【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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休んだので書き溜めが1話できたがこれは休みなのか?

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【27】 お家へ帰ろう

 とはいえここでノンビリお茶会としゃれ込むわけには行かず、数分経ってからノロノロとみなが動き出す。

 

「みんな、お疲れ様でした。今回はたぶん、教会も把握してなかったイレギュラーだわ。……きっと、コイツも魔王の走狗だと思うの」

 

 でしょうねぇ。

 みんなを労う先生の言葉に僕も深く頷く。

 流石にこんなレベルの奴が、村はずれの地下墳墓ダンジョンのボスとして居ていいわけが無い。エルデンリングじゃねぇんだからな。

 

 ……いや、あり得るのか。

 

 むしろ現実はゲームじゃねぇ。レベルデザインなんざ考えちゃくれやしない。

 地球でだって普通の中華料理屋だと思って入ったら常連しかおらず「って、なんで一見君が!?」状態になる事はある。

 つまりは別にこんな辺鄙な場所にクソ強ボスはおらんやろ、という思い込みもあまり良くないということだ。

 なんといってもここは僕らにとってのリアル。

 現実が自分の思い通りにいかなかった回数なんて、100や200じゃきかないからな。

 

 

 とはいえそんなのは今議論すべき話じゃない。

 僕らの身体の中にドバッと、一日の摂取上限量を超過するんじゃねぇかってくらいの命の精霊が宿るのを感じながら、とりあえず邪悪なリッチキングの黒い大福を手袋で掴みリュックに詰める。

 なんか震えてるけど爆発しねぇだろうな?

 肩にあてるとコリが解れそうだが、そのままよくわかんない物まで浸透してきそうなので控えておこう。

 

 真っ黒なタール状の粘液を帯びた杖は素手で触ると僕がヴェノムみてぇになりそうなので、そこらに落ちていた棒でトングのように挟み、慎重に麻布の上に置く。

 その後白い棒が何か気付いて大慌てで地面に置き合掌した。すんませんした……。

 

 あの数えるのも馬鹿らしい程に呼び出された不死者たちも、元々はどこかの誰かだったのだろうか。

 襲われた以上は仕方ないが、どこかやりきれない気持ちを抱いてしまう。

 

 

「委員長、聖水ちょっと分けてもらえる?」

「えぇ、良いけれど……あ、ちょっと待って。私がかけるわ、まだバフ残ってるから」

 

 僕のバフは使い切らなきゃいけないマクドのクーポンっつーワケでもないんだが、しかし100理あるのでお任せする。

 キュポンとコルクを抜いて布ごと満遍なく散布すると、明らかに陶器に入っていた以上の量の聖水が粘ついた夜闇の杖に降りかかる。それいつも思うんだけどマジでどうなってんの?

 今度買ったお酒を委員長に酌してもらったら増えるのか試してもらおうかなと思ったが、本当にヒモアルティメットフォームじゃんと寸前で気付き口には出さずに済んだ。良かったね。

 

 聖水をかけられた杖が耳障りな金切り声をあげて震えてるけど、これやっぱ持ち帰るのヤバない?

 とはいえ置いて帰ってなんか敵に再利用されるのが一番萎えるパターンなので、なんとかして持ち帰るのはマストな気がするんだよなぁ……。

 

 取り敢えず少ない量のタレでもよく染み込むように、もう一枚の布を上から被せ落し蓋代わりにする。

 これは布じゃなくてキッチンペーパーでも構わねぇ。主婦とヒモと家事ヤロウの知恵だ。

 杖は声にならない金属音をあげるも、濡れた布に阻まれガボゴボと水音を吐き出すにとどまり大きく震えている。

 スヌーズ機能か? 骨の王様が金ローでラピュタ見る為にアラームでもかけてたのかもね。

 

 ……お料理感覚でやっていたが、なんか映画でこういう拷問見た事あったわ。

 これもしかして人道的にやっちゃいけない行為じゃねぇだろうな、と顎に指をあて思案する。

 この世界の捕虜に対する国際条約にまでは目を通していないが、かなりグレーな気がしてきた。

 でも多分杖に人権は無いし……。もしある場合はごめんけど目撃者ごと口を封じることになる。

 

 

 しかしこれだけやってもまだ頑固な暗闇汚れは落ちていない。んも~。

 改めて自分でこういう事をやると、主婦の皆様の日ごろの苦労に頭が下がるぜ。

 こうなってくるとケルヒャーとかで無理矢理洗い落としたいが、シモン爺さんの魔法でもそこまでの勢いは出ねぇだろうしな。

 つか高圧洗浄とかの概念がそもそもまだこの異世界に無いんじゃないか。

 ククク……金儲けの匂いがしてきたぜ……。問題はする方法が無いって事だ。

 一手目で詰んだ。やっぱりヒモに金儲けは向いていないのか……。

 

 

「ん、青海ソレ持って帰りてぇのか。ほれ、浄化」

「あ、ありがとうございます。……え?」

 

 と、後ろからひょっこりと顔を出した明星先輩が、ピッと立てた指先から白い光を飛ばす。お手軽どどん波だ。

 それが見事に命中すると、委員長が密造した聖水のホーリーパワーに打ち震えていた杖くんは、無事断末魔をあげて漂白されてゆく。

 あとに残ったのは、まるでガラスのように透明な杖の姿だった。

 

 な、なんか完全に別物になっちゃったけど良いのかな……?

 

 信じて送り出した邪悪な闇夜の杖が、デコ出し目的達成マシン委員長とヤンキー改造修道服聖女タッグの聖なる力に完堕ちし、漂白されて純粋なまでに澄んだドスケベシースルーマジックワンドになってしまうなんてオリバンダーでも思うめぇ。

 そら思わねーよ。そこまでのかも知れない運転で生きてるヤツはこの世に居ない。

 

 ま、まぁ、ええか……別に目的があったわけじゃないし、あんな危なそうなモン持ち歩くのもやだったし……。

 

 

 そうして荷物をまとめ、ゾンビの一体も出ない安全な墓地を抜けて地上へ戻った僕たちを待っていたのは、とんでもない爆音と地震に怯えて集まってきた村の人たちであった。そらそうだ。

 果たしてどう説明すればいいかわからなかった僕たちは、もう安全である事、僕らが帰ったのちに再び教会の人間が調査や確認に訪れる事、ただなにかあってはいけないからそれまで墓地には入らないようにする事を伝えると、村人たちは大いに沸き、その日は村長宅に一泊させて頂く事になった。

 そもそも教会の魔車が迎えに来るのも明日だったからな。

 これ墓守小屋で一泊か……? とみんな薄々思っていたため助かった。

 

 催された宴は村の広場に集まり焚火を囲んで行われ、けして豊かとはいえないのでもてなしは硬めのパンやスープではあったが、それ故に彼らの心意気がとてもありがたく、僕らは賑やかな夜を過ごさせてもらった。

 

 もちろん酒も入った僕は村の男衆とすっかり意気投合、あの中の誰と良い関係なのかと聞かれ、当然全員僕の大事な人だから手を出したらゾンビみてぇにブッ飛ばすぞー!と叫び、やんややんやと歓声を浴びながら逆立ちをして足の先でお盆を回すのであった……。

 この世界そういう部分が中世だから、釘差しとかないと夜這いとかしかけかねないんだよな。僕の目が黒い内は、そういう毒牙は全部抜いてハブ酒にさせてもらうぜ。

 まぁたぶんレベルアップしたみんなにタダの村人が襲いかかっても、返り討ちにあって終わりなんだけどそれはそれ。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、なんとなく顔の赤いみんなと酒が残り顔が青い僕は、やって来た教会関係者である御者の方に今回の顛末を伝える。

 するとそんな内容なら行きみたいにちんたらしてないで超特急で帰らねばならないとの事で、僕らを絶望させたアレがイージーモードだったと知りさらなる超ド級の絶望を味わった。

 

 しかし、ただ唯々諾々と魔車の中で跳ねまわる事を良しとせず、乗車前にみなで意見を出し合う事にした。

 どんな荒唐無稽なモノであってもまずは口に出してみよう。否定せずに全ての可能性を吟味していくのさ。

 いわゆるブレインストーミングってヤツ。

 鹿野ちゃんの「ずっとジャンプしていれば揺れないんじゃないスか!?」という言葉ももっともだ。

 

 魔車にはちゃんと体を固定するために掴んでおく棒が座席の両脇にあるのだが、それを掴むと更にお尻が座面に叩きつけられるジレンマが存在した。

 しかし掴んでないと、さながらバトルドームの如く身体が簡単に馬車の中を跳ねまわるという究極の二択で、掴みながらもお尻は強く付けすぎない極めて繊細な力加減が要求される。

 その上それを丸一日ずっと持続させる必要があるのだ。

 全集中・常中っつーワケ。できるか。

 

 これをいかにして乗り切るか……。

 鹿野ちゃんの「後で幌の上にも乗ってみたいっスよね~!」という意見もその通り。

 そうだね、「お小遣い渡しちゃったんで町に帰ったら甘々おせんべいと丸太クッキー買ってくださいっスよセンパァイ」ってのも一理ある。

 

 

 しかしこの「おケツとバトルドームのジレンマ」に対する回答として、バフをかければ三半規管やお尻の防御力も強くなるのではと先生が発案。

 トランポリンでもここまでいかねぇだろっつーくらい縦揺れしまくる馬車の中で、なんと銅貨10枚のバフで一切のダメージを受けずに座り続ける事に成功したのである!

 ちなみに全財産を渡した鹿野ちゃんには、明星先輩パーティから必要経費として支給されていた。

 

 

 バフ乗車 - buff ride

 『お金でお尻が買えるなら、それは安い買い物だと思わない? ― 聖生 聖』

 

 

 火薬、羅針盤に次ぐ偉大な発明だ。

 異世界の歴史がまた1ページ捲られたのを感じ、時代の過渡期に立ち会っているという大いなる感動が僕の胸に押し寄せる。

 なんなら僕は将来的にこれで食っていくこともできるだろう。

 サスペンションが開発されると陳腐化してしまう技術なので時間との勝負だ。

 できればハンマーを稼いで斧兵を量産しラッシュに繋げて一国は滅ぼしておきたい。

 

 

 なお僕は自分にバフがかけられないので詰んでいる。当然のように僕が死ぬだけの物語だ。

 もはや泣いても喚いても助からないので、むしろ大悟に至りアルカイックスマイルで己の最期を迎えようとしていた。

 お釈迦様も毒キノコ食った後こういう気持ちだったのかなぁ? 違うかぁ。

 

 

 

 

 ……が、しかし。

 

「どうですか? どうしても体格が少し私の方が小さいので、不安定になってしまうのですが」

「……はぇ、いぇ、めちゃめちゃ、だいじょぶれす」

 

 僕は今、委員長の膝の上で横抱きで抱っこされていた。

 揺れまくる馬車の中で跳ね飛ばされないように、ぎゅっと委員長の手が僕を抱きしめている。

 凄すぎて鼻血が出るかと思ったが、先に出るのは確実に嘔吐なので大きく息を吸い込み両手で鼻と口を押さえる。

 

 半端なく揺れる馬車と大好きな女の子の腕の中という、ヘル&ヘブンのシャトルランで僕はもうどうにかなりそうだった。もしくはなっている。バッドステータス:"どうにか"状態だ。

 脳内に"天国と地獄"が鳴り響き、なんかの競技をしてんじゃないかと勘違いした体が勝手に温まって、交換神経が優位になり心拍数が上昇した。

 

 ……本当にこのドキドキとヌクモリティはそのせいか? ん?

 

 いくら口先が上手くなっても疑り深い自分は騙せない。

 その通りだ、認めよう。

 僕は好きな女の子に抱きしめられて、ハチャメチャに緊張し心臓バクバクでなんかもう頭がおかしくなっているのだ! たりめぇだろバカ!! 大抵の男子高校生はみんなこう!!

 

 

 事の発端は、残った酒が僕の中でシェイクされ意識朦朧、吐いてるんだか呑んでるんだかわからないゲボが口から出口までをフルスロットルで駆け回りもう殺してくれと願っている姿をみんなが見るに見かねて、なんと持ち回りで僕を抱っこしよう法案が国会で審議を通過したのだ。

 

 な、なに? エッチな催眠アプリで国を支配する妄想の話?

 

 しかしこれが真実なのでビビる。

 事実はエッチCGイラスト集より奇なりだ。それより奇なものがこの世にあっちゃなんねぇだろ。

 

 だが昨日見たゾンビよりも顔色の悪い僕には、反対意見を言う余裕すらなく、なによりみんなの言う事を聞くロボットと化しているので「はぇ……」と従う他無かった。

 

 

「そうですか、それはなにより。しかし青海君」

「な、なにかな、委員長」

「ちょっと軽い気がします。ご飯はしっかり食べれていますか?」

「……それに関しては、こっち来てからの方がよく食べれてるよ。だからそれはみんなのレベルアップが関係してるんじゃないかな」

「なるほど、たしかにそうかもしれません。ほら」

「凄いね委員長、でもやめてね」

 

 そう言うと委員長は、僕をお手玉のように右左の手の間をひょいひょいと行き来させる。

 馬車の揺れと合わせて無重力状態を味わい、出ちゃいけない内臓が口から飛び出かけた。ほらじゃねーよ。

 

 なんか今回のリッチキング討伐で、みんなマジでめちゃめちゃ強くなったっぽいんだよな。

 今だって委員長は僕を両手で抱えてるので姿勢補助棒を一切掴んでない。

 最初、このままじゃボールの如く相手のゴールにシュートされちゃうじゃんと思ったのだけれど、なんと両足で椅子の下部を挟むだけでしっかりと固定できているらしい。

 いわば足周りの筋肉だけで僕(49キロ)+委員長(聞けるか)の重りを保持し続けるようなものだ。

 ゴールドジムでもやんねぇような筋トレを、早2時間ぶっ通しで続けている事になる。

 つまり今もなお委員長は強くなり続けてるって事か? 常在戦場っすねぇ。

 

 みんなが強くなるのは良いことなんだが、力が突然強くなるなんてのは地球では経験の無い事だからなぁ。

 迂闊に変な事故を起こしちゃう前に、僕相手に練習して手加減を学んでいく必要がありそうだぜ。

 ハイタッチして相手の肩が外れたりしたら、鹿野ちゃん泣いちゃいそうだしよ。

 

 でもあんま筋肉付いてムキムキになったって感じでもねぇんだよな……柔らかいし……柔らかいと言えば……オーランドさんヒダルさんベスピムさん!!

 柔らかいからの連想ゲームで脳内が怪しい方向に進みかけたので、酔っぱらった親父を複数体召喚し雑念を無理矢理追い払う。

 結果的に柔らかいのはおっさんどもの太鼓腹と判明、事なきを得た。

 

 

 いや、一応僕も強くなってはいるんだけどね?

 昨日飲んだ村人と相撲して、熱い勝負繰り広げられたくらいだし。なおもちろん負けた。

 いやアレは対戦相手が木こりのニッカだったからさぁ、普段から丸太担いで山降りてくる人には勝てねって。

 

 6歳のベールくんにはギリギリ勝てたんだけどなぁ。

 村から出発する時になつかれ過ぎて泣かれてしまった、また来るからね~。

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