【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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前回書きすぎたから、今日は普通。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【33】 銀の誓い

 たぶん、そんなに長い時間のことではなかったのだろう。

 けれど僕にとって、それは永遠にも似た永い永い瞬間だった。

 誰かにとって瞬きをするような刹那に、星の果てまで飛ばされるような衝撃を僕は受ける。

 

 僕の大好きな女の子の顔が、目の前にあって。

 そして、唇に何かとても柔らかく熱いものが触れている。

 

 ぼうっと熱に浮かされなにも考えられないうちに、彼女がゆっくりと顔を離す。

 

「……初めて、でした」

「えっと、僕も、そう、れす」

「ほんとに……? ……嬉しいです」

 

 潤んだ瞳でそう言った彼女は、思ったよりも強い力で僕を抱きしめる。

 しかし一方の僕はもう完全にポンコツになっていた。

 あたりまえやろがい。こちとらおてて握るのも照れちゃう初々しいティーンエイジャーだぞ。

 ファ、ファーストキスっすね……。

 甘酸っぱいとか聞くが確かにかなり酸味が強い。これは多分さっき委員長が製作中のポーション舐めたからやね。でもなんか、なんかそれだけじゃ……ない、かも……。

 は、はぇ〜〜〜〜〜……ド、ドキドキしてしんりゃいますぅ……。

 

「あ、えっと、あ、あの……正親さん」

「はい」

「僕もあなたの事が大好きです」

「……ありがとう。本当に、嬉しい……」

 

 それでも、これだけは伝えなければと、掛け値なしの本音を正親さんに伝える。

 僕は目の前の女の子のことが大好きで、彼女の為ならばなんでもやってあげたい。

 ただ、僕自身は……僕という生き物は、誰かにとって愛する価値のある物だとは、到底思えない。

 それは彼女からの愛を疑うのではなく、いやもちろんこんな僕を愛してくれるなんて状態自体が信じられないことではあるんだけど、どちらかといえば。

 僕が……彼女を騙しているに等しい話で。

 

 これをなんと伝えれば良いのか。

 フリーズした頭の中で、堂々巡りの考えが処理中のマークのようにずっと回っている。

 

「けれど、今すぐ付き合ってとか、私だけを選んでとか、そういう話はいいんです」

「へ……?」

 

 本当に、何も気にしていないように、ただ嬉しいという気持ちだけを満面に表しながら、彼女はなんのこともなさげにそう言った。

 

「今の状況で誰か一人だけと付き合うなんて、たぶん無理だって事くらい私でもわかります。そもそもが、私なんかがあなたにふさわしいとは思えない」

「ううん、それは違う。委員長はいつも一生懸命な、優しくて素晴らしい人だよ。むしろ僕が釣り合わない」

「……そういうトコです。それにですね、青海君。たった一人の彼女にならなくても……アナタはこれまでみたいに、私の事を理解して、愛して、笑いかけてくれるでしょう?」

「え、いや、それは当然だけど、え?」

「……私、あんまり顔には出せないけれど、これでもみんなの事もとても好意的に感じているんです。鹿伏さんや黒井さんと、今度南町の方にあるマーケットに行かないかって誘われてて……誰かと一緒に遊びに行くのなんて、初めてです。……私があなたを独り占めしたら、鹿伏さんが泣いちゃうし、黒井さんが怒っちゃう。先生は……なんて、言うでしょうか」

 

 僕がソレに足りうるとは思えないが、たぶん先生は好きな人に恋人ができたら祝福した後一人で泣いてしまうタイプだ。僕の大好きな人がそんな事になった姿を想像するととても苦しくなる。

 けれど努めて頭の中からその考えを消す。

 今僕は目の前の女の子から愛を告げて貰ったのだ。

 そんな女の子の事以外を目前で考えるのは、とても不誠実なのは言うまでもない。

 

「だから、いいんです。今そんな顔を見せているあなたが、どんな事で苦しんでいるのか……他人の心の機微に疎い私では、到底推察できそうにないんです。でも、だから、私の事では苦しんで欲しくありません。いわゆる、なんと言うんでしたっけ……そう、都合のいい女、なんて表現をすると、あなたをもっと苦しめてしまいそうだから、こう言わせてもらいます」

 

「この穏やかな安寧のぬるま湯に、ずっと浸らせて欲しい。あなたといられる色彩の中で、私を生きていかせて欲しいんです。普段通り、今までと同じように、一生一緒に……私のワガママ、聞いてくれますか?」

 

「……うん……それは、うん……でもね、正親さん。本当に、本当に嬉しいんだ。僕はこんな風に誰かから、愛の証を貰ったことはないから……はじ、初めてなんだ……キスも。だから、本当に嬉しいよ……え? 一生?」

「……そう、ですか。それは、とても」

 

 とても、喜ばしいことです。

 

 そう言って涙を拭った彼女の顔は、まるで初めて欲しい物を手に入れられたかのように、輝いた笑顔を浮かべていた。

 すると、僕と彼女の胸の間に見た事もない銀の軌跡が繋がって、スゥとすぐに消えてゆく。

 ……はぇ?

 

 もう一度だけ僕のことを抱きしめ、耳元に口を寄せると「じゃあ、精算に行ってきますね?」と呟いて、完成したポーションを持って彼女は部屋を出て行った。

 

 

 え、これ、け、結局、どう……なったの?

 僕と彼女の間に距離は無くなったけれど、しかし、その関係性を表す言葉を僕は思いつかなかった。

 

 こうして僕は、委員長と恋仲にならなかったのである。

 

 ……め、めちゃめちゃ意識しちゃうから普段通りでいれるかわかんないよ……。

 たぶん顔合わすだけで毎日真っ赤になっちゃうな、これは。

 あと一生って言わなかった? え、聞き間違い? てか銀色の奴はなに……? 

 なにもかもが起こり無尽蔵な情報が流し込まれた為、情報が完結せず行動不能に陥った僕は、彼女が帰ってくるまで動く事もできないのだった。これが現代最強の呪術師の力……。

 

 

 

 

 

 

 その後、なんか銀貨4枚をもらってギルド前で手を握って見つめ合って、最後にもっかいキスを受けて解散となった。

 もちろん周囲からは拍手喝采に口笛、その場にいた知り合いにはアオミコールまでされている。次の南町での飲み会では何言われるかわかんねーな。

 が、それからの記憶はほとんどなく、僕はほとんど無意識のまま宿屋へと帰って食堂の椅子に座りボーッとしていた。

 何も考えずただ思い出し、時々自分の唇に触れる。うーん、前と変わらん。クリア済みステージみたいに『CLEAR!』とか書いといてくれないともしかしたら夢なんじゃないかと思っちまうよ。

 

「あ! 先輩! なにしてんすか! 暇ならマギーくんとヨグちゃんと一緒に遊びましょうよっスよ! 今一旦おやつ休憩でぇー……んー?」

 

 最近仲のいい近所の子供たちと遊んだ帰りらしい鹿野ちゃんが、大玉雛型の鈴カステラのようなおやつを片手に僕の隣の席に座った。

 ただ、僕が気もそぞろな事に気付くと、どうしたのかと顔を覗き込んでくる。

 おっと、目の前の人間に対する対応が悪くなっちまうのは良くない。

 反省して切り替え、視線をそちらに向ける。

 

「あ、あぁ、ごめんね。ちょっと今考え事してて……んむっ」

 

 視界いっぱいに目を閉じた鹿野ちゃんの顔があった。

 唇に、本日三度目の柔らかな感触。

 

 ……へ? あ、甘……。

 

「委員長先輩だけズルいっスもん……ウチだって、センパイとキスしたいっスよ……」

 

 ぽよぉ……。

 ヘルパーからの鈴カステラ口移しによってヒットポイントが回復した僕は、脳がプラズマをコピーした時のように完全にスパークして気を失いかける。

 めちゃめちゃやーらかいし、そして委員長よりも強く押し当てるからちょっと口内も触れ合って、僕らの唇の間に銀の糸が引いていた。官能小説以外では見ない表現だ。

 

「ど、ぼ、ど、な」

「え、えぇ!? いや、そりゃセンパイが好きだからっスよぅ……言わせないでくださいよ、恥ずかしいっスぅ……せ、センパイは嫌……じゃないみたいですね、良かったっス! で、でも……えへへ、そんなに喜ばれると照れちゃいます……んひひ、おいしっ!」

 

 もはや喋れていない僕の言葉を100%テレパシーで読み取り問題無く会話を続ける鹿野ちゃんは、テレテレと顔を赤くしながらも嬉しそうに僕の肩に頭を預けておやつの続きを食べ始めた。

 彼女のほっぺに付いた食べカスを取って食べながら、僕は今なにが起こっているのかを考える。

 

 ヒ、ヒモの力が変な電波とか出してんじゃないだろうな……?

 いや、それにしても、これマズいんじゃないか。いやマズいだろ、だって僕は委員長ともキスしたのに、鹿野ちゃんまでキスしちゃったら、これ浮気……いや、付き合ってはいないが……え、でもそれどうなの……?

 

「んー、ウチは別に気にしないッスよー? だってセンパイは委員長先輩の事も好きっスもんね? じゃあ問題無いっス! みんなとずっと一緒にいられるのが一番ッスよ、ね?」

「え、あ、うん……それは、そうなんだけど……」

 

 今まで見た事が無いような、妖艶とすら表現できる微笑みを浮かべた鹿野ちゃんの胸へ、僕の胸から銀の軌跡が放たれて二人が繋がる。

 それを愛おしそうに受け入れて、彼女は僕の胸を優しく撫でる。

 

「センパイと一緒に居ると、本当に幸せな気持ちになれるんだから。みんなが好きになるのも、しょうがないッス。それなのにウチ一人だけが取っちゃったら、みんな怒っちゃうと思いまス。だから〜……そうだ! 毎日みんなとキスしたら平等で良いと思うっすよ! ウチは天才っスねぇ」

 

 んじゃ、晩ごはんまで遊んでくるっす! と言って、鹿野ちゃんは照れ笑いを浮かべ僕に手を振ると、飛び跳ねるように走り去って行った。

 

 笑顔で手を振り返しながら、もう何がなんだかわかんない僕は、一旦どうしようもなくなったので自室に帰りベッドへと倒れ込んだ。

 頭が熱いのは考えすぎの知恵熱か、エッチな事をしすぎのエッチ熱かのどちらかだろう。ダメだ思いつく事すら馬鹿らしすぎる。

 しかしそれも当然の話だぜ。

 今や僕の中の初心なねんねメーターは完全にMAX振り切ってレッドゾーンに突入済み。ずっとガリガリと耳障りな音を立てて危険域にある事を教えてくれているんだからな。

 なんでガイガーカウンターと同じ方式なんだ……?

 

 

 も、もう僕わかんないっス〜〜〜〜〜!!

 お、お、お、女の子ってこうなの〜〜〜〜!?

 

 僕はすぐに魅力的な人を大好きになるが、その人が僕を大好きになってくれる事があるなんて可能性は、一度たりとも考えたことがなかったのである。

 やはり僕は人とのコミュニケーションが苦手なままなのだろうなぁ……。

 

 浅い眠りに落ちながら、異世界に来たって人間はそんなにすぐには変われない事を再認識するのであった。

 

 

 目を覚ますともう外は真っ暗で、テーブルを見ると書き置きとともにご飯が載せられていた。

 どうやら先生が置いていってくれたらしく、なんでも『とても疲れて眠っているようだったので晩ごはんは置いておきます』との事。カ‑チャン……。これには僕も思わずタケシだ。

 

 いやまた迷惑かけちゃったな。

 スライムの被膜でできた食卓カバーをどけてサンドイッチを食べながら、僕は今日の事を思い出し頭を悩ませる。

 うーん……ウマい……どうしようかなマジで……ウマい……。

 なんでも美味しく頂くのが僕の美点ではあると思うのだが、こんな時まで律儀に味に集中する神経にウンザリしつつウマい。もう駄目だ治らんこの性分は。

 

 こうして独り頭を悩ませていても答えが出ることは無いと察した僕は扉越しに先生へ感謝だけ告げると、信頼の置ける仲間たちの元へとひた走るのであった。

 

 

 

 酒場につくと方々から声がかかるので挨拶を返し、いくつか埋まったテーブルの中から、男性のみで構成されなおかつ口がまぁそこまで軽くない人たちの集まりを選出。

 もっとも適したであろう冒険者パーティ一団のテーブルへと腰を下ろした。

 

「あん? アオミがワシらに相談? ワシらがするんじゃなくか?」

 悩みをねだる事無いでしょ。いやーちょっとさ、僕じゃわかんない事があってさ。

 

「ほぉ、いーじゃねぇかよ。いつも相談乗ってもらってんのはこっちだからな。たまには俺らだって頼りになるとこ見せてやんなきゃ先達の面目が立たねぇ。で、なんだ? ギルドと揉めたか、難儀な魔物の討伐か、依頼主のわがままか。あ、金は貸せんぞ」

「兄さんじゃないんだから金は大丈夫だろうさ。なんてったってアオミはヒモだからな。無くなれば女から貰える、そうだろう?」

 あ、実はその女の子について悩みがあって。

 

「「「「じゃあ無理だ」」」」

 

 覇剣と強弓のマグニフィス兄弟、丘割りのムガク、パーティ:ボールバールに所属するハインリッヒが全員口を揃えてそう答える。

 

 いやいやいやいや! ちょっと話が違うじゃん! ま、まずは内容だけでも聞いてよぉ!

「あのなぁ、俺らがいつもお前に女の相談してんだろうが。指導教官から剣術の相談受けても答えらんないのコッチは」

「そもそもアオミが相談したいって、どんな難題なんだって話っしょ。……子供できたなら潔く身を固めろよ?」

 

 だーからさぁ、僕はまだ清い身体なワケよ。接触無く子供ができたらそれこそ神話の物語じゃん。

「それが信じらんないんだよな……なんであんな人の心読むみてぇに悩み解決するクセに、まだ童貞なんだ? 今度イイトコ連れてってやるよ」

 

 それは後で詳しく聞くとして。それが……あの、今日、大好きだってキスされてさ。

「「「「おおおお!」」」」

「オイオイ惚気か? まったく独り身にむけて大した嫌味だぜ」

 でもなんか付き合うとかじゃないみたいな話で終わっちゃって。

「「おぉ……?」」「まぁそういう事もあるか……?」「詳しく聞かないとわからんな」

 

 で、その後別の子からもキスされてさ、毎日みんなとキスすれば解決っすって言われたんだけど……どうしたらいい?

「「解散」」「おつかれ」「もう寝るか」

 

 みんな酒を一気に空けると、代金を机に置いて席を立とうとするので追いすがる。

 頼むよ〜! ここ奢るからさぁ〜〜!!

 

「ガハハハハハ!! 稀代のバクチ打ちヒダル様のご登場だぞぉ! 今日はお大尽だぁ!! タダ酒を1杯ずつ食らいやがれ!!」

「銀貨30枚スッたクセによく言うよぉ」

「銀貨5枚の勝ちには変わりないだろうがぁ!!」

 

 と、そこにヒダルさんとサーシャ姐がご来店。

 あ、二人ともおつかれ〜! え、なに? あの後30枚負けたの!?

 あえなく僕の相談は流れ、ヒダルさんの武勇伝を聞きながらみんなで野次を飛ばすのであった。

 僕もついタダ酒に誘われそっちに行っちゃった。こういうトコがヒモ。でもタダで飲めばみんなの負担が減ると思ってぇ……。ヒモの二律背反だ。

 

 てか結局悩み解決してないんですけど〜〜〜!!

 騒がしくも楽しい夜会の中で、僕の叫びがむなしくこだまするのであった。

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