ『ユグド=フィルルエル・シルヴァ』なのじゃ。それもこうして坊のバフを受けてなお、実体も顕現させられぬ程に力の弱い不安定な状態である。そもそも坊が世界樹とパスで繋がるまでは、フィルルエルが死んだ時の魂の残りカスが、世界樹の膨大な魔素によってギリギリ保たれておるような状態じゃった。それ故かエルフの頃の記憶なんかは、今は死の直前のこと以外ほとんど思い出せんでなぁ。いやコレは単に老人ボケかも知れんがな、ワハハ』
お年寄り特有のこっちが笑っていいのかわからない危ういジョークを飛ばしながら、彼女は自己紹介をしてくれる。
しかし、なるほど。
間の抜けた話だが、正直「そういえば」という感じだった。
エルフという種族が長命であるのなら、さらに神性に近い存在である先代風の方は更に寿命が長くて当然だろう。なんなら不老不死でもおかしくない。
であれば、未だ生きていてもおかしくないようなそのお方は、今もなお彼女の統治を求めているエルフたちを置いて、いったいどこへ行ってしまったのか……そんな当然の疑問を、言われるまで考えもしなかった。
『……ま、しかしそんな状態だったからこそ、アオ坊が世界樹と繋がりその異質な力で蘇らせた際に、ワシも意識というものを新たに得ることができたんじゃがな。世界樹の精霊としての側面があったからこそ、世界樹へのエネルギーの供与の恩恵に与ることができたワケじゃ。ほとんど意識も無い生きてるとも死んでるとも言えぬ状態じゃったが、人生なにが良く働くかわからんもんじゃのう。いやしかし、ほんにここにおるみなには感謝しておるよ。ミョウジョウの祈りとオオギの薬が無ければ世界樹は枯れていた。その薬のおかげで絞り出した恵みにて、坊と縁が繋げた。繋がった線によって、世界樹はかくも見事に蘇り……それに宿った残滓でしかなかったワシも、こうして意識を取り戻せた』
彼女は運命の数奇さ、人の縁といったものに感じ入るようにしみじみとそう振り返る。
そりゃまあそうか。
もしもあのまま世界樹が枯れてしまっていたら、この人は……ココに居なかったかも知れないのだ。
そう思えば、長い旅路にはなったが頑張った甲斐があったものじゃないか。
『つまりはそうじゃな、ワシは三人の子どもみたいなものかの? ほっほ、まさかワシが人の子となろうとは……長生きはしてみるもんじゃ。いやもう死んどるけど』
「私と、青海君の子ども……?」
委員長は十秒近く完璧にフリーズした後、ゆっくりと歩み寄って僕の頭を、というか僕の口を借りて話す彼女の頭を撫でた。
「……名前でなく、お母さん、お父さんと呼びなさい。あと、お菓子は家のお手伝いをしたらご褒美として一口まで、漫画やゲームは月に一時間、毎朝朝食の時間に一日のスケジュールをみんなで報告すること。お家のルールは破ってはいけませんよ」
『お、おぉう……?』
「返事はハイかイイエです」
『ハ、ハイ、おかあ、さん……?』
ダメだ、正道がシームレスに「かなり厳しめな家のお母さん」になっちまった。
ていうか、めちゃめちゃ厳しいな。これはちょっと看過できませんよ。教育方針にアホの僕が口を出すのはかなり躊躇われるが、しかしそれじゃいくらなんでも自由が少ないもん。
こと子どもの事に関しちゃ家族全員の幸せのために僕も譲れないので、こればっかりは納得がいくまで議論を重ねなきゃなんねぇ。
なぁに、こういうのも家族になることの醍醐味さ。膝付き合わせてじっくりと──
「いや待てイインチョー、違うだろ」
そうして家族会議に入りかけた僕は、明星先輩のインターセプトでハッと我に返った。
あぁそっか違うわ、フィルルエルさんは我が子じゃなかったわ。
完全にもうそういうつもりになってしまってた。
止めて下さってありがとうございますセンパイ。
「一人で勝手に話を進めてんじゃねぇ。いいかぁ? 子どもってのはあんまり厳しく締めつけると、どっかで破裂して変な方向に行っちまう。ウチにも居たんだよ、厳しい家庭で嫌気がさして飛び出たヤツらってのが。ちゃんと親が構って、ずっと見ててやった上で、ある程度自由に遊んだりスナック食ったりさせた方がゼッテー良い。その子はオレの子でもあンだろ? あと呼び名はパパとママだ」
『え、えぇ……これ結構将来大変じゃぞ、パパ』
違った、教育方針の違いで物申してるだけだ。
もう完全に僕らの子どもとして受け入れちゃってるわ。
各々の子ならまだしも三人の子だからすげーややこしいぞ。
……そしてフィルルエルさんの言う通り、将来的にはもっとややこしい事になるんだよな。来るべき時を前に、僕は静かに覚悟完了するのだった。
こりゃ数日やそこらで片が付く内容じゃないということで、後日腰を据えて気が済むまで話そうとパーティーで決が採れたので一度棚上げし。
そそくさと脱線した話を戻して、僕はスピーカーとしての役目を果たす為、考え込んでしまっていたアラノスさんたちへ顔を向けた。
『コホン、待たせたのぉ』
「あ、あぁ、お話は終わられましたか。申し訳ありません、あまりにも衝撃が大きく……まさか初代様が未だ世界樹と共に在られていたとは……」
『あれを共に在ると表現していいのかは、はなはだ疑問であるがの。じゃってワシ、マジでなんも考えて無かったし、なんも感じておらんかったからね? 気色の悪いワームどもが世界樹を食い荒らしていた事すら感知しておらん。まこと恥ずかしい話じゃが、目覚めたのはアオ坊らが全ての問題を解決した後になってからよ。……近くに居ながら、すまなんだなぁ』
「いえ、そのような事はございません! 我らエルフこそ、世界樹の危機をおめおめ見逃しかけ、汗顔の至りでございます!」
どこかしょぼくれたようなフィルルエルさんの声色を感じて、今まで沈黙を貫いていたヴェルナード叔父さんがハッキリと自らの非であると言い切る。
まあどちらのせいでもなく、完全に魔王だけが悪いとは思うが……なんというかもう始まりの一人からこうだからして、エルフさんの身内と判定した相手への甘さは、この種族の特性なんだろうなと思わされる。
判定の厳しさはきっとその裏返しでもあるんだろう。
際限なく誰もに甘くしていては、この危険に満ちた世界ではすぐに滅んでしまうから。
「……今の話を聞いていた限りですと、フィルルエル様が亡くなられた理由がまだ出て来ていないかと思われます。それはやはり、当時の魔王との戦いによって、ということでしょうか?」
『むっ、ケントは鋭いのぉ。この子が賢いと太鼓判を押すだけのことはある。じゃが喧嘩はいかんぞ。それも力量に勾配のある相手を一方的にというのはいただけん。後でワシからもお説教を……なに? 『その話はもう終わった』? それは良くないぞアオ坊、こういうのはしっかり話し合わんと禍根が……『僕の口で彼を叱る事になるのは勘弁してくだしゃい』?……まあ、それはそうか。すまん、話がこんがらがった。ケントの推察でおおよそ間違いはない。ちと経緯は違うが、因果関係としては似たようなもんじゃ。……そしてそれこそ、エルフたちに教えとうなかった肝心の内容じゃよ』
フィルルエルさんはまだ迷いがあるのか、ためらいがちに言葉を切って。
それでもなお、決断したかのように──あるいは諦めたかのように、彼女は真実を口にした。
どうしようもなかった時代の、追い詰められた果てにある、救いの無い真実を。
『世界樹を術式増幅媒体として、あのにっくき
『……大規模な魔術とは、たいていそういうものじゃ。代償無くして世界の決めたる因果に逆らおうなど、我らエルフとてそこまで傲慢ではないわい。領分を逸脱する時、対価は絶対に必要となる。……このことはあの頃の里長連中の一握りにしか伝えておらん。記録にも残さず、後世にも伝えるなと言いつけた甲斐はあったようじゃな』
言葉を失ってしまったこの場の全員を、僕の目を通して見守っていた彼女が、小さく微笑むのがわかった。
そんな悲壮な覚悟が必要ではない時代が訪れている事が、嬉しくてしかたないみたいに。
『誰が好き好んで、子どもたちに『お前らを助ける為母は死ぬからの』などと言いたいものか……そのようなこと知らぬまま、人生を謳歌して幸せに暮らしてくれれば、それが一番ええんじゃよ』