【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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なんか今日も書けたから投稿あります、すごい。

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【20】 サービス精神

「え、えぇ!? 調査ってぼ、墓地!? しかもセンセーも行くのかよ!」

 

 ようやくお説教が終わり、タバコを没収された明星先輩が詳しい話を聞いて、すっとんきょうな声をあげた。

 明星先輩たちの居る場所は既に、我々が数十分前に通過した場所だッッッ。

 同じく異世界に飛ばされている辮髪の男性が僕の脳内で叫ぶ。めちゃめちゃ気持ちはわかるぜ。

 

 先生も同行する事に難色を示しているのは、学生という存在が保護者との行動をそもそも好まない事に起因しているのだろう。

 しかしこんな場所に来てまでそれを貫けるのは、単純に危ない状況に陥ったことがないか、もしくはそんな危機を覆せる力を有していると確信しているかのどちらかだ。

 おそらく前者も後者も理由として五分五分であるのだろうが、けれどこれはお遊びの修学旅行じゃあない。そもそも置いていく気は微塵も無いが、ウチの最大戦力を抜かすのはお話にならない。

 

「明音、これは保護者だとか先生だとかじゃない。命のかかった話だ。その態度はあんまり良くないんじゃない?」

「いや、でもよぉ……キュークツっていうか、せっかく自由な世界に来たのに……」

 

 ま、気持ちは分かるけどな。

 どうしても制約の多い学生という身分から、なんの縛りもない場所に放り出されたんだ。大学生ならともかく、中高生には刺激が強過ぎる。コロロしか食べてない人にタフグミ食べさせるようなもんさ。無知シチュの一種? 同じ分類の食べ物ですつっても信じられないだろな。

 つまりは僕らはギャップにヤラれちゃってる。萌えとる場合ではないので萌えないが、反動で縛りを嫌ってしまっているワケ。

 僕らは先生が付いてくれていたからそう顕著でもないが、授業が無い気楽さには正直みんな慣れてきちゃってんじゃないかな? 助かるぜ女神様。今度の期末の数学Ⅱ、赤点は免れなかったろうからな。

 

「明音は強いけれどボクはそこまで強くない、もし敵がいっぱい来たら後ろの誰かを守りきれないかもしれないだろう?」

「……ッチ わーったよ、単なるワガママだ。別に来んなとは言ってねぇ」

「それにボクはね、これだけの人数でも足りないと思っている。なんなら200人でも3000人でも欲しい! い、今から、墓地に幽霊とゾンビの調査に行くんだぞ!? 周囲を完全に囲んでくれないとボク絶対やだからね!!」

「……まぁ、それは……そう」

 

 みるみる意気消沈して小っちゃくなっていく明星先輩に、僕は言い知れぬ快感を覚えた。

 こ、これが明虐……? 良くない感情だ。あまりクセにならないようにしよう。

 僕は虐めるよりも甘えられたいタイプなんだ。やりたいことも好きなことも、全部口に出して求めて欲しいね。

 サービス精神ってヤツが僕の中で溢れて止まらねぇ。

 なんかトロール戦以降、格段にそれが跳ね上がってるんだよな……。

 まぁヒモとしては良い傾向なんじゃねぇか? 一般的にはそれを悪い傾向と呼ぶんだろうが。

 

「いやー、私もホラーはちょーっと勘弁願いたいですねぇ。子供の頃友達の家にあったぬ~べ~で、はたもんば回見てから苦手なんです」

 

 あんだけ不穏な空気を纏った対応をしといてなんだが、小金井さんが一気に身近な存在になった。ヒモは首を切るって言われたら泣いて失禁する自信がある。

 罪悪感は人一倍あるので、罪の意識の重みに耐えかねた僕は地に這い蹲り、詫びるかのように頭を差し出す。ゆえに侘助。刀がいつの間にかすり変わっちまった。残念だったな、トリックだよ。どっちにしろ首を切られて僕は死ぬが。

 

 いや結局さぁ、僕風情が小金井さんをなんかできるワケなくない?

 思ったんだけど、彼女が僕らを値踏みするのなら、そのお眼鏡に適う人材だと主張すれば良いって事じゃんね。

 彼女が僕らを見定めるというなら、僕らは商人相手に誠意を見せてやれば良い。

 古来人を(たら)すのは、北風(てきたい)ではなく太陽(ゆうわ)だ。

 シグルイでも読んだろ? 笑うという行為は本来攻撃的なものっつってな。

 

「じゃあとりあえず自己紹介から始めましょう。みなさんの名前はお聞きしましたが、改めて職業と何ができるかを確認する必要があります。こちらのパーティは少々特殊な構成ですので」

 たった一人でパーティ構成まるごとを特殊たらしめる僕は、突然現れた処刑への13階段を前に、笑顔のまま静かに黙祷した。

 すべて善意から必要な事を淡々と行う委員長は、やはりこのパーティに欠かせない代えがたい人だ。

 なぜなら彼女以外なら僕が口先で言いくるめ、この展開を毎回打ち消し無かったことにしてしまうからである。

 獅子身中の虫として、獅子の身に備わる最強の免疫機構に素直に白旗を降った。僕の負けやね。

 

 

 

 

 

 

 五人目:明星(みょうじょう) 明音(あかね)

 

 改造シスター服を着て頭をプリンに染め、ピアスも何個か開いてる浅黒日焼けギャル、の人。

 タバコを取り上げられたからか、口寂しげに艷やかな唇をもにもにさせている。猫目なのも相まって、その様は少し野生的にも感じられた。

 体格はすこぶる良く、身長は180中ほどで短く着られた裾から見える足は、カモシカの如き脚力を感じさせる肉体美だ。

 回し蹴られたら、たぶん僕なんかだと教室の端から端まで吹き飛ぶんじゃないかな。できれば試さないで欲しい。そのまま壁に僕の形の穴開けて隣のクラスに行っちまう。

 

 修道服は先ほど馬車でお会いしたシスターのものと同じ意匠、つまりはファオルベルカ教のものである。

 けれど大きく違うのはウィンプル(頭のフードの事をこう呼ぶらしい、悪王寺先輩が教えてくれた)が取り払われ、そのスカートが動きやすいようにか短めに切られ、胸元が分かりやすく露出している事だ。

 な、なんで? 突然僕のFanzaの購入履歴を出されたのかと思いビビってしまう。

 どうも神様から貰った服を、自分で改造してしまったらしい。

 曰く、こっちの方が可愛いし蹴りやすいとの事。

 

「オレは明星 明音、3年だ。名前くらいはアンタらもウワサで知ってんだろ? どんなウワサかは聞きゃしねぇがな。

「神さんからもらった仕事は『僧侶』……ビックリしたか? オレも最初はビックリしちまったさ。何人ぶっ飛ばしたかわかんねぇオレが僧侶だぜ? 神さんもこんな女に祈られたら泣いちまうだろうに。

「ただ、この僧侶ってのも思ってたより悪いもんじゃねぇ。

「なんでかっつーとな、威力が上がったんだよ。拳の。

「聞いたとは思うが、オレは一人で最初に襲ってきたゴーレムっぽいどろにんぎょうを、光り輝くこの拳でぶっ倒した。

「たぶんだがアレだ、つまるところあくまぎりみてぇなもんだ。ドラクエはやったことあるか? おもしれぇぞアレ、スマホのゲームな。

「あ、でもよ、ホイミは使えねぇんだよ僧侶なのに。なんか真剣に祈れてないみたいな事を、ココのエレーオッサンに言われたんだけどよ、んな事言ったって祈るって何すりゃいいんだよな?

「ま、そういうワケだからよ。ヤベー敵が出たら、オレに任せとけ。コイツで一発くれて粉々にしてやる」

 

 との事だった。殴りモンク? 実際僧侶ってジョブは攻撃に振ってたりすることが多いから、案外似合っているのかも知れない。

 ただマジで全く信心は感じられないが。回復系の祈りとか使えないのは神様に断られてたりしない? 大丈夫?

 しかしドラクエ好きなのは意外だった。

 でもあるよね、これまでゲームをしてこなかった人がスマホでアプリ触ってドはまりしちゃうやつ。

 

 なにやってるんだろ。3? 4? 5? あ、先輩ビアンカ派じゃないっすか? あ~、デボラ! 良いっすねぇ! 

 あ、へぇ、あくまぎりってモンスターズにしか出ない、そうなんですか?

 いや僕のみがわりダイヤモンドスライムもたいしたもんで……へ? アンカーナックルで1発……はぇ〜、対戦環境って怖いっすねぇ……。

 クリアはしたがそこまでやりこんでいない僕は、明星先輩に教えられながらドラクエ談議に花を咲かすのだった。

 

 

 六人目:悪王寺(あくおうじ) 子王(しの)

 

 ド派手真っ白銀ラメシルクハットタキシードという、常人なら服に着られるとかいう次元を通り越し、服しか見えなくなる逆裸の王様のような格好の王子様系麗人。

 こちらも同じくらいに高身長、肩までも無いウルフカットと切れ長の目が、あまりに似合い過ぎてキザという言葉も息と一緒に呑み込んでしまう。

 黒く深い海の底のような瞳は、新たな出会いに喜びを見出してキラキラと輝く。

 

 驚くべき事に、全てが歯車のように噛みあって似合っている。そんな服まで似合っていいんですか?

 まぁ衣装って行くとこまで行くとそうなるもんな。案外パリコレに並べりゃこれも地味な服なのかも知れねぇ。

 そして彼女はそんな服すら着こなす雑誌モデルっつーワケだ。たぶんティーン向け雑誌だろうから、もっと身近なブランドの服しか着ないとは思うが。

 しかしやってる事とできる事が違うのは普通の話。

 僕も働くことは可能だが、やらないで欲しいと言われているから働いてないだけだしな。

 その2つを同列に並べて、おこがましいとは思わんかね? 僕はぐぅの音も出ずうなだれた。

 

「さっきも挨拶はしたけれど、一応もう一回しとこうか。形ってのは大事だからね。

「ボクは悪王寺 子王。明音と同じく3年だよ。もちろん、黒井さんとも一緒だね。

「与えられた天職は『盗賊』……まぁ、これにはちょっと納得がいってないけどね。ボクは誓って他人から窃盗を働いたり、置き引きをした事はないよ。そんなにお金には困ってない。

「とはいえ盗賊というのが間違ってるワケでもないらしくて、なんとなく周囲のトラップや落ちてる物の位置がわかったりするし、鍵開けやその罠の解除も得意になっちゃっててさ。地球に帰っても何も考えず家の鍵を指先で開けちゃいそうで怖いよ。

「あ、あと戦闘力にはあんまり期待しないでね? 相手に幻を見せる『スキル』が使えるみたいなんだけど、直接的な暴力はからきしさ。

「ま、当然でしょ? ボクみたいなタイプに、暴力は似合わないからね。それじゃあどうぞ、今後ともヨロシク」

 

 そう言って彼女は、芝居じみた動きで深々と礼をした。

 語りも身振りもなにもかも、全てが様になっている。

 まるで僕らは彼女という役者を見に来たオーディエンスのようだ。

 うちわとペンライト持ってくりゃ良かったな。色は白ね。

 

 たった数分の自己紹介で、彼女はまた一人僕というファンボを増やしたのであった。

 すいません、チェキとかは……え? あ、事務所を通す。なるほど。

 地球帰ったら出てる雑誌も買いに行かなきゃ。ブルベ冬だから白系統が似合うんだろうな。

 

 

 七人目:小金井(こがねい) 山算金(さざんか)

 

 腰まで届く長い銀髪のポニーテールを揺らし、彼女はニコニコとこちらを見る。愛想が良い。

 それが外面なのかそれとも内面から滲み出る人の良さなのか、僕にはまだわからない話だ。いつか知れると良いんだけどね。

 

 身長は僕より少し低い。敵意を感じさせないその笑みは、まさしく優しくも活発な女の子という感じだった。

 服装は他の二人とは違い、この異世界ではよく見るシャツに紺のベストにズボン。

 もし職業は『村娘』でしたと言われても信じてしまうだろうし、その場合は「僕なんかヒモだぜ気にする必要無いって、話聞きたいしどこか座んない?」と誘ってしまうだろう。

 しかし彼女の身の内に潜むモノは、そんな生易しいモノではない。

 

 血すら貫く商いの才。

 小さな身の丈に合わぬ剣を、彼女は転移する前から有していた。

 

 

「えぇ、ハイ、どうも! 先ほどからお話はさせて頂いておりましたが、あらためて。

「ワタシは翔葉高校1年生、小金井 山算金と申します。どうぞ先生や先輩方におかれましては、これからよろしくお願い致します。もちろん鹿伏さんも、ね?

「あの白い空間で頂戴したのは『商人』の天職。いやはや、我が事ながらそれなりに自負はありましたが、神様から認められると嬉しいものですねぇ。

「地球に居た頃はアパレルやら雑貨やら鉄鋼やら、いろいろと取扱がありましたが、ココではまだまだ新参の駆け出し。とはいえそこはそれ、何も無くとも有る所から引っ張りだすのが商いですよ。

「刀剣、薬、鞄に肌着、なんならういろうであろうと……ご入用ならば、せびワタクシ小金井めにお声掛けを」

 

 明々に、朗々と、彼女はペラを回し僕らへと語りかける。

 私には何一つやましいところが無く、そして私の売る商品にも傷一つ無いと言わんばかりに。

 思わず先生や悪王寺先輩まで、その流麗な語り口に「わー、すごっ」なんて言いながら拍手している。

 ただ話しているだけなのに、まるで本当に外郎売でも聞いてるみたいな気分だったからだ。僕ももちろん拍手した。素直に凄いと思ったからな。

 あぁ、なるほど。彼女は誠実な商人だ。

 

 商人として、もう“成り“果てている。

 

 彼女だけが、己の天職と既に向き合い終えている。

 葛藤も困惑も習熟も練達も、なにもかも終わった2周目プレイヤー。

 強くてニューワールド。

 

 だから彼女はナメている。

 よちよち歩きの幼児を、ソファに座り珈琲を飲む大人が眺めるように、微笑ましくも見ものにしている。

 一段高みから、老いも若きも関係無しに、自分以外を俯瞰している。

 フィールドに立たず、プレイヤーとしての視点で生きてしまっている。

 

 きっとそれは彼女が獲得した生き方だ。

 他人より大きな階段を、他人より何倍も早く駆け上がった彼女に、残されたコミュニケーションの形。

 

 僕にはそんな天上に座す彼女の立場が、とても寂しい場所に思われた。

 

 

 だから、引きずり落ろしてあげよう。

 

 

 雲にも届く痛みの塔は、崩されるのがお決まりだろう。

 なぁに、ハンマーなんて要りはしない。

 彼女は商人なのだから。

 

 なによりも価値ある物を目の前にして、手を伸ばさずにはいられない。

 

 

 彼女が他者の欲する物が分かるように、僕には彼女が飢えている物が手に取るように分かった。

 

 なんてったってヒモだからな。こちとらいつでも飢えている。

 同じ穴の狢の事くらい、簡単に理解できるんだぜ。

 

 

 

 

 なお自己紹介で僕がヒモである事がバレて、危うくパーティを外されかけた。

 オイオイ、今時珍しいしっかり自分の意見を持った利発な子たちじゃねぇか。彼女らの頼もしさを再確認し、僕はこれからの調査への不安が少し減った。

 なんで外されかけた僕の信頼度が上がっているんだ……? 僕が僕を信頼しなさすぎている。

 

 ぷりぷりと怒ってくれる鹿野ちゃんに、『帰ったら』『散歩』のハンドサインを送るのだった。




明日こそたぶん無理、まだ200文字も書いてない。
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