【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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隔日投稿、めちゃめちゃ時間あるからいっぱい書けちゃった。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【32】 世界はあなたの色

「つまりさぁ、アシナガトゲアリナメクジはそれなりに高い魔法耐性があるワケじゃん? それはかの予想屋の大家たるサージ=マーギス氏も、かなり熱量をもって仰ってるとこだしね。そこが今回の魔導機関融合ロバには刺さると踏んだのよ。いやこれは間違った理論じゃないでしょ。しかしマジで華がねぇなこのバウト。プロモーター誰なんだよ……」

「いーや! 俺にいわせりゃそんな理論に偏重した頭デッカチな予想をしとる時点で、オマエの今日の負けは確定しとる! いいか? 賭けっつーのは心だ! 心で賭けるんだよ! つまりオッズが高い魔導機関融合ロバ一択! それ以外はバカ!」

 

「ウチが言うのもなんだけどぉ、ヒダルさんはどうして勝ったことが無いのに賭けを続けられるんだろねぇ……」

「まぁいつか勝てるかもって希望が段々肥大化していくと、やめるにやめらんなくなるんじゃないすか? 負け分を取り戻そうとする気持ちが募りに募ってるっていうか」

「あ~~~~……アオはこうなっちゃダメだぞぉ。お金なんか将来の事を思えば、いくらあっても足りないんだからぁ」

「わかってますってサーシャ姐。それに僕は度胸が無いから、身を持ち崩すほど大金賭けらんないし」

「いやぁ~、クソ度胸はあると思うんだけどなぁ」

「うるせぇぞオメェら! 今日はせっかくの特別開催夏のタイマンマッチなんだからパーッと賭けんかい!」

 

 今日はたまたまみんな都合が合い、午前中からゴードンの酒場競魔好き部の三人がボゥギフト競魔場に集っていた。

 よくもまぁ大の大人たちが席を埋め尽くす程大量に、こんな朝っぱらからウキウキ気分で競魔をしに来るなと思わないでもないけれど。

 日が中点へと昇りきる前の今の時間帯は、この季節でもうだる暑さを避けれて大変気分が良いのだ。

 

 清々しい空気は集まったロクデナシどもの大歓声と阿鼻叫喚で吹き飛んでいるが、どっちかというと僕みたいなのはこっちのが性に合っている。

 清々しい空気の中にいると、賭けクズはあまりの自分の醜さに自責の念で潰れちまうからな。水清ければ魚棲まずって事。そもそも自然界でもある程度汚れた場所の方が、ねぐらにする生き物は多いんだよ。つまり社会不適合は多数派って解が導き出されるな? 完璧な三段論法に数学オリンピックがざわめいた。数理論理学の夜明けは近い。

 それに二人には言ってあるが、今日僕は午後から用事があるのだ。

 午前は博打、午後はパーティの仲間との約束。いやはや忙し過ぎて目が回っちまうな。

 

 本日行われるのは通常のレースではなく、午前午後と二回に分けて行われる魔物同士のタイマンバトルである。

 僕が来るようになってから初めての催しなので、とんでもなく楽しみだったのだ。

 みんなの都合が合ったっつーか、もはやこの特別な行事の為に各々がやる事だらけの日常を掻っ捌いて、無理矢理都合を作り出したというのが正しいか。

 

 数ヶ月に一度あるのでそう珍しいワケでもないが、でも楽しいもんは楽しい。

 イベントってのは斜に構えて眺めるのは悪手で、全て投げ出して身を任せ楽しむのが一番なのだ。

 これは僕が地球にいた頃には至れなかった意見である。異世界に来て僕も少しは成長したってことかな。

 

 

 しかし、まぁ、なんというか。

 賭けの対象が二択であり、ヒダルさんが選ばなかった方を選択したという時点で、僕はもう今回のオチが見えてしまっていたのでわりと強気で賭けておくことにした。

 あんなことを言った手前、大金を賭けるとサーシャ姐にお小言を貰いかねないが、しかしこんな勝ち確な勝てる戦いも無いんだよな。

 

 普段はレースに使われているコースのど真ん中に設けられたコロシアムには、かたやトラックくらいのクソデケーナメクジが背中の棘から毒液を噴出させながら何本もの脚で地団駄を踏んでおり、かたや身体をサイバネっぽく改造された普通より三周りデカいロバが完全にビビって震えていた。

 そりゃ近未来改造ロバくんも活躍が楽しみではあるが、けど対面のバケモノが完全に4面の洞窟ステージのボスなんだよな。明らかに毒液の噴射で足場を削ってから、連続踏みつけでボス部屋を駆け回ってくる。五回はコンティニューを覚悟して挑むしかねぇめんどくささを感じるぜ。

 

 それでもなおロバに賭けている狂った博打打ちどもは一定数おり、オッズとしてはナメクジ1.3倍:ロバ4.5倍だ。

 ちなみにヒダルさんはいくら賭けたの?

 

「もちろんロバに銀貨10枚よ」

「はいはい10枚ね、10枚……10枚ィ!? 下手な月収くらい賭けてんじゃん! ご、午後もあるんだぞ!?」

「そこよッ! 軍資金全部突っ込んじまって、午後は一体どうするのか? ……ほれはな、当たった金をぶっ込みゃええんじゃ……ッ! 30枚は賭けるぞ……ッ!」 

「バッ……お、ま……」

 

 目の前の信頼していたオヤジによる、捕らぬ狸のスーパー皮算用&お肉の消費レシピ&皮代金によるカフェ開店計画を聞かされ、スライム犬に襲われて以来の絶句を体験した。

 当たった金を何かに使おう、ってのはまだ良い。金使い切っちゃったから次のレース賭けらんないや、も全然よくある。

 しかし、大穴賭けたしデカいの当たるから、次のレースはもっと大金賭けれるぞぉ〜! はヤバすぎる。

 

「うわ〜〜……鍛冶の腕はピカイチだから、儲けてはいるはずなんだけどなぁ」

「……だから、今まで破産せずにいられたのかも知れませんね」

 

 とりあえず僕もナメクジに銀貨5枚を賭けておく。

 正直これだけでも膝が笑うくらい大金なのだが、ここまでお膳立てされた安牌を前にするとつい欲に目が眩んでしまうわな。

 

「え、えぇ!? いやいや、なんだかんだ言いながらアオもめちゃめちゃ賭けてんじゃん! だ、ダーメだってぇ! そんなに使ったら生活困っちゃうでしょぉ?」

「まー、普段なら絶対に賭けない額ですけど……ほら、ね?」

 

 僕がヒダルさんを横目に見ながら話を濁すと、サーシャ姐も察しはしたようだがしかしふくれっ面でむくれている。

 どうやら僕が彼女のアドバイスを無下にしたことにご立腹らしい。

 

「いやいやいや、ごめんなさいねサーシャ姐。でもさ、オッズなんて1.3倍だからまず負けないし、銀貨1.5枚稼げばまたサーシャ姐と飲みにも行けるだろうしさ」

「……別に、アオくらいなら奢ってあげるのに」

「そーれはさぁ、友達同士で一方的にってのは、なんか不健全じゃん。僕も気兼ねなく食べて飲むには、やっぱ自分のお金じゃないと、ね?」

 

 いや分類としては自分のお金ではあるが、それもリッチキング戦で受けとったみんなの「おこずかい」と書かれた袋や財布から出ているので、現状ですでに気兼ねしまくって飲み食いしているのだけど。

 ……しかし、気兼ねしながらも飲みに行っちゃうあたり、僕がヒモに染まり始めていて怖くなるな。

 

 いや違うんだよ〜、もらったお金を貯金なんかしてたら堅実カウントされてヒモとしてレベルが上がんない気がしてて〜、こうやって使っている方がなんか自分の経験値効率やバフの強度が上がるから〜。

 ……言い訳まで完備された完璧なるヒモ製造装置な「ヒモという職業」に、今更ながら打ちのめされる。こんなんどんな聖人もヒモになっちゃう魔法のお仕事じゃん。

 

 自分が戦わなければならない自分自身のそのあまりの強大さに、目の前が真っ暗になりかけた僕は、突如会場が爆発したような歓声に現実へと引き戻された。

 

 オイオイオイ! 始まってんじゃん早く言ってよ! いけーーー!! ナメクジくらえーーー!!!

 

 

 ナメクジは家屋のような巨体をぷるぷると揺らしながら、ロバを中心に円の動きで回り続ける。おそらくタイミングを見計らい、フットワークで視界の外へと出て一気に近づき仕掛ける算段だろう。

 軟体動物のクセに普通に賢い戦い方してやがる。

 まぁ身体デカいしなんなら脳も僕よりデカいのかもな。

 嫌だぜ背中から毒出る棘生えたナメクジが上司になったりしたら。パワハラ受けたら溶けちまう。

 

 一方サイバーロバは、回るナメクジを常に正面で相対するように追従して回りながらも、片目に備え付けられたスカウターじみたグラスでナメクジを観察しているようだった。

 やめとけよ、数値化は残酷だぞ。どうすんだよ戦闘力の差が3億とかあったら。戦意喪失したロバが歯を打ち鳴らす姿とか見たくないよ。

 

 当然のことながら、最初に動いたのはナメクジであった。

 身体がデカく脚も長いというのは、つまりコンパスが違うって事だ。

 ロバにとっての一歩と大怪獣ナメクジゴンにとっての一歩はヒトとキリンくらい違う。そもそもの身体設計から、勝てるようにはできていないのだ。

 

 たった二歩で完全に距離を潰したナメクジは、棘を操作し指向性をもって毒液を噴出した。まるで毒液の壁が突然ロバの前に現れたかのような事態に、観客から「オイ何やってんだー!」「ロバが可哀想だろうが!」「人の心ねぇのかー!」と、悲鳴や怒号が上がる。

 大半のヤツがナメクジに賭けときながら、いざ始まるとやっぱ弱い方を応援してしまうのは人情だ。博打打ちは財布の薄さに反比例して情が厚い。ヒダルさんなどその典型である。

 

 愛すべきバカどもの怒号が刺激したのか、ナメクジは更に身を震わせ毒液をお代りした。馬鹿野郎! 応援されてんのはそっちじゃねぇんだよ!

 

 もはや避けようもなくなった大量の毒液の津波に、ロバは抵抗すらできずに呑み込まれた。

 凄惨な事故を目の当たりにしたような悲鳴が、客席のそこかしこからあがる。

 オイオイ運営ヤベーぞ、盛り下がっちまうって!

 

 しかし、毒液の津波が過ぎ去った後に残っていたのは、丸い力場に守られたロバの姿だった。

 

 バ、バリア!? 最強の悪魔の実じゃねぇかよ!

 

 ロバの左半身を覆っていた鉄にも似た素材の魔導機関が、けたたましい音をたてながら緑の光を発し駆動する。気付けば鳴っていた、極めて強いモーターのような激しい擦過音が徐々に止むに連れ、バリアが薄れ消えていった。

 

 今や、ロバの目に怯えは存在しない。

 己の力を知ったのだ。

 

 ロバが蹄を鳴らし駆け出した。

 普段ここを走るキメラより速いとはけして言えないが、それでも先程とは雲泥の差がある。

 どたばたと乱雑に脚を振り乱しストンピングするナメクジを、大周りで避けるロバの左肩が輝く。脚に格納されていた魔術励起補助装置()が放出口を露出し、直結した脳からロバの視線を読み取り対象に誘導され狙いを定める。

 

 放て(fire)

 

 ロバのいななきを火蓋とし、杖から氷結弾の魔術が複数放たれる。

 それを見た観客から今日一大きなどよめきが上がった。

 詠唱抜きの同時行使!? とんでもねぇ最先端技術だ!

 人間の魔術師が単独で行えれば、間違いなく宮廷魔道士の見習いにはなれるだろう高等テクニック。

 それでも最高峰と比べればチャチな児戯には変わりねぇのだろうが、しかしソーサラー以外にしてみれば目を剥くような神業である。

 それを技術的なモノへと落とし込み、非魔法使いであっても可能とするならば、これは既存の戦いの形が変わるだろう。

 問題はその代償がいかばかりのモノか、という事だろうな。

 

 

 過たず着弾した氷結弾は、ナメクジの体表を凍らせ毒液噴出口も塞いでしまう。

 耐性持ちの巨体相手にこの威力だと……!? マジで相当最新鋭の技術のお披露目だぞこれ!

 この世で未だ誰も聞いたことのないであろう、ナメクジの大絶叫が響いた。例えるならフルフルに近い。流石はカプコン様、そこらへんもリサーチ済みって事か?

 つまり耳栓を着けてない僕らは、完全に咆哮やられで一時的に音が聞こえなくなったのである。鼓膜ゥ……まではいってないと思うんスけどォ……。

 

 周りのロクデナシ共も一様に耳が聞こえなくなったみたいだが、しかしうるさくなくて好都合とばかりに更に大声で歓声や罵声を叫びまくる。ハチャメチャだ。僕もおかしくなってしまい、笑いながらロバにエールを送る。

 

 ダハハハハハハハ!! スゲーーーーよお前!!! そんなデカくて強くて厄介なだけのバケモノやっつけちまえーー!!!!

 

 

 完全に箍が外れたみんなの馬鹿デカい大声を背に受けて、ロバは再び駆け出す。己の魔法耐性を貫通する攻撃力を恐れ、ナメクジがうろたえてたたらを踏んだ。

 もはや形勢は逆転していた。

 ロバは氷結弾を撒いて動きを阻害し、ナメクジが追い詰められていく。

 ナメクジは基礎性能が高く、毒液という搦手も使えるがどちらかと言えばパワー耐久タイプだ。

 それ故に、トリッキーな逆転の一手というものを持ち合わせていない。

 

 削り、削り、削り。

 そうして、僕らにようやく聴覚が戻り始めた頃。

 

 

 ほぼ氷漬けのナメクジへと放たれた火球と雷球の混合魔弾は、大怪獣の身体を見事に粉砕した。

 

 

「やっっっっだぞ母ちゃん゛ん゛んんんっッ!!!」

 

 うわーー!! うわーーー!! スゲーーー!! やったーーー!!!! わっしょい! わっしょい!

 

 ヒダルさんが周囲を圧倒する怒号をあげ、あまりの展開にテンションがおかしくなった僕とサーシャ姐に胴上げをされる。

 

 勝った! 勝ったんだ! ヒダルさんが勝ったぞぉー!!

 

 僕の声を聞きつけて、周りの知り合いでもねぇ奴らも混ざってきてヒダルさんがバカ高く胴上げされる。

 もはや建物の2階くらいまで跳ね上げられているが、初めての勝ちに浮かされふわふわとした彼にとっては、その高さすらも現実味が無いのか満喫している。

 

「わはは……わははははは!! わはははははははは!!!! 俺の天下じゃーーー!!! おいアオ、サーシャ! 午後の部でも勝ったら酒場の酒全部飲むぞぉ!!」

 

 あ、いんや、今日は言ってたとおり昼から用事があっからさ。

 すまんがお祝いはまた今度個人的にやらせてもらうよ。

 んじゃそろそろ時間なんで、ヒダルさんホントにおめでとね! サーシャ姐も今日はありがと! またゴードンさんとこでね〜!

 

 約束の時間も迫ってきたので、二人に軽く挨拶とお祝いの言葉を述べて、僕は胴上げからするりと抜け出した。

「あ、アオ、また酒場でねぇ〜!」

 あいあーい! 

 

 まぁ今日はもう15万スッちゃったしな。

 負けが確定した瞬間黄金の線が身体から伸びたのは、大騒ぎで気付かれずに済んでホッとしたぜ。

 

 

 なお午後の部にて、ワイバーンvsキバネズミでキバネズミに銀貨30枚を突っ込み、ヒダルさんはあえなく散るのであった。

 夢はただ一夜のみ、連日見れるものではない。

 

 まぁいいじゃん、銀貨5枚の勝ちでも十分でしょ?

 奥さんに美味しいものでもたべさせてあげなよ。

 

 

 

 

 

 

 バンダナで髪を覆い、同じ柄の布でマスクをした委員長が清浄な両手を執刀医の如く胸の前に掲げた。

 

「では錬金術を開始します。青海君、薬研を」

「ハイ」

 

 同じ格好をした僕が機材を委員長に手渡していく。

 冒険中は不衛生極まる環境でやらざるを得ない場合もあるが、しかし人の口に入るもんを作るのだ。本来衛生面を気にするのは普通の話だろう。

 まぁ完全になりきって遊んでいる部分はあるが。

 

「乳棒は」

「こちらに。汗は?」

「まだかいてません。今回の割合」

「25%で」

「いいえ、60%です」

「そ、そんな暴利な……!」

「ビタ一文下げません、60%支払わせて頂きます」

 

 二人の信頼と報酬の金額に裏打ちされた強い光が、実験室を明るく照らした。

 戸愚呂弟みてぇな力の解放をするな。つかなんで払う側が執刀してんだよ、こんな逆ブラックジャックねぇだろ。

 

 僕らは今錬金術ギルド実験室にて、委員長の製薬時にかかるヒモバフの実験をしていた。

 なんでもリッチキング戦以降、バフが強くなっている感覚があるとの事。

 どうせなら他の条件も試したいので付き合って欲しいと言われ、もちろん二つ返事で承諾したのである。

 

 委員長のやりたい事を手伝いたいだけなのだが、やってる事鑑みると金目当てみたいになってしまうのがヒモの辛いところだ。

 辛いのはそんなヒモに金を払うみんなでは? ふと脳裏に浮かんだぐぅの音も出ない正論に、僕はバッサリと袈裟懸けに切り捨てられた。お見事、介錯してくれ。

 

「ほら見てください。この薬草を練った物を熱した場合、本来は薄い青色になるハズです。しかし青海君が60%バフをかけると、純度を上げ製錬した場合と同じく深い藍色になるんです。味も見ておきましょう」

 

 露伴先生!? いや作ってる途中の薬は舐めねぇ方が良いんじゃねぇか!?

 案の定メチャ酸っぱかったらしい。あーもーほらお水お水。

 

 実証実験大好き人間……っつーか試せる選択肢は全て試し勝手にトロコンしちまうタイプなので、委員長の実験は多岐に渡る。

 なんならダクソで全ての壁に攻撃を当て始めそうで怖いから、僕は彼女にゲームを勧められない。

 委員長の怖いとこは、別に好きじゃないゲームでもそれをやりかねないところだ。

 

 手段を選ばないから全てをやる、簡単な言葉だが普通なら恐ろしくモチベが必要な話だぜ。

 しかし委員長は行動の代償としてのモチベーションを必要としない。ソシャゲでスタミナ無限みたいなもんさ。時間さえあれば無限に行えるっつー事。

 だけど、いつかそれで取り返しのつかない事になるんじゃないかと気が気でないのも本当で、この人には僕がついてなきゃダメなんだと再認識させられた。これは普通ヒモ養ってる側が抱く感情のハズなのだが……。

 

 そうして出来上がった物は、立派に中位ポーションであった。

 なんでもこの素材では本来下位ポーションにしかならないらしい。

 で、ここまでは以前試した通りなのだが……。

 

「さて、次は80%です。青海君、次の薬草を」

 

 ギアを一つ上げていくぞとばかりに、委員長は僕に利益の80%を渡す誓約を結ぶ。

 そんなワケで再び僕は手術室のナースとなり、ピノコの如く甲斐甲斐しく委員長の汗を拭き邪魔くさそうにジト目で睨まれるのだった。

 や、やってみたかっただけなのよさ……。

 

 その後、80%100%と刻みながら試してみるも、薬の反応速度は上がり製作は容易になるけれど、より上位の薬ができる事はなかった。

 ぶっ壊れたバフとはいえ、これでエリクサーでも作れちまおうもんならちょいとコトだったから少し安心である。

 もしできちゃってたらエリクサー製造機として、硬貨投入口を腹に開けられて研究機関の厚いガラスの向こうに設置される可能性が飛躍的に高まってたからね。

 作ってる張本人である委員長にはその製薬難度の違いからバフの成長が実感できたようだが、目に見える結果として表れないので僕にはあまりわからなかった。

 ま、自分の成長って自覚しづらいもんだからな。男子三日会わざれば刮目して見よっつーのは、三日会ってないから気付ける話さ。昨日も一昨日も先一昨日も会ってたら、別になにも変わりゃしねぇ。

 

 さて、実験も終わったことだし、この後ヒマならちょっと帰り道で寄りたいとこあるんだよね。

 正親さんの好きそうな細工物の出店でさ、なんかライターもどきとか十得ナイフのなりそこないみたいなのとか、結構面白そうなんだ。

 僕がオススメしたいのは、ガラスの器に満ちた油と水の層の真ん中に浮かぶ金属片でさ。魔力を流すと適当な方向を指すらしいんだけど、なんかコンパスになりそうでなってない可能性を感じる絶妙なガラクタで……。

 

「いえ、まだあります」

 は?

「青海君、薬草を。次は120%です」

 マジで戸愚呂弟じゃねぇかよ! ちょ、ちょと待て! 売却益に加え自腹も切るって事か!?

 労働の概念の破綻だ! 誰かの為に働くと同時に身銭も投ずるって、滅私奉公最終形態じゃん!

 

 て、ていうか、それちゃんと払えるのか!?

 

 手元に無い金を代償にするのはマズいと、僕の中の何かが警鐘を鳴らした。これは完全に感覚の話だ。なにが、という明確なロジックを今すぐには言語化できねぇ。

 しかし、レバレッジ効かせてなにかミスった時、追証が襲ってくるのは当たり前の話。

 もし……もしもこれで本当にとんでもないモンができて、その20%を自腹で払えなかった時、何か恐ろしいことが起こるのではないかという予感がした。

 

 ふ、ふぎぎぎぎぎ!!

 パッシブスキルとして発動したバフの軌跡が伸びるのをクッソ力んで気合で押しとどめ、セスみてぇに丹田での吸引をイメージし腹にフンバリを込めることで引っ込めてゆく。

 開いてるチャクラを無理矢理閉じるみてぇなもんだ。

 閉めていいもんなのかはわかんねぇが、開きっぱなしじゃ不用心だろ!?

 

 僕の能力のせいで大切な人を不幸になんかさせてたまるか!

 

 

 内なる力の機械的な抵抗を感じながらも、十秒かそこらで諦めたかのようにバフが収まっていくのを知覚し、冷や汗を垂らしながらその場に座り込む。

 

「青海くん! だ、大丈夫ですか!?」

「い、委員長……今のはちょっと、ヤバかったかも……これは原則禁止でお願い」

「わ、わかりました。……ごめんなさい、相談もせずにやってしまって……」

「い、いやいや、僕の力を調べる為に、委員長が自主的にやってくれてることだもん。謝んないでよ、正親(おおぎ)さん。僕を気にかけてくれてるのが、とても嬉しいんだ」

 

 そう。

 委員長、正親 正道(せいどう)は、興味のない事だろうとモチベを必要とせず、無限回の試行を普通に行おうとする。

 けれど僕のバフについて調べてくれているのは、前回も今回も変わらず、僕の為を思っての事だ。

 それくらい察せない程、僕は他者からの気遣いに無頓着じゃあない。

 

 同じパーティの仲間がどういった事を可能としているのか。

 彼は一体どれだけ、私たちの旅の助けとなれるのか。

 どれだけ安全にこの旅の目的を達成できるか。

 それをトカゲ討伐の頃の彼女は知ろうとしていた。

 

 けれど、僕を思い薬草を丸一日練ってくれていたあの日や、今日は。

 心優しく、責任感があって、自分ができる事を最大限精一杯やろうとする彼女が、完全に非戦闘員な僕を自分の力でどれだけ守っていけるかを知るために実験している。

 

 そんな大好きな人から向けられる暖かな気持ちを前にして、果たしてどのような文句が出てくるというのか。

 恥知らずにもヒモな僕にだって、捨てられない羞恥心があったって事。

 

 友情は言うまでもなく、親愛の情も見返りを求めない。

 しかし、もし返せる物があるのなら、きっとあなたはその大切な相手に何かを返したかったハズだ。

 だからその人の為ならば、骨を折るのも身を粉にするのも、ためらう必要はないだろう。

 

 

 

「……あなただけ、です」

 

 ぽそりと、委員長がこぼす。

 普段感情を外に出すことをあまり得意としない彼女が、まるで感極まったように。

 湧き出る情動がフチぎりぎりいっぱいまで溜まり表面張力を超えて、極まった想いが溢れてしまったかのように。

 涙を流しながら、苦しそうに僕に告げる。

 

「あなただけが、私を理解してくれる。みんなが言うんです。私はやることなすことズレていて、おかしな行動に取り憑かれ、的外れな目的のために血道を上げる。なんでそんな変なことをやるんだって、どうして普通に生きないんだって。クラスメートも、先生も、親も……みんな、みんな! 私がどうしてそれをするか、誰もわかってくれないのに! ……あなた、だけが……私の『やらなきゃいけない』という考えの、その根元を……上手く言葉にできない、私自身を……わかって、接してくれている」

 

 いや、でも、それは……それは、違うんだよ、委員長。

 ……僕は地球にいた頃、その人たちと同じだった。

 僕だって、こっちに来て、こんな職をもらったおかげで、ようやく……お話しできるように、なったんだ。

 

「ううん、いい。それでもいいの。どんな理由だっていい。あなただけ。あなただけが、私の世界の色」

 

 

「青海君……私は、あなたの事が……大好きです」

 

 そういって彼女は僕の胸へと飛び込んで、お互いの初めての唇を触れ合わせた。

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