【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【24】 盗賊の瞳

 ヒモが脇腹をかっぴらかれるアクシデントはあったものの聖女の祈祷を受け無事戦線に復帰、では探索を再開しようと思ったのだがいたる所から待ったがかかった。

 

 委員長は怪我の後は快癒したとしてもパフォーマンスが下がるので村へ戻り休憩を提案、先生もそれに同意しなんなら町への帰還をとまで言い出し、鹿野ちゃんはウチの後ろに居てくださいっすと服を掴んでせがみ、目黒さんは何も言わないが完全にこれは何かを決意したとバカな僕でもわかる腹の据わり方をしていた。

 みんなと話す内に、どんどん僕らを繋ぐ黄金の光が強くなる。スゲー庇護されてる判定が多段ヒット中らしい。とんだクソ技だ、ナーフされるぞ。

 

 な、なんか、なに? す、すごない? 過保護が過ぎる。

 

 ……とは思ったものの、僕がみんなの立場であれば同じ事を言うだろう。

 過分なものではあるが、僕がみんなを思うのと同じくらい、みんなも僕を大事に思ってくれている事が伝わってくる。

 

 明星先輩パーティも思うところがあったらしく、このまま調査を続けた方がいい気はするが、もし撤退するなら教会にはこっちからもナシつけといてやってもいいとの事だった。

 

 今んとこみんなの意見をまとめると撤退と続行が半々くらいかな、という感じだ。

 

 

 しかし、ちょっと僕には思うところがあった。

 それはこの旅が、魔王を倒すのが僕ら自身でなくとも、少なくとも異世界にて冒険者として生きていく必要があるものだという事だ。

 いやもちろん安全な職について日銭を稼げるならばいいのだが、それができるのは錬金術師である委員長くらいのものだろう。しかも僕というコブが既に付いている。ん? 今自然と養われる気でいたぞ……?

 もう今僕勝手に働いていいのかわかんなくなってんだよな。みんなの許可下りないと労働できなくてぇ。基本的な人権はどこだ?

 とまれ彼女の稼ぎだけでは僕らは生きていけないし、そんな風に一人に寄りかかるのは実際不可能だ。

 

 ならば、このくらいの怪我や負傷でいちいち立ち止まっていてはいられない。

 ……まぁ、僕以外の誰かが傷つけば、それを僕はずっと後悔するのだろうけれど。

 

 でも、今回みたいな気が緩んだ末の偶発的な事故は、この世界に暮らす以上冒険者でなくともこれからも起こりうる。

 例えば天職を使わずに町で働けたとしても、戦う力を持っていなければ町に魔王の走狗が攻めてきた時に死んでしまう。

 だから最善の選択肢はきっと、できるかぎり傷つかないように戦って、死なないような強さになる事だ。

 

 なんでこんな事を言い出したかっつーと、どうやら異世界に来た僕らにもレベルアップ的なものが存在するらしい。

 トロールを倒した時の僕がてっきり達成感だと思ってたアレだ。

 どうやら一般的な人間も文化祭後に体に何かがスゥと入ってきて気分爽快になる事はないらしくやれやれ一安心といったところか?

 で、あの時にどうやら経験値というか、この世界の生命にまつわる精霊的な何かが、屠った相手の身体に移り変わっているらしい。そうして命のエッセンスじみた物が流転していく。

 

 みんなにも聞いてみたが、実際あの後からお肌の調子は十代の頃のようによくなる(先生談)わ、お通じは最高だわ(委員長談)、いつもより口数が多い(鹿野ちゃん談)わ、あなたの事を近くに感じる(目黒さん談)わ……なんかいい感じのバーゲンセール、桃鉄で言えば絶好調みたいな感じらしい。

 あとついでに単純な筋力と持久力も上がっているとの事。

 なにが大事かは人によって違うからな、みんなが良いと思った部分もメンタルを考えれば外せない重大な事だ。

 

 ちなみに僕は特に何ともなかった。

 普段から全部良いってことか?

 ポジティブと鈍感は似て非なるものだぜ。自罰的な僕は楽観主義を嫌うのさ。なんてったって期待すると後が怖い。

 

 まぁ天網恢恢疎にして僕だけ漏れちまった特殊例はさておき、他のみんなはフィジカルもメンタルもともに常人の比ではなく跳ね上がっていた。

 これはとても重要な知見だ。

 つまり僕らはスーパーマンのように強くなれて、スーパーマンはクリプトナイトが無ければ無敵だ。

 

 

 みんながこの危険な異世界で、大怪我や重病を負わずに地球へ帰還できる確率が跳ね上がるって事以上に、大事な話は僕には無い。

 

 

 

 とんだ理想論を語っているのは百も承知だが、しかし目標は高く持たなくちゃなァ?

 ヒモなんてのは人より高い目標を設定して成し遂げられず、うだつの上がらない日々を送る生き物なんだからな。いわば得意分野よ。

 

 もちろん釈明にゴネにおねだりもヒモの得意分野である。

 僕の考えを詳らかにしながらも控えめに要求を入れ、なおかつみんなの意見はもっともである点を強調、ただ思い描く展望はどこかを共有し、最後には多数決をしながらも普通に意見を通した。ヒモじゃなく詐欺師の方が向いてねぇか……?

 

 とはいえみんなも僕の意見にも一理あると理解を示し、明星先輩や悪王寺先輩はどちらかといえばこのまま調査し終えたい派だったので、あながち僕のワガママっつーワケでもない。

 なにより魔物は減らしたとはいえ、もし残してしまえば村で休んでいる夜に襲われる可能性もある。

 やるなら今回、徹底的にやった方がいいとは明星先輩の言葉だ。

 

 まぁまぁ、今回は僕含めみんなの気が緩んで起きた事故だ。こっからは違う。

 もう僕たちにさっきまでのようなお気楽さは無い、そうだろ?

 親子かめはめ波をしてもらい大喜びしていた張本人がこの言い草だ。

 もうホントに気を付けて進むようにします、すみませんでした。

 

 

 そういう事で話はトントン拍子に進み、妥協案として僕と悪王寺先輩を護るように囲んだ陣形で先へと進むことにあいなったのである。

 

 先頭は委員長と明星先輩。ただ委員長はいざという時の為聖水を節約したいので、主に鹿野ちゃんと明星先輩による遠距離攻撃でゾンビたちを爆破&成仏させることになった。

 男の子としては先頭に立ちたいとこだったが、流石にさっきの今で無理言っても厄介な奴になるだけなので大人しく護られておく。

 

 そうして何体ものゾンビやレイスを文字通り葬りながら30分後、ついに僕たちは地下2階への階段に突き当たった。

 変に入り組んだり崩落したりした場所があって、ここまで来るの大変だった。

 村人がちゃんと整備しないからみなさん化けて出られてるんじゃないっすかね……?

 ふと心に湧いたなんとなく正当性のありそうな疑念からは目をそむけた。

 依頼主の心証を損ねてもマズいからな……。

 自分の徒労が労働と認められるなら、うんざりしながら呑み込んでいく。これが大人になるってことなのかもしれねぇな。侘しいもんだぜ。

 

 

 

「みんな、準備はいいわね?」

 

 先生の言葉に各々が頷き、2階へと降りてゆく。

 さっきは階段で上からレイスが出てきたので、ここは慎重に行きたいから陣形はそのままだ。

 ゆっくりと降りていく中で階段を一段踏み損ねかけ、僕は思わず悪王寺先輩をすり抜けて壁に手をつきそうになる。

 しかしその瞬間、彼女が僕の手を取って引き寄せた。

 自分よりも1.5回りくらい身長のある先輩に身体ごと抱き寄せられ、僕の胸がドキンとする。ちょ、強引過ぎます……!

 

「危なかったね、見なよ」

 

 勝手にときめいてレディコミ主人公になりかけた僕を下がらせると、先輩は足元から石を拾い、僕が手をつこうとした壁へと投げた。

 壁に石が当たった途端、なんの変哲もなかった石壁に魔法陣が浮かび上がる。

 ……は? 魔法陣? ハガレンじゃん。いやアレは錬成陣だから。めんどくせぇオタク君出てきちまった。黙っとくね。

 

 魔法陣は紫色に怪しく光ると、頭上から拳ぐらいの岩が落ちてきてその石を叩き潰した。

 

 ヒェッ……。普通に怖くて白目を剝く。

 ヘルムを被っているとはいえ、これを頭に受けていればただでは済まなかっただろう。親方のげんこつより硬い僕の石頭だが、マジの落石よりはどうしたって柔らかい。

 レベルアップの恩恵があって先程のレイスの襲撃は命を助けられたのだとは思うが、まだこんな大岩を頭でバチコン跳ね返すほどの強さを身に着けた自信は無かった。

 ……というか、そもそもなんで単なる地下墓地にこんな魔法陣なんかがあるんだ?

 

「落石の罠、か。悪賢いレイスなんかは、こういった魔法陣を設置したりするらしい。生前はそんな知識も無かった村人だろうに、いったいどこからそんな智慧を得るんだろうね?」

 

 

 ……それこそがもしかすると魔王なのかもしれないと、彼女は言いたいのだろう。

 

 

 と、真剣に考えていると僕の体の端からすーっと何かが伸びてゆく。

 その黄金に輝く何かは、迷い無く悪王寺先輩を目指して飛翔。

 あ。

 

「う、うわわ! やめろ! なんでボクがヒモを養わなきゃいけないんだい!?」

 

 先輩の至極もっともな反論も虚しく、振り払う先輩の手もするりと抜けてバフは繋がった。

 僕を助けちゃったからっすねぇ……。

 オート発動なせいでついに不本意扶養が発生してしまった。もう僕は己の中のヒモを止められない。この怪物が暴れだす前に僕をどうか討ちとってくれ。

 僕の腹から顔を出したもう一人の僕(ヒモ)が「タス…ケテ…」とつぶやく。なんでテメェが本体側の反応をするんだ?

 

 

 すると黄金のオーラが彼女の目に宿り、黒に近い藍色であった先輩の瞳が綺羅星の如き輝きを放つ。

 まるで宇宙のようだと、こんな時なのに一瞬見惚れる。

 

「……は? なんだ、これ。見えない場所の、罠が見える。視界の中でうすぼんやりと痕跡が見える程度だったのに、今は視界の外に存在するものまでいくつか……その内容までなんとなく把握できる……これが、青海クンの力?」

 

 彼女は呆けるように視線をさまよわせると、僕を見てそう尋ねる。

 

 ……いや、どうなんすかねぇ。

 

 僕は自分自身でバフを受けたことがないので、それがそうなんです! とは言えないのだ。

 自分の力も把握していないから、理想高くしてヒモになるんだもんな。ならある意味これは正しい姿なのかも知れない。終わったフォーマットに落とし込まれるせいで、自分のすべてがヒモの根拠に思えてくる。

 普段から丁寧な生活を送るこの僕だが、しかし「(女に)マメですね」の一言でヒモに早変わりなんだよな。全ての道はローマとヒモに通じている。つまり僕はどこへでも行けるのさ。さしあたってみんなでキャンプとかどうだ? 実は僕は釣りもやるんだよ。チャリで隣県のため池まで行きよくわかんねぇ魚を釣ってる。

 

「えぇそうです。私たちも彼のその力に助けられているからこそ、今こうやって彼に金銭を授受しているのです」

 

 そう言いながら委員長は銅貨をもう3枚、僕のポケットへと追加する。

 つ、追加課金はやめてくれ……! 今のソシャゲは年齢制限があるから最大額決まってるハズだろ……!

 僕はそろそろ装備重量より重くなってきた己の財布におののく。

 アイテムの重量管理があるゲームは苦手なんだよ。落ちてる物は何でも拾う貧乏性だから、石と枝の持ち過ぎですぐに動けなくなっちまうんだ。生来の金銭事情がそんな場面でも出てくるんだから人間ってのは悲しいなァ?

 

 しかしそんな風に上のロでは嫌がっても、体は正直なもので光の軌跡は太さを増した。エッチな漫画の読み過ぎでこうなったのか? やっぱり青少年の教育にそういう本はダメなのかも知れない。

 もはや僕は小銭を入れれば入れるだけ黄金の光を太くするだけの変わり種自販機だ。数字が揃うともう一本線が出るかも知れない。

 

「いや、多分、これ……ちょっとまってね」

 

 そういうと先輩は羊皮紙を広げ、商業ギルドから支給されたペンで何かを書き込んでゆく。

 光源はもちろんヒモのバフの光である。僕はもう自分の能力がなんなのかわからなくなってきた。

 自販機に懐中電灯、次はルンバにもなっちまうかもな。

 言っといてくれたら部屋の掃除くらいするからそれは今でもそうなのか。ピポピ……。

 

「ん、できた。これがココから先にある罠の場所。全部を把握できたわけじゃなくて、ここから周囲何十メートルか分くらいだけど、これで危ない場所は回避できると思う」

 

 そう言って先輩はおよその罠の場所と、そこから逆算されるたぶんこんな感じだろうってマップを僕らに見せてくれた。

 

 ……は? え? 凄すぎない?

 先輩の視界の端には結果的にミニマップ見えてるって事スか?

 

 突然現実世界にMODを入れたみたいな暴力的な便利機能に、全員ちょっと唖然としてしまう。

 まぁ最近のオープンワールドはそういうの無いと不便で仕方ないからな……。ファストトラベルも頼むぜ、あんな魔車に帰りも載ることを考えると膝が震えるんだ。

 しかし大抵のゲームのファストトラベルは、裏でキャラクターが馬車に乗って移動してたりする描写があるので、僕らは結局アレに乗る事になるのかも知れない。

 今思えばハッチーの乗り心地は良かったんだな……。宿に置いてきた彼女の事を思い出すと、望郷の念が募る。早く帰って一緒に買い出しに行こうな。

 

 

 ウチのパーティもそうだが、先輩たちのパーティもちょっと性能が良すぎる。

 祈れば大体何とかなる僧侶、罠を全部看破しそこからマップも逆算できちゃう盗賊、地球でも一財産を築き異世界に来てもギルドに食い込む商人。

 かたや地球に居た頃と変わらず一人ではなにもできないヒモ。

 ちょっと重さが違いすぎて秤が振り切れて僕が高く跳ね飛ばされるも、ピーチ城の上でヨッシーと出会い残機が100となり四段ジャンプを習得。

 怪我の功名であるが、結局四段ジャンプを効果的に生かせる場所など存在しない為、やっぱり無意味じゃないかと僕はどんけつに弾かれてマグマへと沈んでいくのであった。アワワワワワ……。




明日はゆっくりする。
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