【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

19 / 142
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。


【17】 聡明な僕はこれがエッチな教会がしかけた、いけない罠であると完全に看破した

「この度は魔王の走狗の討伐、大儀でした。

「我々の教会に所属するエルフの聖騎士がこれを行ったのはとても喜ばしいことです。

「既にこの事については、民の安寧の為に市井へ我らを通して広く触れ回らせて頂きました。

「つきましてはあなた様のこれからも含め、ぜひとも建設的なお話をさせて頂きたい。

「明日、再度お迎えにあがります。もちろんお仲間方もお連れくださって結構です」

 

 要約すると、まあ多分だいたいこういう話を彼、ポーン司祭は持ってきたらしい。

 オイオイ凄いな大儀とかリアルに聞いたの初めてだぞ。まぁ僕に向けて言ったワケではないが。

 もちろんこれは彼の言葉ではなく、上層部からの伝達だ。

 つまりは使者としてやって来られたワケ。そっちこそ大儀どすねぇ。

 この宿のメニューにぶぶづけがねぇのが惜しまれるところだぜ。

 

 ……しかし、司祭って結構偉い人なんじゃねぇのか?

 その人選を見るに、先生を軽んじているこたぁねぇだろうな。

 

 

 なら、つまるところ、結局どうするかっていえば。

 

「……先生、どうされますか?」

 

 当然、ご本人の意向次第となる。

 なんてったって今回の討伐の立役者は先生だ。僕なんかはお小遣いを貰っただけに過ぎない。

 過ぎないもクソも何一つ成し遂げてない内容でビックリして瞠目した。僕はいったい何をしていたんだ……?

 このままでは就活時の学生の頃に最も打ち込んだ事という質問に、女の人からお金を貰うことですとしか答えられない。胆力は認められるかもな。

 

 そして先生が中核と見てるのは、教会さんたちの認識としても間違いないだろう。

 他のメンバーのことなど重要視してはおらず、たまたま一緒に居ただけ程度に思っている可能性も高い。

 来てもいいよとは言っているが、これは先生に良い印象を与えたいが為だとも見て取れる。

 

 ……穿って見ようと思えばなんでも胡散臭く見えるもんだから、そこは注意しないとだがな。

 競魔の木札持ったヒモが突然現れたのを見た時の司祭も、相当に胡散臭そうにしてたからね。

 聖職者と無職者、一番相性悪いかも知れんなァ?

 一方的に特効持ってる相手とばかり当たってる気がするぜ。

 マッチングシステムの不備か?

 最近のユーザーは厳しいからなぁ、そういうのあるとすぐSteamが賛否両論になるぞ。

 

 

 なにより、そもそもの話……聖先生はその高い職業倫理からかこんな非常事態であっても、先生として変わらず僕らを保護してくれているが、それは本人の厚意によるものなのだ。

 もし先生が待遇や将来のことを考えて別の道を歩むのなら、それを前提に話をしなければならない。

 僕とみんなの間でも、先生を縛りつける重荷にはなりたくないという意見は……一致していることだろう。

 

 だから彼女の選択がどちらであっても、それを受け入れよう。

 止める権利など、そもそも僕らは持ち合わせてはいないのだ。

 今までありがとうございましたと、恩師に頭を下げて送り出せるように覚悟を決める。

 

 ……行った後に泣いちゃうかも知れんが、それはまぁ卒業式の分の先取りみたいなもんだ。

 恩師の門出に泣かぬ生徒もいまい。逆じゃねぇか?

 

 

「お話はもちろん伺いに参りますが、聖堂騎士団へのお誘いなんかだった場合は申し訳ないですがお断りします」

 

 けれど、僕の問いに対して、先生はさも当然のようにそう返した。

 当たり前のように、言うまでもない事のように。

 

「私はこの子たちの先生です。教師が生徒を危険な場所に放り出して、別の組織に属する事などありません」

 

 その言葉にポーン司祭は驚愕し目を見開いていた。

 聖堂騎士団とやらに勧誘されるのは、きっと名誉なことなのだろう。

 教会の教えに恭順することを、当然のように想定していたのだろう。

 だからこそ、彼は感服したかのように数度頷くと、かしこまりました、ではまた明日、とだけ言って宿を出ていった。

 色好い返事とは言い難いものだったにも関わらず、その顔はとても晴れやかに見えた。

 

 ……なんだよ、この人も良い人だったんだなぁ。

 すんませんね、さっきは疑っちゃって。

 今度また教義についての説法をお聞かせくださいよ。

 教化されてヒモじゃなくなるかもしれんのが怖いとこだがな。

 

 

 

 そうして来客が去り、一瞬の静寂の後、僕と鹿野ちゃんは泣きながら先生に飛びついた。

 

 う゛わ゛〜〜〜〜〜!! 先生〜〜〜〜〜〜!!!

 完全に感動してしまった。

 先生見てこんなに泣くなんて金八とGTO以来だ。

 対極のモノ挙げちったな。いや、本質的な部分は同じか。

 

「良かっだっす〜!! わだ、わだし先生行っちゃうのかと思っで〜!!」

 

 鹿野ちゃんも終始不安そうに見ているだけだったが、流石にどういう話か分かってたらしい。

 というより彼女はこういった、なにかを無くすかも知れない気配に敏感だ。

 だからいつも相手を掴むし、どこかに一緒に行くときも同行者の手や腕を握ろうとする。

 それはマシンガンのように紡がれる言葉よりも雄弁に、『私から離れないでください』と言っているようなものだ。

 

 だからこそ、今回、鹿野ちゃんはガマンした。

 大好きな先生がどこかに行ってしまうかもしれないのに、相手の為を思って握りこまないように必死に抑えた。

 好きだから、手放そうとした。

 

 それはとても尊い行いだ。

 きっと、先生が教師であろうとし続けるのと、たぶん同じくらいに。

 

 聖先生に頭を撫でられる鹿野ちゃんを見ながら、僕はこのパーティの一員でいられる幸運に深く感謝した。

 

 

 ちなみに抱きついていた僕も撫でられた。

 めちゃめちゃに照れたし、後から自分がとんでもない事してるのに気づいてすぐ離れました。

 なんか一瞬バフも繋がりかけたしな。なんでだよ。

 

 周りを見れば、委員長や黒井さんも涙ぐんでいる。

 いまや先生は僕らの精神的な支柱となっている。これは正直あまり良い傾向ではない。

 先生にばかり気苦労を掛けてしまうのは良くないのだが、どうしても年長者という事もあり頼ってしまっているのだろう。

 パーティの一部にだけ負担が偏っているのは、後々の不和に繋がりかねない。

 

 これは本当になにか、先生の疲れを癒して苦労をねぎらう方法を考えなくては……。

 しかし思いつく事なんて僕が建てたプランでお出かけしたり、メイちゃんに習った手料理を披露したり、わりと禁じ手ではあるが愚痴吞みに付き合ったり程度のものだ。

 果たしてこんな内容で先生を癒せるのか……とりあえず全て試していくしかないな……。

 

 

 ひとしきりみんなが泣き止むのを待って、女将さんが僕たちに声をかける。

 どうやら教会が触れ回っているのは本当のことなのだが、その言い分はまるで教会が主導して今回の討伐を行ったかのようなものだという。

 「まぁそこら辺はしょうがないわ、みんなに広く伝えるにはこうするのが良いのよ」と先生は言うが、僕らはもちろんそんなのでは納得がいかない。まだまだガキなんでねぇ!

 

 鹿伏さんが過去最高の装弾数で不平不満を言うと、黒井さんまで過去最高頻度で頷きつつ深い憤りを感じさせるキューティクルを見せ、委員長は危うく教会の打倒を目標に設定しかけた。

 それは流石にマズいので、すんでのところで先の先を取り「まぁまぁまぁ、これも落として上げる話術って奴だよ委員長。見ときな、明日先生が行ったら教皇まで手もみしながら擦り寄るなろう展開だ。帰る頃には神々の列に名を連ねてるかもなァ?」と大ウソをついて阻止。

 宮本武蔵と刃牙の戦いみてぇな事を、狂気の目標達成AIを止める為にやらせないでくれ。

 

 なお僕は、まぁ実際先生はあんま気にしてないんだろうし、社会人だから理不尽を受け入れるのにも慣れてるんだろうけど、やっぱ僕らがいて教師をしなきゃいけない事自体も含めて、なんやかんやストレスはかかってるだろうな……と再確認。

 まず今夜にでも手始めに、近所で買った果実水と、先生にはお土産に買ってある弱いアルコールを持って部屋を訪れ……ると先生が気を使っちまうので、宿の食堂を借りて話を聞くことに決めた。

 

 

 徐々に混沌とし始めた場を、先生はぽんと手を合わせておさめる。

 

「突然の事でみんな驚いたかと思うけど、でもそんなに心配はしなくていいと思うわよ? まだ数度しか訪れていないけれど、この世界の教会は別にそこまで強権的でもないし、怖い存在というわけではなさそうだから。こちらの意思を無視してなにかを無理強いするようは事は無いと思うの」

 

 実際のところ、先生はそこまで心配はしていないらしい。

 まぁ創作物や史実のイメージが先行して、少し教会というものに偏見が僕らの中にあったのは確かだ。

 すべては明日明らかになるのだから、今頭を悩ませても仕方ないのかもな。

 

 

 とりあえず僕は未だ流れる涙を拭きながら、鹿野ちゃんと黒井さんに競魔場マスコット『走るブタザカナ』の色違いの小さな像を手渡し、委員長には乗合馬車に乗りながら描いた東町のおおまかな地図、先生にはコルクで蓋されたバーガルの小さな甕を順次配っていくのだった。

 メイちゃんは甘いナッツ、女将さんには塩味の方ね。

 あとさぁ、これみんなが要るかわかんなかったから買えなかったんだけど、帰り道でちょっと綺麗な首飾り売っててね。

 今思い返してもやっぱみんなに似合いそうだから、もし良ければ今度見に行かない?

 来週までは同じとこで商売してるって言ってたから…… 

 

 

 

 

 

 

 あくる朝、僕らの前に現れた馬車は、けして豪華とは言えない質実剛健な造りのものだった。

 なんとなくだがこれを見て僕は安心した。

 こういう時に変に見栄を張らない気質で、普段から実利を取った物を重用する姿勢が垣間見える。

 きっと先生の言う通り、この宗教はあんまり拗れていない、素直に人の支えとなるものなのだろう。

 

 まず先生が乗り込み、それに続いてみんなも足をかけ馬車に入っていく。

 幌馬車にはこっち来てから何度か乗った事があるが、こういった箱型の馬車は初めてだった。てか僕ら全員乗れんのか?

 ギュウギュウ詰めだがなんとか乗れました。ち、ち、ち、近〜〜〜い!

 向こうのシスターが一人、鹿野ちゃん、黒井さん。

 委員長、僕、聖先生の順番で向かい合って座っている。

 

 はーん、なるほどね、完全に理解した。

 聡明な僕はこれがエッチな教会がしかけた、いけない罠であると完全に看破したのである。そんなわけがない。

 

 あまりの質感にすべてを忘れて、時の流れすら茫洋となりかける。包丁人味平でブラックカレー食った時みてぇだ。

 委員長からはなんか、シトラス……? シトラスみたいな……シトラス……わかんねぇよ!!! 女の匂いに詳しくねぇ!!!!

 なんか柑橘系の良い匂いするよ〜〜、怖いよ〜〜〜!

 エルフはなんか蠱惑的な薬草、朝日が駆け抜ける草原の朝露、静かな森の奥の香木から垂れる雫、植物の最奥にある秘められたエッセンス、そういった香りがします。

 なんでこっちだけソムリエの如く情景が浮かぶんだ……?

 

 ヒモなのに身体的接触にはまったく慣れていないので、すべての事柄に新鮮に過剰反応してしまう。あわわーわわーわわ!

 

 触れ合う二の腕の温かさ、僕とは違う柔らかでキメ細やかな肌に、僕は本能的な畏れを抱く。自らよりも巨大な岩石、天にも届かんばかりの大木に、人が自然“神“を見るように、僕はそこに“なにか尊いもの“を見出した。溢れ出るプリミティブな感情の、人間の言葉で表し得る領域の先、その余剰分にこそ古来アニミズム的信仰は神霊の存在を感じとったのだ。

 僕が委員長と先生の二の腕に霊的実在を感じ、新たな宗教を創始して目の前のシスターと宗教戦争を開始しかけている事など、車内の誰も予想していないだろう。

 

 昨日も水浴びしたけど、こうなってくると自分が臭わないか心配だ。

 思わずくんくんと自分の服を摘んでチェックするが、やはり自分の匂いはわからない。

 

 するとそれに気づいたのか、先生が耳に口元を寄せてささやく。

「フフ、大丈夫。蒼君は臭くないですよ。なんだかとっても良い匂いなくらいです」

 

 突然始まった完全肯定4DASMRに完全に硬直し宇宙ネコとなった僕を乗せて、馬車はガタゴトとボゥギフト中央街教会本部へ向かっていく。

 

 

 なお目の前では鹿野ちゃんがシスターさんを質問攻めにしていた。

 しかし穏やかで天然な感じがするシスターさんは、その質問にあらあらうふふりつつゆっくりとすべて答えていた。

 子供の扱いに慣れている所を見るに、孤児院やそういった子供の集う場所にもよく出向くのだろう。

 教会に所属する個々人を見ているうちに、僕は彼らへの警戒心を自然と解き始めていた。

 

 もし昨日からの人選がわざとなら、とんだ曲者が仕込んでんだろうなぁ、ええ?

 勝手に解かれた警戒は意識して組み直される。

 

 もともとコミュニケーション不足な、脳内で理論武装ばかりしてたぼっちくんの人間不信を舐めるんじゃねぇよ。自分で言ってて悲しくならぁな。

 

 悲しみと興奮のハーフアンドハーフとなった僕は、無事協会本部へと配達されたのだった。

 教会に来る時の感情の揺れ動きじゃないんだよな。激ヤバシリアルキラーが懺悔に来る時くらいだろこんな情緒。

 

「ほわぁー! デッカいっすねぇ〜! すごー! これって東京ドーム何個分くらいあるんすかぁ!?」

「あらあら、そのとうきょうどーむというのが何か分かりませんが、きっと100個分くらいはあると思いますよ」

 

 教会本部が途方もなくデカい事になってしまった。

 そら田舎から出てきたガキが知ってるデカい物なんて普通はタカが知れてるからな。

 

 あまりの衝撃に目を回しそうになっている鹿野ちゃんの肩に手を回し、転けないようにしっかりと立たせてあげつつ、僕らは荘厳な彫刻で装飾された見事な聖堂へと足を踏み入れた。

 

 さて神が出るか天使が出るか……どっちもすでに顔見知りなんで、融通を効かせてくれると有り難いんだがね?

 先程まで異性との軽微な接触で原始宗教に目覚めかけていた事も忘れ、僕は皮肉気に微笑んだ。




なんとかなった。明日は無理かも。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。