【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
光り輝く先生を前に、しかしギルマスは冷静にこちらを見据えている。
まるで値踏みするようなその瞳は、なんでか最初からver.太になっているバフ済みの先生を、全く脅威とは思っていないようだった。
やっぱめちめちツエーだろこの
だ、大丈夫かな!? 大丈夫なのかなこれ!?
「ふむ、なるほど……事情は理解した。侮辱してすまなかったな。特にアオミ、口さがない言葉を吐いて申し訳なかった」
そうしてなにかを納得すると、ギルマスはまず先生に、その後僕に深々と頭を下げた。
ゆ、許された〜〜〜……
それを見て、トロールが倒された時バリの安堵の息が漏れ出てしまう。
僕最近息吐きすぎて吸ってない気がしてきたぞ。今のうちに大きく吸っておこう。
いつ息の根を止められるかわからない環境に突然置かれたせいで息の価値が高騰中だ。安くなんねぇ事を願おう。レバ効かせちまったからな。
とはいえまだわからない。この後に許さないトミーガンが出てきて僕らを蜂の巣にする可能性もあるぞ。
慎重なもう一人の僕が心の中でそう呟いたが、コイツは慎重なのではなく単なるバカなので脳内サミットから罷免し投獄しておく。
出してくれと泣きながら牢を揺するバカが可哀想になったが、しばらく放っておくと牢屋の壁で脳内四色問題をやり始めたので放置を続行する。
ホントはめちゃめちゃ賢いんじゃないかコイツ……?
「まぁ、俺はポロージュ役者だからな。分かっているとは思うが、お前らを試させてもらった。これまでの話にどこか一つでも虚偽があれば、オレやギルドだけでなく帝国からも追及をくらうことになっちまう。だから、念入りに確認しておく必要があった」
僕が緊張からの緩和によりフワフワした脳内で無駄な事を考えている間に、ギルマスがなんかスゲー重要な事を言っていた。つまりポロージュ=大根って事? そこじゃない。
て、帝国? ココって帝国なんすか?
そもそも国の名前も知らないでこの二日ほど市民をやってた事に今更気付いた。納税の義務がこえーや。税理士にトロールの肉塊の売却益がどの所得に入るのか聞かないと。
今度国やら世界情勢やらの辺りの話も、それとなく飲み会の時に聞き出さなきゃなんねぇな。
ワケありの感じを出すと、みんななんだかんだと世話を焼いてくれる良い人たちばかりなのが心苦しいったらない。
出会った初日なのに宿屋の娘への婿入りを打診されても困っちまうよ。
娘さんが一番困るだろ。
今朝親からその話聞いて顔真っ赤にして部屋に逃げちゃったしな。ごめんなしあ。またオタク君出ちゃった。
しかし、そうか……。
やっぱり魔王の走狗って国が関わるくらいの大事なのか……。
完全にメインストーリーみたいなのに入り込んじまってんね……。
「その光り輝く力、それで魔王の走狗を倒したんだな。まだすこし頼りなく思えるが、きっとさらに上もあるんだろう?」
さらに上があるっつーか下があるっつーか、表現が難しいとこだな。
恐らく今回先生へのバフがかかったのは、いわゆる一つの「彼には私が居ないとダメなの」状態を満たしたからだろう。
つまりこういう事だ。
昔から付き合いのある友達に「ねぇ聖、あんなヒモ男やめときなよ。働きもしないで毎日パチンコに競馬……どうしてあんなクズと付き合ってるの?」と言われ、先生は思わずこう返す。
「なんでそんな酷い事言うの!? あの人には私が居ないとダメなの!」
それから口論になっちゃって、その後なんだかギクシャクしてしまい、いつの間にか彼女とは疎遠になってしまう。
学生の頃からの友人だった。
毎日帰りには寄り道して、ゲーセンでプリクラ撮ったり買い食いしたり……当時好きな人に告白する時も一緒に付いてきてくれた。
そんな、親友だったハズなのに。
「なぁ聖、パチ行くんだけど金くんない?」
「あ、う、うん……これぐらいで、いいかな……?」
財布から出した2万円を受け取ると、青海君は何も言わずに部屋を出て行く。
たった一人の静かな部屋の中、なにも知らなかったあの頃の私たちの、楽しげな笑い声が聞こえた気がした。
ダメだ、僕が悪い。出頭するから署まで付き添ってくれないか?
想像上のヒモストーリーで完全に致死量の鬱をくらってしまった。
そしてこれが想像上で済むかどうかは、これからの僕にかかっているのである。
一歩間違えると即死する地雷原を人生のプランに組み込まざるを得なくなってしまったが、これは孔明の罠なんじゃあないか? フフフ、これは職歴空白の計です。悪魔の献策だ。
まぁなっちゃったモンはしょーがねーから上手いこと綱渡りしていこう。卒なくこなせりゃ猿回しで雇ってもらえるかもな。ヒモ卒業! 進路は猿! 多分履歴書もいらねぇだろ。
「謝罪を受け入れます。僕は気にしていませんよ」
勝手に混迷を極める脳内サミットはさておいて、実際全然怒ってなかったので喜んで謝罪を受け入れる。
まぁ情夫っつー表現でみんなが僕なんかに入れこんでるダメンズ(死語)好きにされちまったのは誠に遺憾だが、そこは後でフォローしておくしかないだろう。
僕はヒモはヒモだが、今んとこ誰にも養われていない孤高のヒモだからな。
それってヒモなのか? 単なる外せない呪いの装備じゃねーか。
「……わかりました。青海君がいいと言うのなら、私が口を挟むことではありません」
未だに超エルフ人みたいにオーラ纏って髪も逆立っている先生だが、そちらも渋々矛を収めてくれた。このままだったらマジの鉾が出るとこだったからな。
流石にたぶんギルマスの方が強いとは思うが、こんなとこでまたあくうせつだんされたら、確実に隣に立つ僕は鉾の柄で吹き飛ばされる。
ゴムじゃなくヒモだから僕には打撃が効くんだよ。もちろん斬撃も効くねぇ! ヒモだから!
ヒモヒモの実のダメ人間になった僕には4倍弱点がいっぱいだ。パラセクトくんのお株を奪っちまうなァ?
「すみませんが、その魔王の走狗というのは正確にはどういったものなのでしょうか?」
謝罪が済んだとはいえギスって発言しにくい空気の中、もちろんそんな事一切気にせずに委員長が疑問を投げかける。
自己決定権を持て余すタイプの軟弱物な僕は、自分をしっかり持っている人が好きなので、委員長のこういった態度はかなり好感が持てる。
僕にもそれくらいの我があれば、もっとヒモとしてしっかりと活動できたのかも知れない。なら無い方がいいな。
世の中無いほうがいい物もあるんだね。僕の存在そのものが物質主義に対する一つの答えだ。
隣の芝生は青く見えるし、隣の台は常に虹色に光って見えるっつー話かな。
「ん……あぁ、そうだな。噂やおとぎ話ではない、真実を知りたいか」
寡聞にして噂もおとぎ話も知らねぇとは言えなくなってしまった。すいませんね無知で。
恥ずかしがらずに「文字も存在しない田舎から出てきたもんでしてぇ……えへへぇ……」つって最初に全部聞いときゃよかったな。
もうヒモなんだから今更その頭にバカが付いたところで痛くも痒くも無かったのに。痛覚マヒしちゃった? 幸村に奪われているのか……?
ただそれをすると隣に立つめちゃエッチエルフの説明が付かなくなっちまうんだよね。こんなにカバーストーリーが難しい一団無いぜ。
もうハッキリ転移したのでなーんもわかりません!と言った方が良かったんじゃないか?
知らないのは恥ずかしい事じゃないよ! ただ同級生たちに養ってもらうのは恥ずかしい事かも知れないが。
「魔王の走狗は伝承通り、魔王自らが狂化を施した魔物の事だ。しかし実際のところその魔物も、狂化内容も千差万別。具体的な例で言えば王国の『
「山にも匹敵するフロストジャイアントが出たかと思えば、小さなネズミの魔物一匹だったりもする。その狂化も単為生殖、増殖、分裂、早熟……無数に思えるほどかかっている場合もあれば、単なる強大化一つの場合もある。
「ただ、そのどれもに当てはまるのが、尋常ではない狂化量とお前らも見たという揺らめく黒いオーラだ。まぁ似たようなものを纏う魔物もいるが、そいつは別にメチャクチャに強かったりはせんしな。
「魔王の走狗が現れるのは、魔王が目を付けた地域だ。もしそこで走狗が縦横無尽に暴れ回り、それを誰も止められないと見ればこれ幸いと魔王は更に多くの走狗を送り込み、最終的には……その地を支配しに現れるだろう。
「つまり魔王の使いっ走りだ。もちろん、それ単体で町や村を飲み込みかねない、只人の手には余る使い走りだが。
「今回お前らが倒したというトロールも……流石にこうなっちゃわからんが、恐らくはボゥギフトの危機にも繋がりかねない脅威だった事は確かだろう。
「だからこそ、お前たちの働きには敬意を表する。後で正式な褒賞も用意させよう……よくやってくれた」
やっぱ結局半分くらいわかんなかったが、なんかおとぎ話やらに出るほどの化け物を先生が倒したって事は間違いないらしい。
それはホントに凄いしいつの間にか遠くに行っちまったな……って感じだが。
とりあえずこの街がヤベーかもしれん奴を倒せた事はその通りらしい。
……それなら、本当に良かった。
僕はもうこの街とそこに住まう人々が、大好きになってしまっていたからだ。
あの酒場も、水魔法使いのシモン爺さんも、トラッパーのサーシャ姐も、オーランドさんも。
僕と仲良くしてくれた人々を護ってくれたパーティのみんなに、改めて心から感謝をした。
何もできない僕に代わって、僕も含めたみんなを守ってくれて。
本当にありがとう。
街に入ってたった二日でこうなるのは、我ながらちょっとチョロ過ぎる気がしないでもないが……。
ま、親以外から愛されたことが無いからな、僕は人の心に飢えてんのさ。
好きなものが多くなる分には、誰も文句言わないだろ。
■
疲れもあるだろうし詳しい話は後日改めて、という事になり解散した僕たちは、一路帰宅する事に相成った。
統括ギルドから各ギルドへと今回の結果は伝えてもらえるらしく、恐らく問題なくギルドへの登録は通るそうだ。
助かるよ、マジでもうへとへとだったからな……。
今日だけで何キロ歩いて何キロ爆走する荷台に乗せられたかわかんねぇぜ。
このままじゃ健脚になっちまう。良い事だ。
帰ってるうちにすっかり日も沈み、辺り一面が宵の闇へと沈み始めていた。
人工的な明かりは魔法灯があるようだが、その数は少ないのでかなり暗く、月明かりだけを頼りに歩くのは新鮮な体験だったし途中二度転んだ。
僕は鳥頭なんで夜目が利かないんだよ……。
更に蚤の心臓だしあらゆる生き物の弱点を集めたら僕になりそうだ。"働かない"のも人の弱点かもな。働いている人に謝るべき事を言ってしまった。
帰宅の道中、先生に生活費を返そうとしたのだが受け取ってはもらえなかった。
曰く「これは恐らく神との契約に近いと思うの。返してもらってしまうと、逆になにがしかの罰を受ける事になるかも知れないわ」との事。
まぁ、そりゃそう……なのかも知れない。
だってこの異能は僕がバフを渡しているというよりは、神が僕に宿した力がそれを叶えているようなものなのだから。
つまりいわゆる一つの猿の手だ。
しかし猿の手は願った相手を不幸にするが、こちとら僕がヒモでいるだけで済むのでコスパが良い。
代償は僕の人生で先払いされている。神を呪えばいいのか?
とはいえ課金が必要だからご利用は計画的に願いたい。僕の胃の為にも。
ま、金を貰い返してまた貰うを繰り返せる簡単グリッチは流石に許されないって事か。
……じゃ、じゃあ、このお金を僕はいったい何に使えばいいんですか……?
あまりにも難しい問題に僕が頭を悩ませていると、先生は耳元で「青海君なら……賭け事に使ってもいいですよ?」と小声で囁いた。
やめろやめろやめろ! へ、変な扉が開かれちまう! なんだその貢ぎマゾの人生破滅ASMR! DLsiteで買った覚えはねぇぞ!
勘弁してくださいよ……とつぶやく僕に、先生は少し不思議そうな顔をしてから、おかしそうに笑うのだった。
「それじゃあ、乾杯!」
「「「カンパ~イ!」」」
そうして僕らは今、出発前に集まった食堂へとその足で再びくり出していた。夜は半分酒場っぽくなるみたいで、結構な人で席が埋まっている。
これがいわゆる打ち上げというやつだろう。あの体育祭の後にファミレスでやるヤツ!? 初めて見た……。初めて見たという事はつまり……。ここから先には何も書かれていない。真相は謎のままだ。
にこにこの笑顔でこちらへと差し出された先生のジョッキが僕のものと当たり、カチンと小気味良い音が響いた。
もちろん飲むのは酒じゃなく果実水だがな。さしもの僕も先生の前でお酒は飲めない。たぶん今なら許してくれるがそういう線引きは大事だ。
相手がこんな状況になってまで先生として対応してくれているのなら、僕らも感謝してその関係を尊重すべきだからだ。
まぁ僕が宴会に行って隠れて飲む分には、お目溢ししてくれるだろうしな。
黒井さんは声は出さなかったが、おずおずとグラスを差し出してくれたので軽くぶつける。
嬉しそうに笑ってくれたのでよかったです(小学三年生・男子)。
鹿伏さんが強めにぶつけそうになっていたので、ジョッキに軽く手を添えて勢いを殺しておく。
ギルド出てすぐの屋台で一緒に買った甘々おせんべいは彼女の口にあったらしく、ここに来る前に全部食べきってしまっていた。でもまだまだ食べれそうな感じなので良かった。
僕はいっぱい食べる子は大好きなんだよね。一緒にご飯食べると楽しいからかな。
強くなりたくば喰らえって勇次郎も言ってたし。いやでもこれは女子に言うべきじゃない内容だな。
委員長は「結局中級ポーションを売れませんでした、青海君のせいです」とぶつくさ言っていたので、僕の知り合いを通しギルドには買い取りをお願いすると伝えてあるから、明日持ってけばすぐ売れると話しておく。
これはウソじゃなくオーランドさんから、錬金術ギルドのベスピムさんへ伝えといて貰うようお願いしたのだ。
もちろんベスピムさんも宴会で会った。一緒に肩組んで歌ったのはこのジイさんだ。
しかし「でも今日売れたハズなんですけど」と未だ徹底抗戦の構えだった為、あえなく白旗をあげ素直に謝った。
ギルドでショトカとか嘘をついたのは僕だからね、悪いのはマジで僕です。
すると「まぁお金を受け取るあなたが明日でも良いなら良いですけど……」と納得してくれたようだった。
あ、委員長の設定したタスクって『ポーション売却』じゃなく『売却したポーションの売上を僕に分ける』なんだ。
じゃあ僕は絶対に明日代金を受け取らされるな。何故なら委員長は設定した目標は必ず達成するからだ。
ヤベー事になっちまったぜ。ま、明日の僕が考えるやろ! こういうとこがヒモなんやろね。更生できるよう明日から頑張ります。
日中の疲れを洗い流すかのように、ジョッキの中の果実水を喉の奥へと流し込む。
キンッッッッッキンには全く冷えていない。ぬる〜い。自販機のあったか〜いとつめた〜いの間にあるとされる狭間のボタンを押してしまった時のジュースみてぇだ。
まぁでもおいしいのには変わりないから全然かまわねぇや! ウマい!
みんなも渇きを癒すように、ジョッキを一気に半分以上開けている。サイコ~! ここめっちゃ良いっすねぇ!
これからもお金入ったら来ちゃおっかな~。
黒井さん次何飲む? あ~、それ良さそうだよね、僕も頼もっかな。
飲んでたらさっそく給仕のお姉さんが料理の大皿を持ってきてくれたので、待ってましたとばかりにみなが手を伸ばす。
へ〜、これがスーラネィのヒャムヒャ炒めか〜。中身何〜? 一個も分からん。ウマい! これウマいよ!
あ、鹿伏さん大丈夫、取ったげる、はいお皿貸して。
こうして、僕らの初めての冒険が終わった日は、陽気に過ぎていくのだった……。
これで第一章は終わりです。
第二章の書き貯めをしたいな~とは思っていますが、なんか大丈夫そうなら毎日投稿続くかと思います。
小説を書くのにマジで必死過ぎて感想を返せていませんが、全てありがたく読ませていただいています。
ここすきは何度も見返してニヤニヤしてますし、評価も本当に嬉しいです。
これからもリアクションしてもらえると励みになります。