【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
ここからは内容を考える為、隔日投稿になると思います。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「どええぇェりぃやああぁぁァッ!」
腹から叩き出すような猿叫をあげて、先生が長棒を振り回し騎士の持つ木剣を大きく弾く。
……ガィンとかいう金属音が鳴ったけど、本当に木でできてるよな? いや高密度な樫などの硬い木材を使っているのであれば納得か。異世界の素材であればなおさらの話だ。なんの解決にもなってないのですが、それは。
僕を教材に力の感覚を養ってもらう予定を立てていたが、ちょっと軌道修正が必要かもしれない。
僕からあの音が鳴った場合は、すぐに先輩に祈っていただく必要が出てきそうだ。しかしそんな回復薬G代わりに聖女に祈祷していただくのも心苦しいからな。かいふくしてくださいやくめでしょ、とは流石に言えないっつーか言う気がない。
天より与えられたエルフの聖騎士という天職や種族による技量の差もあるが、しかしなにより完全に力負けしてしまっている聖堂騎士はあえなく剣を取り落としてしまう。
彼は痺れた手を押さえて蹲ると「参りました」と潔く降参した。
いやアレを剣で受け止めて痺れるくらいで済んでんのが凄いよ。僕なら多分吹っ飛んでくのは剣じゃなく右腕だ。もしかすると剣がその場に残り、僕だけが吹っ飛んでいく可能性もある。ニュートンのゆりかごみたいな話。そういったカートゥーンアニメ的な演出も手広くカバーしているのでね。
その隣の試合場では明星先輩が、振り下ろされる木剣を当然の如く素手で掴み取り折り砕くと、そのまま騎士の手を掴み放り投げていた。人間ってあんな風に飛んでいいものなのか? と思ったが騎士の方も空中で一回転すると、軽々と受け身を取って立ち上がる。マジ?
ちょっとどいつもこいつもレベルが高すぎる。僕が凡夫だとは知っていたが、しかしこんなに僕とみんなの間でレベルの差が存在するとは思わなかった……。
僕にも修行編がそろそろ必要なのかも知れない。
差し当たってヒダルさん辺りに、何か強くなる方法は無いか聞きに行ってみよう。もうわかってると思うがその後行くのはたぶん競魔場だ。
お約束っつーのもあるが、ヒモとしての自分を磨くならそうなっていくしかないのだろうともはや僕は理解っていた。
この異世界にパチ屋がない以上、修行に行けるところは一つ少ない。最初の方のモンスターファームみてぇなもんだよね。カウレア火山はBクラス育成後じゃないと解放されねぇ。僕もある程度ヒモ力(張力の下手な言い回しか?)が上がり大会に勝てば、ボゥギフトに突然パチ屋が建つかも知れんね。
しかし同じ競魔とはいえ、これまでと違う事が一つある。
……これはまだみんなには言ってないのだけれど、僕も腹を決めた。
みんなから貰ったお金を、賭け事につぎ込もうと思っているのだ。のだじゃないが? バクチで破滅するずんだもん劇場じゃねぇんだぞ。えだまめくん編じゃねぇかよ。
みんなに言えてないのは後ろめたいからだろ、それを聞いたみんなはどういう反応をすればいいんだよ。しかしなぜか先生や目黒さんが喜ぶ姿が目に浮かぶ。幻術か?
こんな改まって言う話がこの内容なことに目頭が熱くなる。どうして僕はマトモな仕事に就けなかったんだ? いやこの言い方だと更にヒモ感を助長しちまうな……。
クソ、なにもかもが僕をヒモにする。まるで運命に導かれるようだ、チャモロの次に僕が加入しちまう。なんでテリー気取りなんだよ。
もう思考が八方ふさがりとなったので、切り替えて目の前で行われている地球まるごと超決戦をヤムチャ視点で楽しむことにした。
どうしようもない事は先送りしておくに限る。これが所謂スルースキルってやつだろう。煽り耐性は無い癖に抜かしおるわい……。
しかしこうして見ていると、先輩と先生ってどっちもかなりパワータイプなんだよな。
いやテクニックももちろんあるんだろうけど間違いなく強化系。水見式やったら高波が起こって部屋が水浸しになる。たぶん火災保険の水害保障範囲外だから支払要件に該当しないので注意が必要だ。
僕がやったら水がビールに変わっちまいそうで怖くてやれねぇな。日本の酒税法はちょっと複雑すぎるんだよ。
現代の息苦しい法体系と水見式は相性が悪いのかも知れない、ロマンの無い話だ。
今僕らは演習場で彼女らと聖堂騎士団の模擬戦を観戦していた。
明星先輩が聖堂騎士と稽古をつけるという話になると、そのままの流れでスムーズに僕らのパーティも指南役をする事になったのだ。先生たちには指導料としてお金まで出るらしいから、僕らの実力を疑ってるわけじゃないのはマジっぽい。
かなり一方的にやり込められてる感じがあるが、それでも聖堂騎士団のやる気は高いようだ。
なんでも魔王の走狗と実際に戦った相手に、自分たちだけで魔王の走狗を倒せるかを確認してもらいたいらしい。
よく考えりゃそんな国の危機みたいな相手を退けた彼女たちは、いわば英雄なんだもんなぁ。そりゃテンションも上がるか。大抵の騎士なんて、そういう英雄を夢見て志すもんだろうし。
言ってみればメジャーリーガーを前にした野球少年みたいな感じ。そう思うとなんだか暑苦しいお兄さんたちが急にほほえましく思えてくる。
てかいつの間にか英雄にまで成り上がってしまっていたが、まだ僕らこっち来て二週間も経ってねぇんだぞ。合宿免許でもそんなに早く取れねぇって。ファミマでチョッパーもそう言ってた。……いや、違うのと混ざってるなコレ。
あまりの過密スケジュールに労基がそろそろ黙ってない。しかし果たして異世界まで勧告に来てくれるかは神のみぞ知るといったところか……。
非戦闘職な僕と近接職じゃない委員長や鹿野ちゃんはのんきなもんで、通りすがりの食堂のオバちゃんからもらったふかし芋を齧りながら応援係である。単にふかしただけのお芋だけどなんでかウメーんだよなぁ。
鹿野ちゃんも熱々を頬張って目を白黒させている。はいはいお水だよ、火傷しないようにね。ん? 僕のも一口食べたい? はいあーん。うん、一緒の味だねぇ、同じふかし芋だからねぇ。
みんな頑張え〜。
食べかけの芋を掲げて振りながら、気持ちよさそうに身体を動かす先生たちにエールを送る。
光るステッキの玩具は無いが、応援する気持ちは本物だ。
実際あんなすさまじい挙動をする美少女二人なんてぷいきゅあみてぇなもんだろ。あの迫力で相手を殴る姿を鑑みるに、ハートキャッチが実際に相手の心臓を抜き取る技な可能性も否めないが……。
しかももっと上手く盗むかも知れない先生の親父さんに、ご挨拶に伺わなければいけないかも知れないと思うと、くちくなってきた腹がキリキリと痛む。
なんかさっきの魔車で先生の膝の上に乗せてもらい上の空になってた時、お家に行くことを承諾しちゃってたっぽいんだよな。降りてからそんな話を決定事項として言われて、マジでめんたま飛び出るほどビビった。
なんで? な、なんのご挨拶に行くんですか? わ、わかんないっピ……。
これから先の困難に意識があるんだかないんだか半分わからない状態になった僕は、もはや太郎が誘導灯を振り続けるが如く半自動的に芋を振り応援して、時折齧るシステムと化していた。後やっぱ眠いのもあるわ。
「おいおい、そんなで後で怒られないか?」と声をかけてくる兄ちゃんに、「へへへ、エルフ様も聖女様もお優しいですからねぇ」と答えておく。
どうも騎士団の人には僕は召使いかなんかだと思われてる感じなんだよな、まぁやってる事考えると当たらずとも遠からずといったところか。つかなんで僕はこんなに自然に三下になれるんだ? そっちの才もあるだろ。
ヒモじゃなくもし僕の天職が三下だったら、マジで路頭に迷っていたかも知れない。カスとゴミのヤバい二択でまだマシな方を引けた幸運を感じる。
だがヒモで良かったなぁとはなんねぇからな。か、勘違いしないでよね!
つーかヒモが幸運だと……? 聞き捨てならねぇなァ……! 自分の言葉に自分でキレた。地産地消だ。
お、なんの歓声?
見れば若手のエースらしい青年が、剣舞のような型を先生に全て軽々といなされていた。まるでこの打ち合いそのものが型稽古かのように、先生は見てからその剣閃を最小の動きで避ける。小足見てから昇竜打ってるようなもんだぞ。
そして武というよりは舞のような剣戟の最後には、なぜか彼が振りぬいた木剣の上に先生が乗って勝負がついていた。おわー! スゲー! 銀魂で見た!
あまりにも衝撃的な幕引きに、騎士団からどよめきが上がる。
な、なぜ剣の上に……? という声も聞こえるが多分そこに理由は無いぜ。
至天:流月と同じようなもんだ。たぶん興が乗っちゃったんだろうな……。僕もできるならやっちゃうもんアレ。舐めプっつーより魅せプレイです。
その後目黒さんもぜひ指南をと騎士に乞われていたのだが、しかしそりゃ難しいだろうな。
彼女はそもそもそんなに戦闘という行為自体が好きではないからだ。ゲームならまだしも、実際に自分が身体を動かして戦う事に関して、いまだに「得意」という認識が無いのだろう。
どれだけ影を広げて敵の集団を呑み下せても、しかし自分の意識を変える事はなかなかできない。ままならねぇもんさ。
案の定最初は「え、えぇ……わ、私なんか、には……無理、です……!」と言っていた彼女だったが、しかしふと僕の方を見てからなぜか意見を急に翻し、僕のバフありでならという話になった。
スススと近付いてきた彼女が僕の手を取り銀貨を一枚手のひらに置いて、上から手を合わせキュッと握る。突然の行動に再び騎士団からどよめきが上がった。僕もあげてぇや、どよめきを。
み、見ないでくれ……! 僕のこんな姿を……!
「わ、私も……応援、して、くれますか……?」
「うん、もちろんだよ目黒さん。僕はいつでも君を応援するし、望むことがあればなんでもやってあげたい。……大好きな君の、して欲しい事を教えてくれる?」
おっとつい本心が全部出た。
不安そうでありながらも、心の隅で2割ほど期待したような佇まいを見ると、反射的にそのなにもかもを満たしたくなる。押すなと言われれば押したくなるように、私を愛してくれていますか? と聞かれれば僕は愛している事を全力で伝えたくなる。
これはもう治らない僕の病なんでね。ヤンデレだと思ってくれ。死ぬほど愛するが眠るのを邪魔したりはしないからさ。
「じゃあ、私……が、踏み出す、ための力を、どうか、下さい、青海君」
「わかった。僕があげれるものならば、いくらでも持っていって」
重なった手から、光が漏れだす。バ、バルス!? ラピュタとツイッターのサーバーが落ちちゃうよ。
彼女との間に繋がる黄金の橋が僕らの心を重ね合わせ、目黒さんの想いを僕に伝える。
彼女の暗殺者の力は影をつかさどる。
それは己が日の光の下を歩める人間ではないと、自分自身で思い込んでしまっているからだ。
けれど、影を地に落とすには中空に光が要る。
彼女の中で白く輝くそれは、純粋なまでの恋の熱量。
その眩い光に照らされたからこそ、彼女はあの土壇場でその力を発揮できたのだ。
……とても美しい心象風景だが、このもう一つの太陽みたいなのって僕への恋心っぽいんスけど……?
なんか彼女の中で、僕が暗闇の荒野を照らす一筋の光みたいになっている。
自分そこまでたいそうな生き物では無いのでつが……。ほら、オタク君でもあるし……。
「ありがとう、行ってきます」
「うん、いってらっしゃい。がんばってね」
けれど、覚悟を完了し己の力を少しずつ信じて、自信を持とうと頑張る目黒さんを見られるのはとても嬉しく、結局僕は何も言えず笑顔で送り出すのだった。
ま、まぁ、目黒さんが良いならええか……。
なお、もちろん騎士をスピードと隠形でボコボコにしていた。
多分ホントはバフもいらなかったんじゃないかな……。騎士さんには悪い事しちゃったのねん。
■
翌日。
僕は約束した通り、明星先輩と二人で飲みに来ていた。
どうせだし誘った側という事もあり、僕が中央街の方へと出向いてのことだ。
実際こっちの方はまだあんま来たことがなくて、飲み仲間たちから教えてもらってる店もいくつかあったから来たかったんだよね~。
「おーぅ青海ィ、こっちこっち」
「あ、どもっす。待たせちゃいました?」
「いんや、あれ見てた。ホレ」
先輩の指さす方向を見れば、そこにはタヌキ獣人のおっちゃんが自分もパイプをふかしながらパイプ関係の商品を売っていた。店主がぷかーと煙を深く吐けば、周りの親父どもが鼻をクンクンとさせながら引き寄せられ、パイプやタバコの粉を買っている。そんな餌に釣られクマがいっぱいいらぁ。
これも焼く時の匂いでウナギ売るみたいなもんの一種か? 僕はタバコ吸わないから、この煙の良さがわかんないんだよな。
いや、この世界のタバコの匂いは、お香とかにシナモンと木灰を混ぜたみたいな……別に悪いものじゃないんだよね。人間種より鼻の利く獣人にも愛好者が多いのをみれば、その匂いが悪くないことも分かろうというものだ。そもそもこの世界のタバコってどっちかっつーと薬草みたいな、そんな体に悪いものじゃないっぽいし。
それに明星先輩からタバコの匂いが香るのは、なんか……"良い"んだよな。近づいてその匂いが鼻に香るとなんでか嬉しくなっちゃう。やっぱ似合っているからかなぁ。
口にくわえたパイプからぷかりと輪っかの煙を出す先輩を見てか、かっこいいタル~と頭がおかしくなって死ぬかと思った。シスター服とタバコが両方そなわり最強に見えるぜ。つかシスター服で酒場って行っていいの? まぁ聖女様だし良いだろ、権力権力ゥ!
「ん……んだよ、吸うか?」
僕がぽけーっと見つめていたのに気付いた先輩が、パイプを口から離し僕へと向ける。え、えぇ!? か、間接キス喫煙なんて退廃的でエッチです! 卑猥過ぎます!
エッチを検知した僕の中の初心なねんねがアラートを鳴らす。どういう機能を内蔵してるんだ?
どぎまぎしまくる僕があうだのえうだのうごだのティターンズだの言ってると、ニヤッと笑った先輩が口に吸い口を差し込んでくる。ペズンッ!
ビックリして思わず吸い込んでしまい、肺に煙が入ってむせる。
「きしし、初めてだとキツいか?」
「……でも、良い匂いですね。これ。」
いたずらが成功して嬉しそうにする先輩に僕がそう言うと、彼女は「だろ?」と朗らかに笑って、煙を天に長く吹き付ける。
地球よりずぅっと澄んだ青空に佇む入道雲を背に、たなびく紫煙は徐々に薄れ消えていった。
……そういや今日昼間から飲むのか。
なんかもう、完全にただれた大学生みたいだなぁ。
図らずも悪い彼氏の趣味でタバコに興味を持ち始めた女子大生みたいな構図になった僕は、行先も知らないのに先を行こうとする先輩の後を急いで追いかけるのだった。