【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
たぶん次もあるんじゃなかろうかという事で作業を頑張っています。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「はぁ……」
無意識の内にため息が漏れる。
適当に入った食堂の、表通りに面したテラス席で、僕は頬杖をついていた。
気もそぞろに注文した名も知らぬお酒は、どうも苦みと渋みが強く僕の舌に合わなかった。
聞いた事も無い果実から作られた伝統的なお酒らしいのだが、フィルルエルさんご所望の葡萄酒よりも癖が強い。甘くて飲みやすいのが僕の好みなのだ。
たぶん日本でもカルーアミルク? とかが好きになってたと思う。全然聞き齧っただけで詳しくはないんだけど、たしか甘いんだよね。お酒は甘いのが好きだから、もしも飲み会とかに出てたら勧められるがままに飲んじゃってたろーなぁ。結局舌がガキなんだよ。
その甘ったれた性根と同じく、ガキのまんまなんだ。
……とりとめもない思考は千々に千切れて散らばった後、結局また先程の会話へと戻ってくる。
選択に後悔はない。
現状はおそらく最善一個手前の結果だが、あのハチャメチャなルートからこんな結末へと到れたのは本当に幸運なことだったと思う。
でも、だからこそ、そこに確かにたった一人産まれた不幸な誰かの言葉を、改めて本人から突き付けられて……自分自身が嫌になってしまっていた。
目を閉じて、ボーレタラスさんの境遇から推し量れる心境を、再びトレースする。
彼女の中に、礼を言わずには去るという選択肢は無かっただろう。
あれだけの事を成し遂げた年若い相手を、一方的に突き放したくはない。
自分の狙いとは違ったとしても、魔王の策を打ち破ったこと自体は英雄譚にもなりうる偉業だからだ。
功績には賞賛が無ければならないと、ボーレタラスさんは考える。
長く傭兵を続けてきた彼女には、信賞必罰の精神が宿っていた。
……とはいえ、そこに少しくらい皮肉が混じるのはしょうがないよね。
だが彼女が本当に伝えたかったのは、このおためごかしの大団円一つで、あまねくハーフエルフがエルフを許すわけでは決してないという事。
彼女は己が心から吹き出した思いは、叩きつけずにおれないタイプだ。
だからこそあの木のウロにて、僕らの目の前へたった一人躍り出るなんて暴挙にも出てしまった。
今その胸の中でざわめき波立つは、不満と怒り。
ついぞ自分を蚊帳の外に置いたまま終わってしまった、反逆の不完全燃焼さに由来する不満。
なし崩しで和解を受け入れてしまった、他のハーフエルフたちの不甲斐なさへの怒り。
僕の中に作り上げられた彼女が、喉を枯らし血を吐くように叫ぶ。
お前らは真実心の底からエルフを憎んでいたのではなかったのか。
こんなやせっぽちの矮躯なガキの口車に乗せられ、正気に戻ったと言い訳してケツをまくるような覚悟しか無かったのか。
未来など捨ててかまわないと思っていたのは、私だけだったのか。
やってくる明日に、あの人は居ないというのに。
……連帯の裏側には、必ず期待が存在する。
手酷く裏切られたと感じるのは、彼女が篤く信じていたからだ。
同じ場所に立っているから、同じ所を目指しているから、同じ境遇で生きているから、私たちは協力しているのだと、人は気付けば思い込んでしまう。
それが例え魔王に操られた果ての結果だろうと、僕らの心は勝手にそう錯覚する。
少しでも自分の惨めさや憎しみが和らぐように、都合の良い解釈をしてしまう。
自分自身が瓦解するのを防ぐ為の、最終防衛ラインとしての防衛機制。
そんな思いを誰が責められようか。
慰めにもなりはしない復讐を遂げずには、息もできない人だって居る。
きっと彼女だけは、紅く昏い世界で焼け落ちた大樹の上に座り、燃え盛る森の香りを肺一杯に吸い込んで、満たされるようなため息をつけただろう。
そうして初めて彼女は、世界とようやく向き合う事ができたのだろう。
けれど僕は、彼女がそうして水面へと上がり息を吸う事を阻止した。
彼女の望む救いが到底許容できるものではなかったから、その満願を拒絶してしまった。
僕が自らの意思をもって、敵対を選んだのだ。
彼女の望みを知ってなお、僕はエルフとハーフエルフには融和して欲しかった。
ひどく思い上がった言い草だけど、不幸なヒトを減らすにはそれが一番だと思ったから。
何様のつもりだと言われるのも覚悟の上で、僕はボーレタラスさんのような誰かが、新しく生み出される事を止めたかった。
それ故に、全ての人に斟酌されるべき事情が存在するなどと、達観したフリをしておきながら……あの日から聞こえていたのと同じ泣き声を、僕は謝罪もせずに黙殺した。
救われない人間が彼女だったならば、救えない人間はきっと僕なのだろう。
手の中の木製のコップを満たす茶色の液体が、時折泡を吐いては再び沈黙する。
体温で温められ立ち上る香りは、遥か昔から続くこの国の匂い。
喧騒で溢れた大通りの物音が、なぜかこの香りと同じくらい遠くにあるように感じられた。
繋がったパーティーに読み取られない様、言葉にしてこなかった思いが、一人になった僕の中でのしりと顔を出して胸元を掴み、自分を見ろと己を突きつけてくる。
お前は自分が幸せになった途端、寄り添うことすら放棄して、都合の悪いモノは見ないフリをするクズだ。
そんな非難の言葉がソイツから発される。
なにもかも仰る通りで、ほとほと自分が嫌になった。
彼女はそんな相手にさえも、最後の最後にお節介と知りながら言葉を付け足した。
いつか手酷い失敗をして悲しむだろう子どもを、見なかったフリして知らん顔するほど厚顔無恥になりたくない。
それをしてしまえば、外に出たエルフがどうなるかを知りながら、私たち親子を受け入れなかったエルフどもと同じになってしまうから。
……そういった理由があろうと、憎い相手にあんな言葉をかけられることが、ボーレタラスさんのひととなりを顕著に表していた。
万人を救うことはできないという戒めも、手の届かぬ理想に目を取られて腕の中のモノを失ってはならないという忠告も──まったく、身につまされる思いだ。
なんせそう言った彼女本人がその最たる例であり……そんな彼女がどうにかして救われる方法がないかと、僕はあの瞬間まで考えてしまっていたのだから。
「……そういうとこを控えるようにって、あの人は言いたかったんだろうなぁ」
過ぎた力と過分な望みは身を滅ぼす。
スタルキッドがムジュラの仮面付けて幸せんなれなかったみてーなもんだ。
なんでもできる気になったガキは、得てして力に呑まれて破滅の道を辿ってしまう。
どんな世界でも共通のその道理を、ボーレタラスさんは僕に説いてくれたんだろう。
絶対零度の心で復讐に身を焦がしてもなお、優しい彼女はそう言わずにはおれなかったのだ。
私なんかを気にしている暇がお前にあるのかと、頬を叩いて。
自分を救わなかった事など考えず、隣人と手を取り合い先へ歩めと彼女は言う。
ぼんやりと通りを眺めていた僕の視界を、先程声をかけてくれた幼いエルフが駆け抜けて、一人の女性の腰元へと抱き着いた。
うららかな陽光が降り注ぐ中、二人は手を繋いで歩いてゆく。
彼女の壊したかった光景は……けれど僕にとって、ひどく美しく見えた。
だって本当は、彼女がそう在りたかったのだから。
もはや叶わぬ一番の願い。
叶わないのならば、壊してしまいたかった光。
二つの風景が視界の中でおぼろげに重なり合う。
あの人が欲しかった景色の中に居る、嬉しそうな小さな彼女と、優しい笑みを浮かべる知らない女性は、とても幸せそうだった。
「は!? オイ、アオミじゃねぇか! なにしてんだよこんなとこで!」
ぼぅっと通りを行き交う人々を眺めていると、後ろから声がかかる。
「へぇ、君もこっちへ来てたんだ」
……おっとぉ? やーやー、奇遇じゃん。
なに、僕らもちょいと指名依頼があってさ。二人の後からケルセデク入りしてたんだよね。
よく知ったその声に振り向けば、やはり『覇剣と強弓のマグニフィス兄弟』の姿があった。
剣士である兄ウィリアムに弓使いの弟ジョーンズ、彼らは僕のボゥギフトでの飲み仲間である。
もしかしたら──とは思っていたが、まさか本当に会えるとは。
衛星集落とは呼んでいるが、ここは町といってもいい程度に大きい。
こうやってたまたま出会えたのは、まさしく幸運だと言えるだろう。
「なるほどね、流石は金級冒険者様ってところだ。ぜひあやかりたいよ」
「ケーッ、羨ましいねぇ。こちとらたいした報酬も無い護衛依頼でようやっと辿り着いてみれば、詳しい説明もねぇまま足止め食らってよ。いやエルフ娘目当てで来たんだから、それはそれで好都合では…………」
椅子を引きずり対面に座った二人は、そこまで言って顔を見合わせた。
おぉ、流石は実の兄弟。息ピッタリじゃん。
ほんの僅かなアイコンタクトを済ませた彼らが、ズズイと顔を寄せてくる。
よく見ると目元が似てんねぇ。ホントに兄弟なんだなぁ、羨ましいよ。ほら僕ってひとりっ子だからさ、そういうのに憧れがあんだよな。
「……おい。もしかしてその指名依頼ってのは、俺らの足止めと」
「突然始まったこのお祭り騒ぎに、関係があるのかな?」
ふんふむ、居留地の外国人にはことごとくなんも知らされてないのか。
そりゃ「世界樹虫に食われて枯れかけてるんですよ〜」なんて詳らかに言えるワケもねぇからな。
通行人の他種族の中にゃこれがなんのお祭りなのかもよくわかってなさそうな人が多そうだったし……まあ敏い人はなんとなく感じ取っていたとこもあるだろうが。
「ま、そこら辺はね。こちとら依頼人への守秘義務ってもんがあるからさ」
そんなワケなので、僕は匂わせる程度でお茶を濁す事にした。
おそらく後日正式に発表があるだろうから、それまでは軽々しく口にはすべきじゃあねぇだろう。
なんせ国そのものと関わった話だ。慎重を期して期し過ぎることもない。
外交マターは外務省を通してくれねぇと困るぜ。こちとらコンプライアンスに厳しい現代人なんでねぇ。
しかし令和のコンプラは、果たして女子高生と女教師によるヒモ飼育を許してくれるだろうか……かなりダメ寄りじゃない?
ダメだった場合は道義的責任により僕が内側から爆散する事になるな。己に課した制約で身を滅ぼすのは能力バトルモノらしくてグッとくんね。
最終手段として魔王に捨て身タックルかまし、相手のコメカミに指ぶっ刺してそのまま自爆するのもアリだ。やっぱあまねく男の子はアバン先生に憧れっからさぁ~。掃除の時間に箒でアバンストラッシュを練習しなかった者だけがヒモに石を投げなさい。
図星を突いた上で共感を得やすい事を言い本質的な理解者であると錯覚させ、そのまま論点を別の弱みの擁護にスライドさせて論理破綻してないように見せかけるテクニックだね。いったいそれは何に使うテクニックなんだ?
「そりゃまた、なんとも……」
「オイオイすげぇなマジで。ぽっと出の後輩に級を追い抜かされたかと思えば、次は国難を払ってみせたってか? そこまで行っちまうと嫌味にも感じねぇや」
「ま、とは言っても凄いのは他のみんなであって、僕は単なる雑用係なンだけどね」
「いやいや、そう卑下したもんじゃないさ。そんな凄腕冒険者をたらし込めるなんて、アオミのヒモの実力は折り紙付きってことだろ?」
「違いねぇ! そんなヤツが指導教官サマだってんだから、これほど頼もしいこともねぇぜ」
空気が悪くなる前に混ぜっ返すと、二人も察してか茶化す方向へとシフトしてくれる。
友人との会話によって、先程まで沈んでいた気持ちが上向いてきているのが自分でもわかった。我ながらヒモだけになんとも呆れるくらい現金なもんだ。
そのままくだらない話になだれ込もうとしたところで、ウィリアムさんがなにか思いついたのかパチンと指を鳴らした。
「あ! ちょうど良かった、そういやアオミに相談したい事があってよぉ」
「そうだった。困難に立ち向かおうとしている時に師匠が向こうからやって来るとは、まさしくこれが天祐ってヤツかも知れないな」
おん? なんかあったの──と口にしかけて、僕の脳裏に一つの映像が浮かび上がった。
ケルセデクへやって来た初日、この町を通り過ぎる最中に見た二人と……彼らがそれぞれ話しかけていたエルフさん。
二人ともそれはまあかかり気味で、エルフさん側はそんな彼らのガッツキ具合に困ってそうだったんだよね。
そうだそうだソレよソレ、言わなきゃなんねぇことが──
言って、いいのか?
「いや実はよ、俺ら今良い関係になりそうなエルフが居るんだよ。ま、アオミを指導教官と仰いでおきながら成果無しじゃあ、アオミ流女たらし道の看板に泥を塗ることになっからな」
「……ただ、なんとなくどうも煮え切らないというか。向こうも踏ん切りがつかないような感じで、最後の一押しが足りないようなんだ。一つここは開祖に教えを乞わせてもらおうかと」
やめろやめろ、風評被害が過ぎる。
誰が家の表札の横に「女たらし」って文字が書かれた看板ぶら下げんだよ。泥より汚い醜悪な欲望が凝固した看板に今更泥塗っても一緒だし、むしろ一部隠れてマシになったまであるわ。
そんな道場の看板、掲げた翌日からのご近所での評判が怖すぎる。引っ越す三日前に一度はやってみたいイタズラか?
もうそこまで行くと迂遠な破滅主義者じゃん。よしんば社会的に破滅したいにしてももっと効率的な手段あるって。僕に流れる効率厨の血があまりの非効率を見過ごせねぇと騒いじまうな。僕ならもっと早く破滅できる……!
いや残り99%の効率厨以外の側面としても見過ごせないけどね? 当たり前だよ。奇しくも今まさに家買おうとしている男が周囲からそう見られてたら、勝手に門下生に看板取り付けられる可能性があっからさぁ。
善意でやりそうな人も居るからなおタチ悪いんだよな。ムガクさんとかに引越し祝いで贈られたら本当に困るかも。ありがたく風呂沸かす薪として使うね。
僕の必死な弁明にケラケラと二人は笑うが、しかし舌を回すその裏で僕の脳みそは高速でブン回っていた。
彼らにいったい何を伝えればいいのだろうか。
話してしまった先で迎える結末に責任など取れないということを、僕はついさっき嫌という程わからされたばかりだったから。
回り続ける脳は、しかしどことも噛み合うことなく、ただただ空回っている。
出ない答えを探し続けて、出口の無い迷路を走り続ける。
妙に乾く口の中を、反射的にコップの中の水分で潤した。渋さと苦みが妙に舌を突く。
『そもそも二人とも「排他的なエルフと仲良くなる方法を教えてくれ」っつって僕に話を聞きに来てたじゃん。
相手が他種族に対し塩対応な事がわかってんなら、そこに必要なのはまず相手から他の種族なんて括りではなく個人として見てもらえるような努力じゃないかな。
お二人をチョロっとこの前見かけたんだけど、その点積極的に関わっていって相手のお仕事を手伝ってたから、そこはかなーり良かったと思うよ。
知らない他人種から知ってる誰かに変わらなきゃ、まずお話にもなんないだろうしさ。
でもね、個人として見られた上で「この人苦手かも」と思われたら本末転倒じゃない?
押せ押せなのは良くても、引かれるほど押しちゃっちゃあ相手が引いちゃってるワケだから』──なんて知った口を、ちょっと前までの僕なら聞いていた事だろう。
けれど、今。
エルフと他の種族が愛し合った結果生まれ落ちてしまった地獄から、一人の女性を助け出すことのできなかった僕が。
彼らにどんな言葉をかけれるというのだろうか。
かけて、許されるというのか。
そろそろ不審に思われてしまいそうな沈黙が続いて、焦ってなにかを言おうと口を開きかけた時、彼らは二人揃ってバッと同じ方向を見た。
驚いてそちらに目をやると、そこには彼らがお近づきになりたがっていた件のエルフたちが居た。
「あっ、ウィルさん、こちらにいらしたんですね」
「お、あわ、え、エミリアさん!? きっ、奇遇ですねぇ!」
「あー! ジョーンズやっと見つけた!」
「やぁ、シンシア! 今日も麗しいね!」
どうやらウィリアムさんが話しかけていた発育の良いお姉さんがエミリアさんで、ジョーンズさんが荷物を持とうとしていた鹿野ちゃんと同じくらいの背丈の子がシンシアちゃんらしい。
彼女らの口振りからするに、どうもマグニフィス兄弟を探していたようだ。
ぱたぱたとこちらへ走り寄って来たエミリアさんは、なんだか僕なんか目にも入っていない様子で、もぞもぞと手遊びをしてから意を決したように話し始める。
「その、実は私たち、お二人を探してたんです。日頃からお仕事を手伝ってくださいますし、おめでたいお祭りの今日、なにかお返しができたらと思いまして」
「え、それってつまり……お、お祭りを、一緒、に……?」
おわーっ!! わざわざ言わすな言わすな!!! 酌んで!!!
目の前の急展開にさっきまでの考えなんか全て吹き飛んだ僕は、とりあえず愛弟子のバッドマナーに目をかっぴらいた。
「……はい」
しかし海よりも広い心と勇者の如き勇気を持っていた彼女は、顔を真っ赤にして頷いてくれる。
よ、良かった……流石にここまで来てやっぱ無しはないだろうけど、ただでさえ勇気出してくれた相手にあんま酷な事させちゃダメだかんね。
「えぇと……本当は、その、ウィルさんみたいな外の方と仲良くするのは、あまり良くないことだと思っていたんですけれど……どういうわけか、このお祭りが始まってから状況が変わったんです。すみません、急にコロコロと態度を変えてしまって」
「い、いや俺は全然! エミリアさんさえ良ければ嬉しいっすよ!」
申し訳なさそうに上目遣いで謝る彼女に、ウィリアムさんはブンブンと手を振って快活に応える。
『状況が変わった』
それが意味するところは、里長やハーフエルフたちが三日がかりで出した結論の話だろう。
お上の決定を市井のヒトがどう受け止めるかなんて考えていたけれど、少なくともこの二例を見る限りはそう反感を抱かれてはいなさそうだ。
というよりも、むしろ。
「我慢しなくていいのなら……私も、もっとお話してみたかったんです。よろしければ、お祭りご一緒させて頂けますか……?」
「え、えぇ、もちろん! よろこんで!」
「ジョーンズもよ! アンタはほっといたらあたしの友達に変なことしそうだし、あたしが見てないとダメだもん!」
「フッ……そんな事をしなくとも、俺はシンシアの事しか見ていないよ。お誘い、謹んでお受けしよう」
どんな鈍い男性でもわかりそうな彼女らの真意を察した僕は、ふぅー……と長く息を吐いて一人背もたれへ倒れこみ空を見上げた。
結局、僕なんかが手を出そうが出すまいがどっちにしろ、ずっと変わらずヒトは自然と誰かを好きになり、元から惹かれあっていくのだ。
罰則のある掟が無くなった今、彼女らが嬉しそうに兄弟の元へとやって来たのがその証左であるし。
もしかすれば掟があってもなお、いつかこうなっていたのかも知れない。
最期に至った場所が不幸であっても、その始まりはいつだって幸福であった。
たしかに彼らの明日が良いものになるかどうかなんて、今はまだわからないけれど、それでも彼ら彼女らが自分たちの想いを押し込めずに済み、意志に反して引き離されることも無くなったのだ。
もしそうだったならばというIFが、今こうやって彼女らには用意されている。
きっとそれだけで僕らがやってきた甲斐はあるんじゃないかと……そう思えた。
「あっ! すみません私ったら、ご挨拶も無しに割り込んでしまって……!」
そこまで喋ってようやく僕の存在に気付いたのか、ハッと口に手を当ててエミリアさんが頭を下げた。慌ててシンシアさんもそれに続く。
多分非戦闘員である彼女らは世界樹の下へ来なかったので、僕の顔を知らないのだろう。
二人のこと以外目に入らないくらい夢中だというのなら、彼らの友人としてそんなに嬉しい事も無かった。
「あぁ、いえ、気にしないでください。ちょうど話し終えて彼らも出るところだったんですよ。僕の事はお気になさらず、お祭りを楽しんできてください」
「すまん」とばかりにチラとこちらを見る兄弟へ、気にしないでと小さく手を振る。
エミリアさんやシンシアちゃんも律儀に頭を下げてきたので、こちらこそ二人をよろしくお願いしますの気持ちを込めて、ぺこりと頭を下げた。
そうして去って行く四人の背中へとコップを軽く掲げ、ぐいと煽る。
シュワシュワとした軽い発泡感。
変わらず渋くて苦いお酒だけど……なんとなく、これからは好きになれそうな気がした。
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