【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
昼間っから飲んだ割にはなんかそんな深酒もせず夕方に帰宅、僕は酒をパカパカ行く方では無いのでシラフに戻り夕食を頂いた。
本日は鹿野ちゃんは近所の店の子供たちと遊び、目黒さんは部屋でのんびり休養、先生はこの地区の教会へ顔を出しご挨拶、委員長は錬金術ギルドで講習に出ていたそうだ。
休みの日なので各々好きにしたらいいのだが、委員長の真面目さには頭が下がる。かたや仕事の勉強、かたや酒飲みながら若いアンちゃんに恋愛談義……。
どこで差がついたのかと言われれば、本人の意欲の違いとしか言いようがない。なるべくしてなったヒモは腹を見せて負け犬のポーズを取った。煮るなり焼くなり働かせるなり好きにして欲しい。
とかなんとか楽しくおしゃべりしながら、僕はみんなと同じ量のご飯をぺろりと平らげてしまった。
一応シュライロだのを食べたのは昼飯代わりでおやつの時間だったし、そこから果実水の酒割りを飲みながらチマチマ食っただけだが、完全に食べる量増えてんな。太るぜこのままだと。
僕は女の子はふくよかでもスリムでも可愛いらしいから気にならないタイプだが、しかし僕が太るとデブで怠惰なヒモとかいう世にも珍しい終末の珍獣になってしまいたいへんよろしくない。
そんなワケで、次の日は昼前からランニングに出ていた。
靴の底が現代の商品みたいに足にフィットしてなくて、前の遠征で足痛くなっちゃったんだよな……と思い出して、魔車のクッション代わりにしていたスライムの皮をリサイクルし、インソールにしてみたがなかなか具合が良い。
なんかマジでこれ一山当てれる気がしてきた。今度小金井さんに会ったらちょっと言ってみるか。
そうしてほっほほっほと走り回り、知り合いに会うたびにちょっと立ち話するから、トレーニングになってんだかなってないんだか分かんない様相を呈してきた頃。
北町に差し掛かった辺りで、僕は意外な人に出会った。
普段と違い町の人と同じような服を着ているからビックリしちゃった。
仕立てが良いし安物ではないでしょうけど、そういうのも似合いますね。やっぱ着てる人が凄すぎると、どんな服もそれに見合った着こなしになっちまうのかな。
「あれ? 先輩じゃないですか。どうしたんです、こんな所で」
「っぁ……!? あー、あぁ、あー……るクン、いや、どうもね……」
「おや姉さん! この方が仰ってた旦那さんですか? これはこれはどうもどうも、アッシはしがない行商のムナシダっつーもんでして」
僕へ挨拶をする蟲人種
僕の名前を変な呼称で呼んだし、即座に訂正もしないでマズい事になったという顔をしている。
数え満貫くらいの感じだ、どうも話を合わせた方が良さそうやね。
「あぁ、どうもはじめまして。アールと申します。妻がお世話になっているみたいで」
「いやいや、お世話になってんのはこちらの方でさぁ。いやしかし仰ってた通りで……二人とも黒髪なんて珍しいですな。ご出身が同じなんですよね?」
「えぇそうです、随分と遠方に来てしまいましたからね。ここらでは物珍しそうな目で見られて参りますよ」
「おっと、そういう意図は無いんですがね、失礼しやした」
「なに、お気になさらないでください。こう言ってはなんですが、そちらさんもよくジロジロ見られますでしょう?」
「仰るとおり、アッシらの種族もここらじゃ見かけませんからねぇ……ほんじゃ、ジーノさん。ちょうど旦那さんも来られましたし、よければご一緒にご案内させて頂きやすよ」
「っ、あー、うん、そうだね。……アールクン、この方がボクたちが探してたモノを仕入れてるらしくて」
人の良さそうな笑顔のムナシダさんに連れられながら、僕らはちょいと離れて会話をする。鹿野ちゃんならテレパシーとハンドサインでなんとかなるが、流石に悪王寺先輩とは言葉無しでは疎通がまだできない。
「へー、どんな感じです?」
「……なに、それは商品を見せてもらってからのお楽しみだよ。ついでに少し話もするだろうけど、そんなにはかからないから気にしないで」
つまり僕は話を合わせて商品見てればいいだけっつー事ね、わかりました。
ムナシダさんに聞こえていい範囲ではこれが限界なのだろうけど、僕はあまり詳しく知らなくても問題無いって事でもある。
ダメなら流石に無理めにでも伝えてくるハズだし、邪魔なら僕だけを帰らせることもできた。それをしないってんなら、僕がいた方が便利だということだ。
僕はムナシダさんと会話をしながら、努めて悪王寺先輩も絡め情報を引き出しつつ着いていく事にした。
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「へぇ〜、こりゃ良いですね。こういうのが欲しかったんですよ」
「えぇえぇ、そう伺っておりましたからね! しかしアールさんとジーノさんは運が良い! ……ここだけの話ですがね、アッシんとこはここらのとは比べ物にならないくらい、活きにこだわってんでさぁ」
極力近寄らないようにしていたスラム街のはずれの広い天幕のテントにて、僕はムナシダさんからよく分かんねぇ生き物の説明を受けていた。
この丸くて尻尾が長くて脚が八本あって目が3つある枕みたいな生き物はなんスか?
正解はガチガチに法に抵触したペットでした〜!
でしたじゃないが。
どうも道中話している内容やここでの会話から推測するに、最近同じ黒髪の男性と結婚して新居で飼うペットを探していたジーノさんが、北町近くのマーケットで
うーーーーん……基本的にその流れだと、追い剥ぎや誘拐が行われる予感しかしない。
しかし、それならムナシダさんが僕に着いてくるよう言うとは思えず、また先輩も巻き込まないように取り計らうと思われたので、大人しくぽくぽてやって来たが、なるほどねぇ。
既に非合法な事で利益を上げているから、他の犯罪に手を染めていないってだけだなコレは。なにより僕らは上客、という事になっているしね。
どうやら僕ことアールはこの若さで商業ギルドに食い込み、ある程度良い稼ぎを得ているらしく、金はあるから珍しいペットを飼ってみたいと姉さん女房であるジーノさんと話していたそうだ。
僕の事だが知らない情報でいっぱいだった。まぁみんな自分の事なんてよく分かってないもんだよね。
まさか適当にでっちあげたその場しのぎのカバーストーリーに、バッチリ当てはまる若い黒髪の男が出てくるとは先輩も思わなかったのだろう。間が悪かったとしか言いようがない。
「アールクンはここでどの子が良いか選んどいてよ。ボクはちょっとムナシダさんと話があるんだ」
「わかりました。あ、でも浮気はしないでくださいよ」
「フフ、バカを言うんじゃないよ。ボクはキミ一筋さ。じゃ、ムナシダさん、ちょっとこっちで」
「アイアイ、わかりやした。旦那、あんまり無理に触ると噛まれたりしやすんで、優しく扱ってやってくださいね。ま、旦那には言うまでもない事でしょうが」
「はは、軽く撫でてやるくらいにしときますよ」
っつーワケで、僕の奥さんはなんか聞き込みに行かはりましたとさ。夫を置いてくなんて寂しい話じゃねぇか。
なぁ、ポポ丸?
ギャキャオゥスギッチギ
あ、そう? お前思ってた5倍スゲー鳴き声してんね。初代ポケモンじゃん。
ポポローシャ。
基本的には犬猫と変わらない愛玩動物でしかないが、その取扱に注意が要るので大都市への持ち込みは原則禁止されているらしい。
なんでもコイツは近くで眠る人の夢を、ある程度操作できるんだそうだ。
普段はポポローシャ自身と遊ぶ夢を見させたりするだけの、マジでめちゃめちゃ良いとこしかないスーパーかわいかわい生物なのだが、とある事をしてしまうとド級のクソヤバ激悪夢を見せて飼い主を時に発狂させてしまうのだという。
なので絶対に深夜にエサを与えてはいけやせんぜ、とムナシダさんから注意を受けた。グレムリンじゃねぇかよ。
なんでも満腹になるとこの子がおねむになっちゃって、この子の夢の中と僕らの夢を繋げてしまうらしい。
つまりポポローシャちゃんたちは毎日悪夢しか見てねぇって事か? なんか妙にかわいそうな生き物だなぁ。
それはそれとして、そらこんなの都市部に絶対持ち込んじゃダメですねぇ。
逃がして繁殖しちまったら、夜中に道端で餌勝手に食ってねむねむ状態を満喫、町中が悪夢でドッタンバッタン大騒ぎだ。
のたうつ黒い触手と虹色に輝く球体の塊のフレンズに夢ん中で市民全員ドロドロに溶かされて、精神的ミルクセーキになっちゃうのが容易く想像できる。たった一晩で簡単に都市機能をマヒさせることができるだろう。
「お前らは悪くないのにねぇ~、ン~? ソコ袋になってるんだねぇ。何入れるの? ……あ、子供~~~~!! かわいい~~~~!!! 繁殖しちゃってんねぇ~~~~~!!!」
破滅の足音が目の前でタップダンスしてるのを見てしまい、しめやかに僕も気が狂った。悪夢見ないでも全然狂えますよ。
抱えていたポポローシャをそっと柵の中に降ろし、僕の残した痕跡を手早く消していく。
悪王寺先輩ココ全然マズい場所っすよ! 僕も流石にムショは嫌かも~!
もちろんそもそも買う気はまったく無かったんで、適当にお茶濁して先輩ととんずらコく予定だったが、絶対に足跡残しちゃダメな話になっちゃったね。
目的がココの摘発か、それともここを経由した上で他の情報の入手なのかは知らないが、タイミング良く(めちゃめちゃ悪いが?)ガサ入れとか入っちゃう前に、とっとと用事を済ませて帰らせて頂こう。
「オーゥ、ムナシダァ! いるかぁ? あん?」
「どうも、ムナシダさんなら奥でお客さんとお話中ですよ」
「おう、そうか。アンタは……あぁ、客? ヘヘ、そりゃすまなかったな」
立つ鳥跡を濁さずを体現していたところ、薄暗いテントの入り口が開かれて人相の悪い犬人族の男三人組が入ってきた。思わず軽く会釈をし、奥で彼らが今商談中だと伝える。
と、噂をすればエスニック調のついたての奥から先輩たちが戻って来た。
「いや、いろいろ聞いてすいませんねムナシダさん」
「いえいえ奥様ァ、そういった商品であればアッシも良い売人を紹介できますんでねぇ。おっと、これ以上は……お、ベーズスじゃねぇか。ちょうどよかった、今話していたとこなんだ。ジーノさん、こちらが今話してた商人でして」
「あ゛ぁ゛っ! オイ! オメェだろ! ウチの商売探ってた黒髪の女ァ!」
「あちゃ~……こんな事もあるかぁ」
なんかたぶん聞き込み調査してた対象と、運悪く鉢合わせしたらしい。
これはヤベーのでは? と思った頃には、悪王寺先輩が僕の隣にスッと近寄っていた。
あい、やっぱそういう流れっすよね。
そうして僕は、伸ばされた指に抓まれていた銀貨を、流れるように受け取る。
瞬間、薄暗いテントの中を黄金の光が照らす。
僕らを取り囲もうとしていた犬人三人が怯んだ隙をつき、先輩は僕をお姫様抱っこして駆け出した。
あ〜ばよ〜、とっつぁ〜ん! ムナシダさんは絶対その子ら逃がすなよ!
バフを受けた先輩の身体は僕を抱えながらも軽々と跳躍し、屋根へと着地するとそのまま再び駆け出す。
こんな事されたら一般人じゃ絶対に追跡なんぞできない。
マジで怪盗じゃん。トランプを飛ばす銃もほしいところだ。
もちろん肉体的接触に内心はわわっているが、これに関しては覚悟していたので顔には出さないことに成功した。
いつまでも僕がきらら漫画だと思うなよ。これからは劇画とマカロニウエスタンの時代さ。ハードボイルドが信条だ。しかしスピンオフでイチゴ味も出すぜ。現代人の需要ってヤツは混迷を極めてやがる。
さしあたって内偵捜査に共に出向いていた相棒の探偵へ、お礼の言葉をかけておこう。
いやー、すいませんねジーノ先輩。
「なに、いざという時はキミに頼ろうと思ってついてきてもらったんだ。こっちこそ助かったよ、旦那様?」
あ、いや、えへへ……そ、そういう設定でしたからね……。すいませんね、僕なんかが。
「いや、正直見くびってた。あの動じなさと機転はたいした物だよ。事前情報無しでも卒なく対応するし、彼との会話でもボクが聞きたがる内容をちゃっかり探ろうとしてたりね。まるでわかっているかのようにボクの調査をサポートして、いざという時にはこんな風に手助けもしてくれる。……うーん、ボクらって相性良いのかもしれないね、助手クン」
なんです、じゃあ僕がワトソン君ってことですか?
「つまり僕にマイディアと言って欲しいのかな、青海クン」
おっとヤブヘビだ。いやいや、そういう下心は無くてですね……内容は聞きませんが、調査は完遂できたって事でよろしいですか?
「うん、まぁ、微妙なとこかな。ちょいと厄介な事にはなったが、今頃ベーズスのテントはガサを受けてるハズだよ。既にアイツらの調査は終わってて、拠点も掴んで商業ギルドに報告済みさ。今日は他にめぼしい売人が居ないかの聞き込みだったんだが、情報はあまり無かったって感じ」
なるほどねぇ。ま、詳しくは聞きませんよ。こういうのは部外者が深入りするもんじゃありませんからね。……それはそれとして、あの闇ペット屋は絶対に潰してくださいよ。めちゃめちゃにヤバいですからね。
「あぁ……それはそうだ。いやはや、まさかあんな劇物を卸しているとはねぇ。正直ボクが追ってたモノより、個人的には危険に思えたよ。下手に逃がすと、ちょっと被害範囲の想像がつかない。商業ギルドにはすぐに伝えて、捕縛するように言っておくよ」
苦笑いしながらもそう話す先輩のカバンがもぞと動いた気がしたが、しかしよく見てもなにもない。気のせいか?
まぁ結構気を張ってたしなぁ。
すっかり時間も遅くなっちまったし、さっさと帰ってみんなと飯でも食おう。
そうして適当なところで降ろしてもらい帰宅した僕は、運動した分よくお腹も減っており、しっかりと夕飯を食べたのであった。おバカ!
ダイエット計画の厳しくも険しい道は続く……。
余談だが、ムナシダとベーズスはもちろんお縄になり、ポポローシャは全て捕獲され帝国首都の研究機関へと送られたらしい。どうかそこでモルモットとしてであれ、幸せな生活をしていれば良いのだけれど。
が、後日商業ギルドの宿舎付近で、ポポローシャの子供が一匹捕獲されたらしい。
……他に逃げ出した個体が居ない事を祈ろうな。