【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
9/6編集:よく考えると最後の表現が逆だったので改変
「いやね、ボクたちは最初転移した先が洞窟でさぁ」
ソファに座った悪王寺先輩が鹿野ちゃんを膝に乗せ、頭を撫でながら異世界に来た当時の話を聞かせてくれた。
先輩が180cm後半なので、145cmくらいしかない鹿野ちゃんは大人と子供くらいサイズ差がある。
先輩が出されていたお茶菓子を手ずから餌付けしているので、鹿野ちゃんはたいへんご機嫌だ。
この人分かってんねぇ~。鹿野ちゃんがニコニコなので僕も嬉しい。
良かったねぇと言うと満足げに頷いて、存在しない髭をちょいと引っ張るジェスチャーしながら「うむ、苦しゅうないっすよコレは……」と品評する。
その後、気に入ったのか先輩のヘッドレストを後頭部でぽよぽよしていた。もう色々凄すぎて頭狂うかと思った。僕今教会飛ばして天国に居ます?
「ずっと最悪最悪ってみんなで言いながら、泥の人形みたいなのからなんとか逃げ回ってたんだけど、最終的に明音の聖属性パンチでなんとか撃退できてね。黒井さんなんて結構強そうだけど、天職は……暗殺者、ね。そりゃーなるほど、遊撃近接職って感じかな」
それで何がビビるって悪王寺先輩、お腹に鹿野ちゃんを抱いて、その上で黒井さんにもたれ掛かっているのだ。
黒井さんとは元々そこまで仲良くはなってなかった感じなのに、なんかそんな不快感も与えずにボディコミュニケーションで親愛度を上げている。
これが本当の天与された陽キャって奴なのかもな。養殖物の僕とは大違いだ。脂の乗りが違う。これに比べると青海さんはヒモのカスや。心の中の京極さんも手酷く僕を批判した。
僕が存在としての格の違いを
不透明度を下げてシームレスに消え去ろうとしていたところ、何かを考え込んでいた黒井さんが、ヒョイと鹿野ちゃんを抱えた悪王寺先輩を持ち上げ横に降ろすと、唐突に僕を軽々と持ち上げ膝に座らせた。
……?
腿の下から伝わる柔らかな筋肉とその下に確かに存在する骨、背中にはもうなんかスゴい柔らかいスゲーモノがその存在をありありと僕に訴えかけ、ぱさりと耳や首筋にかかる彼女の長く綺麗な黒髪がこそばゆい。包まれる香気は、物静かな秋を思わせる。穏やかな停滞と心地よい安寧の香りだ。わかんねぇならソムリエには向いてないかもな。
あまりに唐突でフェティッシュな行動に、元値がクソ低いpowの対抗ロールで失敗した僕は、完全にヤラれて真っ赤になり石の如く固まった。ま、マズい! 石化フェチの天使が見たら僕で興奮されてしまう!
ちなみにもちろん黒井さんも大照れに照れていて、頭上から「は……はひぇ……つ、ついやっちゃいまし、て……」というか細い声が聞こえてくるので、「ううん、ちょっと寂しかったから嬉しいよ。ありがとうね」と返しておく。恥ずかしさを振り切って僕の為に行動してくれた事に、感謝しないはずがない。
頭が半分彼女の黒髪の御簾の内へと入ってしまうが、振り返って彼女の顔を見たりはしない。
それを彼女が今はまだ喜ばないのなら、それはしなくてもいい事だ。
悪王寺先輩はこちらを信じられないモノを見たという顔で見ているが、膝の上で鹿野ちゃんが跳ねて続きを催促しだしたので、我に返って話し始める。
跳ねる時に頭が顎に当たって痛そうだ。あんまやると悪王寺先輩の脳が豆腐みたいに揺れちゃうから気をつけてね。
「あ、あぁ……で、どうにか敵は倒したけどここがドコなのか、出口はどっちなのかが分からなくて。ただなんとなく感じるモノがあったからそっちに行ってみたら、ちょっとした鍵のかかった木箱があったんだ。感覚的に開けれそうだなぁって思ったから、ちょろちょろっとイジったら鍵が外れてね。流石は神に認められた盗賊ってだけはあるのかな? 中からは金銀財宝ザックザク、とまではいかずとも綺麗な薬品が入ったビン何個かと何かのキレイな毛皮があってさ。たぶんアレはいわゆる宝箱ってヤツだったんだろうと思う」
なるほど、宝箱……なんでそんなモンが置かれてるのかはおいといて、ファンタジーのド定番って感じだな。
僕らはまだ見つけていないが、おそらく発見しても触らないのが最善だろう。
なぜなら僕らには悪王寺先輩が居ない。神より賜った天職の『盗賊』の才を持つ者だからこそ、きっと安全に解錠できたのだ。
僕が目先の欲に眩んで鍵穴に小指の爪でも突っ込もうもんなら、その穴が鉛筆削りにでもなってるオチが目に見えている。ハピツリかsawみてぇな罠をしかけるのはやめろ。
ダクソのミミックだった場合は丸呑みにされちまうかも知れないしな。やめときなよ、こんな生き汚い物食べたら腹壊しちゃう。
だからってミミックに一口齧って吐き出されたら、たぶん本当にショック受けちまうぜ。せめて美味しく食べて欲しいというのは、僕のワガママか? ミミックの皿……。
「まぁこんなんあっても石窟の中じゃ無意味じゃんとはなったんだけど、コレは間違いなく高く売れるから持って帰ろうって山算金が言うからさ。お金の話でこの子が間違えるハズがないし鞄に無理やり詰めて……んで、彷徨うことたぶん体感5時間くらい、ようやく陽の光を拝む事ができましたってワケ。いやはや、もしかすると一生あの中から出られなかった可能性もあると思うと、いくら人間離れした美人でも女神様を恨んじゃうね」
「過分な評価恐縮ですが、私は洞窟内ではなにも活躍できませんでしたからねぇ。せめてこれを売って、みなさんのこれからの生活を少しでも楽にできればと思ったに過ぎません。私は私の仕事をしようと、とっさに考えただけですよぉ」
今まで嘴を挟む事もなかった小金井さんが、褒められた時にだけ照れくさそうに謙遜を口にする。
卒がないっつーか、仕事ができる人のビジネスな態度って感じにも思えるのは……僕が穿って見過ぎなのだろう。
疑惑とキズパワーパッドはどこにでも付く。マスコミとバンドエイドの努力の賜物だ。
もしかすると相手が三年の先輩だから、遠慮をしているだけかもね?
仕事といえば、僕もできれば防具屋さんの錆取りのバイトをしたいのだが、委員長からは「青海君は働かないのが仕事です」と断ぜられて、バイトも内職も禁止されてしまったんだよね。赤子が泣くのが仕事なのとはワケが違うだろ。基本的な人権っつーかむしろ労働は義務のハズなのですが……。
やっぱりというか、予想通りヒモのバフは僕が働くと弱まるし、その時点で渡したモノの価値に左右され、なにより僕の為に固執し浪費した時間に影響されるとわかったのである。であるじゃねーが?
これは委員長が何回も条件を変えて、手ずから薬草を練って見つけた法則性である。
僕が知らない間に、ほぼ一日丸々を僕を思いながらお金を渡す為に薬草を練りまくる事に費やしたと知り、もはやこんなんヤンデレに近似してるだろと戦慄したのも記憶に新しい。
目的の為に手段を選ばない相手の目的に選ばれるのが、こんなに怖いもんだとはな。
だから何度も僕の身体から突然黄金の線が飛びでてたのかよ。飲み会でめちゃめちゃ周りとウケちゃってたわ。
もちろん感謝しつつも気づかなかった事に謝って、そのお礼に道具屋の番頭から聞いてたレストランでお昼を奢り、帰りに委員長が行きたがっていた本屋へ荷物持ちとしてついて回ったものだ。
委員長は花より実を取るタイプだから、お返しも自然そういう形になる。とはいえ花に興味が無いわけでもないので、そこはバランスよく織り交ぜなきゃな。実際に花をプレゼントした時も喜んでくれた。なんでも煎じると薬効が良いらしい。僕も喜んでくれて嬉しいよ。
委員長の実証した仮説を聞いた先生の「それは無為な日々の無思慮な浪費もまた、ヒモというモノの本質的な一要素だからだと思うわ」という一言が忘れられない。
ヒモに一家言ある先生が言うのだから間違いないが、そこに込められた含蓄が彼女の悲哀を浮き彫りにするのは皮肉な話だ。
クソ……こんな良い先生に寄生していたヒモが許せないぜ……!
後釜に収まった僕は、前任者を無責任に非難した。
時は金なりという言葉の通り、否、金は取り返しがつくが時間は誰からも取り返す事なんて出来ないのだから、より重大な損失と呼べるかも知れない。
そういった欠損の寡多こそが、バフの質と量に影響を及ぼす。
未だ推測にしか過ぎないが、おそらくはそんなところなのではないだろうか。
なんなんだその職種、ヒモじゃなくヒモの悪魔にでもなったんじゃないか僕は。マジでそんなのと契約しない方が良い。マキマも引いちまう。
みんなは僕のバフをとても強力で助けになるものだと言ってくれているけれど、しかし当の僕は実感が湧かないのでただただ怠けてるだけに思えて座りが悪いんだよな。
そもそも家ではだいたい僕が家事をやってたから、宿屋生活で上げ膳据え膳な現状はハチャメチャに楽だが、なんか居場所がなくてソワソワしちまうぜ。
その上でバイトもしなくていいだと? いつから僕は王族になっちまったんだ? ニューヨーク行った星の王子ですらバイトしてたぞ。
こんなんに慣れてたら人間ダメになるからやめとけよ、既にダメ人間の僕からの忠告だ。
「でさ、その洞窟の入り口からピンと来た方向へむかったら道があって、そのまま数時間歩いてようやくボゥギフトへ到着できたのさ。キミらもかなり危なかったみたいだけど、女神様的にはこれも試練って事なのかな? 勝手に呼んどいて勝手に試練を課すとは、まったく神様ってのは年頃の女の子よりワガママかもね。ま、女性はそういうところもかわいいんだけど」
それはわかるぜ。
流石は王子様と称されるだけはあり、女子についての造詣が深い。
まぁそもそも本人がかわいい女の子だから当然だろと思われるかも知れんが、案外自分のことなんてわからないもんさ。
僕もヒモについてまだまだ全然わかってない。攻略wikiの初心者tipsから見たいとこだぜ。ファミ通の攻略本でもいい。
どうするよtipsに職種評価☆1、上級者向けって書いてあったら。そんで取り返しのつかない要素の項目には、職業選択って書いてあるんだろうな。やっぱ見たくなくなってきた。
話を戻すと、確かに女の子は男子よりも気ままに欲求がブレるが、だからこそそれを全て満たしてくれる相手を欲している。
男からしてもアレもしたいコレも欲しいと言ってくれる相手は、何も望まない相手より尽くし甲斐があんのさ。
喜ばせられる回数が増えるとも言えるしな。残機が多いみたいなもんだ、より長く一緒に楽しめる。
手品師じゃねぇから全部を全部なんとかする事はできないが、そのできない何かを二人手探りで解決するのも楽しいもんだろ。
この前黒井さんが欲しがったアイマスクがどこ探しても見つかんなかったので、素材買って帰って下手なりに一緒に作ってみたら、たいそう喜んでくれたしね。今はこれが精一杯ってヤツ。
「で、そこからはもう山算金の独壇場さ。手始めにいくらかの出店を回り、その後に立派な家屋の商家に入ったかと思えば、ボクと明音が視線をテニス見てるみたいに左右に振ってる間に、出土品を金貨数枚と積まれた銀貨に変えちゃってさ。こんなに貰ったらその交渉相手から敵視されるんじゃないかと思ったんだけど、なんでかその商会経由で商業ギルドに紹介され、いつの間にかパーティとしてお抱えになる形になってて……で、簡単な依頼を一つ熟した後、今に至るってワケ」
どういうことだよ、逞しすぎる。
多分だが自分を取り込んだ方が利が大きいという事を示したのだろうけれど、しかし初対面の異世界の商売人にそう判断させるなんて並大抵の難事ではない。
まだネッシーを見つける方が可能性がある。この世界になら全然いてもおかしくないからな。
だが、彼女にはそれができた。
稀代の商人、齢15にして先代を絶望させたと言われる商才の主、小金井山算金にとってそれは、まるで呼吸のようなものだったかもしれない。
彼女は言わば『マネーゲームのディーラー』だ。
存在しないハズの一番儲かる胴元。
彼女の掌の上では金銭が、まるでひとりでに増えるが如く溢れかえる。
……と、ネットのまとめサイトは記事にしていた。
実際詳しくは知らないんだよね。
僕の頭じゃあ理解できない範疇の話だからな。ダイヤモンドも読んでないし。
朝の空き時間に自分の机でダイヤモンド読んでる男子高校生は面白いから今ならやってみたいが、昔の僕には絶対できない事だ。そういうの恥ずかしがっちゃう内気な少年だったからね。
臆病かつ自尊心が高い故のシャイさは、ティーンエイジャーの特権だし仕方ない。だから国語の教科書にも山月記が載ってんだしな。
なので、もし僕が彼女の事を理解できるとすれば、それは本人と話して得た所感を元に、僕の中で彼女を構築した時だろう。
今はまだ、僕には彼女がわからない。
人をまるごとわかろうなんて、とんだ傲慢かも知れないが。
まぁヒモの悪魔なんだ。多少は七つの大罪を嗜んどくのも悪くないだろ。ぽたく君の必修科目だし?
ただ、相手を理解しようとする姿勢が、否定されるべきじゃないのは当然のこと。
だから、君がそういう目で僕の大事な人たちを見るのも、今は我慢しておこう。
臆病でシャイなのは、僕だけじゃあないって事だしね。
小金井さんがほとんど話す事もなくにこやかな笑顔のまま、僕らパーティを『値踏み』するように眺めている視線を感じながら、僕はそうやって彼女を『品定め』した。
明日はたぶん無理。