【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【16】 はじめてのかけごと!

 人。人。人。

 この街にはこんなに人が居たのかと思うほどの、人の群れ。

 

 彼らが万感の思いを込めて叫ぶ歓声が、僕の鼓膜を貫き脳にまで突き刺さり思考を揺さぶる。ウルサ過ぎてウケんべ。脳内のギャルも笑っとる。

 なんとなくケラケラ笑ってしまい、目の前のお姉さんがビビってこっちを向いた。あ、すんません。

 

 とんでもない熱気だ。サウナの内と外がひっくり返ったみてぇな湿度と暑さに、理論上外気浴も同時にしている為即座に整いかけた。宇宙の缶詰ならぬ宇宙のサウナじゃん。

 水風呂成分は隣で吠えてるバアサンから冷や水として取得する。年寄りの冷や水って勝手に他人が奪って大丈夫なもんなの?

 すげーアチーからさ、バアちゃんもお水はキチンと飲んでくれよな。

 

 ……きっと僕が笑ってしまったのは、この感覚があまりにも懐かしかったからなのかも知れない。

 この人いきれは、僕の元々居た世界ではとても身近な物だったから。

 

 

 

 翌日、僕はヒダルさんに連れられて、ボゥギフト郊外の競魔場なる場所へとやって来ていた。

 それはまるで楕円に長いコロッセオのような構造で、舞台は地球の競馬場のようなレース場となっている。

 ただ芝生ではなく普通に土なので、なんつーんだったかな、ダート? に近いのかも知れない。

 ハルウララって名前のが居たら馬券買えばいいって事か? いやごめんホントによく知らないからやめとこう。

 

 僕は高校2年生だった為、もちろん競馬場に行ったことは無かったので、正直これが競馬場に近いのかどうかもわからないし、競馬についてもサパーリだ。

 有名な馬の名前をニュースで聞いたことがある程度。

 たりめぇだろ、両さんじゃねぇんだぞ。普通の学生が競馬をするかよ。

 

 だが、それでもこの場所は僕にとって強い衝撃を与えた。

 

「どうだ、アオ! すごい人の量だろが!」

「いやホントに凄すぎでしょ! これボゥギフト中のろくでなしが集まってんじゃないの!?」

「ガハハ! これでも今日は中くらいのレースだ! 大賞の時はもっとだぞ!」

「スゲーーーや!」

 

 現代地球の通勤ホームもかくやと言わんばかりの、凄まじい人混みである。

 いや、ホントにマジでビックリした。

 お上りさん全開でヒダルさんについて回ってたせいで、随所に隠した偽サイフがまたたく間に無くなったからな。

 当たりは銅貨2枚、他は銅貨1枚か僕お手製ハズレ券入り。

 本命のパンツん中に隠した銀貨入れと、首元の銅貨20枚だけだぞ残ってんの。

 ちなみにこの銀貨は、ついに支払われた魔王の走狗討伐報酬の山分け分の中から2枚だけもってきたものである。

 間違えても先生の生活費じゃねぇぞ。飲み会以降は僕の生活費にしか使っていない。胸を張って言うことか……?

 異世界の治安の悪さにビビるし、それに慣れちまった僕にももっとビビるぜ。

 帰還したら世界旅行もイージーモードかもな。デカいトカゲや犬スライムには襲われないし。

 

 こりゃ僕一人で来たら服まではぎ取られて帰るとこだったな。

 とんだサービスシーンを満座に見せつけるところだった。

 切り抜かれてYoutubeに上げられちまう。STOP! 違法アップロード!

 とはいえこっちも商売だ、下手なサービスはできねぇ。

 単行本じゃないから、謎の光で大事なとこは見えねぇようにしないとな。どうやってだ? そもそも商売ではない。

 

 あー、世界旅行で思ったが、地球帰ったらみんなと旅行も行きたいな。

 修学旅行みたいな学生旅行に先生も引率としてついてきてもらってさ、場所はみんなとならどこでも良いけど、やっぱ王道は京都か? なんかその組み合わせ、日常アニメの旅行回みたいだな。

 三十三間堂とかいう横スクロールステージがあるらしいから、そこでみんなでファイナルファイトごっこでもやろう。バチが爆速で当たりそうだ。やめよう。

 あと清水寺見てから嵐山行こうと思ったらマジで遠くてビビったりもしよう。左右に振るなよ名所を。

 smgの腰撃ちくらいの集弾率で散らばってるからな。

 お察しの通り中学の修学旅行先は京都でした。

 まさか行こうと言い出した奴が既に行ってるとは思わねぇだろ。

 ククク……これがゲーマーの読み勝ちってヤツさ。伏線仕込んで相手を釣るんだ。

 僕は一体何と戦っているんです……?

 マジで行くなら海あるとこが良いな、全然他意は無いが。

 休日にちょっと電車で出てきた時の東京みたいな人混みに揉まれ、思わず郷愁が爆発し妄想しちまった。

 

 

 で、ヒダルさんにいろいろと教わった結果、僕はお試しの銅貨5枚でスパイダーヘッドスネークの魔券を購入。

 蜘蛛の頭を持ったアナコンダよりデケェ蛇である。

 なぜソッチの頭をソッチの胴体に付けた? 逆にしてやれよ。

 そのつぶらな瞳が「タスケテ…コロシテ…」と言っているように思えたので、憐れに思いつい買ってしまった。

 同情票が集まっているのかオッズは低い。

 競魔のギミックとの食い合わせが悪過ぎる。

 弱いのに賭けたんだからせめて得させてくれや。

 

 魔券はなんか木の札みてーなのに、いろいろと紫色の文字が書かれている。

 たぶんこれ魔法で印字されてんだろうな。そうそう改竄はできまい。

 こら力の入った国家事業だ。博打の胴元は間違いなく儲かるからな。

 どうせなら僕もそっちに回りたかったぜ。

 儲かった金で万魔券を当ててやる……!

 稼ぐ目的がどっかに行っちまってるのがバクチの恐ろしい所だ。

 

 

 ヒダルさんはスモールトードを銀貨1枚で購入していた。

 す、スモールトード!? 嘘だと思いゲートの方を見ると、マジで25cmの靴サイズのカエルが鎮座していた。

 ち、小さすぎる! いやデケェ方だが! 隣見ろアナコンダよりデカい蛇いんだぞ! たかだか僕の靴くらいのアマガエルに何ができるんだよ!

 し、しかも銀貨1枚!? 大体体感で30000円くらい!? しょ、正気の沙汰ではない……! その時青海に電流走る……! あぶべ!

 隣の雷魔法使いのジジイが力み過ぎてちょっと電気が漏れたらしい。やめろ、死んじゃうだろ。

 

「た、大将!? なんでスモールトードなんか……もしかしてすごい能力があったりするの?」

「あ? ンなわけねぇだろ。単なるカエルだよ。だがよ、単なるカエルだからこそ、見ろこの圧倒的な倍率をォ! 9000倍だぞ! 一発当てれば城だって買えらァ! 見てろカァちゃん……! 俺は、俺はお前を領主の嫁にしてやるんだ……!」

 

 もう見てられなかった。

 この人鍛冶の腕が無かったら僕よりよっぽどヒモに向いてただろ。

 デキの違いに嫉妬しちまうが、これは本当に必要なやっかみだったか?

 もう今となっては僕はヒモになりたいのかなりたくないのか分かんないんだよ。

 求められるモノとなりたいモノはえてして違うもんだからなぁ。

 顧客の求める物が結局顧客自身にもわかってないみたいな話だ。

 

 

 異世界随一の欲望の坩堝で自分自身の欲と向き合うという、ヒモの修行編みたいな事をしている僕の耳に、喧噪よりも遥かにデカいファンファーレが叩き込まれる。

 あまりの爆音に両鼓膜が頭の中でハイタッチしちまった。

 カートゥーンアニメみたいな事をさせるんじゃねぇ。

 

 周りの人たちが興奮しまくってゲロ吐きそうになっている、どうやらレースが始まるようだ。

 娯楽が少ないのかも知れないが、ちょっとこの異世界競魔が一大コンテンツになりすぎだろ。ウマ娘でももうちっとボルテージ低いぞ。

 良い異世界に来ちまったなぁオイ。

 僕は周りの空気にすっかり飲まれ、大声を上げながら手を振り上げた。

 うおーーーーーー!! 頑張れスパイダーヘッドスネークーーー!

 

 隣の雷魔法使いのジジイが「お前あんなんこうたんか? 奇特な奴やのぅ」と言ってきたので、僕は

「なーに言ってんすか見てくださいよあの牙から垂れる毒液の、目を焼かんばかりの明るい紫! 毒が強いのは元気な証! 自分の毒で死ぬフグは居ませんからね! こーれは期待できますって! でもよく考えるとヘビの頭の方が牙は立てやすくないすか?」

 と、知りもしないスパイダーヘッドスネークの良いところと、破綻したその生態設計への想いをぶちまける。

「そうじゃよねぇ、なんであんな造りにしたんかのぅ」

 不思議そうに首を傾げたジジイの手元には『ブラックホーンボア』の文字。

 手堅いっすねぇ~。趣味じゃからの、プラマイ0で良いんじゃよ。

 

 そんな話をする僕らの目の前で、ついにゲートは開かれた。

 

 

 

 

 もちろんブラックホーンボアの圧勝であった。あたりめぇだ。

 小さいカエルとキメラの失敗作が、デカくて黒くて角がご立派なイノシシに勝てるかよ。

 内容としては帝国研究部が開発した造魔を、モンスターテイマーが調教して行う妨害アリ魔法アリ攻撃アリのハチャメチャレースって感じ。

 地球でやっても絶対流行るぞコレ。

 だってくにおくんの大運動会みてーなもんだもん。そりゃ面白いだろ。

 

 ッかぁ~~、足に巻き付いてボアのスピードを利用したとこまでは良かったんだけどな~。

 魔道具かなんかによるこのレースのハイライト映像でもそこ映されてたし。

 ただ噛みついても牙が通んなくて、毒が一切意味なかったのが痛かったよな~。

 あ、おめでとうございます。

「ほっほ、なに、たかだか銅貨10枚の儲けじゃよ、次のレースで飛ぶかもしれんわ。どれ、一杯おごっちゃろう。おーい、姉ちゃん。バーガル2杯おくれ。ええんじゃええんじゃ、年長者のはからいは素直に受け取っとけ」

 

 雷魔法使いラウさんは鷹揚に笑って、売り子さんから買った陶器のコップを僕に手渡した。

 へへへ、ありがとうごぜぇやす、ごちそうになります。

 

 っあ〜〜! ウーマイっすねぇ〜〜〜!

 多分なんかビール系の、麦とかそういうタイプのを発酵させたちょい薄い酒だと思うが、アッツい中で飲んだらなんでもウマい!

 次どうします? あー、ブル系が手堅い?

 でもどうせだし、少しはオッズ高いのに賭けたくて……仰る通り若造ですからねぇ! ダハハ!

 僕もさっき売店で買った豆菓子をラウさんに差し出しつつ、次のレースについて話し合うのだった。

 

 

 

 もちろんヒダルさんは負けたショックでゲボ吐いてた。

 僕じゃなくヒダルさんがヒモの力を手に入れてれば良かったのにね。

 奥さんがバフでヒダルさんを吹き飛ばす未来しか想像できない。

 カイジみたいに地面に寝転んで頭抱えてジタバタする人、初めて見たな。

 

 

 

 

 

 その後、ちょくちょく勝ったり負けたりを繰り返しつつ、日が傾いてきた頃に本日のレースは終了となり、僕らは家路についた。

 

 収支は銅貨7枚の赤字である。

 手堅く賭けても、当たんないときは当たんないもんなんだねぇ。

 昔は競馬で一番人気に賭け続けたら、無限にお金が増え続けると思ってたんだけど。

 地球にいた頃に試さなくて良かったな。

 

 今回知り合ったラウさんは北町にお住まいらしく、また暇な時に飲もうと言われ娘婿がやっている酒場の場所を教えてもらえた。

 北は全然まだ行ったこと無いから行きたかったんだよね、楽しみ〜!

 魔法ってどうやって撃つのか聞いたら、よければ今度教えてやるって言ってくれたし!

 

 

 なおヒダルさんは収支銀貨5枚の負け……!

 埋まる……! 底なし沼に、膝まで……!

 取り戻したいという欲など、とどのつまり逆効果……!

 焦りに焦り、もがけばもがくほど負け続ける……!

 陥る……! クズのスパイラル……!

 

 僕を巻き込んで「奥さんに対する言い訳についての討論会」が開かれたが、言いくるめて正直に懺悔する方向へと持っていっておいた。

 昨日鹿野ちゃん(本人から下の名前で呼ぶように言われた。流行り?)とお出かけした際に出くわした奥さんから、旦那がバクチで隠し事しようとしたら全部打ち明けるよう言っといてくれと頼まれたのだ。

 まさか味方が既に買収済みとは思うまい。

 カノちゃんが好きそうなジュースの屋台教えてもらっちゃったらしょーがねぇよなぁ。

 

 

 そうして乗合馬車を降りてから、処刑執行直前の親方と別れて宿屋に帰りつく。

 みんなただいま~! 負けたけどお土産買ってきちゃった! ほら、メイちゃんと女将さんにも……んあ?

 

 そこには、見知らぬ男性と相対するパーティメンバー4人が居た。

 4人とも不快……というか、困惑した顔をしている。

 

 ……どうも良い話じゃあなさそうだな。

 NTRモノの導入みてぇだ。

 まぁ寝取るもなにも、誰も僕の彼女じゃないが。

 どっちかっていうとBSP(僕が先にパーティメンバーだったのに)か? なんか超能力みたいになっちまった。

 てかパーティメンバーが誰かと付き合うのは普通に祝福すべきだろ。

 僕は胸の痛みを無視して正論を吐いた。

 

 しかし、おそらくその心配は杞憂だろう。

 なぜなら、彼が着ていたのはここボゥギフトで主流の宗教、ファオルベルカ教教会の司祭の服だったからである。

 とんでもねぇ生臭坊主でもない限り、宿であった女性を口説いたりはしないまっとうな教義だったはずだ。

 

 

 ともあれ、困り顔をしているみんなの横に、どっかりと腰を下ろして僕も彼と対面する。

 

 さて、で、どういう話をしてらっしゃったんですかね?

 

 僕は初詣もクリスマスも一緒に過ごす友人がいないせいで根っからの無宗教だったからな、失礼があっても許してくれよ。




書いた閑話がどうしても主要キャラ登場後に投稿したい内容になった為、書き貯めが無くなったので明日の投稿が難しいかもしれません。
21時に投稿が無かったら明日はお休みです。
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