【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【2】 見知ったエルフ

 拝啓、お母様。

 僕は貴方様には言えない仕事に、いつの間にか就かされていました。

 しかし職業差別に対する意識が改善されつつある昨今、僕も偏見を捨てこの職業で社会に貢献し、人の為に働きたいと思っています。

 差し当たって僕を養ってくれる女の人を探し、その方の寂しさを紛らわせれば……

 

 

 

 うーん、無理がある。僕だけ異世界じゃなく下北沢に来ちゃったのかな? 下北沢にヒモが居そうという僕の発想も社会通念上良くないので、職業差別意識同様改めていきたい。

 

 でも言わせてもらうとそもそもヒモは職業じゃないし、今僕はヒモになっている筈なのに別に誰かに養ってもらってないからとんだパラドックスだし、強いて言えば学生の身分だから保護者のヒモだ。なんか列挙すればする程もうどうしようもないなマジで。全てに関してお手上げだ。誰でもいいから僕を許して欲しい。

 しかし許すも何も、僕の能力検査の担当になった天使も「はぁ、ヒモですね……ヒモ!? ……ヒモ……そっかぁ……ヒモ、ですか……でも、人生ってその人の、ほら、自由じゃないですか。だから、えっと、先進的な生き方って言うか……良いと思います、多分」とか苦笑いしながら言ってたし、もはや神様サイドも許すとか許さないとかじゃなく想定していないハズレ引いた感じになっているのだ。なんでお前に勝手に決められた仕事を、ちょっと無理めに擁護されなきゃいけないんだよ。

 

 真っ白な煉瓦で作られた真っ白な広場で真っ白なベンチに座りつつ途方に暮れて真っ白になっている僕は、周りの人に不審者と思われないように視線だけを動かして周囲を見回す。

 体育館程度の広さの白い世界に、100人近く居たんでは無いかと思われる被召喚者達は、今や数人しか……いやこんな事までサボるのは辞めよう。そういうとこだぞ。

 心機一転丹念に数え上げた所、僕を除いて4人……えっと、3人+α程しか残っていなかった。わざわざ数えなきゃ分かんねぇ人数でもねぇだろこれ。

 

 ともかく、呼び出された内の9割5分近くは、もう異世界へと旅立った後なのである。

 既に人の波は門の中へと消え、潮騒は遠くなりにけり。

 よくもまぁこんなおかしな状況にぶち込まれていながら、みんな喚き散らしもしないで粛々と異世界へ赴けるものだ。もしかしてみんなよく訓練されたベトナム兵だったのか。そんな風には見えなかったんだけどなぁ。あんなの(、、、、)がベトナムに居たら大騒ぎ間違いなしだ。

 

 そう、そんな風には見えなかった。つまり僕はみんなのひととなりをよく知っている訳ではなく、外見で判断する他無かったという事だ。同じクラスの人間だけではなく、学校内の学年もクラスもかなりバラバラな人達がこの場所には居たのだ。人かどうか(、、、、、)怪しいのも居る。

 

 ちょっとオッサンぽい先輩らしき人が居て、隣のクラスで見た事ある気がする人が居て、購買のパートさんが居て、名前は正直覚えていない同じクラスの奴が居て、少なくともベトナム兵は居なかった。ただそれよりもヤバそう(、、、、)なのはまだ居る。

 

 その内の何人かは知っている人で、もちろん残りは知らない人だった訳である。あの耳が尖った金髪の奴(、、、、、、、、、)も存じ上げない。

 

 ……いい加減言及を避けるのはやめよう。

 面倒そうな事から逃げるのは、僕の良くない癖だ。でも面倒な事は面倒なので近寄って欲しくない。むしろリスクマネジメントの観点から見れば良い癖なのでは?

 とりあえず、そんな戯言は置いておいて、僕は広場の真ん中に目をやる。

 

 エルフ(、、、)が居た。

 金髪だし耳が尖ってるし胸がデカいし着てる服はなんか露出度が高いし、男性の身勝手な欲求に振り回された存在系のエルフお姉さんが居た。

 みんなちょっとあまりの異物感に近寄りがたくて遠巻きにし、結局誰も腫れ物に触れないまま、彼女も人波に乗れず取り残されていたのだ。いやぁバイタリティに欠けた現代日本人ばかりですねぇ嘆かわしい、僕も正直近寄る勇気が無い。外国人最高Lvって感じの近寄れなさ。

 

 この人は……いやエルフって人って呼称でいいの? このエルフって呼ぶべきなの? エルフを人扱いって、それってSwitchもPS5もピコピコって呼んじゃうタイプのお母さん的乱暴さが無い?

 

 ……いやもう面倒だわ。

 このエルフさんはまた別の異世界からこの異世界に呼び出されたエルフなのだろうか。

 そうなると完全に、僕らのクラスがとか、僕らの学校が、みたいな限定的な呼ばれ方では無くなってくる。

 どうもウチのクラスが丸まま呼び出された訳ではなく、察するにウチの学校の中から無作為(作為的な選出でないとは現時点では無論言えないが)に呼び出されているといった感じだろうか。と、エルフさんに気付くまでは考えていたのだけど。

 しかし僕の記憶の限りでは我が校にエルフはいなかった。

 当たり前だ。

 じゃあもう何がなんだか分かんないっすねぇ!

 そもそも神の意図を人が図ろうなど、あまりに傲岸な考えだったのかも知れない。思い上がるなよ人間(ぼく)

 まーそもそもこんなこと考えたって仕方ないっていうか、それが分かって何になるんだ死ぬほどどうでもいい現実逃避は後にしろって感じだしね。でも現実見たって何も進展しないんだもんなぁ。現実を見るとは申し上げたが、改善の為の行動をするとは申し上げていない。

 

 と、そんな時。

「はーい、残っている人達ー! 私の所に集まって下さーい!」

 まさかのエルフさんによる招集だった。

 エルフってもっと排他的なイメージがあったけれど、なんだかこのエルフさんは相当にフレンドリーでコミュニケーション能力も高そうだ。

 流石愚かな劣等種たる人間を超越した森の賢人は頼りになるなぁ!

 僕は状況を動かしてくれる人が大好きなのでついつい擦り寄りゴマをすってしまうのだ。へへへ姐さん、お肩お揉みしやしょうか。そんなメロン付けてたら凝りそうですもんね……あれ?

 

 そこでようやく、僕は彼女の顔をまじまじと見る事となった。それまでは顔も碌に見れなかったっつーんだから、我ながら初心度が高い。でも今は向こうから声掛けて来たんだから、ちょっとくらい見ても無礼じゃないよねという発想だ。自分の事ながら小物の中の小物な思考はいい加減にして欲しいのだが、それは置いといて。

 

 ……なんか、見た事ある顔してないっすか?

 

 

 

「では、知ってる人も居るでしょうが、改めて自己紹介から始めましょう」

 広場の中央に集まった僕らを前に、咳払いを一つしてから、エルフさんが司会進行を勤めだす。

 

 いやエルフと知り合いの現代人は居ねーだろ、と突っ込みたいが、しかし、もしかすると、可能性の一つとして……僕は彼女を、知っているかもしれなかった。

 それは僕らの現代文の担当で、生徒からもまぁそれなりに人気があって、雑談が少ないのが玉に瑕だけど、でもみんなからある程度尊敬の目で……一部男子生徒からはもう少し下賎な感情のこもった目で、見られていた先生。

 

「私は聖生聖、現代文の担当教員でしたので、みなさんの内何人かは受け持っていましたが……現在の職業は、その、エルフ族の騎士をしています。武器は槍をもらいました」

 

 聖生聖、その人だったのだ。

 

 

 騎士なのにエルフな必要ある????????

 という疑念はもちろんあるが、しかし僕が言えた話ではない。むしろヒモも居るんだからエルフ騎士も居るだろと言われれば、なるほどと納得させられてしまいかねない説得力がある。

 あるのか?

 無いかもしれないが、厳然たる事実が目の前にあるのだから、僕らは納得させられる以外他に無い。

 

「エルフの騎士って……え、じゃあ先生、変身したって事……ですか?」

 

 震える声で一人の眼鏡デコ出し女子が先生へと問いかける。

 いいぞ、そういうのだ。そういう事を聞いていけ。

 僕は会話の相槌がろくすっぽ打てないドン底言語ブラックスミスなので、他人様とお話しする際頼れる仲間がいれば全て頼り切っていくというライフハックを会得しているのだ。それってもう僕は会話に入れていないのでは、という根本的な問題は棚に上げておく。

 

「担当してくれた天使さんによると、精霊との親和性が高い場合、異世界へと降り立った時点で身体が変成し、エルフになってしまう事も考えられるんだそうなんですが……私はそれが極端に高かったらしくて、神域に居る時点で徐々に変成し始めてしまったとの事で」

「へ、変、変成した……って事は先生、もう人に戻れないって事なんじゃ……?」

「魔王を倒して元の世界に帰還する際には、元に戻れるって話だからまぁ大丈夫かなって。でもこの身体の変化に戸惑ってる間に、他の皆がパーティーを組んでもう出発しちゃってたんですよねぇ。本当は先生なんだから、私が皆の組み分けを手伝ったりしなきゃいけなかったんですけど……あ! 服装はこれアレだからね! 私の趣味じゃないからね!? エルフに変化したらこれ渡されただけだから!」

「は、はぁ……そう、なんです……か……」

 

 女子生徒は「んなこたぁどうでもいいだろ……」と言いたげだが、先生の気持ちもまぁわかる。薄手の長い2枚の布を両肩にかけ、腰周りを紐で括っただけの様な服装なのだ。首から下は臍の下あたり、これちょっと激しく動いちゃったら色々見えてしまうのではないかというくらいまで丸出し。異世界じゃなければ法に触れるコーディネートだ。いやこれコーディネートって呼んでいいの? 風呂上がりにタオル巻くのと同じようなもんじゃんこんなの。

 

 僕が年齢相応な下衆っぽい視線と思考を彼女に向けていると、周囲の生暖かい視線に気付いた聖生先生は、手をポンと打ってから誤魔化すように話を切り替えた。僕の視線の意味には気付いていないと思いたい。

 

「では、先生の話はこれくらいにして……丁度良い人数だし、一旦この五人でパーティーを組みましょう。じゃ、みんなも自己紹介をお願いします」

 

 

 そして、童貞を殺す服を着た女がコミュ障を殺す言葉を吐いた。

 異世界でまで現実を見せるな。

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