【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【26】 死者の王

 しかしたった一人で抑えきれるほど、相手の数は少なくなかった。

 吹き荒れる爆炎をもってしても、死の濁流は完全には止められない。

 

 ただ、けれど。

 当然ながらここに居るのは、鹿野ちゃん一人だけではない。

 

 

 目黒さんは光り輝くバフの中で、左右にたたらを踏むようによろけると同時、姿が揺れるように掻き消えた。

 

 え……? な、なんで……?

 僕は大事な人が目の前で消えた事にマジの動揺が隠せず周囲を見回すが、どこにもその姿は見当たらない。

 

 ど、どういう事だよ……。

 まさかまたリッチキングが転移させたのか……?

 

 大事な人が消え失せた衝撃と化け物への怒りで目の前が真っ赤に染まる。

 

 絶対に喪いたくない。ずっと一緒に遊んでいたい。あの人の居ない生活なんて考えられない。

 どこに行っても無事なように、どんな場所でも怪我をしないように。

 今だけで良いからあの人により強い力を、もっと強力な感応を!

 

 情けなく矮小な僕の中で、僕のものじゃない()()()()()が唸りを上げて廻り始める。

 

 どうせ僕はヒモなんだろ! なら!

 養ってくれる相手を、喪うワケにはいかねぇだろう!?

 

 論理武装を用いて異能を無理矢理に強化発動させ、腸を掴みだすように己の中からなにかを引っ張り出す。

 

 

 その瞬間、目黒さんへと繋がるパスが、トロールと戦った先生の様に輝いた。

 

 

「……ありがとう、青海君。愛して、います」

 

 

 僕の視線の先で、絡み合い融合を始めていたゾンビやグールの集団が突如動きを止め、苦し気に地面へ……いや、己の影の中へとめり込んでいく。

 そいつらが吞み込まれると同時に、なぜか残っていた巨大な影の中から、スゥと目黒さんが立ち上がった。

 

 ぶ、無事……だったんだ……。

 

 僕のバカバカしい早とちりで独り相撲を一場所取ってしまったが、彼女が無事ならなんでもいい。

 

 つ、つーかなんだ今の……か、かっこよすぎる……。

 先程見せられた"影"に僕の中の厨二回路がギュンギュンとブン回り、ちょっと息が荒くなる。

 目黒さんが僕のツボをことごとく押さえていて本当にマジで好きになってしまう。推しです。

 それからも目黒さんは光の中でもハッキリと残る異形の影の中を行き来し、魔法陣から湧き出続けるリビングデッドを飲み込み続ける。

 せっかく命溢れる現世へと舞い戻ったというのに、底なしの地獄へと彼らはあえなく還っていった。

 

 

 先生は以前より少し落ちるくらいの光を纏い、紅い鉾を振り回している。

 以前のように空間ごと断ち切ることはできずとも、ただ武器を力いっぱい振るという行為のみによって、魔物たちは上下に両断され、奔る力の奔流に成す術なく爆散。

 巨大ながしゃどくろが振りかぶって叩き下ろす腕も、鉾の石突による刺突にて相殺。たった一度腕に鉾を突き立てられただけで罅が全身を駆け抜け、ガラスの彫刻が割れるように粉々に砕け散った。

 もはや気合いの咆哮を上げることもない。

 長期戦になることを見越しているのか、力をセーブしているのだ。

 しかしその状態でなお、無双ゲーの如く雑兵を吹き飛ばす。

 

 あれだけ無尽蔵にポップするゾンビすら、今の先生にとっては物の数に入らないだろう。

 とんでもないコンボ数に仲間の武将からのお褒めの言葉がスタックして、まるで音MADの様相を呈している様が目に浮かぶ。

 森の賢人かつ呂布という破格の文武両道だ。

 武力100知力100の呂布なんてユニットあっちゃいけないだろ。しかも現代人のTwitterタイムラインみたいな欲望と、古代ローマ彫刻の造形美を併せ持つ事が加味されて魅力は驚異の100恒河沙。電卓でも計算不能な数値に僕の脳内CPUはあえなくブッ壊れ、やっぱり先生の言う事を聞くロボットになった。

 

 

 委員長はなんと指の間に陶器を挟む形で、片手につき4本の薬品を構える事が可能になっていた。

 本人はめちゃめちゃ自信満々に胸を張ってフンスとしているのでホッコリする。ホッコリしとる場合かー!

 しかし彼女がそのまま両手を振り回すように投擲すると、まんべんなく四方八方に広がりつつ山なりの弧を描いて敵軍のど真ん中に着弾。

 割れた陶器からはスチームサウナもかくやといわんばかりの蒸気が吹き荒れる。

 

 お、オイ! これまた吸っちゃいけない奴じゃないだろうな!?

 

 流石の委員長も敵の殲滅をタスクに設定して僕らの全滅を考慮に入れない最短ルートは歩まないハズだが、ちょっとデカいトカゲのトラウマが呼び起こされる。

 が、しかしその水蒸気はむしろどこか胸がすくような清涼な香りを感じさせ、この場に満ちていた死臭と腐臭を全て洗い流した。最高じゃん、部屋のアロマもこれにしよっかな。

 

 だがこんな素晴らしい香気が身体に合わない奴らもいるらしい。

 周りにいたアンデッドどもどころか、壁の向こうのリッチキングからも金属が張り裂けるような悲鳴があがった。

 

 聖水のミストシャワーだ。

 骨と肉の壁がいくら増設されようと、それは空気を遮断するものじゃあない。

 やすやすと障壁を乗り越えて、敵の親玉すらも巻きこみ聖なる水が邪な魂を浄化する。僕にも効かなくて良かったぜ……。

 

 

 みんな激強範囲攻撃に目覚めちまった、僕はどんどん置いてかれている。

 こ、このままじゃ馬車の中で魔王討伐を終えちまうぞ! 遊び人にはふさわしい末路かも知れんな。

 

 

 しかしこちら側へ戦いの趨勢が傾いたのもつかの間、なんの前触れもなく唐突に、部屋中に無数の魔法陣が現れた。

 見やればリッチキングはゆらりと玉座から立ち上がり杖を構えて、顎骨を鳴らしながら人語とは異なる魔法詠唱を途切れることなく繰り返している。

 摘ままれた杖が寄る辺なく彷徨うたびに、追従して紫の燐光を纏った圧縮魔術言語が空間そのものに刻まれる。

 

 

 委員長による攻撃で痛手を負ったリッチキングが遊ぶのをやめ、遂に本気で僕らを殺しにきたのだ。

 

 

 魔法陣からはアトランダムにゾンビの群れやがしゃどくろが召喚され、しかもそいつらが周りの罠の魔法陣を起動して落石や火炎が宙を舞う。

 視界の中で爆発と骨と腐肉と目玉と骨の槍と毒矢と岩と雷と氷が嵐のようにミックスされ、なにもかもがなにもかもをまきこんでミキサーの様に搔きまわされる。もうめちゃくちゃだ!

 あの亡者の王にとって、呼び出された魔物たちなど自らの駒ですらないのだろう。

 既に死んだ歩く死体が更に死のうが死ぬまいが関係ない、なにひとつお構いなしに軍勢ごと僕らを磨り潰そうとしているのだ。

 

 罠と召喚陣が混在する魔法陣の嵐に、みんなの動きが著しく制限された。

 これはマズい。足場を削られるのがヤバいのはロックマンエグゼで予習済みだ。

 影を移動する目黒さんすら、足の踏み場もない魔法陣に再び姿を現せないでいる。

 

 防御力もバフで上がっているのか幸いにも深い怪我を負っている人はいないが、僕も含めてわけわかんない擦り傷や打撲を複数受けている。

 みんなの怪我を見て僕も一気に怒りのボルテージが上がるが、しかしこれ以上の出力上昇はどうあがいてもできそうにない。

 

 どうにかしなければ……! でも、僕じゃ何も……!

 「オイ! 青海ィ!」「青海クン!」

 

 横から突然かけられた声にそちらを向けば、飛んでくる2つの袋。

 かなりの速さなので受け取り損ねて落とし、慌てて拾い上げる。か、カッコつかんな、ホンマ僕は……。

 

 それはもはや言うまでもなく、明星さんと悪王子先輩の財布であった。

 今までは普通のバフで浄化や幻影のスキルを放っていたが、こうすればなんとかなるのではと思い付いたのだろう。

 

 つ、ついにあって数日の相手からすら財布を貰ってしまった……。

 

 あまりのショックにちょっと硬直する僕の手の中に、弾かれた金貨が一枚納まった。

 は?

 

「こういう形でなら、受け取ってもらえるんですね……?」

 

 先程から金棒を振り回しゾンビやスケルトンを削っていた小金井さんが、なぜか目から光を失わせながらそう呟いた。

 な、なんかよくない学習してねぇスか?

 

 瞬間、先程までとは段違いの光が彼女らの身体を駆け巡る!

 

 

 悪王寺先輩の瞳に宿る星空の光が、まるで銀河みたいに瞬いた。

 突如戦場に現れた白い光が彗星の如く駆け巡り。

 

 罠探知(サーチ)

 

 無作為に敷き詰められた紫光の魔法陣を、三秒に満たぬ僅かな時間で星座のように繋げてゆく。

 

 機構解析(アナライズ)

 

 そうして、彼女が掲げた指を打ち鳴らすと。

 

 開錠(オープン・セサミ)

 

 地面と壁を埋め尽くした魔法陣の半分が、音を立てて割れ砕け光も残さず消失した。

 

 

 あまりのカッコよさに僕は言葉を失う。

 フィクション以外でこういうのやる人を初めて見たし、こんなに似合う人も初めて見た。

 

 残った魔法陣からは未だに不死の軍勢が湧き出ているので、恐らく今の一瞬で罠の魔法陣を全て破壊したのだ。

 状況は先ほどと打って変わり、消耗した死者の軍勢が地面に無数に横たわっている。

 山の様に詰み重なったそれらが、新たな亡者の再出現を妨げているような状態だ。

 その残骸の堆積すらも罠を誘発する戦術の内であったろうに、今の一瞬で全ての策が裏目に変わった。

 隔絶した技量の盗賊が、イカサマめいた奇術(トリック)で全ての賽の目を裏返したのだ。

 

 突然の対抗呪文(カウンタースペル)に、リッチキングは気分を害したように指を鳴らすと再び杖を構える。

 が、その瞬間、スゥと息を吸う音がした。

 

 そのかすかな呼気はしかし、なぜか死闘が行われているこの大広間全ての者の耳に届いた。

 思わずそちらに目をやってしまう。

 

 僕も、ゾンビも、リッチキングさえも。

 

「さァてお立合いの皆々様! 今宵行われまするは勇者たちの不死王征伐!

「小さな村の墓地でせせこましくも健気に積み上げられた骸の城を! 交易都市ボゥギフトが誇る我々至高のパーティがあっけなく粉砕する様!

「メインディッシュに据えられた哀れな王様も……どうぞ特等席でお楽しみくださいませ!」

 

 この空間の生死を問わない全ての存在が、朗々と語り上げられる彼女の声に意識を奪われ、音が鳴りやみ静寂が訪れる。

 誰もかれもが、彼女の言葉の続きを焦れるように待っていた。

 

 生まれついての商人、天与の才がもたらした小金井山算金の口上は、耳目を持つ者ならば何一つ問わずに魅了する。

 

「明星先輩! 仕上げを!」

「ッ、あいよ! みなまで言うな!」

 

 一瞬呆けていた明星さんは、待ち焦がれていた小金井さんの言葉を一切聞き漏らさず反応し我に返る。

 

 そうして拳を高く掲げると、一切の躊躇なく全力で地面へと叩き込んだ。じ、地震を止めた時の勇次郎!?

 その衝撃は凄まじく、床も部屋も壁も天井も、その全てを激しく揺らしながら亀裂が縦横無尽に走って、広間中の表面を罅割れで埋め尽くす。

 

 一度も喧嘩で負けた事が無く、常に相手の返り血で全身を染めながら、たった独り最後まで立ちつづける彼女の事を、いつしか"朱の明星"と不良たちは呼んだ。

 その拳は異世界に来た今も健在で、たった一度の殴打にてこの玉座の間を無残な瓦礫の廃墟に変えてしまった。

 ほ、崩落しねぇよな!? ダンジョンという魔法の構造物なので大丈夫だと信じるしかない。

 それにどうせこのままいけば、死体の山に生き埋めになるか瓦礫に生き埋めになるかの違いしかないのだ。

 

 

「浄化アァッ!!!」

 

 彼女が拳を叩きつけた姿勢のまま裂帛の声をあげると、部屋に刻まれた罅割れに沿って柔らかな白い光が地面から染み渡り、壁面や天井までをも覆い尽くしてゆく。

 その光が触れた途端、召喚の魔法陣は灰色の粒子となり消え、死者の骸はほのかな光に呑まれて天へと召されていく。

 敬虔なる僧侶の放つ聖なる光が、悪しき魔法使いの怨念にも似た邪術を神の名のもとに打ち砕く。

 当たり前だ。

 全ての命が巡るこの世界で、黄泉帰り(リアニメイト)など神は許しはしないのだから。

 

 

 そうして全ての魔法陣が破壊され、清浄なミストに満たされた瓦礫の聖堂には、今や僕らとじりじりと聖光に蝕まれるリッチキングしか残っていなかった。

 

「さんざっぱら、好き勝手やってくれやがったなァ? えぇ?」

 

 立ち上がった明星先輩が悠々と歩いて近づきながらパシンと拳を鳴らし、玉座の目の前で思いっきり体をねじり右手を振りかぶる。

 あからさまなテレフォンパンチ。

 相手を理解したからこそナメきった、もうお前は私に勝てないと思い知らせる為の極まったマウンティング。

 

 リッチキングは聞くに耐えない不協和音を叫びながら杖を振り回すが、召喚の魔法陣は構成された端から部屋の表面を覆った白い光に打ち砕かれ、罠の魔法陣に到っては組みあがる前から悪王寺先輩に解体される。

 なにもできない死者の王様は、二度目の死の間際すらも往生際悪く、聞き分けのない子供の様に喚きながら抵抗する。

 だからこそ、こんなになってしまったのだろう。

 驕り高ぶり他者をもてあそび、そうして自らは死を恐れて骸の王と成り果てた哀れな魔導士を、しかし僕は憐れむ気持ちにもなれなかった。

 

 

「終わりだ。二度と現世に面見せんじゃねぇ」

 

 

 遠心力を存分に乗せた右拳が、リッチキングの頭蓋骨をいとも容易く粉砕した。

 

 

 世界が砕けるような悲鳴が響き、そして。

 まるで何事もなかったかのように、残響も残さずに消えていった。

 

 

 そうしてあとには、リッチキングの胸に光っていた大福ぐらいの大きさのドス黒いガラス玉がただ残るのみであった。めちゃめちゃ対極のモノで大きさ例えちゃったな。

 これが魔核かぁ……。そらトロールの肉塊はデカ過ぎてビビるわな……。

 

 

 少しの静寂の後、僕らは全員大きなため息とともにその場へとへたり込むのであった。

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