【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「すまない、待たせてしまったかな」
僕が小金井さんにゲン担ぎという名目の下養ってもらってすぐ、扉が開き冒険者ギルドのギルマスが入ってきた。
いやいや全然待ってないっすよ。
ここのソファは良い毛皮使ってるだけあって柔らかくて座り心地がいいもんで、鹿野ちゃんが跳ねようとするのを止めるのに必死だったからな。
こちらのギルドマスターは……ごめん、なんだ? 何の獣人かはよくわかんない。
たぶん地球の生き物で言えばサイが近いと思うのだが、しかしその表皮は黒紫に染まり、紫に輝く立派な巻き角が頭の両脇に二本生えている。
仕立てのいい服が彼の放つ異彩を、しかし柔軟に受け止めて気品へと調和させている。だからこそ、そんな暴力的な容姿にも関わらず柔和な印象を抱くのだろう。
金持ちの着る服ってのはすげえもんだぜ。僕なんか何を着ても貧相なガキにしか見えないと評判だ。馬子にも衣装の故事は、しかし馬子より下等なヒモには当てはまらんのかもね。
なんかアレだな、人間に対して言っていい事なのかは分かんないが、何に似てるってFFのベヒーモスっぽいっすね。
似てる人聞かれてベヒーモスを挙げるのは相当良識を問われる発言だが、しかし他にいい例えが思い浮かばないのだからしゃーない。本人には言わないでおこう。
「私の名はヴォルバレイ、冒険者ギルドにてギルドマスターをやらせて頂いている。君たちの噂はかねがね聞いているよ。ギルドへの登録から間を置かず二体の魔王の走狗を討伐した、新進気鋭の冒険者パーティ。教会にいたっては人類の希望とまで銘打って君らの話を広めている。そして今君たちを目の当たりにして、その風聞は間違いではなかったと理解したよ」
鷹揚な態度でソファから半身を乗り出して、期待や好意をこちらに感じさせようという姿勢が見て取れる。
ずいぶんな持ち上げようだが、「そんな大それた者では」とは僕は言う気がない。
なぜならこの功績は僕ではなく僕の仲間たちが作り上げた物であり、そして彼女たちの我が身を顧みぬ勇気がこの都市を救ったのは紛れもない事実だからだ。
僕は凄くなくてもさ、僕の仲間たちはすげーんだよマジで。
うちの父ちゃんパイロットって自慢するガキみてぇなもんさ。それでもパイロットやってる父ちゃんがすげぇのは間違いねぇからな。
へへへ、流石はギルマス、名伯楽だ。ウチのメンバー凄いでしょ? 自慢の仲間なんすよ。ココにいる3人も含めてね。
「あぁ、そうだな。掛け値なしに良い練度だよ。で、そんな君たちの活躍をお聞きになったさる御方が、どうしても君たちの力を借りたいと仰せでね。今回の話はそのご依頼を受けてもらえないかという君たちへの打診だ」
「えぇ、えぇ、この度は良いお話をありがとうございますヴォルバレイさん。我々としましても、尊き身分の御方からのご用命など身に余る望外のお話です。ぜひ前向きに検討させていただきたい」
僕の軽口を皮切りに、本題へと移ろうとしたギルマスに小金井さんが見事にインターセプトした。
長い銀の馬の尾を振りながら、彼女は大袈裟にすら見える身振りで彼へと語りかける。
身なりや髪型を含めて、それら全ては他者の目を引きつけるためのものだ。
注目を集めたいというよりも、自分という者の存在を人に認知させるのは商売のいろはのいだからな。
そして交渉事の基本のきは、一方的に主導権を握らせないことだ。
べつに『むこうに話続けさせるな、都度都度茶々を入れろ』っつーワケではなく、こちらの顔色を窺わせる意識を忘れさせちゃいけない。
話を聞くのではなく、会話をする。
互いに立場の違う個人として、落とし所を探ってかなきゃならないんだって相手にまずは思わせる。
もしもお相手が忘れちゃっていたならば、ドタマ掴んでしっかり思い出させてやる。
こちらにも意思があるって事を、いやというほどキッチリと。
「……そうかい? そう言ってくれるなら、こちらとしてもありがたいよ」
「ですが、いえ、だからこそ。我々が果たしてお力になれるのかを、まずはあなたに確認させて頂かねばなりません。身分高い方々のお時間はとても貴重です。それを我々のような下賤な者が無駄に浪費させてしまうなど、どのように償えばよいかも想像がつきません。つきましてはそのお方のご芳名、望まれるご依頼の内容をお伺いできれば、と」
ゴブリンなんかなら一睨みで息の根が止まっちまいそうな眼光を、彼女は涼しげに受け流している。
既に話題の指揮進行は、小金井さんが執っていた。
これを聞かせろ、あれを教えてくれ。
投げる回数は同じなキャッチボールのハズなのに、返す場所も投げるボールも全部彼女が指定している。
ここからは権力と膂力と資金力と話力のシーソーゲームだ。
僕はせいぜいネット裏の観客として、彼女らの舌戦を肴にのんびり茶でもしばかせてもらおう。
……と、完全に観戦モードに入っていたのだが。
「あぁ、うん……いや、そうだな……あー、コガネイさん。こうしよう。私とあなたは敵ではない。いいとも、ざっくばらんに行こうじゃないか。言ってしまうが、私だってどうしてこんな面倒くさい相手の依頼を、私が庇護すべきギルドの冒険者や、ウチに所属もしてないあなた方に振らねばならないのかと気が滅入っているんだよ。そもそもあなた方は商業ギルドのお抱え冒険者で、しかも教会へと派遣されている食客の身分だろうに……。それがどう回り回ったら、ウチからキミらに話をつける事になるんだ? あぁ、いや、わかってる。わかってるさ。どうせ商業ギルドの上が面倒そうな依頼だと把握して、理由つけてウチに押し付けた上で金まで引っ張ろうってんだろう。複数のギルドや教会にまで所属が跨っているけれど、しかし冒険者パーティという名目で名が広まったから、ギギルガム家の方はウチに依頼を出したんだしな。断れもしないし押しつけもできない。まったくどうしてこんな事に……」
白旗を揚げるというより、武器を捨てて話し合おうとでも言うような感じだ。しかしそりゃ仕事の放棄でもある。
マジメそうなこの手の方がやるのはイメージと乖離があるが……ふむ。マジメ、ね。
ギルマスの口からとめどなく流れる愚痴に、顔色も変えず汗一つ流さない笑顔のまま、小金井さんが視線でなく意識でこちらをうかがったのがわかる。どうされますかのシグナルだ。
なるほどな、これは困ったっつー様子か。
『パーティみんなと、結婚を前提に、お付き合いしない』という他に類を見ないデタラメなルートにどうして入ったのか分からないくらい人心に疎く、なおかつ社会経験がバイトくらいしか無いので商売は甚だ門外漢なこの僕にも、今の状況が芳しくないことくらいわかるぜ。
小金井さん的には「恨まれない程度にかっぱいでやろう」くらいに思っていたのだが、ギルマスは既に全方向から嫌な仕事を押し付けられフラストレーションは最高潮。
開幕のジャブ程度の駆け引きを受けた時点で、冒険者たちとまで腹に一物抱えたやり取りをしたくないと居直りを決め、樽俎折衝でいこうやと誘っているワケだ。
相手が困っていようが何も持たなかろうが、小金井さんほどの商人ならば存在しないハズのタンス貯金まで諍いなく毟りとるのも容易だろう。
しかし、ここで問題になるのは、この治安の良くない異世界において僕らが社会的な力を持たず、なおかつ時が来れば安全な地球へさっさと帰れちまうという事だ。
ここでわざわざ喧嘩腰でふっかけて心証を悪くする必要は無いし、そうしたとこで得られる利益は少ない。
つまり下手をすれば地球に帰るという目的を達成できないまま、異世界の何処ともしれぬ荒野に死骸を晒す事になりかねない上に、デタラメに稼いだとこで持って帰ることすら叶いそうにないのである。
異世界から金銀財宝を持ち帰ろうなんて、海外の銀行口座や電子マネーに金逃しといたらなんとかなる実刑判決よりも難度が高いぜ。
だがもちろんタダ働きは勘弁だ。
生きていくのにはお足が必要だし、先生のお酒も委員長の細工物も目黒さんの草花も鹿野ちゃんのお菓子も金が無きゃ買ってあげらんない。
いい塩梅を探って金額を設定しなきゃならん。
そんなアセンション20じみた難題ばかりの悪条件下であろうと、もちろん百戦錬磨の商人小金井山算金にとってみれば物の数ではないのだろうが……しかし、今回は僕らのパーティを含めた依頼でもある。
相手に恨まれないようにっつー言葉の相手には、僕らも入っている。
つまりは独断で決めるには権限が足りない。
雇われの辛いとこみたいな苦汁を彼女に味わわせちまった僕の不覚を悔いながら、しかし更にもう一つ申し訳無さを追加させていただく事になる。
商談は商人の領分だが、疲れたオヤジから愚痴を聞き出すのは酒飲みの領分だ。
「いやはやそうでしたか……それはそれは、ギルドマスターという肩書を背負われるまでになると、やはり気苦労も絶えないんでしょうね」
疲れ切ったという風な、弱ってしまった顔のギルマスに、僕は心配するように声をかける。
しかしこれは別にフリってワケじゃあない。実際僕はこの人が心配なのだ。
なんてったって僕らはガキだぜ? 物も知らなきゃ思慮も浅い自分の仲間の力を過信した未熟な青二才だ。
そんな相手、普段の彼であれば指で弾いて吹き飛ばしちまうに違いない。
だが今はそれができていない。
小娘からの不意打ちじみた商人の口振りに、嫌んなっちまうような精神状態ってのはよくねぇ。
しっかりしてもらわなきゃ困るんだ、ウチの大事な仲間二人の所属してるトコの頭領なんだからさ。
「全くだよ……元々はキミたちと同じく、きままな根無し草として冒険者をやっていたのになぁ。いや、もう知っている人の方が少ないような、昔話にはなってしまうんだが」
「あぁ、やっぱり! いやね、この部屋に入ってからの足取りから感じるしっかりとした体幹、僕らの武器を確認する視線の動き。そして一線を退いてなお漏れ出るその威圧感……もしかすると、とは思っていたんですよ」
「ハハハ、若手のホープであるキミらに言われると悪い気はしないね。困ってる人を助け、求められる魔物を討ち素材を持ち帰る……それだけで良かった。その仕事をまっとうし、遠征終わりにいつもの酒場で酒をしこたま飲む。……充実していた黄金の日々だよ」
なるほど、やっぱり冒険者か。まぁそうだろうな。
体幹だの視線だのはあてずっぽうも良いとこだが、しかし威圧感はマジだ。
レベルが上がったヤツから漏れ出る存在感は、そこらの人間くんのソレとは物が違う。
実際これはウチのパーティメンバーにも顕著に表れている。
リッチキングだけを倒した小金井さんはともかく、トロールも倒しているこっちのメンツはマジで以前と段違いだ。存在としての圧がある。
僕はみんなが大好きだし、そんな相手から受け取るものは威圧感であっても嬉しいので、接するのも全然前と変わらないままだけどさ。
みんなちょっと強くなり過ぎじゃない?とは思っていたが、やはり相当にレベルアップしているらしい。
教会の魔法使いの中には人に宿る生命の精霊を目視で測れる人がいたのだが、彼曰く僕らは相当な強者と同じように見えているそうだ。
よく考えりゃリッチキングを倒す際に、鹿野ちゃんや明星先輩に委員長は無数のゾンビやスケルトンを倒している。
ゲームじゃねぇから召喚した魔物はノーカウント! みたいな事も無く、すさまじい量の精霊が宿っているらしい。
ちなみに僕へ宿った精霊はみんなと同じくらい多いが筋力や持久力という形で表れていないとの事。
じゃあどこでなにしてるんですか?
……もしかしてという嫌な予感はあっても、言葉にすると精神がぶっ壊れるので口をつぐんだのだが、悪王寺先輩が「もしかして精霊まで働いてないの?」という一言で僕をぶち壊したのも記憶に新しい。この記憶はポケモンみたいに1 2のポカンで忘れらんねぇか?
話がズレたが、しかしギルマスが元冒険者なら話ははえぇ。
引退した冒険者は、共通して大好きな事がある。
もちろん地雷な場合もあるから、それは見極めなきゃなんねぇが……この言い草なら大丈夫だろうな。
「えぇ? そういうものなのですか? いや、こんな大都市のギルドを治める方ともなれば、忙しくはあれども、悠々自適な日々を送られているものかと」
「とんでもない! 仕事に仕事、また仕事。日が暮れても書類と格闘を続ける毎日さ。正直なところ、キミたちが羨ましいよ。なによりも大事なのは自由だと、喪ってから気付くものだ」
「はえぇ、そうなんですかぁ。いや、やっぱりご本人と話してみないと、ホントのところってのは分かんないもんなんですねぇ。ギルドマスターになってからは、何年ほどお勤めに?」
「そうだな、もうかれこれ……7年近くになるだろうか。まだ私も若いとは言え、しかしこんな仕事は冒険者よりよっぽど長くは続けられんよ。臆して安定を取り、この道を選んだハズだというのに……皮肉な話じゃあないか。近頃は飲む酒も半ばヤケ酒のような、現実から逃避して酔うためだけに飲んでる始末さ」
「おっと、それはいけませんぜヴォルバレイさん。そういう飲み方はストレスの発散としても悪手でさぁ。いやね、これは自分も偉い学者の先生から聞き齧っただけなんですが、どうも暗い気持ちで酒を飲むと、酒精が精神の負荷を増やしちまうそうなんですよ」
いやいや、マジだよホントの話。
前にネットでそんな内容をまとめサイトかなんかの記事で、聞いたこともねぇ大学の教授かなんかが言ってたのを見たような気がする。
つまり嘘はついていない。
あまり通信技術が進歩していないこの異世界では、こういう知識の共有なんてのはなされてねぇ。
昔から語られる口伝の民間療法くらいのもんさ。だからこそいくらでも言い逃れられるし、言いくるめられる。
ま、あながち的外れでもねぇと思うぜ。
これはこっち来てからの飲み会で周囲の人を見た上での経験則でもあるからな。
僕は毎回楽しい気分になるから未体験だがね。
「ほぉ、そういうものなのか? いやしかし確かに、二日酔いの後なんざ飲む前よりよっぽど心が重かったりするものだしな……」
「まぁ実際にそうなのかまでは学の無い自分にゃわかりませんけども、やはり酒ってのは大人数で明るく飲んでこそ常日頃の憂さを晴らしてくれるってもんでさぁ」
「む……そういえば最近は誰かと酒を飲むとしても、だいたい食えない狸親父どもと腹の痛くなるような仕事の話をするばかり……良くない、よな。そうか……憂さ晴らし……」
「最近はどこの酒場に行かれたりしてるんで? ……なるほど、時間も無いから大抵が自室で手酌。いや、もちろんお忙しいお仕事をされている方なのですから、それはしょうがない部分もありましょうよ。ですがね、たまには力を抜くのも肝要ですって。魔物との戦闘にだって緩急をつけてこそ、有効打をかましてやれるものじゃないですか」
「うむ、その通りだ。特に高位の魔物になるとな、狡賢くもブラフを読んできたりもする。そういう輩には、速さの違うフェイントを織り交ぜる必要があるものさ。実は私は双剣使いでね、剣速には少しばかり自信がある。こう見えて当時は獣王国に出た緑のファングドラゴンの翼を、切り裂いた事もあるんだが。……ヒヒェルニダス三世の緑竜討伐に呼集されたと言えば、君も知っているかな?」
「えぇ!? そうなんですか!? 実は僕らは田舎の出でして詳しくは……よろしければぜひそのお話しお聞かせ願えませんか! そうですね、いやこれは単なるご提案なのですが、少し場所を変えてお話ししません? なに、パーティの一員たる僕に依頼の詳しい話をするのもお仕事のうち。そして会談が食事の場で行われるなんてのは、よくある話じゃないですか。……えぇ、えぇ、もちろん、これはお仕事ですよ。ここは一つ、旦那が昔から通ってらっしゃるお店なんか久々に足を運んでみるのはどうです? いやね、僕は実は西町に来るのは初めてでして、ぜひこの町の良い店を知りたかったところなんですよ」
唐突にベラベラ会話を始めた僕とギルマスにぽかんとする小金井さん。
仕事を取ってしまい大変申し訳なく思っているのだが、しかし多分だがこういう状態の人にはこっちのやり方のが効くんだよな。
金勘定の話は後でちゃんと君を通すから、ここは一旦見逃して欲しい。
残念がりながらも、帰り道にどこに寄るかを目黒さんに相談する鹿野ちゃん。
あ、そうだこれ。行きに買ってたんだけど、パリパリ薄パンのお土産。甘いのの後は、こういうの食べたくなるでしょ? みんなで食べといてよ。ごめんね。
また明後日くらいなら一緒におでかけできるから、ね?
「お帰りは、遅く……なりそうです、か?」と新妻の如く聞いてくる目黒さん。
脳内で現状を咀嚼したら、想定外にあまりにも良いシチュで視線を交わせて二人して照れた。
「こういう事、を……毎日、したいで、す」と彼女が小声で言うので、僕もそんな風に一緒に暮らせたらすごく幸せだと思う、と黒髪の御簾越しに囁いておく。
じゃ、目黒さんと鹿野ちゃん。ごめんね、遅くなるから晩ごはんはみんなで食べといてね。
小金井さんもごめん。この後の内容は直接明日伝えに行くから、また午後時間空けといて。埋め合わせはまたするからさ。
三者三様な彼女らにささっとそれだけ告げると、吹っ切れたように受付嬢へ仕事で出てくると伝え威風堂々と飲み屋へと向かうギルマスを追いかけて、僕は正午の町へと繰り出した。
んじゃヴォルバレイの旦那、それでどこの店へ?
へぇ! 引退した冒険者の開いた酒場! いいじゃないですか、実は僕そういうとこが大好きでしてね。
この前も先輩の教えで中央街にある『跳ねる大玉雛亭』ってとこに、あ、知ってらっしゃる?
えー! あそこのマスターもお知り合い? あの店のソッシュのシュライロもバーガルと合わせるとめちゃめちゃに旨くて……えぇ、今から行くとこはもっと旨い!?
そりゃ楽しみな話だな~! 思わずお酒もすすんじゃいそうですねぇ!
……なんか今の僕、ヒモっつーかもう太鼓持ちじゃねぇか……?
勘違いして欲しくないが、僕の口から出るのは全て本心から発露する言葉だ。
疲れた人は癒してぇし、悲しんだ人は慰めたいもので、寂しい人とは一緒にいてやりたい。
僕はそうして欲しかった。だから、そうしてあげたいと思う。
相手の嫌がることはせず、望むことをやってあげなさいなんて、ガキの時分に親から教わることだろ?
僕は親の言った事に背いたことはねぇんだ。
なぁに、これもヒモにできる数少ない社会貢献さ。
なんせ労働の義務を放棄してるから、なんか人様の為にやってないと肩身が狭くてね。
随分と背の高さが違うので肩は組めないが、彼の勢いを削がぬように背に腕を回しながら、僕らは陽気に開店したばかりの『芽吹く大楠亭』へとなだれこむのだった。