【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「いや、娘がどうも迷惑をかけてしまったらしいな」
ヒート嬢よりもかなり人間種に近い格好の美丈夫グランダム・ギーラ・ドラゴルド・ドラコ・ギギルガムが、鷹揚に手を振り軽く苦笑する。名前なっがいっスねぇ! たぶん覚えらんねぇや。
当然だが頭は下げない。
先程のヒート嬢のはそれはそれで論外だが、これくらい傲慢なのが貴族の在り方なのだろう。
その地域の最高権力者は、自身の命のかかる場面であっても軽々しく頭を下げてはいけない。
それはそのまま、領地全体が償う問題になってしまうからだ。
実際僕は気にしてないし、他のみんなも小金井さんを除いておおむね好意的なので問題はなかろう。
小金井さんにしても、彼女こそ損得勘定のオーソリティなんだ。
禍根を残し後々莫大な損害となるやらかしをするハズがない。
「さて、突然の指名依頼に到着早々の呼び出し。礼を欠いた行いであることは重々承知。しかしそうも言ってられん危急の問題がある。その分報酬は弾むので許してくれ」
膝に肘をついて半身を乗り出した彼は、穏やかに微笑む。
いやマジで全然良いんですけどねこっちは。
こちらを尊重する意味を込めて行われるものなのだが、儀礼とか気にしてるのは結局偉い人だけだからな。
自分の格を落とさない為でもあり、あなたを粗雑に扱っているワケではないという意思表示でもあり、慣例でもある。
それはとても重要な話なのだろう。
けれどたかだか高校生でしかない僕らにとって、それは卒業式の練習くらい意味を感じないものなのだ。低俗でごめんなさいね。
「普段であれば時候の挨拶から入るところだが、御託はこれくらいにしておこう。今は少しでも時間が惜しい。今この時にも、数十年手塩にかけて育て上げた我が領地が、忌々しい鳥に啄まれているのだからな」
腹立たしげに眉間に皺を寄せ、彼は机に広げた極めて大雑把なこの街付近の地図を指先で叩く。
正確な地図は都市防衛の観点から、軽々と余所者には見せられないのだろう。
そこには襲撃箇所と襲撃があったおおよその日数が記されていた。
襲撃は4ヶ月前から始まり、多い時では週に三度も村や通行人が襲われた形跡が見つかっている。
あのデカブツが襲いかかると、商隊が通っていた道が特大ヴァニラ・アイスがガォンしたみたいに削れたり、恐らく動物が居たであろう森がクソデカザ・ハンドでギャオォォンされたみたいになるのだ。鹿野ちゃんを見習いオノマトペでお伝えしたがわかるからすげーな。
ただ、実際の襲撃はもっと多いと思われるとのことだった。
上手いこと食べられると、ほとんど痕跡を残さず地面に擦れた跡が残るだけの場合もあるらしい。
そうなるともはやお手上げだという。
……正直、僕が見た限りでは特に法則性を感じ取れない。
天空を遊泳しながら、気まぐれに降りてきて餌を食べる。
空飛ぶクジラくんが気ままに過ごしている事くらいしかわからない内容だ。
地図を囲む周りのみんなを視線だけで確認するが、みんな難しい顔をしている。
まぁ外様の僕らが突然現れて発見できる法則性なんて、目の前のお貴族様が考えてないはずがねぇ。
向こうさんもそれは分かっていたみたいだが、一応魔王の走狗を討伐したほどの冒険者ならばなにか感じるものが無いかと一縷の望みを賭けたのだろう。
と、思った矢先一人の顔を見て僕は眼球の動きを止める。
……誰も指摘しない辺り、きっと僕以外の人には普通の真剣な顔に見えているのだろう。
いや、それはそうなのだ。
彼女の表情自体はそうなのだから、みんなが正しいとすら言える。
なのに、どうして僕には小金井さんが、賭けに勝った悪魔のような……他者に破滅をもたらす笑顔を浮かべているように見えるのだろうか。
でも誰かを陥れる時の顔もイキイキしてて素敵だね。
ついつい僕もその悪だくみに入れて欲しくなる。仲間外れは寂しいじゃん。死ぬ時は一緒なんだから一緒に荷物を背負わせてくれよ。
「……ま、机上で情報を見ただけでは何とも言えまい。君たちは直に大怪鳥を見たそうだな。どうだったかね」
領主様の言葉に我にかえった。
理由は後で聞けばいい、今はこちらが優先だ。
鹿野ちゃんの顔を見ると、今までに無い真剣な顔ではっきり力強く頷いてくれる。
倒してみせます。だから、センパイは心配しなくていいっス。全部、全部ウチに任せて欲しいッス。
銀のオーラが繋がってから、強い感情であればバフがかかっていなくても通じるようになった彼女の心が、僕に呼応する。
なんとも、まぁ、頼もしくなったものだ。
こんな状況だというのに、彼女のたしかな成長に思わず笑みが溢れる。
「……正直に申し上げますと、攻撃さえまともに当たれば何とかなる相手だと思われます。ウチの砲術師が放った弾丸は、避けられて尾にしか当たらなかったとはいえ、痛手を負わせ撃退に成功しました。あれが頭や胴体に何発か入れば、ともするとヤツでも地に堕ちる事はあり得るかと」
「ふむ! 久しぶりに明るい情報を聞けて嬉しいよ。我が領の騎士団や冒険者たちではマトモに攻撃を当てさえできていないからな。あぁも高く飛ばれては、いくらなんでも射程範囲外だ。近づいて地面ごと獲物を呑み込む時にタイミング良く当てても、効いているのかいないのかさっさと空へと帰ってしまう。それに比べ君たちは、呑み込まれる前に追い返している。これは大きな違いだろう」
その言葉にヒート嬢が顔を歪ませるが、それは領主様には見えていないようだった。
おいおい、こういうのは遺恨が残るぜ。
子供ってのはガキの頃親から言われた言葉を、いくつになっても思い返しちまうもんなんだ。
フォローしようと口を開きかけるが、しかしそれは目の端に映った指の動きにすんでのところで食い止められる。
“このまま進めろ“
会談前に小金井さんと事前に決めていた通しの一つ。
ならまぁしゃーないか。後で僕からフォローしておけば問題あるまい。
“それもダメ“
えぇ……?
僕がダメ出しされる通しが2連続で来る事ある? これって相手が出してきた金額や提案を断る時のサインじゃなかったのかよ。
交渉役として荷が勝ちすぎている状況に自分の未熟さを再認識だ。
“そういうわけじゃない“
いやもう小金井さん鹿野ちゃんくらいテレパシー伝わってない?
それとも僕ってそんなに顔に出やすいタイプなのかな……これから賭け事でポーカーとかがボゥギフトで流行った時を思うと心配になっちまう……。
グランダム様は満足気に数度頷くと、机の上に置かれたベルをチリンとならす。
程なくしてドアが開き、ワゴンを押した使用人が入ってきた。
そのワゴンに載せられた重そうな袋を、彼はひょいと持ち上げ机に置く。
相応な重さを感じさせる音を立てて着地した袋の口から、数枚の銀貨がこぼれる。
……中身全部銀貨だったら、300枚近くはあるんじゃないかコレ。
突然出てきた帯付きの万札の束じみた金の魔力に、指輪外したアインズ様を前にした魔法使いのように震えてしまう。
こ、怖いめう……。
「前金だ。使いやすいように銀貨にしたから、必要な物はこれで用意してくれ。もしあの怪物をこの領から追い出してくれればこの5倍を……我が領内であれを討ち落し殺してくれたならば、10倍を成功報酬として出す。その場合怪物の素材はできればこちらで買い取らせてもらいたいが、必要な部位があるのならそれはもちろん持っていってくれてかまわん。あれだけのものだ、競売にかけても金貨で500枚は下らんだろう」
その時僕達に電流走る……! これはラウ爺さんのヤツじゃなくマジで比喩。どっちなんだよややこしいな。
き、金貨500枚ィ!? そ、それってつまり……何枚だ!?
1枚が300万くらいだろうっつー仮定のもと計算しても約15億円になっちまう! 宝くじの5倍じゃねぇかよ! だから空飛ぶクジラなのか!?
ちょっともうあまりにも日常生活からかけ離れた金額を弾き出され、目が眩むっつーか普通に目眩がした。
そんだけあったら何日バイト行かなくて飯食えるんです!?
僕がざっと1000人は買える金額だぞ! タイムセール狙えば2500人だ!
委員長は顎に握った手を当てて一人頭の金額で何日暮らせるかを計算し、目黒さんは露骨に驚いたコミカルな仕草で固まって、先生と悪王寺先輩は完全に目が¥の形になり、鹿野ちゃんは両手の指を凄まじい速さで折って伸ばしてを繰り返しなんとか500を数えようとした。
明星先輩はなんとなく現実味が無いからか、釈然としない顔をしている。ホントなのかぁ……?って疑ってる感じだ。
金貨500枚は一番上手く行った場合の話だとしても、普通の報酬としても追い返してどっかやるだけで銀貨1800枚だ。
これでも十分な一財産だし、そもそも僕らはめちゃめちゃに金がいるわけじゃない。
こんだけあれば魔王を誰かが倒すまでのんびり暮らしてもお釣りが来るだろう。
おいおい齢16にしてもうFIREか? 人生あがるには早すぎるぜ。
みんなは絶対に地球へ帰してあげたいが、こんだけあるなら僕はこっちの世界で暮らしても良いんじゃねぇかと思っちまうくらいの額だ。
お墓参りに行けなくなるのは悲しいけど、しかし心は常に僕とともにあるわけだし。
ただ一人涼しい顔をした小金井さんが黙っている事からも、まぁ迷惑料コミでこんぐらいだろうなっつー気持ちが伝わってくる。
マジかよ、こんな額の話になるなら先に言っといてくれ。足が震えてきちゃったぞ。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は顔色を随意的に少し陰らせると、申し訳なさそうに見える形へ表情筋を歪ませ口を開く。
「一つご領主様にお願いがあるのですが、この依頼が成功したならば今私どもが取った宿屋「黄金の湯殿」にて、二週間ほど宿泊させて頂きたいのです。いえ、なにしろ初めてあのバルツァンに来たのですから、往時の活気が戻ったこの温泉郷にて、人生の思い出にゆったりと過ごしたく……」
「ハッハッハ、畏まるからどのような難題かと思えばそんな事か。無論だとも。この依頼を成し遂げれば君たちは我が領の恩人だ。あの宿屋も、魔王の走狗に引き続きあんなバケモノを倒した英雄を歓待できる事を誇りに思うだろう。わかった、そのあかつきにはギルドにもしっかり言い含めて、のんびり過ごしてもらおうじゃないか。宿泊費も常識的な範囲ならこちらがもつ」
「そこまでして頂けるとは……ありがとうございます。これでより一層大怪鳥を倒す意欲が湧こうというものです」
小金井さんはそう言うと、打って変わって笑みの仮面を顔に貼り付ける。
その真意を僕らにすら知らさず、仮面の下に隠したまま。
そんな彼女に僕は図らずもキュンとしてしまう。ミステリアスな女性は魅力的だからな。峰不二子に惹かれるルパンの気持ちもよく分かるぜ。
「では、よろしく頼む。吉報を心待ちにしているぞ」
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「しかし山算金はココがそんなに気に入ったのかよ。オレも温泉や旅行はキライじゃねーけどさ、二週間もあんな高級宿に泊まってたら拒否反応で蕁麻疹出ちまうかもしんねーぞ」
帰りの馬車の中で、明星先輩は小金井さんにそう問いかける。
言われて思ったが、たしかにあそこに二週間は肩がこりそうだ……温泉だしマッサージのサービスとかあんなら受けてみるか? いやそれ凄過ぎるな。
高級宿が高級すぎて肩こったからマッサージ受けるって金持ちなのか金持ちじゃないのかわかんねぇよ。
贅沢し過ぎたら後々普通の生活を送れなくなりそうで怖いね。一度上がった生活水準はなかなか落とせないっつーし。
僕も賑やかな今から地球に帰ってぼっちの生活には戻れそうにないからな……。
寂しくて思わず同じクラスの委員長の席に弁当持ってって、一緒に食べようと誘っちゃうのが目に浮かぶ。帰郷後も迷惑かけそうだ。
「んー、まぁそうですねぇ。結構良い宿ですし、ギルドもたぶん達成後までは持ってくれないでしょうから。煽てて気分良くしてもらいつつも、ついでに経費削減ですよ」
そんな答えになってない返事をしつつ、小金井さんは僕を見据えた。
分かっていますかねぇとでも言いたげなその視線に、僕はちょっと後ろめたい気持ちで肩をすくめる。
他人の欲しい物をある程度は察せるといっても、彼女ほど深謀遠慮ができる方じゃないのは自覚しているんでね。
事実僕は彼女が求める結果は把握したが、なぜそれが必要なのかまではわかっていない。
要領の悪い生徒で申し訳ねぇや、失望されなきゃ良いんだが。
「とりあえず宿に着いたら、手分けして準備を進めましょう。流石に日が暮れるので今日は出れませんが、明日からは動き出したい」
「そうだね。言ってたとおりの計画で行くなら、まず冒険者ギルドへ魔車を数台手配してもらう組。僕らの御者はグレスタ兄だけど、他の魔車の分も危険を承知で運転してくれる人を探さなきゃならない。これはギルドとは別口でグレスタ兄からも探してもらっておくよ。んで次は魔車に載せる荷物を手配する組……できれば全て食糧が良いけど、この状況だからね。難しい場合は僕らの持ってきた食料を分散させ、ダミーで嵩増しするか。それに現場の情報も聞きたいし聞き込み組も欲しいかな」
こん中だと僕が行くべきはグレスタ兄への御者の手配依頼と、情報収集だね。
どちらもギルドで一括でできるし、ついでに魔車の手配もしておこう。
だから心苦しいが食料の手配だけ別働隊にお願いしなきゃかな。
「あとは来客対応組ですねぇ」
「来客? 誰か来る予定があるのかい?」
小金井さんのその言葉に、悪王寺先輩が不思議そうに首を傾げ尋ねる。世界三大名画の一つか?
完全にファンボとなっている僕は、その一瞬を切り抜き動画にして全世界へ布教したい欲求に駆られるが、推しのプライベートに踏み込むのはポリシーに反する為グッと我慢した。
「えぇ。来ますよ、間違いなく。ただこれは明日出発直前になる可能性もありますし、今日は私が宿に待機し一人で待っておきましょう」
まるで瞼の裏から未来を見通すかの如く、彼女は目を閉じて脳内で算盤を弾きつつ思案する。
些細な思考誘導やほんの少しの後押しによるピタゴラスイッチが、果たしてどのようにテキサスで竜巻を引き起こすのか。
その答えはまだ、彼女の脳内にしか存在していないのだ。
「なに、釣りも仕事もゆっくり待つのが肝要ですからねぇ……ひゃっ!?」
が、そんなシリアスな空気をまとう小金井さんの額に、鹿野ちゃんが人差し指と薬指を押し当てムニッと持ち上げ瞼を無理矢理開いた。
コラコラやめなさい。お仕事の邪魔はダメだよ。
「青海先輩なんてもうメロメロなんだから、そんな心配する必要ないと思うッス。それにウチも変わらず大好きッス、です!」
「……おやおや、それはそれは、えぇえぇわかりましたとも。肝に銘じておきましょう。……ありがとうね、鹿伏ちゃん」
脈絡が一切ない唐突な鹿野ちゃんによる僕の内心の暴露と告白に、しかし小金井さんは本当に嬉しそうに微笑んで、彼女の髪を優しく梳かした。
くすぐったそうにキャイキャイと身をよじる鹿野ちゃんは、まるでコーギーの仔犬みたいだ。
なんかよくわからんが行われる突然の供給に、僕と目黒さんはあまりのありがたさから拝ませて頂くのであった。
万病に効く霊験あらたかな仲良しっすよ。
ありがたやありがたや……。