【書籍化】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部本当に励みになってます。
ぜひどんどこどんお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、どんな話が求められてるかの参考にもしていますので……。
「うーん、たしかにちょっと古いかな〜。ダメとは言わないけどさ、ここじゃなくても良いって感じだよね」
許容範囲内ではありますけど、仰る通り年季が入ってますね。
新築なんて贅沢は言いませんが、どうせなら皆にはも少し綺麗なトコに住んで欲しくもあるなぁ。
あと庭の日当たりがちょいと悪いので、洗濯物も乾くのに時間かかりそうってのもマイナスポイントです。自分だけならともかく、みんなの衣服が生乾きなのは許せないタチなんで。みんなにゃ清潔な服で気分良く生きて欲しいですから。
『うむうむ、家選びはそういう生活に根付いた視点も大事じゃからのぉ。住んでから気付いても後の祭りじゃし、よう気付いたなぁ坊。引っ越し経験者か?』
おっと褒められちった、経験が生きたな。褒めてくれたので後でジュースを奢っちゃおう。でもフィルルエルさんにジュース買ったところで、飲むのは結局僕なんだよね。
たしかに引っ越しは経験したことありますけど、たいそう昔の話で記憶も曖昧なんで、それよりはむしろ家事に慣れてるとこが出た感じっすね。
生乾きの服ってテンション下がるし、正当な怒られが朝から確実に発生するので身が固くなっちまうんだ。
ま、ともかくここも一旦保留で。次行きましょ。
■
次の建物は商館というより、商家の店舗色の濃いトコのようだ。
大通りに面した二階建て、1階は半分以上が商品展示を兼ねた店舗スペース予定だったらしい。
まあしようと思えば店舗スペースをクランハウスのエントランスにするのも、人数的にはギリ行けなくはない。
なくはないが……狭くね?
問題は結局狭さ、つまるところ部屋数の少なさだった。
全員個室にするにゃああまりに足りておらず、基本的に相部屋で暮らしてく事になるってのはちょいと頂けないわな。
バ先の大学生だった先輩が、仲の良い友人と家賃の観点からシェアハウスして、最終的に大きな破局を迎えたという話は、未だ僕の心に大層衝撃を残している。
いくら仲良しさん同士とて、僕ら人間はどこまで行っても動物なのだ。最低限のパーソナルスペースという縄張りが被った状態で生きていくには、それこそ血の繋がりでもなければ難しい。
「こ、コンパクト、で、良い、です、ね……ココ……私、は、好き、です……」
そんな小さな部屋の、申し訳程度のクローゼットに入り込んだ目黒さんは、ほんの僅かに開いた扉の隙間からこちらを見詰めている。
「……同じ部屋で寝泊まりして夜中に起きて見た景色がこれだったら、ボクはまず間違いなく翌朝からスキルで透明化させた布団を干すことになるね」
んー、小さくなって収納の隅っこに収まってる黒井さんめちゃくちゃ可愛いですけどねぇ。
「おっ、お、おおお姉ちゃん、と、一緒に……は、入り、ます、か……?……おと、弟、君」
僕の視線に気付いた彼女は、隠しきれないほど照れながらも、薄く開かれた扉から手を伸ばしおいでと手招いた。
瞬間、脳内に溢れだした存在しない記憶──!
夜。部屋の隅で泣いている自分。
ゆっくり開かれた押入れ。低い位置にある大きな縦の瞳。重なった布団の隙間から、ぬぅと伸びる長くて白い大きな手。
掴まれるがまま、抵抗すら忘れて引きずり込まれた暗がり。布団による苦しくない程度の圧迫感。熱で蒸されて篭った、穏やかで落ち着く停滞と近しい人の匂い。
彼女はゆっくりとした、このまま取り込まれ吸収されるのではと錯覚してしまうような、覆い被さるみたいな抱擁をしてくれる。その眦は、滲み出るような涙で艷やかに濡れている。僕はきっとこの後、僕のためにも泣いてくれている彼女の優しさに、今まで溢せなかった涙を流すのだろう。
部屋の外に何があるのかを忘れて、僕の世界は彼女と自分だけになる。そうなってしまうに足るだけの憐憫と慈愛を、僕はもらったから。
それさえ貰えるのなら、もう他には何も要らなかったから。
そこでハッと我に返れば、まるで同じ幻覚を共有したかのようにこちらを見つめている目黒さんと目があって、どちらともなく気恥ずかしくて視線を逸らす。
片方はいまだクローゼットの中からこちらを覗く現代怪異みたいな状態だがそこはまあ些細な事だ。
定期的にこのカットイン入るけど、こんな何回も無いデータを無理やり脳みそにブチ込まれて大丈夫なんスか? 絶対なんか悪影響あるって。
後付けでMOD導入やらアプデやら繰り返してるゲームみてぇに、いつかバージョン違いとか起こして記憶がクラッシュしたりしそうで怖いんだよな。
定期的に整合性のチェックとかしとこう。ちょうど僕の中に僕の意識を有しないもう一人が居てくれる事だしね。いざという時に頼む先ができて良かったわ。
「むぅ、またなんかキミらだけで通じ合ってる。後でその海馬に直接記憶流し込むやつ、ボクにもちゃんとやってよね」
先輩さえよろしければ、喜んで。
喜んでやっていいのか? 明文化された言葉として改めて聞いたらやってることゴーストハックじゃん。
ただこれなんか身体に、というか脳に悪そうでちょっとやり過ぎるのは怖いんですよね。
「いいや、キミは体に良い!」
そうなのか……? この人に大きな胸を張って自信満々にそう言われると、なんだかそんな気がしてくるな。
「とにかく、こんなとこに10人近くも住んだらタコ部屋だよ。立地はいいけど却下。次行こっか」
■
あ〜、いや……そうっ、ですねぇ〜。
みんなが『是非ここが良い!』と言うならもちろん、もちろん否やは無いんですけど。
ただぁー……ココ、はぁ〜、その〜……ゴードンさんの酒場と競魔場から、あまりにも離れ過ぎててぇ〜……。
「うんうん、良い傾向だね! そういう風にワガマ……いやこんな可愛いのがワガママなもんか! 愛らしい意見はもっとどんどん言っておくれよ! じゃあここは無しで次へ行こう!」
「……んふ、ふふふ……次、行きま、しょう……ね」
『んん? そういえば以前から言うておったが、そのケイマとかいうのは一体なんなのじゃ? ふむふむ……この時代のギャンブル……なに、そうか、坊は賭け事が好きなんじゃな! ほうかほうか、おのこらしくて良いではないか。後で婆のあげた世界樹の木の実でも売って、そのお金で遊んでくるとええ』
こ、心が……! みんながヒモに理解があり過ぎて、良心が痛む……! 誰か僕を叱ってくれ……!
◇ ◇ ◇
「んー……案外バシッと決められないものなんだね。ボクって、服とか悩むとどっちも買っちゃうタイプだからなぁ。アレもコレもとはいかないこういう買い物は、思いの外得意じゃなかったんだな」
歩くのにくたびれて入った食堂にて、片肘をついた悪王寺先輩は果実水を飲みながらそんな風に呟いた。
結局あの後もいくつかの屋敷を内見して回ったのだが、四人全員満場一致でココが良いとなるものは無かったのだ。
『時間掛けて乗り合い馬車乗ればいいだけなんだから、オメェのワガママで飛ばしたトコにしろよ』と言われるかも知れないが、あっこは西門近くだから冒険者ギルドからも斑猫からも遠いんだよね。
今までみんなが築き上げたコミュニティがわやになっちゃうのは避けたいという思いが、僕の中にはあったのだ。けして競魔と宴会の事しか考えていなかったワケではない。
……本当にそうだったのになんか言い訳がましく聞こえるな。ヒモの『基本信じない方がいい』という固有特性によるものだろうか。自分の信用の無さをヒモに責任転嫁し始めたらおしまいでは? ヒモになった時点で初めからおしまいです。
ともかく、家を買う事自体は嬉しくとも、そこに至るまでの準備というのは案外面倒というか気疲れするもので、僕と先輩と目黒さんの口から同時にはふぅとため息が漏れた。疲れちったね。
ちなみにこの三人(+脳内のじゃロリエルフ)なのは、ぐっちっぱ(地域性)の結果である。あんな熱いグループ分け初めてだよ。みんなの願掛けにより、あの一瞬だけで僕の財布に銀貨が10枚くらい増えたからな。あの、無駄遣いはホントにやめた方が……。
この前のサーシャ姐のクランハウス行く時もそうだったんだけど、なんかここんとこ妙に僕とおでかけする時の同行枠取り合いが熾烈になってきてんだよね。
多分なんですが、監禁が本格的に始まる前の駆け込み需要起きてんですよねこれ。締め付ければ締め付けるほどに飼い主側の自由度が減ってしまう、囚人(収監される予定の為)のジレンマだ。
[聖:うーん、色々見てたらなんだかどれが良いのか分からなくなっちゃうわねぇ]
[プリンス:それなりに良さげなのはあるんですけどね……やっぱり大きい買い物だから、心から納得できる物件にしたいじゃないか]
[ミニスナックゴールド:仰る通り。無論いくつかご用意することは可能ですが、一つの街にあっちこっちと居を構えるのも馬鹿馬鹿しい。後悔しないと思える場所を探しましょうねぇ]
脳内通信を見るに、どうも他のグループのみんなも決めかねているようだった。
ま、なんせ家なんてのは、そもそも現代日本なら数十年単位でのローンを組んで買うような、一生の買い物だ。
それをたかだか一日やそこらで決められるという考えが、まず甘かったのだろう。
なぁに、時間はたっぷりあるんだ、のんびりと決めればいい。
今日駄目だったら明日、明日駄目なら明後日は宿の厨房借りて手作り餃子パーティーでもやんべ。物件探しばかりじゃ飽きるからな。
なんせ今は冬。ボゥギフトそのものが活動を極めて緩慢にする、緩やかな休息の季節。
春を迎えて帝都に駆り出されるまで、それこそ持て余すくらいに暇がこのあとギッシリと詰まっているのだから。
「お? オウ、アオミぃ。なんだこっちで会うとは珍しいじゃないかお前……あ! そうだそうだ、丁度よかった。オメェに話があんだったわ……っと、仲間連れか」
見知った顔がそんな風に声をかけてきたのは、選考基準から一段落ちるが候補自体はまだ無いことは無いので、午後はそっちを回ろうかと話がつきかけたところだった。
や、ジャックスじゃん。
そっか、そういや勤め先の本店はこっちの方だったっけ。
「人と居る時にワリィな、また今度にするわ。なんかよ、お前がでけぇ家探してるとか聞いたもんだから、その話でさ。ま、急ぎではねぇから、ほいじゃあ……」
おっ! ちょっと待って待ってジャックス! それめちゃくちゃタイムリーかも! 詳しく聞かせてもらえる?
「あぁん? いいのかよ、そんな女待たせて話しちまって……あ! え、女!? って事はもしかして!?」
「あ、旦那クンがいつもお世話になってます〜」
「あ! えー!? マジか……! そ、そりゃこっちのセリフで……お、おいアオミちょっと来い……!」
ジャックスはヒラヒラと手を振る悪王寺先輩へしどろもどろに挨拶を返したかと思えば、慌てたようにこちらを向くと強引に肩を組んで、ヒソヒソと声を潜めて話しかけてくる。
「お、おめぇアオミ……! なんだおま、ヒモってお前、こんな美人相手だったのかよ……! 羨ましいなテメェ今度詳しく教えろ……!」
あ、そっかぁ。
近所に住んでる人には軒並み知られてんだけど、酒場でしかあんま会わない相手は僕が誰に養われてるかまでは知らなかったりすんのよね。
ごめんごめん、今紹介するね。
こちら悪王寺先輩、僕の大切な人。
で、こちらが目黒さん、同じく僕の大切な人。
二人とも、彼はジャックスって言って毛織物のお店に勤めてるんだ。
そうそう、そういやマフラーとかも取り扱ってたハズだし、今度一緒に寄らせてもらおうか。
「へぇ! それはイイね。どうぞよろしく」
「ひぇっ……あ、う……どぅ、も……」
「は、はえ? ふ、二人……? 二人とものヒモ? す、すごい……もう俺お前がわかんねぇ……」
あ、そっかぁ。(2度目)
多人数に養われてる事も言ってなかったかそういや。
まあそういうことなんで、そういうことだと納得してくれ。僕だってどうしてこうなってんのかはわかんねぇからよ。
「まあまあ、それは一旦置いといてさ。ほら、座って座って。……で、家の話っていったいなんなのさ」
「あ、あぁ……そう、家の話、家の話ね……あー、うん、そう、そうだった。衝撃的過ぎて全部忘れるとこだったわ。アオミがなんかでけぇ家探してるって、サーシャさんから聞いてよぉ。そんだらアソコはどうなんだって、一つ心当たりがあってだな」
未だ衝撃が飲み込めないのか、僕ら三人の間で視線を迷わせている彼をとりあえず向かいに座らせて、話の続きを促す。
この関係について詳細な説明求められても困るからな。
さっさと話を進めよう。
「あー、そうだな。まずなんだけど、お前ってエスターテんとこのご隠居はたしか知ってたよな?」
はいはい、角牛族の。なんだっけ、小麦問屋されてるんだっけ? 人の良い上品なおじいさんで。
「そうそう。いや今でこそああだけど、若い頃は中央街で知らぬ人無しのやり手でさ、『業突張り』のエスターテなんて呼ばれてた怖い人なんだぞ。あ、でもこれ俺が言ったのは秘密な。聞かれたら昔に戻って雷落とされちまう」
へぇー! あーんな優しそうな人なのに? 想像つかないや。
「年ってのは
はぁ。でもまだお家は小麦問屋されてんでしょ?
例え先代さんが建てたモノとしても、ホイホイ余所者に屋敷なんて貸すのを許すとは思えないんだけど。
「いや、それが当時から今に至るまで、だーれも使ってないんだなこれが……あと貸すんじゃなくて購入。一個の条件さえクリアできれば、格安で売り渡すってご隠居は常々言ってんのよ」
えぇ……? あまりにも美味い話過ぎない?
疑うワケじゃないけど、なんか裏が無いと成り立たないでしょそんなん。いったい何さその条件って。
「それがな……
そう言って彼は、両手を胸の前で垂らした。
それを見た僕は「あ、そのジェスチャーって異世界でも共通なんだ」なんて、どうでもいいことに頭が行ってしまう。
結局、つまるところ彼が言いたいのは。
「つまり、エスターテの小麦御殿は『幽霊屋敷』だってことさ。……なんだ、怖がんねぇのな。まあ冒険者なんかやってりゃ、レイス系の魔物で慣れたもんなのか?」
僕どころか女性陣二人もケロリとしているのを見て、彼はなんだか肩透かしを食らったような顔をする。
まあこちとら墓地ん中に凸して、ホラー系の魔物類全部網羅したみたいな死者の群れ率いたガイコツの王様と戦ってますんで……。
「譲渡の条件はその除霊だよ。なんか神父様でも祓えないんだかなんだかで、成仏しないらしくてな。これで周囲に害を及ぼすとかなら、流石に教会が威信賭けて放っとかないんだろうけどさ。どうもその幽霊はエスターテ家の血縁者が屋敷に入らなきゃ、なーんもしないらしいんだよ」
……ま、商人なんかやってると、どうしたって薄ら暗いとこが出て来るもんだ。
恨みの一つや二つも買わなきゃ一人前の商人とは名乗れない、なんて言い草もあるくらいだからな。
やり手だった現役のあの人なんて、俺にゃあ想像もつかない修羅場をいくつも潜って来てんだろうぜ。
わざわざそこを腐したり揶揄したりはしないが──それでも、そんだけの深い恨みを抱え続けることを思えば、屋敷を手放してでも解放されたいだろうさ。
そんな風に語るジャックスは、普段の軽薄で陽気なソレとは違う、厳しい商売の世界で生き抜く男の顔をしていた。
「そんで今は、ご隠居がキチンと教会に依頼し結界も建てて封印してるから、触らない分には大丈夫ってんで教会側も下手に手出しせず、なんだかんだそのまんまなんだってよ。……で、アオミなら冒険者から教会関係者まで顔も広いし、その手の伝手を使えばもしかしたら──と、思って一応話持ってきたワケだ。どうだ、役に立ったか?」
なるほど、なるほど……。
ありがとうジャックス、値千金の情報だった。一杯とは言わない、今度三回はご飯を奢らせてもらうよ。
「なに、そこまでは要らねぇよ。お前にゃ若旦那との諍いん時にずいぶんと世話になった。今回のことはその礼だ。次ゴードンとこで会ったら、そん時に今回の顛末でも聞かせてくれや」
ほいじゃ、嫁さん泣かすんじゃねぇぞ、とだけ言い残すと、彼は席を立って背中越しに手を振りさっさと行ってしまった。
うーん、良い男だ……僕のヒモ情報で動揺させてしまったが、ジャックスは本質的には遊び人気質な方なんだよな。
若旦那との諍いってのも、女中との火遊びが原因だったし。嫁さん泣かすなは完全に彼が言えた話ではないのだが、それはまあ僕が言えた話でもないのでお相子だ。
そうして彼が立ち去った後、周りで話を聞いていた二人と顔を見合わせてから、僕は脳内Discordで目当ての人へメンションを飛ばす。
えー、すいません明星先輩、ちょっとこっち来れます?
異世界モノお家購入時ド定番、幽霊屋敷除霊編スタートだ!