【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
流石にギルマスとは飲み会で会っておらず初対面だった為、僕は即座に置物へと変貌した。ぬけがらのエレジーが響き渡る……。
見なよ黒井さん……これが僕の本当の姿さ……。
期せずして「化物だった事を隠して付き合ってきた友人に、本当の己の醜い姿を晒すシチュエーション」になってしまった。
言うほどなってるか? まぁ醜い姿を晒している事は間違いない。
基本的に醜態以外の形態変化を僕持ち合わせていないんだよな。後2回変身を残しておけばよかった。既に完全体でこれなの泣いちゃうよ。
いやでも地球いた頃に黒井さんと友達だったら毎日めちゃめちゃ楽しかったろうな〜。昼休みの度に3年の教室行っちゃうよ。なんならお弁当作って持ってっちゃうかもな、見てくれこのアスパラのベーコン巻きのチーズ巻きのハム巻きのレタス巻きを。噛みきれない厚さになっちまった。ただ先輩が他の三年から変な目で見られちゃわないかが心配だが、そこはまぁ僕の影の薄さを発揮して忍び込めばええやろ。放課後はやっぱ受験生だし邪魔できないからなぁ。でもたまには一緒に帰って時間あればネカフェとか寄りたいな。僕コーラとカルピスとジンジャエールを奇跡の配合でバカウマジュースにできるんすよ。それ飲みながら一緒にタフ読みましょ。
さっき「友達だったシチュエーション」の話が一瞬脳裏を過ぎったせいで、存在しない記憶が爆発的に脳内に溢れ出してしまった。これが僕の領域展開……?
「なるほどなぁ……お前らが魔王の走狗を……うーん、そうかぁ」
顔の周りにぐるりと毛を生やしたシブいオジ様が、顎を擦りながら顔を歪め、ピンと伸びたおヒゲをピクピクさせている。
つまりギルマスはライオン獣人さんであった。
冒険者らしくもカジュアルな軽鎧が包んだその身体は、筋骨隆々ながらも靭やかさを感じさせる獣人種特有のバネを感じさせる。つまるところスゲー強そうだ。ぷるぷる、僕悪いヒモじゃないよ。ヒモな時点でタチは悪いが。
今までも町中でよく見かけるし、飲み会でも何人もの獣人さんとは会っているが、素面でこうやって面と向かって話すのは初めてなのでついつい不躾に眺めそうになり、意識して目のみに視線を向ける。
映画会社のオープニングロゴみてぇだ。
結局出てきた感想が不躾過ぎる。
どの道進んでも失礼の落とし穴に落ちてしまうんだが正解のルートはどこなんだ? ○×クイズの先がどっちも泥だったらゲームになんないだろ。
ちなみにトムジェリなら僕は圧倒的にトム派だ。
そもそも基本的に追いかけるタイプだからな。
追いかけられる価値の無い生き方をしてきたせいで、自然追う者になっちまった。
悲しきDbDキラーだぜ。
トーテムを建てたパチ屋にワープできるパーク持ち。整理券取らなくて良いから便利だな。
つか、地球にいた頃は人の目なんか見られなかったのに、なんかこっち来てから目はしっかり見た方がいい気がしてあんま気になんなくなったんだよな。
なんでだろうか? 不思議な事もあるもんだな。
なお都合の悪い事はわからないフリするのも得意になった。ヒモになるのも一長一短あるんやね。
鹿伏さんは部屋に入ってギルマス見た瞬間に「わー! 富士サファ」まで口から出てしまったので、即座に先生が口を押さえて僕が「いやすみませんね! どうも知り合いに似てたみたいで!」と釈明することで事無きを得た。
任せてくれ、言い訳は得意分野なんだ。そんな奴に任せたら失敗した時も上手いこと言い訳されそうだから絶対に任せたくないな。得意な事でマイナス評価が付くこともあるのかよ。
こっちの世界に富士もサファリパークも無くて本当に良かった。
後で鹿伏さんには僕と先生から、ヒトという生き物の多様さについてのお話があります。小テストもやるぞ。
「いや、お前らの話を信じていないワケじゃない。その功績を疑ってもない。そこは勘違いしないでくれ。ただ……う~ん……」
誤解しないでくれとでも言うように、軽く手を振りながらギルマスは手元の書類に再び目をやる。
どうにも煮え切らないというか、なにか引っかかっている様子だ。
実際僕らも魔王の走狗とやらがどれくらいヤベーのか分かってないから反応に困るんだよな。
なんなのかは一発でわかるが、それがどれくらいの脅威度なのかっつー話。
地球防衛軍でいうとこのインフェルノカエルレベルとかか? ならヤバすぎる。
今ンとこ正直オフチョベットしたパルスのテフのファルシをマブガッドしてリットのルシがコクーンでパージ状態だ。専門用語で会話されると新規の流入が阻まれちまってよくないんだよね。過疎るネトゲの第一要因だぜ。
まぁ、大変失礼なのは承知でフィクションと現実を混同させてもらって推察すれば、だいたいの予想はつく。
が、それを過信しちまうのは良くないだろう。
お決まりのパターンだと思いこんだら違ってて後々痛い目を見るのもお決まりだ。テンプレが煮詰まり過ぎて入れ子構造になっちまってる。爛熟したweb小説文化の功罪だな。
結局問題は僕たちが手を取り合い頑張って(先生の生活費の力で)打ち倒した相手が、どれくらいの化物だったのかって事に尽きる。
ギルマスには、つーかさっきの受付嬢相手にもそうだったからギルドに対しては、僕のヒモバフについては伝えていない。
なぜなら僕らも説明ができないからだ。そらそう。
というかヒモがバフを撒き、そして心を繋ぐんですと言って信用する奴は逆に信用できない。
ヒモが絡むだけでどうしてこんなにも因果関係が複雑になるんだ?
あの『心が繋がる現象』がなんなのかについては、結局わからないままである。
僕にはかなりみんなのイメージや感情、pngとgifが流れ込んできたのだが、どうもみんなの側はそんなにだったらしい。なんとなーく、多分こうかな……くらいの感じなんだとか。
ただ先生はかなりハッキリと僕の優しい心と荒い息遣いを感じたと言ってたし、鹿伏さんはよくわかんないがよくわかったそうだ。そっかー、良かったねぇ。
で、みんなでちょっと話し合って、おそらく「僕の持つヒモのスキルが洗練されてこうなったんじゃないか」ということになったのだが、「ヒモのスキルが洗練される」という言葉の意味が誰にもわからないので最終的に話は前に進まず、(主に委員長によって)宇宙ヒモ仮説とその検証の為に行われる人倫にもとる実験が叫ばれ、世界は騒乱に満ち混沌に支配されてしまった。これからは悪魔が微笑む時代です。
それもこれもすべてヒモって奴の仕業なんだ。はいはい、ワシのせいワシのせい。
「スキルがあるならそもそもヒモにならない方が良いのでは?」という委員長の意見に、僕が返す言葉を持たずただ静かに目を閉じ少しずつ灰と化し消滅する一幕もあった。人の心とかないんか?
言う通りだよ、当たり前だろ、ディベートなんねぇよそんなの。
ナルホド君でも異議あり!と言えない完璧な正論じゃねぇか。
有史以来誰も救わなかった正論は、ご多分に漏れず僕も救わずに宇宙の虚空へと消えていった。
が、そんな行き詰まった
あまりにもデウスエクスマキナ過ぎて、いつのまにかマクスウェルのノートに『ぼくにつごうのいいけっか』と書いてたのかと思ったぜ。
オイオイオイ、次は先生に頭が上がらなくなっちまうのか?
と、思いきや既に命を4回くらい助けられてるので、とっくに僕は先生のロボットであった。ピポピ……。
で、そんなこんなで今回ギルドへの説明は、そこらへん抜きにして『パーティみんなで頑張って倒しました』という内容で報告することに相成ったのである。
内容が無かった調べ学習の発表みてぇな総括だが、これに関してはマジだからしゃーない。
説明役を買って出てくれたのも先生であり、ホントに僕はこの人におんぶにだっこで泣けてくる。
まぁ立役者が先生だから代表してもらった形だが、それでもありがたいものはありがたいんだから恩には着る。
なにかの形で恩返しがしたい。しかし今の僕に出せる理論値はかたもみ券くらいなんだよな。たぶん肩はこると思うんですけど(名推理)。
何かをプレゼントするにしても、手袋買ったりリュック買ったりしたせいでもう自由にできる金なんてほとんど無いからな。
金が無いのは首が無いのと同じなので早く内職がしたいが、たぶん内職したらヒモじゃなくなってマジの産廃になってしまう!
つみて゛す。でなおしてまいります。
いや、金自体はあるんだけどね? ただこれ先生の生活費だから……。
「ただなぁ、これは統括ギルドマスターとしての発言だが、お前らで倒せるほど魔王の走狗ってのはな、弱くはないんだよ」
今まで難しい顔で瞑目し思案していたギルドマスターが、自分の中で結論を出したようでこちらへと向き直る。
その顔を見て、僕はつい片眉を上げた。
なぜならその表情に言い難い違和感を感じたからだ。
まるで意を決したようで。だからこそ勢いがあり過ぎる。
今現状において、僕らは敵でもないというのに。
頬を舐めてねぇがわかる、これは嘘をついている味だ。共感覚?
「隠し玉がある……って感じには、正直見えねぇ。なぜならお前らには自信が無い。ここに居る奴らぐれーなら俺たちが本気出しゃ屁でもねぇ、っつー自負がまったく無い。ある程度の事を成し遂げられる奴ってのは、そういう傲慢さを最低限持っているもんだ。それがお前らには無い」
いざ話し始めれば立て板に水で、彼の言葉はよどみない。
自信か。そりゃそうだろうな。
んなものそこに無ければ無いですね。
これは昨日黒井さんに対して思ったことと一緒で、そもそも僕らには裏打ちが無い。
『自分にはそれができるのだ』という自信こそが、能力を行使する際に最も必要な素養。
先生や……たぶん鹿伏さんみたいな、地球に居た頃からなんとなく大体人並みにできたタイプの人たちとは違い、僕らはまあ不器用な方だ。
委員長は天才というよりは努力の人だし、手段を選ばないというのは言い換えると要領の良いルートをその都度選ぶ事ができないという事でもある。
おそらく黒井さんは人付き合いの苦手さがわりと顕著で、僕はオールラウンドになにもできなかった。つまり逆マリオだ。縛りプレイ専用キャラか?
そんな僕らの僕抜きが今やゴブリンだの大モドドラゴンだのを倒せる、倒すだけの技量を手にしているっつっても……それが真に身体に馴染みきるまでは自信には繋がらない。
これができますか?と問われて、ハイと感覚的に答えられる域に到ってない。
つかそもそも僕は一人じゃ倒せないしな、自信なんかつくわけねぇだろ。こっち来てから身に付いたのは、知らない歌でも周りにあわせて楽しく歌える技能くらいだぞ。大変役立っています。歌詞覚えたらもっと楽しくなるんだろうな。楽譜が欲しいぜ。
とりあえず、転移してきたばかりの僕たちにはなによりも経験が足りない。
だから、こういう時に簡単に看破されてしまう。
借りた力でやりくりしてる、ハリボテの冒険者たちだと。
「隠し玉も無い、実力もそこまで無い……じゃあお前らには、一体何がある?」
僕には職も甲斐性もねぇしな。無い無い尽くしでやんなるぜ。
ギルマスの言葉に、先生が視線だけでこちらを見る。
言うかどうかは僕に任せるという事だろう、お願いしますと首肯しておく。
こんな分水嶺でも、生徒の自主性を重んじようとするんだから、すげー先生だよやっぱり。
「それに、そこのお前はたしか水晶にヒモと判定された男だろう? 情夫を抱えてお遊び気分で冒険をしてるような奴らに、本当に走狗が倒せるのか……?」
おっと……わかりやすいほど露骨な煽りだ。
直前までと言ってた事が違うし、ギルマスちょっと役者は向いてないんじゃないか?
腹芸ができずとも組織の長を務められているのは、この人の実力の証明にもなるだろうが……。
ここまでくれば流石にわかる。
こちらがどれだけの戦闘力を保有しているのか、怒らせてその一端を探ろうとしているのだろう。
もしここがTwitterなら煽り耐性の無い僕は即座に顔真っ赤にしてレスバをしかけているところだが、しかしココは現実だし言われてることはごもっともなので何も言い返せない。
できる事ならヒモをミュートワードに入れときてぇよ。しかし耳を塞いでも現実は変わらないので、悪口が聞こえない無敵の男ができあがるだけなのだった。あとTwitterじゃなくXだから。
そもそもこの扱いもどれもこれも、ギルドに登録したばっかの駆け出しくん達がおそらく上位ジンオウガかなんかを狩って帰ってきちまったのがわりぃんだよな。
そらまぁ「すごいですね!」で終わらせらんないわ。
やりこみ勢の2周目プレイか悪魔猫かを疑われるのもやむなしだ。なんで津村君のゲームだけ、クエストを始めたばかりのキャンプに動かないアカムトルムが居るの?
しかし困ったのはこっちだぞ。
なんてったって僕らの隠し玉は僕の『ヒモ』だし、それをこの場で発現させるといろんな意味で僕は終わっちまう。
いやもうヒモな事バレて情夫とまで疑われてなお落ちるメンツがあるのかと言われると言葉に詰まるが、しかしそれでも他人にヒモ行為を見られたくないのは最後の一線ってヤツだろう。
最後の一線がガバすぎる、そこまで許したらもう後裸くらいしか残ってないよ。
さて、どうするか……
「ドラ猫……今、なんつった?」
あん?
とんでもなくドスの聞いた声が聞こえ、思わずそちらを振り向く。
「私の大事な生徒によォ……なんて言ったか聞ィてんだよ……なァ、ニャンコロォ……!」
!?
そこには完全に画風が変わったドスケベ衣装エルフが立っていた。
どう見ても
あぁもうやっぱりそうなんすね!?
元ヤン先生が僕らを、っつーか主に僕を手酷く侮辱されて、ハチャメチャにキレてしまったのだ!
ま、まず〜い!
このままギルマスと喧嘩になったりすると、先生のこれからに関わっちまう!
自分より顔真っ赤な人を見ると、逆に落ち着いちゃうのはインターネット外でも一緒だ。
普通インターネットに現実の方を当てはめるだろこの表現。
オタク君の悪いとこ出ちゃったな。出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでるエルフを前にしてオタク風情が何出してんだって話! アカンなんかエッチな話になっちまった! なんでだァ!?
いや多分攻撃されるの含めてギルマスは狙ってるからそこはまだ良いんだけど、問題は今の先生には僕のバフが効いてないっつーことだ!
バフ無しではトロールを倒したほどの実力があるとは認めらんないかも知れず、そうなると僕らが虚偽の申告をしたことになってなんらかの罪に問われかねない!
それだけはマズい!
就労予定の無い僕はともかく、先生やみんなを前科者にするわけにはいかねぇ!
なんとかこの場を回避しなくては……!
僕は意を決して口を開いた。
「ま、待ってくだ」
「言うに事欠いて、ウチの蒼が情夫だとォ……!? この子はそんな事やらねぇんだよ……! 私がさせねェ!!」
「いや、あの、センセ」
「ヒモだなんだとテメェらうるセェがよォ! この子ァホントは、良い子なんだよ……ちょっとヨエーとこがあっから、アタシが居てやんねーとダメだけど……。でもよ、ホントはめちゃめちゃイイヤツなんだ……それを! テメェ!!」
「あの、ホント、それくらいに」
この人全然話聞かねぇ! 生徒の為にこんなに怒ってくれるのは素直に嬉しいんだけどね!
先生も全然止まらんし、急に先生がキャラ変わった事にビックリしてみんなも固まっとるし、ここは僕がなんとかしなきゃならん!
ど、どうする!? でもこの場でできるヒモ行為ってなんだよ! ないよそんなお手軽なヒモは! ヒモは一日にしてならず! 努力を積み重ねた堅実なヒモなんて存在しないのに、なんですぐにヒモにはなれねぇんだ!? ヒモのパラドックス!
もうこうなったらヒモ行為の前に、さらに向こう側の一線を超えるしかねぇのか!? ダメだ裸になってもなんも解決しねぇよ!
完全にテンパりグルグル目になっている僕の目を見ていた鹿伏さんが目を回した。トンボより簡単に捕まえられるぞこの娘。
場が混沌としてきている!
なんか妙に眩しいし!
あ? 眩しいって何が……な、なに?
真横から結構な光量を感じ首をひねると、気づけば先生の身体が光っていた。
下を向くと僕と先生の間に繋がる、黄金色の軌跡が見える。
バ、バフかかっとる〜〜〜!?