【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
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念のためTwitterアカウントを作りましたが、投稿告知程度の発信にとどまるかと思います。
https://x.com/su_pa_tokunou
聖女による肉弾格闘除霊が行われ、哀れな迷える子羊を飛燕の如き右フックで天へと文字通り叩き返した後。
当然腰砕けとなった僕らは一旦外へと脱出した。
ちょっと幽霊のすくつ(いまやスマホでは変換ができる、人間を甘やかすな)へと突入することを、軽く考え過ぎていたと再認識。
しばしタイムを取り休憩後にミーティングとなった。
あんなんが無数に出てこられたら漏らすオシッコが足んねぇやな。
「大丈夫? 良ければ革袋に入れて持ってきた薬草茶があるんだけど……」
「えぇ、それは……ありがたいです、ね」
胃の中のモノを戻してしまい、よたよたと顔を青くしてフラついている小金井さんにお茶を渡す。
小金井さんは純戦闘職ほどでは無いが戦えるらしく、武器として神より賜った金棒を杖代わりに項垂れていた。
ミナミの帝王を見ればわかる通り、商人は物理攻撃も得意なのだろう。
このお茶は僕が街の専門店で買ってあった茶葉をちょと混ぜて、出掛けにお湯入れて作ってきたものだ。
お手製のお茶を振る舞うなんてマダム以外やんねぇ事だから、僕もこれで一介のマダムになれたかもな。カントリーマアムでも作って一山当てるか?
気付けの意味合いもあり、かなりキツくシブめな濃〜いお茶であるが、こういう時はこんなのが良いらしい。
なんか気持ち悪い時にミンティア2錠入れるようなもんか? 僕それで逆に完全にヤラれた事あるから賭けなんだよな、個人差はありそうだ。
小金井さんは飲み口から直接飲み数秒口に含んで、かなりキツそうな顔で嚥下した。
あー、やっぱキチーか。
飲みやすくするなら甘いもんでもいれるんだが、それじゃたぶん意味ないんだよね。愛の鞭ってヤツかもな。いや違うかもな。動揺から思考がブレている。これが揺れ動く恋心か。いや違うかもな。
「青海先輩、ありがとうございます。まさかこれほどとは思っていなくて……助かりました。……えらく用意が良いですが、何処かからアドバイスでも貰ってたんですか?」
「あぁ、いや、なんとなく。今回の旅で誰かがなんか必要になりそうだなって事、なんとなく想像できる感じ無い? ……でももちろん全部当たるワケじゃないから、無駄になった物も多いんだけどね」
「へぇ……それはそれは、もしかしたら青海先輩は商人に向いているのかも知れませんねえ」
よせやい、照れるぜ。
小金井さんに言われるならホントにそうなのかも知れないけど、しかし僕の職業枠は一つしか無く、そこは呪いの装備が既に埋めちゃってるからな。
人生は配られたカードでやってくしかないのだ。
けど配られたカードが「負け」と書かれた一枚こっきりじゃどうにもなんねぇ!
他の方から一枚ずつ恵んでもらってなんとかかんとかやってけてる感じだ。大変お世話になっております。このままだとお中元の費用がかさんじまうよ。
「ま、僕の事は良いからさ。ゆっくり休んだら気分転換に鹿野ちゃんとでも遊んであげてよ。こういう時、あの子の明るさに救われるもんだよ」
そう言って僕は小金井さんの元を後にしてそのまま茂みへと向かった。まだちょっと胃に残ってるモンあるわ……。
墳墓抜けて墓地でリフレッシュとかいう死神のOLみたいな行程を経て、墓守小屋にてこれから一体どうするのかと知恵を出し合う事になった。
喧々諤々の討論の末、最終的にはあみだくじという議会を催すこととなり、膝を突き合わせながら線が戻ったり隣の棒を飛び越えたりとアクロバティックかつ白熱した選考が行われた結果。
ヒモの僕が最前線を歩む事になったのであった。
僕が死んだらみんなの枕元に立つから覚えておいてくれよな!
冗談はさて置いて、あみだで負けなくても最初から先頭に立つ気ではいたので正直問題はない。
何もできない僕が求められた事すらも放棄したらお終いだからな。
ホントに死ぬほど怖いが、目隠しの肉壁くらいにはなってみせよう。
まぁ男の子だしさ、こういう時は前立たなきゃなんねぇだろって事。
ただ反撃手段は皆無なのでそこだけ本当にお願いします。
天職を得ているみんなが僕を誤射するとは思わないので、後方からのダイレクトカノンサポートに期待しながらみんなを庇えればそれでいいのだ。
と、僕は思っていたのだが、流石に戦闘能力無しが一人先頭は危ないっつーか無謀という事で、最前線は僕確定とあと一人で組む事になった。
その選ばれしメンバーはまずレイスを倒せる明星先輩、もう一人は事前に調合した聖水で魔を祓えると教会に確認済みで、幽霊が怖いというよりグロ画像を見せられるのを嫌がっている程度の委員長。
この二人が交代で務めていくことになった。
矢面に立たせて申し訳ないが、二人が隣に立ってくれるなら百人力だ。たぶん明星先輩はマジで百人分くらいありそうだし。なんで僕を肩に担げるんだよ。思わず戸愚呂兄になっちまった。
あまり時間をかけすぎて夜になると厄介なので、各々準備を整えると急ぎ足で地下墳墓へと向かう。
先程同様カビ臭く生温い風が地下から吹いてくるが、2度目ということもありさっきよりは地に足がついている。
すると急に隣に立つ明星先輩が、ちょんちょんと僕の肩を突く。はい? なんすか姐御。
振り返るとその手には銅貨が5枚。……な、なんだ? 逆カツアゲ? それともこれで焼きそばパンって事スか? 先渡しなんてめちゃめちゃ良心的ッスね。
ここらで焼きそばパンを売ってる場所があるのかを脳内Siriに聞きながら、最近の癖で差し出されたお金はひとまず受け取る反射を獲得していた為気軽に手に取る。最悪のパブロフの犬に仕立て上げられちまってる。つか資本主義の犬かも。後すんませんやっぱここら店無いっス。
瞬間、僕と明星先輩の間にかぼそくも確かな、黄金の軌跡が橋を架ける。
……あ?
お、が、ぎゃ、騙された〜〜〜〜!!
いや明星先輩は一切なにも騙してないし、むしろ騙し取ってるのは僕とおそらく家庭裁判所では判断されるのだが、しかし完全に油断していた僕は不意打ちで養われてしまった。
どういう文言? この世でココでしか使われない言葉だ。話者が減った言語は消滅を危ぶまれ保護されるが、この言葉はこれっきりで消し去ってくれ、くしゃがらみたいなもんだから。
「おわ! ス、スゲーじゃん青海ィ! これめちゃめちゃ身体軽いぞ、ホレ!」
そう言いながら先輩が軽くジャブを撃つと、当ててもないのに壁が軽く凹んだ。拳圧を飛ばしているのだ。
……マジ? ライフ満タンのリンクみてーな事してんじゃん。
「前! 怖いの来るッスです!」
鹿野ちゃんの叫ぶような声に、反射的に僕は目の前へパイラン樫の丸盾を構える。
流石に近所のコンビニに行くわけじゃないので徒手空拳で来てはいない。
ナイフもあるが今は構えても仕方ないので、ここはひたすら防御でいく。身代わりメタル戦法っつーこと!
前から迫ってくるのは、先ほどとは違い実体のある腐乱死体だった。
視覚情報だけではなく、プンと嗅いだことのない悪臭が鼻を突く。これが腐臭ってヤツか。最近良い匂いしか嗅いでなかった僕の鼻が即座に仕事を放棄する。甘えた性根に育ちやがって……。
腐り果てもはや性別もわからないリビングデッドが3体、生ける者どもを同じ場所へと引きずり降ろそうと、足を引きずりながら地獄から這い上がってきたのだ。
構えた盾が僅かに震える。
この恐怖はリアルホラーによるものなのか、それとも魔物に殺されるかも知れないという予感から来るものなのか。
「撃つっす! 当てないけど気をつけて!」
しかし、ソイツらが僕に触れるよりもずっと早く、ウチの砲術士は狙いを定め終えていた。
体の少し横を、高質量のモノが凄まじい速さで飛んでゆき、撹拌された空気が土埃を巻き上げる。へっくし。
砲弾はあやまたずリビングデッドのドテっ腹に着弾。
脆くなった身体がその破壊力に耐えられるハズもなく、破裂するように後方へと爆発し血煙となった。
凄まじいスプラッタに女子高生とエルフ教師一同が言葉を無くす。
「ありがとう鹿野ちゃん! 助かった!」
「へへへ~、これくらいどってコト無いっすよぉ~」
が、もちろん助けられた僕にはそんなもの関係無い。
命を救ってくれた相手に文句などあろうはずがなく、ただ心の中は感謝でいっぱいだ。
「っぷ……の、残りは任せろ! 鹿伏は後方警戒!」
ギリギリ喉元で耐えて飲み込んだ明星先輩が、これ以上の精神的ブラクラを回避する為自ら動き出す。
「っしゃ! 行くぞゾンビども! 浄化二連撃!」
軽快なフットワークを刻みながら、牽制の左ジャブからの右ストレート。
もしも相手が素人ならこれだけでノックアウト必至の、常人では視認すらできない拳の速度に目を剥く。世界を取れる器だ。バンタム級への転向を考慮に入れてもいい。
しかし真に驚くべきはその拳から放たれる慈愛の閃光。
左右どちらも聖属性の癒しの光とは思えぬレーザービームとして照射され、キレイにゾンビの顎を撃ち抜く形でヒットする。
明星先輩は浄化して成仏させるつもりだが、それはそれとして完全に人体急所を狙っていた。もはや身体に刻み込まれた喧嘩師の性なのかも知れない。なおさら世界を狙えてしまう。
モロに顎に食らったゾンビを淡い光の膜が包むと、不明瞭なうめき声が徐々に止んでいき、そしてじきに
あまねく死者に安寧を。
拳にキスをして眼前に掲げる彼女には、それができるのだ。
まさしく今の彼女の在り方は、聖女と呼ばれるに相応しいものとなっていた。
明星先輩はバフによって攻撃速度が上がり、飛ばす光も弾から線になっていたが、なんでも感覚的に撃ち分けができるらしい。
意識すれば大きくもできるから、なんなら波動拳みたいにもなるとのこと。
戦闘も終わり再度歩を進める中で、先輩は早速波動拳やかめはめ波の練習を始めた。
そりゃ光線や弾撃てるようになったらするだろ。
めちゃめちゃ羨ましいので羨望の目で見ていたら、ちょっと前に立てと言われて親子かめはめ波の悟飯役をやらせてくれた。キャッキャ! もっかいやってー!
……だ、ダメだ! 面倒見の良い姉ちゃんっぷりに親戚のガキみてーに懐いちまう!
そういう関係の相手を好きになると、一方的な片思いからガラの悪めなカレシと並んで歩いてる所を見て脳が破壊されるところまでがセットなのは、Fanzaの作品を統計学的に分析すれば明らかである為、先手を打って叶わぬ恋に涙しておく。
突然泣き始めた僕を見て、委員長は慣れた手付きで僕の鼻を引っ張った。
違う違う、出た分引けば直るとかじゃ無いから、そういう機構は人に無いの。
鹿野ちゃんのドデカい一発による荒療治でみんなある程度慣れてきたのか、吐き気を堪えつつもなんとかゾンビは怖がらずに対処できるようになってきた。
というか鹿野ちゃんが索敵でゾンビを見つける傍から、明星先輩がビームで消しとば……成仏させてしまうのだ。
もはや戦いとも呼べぬ様相を呈し、さっきまでの張り詰めていた空気が弛緩していく。
きっと魔が微笑むのは、こういう瞬間なのだろう。
前兆は無かった。予感も無い。根拠も無ければ。理由も皆無。
ただ、なぜかは分からないが、確信だけが心にあった。
もしかすればそれは、大事なものの危機を前にして、鹿野ちゃんの“野生の勘“をその一時だけ借り受けていたのかもしれない。
声を出す暇も無く、足を踏み切って身体を投げ出し手を伸ばす。
突然訪れた衝撃に小金井さんが目を見開き倒れ込むと同時。
僕の脇腹を、
吐き気を催す傷口の熱さ。
シッカリとした造りの軽鎧を、しかし容易く切り裂いた爪の硬度。
何かが僕の中に入り込み、悪意をもって暴れようとしている感覚。
全てがいっぺんに脳の中に叩き込まれ、僕は痛すぎて絶叫をあげた。
「ッ、青海君!」
委員長が振り向きざまに陶器から液体を散布する。
皆の身体にも降り注ぐそれは、しかし人に害を及ぼすことはなく、ただ邪なる者だけに滅びをもたらす聖なる水。
聖水をマトモにくらったレイスは、溶けるように空間から掻き消えた。
そうして残るのは、痛みにうずくまる僕だけだ。
ちょっとマジで声が抑えられず、思わず手に嵌めた手袋を噛みしめる。
とはいえ、実際深い傷ではない。
怖くて傷口に触れる事もできないが、見た限りは肉が抉れた程度だ。
たぶん内臓までいってたらこんなんじゃ済まない、肋で弾かれたか。
いやでもホントに痛くてちょっと無理ぃ!
「蒼君! 大丈夫!? 明星さん、祈りを!」
先生が僕を抱え起こし、僕の名前や先輩への指示を叫ぶ。
あ、あんま! あんま揺らさないで!
痛いやら柔らかいやら熱いやら寒いやらで四属性を制覇した僕はもうめちゃくちゃになった。
瞬間、患部で凄まじい痛みが破裂する。
今日イチの獣声が口から咆哮として放たれた。な、何事ォ!?
見れば委員長が陶器から何かを注いでいて、傷口が泡を吹いていた。
「消毒薬です……しみるでしょうけど、やらなければ後が怖いので」
「……こんな時に一番正しい事を最速で躊躇なく行えるの、本当に委員長の美点だと思う。ありがとう、助かる」
「……お礼は後日また荷物持ちの時に聞かせてもらいます。明星先輩!」
「っ、お、オウ! 神様! 頼むからコイツの怪我を治してやってくれ!」
本日二度目の祈りも無事通じた。
というかなんかむしろさっきよりもめちゃめちゃハッキリしたベールが出て僕を包み込む。あ、コレもバフかかるの!? 神への祈りのバフってなに!?
じくじくと痛み血を流した肉の断面が眩い光を放ち、徐々に盛り上がるように筋肉が再生、最後には薄い皮膜が張って、瞬く間に単なる傷痕となっていた。
気付けば痛みも引いている。
は? 凄すぎ、医者が廃業しちまう! アロエLv999じゃん!
こんな事を思って天罰が落ちたらマズいので、即座に感謝の念を神へと送った。
へへへ……ありがとうごぜぇやす神しゃま……。
「っごぁ〜〜〜……痛かった……ありがとうございます、先輩」
「……へへ、良いってことよ! んだよ青海ィ! オメェいいとこあんじゃん! オラ、山算金もお礼言っとけ!」
「あ、あぁ! 青海先輩、す、すみません……助けて、もらって……ありがとう、ございます……」
明星先輩の呼びかけに、今まで茫然自失となっていた小金井さんが我に返ると、急いで走り寄りたどたどしい感謝の言葉をくれる。
小金井さんは怪我もなく無事のようだ、助けた甲斐があらぁな。
「ううん、気にしないでよ。僕らは今合同のパーティメンバーだ。仲間が危なかったら、とっさに助けに動いちゃうもんでしょ」
それに、男の子は女の子を庇うもんだろ。
小金井さんでも明星先輩でも悪王寺先輩でも、誰かが傷ついたら僕はそっちの方が泣きそうになっちまう。
その言葉を聞いた彼女は、なぜかくしゃくしゃな泣きそうな顔をした。
ま、まぁ……まだよく知らん先輩が突然命かけて庇ってきたらビビるわな……。
ごめん、ホントに僕チョロいからすぐ大事な相手だと思っちゃって……。
休みの時が来れば休む。