【書籍化】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
次の投稿はたぶん一週間後の予定。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
※「【64】 帰郷」にて書かれたサーシャのクラン名について、話の都合上変更が入りました。
「わっ、わわっ!」
「っと、危ないよぉ」
積もった雪が解けて薄く凍りついた地面に足を滑らせそうになるも、首元をむんずと力強い手が掴みあげてくれたおかげで転倒を免れた。
あーぶね、ありがとねサーシャ姐。
「他所から来た人は、雪道の歩き方が下手っぴだからしょーがないよぉ。ま、ボゥギフトに染まったアオなら、これもすぐ慣れるだろうねぇ。そのスライムダウンも、よく似合ってるしぃ……?」
目を細めて耳をピンと立ててこちらを見つめる彼女の後ろに、餌を前にした肉食獣が見えてしまうのだが、これはスタンドに目覚めたってことで良いのか?
完全にストロングスタイルな近距離パワー型なのに、逃げ隠れしても嗅覚を使って見つけてくるタイプっすね。敵として出てきて一番苦戦するパターンの強キャラじゃん。
「美味しそうだしぃ……」
おっ、ホント? いややっぱ我ながら最近筋肉付いてきてると思ったんだよなぁ。
そうやって肉付きの良さ褒めてもらえると、やっぱ自信になるっていうか実感湧いて嬉しいっすねぇ。
「あー、うん、そうそう、その通り、良い体になってきてるよぅ」
うんうん、そうだよね、他意はないよね。人と人との関係って信じるところから始まるんだからね。
じゅるりと口元を拭ってそう言うサーシャ姐に連れられて歩く久しぶりの楠通りは、カラリと晴れた日差しが道に積もる雪に反射して眩しく、なんだかきらめいてとても清々しくたいへん気持ちがええンゴねぇ。
なんとなく湿度が高く感じるけれど、これも恐らくはボゥギフトの冬季における気候的特徴なのだろう。
いろいろ旅するのも楽しいけど、やっぱ地元が最高なんだよなぁ〜!(日本生まれ日本育ち)
ケルセデクより僕らが帰還してから、早くも数日が経過していた。
今こそ晴れているが、到着したばかりの冬本番を迎えたボゥギフトは、しんしんと雪が降りしきって夏の頃とは全く違う顔をしており驚いたものだ。
普段底抜けに明るいヤツがふと一人で居る時を見つけたらなにもかも諦めたような冷たい目をしてて、『お前そういう顔もできんのかよ……』つってドキリとしちゃうような二面性があるね。エチチチチチチッ……ボッ! 街見てエッチコンロ点火しないでくれ。性癖壊れた放火魔か?
まーそんなワケで今だって気温も低いったらないのだが、しかしギャラクティックノヴァに狙いがあるように、僕にもマイニューギアがあった。
帰郷後、宿に荷物を放り出した後僕らはまず真っ先に洋裁店へ向かい、注文していたスライムダウンを受け取ってあるので、今や防寒は万全なのだ。あったけぇったらねぇぞコレ。オススメです。今年の冬はこれがマストだ。ガイアが君にもっと着込めと囁いている。
まあ僕以外のみんなはなんかバフ効いてりゃべつに無くても平気そうな耐寒性能をしていたが、三学期でも半袖短パンの男子小学生じゃねぇんでそこはみんな喜んで着ていた。
冬には冬らしい服着てた方が気分もノるもんだしね。
流石に年がら年中絶対領域やら鼠径部やら晒してちゃあ目立ってしゃーないからな。てか夏であってもソコ見せるのはちと露出過多じゃない?
用意されていたスライムダウンはなんなら地球でも通用しそうなくらいしっかりした造りで、スライムの被膜に詰め込まれた大玉雛の羽毛が断熱と保温の役割を果たし、これさえ着てれば雪道でのお散歩もホコホコな優れものであった。またデザイン性も良く、モコモコに着込んだ女の子が好きな僕をして白眉と言わしめる、大変素晴らしい代物である。
カラバリもね、基本が白なだけでそれぞれカスタムできたんで、みんな思い思いの色や柄にしててめちゃ似合ってんのよね〜。
鹿野ちゃんのネイティブ柄なんかスゲー良い。見てるとゆるめのキャンプに行きたくなるぜ。スポーティーな子には山系のファッションをさせよと、古事記と多分ananとかにもそう書いてあるらしいからな。どっちも読んだことないから知らんけど。
そんな逸品がなんとカスタムコミコミで一着銀貨5枚! 今なら替えのボタンと中綿スライムバッグもお付けして、大奉仕特価価格でのご提供だ。ご入用の際はぜひドラウ洋裁店へ。(※これは広告です)
で、そんな防寒対策バッチリな僕が、それでもできたらお家でぬくぬくと過ごしていたくなるこの季節に、わざわざ競魔仲間の銀髪狼獣人お姉さんと何処へと向かっているかというと。
近く僕らが予定している、大きな買い物のための下調べであった。
プライバシーや部外秘な情報もあるだろうし難しいかと思ったのだが、断ってくれて全然構わないと前置きした上で話を持ちかけたところ、彼女は数秒考えた後に満面の笑みで快くオーケーしてくれたのだ。ありがたいね。
「あーい、着いたよぉ」
先導してくれていたサーシャ姐は、僕らの常宿である『斑猫の尾』よりも大きい建物の前で足を止める。
おわ、昼間に見るとかなりデッカいね。なんならそこらの商館くらい立派だぞこれ。
いやこんな大きかったのかぁ。前にサーシャ姐を送って来た時は、真っ暗でほとんど見えなかったからな。
「んふふ、その節はどーもねぇ。ウチらはまだまだ銀級だけど、メンバーの人数だけは結構多いからさぁ。全員で出しあって、数の力でなんとかしてんのよ。……では改めて、 ようこそ我が家『銀狼王の旅団』クランハウスへ」
そう、僕らが引っ越す予定のモノ(クランハウス)の一例を、先達に見せてもらいに来たのである。
◇ ◇ ◇
「あん? サーシャ、その只人族誰? ……あー! この子がウワサのヒモ!? アンタがお熱の!?」
「えぇー、これで金級? 見えないけどなぁ。只人族は得意が分かりにくいんだよね。君獲物は何使うの? その腕で威力出せる?」
「んもー、うるさいなぁ! シッシッ、近寄んじゃないよぅ! アンタらには用無いんだから、ほぉら散った散った! アオに失礼働いたら承知しないからねぇ!」
招き入れられたハウスの中は、まず入ってすぐが食堂や酒場の店内みたいなホールとなっていた。
とはいってもカウンターやキッチンがあるわけではなく、単にいくつかのテーブルが並べられているだけなのだが、そこで酒瓶片手に大声で笑ってたり卓上遊戯で遊んだりしてる人がたむろしていたから、そんな風に感じてしまうのだろう。
談笑に耽っていた彼女らは、みな一様に銀色の耳をピコピコと動かしてこっちを覗き見ると、揃いの脚絆を動かして近付いてくる。
知らない顔が多いな。
他の街への出張組も雪の間は帰ってくるものなので、ボゥギフトの冬というのは再会と出会いの季節でもあるのだ。どーもどーも、初めまして。
クラン『銀狼王の旅団』はサーシャ姐んとこみたいな銀狼族のみのパーティー複数から構成されたクランで、彼女らはこの集まりを一言"群れ"と呼称することもある。
だからココはいわば彼女らの群れとしての家であるのだが、数十人を収容するサイズの家とはこんな風になるものなのだ。
なるほど、なるほど……この時点で、クランハウスというのが僕の想定とはかなり違うものだという事が理解できた。
恐らくこれは家でいうところのリビングに当たるところだと思うが、それがこうも大きな寛ぎスペースになるとは考えていなかった。
サーシャ姐も『銀狼王の旅団』はクランメンバーが多いと言ってたし、それぞれのクランの規模感にもよるのだろうが、これはどちらかと言えば家というより寮だな。
僕がほんやりと考えていたのはなんとなく大きめの豪邸って感じだったんで、その時点でかなりの乖離があったワケだ。
こういうのがあるから下見ってのは大事なんだよね。危うく不動産屋で「都内の1LDK予算三万円内でありますか」みたいなこと言って失笑を買うところだった。
だてにこちとら思い込みでかいた恥は10や20じゃ済まねぇ社不してねぇので、今まで経験したことのない何かをする時は慎重になる。
なんせ服の大きさのMサイズのMを『真ん中』の頭文字のMだと思っていた男だからな。マニュアルは流してきた冷や汗で書かれてんのさ。
そしてもちろん参考にすべきは建物のことばかりじゃあない。
そこで暮らすことになる僕らの直面するであろう問題や悩みも、ここにいる人たちが既に経験している。そういう話もね、色々聞かせてもらえればと思って今日来させてもらったワケよ。
そんなワケなんですが……。
住まう彼女らも含めたここの在り方を見ている僕の周りを、サーシャ姐と同じ一族らしき銀髪長身の狼獣人さんたちが取り囲み、しきりにフンフンと鼻を鳴らしてニオイを嗅いでいる。
いやわかるよ、獣人さんはね、全員が全員じゃないけどニオイで人を計るとこありますもんね、ただいっぺんにこんな人数でされるのは初めてかもな。
なんかこうして改めて嗅がれると臭いんじゃないか心配になるぜ、変に緊張してさらに汗かいちゃいそうでこえーや。
……てかなんか女の人多くない?
サーシャ姐のパーティが女性の銀狼族ばかりというのは聞いてたけど、まさかそうじゃなくて銀狼族は女性ばかりって話だったんじゃねぇかコレ。
「ふぅん、やっぱあんま強くなさそう」
「てか君料理とかばっかしてない? そういう匂いの方がよっぽど残ってるんだけど。招待のお礼に後でなんか作ってってよ」
「サーシャも変わった趣味してんね」
僕の身体の隅々まで存分に嗅ぎ回った後、思ってたのと違ったのか集まってきた二十人近い銀狼族さんたちは口々にそんなことを言うと、つまらなそうに散らばっていった。
どうやらお眼鏡……っつーかお鼻にかなわなかったらしい。もうちょっと筋肉と血と鉄のフレグランスまとって来た方が良かったっすかね。しかし普段使いするにゃちと血なまぐさいぜ。ジェイソンくれぇだろそんな香り漂わせてる奴。
しかしまあ、どこまで理解られたのかがわからないのが、この手の獣人さんとのコミュニケーションの怖いとこだ。相手の抱く考えは推察できても、相手がこちらをどれだけ理解しているかを見通すことなどできはしない。昨日『冒険者と魔物』で銀貨5枚溶かしたヒモ特有のニオイとかはしてなかっただろうな?
「ふふん、わかってないなぁ。ニオイだけで只人族を判断するのは二流もいいとこなのに。ねぇ、アオミ?」
眉をヒクつかせながら呆れたような声音で、サーシャ姐がヤレヤレと肩をすくめた。
その尻尾の振られ具合から察するに、『素人は黙っとれ……』的得意さ半分、自分の友人を貶された腹立ち半分といったとこか。
まあ風呂キャン勢にだって当然良い人はいるから、彼女の言う事にも一理あるか? わかんない、そういう話じゃないかも。嗅覚よわよわ只人族には一生謎な感覚なんだよな。
「……ま、多少は鼻の利くヤツも居たみたいだけどぉ?」
そうして残ったのは、未だに僕を嗅いでいるパッツン目隠れ銀狼さんと、壁にもたれて腕を組んで立ちこちらを睨むカウボーイハット銀狼さんだった。
てか後者は知り合いである。今日 変わらずもあまりにもわかりやすくクールだ。どうも、お久しぶりっす。
「おい、サーシャ。あまりコイツには近付くなと言っただろ。よりにもよってなぜクランハウスにまで連れ込んでいる」
「えー? まだそんなこと言ってんの、ファラ。だからアオは悪い子じゃないってぇ。というかウチが案内するだけなんだから、二人とも気にせず過ごしといてよぅ」
「どうだかな、簡単に誑かされたお前の言葉は信用ならん。まあその点、間近で見れるこの機会は都合が良いとも言えるか……今回この場で、貴様のことを見定めさせてもらうぞ」
「んもー、ホントに話を聞かんねぇこの人は」
ま、ま、ま……ファラさんのご懸念もごもっともですから。
仰る通り、これは良い機会です。この日をもってファラさんにサーシャさんの友人に相応しいと認めてもらえるよう、頑張らせていただきますよ。
「フン。頑張らねば友人でもいられない程度の男か、お前は」
そりゃもちろん、サーシャさんは素敵な人ですからね。
他の人ならともかく僕なんかじゃ、『友人でござい』と大口叩くのも気後れしちゃいそうなとこはある。
けれど大切に思っている相手だからこそ、未熟な自分でも釣り合いが取れるよう努力するんだ。
それってとても自然な話でしょう?
「……口が回るヤツは怪しい、10点減点」
マズい、正論だ。釈明のしようがない。
このカウボーイハットを被った銀狼族はファラさんといって、サーシャ姐のパーティー『白銀の狼』のメンバーの一人。妹分であるサーシャ姐が酔い潰れた状態でどこぞの馬の骨に肩を貸されて帰ってきて以来、ヒモに厳しい目を向けてくる仲間思いな良い人である。
これは実は当たり前の話なのだが、大切な仲間にヒモが寄ってきていたら追い払った方が良いとされています。
彼女は飲みはするけど馴れ合うのを嫌うから酒場に来るタイプじゃないし、町中で顔を合わせても警戒されて挨拶も早々に去ってしまうので、挽回の機会もなく僕に対する初対面の悪印象がそのまま保留されちまってたんだよな。
こうしてお話する時間をもらえたのは、まったく願ってもない幸運だよ。
サーシャ姐のお知り合いとは、ぜひとも仲良くさせてもらいたいもんな。良ければいろんな話を聞きたい。例えば普段のサーシャ姐のこととか、銀狼王の旅団のこととか、もしも聞かせてもらえるならばあなたのことも。
「口が上手いのが減点対象になるなら、アオミは点数残んないよぅ。公正な審査とは言えないねぃ。というかそんな減点方式じゃあ、まずファラが無愛想で100点引かれちゃうじゃない」
「お前なぁ、私は危なっかしいお前のことを考えて言ってやってんのに。……というかルゥはいつまで嗅いでんだ、つーかどこまで深く行こうとしてんだよ。失礼だろ初めて会った人にそんなゴリゴリ踏み込んだら。そいつは危ないから離れろ、噛まれるぞ」
未だに僕に鼻先をくっつけて……というか襟元掴んで首の付け根に鼻押し当ててニオイを嗅いでいるパッツン目隠れ銀狼さんを、ファラさんが羽交い締めにして引き離してくれた。
あ、これは流石にやり過ぎだったんだ。ありがとうございます、あと噛まないです。
いやぁ、只人君はこのコミュニケーションってどこまでが適正範囲かわかんないんすよね。
……ん? というか時々サーシャ姐もこれくらい深く吸い込んでません?
仲良ければオッケーなんかね。ピシガシグッグッみたいな。
「あー、そんなぁ……でもニオうんだもん、この人」
マ、マジっすか?
いやすみませんキチンと身体洗ってるし服も清潔にしてるつもりなんですけど。
「ん? あぁ、違う違う。臭いワケじゃなくて」
慌てて距離を取り自分の匂いを嗅ぐ僕に、パッツン目隠れのルゥさんは固められたままで手をフリフリと横に振った。
そして自分の鼻先をくにくにと押すと、思い出すように息を吸い込んで、ゆっくりと吐いてからこちらを見る。
「……危ないというか、興味深いニオイがするんだよに」
隠された髪の向こうから、見透かすような視線が僕を射抜く。
人の認識では到底理解できぬ感覚器によって知り得た情報で、彼女は僕という存在を理解している。
二ヘラと歪められた口元には、肉を毛皮ごと噛み千切るだけの鋭さを持つ牙が覗いていた。
「普段から鼻の利かないお前がなにを言ってるんだか。おら、お前はコッチだよ」
そんな意味深なルゥさんの発言をろくに取り合うことなく、ファラさんは僕の首根っこを掴んで持ち上げて歩を進め始める。
しかしその向かう先は先程入ってきた玄関ではなく、奥へと続く廊下であった。
「ほらサーシャもさっさと行くぞ。手早く用事だけ済ませてコイツ追ん出すんだから。で、結局何が見たいんだ? 言っておくが、クランってのはパーティーみたいに簡単なもんじゃない。お前が適当な話を持ち帰れば全員が不幸になることを肝に銘じておけ」
そうして、馴れ合いは嫌うが先輩冒険者としての良識があり大変面倒見の良いファラさんは、その後率先してクラン運営についての知見を僕へと授けてくれ。
どうしてか後ろについてまわってきたルゥさんが、適宜補足をしつつ細やかな気付きも含めて教えてくれるのだった。
「危ないのはどっちかっていうとオメーらの方だよぅ……」と小さく呟くサーシャ姐の声が、僕の質問を更に掘り下げて子細な解説をしてくれる二人の背後から聞こえた気がした。