【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
※投稿後、やはりどうしても気に入らなかった部分があり前半部分訂正。ここすきがズレないよう調整しました。
誰に相談しても「処置無し」と諦められ頭を悩ませた僕はついつい深酒をしてしまい、しこたま飲んだあと宿屋にほうほうのていで帰り着き泥のように眠った。
で、短い睡眠時間の後にあくびを噛み殺しながら、朝ごはんをみんなととっているのだけれど……。
「青海君」
「……はぃ」
「昨夜の夕食の席で二人からお話は聞きました」
なんの話を? と聞きたいが、ここで聞くと目の前の先生の手によって宿屋から叩き出されても文句言えないので素直に頷いておく。
昨日何が起こったのか僕自身でもよくわかってないんだって。
ホントになんの話が成されたか聞きたいだけなのに、どうしてシラを切るみたいになっちまうんだ?
常日ごろからなぁなぁでハッキリした結果を出さずに生きてきたツケが、こんなところで回ってくるとはな。
「で、その後みんなと話し合って出した結論なのですが、とりあえずこの異世界にいる間はこのままの関係を努めて続けていきましょう。こんな危ない場所にいる状態で、みんながバラバラになりかねない抜け駆けのような軽挙は慎むべきだからです。みんな同じゴールラインへ至ればいいだけなのですから」
「は、はぁ……」
「なので、これからも普段通り。私を含めたみんなと、変わらずに接して癒やしてあげてください。いいですね?」
「えぇ、いや、そりゃ僕は良いですけど……」
「そもそもがあなたのバフ無くして、私たちの今の生活は成り立ちません。いわば大黒柱のヒモなのです。そう思えば私達は、あなたを中心とした家族みたいなものじゃない? とはいえ将来をそれぞれ誓った大事な人をみんなでシェアするのは、私もなんとなく不思議な気分ですが……そもそも教師なのでそこを考慮すると、ね?」
大黒柱のヒモってなに? てか僕魔車で無意識の内に将来を誓ってたんですか? そんな話をあんなみんないる場所でやったの? マジ? つかそれぞれ誓ったってどういう事?
ごめん僕ちょっと人心に疎くて今の話わかんないかも。
このままじゃ最後には手酷い裏切りにあい、信長みたいな末路を迎える事になるな。ヒモには過ぎた結果だしそれもええか……。
少し理解の追いつかない単語が羅列され混乱したが、つまるところ結果として僕は誰とも付き合えなかったという事でいいようだ。いやなんか将来は誓い合ってたらしいのだが……。
より重い話になってない? 何一つ解決しないまま更に段階を一つ飛ばしてしまった。誰がブーストかけろっつったよ。ピュアな恋愛がまたたく間に過ぎ去り複数の家庭に収まる事になってんのか? 大黒柱っつー表現もなんか生々しく感じちまう。
なぜかは不明だがみんなが僕のことをかなり好いてくれているらしいのは本当っぽいので、そこで一人だけが付き合うと人間関係が拗れてしまうんで誰も付き合わない状態でいくが、ただし確実にみんなと結婚はするって話だと推測される。
……? どういう事? 改めて言い直しても全然理解できん。まだトクサネシティの白い岩を300回調べたらジラーチが出るって話の方が現実味がある。なお出ない。
とりあえず、将来の話は将来の僕に何とかさせるとして、今現状の彼女たちへの対応やケアを考えるのが先だ。こうやって問題を先送りにした結果が今の僕だってのに反省してやがらねぇなコイツ……。まぁ今はそんなことええか。
みんなシェアするとは言ってくれてるが、しかし好きな相手が他の異性と触れ合って良い気がするハズはねぇだろ。
あんま良くないぜ、そういう流れは。単にみんなそれぞれに気を遣っての事なんだろうが、そういうのは長続きしないのが目に見えている。
たぶん聖先生は仰ったとおり教師と生徒だから他のメンバーに引け目を感じ、委員長や鹿野ちゃんは昨日言ってた通り、目黒さんも自分なんかが……と卑下したんだろうなと彼女の性格から推測できる。
僕に当面できる事は、それぞれと触れ合う時できるだけ互いの目に入らないようにするくらいのものだろうが、なにがしかの解決策を講じておかなきゃならんな……。ま、間男なのか……僕は……?
なんでこんな浮気者の心得みたいなのをこの年で習熟しなきゃいけないんだよ。ちょっと流石にカルマが過ぎます。
しかし、本人の気質ゆえ仕方ないとはいえ、目黒さんは自信がなさすぎるな。
僕と秤にかけたら、あまりにも貴重度が違い過ぎて塵より軽い僕が第三宇宙速度を突破し、地球の重力圏を突き抜け太陽を貫いて星系に破滅をもたらしてしまうっつーのに。つまり白亜紀大量絶滅の原因は僕。
存在するだけで人類への功績となる彼女の尊さを知る僕からすれば歯痒い話だぜ。
これからも彼女とお話しする中で継続して想いを伝えて、認識を改めていってもらうしかないだろう。
こういうのは一朝一夕でなんとかなるもんじゃねぇ。
彼女が少しずつでも自分が好きになれるよう、僕が丁寧に裏打ちして手伝ってあげられるなら、そんなに嬉しいことはないやね。
そう思い目黒さんへ視線を向けると、彼女はビックリして何かの卵のスクランブルエッグと何かの乳から作られたチーズっぽい物を乗せたパンを取り落としそうになった。マジで何もわかっていない、僕らは雰囲気で飯を食っている。
そうしてわたわたと慌てた後、たぶん顔を真っ赤にしてひらひら大きな手を振ってくれる。かわいすぎる。
めちゃめちゃフィジカルでマジでプリミティブで狂うくらいフェティッシュですよこれは。
「わかるッスよ、目黒先輩はかわいいっス」
同好の士である鹿野ちゃんも深く頷きこう言っておられます。
すると本気で照れた目黒さんが『めっ……』て感じで、人差し指で鹿野ちゃんの唇を塞ぐ。
え、すご……て、天国……? あまりにも完成した光景に、見事これを視認した僕の視神経に脳内でピューリッツァー賞が授与された。
「で、話は変わるけど冒険者ギルドから私達に依頼が来たのよね?」
「そッスよー! なんかウチらってスゲー凄いの倒してめちゃめちゃ強いって話題らしくてぇ、どっかの偉い人が困ってるからなんとかしてほしいって話らしいッス!」
なるほどな、だいたいわかった。
魔王の走狗を2体討伐したパーティとして、僕らは順調に名を馳せ始めているらしい。まぁ自然とそうなったのか、ギルドがそれを喧伝してるかまでは知らないが。
で、方々へと伝言ゲームがされたその先にて……お困り事をお抱えになった尊き身分の御方のお耳に入った、と。
……あんまり喜ばしい話ではねぇかも知れんな。
僕らは別にこの異世界で栄達したいわけじゃない。
安全安心で普通に地球に帰れるなら、ぜひそっちのルートを選ぼうっつーZ世代なんでね。
無理難題言われたり、難癖つけて奴隷にされたり、下手すると処刑されたりしそうだから、あんまり青い血とは関わり合いになりたくないのだ。
さてはて……どうしたもんか。
つっても詳しい話を聞くまでは判断のしようがない。
断れるかどうかもわかんねーんだもんなぁ……。
酒場のメンバーから聞く限り、この異世界の貴族ってのは昔の地球と変わらずピンキリっぽい。
そりゃそうだよな、人間てのは全員個性が違うんだ。一人残らず性根腐ってますなんて事は普通であれば起こり得ない。
けれど、高い位が人を腐らせるってのもまた世の常さ。
結局警戒をしてし過ぎるという事はねぇ。
ボゥギフトは皇帝直轄地なので、形式上代官として貴族が収めているそうだ。
たしか名前はヘイルニヒト家だったか。
えれー高位貴族だったとは思うんだが、詳しい爵位までは覚えてねぇ。
猪獣人で当代の当主も武人気質。金勘定や政なんかは苦手だが、むしろだからこそボゥギフトを任されている。
ココは下手に手を入れず、奔放に発展させてこそ価値があると皇帝が思っているからだ……ってのは、べスピムさんの弁だ。
あの人錬金術ギルドの職員ってだけあって、上の事情に詳しいんだよなぁ。
「なるほど……じゃあ鹿伏さん、黒井さん。後で青海君と一緒に、詳しい話を聞きにいってくれる?」
「もち了解っす! 冒険者ギルド行くまでって何個も屋台あるんスよセンパイ! 今から何買うか考えなきゃッスねぇー」
しかしヘイルニヒト家が依頼をしてきてるかも不明だ。
さてはて、どんな難物がどんな無理難題を片手に、僕らへお声をかけてくださったのやら……。
せいぜい先生の逆鱗に触れないでくれる相手である事を願っておこうかなァ?
迫る難事にむかい僕は不敵な笑みを浮かべながら、朝ごはんを食べてる最中におやつの事を考える鹿野ちゃんへ、自分のスクランブルエッグを分けてあげるのだった。
おいしい? ん、よかったねぇ。それはそれとして今日のおやつはお芋団子の気分? じゃあ行きに買ってこうか。
冒険者ギルド。
統括ギルドから鹿野ちゃんと目黒さんが割り振られた場所で、その名の通り冒険者たちに仕事を斡旋したり解体した魔物を買い取ったりしてくれる公的機関だ。
西町にあるせいで僕もまだ来た事が無かった。
普通に馬車乗んねぇと来れない遠さだからな。
こっちの飲み屋の情報はいくつも聞き及んでいるから、一度は足を運びたかったんで丁度良い。
で、そういう人たちが集まる場所だから、治安も他のギルドに比べ悪いハズで、確かに相応にガラの良くない人たちばかりなのだが……。
「お、カノさん、その人が前言ってた人?」
「そうッスよ! この人こそウチの激ツヨセンパイ、青海センパイっす!」
目から頬にかけて傷跡のある、大きな剣を背負った冒険者と、彼女は気負いなく世間話をしていた。
なんかとんでもねぇカマし方をしてくれちゃってるようだけど、鹿野ちゃんはそれなりにうまく馴染めてるようで僕は安心する。
話しかけてきた冒険者さんに聞けば、最初の方はやっぱり子供じゃん大丈夫なのか? って感じだったらしいが、トロールを倒してからはレベルアップの恩恵もあり実力を認められ、リッチキングを討伐した今や期待のルーキーらしい。
へへへ、見る目あんじゃん。好きな人が認められてて自分の事のように嬉しいぜ。
まーそらそうよね、鹿野ちゃんめちゃんこ強いし、意思表示がハッキリしてるから案外こういう人たちにはウケが良いのかもしれない。
地球とは違い、こちらの世界では“強い“という事はそれだけである程度尊重される。そこが良い方向に働いたのだろう。
ちなみに僕はその点カスなので、他の方法でなんとか挽回している感じだ。先輩なのに情けなくてやんなっちゃうね。激ツヨじゃなくてすまない。
なんにしろ、コミュニケーションを取る先が僕ら元地球組以外にもあるというのはよいことだ。どうしても狭い範囲しか交友がないと詰みやすい。
地球にいた頃友達が教室内に一人もおらず、寝たら誰にもノートを見せてと頼めなかった僕が涙を流しながら言うのだから間違いない。
このあふれる雫が真実の証拠だ。
刑事さん信じてくださいよ、ウソをついてる奴がこんなにキレイな液体を流せますか?
存在もしない刑事に架空の詐欺事件の犯人として取り調べを受けているのは、単にぼっちだったというあまりにも悲しすぎる現実から目を逸らすために行われる心の防衛機制だ。見逃してほしい。
委員長に関しては、錬金術ギルドにて受付嬢が面倒を見てくれている節があった。
おそらく錬金術士という職種がそもそも職人気質で、寡黙だったり頑固だったりする傾向にあるのだろう。
そんな人たちとも円滑にコミュニケーションを取るよう、ギルド側としても積極的に関わる方針のように感じた。
あれなら時間さえあれば委員長にも、ギルド内で話す相手はできると思う。
で、先生はそもそも自主的に教会に足を運ぶくらい社交的な人なので、こっちは問題無し。
一番気がかりなのは、ここでも鹿野ちゃんの後ろで立って会話を眺めているだけにとどまる目黒さんなんだが……冒険者さんも物静かな人だとわかっている感じで、別に避けられたりしている様子はないのは一安心か。
能動的に会話を開始したり発展させたりはしていないようだが、そこは僕が気を配ってまた今度現地の人との交流の場を設けてみるしかないだろうな。
今までの感じを見ても、僕が付いて滑り出しを補助すれば、そこからはなんとかなりそうなんだよね。
いつか外れる補助輪として、張り切ってサポートさせてもらおう。
などなど考えていると、話を通した受付嬢さんが奥から帰ってきた。
「お待たせしました、こちらへどうぞ。たまたまもう一組のパーティの方も来られておりまして」
あ、やっぱり? どうやらこの依頼はまたも合同での依頼らしい。
リッチキング討伐パーティへの依頼ということだったのでその可能性も考えていたが、鹿野ちゃんの話には登場しなかったので判断は保留にしていたのだ。
たぶんだが鹿野ちゃんにとっては当然のことだから、話に出さなかったのだろう。
仲良しな人たちと一緒におでかけするのは当たり前だからな。
自分の事を考えていると察知した彼女がてててと近寄ってきたので、思わず頭と顎の下を撫でてしまう。
おっとペコの癖が……でもキャイキャイ言いながら喜んでるしええか。
「んへへー! 愛い奴よッス」
それを言うのは僕やね。愛い奴愛い奴。
「おや、そちらはお三方で来られましたか。仲も良さげで羨ましい話ですねぇ。私は一人寂しく待ちぼうけだったもので」
「ごめん、待たせちゃったかな」
「いえいえ、待ち合わせより早く来たのは私なので……なんて、冗談ですよ。まさかまったく同じ時間に来るとは、これもなにかのご縁かも知れませんねぇ」
通された応接間には、やはりというか小金井さんの姿があった。
おそらく明星先輩は聖女としての用事、悪王寺先輩は以前の調査のように商業ギルドからの依頼で別件で動いているのだろう。
たしかに、思い返せば僕らはわりといつも集団行動しがちだな。
たぶんパーティに先生が居るから、そこら辺の感覚が学生から変わっていないのかも知れない。ま、それはそれで悪いことじゃあないが。
「おっと、そうだ。青海先輩、こちらを……」
お、何? 何かくれるの?
渡された小袋を開くと、中には銀貨が一枚入っていた。現ナマじゃん!!!
ワ、ワイロ!? あまりにも実弾過ぎる。僕に渡してどうすんの!? 渡すならギルドの方じゃない!? いやそれはそれで問題になりそうだけど!
「なに、今から商談ですからねぇ。バフをかけて頂きたいのですよ。いわゆるゲン担ぎや願掛けみたいなものです」
僕を神様かなんかだと思ってねぇか?
しかし、なるほどねぇ、ゲン担ぎか。
そう言われると納得してしまう。
何故かっつーと商人ってのはそういう人種だからだ。
彼ら彼女らは手を尽くしたがる。己のできることはなにもかもをやりきりたいのだ。
人事を尽くして天命を待つって段になっても、その天運の領分にすら改善の余地を探して手を伸ばしちまう。
自分の思いつく全ての手を打った果てにこそ、算出しうる積の極限があり、星の数ほどある枝分かれした結果の中の最大値を引き得ると考えている。
どの様な結果であっても、もっと良いリザルトがあったのではないかと考えずにはいられない鮮烈なまでの欲望。
それが突出した商人にはたしかに在る。
バ先の店長がそうだった。
ずいぶん世話になったが、しかしこんだけ無断で休めばクビになってるだろうな。
勘違いしないでほしいが、僕はべつにその膨大な欲望を悪いとは思っていない。
なにかを求める力ってのは、そのままバイタリティに変換される燃料だ。
僕らみたいな原付きエンジンじゃ到底出し得ないF1カーじみた出力を、こういう人たちはほぼ常に発揮する。
サボりグセのある怠け者としては見習いたいとこだね。
しかし、ひとつだけ言っておく事があるとすれば。
「わかったよ。ただもう本当に気にしなくていい。あの事はあの場で完結した話だ」
「……おやおや、そういった意図は無かったんですがねぇ」
顔色一つ変えず、言われてから気付いたような素振りをするが、ただやはり普段とは会話の間が違う。
どうもいまだに命を助けられた事を気にしているらしい。
もちろん命は金で購えない。
マスターカードでも買えない事があるのは、商人である彼女が一番よくわかっている事だから、それを気にするのはもっともだ。
けれど、無償の献身ってのもこの世にはたしかにあって、それはきっと当たり前に彼女の隣にも存在するのだと、いつか理解してくれれば……。
黄金の軌跡で繋がった彼女を見ながら、僕はそう考えずにはいられなかった。