【書籍化】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
それから楽しい時はまたたく間に過ぎ、僕らはボゥギフトへと帰還する日を迎えた。
衛星集落の入り口に停まった魔車の前で、見送りのみんなと別れを惜しみ合う。
アラノスさんを始めとした枯れた蔦の里の面々は、クランメンバーとも打ち解けてたのもあって伝えたいことは山ほどあるだろうし、他の里長さんたちだって風の方と最後に言葉を交わしに来ていた。
ただ悪王寺先輩と王城さんだけは、大量にやって来ていたエルフ娘さんたちに囲まれてサイン会や握手会の様相を呈していが。思ってたより熱量が高く刃傷沙汰にならないかハラハラしちまうけど、あまりにも二人から金貰ってるヒモが言えた話じゃ無さ過ぎるんだよな。黙っとくね。
悪王寺先輩はその辺り一回やらかした経験に学んでいるハズだが、火遊びビギナーな王城さんの方はこじれないかちと怖くもあるぜ。せっかく救った平和なエルフの森が、嫉妬の大火で燃えちゃわないことを祈るばかりだ。
「うぅ……爺はまたアオと釣りができるのを待っておりますからな……!」
「ワシもアオミが子供を見せに来るまで、後三百年は死ねんなぁ」
「エルフと違って只人族は子沢山と聞く。アオは奥さんも多いし、百五十人分くらいは釣り竿を作っておくかの」
『アオ坊は爺を虜にするフェロモンでも出しておるのか……?』
かく言うお付の下男である僕も里長の一団から離れ、側近のお年寄りたちに囲まれて涙々の人情噺を繰り広げていた。落差過ごすぎん?
しかしお爺ちゃんとはいえみなさんエルフ族のイケジジばかりだから、華やかさじゃむこうのエルフ娘さん集団に引けは取らねぇ……! 取らないから何だって話だろ。
いやまあそもそも僕なんかとの別れを惜しんでくれるのがめちゃ嬉しいんだけど、これじゃ国を救った英雄の一員じゃなく高齢化の進んだ田舎に夏休みに遊びに来て村中の年寄りから可愛がられた孫の帰宅じゃんね。
……ま、そんなら孫代わりとして、可愛がってくれた爺ちゃんたちに感謝を伝えなきゃな。
みんなが色々教えてくれて、ホントに楽しかったよ。また来るんで、そん時は他の湖とかも行こうね。たぶん三年もかかんないと思うから。あと人間ってそんなぽこじゃか産まれないよセレヴァン爺ちゃん。
高嶺の王子様や高身長アルファ女子を囲む美少女集団とぼくなつ8月31日、どちらにしろそこにある惜別の情は変わらない。
実際僕だってこの人たちと別れるのは寂しいけれど、人間ずっと一緒にゃ居られないのだ。
形は様々であれいつかは訪れる別れを前にして、人にできる抵抗はたった一つだけ。
離れた場所にいるその人のことを、忘れずに想うことだけだ。
彼方の人を想うという行為は、距離もなにもかもを無視して僕とその人を繋げてくれるハズだと、そう思っている。
そうであって欲しいと、切に願っている。
……せいぜい次来る時までに、教えられたウキ釣りの極意をマスターしておくことにしよう。『木や岩の精霊に紛れ気配を消す』って釣り人じゃなく隠密とかのやることな気はするが、しかしやったら釣れるというのだからやるしかない。目黒さんに習うか?
「……年寄り連中でさえ引き止めようとはしていないのに、私がアオミたちを引き止めるわけにはいかんだろうなぁ」
手を握るのはともかくなんか拝んだりまでしてくるお祖父ちゃんズと別れを済ますと、それを見計らったのかヴェルナード叔父さんが声をかけてくる。
その声音を聞くだけで、本当に僕たちにこのままエルフの里で暮らして欲しかったのだいうことが理解できた。
「初めて共に居てわかったが、只人族の子どもの生き方はエルフと違いかなり慌ただしいらしい。ただ逗留するのは良くとも、ここでずっと暮らすのは幼いアオミにとって、ひどく退屈なものとなってしまうだろう。……『花を見たければ百年離れよ』という言葉もある。様々な場所を歩き回って、いつかここへまた帰ってきてくれ。……ここはアオの故郷なんだ、なにかあればいつでも帰ってくるんだぞ」
ヴェルナードさんは少し寂しそうに、けれど僕という別種族を理解し、そんな風に送り出そうとしてくれていた。
最初は知らぬが故にエルフ以外のすべてを見下していた彼は、しかし知りゆく内に只人族へ深い寛容を示している。
知って欲しいと願った僕たちのことを、賢人たる彼は触れ合う中で色眼鏡を外して見てくれるようになった。
愛玩でもなく、憐憫でもなく、執着でもなく、親愛の心で接してくれているからこそ、門出を見送りに来てくれたのだ。
「もちろん、なんといっても親愛なる叔父さんたちとお祖父ちゃんがいる国ですからね。世界が平和になったら、みんなでまた遊びに来ます」
百年離れよってのは『可愛い子には旅をさせよ』的なことわざかな?
一世紀単位ってのがまたエルフさんらしいけど、こちとら気の短いヒューマンだからな。好きな人に合うのにそんなに待ってたら、老けて相手のこと忘れちまうよ。
僕らがやるかはともかく、魔王が倒されたらまたケルセデクには来させてもらうとしよう。女神様も倒した瞬間即帰宅みたいな情緒のねぇことはせず、挨拶回りの時間くらいはもらえるだろうしな。
そっちの体感時間的には拍子抜けするほど早い再開になりますよ、多分ね。
彼から伸ばされた手を取──ろうとしたら、そのままがばりとハグをされる。
みんながする締め付けるようなタイプのじゃない、がっちりと僕という存在を押し固めるような、「強く育てよ」「怪我するなよ」と願われるみたいな抱擁。
オーラなんかで繋がらずともわかるその心の暖かさが嬉しくて、思わずはにかんでしまう。返すように僕も「元気でいてください」と願って、彼の背中をポンポンと叩いた。
まったく、ますます魔王なんかにこの世界を好き放題されるワケにはいかなくなっちまったな。
人の大事なモンに手ぇ出そうってんなら、たとえヒモだとしても出来る限り抗ってやろうじゃねぇか。
人の手の及ばぬ天魔相手に人でなしができることなんて、たかだか嫌がらせくらいのもんだが……なんせこれまで他人の嫌がることなんてやったこと無いから、加減がわからずやり過ぎても勘弁してくれよ。
お前の教えてくれた『悪意』をフル活用して、お前の「して欲しくない事」を考えて動こう。
お前の悪意と僕の悪意、どっちが強いか悪意バトルしようぜ。隣人の貴重品を破壊する! つってな。
なぁに、とはいえこっちから仕掛けたりはしねぇさ。
さしあたりやる事は変わんねぇ。
バフを撒いて魔王の手足となる走狗を捥ぎ、みんなが傷付かずに済むだけのレベルアップの足しにさせてもらうくらいだ。
わざわざ相手の土俵で戦うつもりはサラサラない。悪意で肥え太った極悪ヒールスモトリとがっぷり四つ組み合ったって、毒霧で目を潰され五輪砕きからのパワーボムを喰らうのが関の山だからな。
僕が徹底するのは、お前の邪悪な目的が未達に終わるよう動き続けるだけ。ちょうどこの世界樹がそうなったように。
全ての工程が七割までしか完遂されなければ、理論上そのプロジェクトに終わりは来ない。アキレスが亀に追いつけないように、最強無敵の魔王様はいつまで経っても終わらない陰謀にかかりきりになる。
目的地まで永遠に辿り着けない、終わらない迷路を一緒に歩き続けようじゃないか。気が済むまで付き合うぜ、お前の首が勇者の聖剣で刎ねられるその日までな。
……しかし、一つそれに関して考えなきゃなんねぇ事があって。
僕はてっきり、どなたかも知らない勇者様がウチと関わりのないとこで魔王を討ち果たしてくれるものだとばかり思ってたのに、蓋を開けてみればその勇者様は、今僕の隣でどっかからかっぱらってきたナッツを摘んでいるってことだ。
……今更「そんじゃ僕らは危ないから引っ込んどくね」とは言いたくないよなぁ。
どうしたもんだか。
「なんだよ、やんねぇぞ」
「えー、一個くらい良いじゃん。お恵みくださいよぉ旦那ァ」
「しょーがねぇなぁ下賎な召使い君、ホレ」
ピンと上に向けて弾かれた豆をそのまま口でキャッチし、ポリポリと噛み砕く。へへへ、ありがとうごぜぇやす。
そら豆スナックみたいな味がする。素揚げかな? ンマイね。
「これウマイよなぁ。手土産に種仕入れたから、一粒やったお礼に向こうで栽培して収穫できたら揚げて届けてくんない?」
もしかして君ホントに僕の事召使いだと思ってない?
半個室で肉寿司出すし名前がコロコロ変わる居酒屋くらいのとんでもないぼったくられ方をしている。バ先の店長がその手の店によく当たり愚痴ってたから、無駄に詳しくなっちまったんだよな。「どうして席料が2000円するんだよ……」って言ってた。
まあ僕も食べたいし良いけどさ……目黒さんに相談しながら育ててみるかぁ。
あー、でも宿屋の庭で育てんのは迷惑かもだし、植えるにしても新居に移ってからかな。
「そういやお前を監禁するために引っ越すんだっけ? ウチもなー、あのバカが仮住まいとして連れ込み宿取りやがったせいで、違うとこにさっさと移りたいんだよね。どうせ今回の依頼の報酬で俺らも金持ちになったワケだし、ついでにどっか探しといてくれよ」
ん、了解。
僕は脳内の物件探しメモに「ご近所に嬌声の漏れない防音設備がしっかりした空き家がある」の条件を追加した。
一気に件数が絞られた気がするな……たった一つの条件で、不動産屋が頭を抱えるトンデモ客になっちまった。
しかし人様の趣味にとやかくは言えない。なんせ誰かの趣味に口を出すと、僕を飼育してる扶養主たちの趣味の良さに飛び火しちまうんでね。
他人のプライバシーには干渉しないのが現代人のマナーだ。僕はその辺りの行儀は良い方だぜ。せめて飼い主様の品位を落とさないペットで居たいワンからなァ?
「いいかい。この国は世界樹のおかげで年中暖かいから忘れてるかもしれないが、もう季節としては冬の初めだ。すまないが我が国では人間用の防寒具は用意が無く、作ろうにもこの短期間では流石に難しかった。馬車には温熱の魔導具を設置してあるし毛布も多めに準備したが、外に出たら早々にどこかの都市で防寒具を買いなさい。持たせた身分証文を見せれば、他国であれ貴族街の洋裁店に入れるはずだ。あぁ、カノはこれを帰り道でお食べ。短い道のりではないから、お腹が空いたらウチの雇った御者に言うんだよ。彼なら各宿場町のおすすめをよく知っている。オオギはまた薬剤が必要になったら、コガネイの商会を通して注文するといい。コガネイ、我が国の特産品を売りさばくのは構わないが、あまり他人の恨みを買わないように。……まあ、君にそんな事を言うのは、『葉に日向を教える』ような物だろうけれど。あっと、商会を通すといえば、アクオウジとオウシロには後ろの彼女たち以外からも、各里から手紙が山のように来ていたが、きちんと返事が彼女らへと返ってくることを期待している。乙女を誑かしたならば、責任は果たさねばならないよ。その辺りはアオミを見習うべきだね。ああ、あとミョウジョウが言ってた洗髪料だが……」
ヴェルナードさんは僕や先生と特に親しくなった感じだが、ラナスティルさんの方はクランメンバー全員の叔父さんとなっていた。
まったく途切れずに紡がれる僕らへの心配と気遣いに、ありがたいやら申し訳ないやらの気持ちでいっぱいだ。
つくづくエルフさんは身内に甘い。とはいえ流石にこれは国を救ったクランの一員に対してだからだと思うが……。
「んふふ……まったく、あなたが関わった人は誰も彼もが過保護な親戚みたいになってしまいますねぇ。こうなる原因サンはよほど目が離せない要注意人物に違いありません。見守りカメラの導入を議会に提出しましょう」
えぇ……それは冤罪じゃない?
これに関しちゃ僕のせいってより、彼らが元からそういう気質を持ってただけな気がするけどね。
ハーフエルフと和解し、他種族との婚姻についての規定を緩くした以上、これから彼らが他の種族と関わる機会が増えてゆく。
その甘さにつけこまれて搾取されたりしない様に、先生と協議の上で里長連は諸々の注意書きが書かれた新たな布告を出したほどである。
行く末を見守らず消える不義理は申し訳無いが……けれど魔王への対策を思えばそうすべきであったろうし、ボーレタラスさんのような母娘共々詰んでしまうような境遇は減った。
どちらが良かったかはこの場でわからないし、この先で起こる事についても正負どちらもあると思う。
まあ積極的に他種族を取り込む政策に転換したワケでもないし、なにより彼らは飛び抜けて長命だ。
良きにつけ悪しきにつけ、緩やかな変遷を辿って変わっていくことだろう。
「さて、名残惜しいがこれ以上足止めしては旅程に差し支えましょう。行きとは違い精霊獣ですので、揺れもマシかと思いますぞ」
「あら、ありがとうございます。たいへん助かります。ご褒美があるとはいえ、流石に数週間あの揺れは子どもたちも大変そうでしたので」
「はぁ、ご褒美、ですか……?」
「あ、いえ、こちらの話で……」
行きと同じくエルフさんが用意してくれた魔車であるが、今回は巨大多脚犬の"ポーター"を使った速度重視のソレとは違い、エルフ謹製の使役精霊獣に牽かせる安定性重視のものだそうだ。
まるで岩と蔦と風が絡み合ってできた熊のような不思議生物だが、キチンとそれぞれに自我があるらしく、地面の虫を鼻先でつついたり、足の裏で雑草の生えた耳元をくしくしと掻いたりしている。
「この、子は……何を、食べる、んでしょう、か……? ボゥギフト、でも、用意……できるもの、なら、良いのです、が……」
もちろん目黒さんは、挨拶中も気もそぞろな程この子にゾッコンである。果たして商会とかで融通して買い付けさせてもらえる類の生き物なのか……?
しかしとりあえず飼う環境を揃えにゃ話にならんので、新居の条件に「クマ型魔法生物飼育可」が追加された。
これを用意できると断言する不動産屋が居たら、ソイツは未来デパートと伝手があるか原野商法をしかける気かのどちらかだろう。うーん、クマったンゴねぇ……。(季節は折しも冬)
「ああ、子猫ちゃんたち。キミたちとの別れを思えば身が張り裂けそうだけれど、もう時の鐘は終わりを告げている。甘い夢はフィナーレを迎えた。いつもの日常へとボクらは帰らねばならない。でも、またいつか再び、夢の中でキミたちと逢える日を待っているよ……うぉわっ! 馬車ん中あっっっっつ!! サウナじゃん!」
「うむ! 余も貴君らとの逢瀬、まことに楽しかったぞ! 正直忙しなくなれば手紙は必ず返せるとは限らん、しかし頂いた物は常に大切に仕舞って読み返そう! いつ来れるかは約束できぬが、世が泰平となった時、また遊びに来る! では、さらばだ!」
このまま引っ張られてエルフの里へ連れ戻されるんじゃないかと思ってたナンパ組二人もスーパー修羅場をなんとか切り抜けて、別れを惜しむ彼女らを振り切って馬車へと乗り込んだ。
……これ当初の予想と違い、予後が悪いのは悪王寺先輩の方じゃないか?
王城さんは欺瞞を嫌う性格上わりとあけすけっつーか、明快でスパッとしてんだよな。
反面、最後まで劇の中で幕を引こうとする先輩は、彼女らの中に理想像を作り上げたまま放置する事になっちまうのがね。マジで手紙の返事とか無いと拗れそうだぞ。
なんか地球でも自分の中の
しょうがない、先輩のお手紙執筆に関しちゃ僕も手伝わせてもらうか……エルフさんの気の長さからすりゃ、たぶん文通も数年に一回くらいの頻度になるはずだし。
「皆様方……この度はケルセデクを救ってくださり、本当にありがとうございました! ……また再び会える日を、我が国のエルフ一同楽しみにしておりますぞ!」
馬車へと乗り込んだ僕らへと深々と頭を下げるアラノスさんや、手を振る知り合いたちへと、僕らは馬車から身を乗り出し手を振り返す。てかマジで中暑ぃね!! 暖房は外出てからで良かったかもです!
国の救世主を一目見ようと各里から集まったエルフが通りの両脇を埋める様は、まるで祝祭のフィナーレを飾るパレードのようだ。
お、後ろの方にマグニフィス兄弟もいらぁ。
二人は冬避けて春までここに残るらしい。とは言いながらも、くっついたらそのままココに定住すんじゃないかなと薄々思っている。
上手くやるんだよ〜! 四人とも元気でね!
こうして多くの人に見送られながら、エルフの国の抱えた問題をなんとか解決した僕たちはボゥギフトへと帰還するのだった。
いやぁ長い冒険だったぜ、なんか一年くらいココ居た気がするな……。