【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
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レイスという存在は人間の霊が死んだのに世界に還元されなかったり、殺した相手の身体に吸収されず残ったりした部分が、何らかの要因で澱み魔物化したものだという。
ソイツらは寄り集まれば寄り集まるほどに、魔物としての格を上げていく。
それは元々がいわゆるこの世界の「生命にまつわる精霊」を構成要素としているからに他ならない。
だからこそこういう風に墓地に不死者が溢れかえり、外にまで漏れ出る状況というのは多くのレイスの存在が予想されるわけである。
こうしている間も、明星先輩と鹿野ちゃんは時折レイスやゾンビを撃退している。
目黒さんや先生も周囲の警戒をしているが、鹿野ちゃんの察知がなぜかさっきより冴え渡っているらしく、左右も前後もすぐに発見してしまっていた。もはや今となってはレーダーの如く彼女の感知能力は極まっている。すげーや。
「しかし……それにしても罠が多いよ。ボクも経験は無いが、知識としても違和感を感じる程だ。あ、そこ踏んじゃダメだよ。端っこの方も歩かないで。うん、壁も触れない方が良い」
数多の罠を避けながらマップにおよその場所を先んじて書きこみつつ、悪王寺先輩はそうつぶやいた。
手元を覗き込めば、この先を曲がった角の先の壁に毒矢の罠が仕掛けられていると記載していた。仰る通り地図上にかなりの数バツ印が付いている。
オイオイとんでもねぇ罠部屋じゃねぇか、墓場で影牢やってんのか?
こんな墓地じゃおちおち墓参りもできやしねぇ。盆に直接家まで来てもらう他無いぞ。しかしとんでもなく年上の親類に足運ばせるのは忍びねぇしなぁ。
奥ガルギンに住まう人々の為にも、僕らがなんとかここの魔物を倒し切るしかあるまい。
まぁその墓の中の霊魂は、たった今僕らが成仏させている可能性もあるが……。
つかそもそも魔物倒したら罠は消えるんですかね?
「基本的には仕掛けたレイスが消えれば、魔力のパスが消えて罠も解除されるはずなんだけど……レイスが多すぎるのかなかなか罠が消えてない」
難しい顔をしてペンを鼻と上唇で挟み、彼女はうーんと唸った。かわいい。スーパード級王子様イケメン美少女はなにをしてもかわいい。
そりゃ地球で女子たちがこぞって祭り上げるワケだ。こっちの世界でもその素晴らしさを広めるべくファンクラブでも作るか……?
なに、元締めは任せて欲しい。会報も僕が作ろう。面倒な事は僕がやる、先輩は存在するのが仕事だ。
と、マップを見てるんだか先輩の顔をみてるんだかわからなくなってきた僕の服を、誰かが後ろからちょいと引っ張る。
この展開で既にウマい目を見ている僕は、警戒心も露わに両手でポケットをふさいでから振り返った。なんで僕は得するのを怖がって生きているんだ……? 金は人を狂わせるというがこういう意味じゃねぇだろ。
するとそこに居たのは小金井さんであった。
おん? あちらから声をかけられるのは初めてだ。
どうしました? またお茶いります?
「あ、えっと……さっき、助けてもらったお礼、なんだけど……受け取ってもらえますかねぇ?」
差し出されたその手には、一枚の金貨が乗っていた。
き、金貨ァ!?
天闢暦784年の金貨一枚は、現代日本の価値に換算するとおよそ300万円に相当する。そうなの?
いや実際為替レートなんか存在しないからな、完全に体感の話だ。銀貨100枚分という事は確かだし。
いやだからこそ受け取れねぇ! ポンと300万を受け取れるかよ不動産詐欺やってんじゃねーんだぞ!
もうホントに! ホントに受け取れないです! すいませんがお気持ちだけで結構なので!
もし僕がこれを今受け取ったら、世界を光が満たしてしまいかねない。今でさえ洞窟がリビングくらい明るくなってんだ。
たかだかヒモが金を受け取るだの養ってもらうだので、神が光あれといった時と同じレベルでこの世を照らしちまうのは僕も流石に勘弁だ。そんな創世神話があってたまるか。
バフを受けた小金井さんも、身勝手の極意くらい使えるようになっちまうかもしれん。一番身勝手なのはクラスメートのヒモになってる僕だけどなァ!?
「で、でも……命を、たすけられました。お金でお礼をしないと、釣りあいが取れません。あ、その、地球に帰ってからならもっと、出せますから……」
……なんだか彼女の様子がおかしいように感じられる。
あぁ、これは……たぶん、あんまりよくないな。
僕は鈍感な方だが、追い詰められた人の気持ちを察せない程ニブくはないつもりだ。
「小金井さん、これは別に対価が必要な話じゃないんだ」
「え……」
「今だけかも知れないとはいえ、僕は今小金井さんのパーティ、つまりは仲間だ。仲間同士助けあうのは冒険者の基本だよ。……それに僕は結構勝手なタイプだからね、なんならそっちがよければ友達にもなりたいし、町に帰ってから暇な時間があれば一緒に遊びに行きたい。驚くべき事に実は知り合いが多くできたので、その人たちも紹介したいな。彼らから聞いた飯屋も多くてさ、そこも小金井さんや鹿野ちゃんとも回りたいんだよね。……わかるかな」
「な、なにが……ですかね……」
「僕はそんな友達になりたい相手を、勝手に助けただけってこと」
……僕はたいそうチョロく絆されやすいし情に脆く、なんなら情に弱くもある。ネットで幾度煽られたか。
そんな僕だから仲間を値踏みしていた小金井さんとすら、すぐに仲良くなりたくなってしまう。
そして彼女が寂しそうな場所に居るから、それを引きずり降ろそうと考えた。同じところに登ろうとしないあたり、他人の足を引っ張るヒモらしい卑賎な発想だと自嘲しちまうぜ。
小金井さんは家族の愛すら"有償"にしてしまった。稼がねば愛してもらえないと思ってしまった。
事前に聞き齧ったネットの情報と、実際に会って話した彼女の人となりや言動をすり合わせれば、たぶんそうなのだろうと思う。
まぁ実際の細かな事情までは知らないよ。ゴシップ誌とかは読むタイプじゃなくてさ。
僕に分かったのは、彼女が「無償の愛」に飢えている事だけ。
だから僕は小金井さんと鹿野ちゃんの時間を増やすよう図らった。
鹿野ちゃんはあまりに素直に人と接し、相手をしてもらえる事に喜び、そして見返りを求めない。
裏表が無いというよりも、彼女はまさしく彼女が放つ砲弾と同じだ。
ただ一直線に相手にむかう愛らしい球体。それが彼女の心根である。そこに表裏の概念は無い。
そして……鹿野ちゃんのコミュニケーションは、言語以外の部分の比重が極めて大きい。
視線表情機嫌仕草……言葉でない領域で彼女は相手の意図をなんとなく把握し、自らの想いを拙い言葉に変換する。
だから彼女の情動を読み取れない人間にとって、それは一方的に話してくる会話のできないヤツと認識されてしまう。
それは彼女の感受性のあまりの高さがもたらしたひどい齟齬だ。
でも、だから、彼女は口数がほぼ無い目黒さんとすぐに仲良くなれて、バフで繋がった僕の思考をだいたい完璧に読み取れる。
そして小金井さんの「寂しさ」にも、すぐに気が付ける。
実際、僕が差し向けるまでもなく、鹿野ちゃんはよく小金井さんと会話をしていた。
それはあの場で一番寂しそうにしている人を見つけたから、一緒に話して笑おうよと動いたのだ。
僕はその純粋な人間性をとても尊いと思う。
そんな素晴らしい人である彼女と接して、小金井さんにもわかって欲しかったのだと思う。
見返りを前提としない人間だって、案外近くにいるもんなんだと。
僕の考えが伝わったがなんの話かよく分からないらしく、鹿野ちゃんはこっちを向いて満面の笑みで手を振ってくる。めちゃめちゃかわいい。思わず微笑んで手を振り返す。
「だからさ、そうだね。もしそれでも負い目を感じるのなら、みんなで遊びに行った時に鹿野ちゃんにお菓子でも買ってあげてよ。統括ギルド前の甘々おせんべいが、最近の彼女の流行りなんだ」
僕の言葉に彼女は俯いて、言葉もなくただコクリと頷いた。
泣いてる……ワケでもないと思う。
先程の雰囲気は霧散しているし、そう悪い状態ではなさそうに見える。
まぁ呑み込むのにも時間がかかるだろうし、ゆっくり考える事もあるだろう。
「んぉ……? この先に何かある。これは……また階段か? 随分深い墓地なんだね……」
悪王寺先輩が声をあげた通り、すぐに階段が見えてきた。
結局あの後罠に一つも引っかかる事なくここまで来れたのは、間違いなくこの人のおかげだろう。
「んだよ、まだあんのか……オレも流石に疲れてきたな。もし3階もデケーようならさ、一旦引き上げも視野に入れようぜ。ちょっと何階まであるのかソンチョーに聞きてぇや」
やれやれといった具合に明星先輩が肩を回す。
ずっとシャドーを繰り返してるようなものだし、お疲れみたいだ。肩お揉みしますぜセンパイ。
そもそも地下墓地が多階層だなんて想像もしてなかったので、何階あるかなんて事前に確認できていないのだ。
普通に地下一階で終わるもんだと思ってたからな。
まぁ階段見つけたら、よく知らねぇしそういうもんかと納得しちまったが。
「ごめんなさいねぇ……私たちはなにもせず明星さんや悪王寺さんに頼りっぱなしだから、少し肩身が狭いわ」
「え、いやいや! 何言ってんスカ姐御ォ! こーいうのはオレに任せてください! ドンと構えてもらうのが姐御の役割っスよ!」
全然狭くない肩身をお持ちの先生が申し訳なさげに明星先輩に謝るも、完全に舎弟となっている先輩は一廉の手下役として満点の回答をした。
どう見ても明星先輩は番長クラスの風格があるのに、なぜこんなにもその姿が似合うのだろうか……。
そうしてもはや慣れたもので、僕らは階段を降りて……降りて……降りてゆく。
階段なげーーーーーよ! メタギア3じゃねぇんだぞ! 完全に主題歌一本流せるくらい降りたわ。
……なんでそんな長ぇんだ?
「……は? 罠が、増えてる……? ……いや、違う、そうじゃなく、増え続けて……なんだこの罠の量……! おかしい! こんなのが辺鄙な村の墓地なわけが無い……! みんな!」
何かを見通した先輩が動揺を隠さずに叫び、地下3階へと降り立ったみなが振り返る。
そうだ、おかしい。おかしかったんだ。
そもそもが余りに広過ぎる。
なぜ白骨化したスケルトンでなく、ここまで原型を保ったゾンビが多い?
階段だって、僕らが陣形を保ったままで降りれる大きさは普通なのか?
僕らはこの世界の風俗や文化に詳しくなかったのでさして疑問も持たなかったが、本当にこの場所には、元から地下3階もあったのか。
ここは、本当に墓地なのか。
そうして僕らが降りきったその先には、バカみたいに巨大で重厚な扉があった。
「今すぐここから逃げるぞ! ここは墓地なんかじゃない! こ、ここは! ここはッ……!」
瞬間、足元に妖しく光る魔法陣が展開し。
僕らの間を眩い紫の閃光が貫いた。
「足元転移罠! 転移先ダンジョン地下3階奥ッ! ここはダンジョンだッ!!」
そうして僕ら全員を巻き込み、転移魔法が発動した。
■
紫の光が止んだ後、僕らの目に飛び込んできたのは、骨で出来た玉座だった。
まるで邪悪な聖堂の如く荘厳な造りの部屋は、であれば謁見の間なのだろう。
幾本もの人骨が組み合わさり、たいそう座り心地の悪そうな椅子に仕上がったソレに。
しかし平然とソイツは君臨していた。
ボロ切れになるほど風化してもなお、金銀装飾きらびやかだった名残を見せる装束。
その骨張った、というよりも骨組みそのままな中手骨で、闇夜を粘体にしたかのような悍ましい杖を弄ぶ。
逆の手で頬も無いくせに頬杖をついて、ぽかりと穴の空いた眼窩をこちらへと向ける。
頭蓋の上で、汚れた王冠が皮肉げに鈍く光った。
不死者の王。骸骨の君主。まつろわぬ死者たちの
リッチキングが骨の玉座に座り、僕らを待ち受けていた。
ブラボのDLC気取りかよ、クソッタレ。
みんなは即座に戦闘態勢を取る。
対話ができるような相手ではない事は、全員一目で理解していた。
アイツは僕らを墓場に湧いた羽虫とぐらいに思っている。
邪魔だから潰そうと、ここに呼び込んだのだ。
死闘が始まろうとしている。
一週間ぶり二度目だ、短期間で何回もさせるな。サイヤ人の促成栽培か?
「行くッス!」
言葉を発するよりも早く、鹿野ちゃんの大筒が号砲を鳴らす。
撃つ手を見せぬ早撃ち。
放たれた砲弾が空を裂き、目にも止まらぬ速度で未だ座ったままの骨に向かって飛来した。
が。
リッチキングの周りにノーモーションで魔法陣が浮かび上がると、中からグロテスクな骨と肉の壁が乱立し、肉飛び散り骨砕けながらも弾丸の凄まじい回転を受け止めきる。
魔法使い……!
杖を持っていたところからそうでは無いかと推測していたが、やってる事がヤバ過ぎる。
今アイツはシモン爺さんみたいな詠唱すらせず、杖を構える事すらしなかった。
なにもしないままに、あれだけの壁を無造作に作り出した。
隔絶した魔導の腕前が、それを可能としている。
と、弄んでいた杖を器用に骨の指でくるりと回すと、人差し指と親指で摘み軽く振った。
すると骨と肉の壁の外縁に更に魔法陣が出現、そこからは無数のスケルトンやゾンビ、グールが湧き上がってきた。
うわーーーーー!! ホラー映画過ぎる!!! 気絶しちまうよ!!!
雪崩を打ってこちらへと這いずってくるバケモノの群れに、しかしみんなは迅速に対応した。
「青海先輩! 大事に使ってくださいっす! あと私におやつも毎日買ってください!」
鹿野ちゃんがおこずかいと書かれた小袋を僕に放り投げる。
飛んできた物を思わず受け取った僕の手に、目黒さん・委員長・先生も無言のまま財布を放り込む。
あああああ!! こんなん続いたらみんなが一文無しになっちまう!!!
するとトロールの時の先生ほどではないが、みんなへ繋がる黄金の軌跡が一挙に太くなり、輝きが増す。
生活費まるごとじゃなくお小遣いだからバフも相応なのだろうと踏んだのだが、しかしそれでも十分過ぎるほどすげぇ。
電気屋の照明売り場にいるみてぇだ……!
ってかこれみんな揃って異様に光が強いぞ! たぶんお小遣いが全財産だコレ!
突然まばゆい光が僕らを包んだ事に、リッチキングが何事かと頬杖を外し身を乗り出す。
さしもの骨格標本の王サマも、ヒモが放つ光は見慣れねぇか? 財宝で輝きには慣れてるだろうになァ?
「え!? だっ、わっ、わ゛、あ゛あ゛、あ゛あ゛あ、あぁぁぁ、ぁっっッ!!!」
鹿伏さんの砲は光りながら何故か変形し、円筒型のマガジンのような砲弾倉が上部に現れる。
え、へ、変形ぃ!? 神様の武器って何か付け足されたり形変わったりするもんだったの!?
そうして引き金を引くと、間断無く砲弾がその銃口から放たれ続ける。
まるで大砲のマシンガンだ。本人も意図してのものでは無いらしく、一瞬驚いたような感情が流れ込むが、すぐにそれは血を吐くような気合いの声に変わる。
とんでもねぇ反動を受けそうなものだが、しかしその細腕からは信じられぬ制動でリコイルをコントロールし水平に弾をバラ撒いている。
シャレにならない制圧力で、波濤の如く打ち寄せていた死者の波が一時的に堰き止められた。
「まああぁだぁ、まだああああぁぁぁ!!」
更に彼女が一声吠えると、発射された弾丸すらも空中にて物理法則を超えた変形を見せ、先端が尖っていき徹甲弾のような流線型を描く。
それはゾンビやグールの肉壁を素通りするが如く穿ち、強固な骨と肉の壁に突き刺さった。
瞬間、爆音が地の底の大広間を揺らす。
埋まった先でその砲弾が爆発し、壁もなにもかもをブチ壊したのだ。
徹甲榴弾。
より効果的に怨敵を破壊しつくす、人類の叡智が生み出した悪夢の弾丸。
地獄に行きたくないのなら、地獄をここに作ってやるとでも言いたげに。
火薬の詰まった人の悪意が、生者を憎悪する不死者共の中で爆ぜ、その存在を血煙と成す。
その地獄を現世に顕現せしめた小さな少女から伝わるのは、ただ大好きなみんなを護りたいという心。
鹿伏鹿野は、燃える勇気を目に宿し。
今ひとたび引き金を引き続けた。
たぶん明日は休む。