【書籍化】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部本当に励みになってます。
ぜひどんどこどんお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、どんな話が求められてるかの参考にもしていますので……。
ケルセデクから帰ってしばらくのこと。
その日は珍しくみんな用事が無く宿に居て、なんとなしに朝からのんびりぽやーっとした時間が流れていた。ボゥギフト帰ったらみんなそれぞれ顔出すとこがあったし、それが一段落したって感じだろうか。
天候はこの時期に珍しくまたとない晴天。犬系獣人の知り合いに教えてもらったように、鼻の奥に空気を流す事を意識しクンクンと嗅いでみるも湿気の香りはしないので、おそらく午後も降らないだろう。
つまりまたとない絶好のチャンスってワケだ。
自語りとサプライズが出来そうな隙を目敏く逃さない僕は、メイちゃんに話をつけると朝っぱらからいそいそと宿を飛び出して、いくつか知り合いの商家や最近ウワサの出店などを回る買い出しを敢行することにしたのであった。
「お? なにさアオミ。今日はえらい良いモン買ってくれんじゃないのよ」
あ、そう? 普段から色々買ってる気ィしてたけどねぇ。
ホラ、この前も見たことない色した粉買ったじゃん。ありゃビビったね。イタズラ以外で使うこと無い色彩だったもん。
結局アレの残りは他の誰かに売れたの?
「いや、売れなかったからしゃーなく家で焼いて真っ青なパンにして食ったわ。同居してる子がそれ見て腰抜かしてた」
あーね、そらそう。お客様って基本的に食べたら死にそうな色の飯って買わないんですよ。
そんなものを突然出された同居人さんには、優しくしたげな……って、そうだった! アレでクッキー焼いたらさ、なんか砂糖とくっついて、キラキラした宝石みてーな感じになってすごい良かったんだよね! そうだそうだ、それ言おうと思ってたんだわ!
リックさんあれ商機あるよ商機! なんならさ、ウチの知り合いが商会やってるから、共同でなんかやんない?
あんなカラーパレット狂った世界でしか売ってない小麦の仕入れはリックさんにしかできないからさぁ。
どこにどう発注かけたらアレが手に入るの? これは仕入先の横取りとかじゃなく、単にバグ技の手順を聞いてるだけなんだけど。
「へぇー! ホントかい!? いやそりゃいい情報だありがとね。まさかアレに、そんな使い道があったとはなぁ!……って、私が言ってんのはそういうトコよ。アンタいろいろお人好しっていうか、そんな生き方してたら損しちゃうからね? なんか買う時はいーっつも携行食と、なんだかんだこっちが安くする気でいた売れなそうなモンとかばっか買ってくじゃないのさ。そりゃ商品捌けりゃこっちもありがたいが、オマケしないわけにゃいかなかったくらいよ?」
マジ? そうだったの? めちゃめちゃいいカモじゃん。妙にいろいろ付けてくれると思ってたわ。
これが狙ってやってりゃたいした人情噺だが、まったく意識してのもんじゃないので単に目利きの悪さが証明されただけなのが泣けんね。
言われりゃ確かにリックさんとこではいつも小腹空いた時用の軽食と、あとは携行食ばっか買ってたかもな。
ま、ウチの砲術士がここの携行食お気に入りだからさぁ。
「なんだい、『そうだったの?』はこっちのセリフだよ。アンタは商人向きな性格なのに、そういうとこはトコトン商人向いてないね。人を見る目があっても物見る目がまだまだだ。ウチで丁稚でもしてちょっとは目を養ったらどうだい」
いやー、ありがたいお誘いなんだけど、これでも一応冒険者だからさ。そっちも見習いなくらいなんだから、なかなか一所に落ち着いた仕事と二足の草鞋ってのは難しくてね。
「それ言うと、冒険者なんて一番向いてない気がすっけどねぇ」
何一つ言い返せないぐぅの音も出ねぇ大正論をボヤきつつ、リックさんは注文した品を手早く袋に入れていく。
その手がさり気なく真っピンクの粉に伸びかけたので、ピッと手のひらを出す。
普段なら怖いもの見たさでカゴに入れたろうが、今日はサプライズなんでね。そらまぁピンクのパンが出てきたらビックリはするだろうけど、基本的にそれってブーブークッション的な驚きだから。
今度またクッキー焼く時に買わせてもらうよ。
「ちぇ〜っ……で、そいじゃあこんなん買い込んで一体何しようってのさ。それこそ店開くために練習でもすんのかと思ったのに」
あーね、今回はちょいと故郷の味ってヤツを再現しようと思ってね。
まあまったく同じのは作れなくても、そういや似たような物がココで売ってたな〜って。
「へぇ! アオミの故郷の味か。ちょっと気になる話じゃない。オマケしてあげるから、今度ちょっと教えなよ」
え!? わわわ、そんなに良いの!?
いや悪いなぁ、僕が教えれるのなんて素人料理もいいとこだよ?
あっ、ちょっそんなには良いって、あーあー……じゃあもうさっきのピンクのはいくら? それも貰うからお代に入れといて。
いーのいーの、お互い様お互い様、もうこうなったら目と舌で驚かす事にするからさ──
その後もいくつか知人の店を周り、まあおよそ代替品も含めてこれくらいで良かろうと荷物を抱えて正午前に無事帰宅すると、そのまま大急ぎで調理にとりかかった。
まあ今更パンこねたって間に合うワケがねぇので、ピンクパン(ここまで言って「サー」がつかない事あるんだ)は明日の朝にでも出すことにしよう。
いやね、メインの方につなぎとして入れても良いんだけど、肉がピンクは流石に見目的に良くないのでね……。
「でー? アオミはいきなり何を作るつもりなの? ウチの厨房でやる以上、私が手伝わないって選択肢はないからね! 師弟の共同作業よ!」
「お、メイちゃん師匠の手を借りれるのはめちゃめちゃ頼もしいかも! ただねぇ〜、レシピは僕の頭ん中にあるあやふやなのだけってのがねぇ〜……まあとはいえやる事はシンプルだから、それぞれの作業で『こうしたら美味しくなる!』っていう細かなブラッシュアップをお願いしちゃおっかな。やっぱそこら辺は経験がモノを言うから、僕じゃあとてもメイちゃんに敵わないし」
「ま、まぁね〜? 伊達に生まれてこの方『斑猫』で看板娘やってないですしぃ〜?」
ドヤ顔でフンスフンスと胸を張るメイちゃんに、なんかそれっぽい聞きかじった素人知識で説明していると、たまたま顔を出した女将さん──と、その腰に抱きついていた鹿野ちゃん──に見つかった。サプライズ失敗です!!!! まあそういう場合は仕掛け人側に引き込めば良いだけだからな。彼女とは驚かす側の楽しみを共有しよう。
で、『久し振りに会った家族を前にしたテンションMAXゴールデンレトリバー』くらい跳ね駆け回る鹿野ちゃんの推力を利用してタネを捏ねていると、そんな一気に焼くなら中庭の以前砕いた岩の残骸で作ったカマドあるし、上に鉄板でも置いて使いなよと女将さんから有り難い申し出があった。
おわー! そんなん素敵過ぎませんか……!? めっちゃ嬉しい! ありがとうございます!
水を弾く野菜を千切ったり輪切ったりして、買ってきたこっちの世界基準でやわめのまあるいパンを両断。
並行してメイちゃんにお願いしていた潰したトマトを香草と砂糖多めで煮詰めるソースも大詰め。
女将さんはそれらしく切ったイモをさっそく揚げ始めてくれた。
鹿野ちゃんの可愛い指パッチンで火口に着火して、カマドに火を起こしなんやかんやの準備はオッケー!
あとはまあアドリブとプロのお力を借りて乗り切るとするぞ!
そうして僕はグイと頭に握り鉢巻を締め、メニュー表片手にゼロ円の笑顔標準搭載で売り込みをかけにカチこんだ。
ブチネコキング開店じゃい! バーガーの方取っちゃったらもう何屋か分かんないわ。ハンバーガー屋さんね、ハンバーガー。
お客さん何挟みやしょう! 今日は良いチーズ入ってるよ〜! ホレホレホレ、言いねぇ言いねぇ言いねぇ!
「せっかちな江戸っ子ハンバーガー店員? たいていアルバイトなのにどうしてそんな板前気質なん……ハンバーガー!!?!?!??!」
食堂の長椅子に寝転がっていた悪王寺先輩は、アイマスク代わりに顔に載せていたシルクハットを軽くどけてその端正なかんばせを僅かに覗かせてツッコんでくれるも、聞き取った単語が脳内で正確に処理されると跳ね起きた。
「そう! ハンバーガーッスよハンバーガー! なんでもあの空いてる土地連絡したら出店してくれるヤツにフクロウ便で出してみたら見事当選、遡及的にエリマネに任命されたセンパイが特パン員──通称『時空ハンバガリスト』──として、宿の中庭間借り営業したらしいッス!」
「すごい、人ってそこまで適当言っていいんですねぇ」
いや、二人で設定考えてたら盛り上がっちゃって……。
わらわらと集まってきたみんなに手書きのメニュー表を差し出す。
まあ書いてあんのはハンバーガー、チーズバーガー、ダブルチーズバーガーくらいのもんだが、そこは雰囲気だ。あとワッ○ーは商標なので……パチもん偽ブランド店の悲哀でちゃったな。
あとね、パティは地球のと肉の種類が違い結構好み分かれそうなんで、普通のと潰してカリカリに焼いたのの二通りから選べるようにしたんすよね。
かなり違った味と食感になるから、ここは好みかな〜。
「セット!! ダブルチーズバーガーのセット!! パティ焼き方二通りどっちも!! え、コーク無い!? いやちょっと待ってて!! 秘密裏に出資して改良を重ねてたクラフトコーラ開けるから!! 部屋に!! 部屋にあるから!!!」
ドタドタと部屋へ駆け上がり、樽ごと持って降りてきた悪王寺先輩の熱量にみんなビビりつつも、それぞれ好きな物をオーダーしてゆく。
「……ははぁ、なるほどねぇ〜。まったく、しょうがないですねぇ。ハンバーガー単品で。ポテトは後ほど、余れば頂きますよ」
「おー、良いじゃねぇか。やっぱ久々にこういう字面見ると食いたくなんなァ。チーズバーガーセットな」
「そうねぇ、たまには良いわね。私はこのハンバーガー単……年取ってからジャンクフード食べると翌日むくんじゃうようになったから自然と離れてたけど、もしかしてエルフでレベルも上がってバフも乗ってたらむくまないかも……?……やっぱり、チーズバーガーとポテトのセットもらえるかしら」
「どれが良いのですか? 親戚のお家で昔一度食べた事しか無いので、あまりわからないのですが……なるほど、では一番基本のハンバーガーを一つお願いします」
ハイかしこまりましたぁー!
ダブセ2、ハン2、チーセ2入りました!
口々に発される注文をメモに書き留めた僕は中庭へ声を張り上げてオーダー伝え、急ぎ足でそのまま中庭に繰り出しバンズとパティを鉄板に載せていく。
普通に寒いしカマド熱いしな労働環境なので中庭には僕しか居らず、そうなると自然オーダーを受けるのも僕でなのであった。形骸化した無意味な慣習に囚われる労働者……。
おっと、一応言っとくと好きな人にお昼ご飯をご馳走するのは、僕の中で労働カウントではないのでヒモ的にはセーフだぜ。別に労働はアウトではないだろ。貞操観念ではなく労働観念が逆転した世界はいくらなんでもレアケース過ぎる。
てかオーダーの略称がちょっとキモ過ぎる。ハンバーガー屋向いてないか?
まあメイちゃんにはケチャップもどき、女将さんにはポテト揚げるの頼んでるんだから、焼き方のほうは僕がやんないとね~。
実際こっちの方が調理人の腕が出そうな気もするが、そこはまあ愛情でカバーするぞ。できるな?「ハイ! やれます!」馬鹿め、愛情は喋らん。連れていけ。
頭の中で取り押さえ連行されながらも往生際悪く暴れる何かを眺めつつ、調理は滞りなく進む。
動物系の油が引かれた鉄板でパンの断面をカリッと仕上げ、普通のパティの横ではミニ鉄板で押し潰してカリカリ薄パティにする。ウンマそ~!
バンズにケチャップもどきパティチーズパティチーズ玉ねぎ黄酸ソースを挟んでダブルチーズバーガーお待ち!
「あがががが! 最高最高最高!! 脳ミソ取れちゃうかも!! なんか胸元とお尻が苦しい!!」
お上がりよ! と言う前にかぶりついた悪王寺先輩が、口の端にケチャップをつけながら喝采を上げた。
グルメ細胞に適合したのか、なぜか一瞬で胸部と臀部のサイズが少し大きくなった。どういう原理?
こんなに喜ばれたら作り甲斐があり過ぎるだろ。
えーっと、普通のハンバーガーはパティ一枚に葉野菜も入れてっと、あい先生と委員長お待ち〜。
「うーい、昼飯よばれに来たぞ~」
「うむ、馳走になる……何!? ハンバーガーか! 良いではないか!」
「悪くないな。どうもこちらの世界にハンバーグ状の物はまだ無いらしいし、すでに懐かしい故郷の味ではある」
少し前に脳内通信で『イベントマスに止まったので本日の昼飯はこちらの宿集合です』と伝えておいた『キングダム』も到着。
新たに注文聞いてお代わりをご所望の人のや、宿の二人分に自分のまかないも入れて鉄板はフル稼働。
そうして出来上がったハンバーガーの、てらりと表面艷やかなカリカリのバンズに挟まれたパティの肉汁と玉ねぎの辛味にピクルスの酸味、瑞々しい葉野菜、ケチャップもどきの甘じょっぱさが渾然とした爆裂な旨味を全員で食らい、そのままフライドポテトをなだれ込ませ密造コーラで流し込み無事優勝。
なんなら満腹の一歩先まで漏れなくみんな踏み越えて、あまねく臣民が完全に胃の終わりを迎え、ブチネコキング王朝は全国民がドカ寝して滅亡するのであった。
一時間程度のご愛顧、誠にありがとうございました……「市場どころか国家に革命を起こせるので、これをウチの新定番にする」とキマった目で語っていたメイちゃん師匠の次回作にご期待下さい……。
パンパンに膨れたお腹を抱え、今日ばかりは己のルールを破り長椅子に横たわった先輩が、隣の椅子で満腹に苦しむ僕のほっぺたムニムニと指で押してくる。
「ぷふぅ〜……んも〜〜〜、助手クンはさぁ〜〜〜? ホンット、ボクの事好きだよねぇ〜〜〜?」
「そりゃもう、仰るとおり大好きですよ」
「だよねぇ、知ってた……あああぁぁ〜〜……ボカァ果報者だよ……」
最後にそう呟くと、センパイは幸せそうに気絶した。僕ももう無理……スヤァ。
翌日、そういやあったなと出したピンクのパンも、なんかそれはそれで理外の好評であった。
今、リック製粉店が熱いのか……?