【書籍化】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
次の投稿はたぶん一週間後の予定。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「お、おーい、こっちこっち」
初めて入った酒場の店内できょろきょろと視線をさまよわせていると、上から声が降ってきた。
知った声だ。うるさいまでに賑やかな店内でも、透明感のある声はよく通る。ボイスを出さないか? 台本なら書くぞ。まずはエッチじゃないのから出して間口を広くし、初期顧客を大量に取りこみにいくプランだ。
見上げれば、吹抜けになった二階の柵から身を乗り出して、顔を朱に染めた闇無君が流れる黒髪を揺らし、こちらへと手を降っていた。
おわわあぶねぇな。酔っぱらいがそういう事すんじゃねぇよ。……まあ彼の完成された運動神経を思えば、真っ逆さまに落ちちまうこともあるまいか。
暖色の灯りに照らされた店内の、内周をぐるりと回る階段をトントンと登ってゆけば、二階の端っこの方に二人が座っているテーブルがあった。
お、いいね、これこれこういうので良いんだよ、当たりです。好きなんだよねこういう奥まってこじんまりとした席。やっぱみんな一度はゴローちゃんごっこをしたいものだからな。三人集まって孤独もなにもねぇが。
「や、遅かったじゃんか。もう始めちゃってるよ~」
「……来てくれて助かった。酔ったコイツと一対一は僕の手に余る」
すっかりご機嫌になって手を振る闇無君に、知名君がうんざりとした顔でカップに口をつけた。
ここに来るまでになんやかんや買ってしまい増えた荷物を地面に降ろすと、タイミング良くウェイトレスさんがやってきたので、適当な弱めのお酒を注文する。
いやいやごめんごめん、待たせたね。なんせフィルルエルさんを説得するのに時間がかかっちゃってさ。
『男が集まるとロクな話もせんで悪巧みばかりするから、監督者が居た方がええじゃろ』ってまたド正論言うもんだから、なかなか論破する隙が無くてさぁ。
最終的にはステーキ一枚で手を打ってもらったわ。でもそれ食べるのはまた僕なワケだから、この賄賂続けてると太っちゃいそうでこえーや。とんでもなくマニアックなプレイか?
「そりゃまた心外だな。俺は誓って自分の意志で他人様に迷惑かけたことなんてないってのに」
「お前の中ではもう裏切りは無かった事になっているんだな……」
「あぁ、そういえば魔王に操られてる間になんかあったんだっけ? いやしかしそれは俺も操られた被害者だからなぁ。そうでもなきゃ魔王の使いっパシリを叩きのめすの手伝ったりしないだろ? こんなにも善良な人間を弄ぶなんて……俺、魔王を絶対に許せねぇよ……!」
抜かしおる。
魔王がてんのすけくらいとばっちり食らってるが、あながち濡れ衣かと言われるとそうでもねぇからタチが悪ぃや。
悪い事をしてると信用が無くなって、やってないことの責任もなすりつけられちゃうから悪い事なんてするもんじゃない、という教訓が得られるね。道徳の教科書にでも載せてぇ話だ。
「載せるな。子どもたちがコイツのような責任逃れのやり方を学んでは日本の破滅だ」
「そうだな、たしかに子どもにゃ見せらんねぇや。賢人の部分は年齢制限が必要だ。昨今暴力表現に対する規制は厳しいからなぁ〜」
あーっと! このパイ美味しいねぇ!? 肉と卵とチーズのシズル感って男のコだよなぁ〜!
あまりにも鋭い反撃に、知名君がどよんと沈んでジョッキの酒を呷ってしまったので、慌ててメシに話を逸らした。
勘弁してやってくれ、今からすでにワンカップ片手に黄昏れるような哀愁を背負ってんのは可哀想過ぎるぜ。
いやしかしマジでウマいなこれ。ザクッとしたパイ生地に、じんわり染みる肉汁とソースと卵の黄身がまろやかで、いくつでもイケそうな旨さしてる。……してんだけど、多分食べ過ぎると僕らの年でも胸焼け待った無しな凄みがあんね。
なんかイメージと違って、エルフさんとこのご飯って全然ヘルシーじゃないんだよな。むしろかなりガッツリまである。なんかそこかしこに揚げとチーズと甘みのピースがさり気なく配置されてて、かなり海外味を感じる食文化だ。
こんだけコッテリしたモン食っといてあんな澄ました顔してんの? そんなんもはやちょっとエッチまであるぞ。思春期男子の鋭敏なセンサーはごまかせねぇ。エッチ感知! エッチ感知! と、抑えの効かない青い獣性が胸中で騒ぎ立てた。難儀な生き物だ、あまりに深い己の
しかしほーなると先生って、格好も合わせてエルフのスタンダードと本質はかけ離れてはいなかったのかもな。流石は薄い本で長年覇権を握り続けているご長寿種族なだけはある。某感服致しましたぞ!
飯食って出る感想か、コレ? シェフにバレたら飯じゃなく腹を召させられるやもしれん。命の軽さも侍とヒモの宿命やね。
本日はこの同学年男子三人だけでの夕食会である。
ようやくお仲間に男性が増えたということもあり、たまには男だけで集まってメシでも食おうやという話になったのだ。
フフフ……こう見えて実はかなり嬉しい。僕はそれはもうしっかりと、じめんタイプの攻撃は効かない程度に浮かれていた。
同い年の男友達とご飯食べ行くとか、なんせ初めてのことだからねぇ!
そりゃ上機嫌も上機嫌、ニコニコにもなろうというもんだ。これにはニコニコ(奇しくも季節は(秋))である。ある種この旅の集大成がここに集っていると言ってもいい。謎の感動タグも付けとこうかな。
「そういや、俺らって結局いつ頃ボゥギフトへ帰れそうなんだ? そこら辺の面倒な話は全部そっちパーティーに投げてるが、まさかこのままココに居着くワケでもないだろ」
ウキウキでバーガルを飲み干した僕の口元の泡ヒゲに、豆を指で弾いてくっつける遊びを始めた闇無君が尋ねてくる。こら、食べ物で遊ばないの。
舌だけで泡ごと一口で食べたらウケた。男子だけなんで多少の下品は許してくれや。
んー、そうね。たぶんそんなにはかからず帰れると思うよ。
祝祭が終わるまでは居てくれとは言われてるんで、最低限あと五日かそこらの拘束かな。だからやんなきゃいけない事あったらそれまでに済ませといた方が、スムーズに帰還できて良いかも知んない。
いや実は僕もいろいろやんなきゃなんないことあってさぁ、これが結構ギチギチで慌ただしいんだよねぇ。
薬師のイケオジさんとこにお礼言いに行かなきゃだし、ベルフィエッテさんには文化学習組プラス先生を旦那さんに紹介したいってご飯誘われてて、釣りすること話したら芽吹く種の里のショタエルフ里長さんの供回りしてるバトラーみたいな爺やが黙っちゃおれねぇつって秘蔵のスポット案内してくれる話になってさ。あ、二人も来る?
「行かねぇよ。なんで好き好んで知らねぇ爺さんと釣りしなきゃなんねぇんだよ。てか『実は僕も』じゃなくてお前だけなんだってそんな用事詰まってんの。いつそんなに知り合い増やした? こっち来てからそんなあちこちウロチョロする時間無かっただろ」
そう? なんかスゲーデッカいモンスターサイズのフナが爆釣らしいからめっちゃ楽しそうなんだけどなぁ……。
「意外だな、釣りもするのか。あまり身体を動かすことを好まないタイプだと思っていたが」
知名君が片眉を上げてそう言うと、いかにも心外だという風に闇無君が机にカップをゴンと置いた。
「なんだと賢人! お前言うに事欠いて『陰キャでぼっちなオタク君がアウトドア趣味あるワケないだろ見栄張んな、せいぜいやってたのもゲーセンのメダルゲームだろうが』だと!? 言って良い事と悪い事があるぞ!」
「馬鹿者この酔っ払いが、そうは言っとらんだろう!」
いやいや知名君の仰る通り、僕も趣味って胸張れるほどのもんじゃあないよ。
最初は半ば拾い物みたいな道具から始めた、実利目的のことだったからさぁ。
結局べつにアイテムとかも揃えてない趣味というのも憚られるような腕前だから、陰キャでぼっちなオタク君がアウトドア趣味あるワケないという君の言葉は間違ってない。
「だから! 僕は! そんな事! 言ってないだろうが!」
怒り過ぎて眼鏡がちょっとズレる知名君に、僕と闇無君のクソガキペアはケラケラと笑う。
片方酔う前からこれなんだから、今日の夜は長くなるぜ知名君。気を強く持ってくれよな。
フンと強く鼻息を吐いて、彼はチビリと舐めるように杯を傾けた。
「まったく……単にバイトもしてたというのに多趣味だと感心しただけだ」
「あーね、それはそうかも。今もクエスト中とか抱えて移動されてるようなスタミナなのに、よく体力もったな」
いやまあ全然もってなかったよね。普通に学業に悪影響を及ぼすくらい授業中寝てたんで。
「そらそうだろ、青海は身体できてないもんなぁ。ほら飯もっと食え飯、食べるのも稽古の内だぞ」
力士にしようとしてる?
一番僕から遠いでしょ相撲は、新弟子検査も通んないよ。青海乃海は語呂がわりぃしさぁ。
「たしかに、六歳児にも負けそう」
バカこけ、六歳児には勝ったわ。
「自慢にならな過ぎる……」
◇ ◇ ◇
そうして一杯目を空けて、次は何にしようかなと壁にかかったメニューを見ながら、ふと思い出した事を口にする。
「あ、そうだ、あとこれはもう言ってあるハズだけど、明後日の朝から国を救った冒険者として里長さんと一緒に絵を描いてもらう事になってるから、それは全員参加じゃなきゃマズいっぽいんでそん時はごめんけど改めてお願いね。みんなの分は魔法で複製したヤツが後日ギルド経由で送られるんで」
「あぁ、きちんとスケジュールは開けてある。……しかし、良いのだろうか。その、我々も青海たちと同じような扱いを受けて」
頷いた知名君は、しかしわずかに顔をしかめて下を向いた。
お? どしたどした。
驚いて見やれば、その顔に映る感情は後ろめたさと罪悪感。
あー、まだ引きずってるのかぁ。いやそうだよな、普通の君であれば絶対に取らない選択肢だった。正気に戻った今や後悔も一入だろう。
「最後はたしかに僕らも力を合わせたのは間違いない。けれど途中までは、足を引っ張るどころか敵対までしてしまった。それは功績との差し引きでなんとか許されるくらいの失態だ。口が裂けても、国を救った英雄などとは……」
「オイオイなんだよ賢人ぉ、まぁだそんな事言ってんのかよ。お前凹み上戸かぁ?」
落ち込む彼の背中を、闇無君はそう言って遠慮なしにバンバンと叩く。
気分良く酔いの回った近接職の加減のない一撃に、知名君の首が後ろにがくんとなった。衝突実験のダミー人形みてーだ、ムチウチなるぞ。
「お前もその内の一人だろうが」と恨めしそうに睨めつける彼に、闇無君はひょうひょうと肩をすくめた。
「迷惑かけた相手から文句言われてないなら、堂々としときゃいいんだよ。どうせ中で何があったかなんて、エルフの連中は知りもしないんだ。なら後の問題はお前自身だけだ、だろ?」
「まあ闇無君ほど悪びれないのもアレだけど、そこは本当に気にしなくていいんじゃないかな。……勇者たちが魔の手を振り払い、ワームの親玉を打ち倒した。あそこで起こったのはそんな冒険譚なのだと、みんな思っているんだから」
「アレってなんだよアレってよ〜」とくだを巻き絡んでくる闇無君の手を躱しつつそう言うと、知名君は「うん、そうか……」と小さく返事をした。
まあ当たり前だが納得していない顔をしている。ボコボコに危害を加えた当事者に言われても、そらハイそうですかと頷けねーわな。あだだだだ痛い痛いギブギブ。
今彼が気にしているのは、知名君個人を越えて『キングダム』というパーティー単位での不義理についてだ。
たった一人の個人的な罪業と違って、そういう集団における功罪ってのは気分の問題では済まなくなる。心情への配慮が無くなる分、明確に点数がつけやすいからな。
そしてもちろんその上で、罪悪感の根っこは自身への批判にも繋がっている。自分に厳しく他人に厳しい彼は、なかなか他者を許すように自分を許せない。批判できる余地があれば、忘れずに彼は自身を責める。
なぜなら彼には責任感があるからだ。
他者からの信頼に応えてきたこれまでの生き様が、今の自分の不甲斐なさを糾弾する。
責任感ってのはデケーリュックみたいなもんだ。
持ってる人間は他人の目にゃ頼もしく映るが、大抵の場合当人にとっては重石にしかならない。気付けば要らない物まで詰め込まれて、少しずつ歩けなくなり、いつか誰にも顧みられないまま後方で押しつぶされちまう。持ってねぇ人間が言うと説得力あるだろ?
擦り切れるほどバイトしてる中で得た僕なりの責任
そして人一倍強い彼のソレは今、持たなくていいハズの重荷まで担ごうとしている。スティグマとして罪の十字架を背負い、これからの人生を歩もうとしている。
……そりゃちょっと可哀想じゃねぇかなと、僕は思う。
意中の人をぽっと出のヒモなんかにかっさらわれて、その上でそんな仕打ちってのはあんまりだ。
けれど殴った相手にそう言われても、正しい人の彼はなかなか飲み込めないでいる。
だから今度こそ、僕はあなたと友人になろう。
やってしまった事を許し合えるほどの親しい相手になれれば、彼だって僕の許しを疑わず受け入れられるはずだ。
あの問答の夜に諦めたことを、今ここに再び僕は望む。
不純な動機で申し訳ねぇが……なぁに、人と人の関係ってのはそんな清純なものばかりでもねぇさ。
仲良くなりたいと思う理由は、仲良くなりたいという気持ちを毀損しない。
少なくとも、そうして出来上がった友誼が本物ならばなおさらに。
まったく、出会ってこの方わがまま放題で悪いね。能力が伴わなかっただけで、本来の僕って結構そういう利己的なとこがあるんだよ。
相手がそう望んでいるかに関わらず、本当は誰とでも仲良くなりたかったんだ。ついでに諦めもすこぶる悪い。
そんな僕に狙われちゃったんだ、スッポンに噛まれたとでも思って諦めてくれ。
「ま、その話は一旦置いといてさ……せっかくの飲み会なんだ。いろいろと楽しく話そうよ」
「そうそう、これだから真面目君は困るんだよな。イエーイ、飲んでるぅ?」
「まだ一杯目空けたばっかなのは見てわかんだろ。闇無君、キミ酒のせいにできるからってふざけ倒そうとしてない? あ、こら、やめなさい! そんなとこに指を入れようとしない!」
なんせ今腹ん中にフィルルエルさんも居ないからな。存分に悪巧みをさせてもらおうじゃねぇか。
かたや肩を組んで鼻に指を突っ込もうとしてくる闇無君と、かたやその指に噛みつく僕。
二人のじゃれ合いを呆れたように眺める知名君にむけて、僕は歯を剥き出してニヤリと笑うのだった。
げへへ……! 毒牙にかかるとも知らず呑気な顔をしてられるのも今の内だぜお嬢ちゃん……!
そうして一夜明けた翌日。
フルスロットルでエンジン効かせたら勢い余って店中の人と仲良くなってしまった僕らは、流されるままダバダバと明け方過ぎまで飲み明かし、無事クランの全員から仲良くお叱りを受けるのであった。
隣で正座をして共に雷を落とされている二人とのたしかな絆の深まりを感じる……
そして副次効果としてより一層囲いの決意を強めたみんなによって、僕の基本的な門限は昼の16時まで引き上げられるのだった。
小学生の下校時間より早い……。