【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
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念のためTwitterアカウントを作りましたが、投稿告知程度の発信にとどまるかと思います。
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「砲術士、暗殺者、錬金術士、エルフの聖騎士……ウチよりよっぽどバランス良いチームなんじゃねぇか? で、青海はホントはなんの職業なんだ?」
「明星先輩、ホントにヒモなんですって……僕もまだ信じらんないですけど」
「あのなァ青海ィ、オレみたいな男勝りな女はいい。でもな、普通の女は男が守んなきゃいけねぇもんなんだよ。それをオメェ、ヒモってさぁ……」
僕が鹿野ちゃんと夕方のお散歩を楽しんだ次の日、午前中から先輩たちのパーティが僕らの宿へと訪れていた。
2日後に控えた調査への打ち合わせの為である。
みんなで卓を囲みながら、各々好きな相手と交流を深める。
おそらくこれは教会側の配慮だろう。つまるところ僕たちに仲良くなって欲しいのだ。
僕らと教会には彼女らという繋がりがあることを、再確認させておきたい。
手を取り合う友人がいるという事は、いざという時に手助けせねばならないにストレートに繋がっている。
たぁいえ、別にそういうのも悪い気はしないもんさ。
つまり教会さんも僕らの事を、善き隣人にしておきたいと考えているんだろう?
もし僕らと敵対した時に自分とこの手足が言う事を聞かない可能性を押してまで、友誼を持っておきたい程に重要視はされているんだ。
これも一つの達成感ってヤツか?
社会的な承認を得るのは精神が安定して助かるぜ。ヒモは生活も情緒も不安定になりがちだからな。
働いてないという事の不安は案外バカにならねぇ。明日をも知れない身ってのは、明日が丸々不安になっちまうみたいなものだって事。
で、そんな「僕ら仲良くやってきましょうね」というお話し合いの席にて。
明星先輩は僕の隣にドカリと座り込むと、肘をついて滔々と訓説を垂れていた。
まさか飯屋で絡んできたヤンキーが、正論で殴ってくることがあるなんてな。おっしゃる通りやで。
挟んで隣に座る委員長は、僕らのやり取りを果実水を飲みながらただ静かに見ている。
実験対象を観察する科学者の目をしていないか? 従順なモルモットとしては助け船が欲しいとこなんだがな。
悪王寺先輩は聖先生とジュースを飲みながら話しこんでいるが、こっちもなんかちょっと目の行き場が怪しい。
そういうのって女の子は分かっちゃうんすよ? 僕も見ちゃうからな。これは自戒です。
とはいえヒダルさんに相談した結果、先生には新たな装備が追加されていた。
サークレット! 手甲! 肩当て! 脚鎧! ブーツ! 以上だ。
……いや、違くて……見たいからとかじゃなく……単に入る鎧が無いんだよ……デカすぎて……。
胸部が無理なら下腹部だけでもと思って聞いたのだが、どうも丹田を中心に魔力が生み出される為、下手に隠すと魔術的な守りが阻害されるらしい。命を守る鎧のせいで防御力が下がったら本末転倒だ。
結局大事なとこは神からもらった薄布で隠した、ヘソ丸出しの逆バニーアーマー状態とあいなったのであった。エッチすぎる、薄い本の導入か? ソシャゲの期間限定集金用スキンみたいだよ。
小金井さんは鹿野ちゃん目黒さん(帰り道でこう呼ぶように言われた、だいぶみんなと仲良くなれたね!)ペアから飛んでくる、とんでもない話の弾幕を笑いながら軽くいなしていた。つっても弾幕を貼ってるのは鹿野ちゃんだけだがな。
それも商人として必要な技能なのか……? 彼女の底知れぬ力の一端を見たようだ。
多分話半分に聞いてるだけだと思うが。しかし鹿野ちゃんの話を半分にしちまったら、ほとんど中身が残らんぞ。
彼女との会話は言語以外の部分における比重が大きいからなぁ。顔を見てれば何を伝えたいのかわかる感じだ。
目黒さんも頷いてるから会話には入ってるようなもんなので、彼女が人付き合いという難業にチャレンジして徐々に成長しているのを実感して嬉しくなる。
まぁ苦手であってもコミュニケーションなんてものは、慣れがある程度なんとかしてくれる。
最初に人と意思疎通を始める為の補助輪さえあれば、だんだんとなんとかなっていくもんだ。
僕がもし彼女のその補助輪となれたのならば、それ以上に嬉しいことは無い。
もう半分男親の気分だ。この子の結婚式を思うと今から泣けてくる。僕が目黒さんを幸せにできると認めた相手じゃないと許しませんからね!
「あー! 明音先輩、青海先輩イジめちゃ駄目っすよ! 青海先輩は凄いんすから! 黄金のビームをビーって!」
「あん? なんだやっぱオメェなんか撃てるんじゃねぇか。ギラか?」
あー、うーん、どっちかっつーとバイシオンっすかねぇ。
僕が絡まれてるのを見かねた……っつーか発見した鹿野ちゃんが、即座に僕へ机越しの援護を飛ばす。ついでにちょっとお茶もこぼすし、お菓子の粉も落としたので布巾で拭いておく。
助けてくれてありがとね鹿野ちゃんと言うと、ちょっと顔を朱に染めながらも嬉しそうに身悶えする。かわいいねぇ。
「あー? なに、補助魔法が使えるって事か? よくわかんねぇけどヒモってそういうもんなのか?」
「いや、違うとは思いますが……」
たぶんどの世界のヒモも補助魔法は使えないと思う。
ドラクエのあそびにんもパルプンテ以外魔法は覚えんから似たようなモンだな。しかし僕は賢者になれない。
将来性であのピエロに負けている事に深い悲しみを抱いちまうね。
この力を他人にどう説明すればいいのかマジでわかんねぇ。
今まで僕の力のことはパーティ以外の誰にも説明せず、他の知り合いには普通に単なるヒモだとしか言ってないのだ。
みな一様に心配そうな顔をして仕事を紹介してくれるか、しかしお前依頼にはついてってるし冒険者だろう、と持ちネタとして受け取るかの2択になってきている現状である。
僕もこんな自己紹介は心がイテぇ、しかし飲み仲間にウソはつきたくない……!
持ち前の無駄な義侠心が僕を苦しめる。ヒモは誠実、古事記にもそう書いてある。
しかしこれから合同パーティとなり危険な場所へ調査に立ち入る以上、先輩方のパーティには隠すワケにいくまい。
僕は腹を決めて、明星先輩へと向き直る。
「お、なんだ青海ィ。ついに話す気になったか」
真実を打ち明けられる程に僕の信用を獲得したと思ったのか、嬉しそうに明星先輩がそう問いかける。
真実はいつも残酷だから、できれば先輩には知らずにいて欲しかったッス……。
闇の組織で育てられ学生生活の裏では未だ殺人マシーンとして汚れ仕事をさせられている後輩ポジの様な発言になってしまった。例えるにしても特殊過ぎたか?
空気が変わったのを感じたのか、他の二人もこちらを向いて話を聞く体制に入る。
なんか真剣な話をする空気になってしまったな。全然もっとカタンとかしながら聞いてくれていいのに。
いやマジなのはそうなんだが、しかしそう構えられるとこっちも困っちまうんだよな。胸張って言える事じゃねぇからさぁ。世間様に対してもっと申し訳無さそうに開示しなきゃならん類の物なんだって。
良い行いをひけらかすとむしろ露悪的なのと一緒だ。
パーマンや忍者みてぇなもんさ、人にバレずに成し遂げなきゃいけないだろ。
あれコレ一緒にしていいのか? たぶん良くない。すまんから動物にするのは勘弁してくれ。
アイエエエ……といううめき声を漏らしつつ、僕は端的に説明した。
1:僕は本当にヒモである。この時点で涙無しには語れない。
2:戦闘能力は一切ありません。悪王寺先輩と一緒ですね、と言いかけたが僕はアホでは無いので飲み込んだ。
3:ただヒモとして扶養・庇護してくれる相手にバフを付与できる。
4:その時その時の価値基準で、バフの強さは変わる。
5:これはみんなの体感値だから僕はよくわからないが、そのバフはとても強力らしい。
以上である。ご清聴ありがとうございました。
これを静かに聞いてくれたっつーのか、呆れて言葉もないっつーのかは難しいところだ。
明星先輩が難しい顔をして僕らを見回すと、鹿野ちゃんや聖先生は間違ってないと示すように頷いてくれる。
一通り僕らを見たあと、彼女はお仲間二人と顔を見あわせ。
数回のアイコンタクトの後、スッと祈りの姿勢に入り。
「神さん、どうかコイツラの洗脳を解いてやってくれ」
洗脳を解くための祈りを捧げた。
淡い光が食堂に満ちる。
僕らの僕抜きをやわらかな布で包むように神の加護が一撫でしてから、吹き抜けるように消え去った。
どうやらみんなが僕に洗脳されているという結論に至ったらしい。
この世で一番失礼かつ妥当な対応をされてしまった。
ぶっつけ本番で状態異常解除の祈りに成功してんじゃねぇよ、おめでとうございます。
「えっと……明星さん? 私たちは別に青海君に騙されてるワケではなくてね? 本当に彼の力で魔王の走狗も倒したし、いろいろと便利なバフをもらってるの」
「……スゲーキレイだったな。アレを見ると、初めて他人のために祈るって事ができたって実感するわ。だから、たぶん洗脳とかじゃなくホントの話なんだろ。青海、すまんかったな」
「あぁ、いや……みんなの為を思っての行動なんですから、気にしないでください」
明星先輩は素直に僕へ頭を下げる。
けれど、僕の大事な人たちを思ってやってくれたことで、僕が気分を害するハズがない。
もし僕がノクターンノベルズに出てくるタイプの小悪党で、これから先輩たちまで歯牙にかけようとしていたならば満塁ホームラン級のファインプレーだ。読者はあまりの肩透かしにパンツを履きなおすだろうが。
そうして今の行動で、僕はなんとなく明星先輩の人となりの一端がわかった気がした。
きっと明星先輩はとても素直な人なのだろう。そして仲間、友達想いでもある。
今までの祈りが失敗したのは、見ず知らずの相手へのものだったからだと推測できる。
彼女は親しい誰かのためなら、心から快癒を願える人なのだ。
それを祈りと知らずとも、彼女は地球にいた頃から、自然そうやってきたのだろう。
むろん、こんなに短い付き合いの中で人のすべてがわかるハズがない。
けれど彼女が稀有な優しさを持った人間であるという事を理解するには、十二分な出来事だった。
この人と一緒になら、たとえ危険な場所への調査だろうと、不安に思う必要はない。
そんな風に、僕は思える。
ただまぁ、僕以外がどう思うかは話が別で。
頭を下げる明星先輩と複雑な顔で腕を組む悪王寺先輩、そして申し訳無さそうな顔を作っている小金井さんを見て、先生は少し考え込むとぱんと手を合わせた。
「そうだ、じゃあこうすればどうかしら」
■
そうして、十分後。
先生がほんわかと提起した名案が、僕らの目の前には鎮座していた。
「……ホントに良いんスカ。オレ、これでもマジでクソ強いですけど」
「えぇ、大丈夫よ。青海君のバフを理解してもらうには、実際に試すのが一番手っ取り早いと思うわ」
宿屋の裏庭にあった人の胸くらいまである大きな岩。
それは昔泊った冒険者がミスリル鉱の埋まった大岩だと偽り詐欺られたものを、放置して逃げた時からあるものだという。
つまりは金をわざわざ出してどこかにやるのも億劫な、裏庭の一角を占拠する邪魔者だそうだ。
そこに二人は身を乗り出して肘をつき、利き手を握り合わせて争おうとしている。
つまるところ今から始まるのは、プリン頭改造修道服ヤンキー僧侶と逆バニー鎧エルフ女聖騎士の腕相撲であった。
スゲー煮詰まった女子プロレス?
最初は明星先輩が普通に宿屋の机でやろうとしたのだが、先生が「そんなのすぐ割れちゃうでしょ?」と場所をセッティングしたのだ。
事前に宿屋の女将さんには許可を取ってある。
なんならブチ壊してくれて構わないよ! とまで言われたが、腕相撲でクソデケー岩壊せるワケねぇだろ。カービィのメガトンパンチじゃねぇんだぞ。
この時点で先輩は先生の過剰な自信をいぶかしんでいた。
なにか裏があるのか、本当にアイツのバイキルトとやらは強力なのか、オレがナメられているのか。
様々な思考が脳裏で交差しているのが、目を見ればわかった。
けれどこういった事は呑まれた側が負けると理解している彼女は、すぐに切り替え目を据わらせると、どっしり腰を落とし岩を掴んで深く構える。
大きく鼻から息を吸い、腹筋を使い一呼吸で口から肺全体の空気を吐き出す。
息吹にて自らを閉じ、内において"力"を練り上げる。
後から聞けばそれは、彼女が喧嘩の中で自然と身に着けた呼吸法だという。
喧嘩を売られた時。誰かを助ける時。やらなければならない時。
こうして、腹にフンバリを入れる。
それを見た先生は、まるで懐かしむかのように柔らかな笑みを浮かべた。
そうして、ちょいちょいと僕を手招きする。
はいはいなんでしょうか。
躾けられた愛犬の如く駆け寄る僕に、先生は「ごめんね、今は手持ちが少ないから……」と言いながら、お財布から銀貨を一枚僕に手渡した。
途端、明星先輩の揺るぎなかった気配は大きく乱れ、悪王寺先輩は理解しがたいものを見る目で僕らを見て、小金井さんは興味があるのか無いのかわからない半眼で眺めていた。
いわゆるジト目というヤツだ。恐らく興味は無いだろう。持たれても困るよ、こんなのに興味を。
が、外聞……!
瞬く間に僕という生き物の評価が地に落ちてゆくのを肌で感じる。
その冷たい視線に体感気温が少し下がり、じりじりと照り付ける日差しと風の少なさから茹だるようだった夏の日中が、わずかながら過ごしやすくなった。打ち水のようだ。冷や水を浴びせかけられたのは道じゃなく僕だが。
これをサスティナブルな冷房だと捉えられても困るぜ。僕の信用という燃料を目減りさせて起こす現象だからな。
しかしそんな僕の滅入った気とは裏腹に、ver.太のバフが僕と先生の間に繋がり、裏庭に黄金の光が溢れ出る。
効果を知らない人間でも、これが尋常なものではないと本能的に理解できる、威圧感すら放つオーラ。
それが、僕から先生へと流れ込んでゆく。
「ホントはこんなズルせず正々堂々したいんだけど、今回はこれが本題だから……じゃァ、
空気が、変わった。
既に構えられている先輩の手を取ると、先生もまた大きく足を開いて左手でがっしりと岩を掴む……い、いや、掴むっつーか! 握りこむ端から砕けとる!
砕け散る岩を、逃がさないとでも言うように更に深く、めり込ませるように指を抉りこんでいく。
体を預けるように体重をかけた右肘の下に大きな亀裂が走るが、しかしそんな事は知らぬとでもいうように頭を深く傾げ、下から覗き込むように先輩へガンを飛ばす。
完全に出ている、先生の中のもう一人の"アタシ"が!
驚いたように、っつーかマジで驚かされっぱなしでもうちょっと仕切り直してあげたくなるくらい動揺している先輩は、しかし握られた手の感覚でハッと我に返り、即座に先程と変わらぬ臨戦態勢へと移行した。
先輩が冷や汗をかき始めたのは、先生の変貌を見てか、それともその内に秘めたる暴力の威風を感じてか。
まるで決闘が始まるかのような、そんな張り詰めた空気の中。
特に誰も指定していない中で、当然のように審判の位置を取った委員長が、双方の顔を見てからスッと片手をあげ。
「開始!」と言いながら振り下ろした。
瞬きすらする間もなかった。
趨勢は一挙に傾き先生は腕を流れるように押し倒していく。
岩へと先輩の腕が当たりそうになった時、先生の握りこんだ手から親指が伸びると岩に吸い込まれるように突き刺さり、岩石全体に罅を入れながら鉱物を引き裂き止まらずに割り砕いてゆく。
そうしてそのまま、到底持ち上げることなどできなそうだった堅牢な巨岩を完全に粉砕しながら、一度も止まる事無く明星先輩の腕が
汗だくになった明星先輩はぺたんと座り込み、何が起きたのかわからず涙や鼻水まで垂れ流して唖然としている。
「ね、彼の力……と、ついでに私の力も、凄いでしょう?」
怪我ひとつ負わさぬまま、先生は格付けを終わらせた。
1文字も書いてないので明日は流石にたぶんお休み。