【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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大難産でした、難しい。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【42】 分かち合う重荷

 宿に帰り準備を整えた後、言っていた通り僕らは二つのチームに分かれて行動を開始した。

 

 一つは魔車の手配、グレスタ兄への御者の手配依頼、情報収集をするチーム1。

 そしてもう一つは町に点在する商家と市場へと食料の手配をするチーム2である。

 

 チーム分けとしてはまずチーム1に僕、そしてチーム2に他の全員で別れる事と相成ったのだ! ……オイオイ、地球を思い出しちまうな? 先生とすら組んでないから地球より追い込まれてるみてぇだ。

 いや違う、いじめられているワケじゃない。マジでしょうがないんだって。

 つかむしろみんながチーム2から別れてこっちに着いて来ようとしたくらいなんだけど、やっぱむこうの仕事量を思うと大変そうだから申し訳ないと思いつつご遠慮させてもらったんだよね。

 むこうはその業務内容からいくつもの場所を回る必要があり多くの人手が必要だし、逆に僕がやる事はほぼ全てギルドで済みなにより手分けする程の用事が無い。

 唯一グレスタ兄んとこには行かなきゃだが、しかしそれも一番親しいのは僕なワケでさぁ……。

 

 誰に聞かせるわけでもない釈明で己の心を守りつつ、僕は急ぎ足でギルドへと向かうのであった。

 

 

 ギルドにてグランダム様から貰った免状を見せ魔車を2台確保してから、グレスタ兄の宿泊先へと足を運び掻い摘んだ事情を説明。

 彼が紹介してくれた相手にアポも取らず失礼だが直接会って、危険性を明らかにした上で莫大な報酬がある事も含め説得をさせてもらい、御者も追加で二人確保済みだ。

 

 彼らはグレスタ兄よりも年嵩で、報酬が良いならと死の危険もケロッとした顔で呑み込んだ。

 危険性を理解していないのではなく、潜ってきた修羅場が違うって感じかな。

 金で動いてくれる仕事人ほど頼りになるものは無いぜ。なんてったってクジラ君は僕らより高い金額を出しようが無いからなァ?

 そこらの物を拾い食いする生態だからお財布も持ってねぇだろうさ。

 僕なんて人の財布をいっぱい持ってるぞ。戦闘中に投げ渡された後返すわけにもいかないし、みんなから貰った物を捨てたくないからどんどん溜まるんだ。こ、困る……。

 

 その後いくつかの雑貨店や地元民が集まる飲食店に寄って、少しばかり話して情報を集めて回った。

 流通が止まって仕事や物資が減り始めたからって、ずっと家に籠っているわけにもいかない。

 やはり人は少ないながらも街に出ていて、そういう店でたむろしてくだをまいていた。

 薄めた酒を奢りながら話せば、いくらでも口が軽くなる。

 そもそも悩みの種なんてのは、事情を知らない人間に話したくてしかたないもんな。

 

 

 赤くなった空を背に宿屋に帰ってくると、エントランスに備え付けられたソファにどっかりと座り込んだ小金井さんが、橙色の煌めく夕陽の中組んだ足に肘を載せて頭をポリポリと掻いていた。

 まだ他のみんなの姿は無い。

 市場や商家への食料の手配がまだ終わっていないようだ。

 慣れないことをさせて申し訳ないな……しかし今から手伝いに行こうにも、知らない街じゃどこに居るやらわかんないか。

 

 やむなくお手伝いを諦め、僕も彼女の向かいにぽすりと座る。

 僕の大きいとは言えないおケツが音も無く沈み込み半分飲み込まれる柔らかさにビビるぜ。

 すべての家具の質が良すぎる。猫に小判、ヒモにカリモクだ。

 

 

「待ち人はまだ来てないみたいだね」

「えぇ、この分だと明日になりそうですね。実際私もその線の方が濃厚だとは思っていました。いくら愛された実の娘とはいえ、なかなか通る要求では無い。……いえ、愛されているからこそ、と言うべきですか」

 

 あぁ、やっぱりね。

 含みを持たせたその言葉に、僕は自分の察した「彼女の望む結果」がおよそ正しかった事を理解する。

 

 今から、もしくは明日出発前にヒート嬢がやって来る。

 恐らくそれは『親に認められたい』から。

 自分たち領民や領主軍では、あの怪鳥を追い返すこともできなかったという不名誉を覆し、父親に褒めてもらいたいから。

 そして父親は子供による領の為を思った献身と、ドラゴニュートの血が濃い娘の成長を感じ、最終的には未来を託すように同行を認めるのだろう。

 母親がなんて言うかまではわからないが……この世界では貴族家の当主の意見に、親族とはいえ逆らう事は難しいように思われる。

 十中八九、というかほぼ間違いなく騎士を引き連れて彼女は来る。

 

 そうなるように会話の進行や僕の言葉すら誘導して、まるで詰将棋のごとく彼女はこの盤面を作り出した。

 しかし、それが何故必要なのかまでは正確にはわからない。

 集めた情報の中でなんとなくそうじゃないかという予想まではできてきたが、それだってまったくのあてずっぽうだ。

 けれど、今それを聞く必要は。

 

「聞かないのですか、なぜ彼女を巻き込むのかと」

 

 小金井さんの思わぬ硬い語調にそちらを見やれば、彼女はいつもの微笑みでも困り顔でも怒り顔でも無く、無表情でこちらを見ていた。

 無表情の仮面を被って、宵が始まる直前の薄暗がりの向こうから僕の中を覗き込む。

 

「聞かないさ」

「先輩は見返りを求めぬ愛を知っている。親子の間に存在するという、金なんて虚像に代えられない、この世で最も尊い物を知っている。だのに、私の言う事に従って些細な行き違いをフォローせず、そして今躍起になって暴走しようとする彼女を私が利用するのをやめさせようともしない。ソレを商業利用しようとする私を、どうして止めないんです」

 

 淡々と理路整然たる口振りで説かれる言葉に感情の抑揚は無く、瞬かれるその瞳に涙が宿りはしていないけれど。

 まるで泣き喚く子供のように、彼女は駄々をこねている。

 

 今までそんな物が存在するとは考えもしなくなってしまっていた彼女の常識が、鹿野ちゃんやパーティメンバーとの付き合いの中で揺らぎ始めてしまっていた。

 無償の愛の実存を証明して欲しくて、それが紛れもなくあるのだと確かめたくて。

 そしてよしんば証明されたならば、その尊い物を利用する自分を咎めるべきではないのかと。

 道理も通らぬワガママを僕に向けて叩きつける。

 

 こんな言い方は不謹慎だが、僕にはそれがとても嬉しい。

 大事な人から行き場のない激情をぶつけてもらえるほどに親しくなれた事なんて、今まで一度も無かったから。

 大好きな相手から分け与えてもらえるものならば、その癇癪すら喜びをもって受け止めてしまう。

 

「それは見も知らぬ相手だからですか。初対面で食って掛かってきた生意気な小娘とその親の仲など、自身のビジネスには関係が無いからですか」

「いいや、違うよ。僕はもう彼女に思うところは無いし、けしてどうでもいい相手だとも思っていない。それでも、小金井さんの企みを止めるつもりもない。なぜならこれは僕らのビジネスだからだ、そうでしょ?」

 

 境遇はまるで違うけれど、ヒート嬢はまるで孤児院の子どもたちみたいな、かわいい庇護対象に思えている。

 そんな相手を突き放して見捨てようなんて、僕には到底思えない。

 

 否定して欲しくて仕方ないと書かれた彼女の無表情に、僕は即答する。

 

 領主様との対話の中で僕が幻視した彼女の悪魔的な笑みは、商人としての小金井山算金で。今目の前で押しつぶされそうになっている少女は、きっと剥き出しの彼女自身なのだ。

 そのどちらが主であるとも、どちらかだけを好ましいとも思わない。

 それは小金井山算金という女の子を、様々な側面から見ただけだ。

 鏡の間に映る無限遠に広がる彼女のどのような姿も、全てが愛おしい。

 

 日がさらに傾く。

 深い藍と寂しげな赤が混じり溶け合って、世界が暗い闇の中へと徐々に閉ざされてゆく。

 店の人が忙しいのか、未だ魔法灯がつく事はない。

 僕らが久方ぶりの客だからな。きっと従業員も減らしている状態だろう。

 

「……相手の為だけを想った、代償など必要ない献身と呼べる愛は、神聖で、不可侵なものではないのですか」

「僕はそれを語れる程悟った人間ではないけれど、たぶんそうなんだろうね。知られれば命を取られてもおかしくないような、不躾で無思慮な暴力かも知れない。それでも……必要なんだよね、彼女が」

「いり、ます。統合された情報から弾き出される状況は、彼女をもってすべての解決へと至る概算です。他にも道はありますが、試算された最善の結末には不可欠だと考えます」

「ならやろう。ただし」

 

 呻くみたいに苦しげに途中式を読み上げる彼女の、消えゆく陽光を反射する瞳に、僕は目を合わせて腹を決める。

 

 僕は地球にいた頃、いつだって決断を後回しにする悪癖があった。

 怠惰で優柔不断に面倒くさがり屋を営んで日々の生活サイクルを回すだけの、社会の歯車ですらないどこにも繋がらぬ風車として空回って生きてきた。

 それは、なによりも大切な物がもう無かったからだ。

 全ての比較対象足り得る物差しを、二度と手に入らない遠くへと喪ってしまったから、僕は日常にある全てを測れなくなった。

 ……もちろんこんなのは落伍者の言い訳に過ぎないから、真に受けちゃダメだけど。

 

 でも、だからこそ、こちらに来てあり得るはずもなかった二度目の贈り物を貰った以上。

 躊躇なんてする気はさらさら無かった。

 

「彼女にも領主様にも僕らパーティにも、みんなにとって最高の結末にするんだ。無償の愛を利用した罪悪感と良心の呵責は僕も二分して背負うから、本人たちには気づかれないように隠し通して、ハッピーエンドだけをみなに魅せて成し遂げよう。そうしてなにもかもが終わったら、二人で本当の罪を腹に抱えて生きていこう。僕も隣で後悔する、懺悔は互いに聞きあおう。いつか自身を許せる時まで、ずっと隣で一緒に苦しむよ」

 

 後悔するのも懺悔するのも、僕は慣れている。

 大好きな人が苦しむというのなら、彼女の想いに寄り添い真剣に心から一緒に苦しんで、そして支えあって生きていく事になんのためらいがあるものか。

 ……でもそんなに心配しなくても、誰だっていつかはきっと自分を許せる日が来るものだと思うよ。

 人はそんなに長く、自分を罰し続けることはできない。そんなに頑丈に作られてはいない。何もない朝を迎えられる日が、いつかはきっとやって来る。

 

 僕はまだ、その日を迎えられていないけれど。

 

「……それは」

「小金井さん、そんなに難しく考える必要は無いのさ。彼女は確かに10歳だが、けれどあの威圧感を考えるに生命の精霊はレベルアップした僕らくらいある。そしてこの領内でもっとも危ない存在であるクジラ君は、鹿野ちゃんの砲撃で追い返せる。なんなら僕らパーティの近くが一番安全まであるよ。そして彼女らの間にある愛を尊く思う君が、ヒート嬢を危ない目に合わせるつもりがない事は自明だ。小金井さんの目的も達成し、彼女を無事に親御さんの下へお返しする。それだけで条件は満たされる」

 

 これは意地悪な言い方になるから口に出さないが……小金井さんは無償の愛を貰えた場合の自分のようにヒート嬢を己に重ねて見ている。

 策謀家を気取り、自分の能力に自負があり、実家の力が強くて、親と同じ道を歩もうとしている彼女に、どうしても幼い頃の自分を見るような親近感を抱く。

 もちろん目的の為ならば小金井さんは非情になるだろうけれど、ヒート嬢に下手な事をすればそもそもグランダム様との関係が破綻しこれからの展望に支障を来す。

 つまり心情的にも合理的にも道理の上でも、小金井さんがヒート嬢を利用はすれど害する結果をもたらすとは思えない。

 

「君は他の家庭の絆を壊す事は無い。彼らの関係は悪化しないし、誰も不幸にならない。優しい小金井さんが心を痛める以外に不幸な事は起こらない……でも、もしもそれでも不安ならば、神聖で不可侵なる無償の愛を君が守ればいい。親の為に動く子を、子を想い託す親を君がその手腕をもって助け、そして最上の結果を叩きだせば良い」

「……簡単に言ってくれますね」

「あぁ、だからこそ僕がいる。僕だけでは到底最上の結果を叩き出せるとは思わない。そして君は、自分だけじゃ彼らの愛を壊すのではないかと不安だし、そもそも愛をエゴイスティックに利用する自分が許しがたい。

「なら、僕ら二人が動いて他のすべてを幸せにしてやるしかない。クジラは温泉街から消え去り、陥れようとした奴等に落とし前を付けさせ、あとに残った僕らは傷を舐め合ってともに生きよう。

「僕は小金井さんとなら、みんなが幸せな結末にできると信じている。むろん、僕と君だけはそれに含まれないが、罰をともに受けて生きていく事は誓える。

「下心満載のお世辞にも見返りを求めぬとは言えない僕らの行動だけれど、それでも結果的に全員ハッピーになり、確かにそこにあった無償の愛を守り通せるなら……それは悪くないんじゃない?」

 

 彼女は変わらぬ無表情の仮面のまま、その内容を咀嚼して吟味し、飲み下すか苦悩する。

 

「……わかってはいるんです。こんなのは意味のない問答で、ティーンを迎えたらたいてい済ませてる、はしかじみたイニシエーションだと。でも、そんな、青臭く未熟な懸念に……私はずっと、気付きもしなかった」

 

 愛をぞんざいに扱うわけではないと、手に入らなかったと思っている物を嫉妬から壊すわけではないと。

 自分自身を納得させられる理論かを考え込んで。

 

「……こうやって準備して、覚悟して、行動に出て……もしも失敗して、なにもかもを台無しにしてしまったら……彼女から親の愛を奪ってしまったら……」

 

 感情を見せない顔のまま、けれど震える声で彼女はかぼそくつぶやく。

 

 自分が一番欲しくて、なにもかもよりきっと大事に思えて、それでいて……一度失えばもう二度と手に入れる事はできないと思っている物を組み込んだ賭けに、百戦錬磨の商人小金井山算金は恐れをなしている。

 脳から算出される『もう一人自分を生み出してしまうかも知れない』という取り返しのつかない結末の可能性から、目を離すことができない。

 無償の愛というマボロシの影絵を利用する自分への嫌悪と、壊してしまうかもしれないという恐怖。

 

 今までいくらでもやって来た策略が、そんな物が存在するだけでこんなにも手の出しにくい難題になる事を、彼女は知ってしまった。

 

 

 だから僕は手を差し伸べる。

 困難を前にして立ち止まってしまった人間が、一番欲しいのはともに歩む人間だと僕は知っていたから。

 勘違いして欲しくないがこれは別に施しや同情じゃねぇぜ。

 大好きな相手がして欲しいことをやってあげるのが、僕にとっての幸せなんだ。

 どこまで行っても利己的な行動指針は、異世界で暮らしても変わらなくてやんなっちゃうね。

 

「その時は……彼女を連れてみんなで逃げよう。謝って償って庇護して貢いで、僕自身のなにもかもを捧げて……ヒート様に無償の愛を押し付けるよ。ただ僕からのものじゃあ、なんの代わりにもならないかも知れないから、その時はできれば、小金井さんも彼女にそうしてあげて欲しい」

 

 その言葉に彼女は目を見開いた。

 わずかに相手が見えるだけの光量の中、小金井さんの仮面が崩れて呆然とした素顔が現れる。

 

 言うまでもなく愛は受け取るだけのものじゃない。

 自分から誰かへ、捧げるように受け取ってもらうものでもある。

 己のすべてを惜しみなく与える。

 なにもかもを明け渡したって、けして惜しむことはない無償の奉仕。

 自分自身が誰かにそんな物を抱く日が来るなんて、存在もしないと思っていたものが自らの胸の中に在るなんて、きっと想像すらもしていなかったのだろう。

 

 けれどえてしてそういう物じゃんね、探していたものが近くにあるのは青い鳥が幸福を抱えていた頃から変わらない話だよ。

 

 

 

 長い、永い沈黙の後。

 

「それは……それは、とても素敵ですねぇ。まるで彼女が、私とあなたの子供みたい」

 

 もはや相手の顔も見えぬ暗闇の先から、普段のようにおどけた口調の、しかし泣きそうな彼女の声が聞こえた。

 ……いや、それは、そう……なのか? なんか最後の最後で全然意図しない話になってしまったが、小金井さんが納得したなら……良いんスかね? ヒート嬢は完全に他人ん家の子なんだが。

 

 

 突然、ボゥと穏やかな灯りが灯り、世界に色彩が戻ってくる。

 まるで十代にしか見えない女将さんが、魔法灯へと手を伸ばした姿勢のまま驚いたようにこちらを見ていた。

 

「おや! こちらにいらっしゃったの? ごめんなさいね、お客様がいらしたのに明かりもつけずに。なにぶん宿泊される方自体がひさしぶりだからねぇ、ついついお料理に熱が入っちゃって」

「あぁ、いえいえ、お気になさらず。私たちも日暮れのバルツァンの旅情を堪能していたところでしたのでねぇ」

 

 蛍光灯みたいな昼光色とは違う、原始的な炎に似た暖色の明るさに包まれた小金井さんは、いつもと変わらない微笑みを浮かべていた。

 もう、きっと大丈夫だろう。

 彼女は確かに己の中で、複数の自分が望む物に折り合いをつけた。

 たぶん心は痛むだろうし、罪悪感に苛まれる時はあるだろうけど、それは僕が分かち合うものだ。

 

 

「ただいまッスーー!!」

「ただいま帰りました。なんとかある程度の食料は確保できましたが……この量では到底足りないのでダミーを混ぜてなんとかごまかすしかなさそうです」

「いやー、方々走り回ったね。領主サマに用意してもらうんじゃあなく、ちゃんといくつかの商家で購入する必要があるなんて手間のかかる準備だよ」

 

 すると丁度いいタイミングで、別行動のみんながめいめい好きな事を話しながら帰宅。

 土埃で汚れた眼鏡を拭いたりコリを解すように肩を回したりと、くたびれた様子でこちらへとやって来た。

 もちろん鹿野ちゃんは一切そんな事は無く、一直線に走って僕のお腹へと飛び込んでくる。

 一回これでお腹に頭突きかまして胃が口から飛び出かけた事があったのだけれど、それ以来ちゃんと加減をしてくれるようになったのだ。きちんと反省できてえらいねぇ~! でもお菓子は夕ご飯前だから無し、デザートに食べようね。

 

「やぁやぁお疲れ様ですみなさん。面倒なお願いでしたが、ちゃんと働いて頂いたようでなによりです。え? 私の仕事はどうだったか? ……いえ実はね、待てど暮らせど来客が来ず、どうも先方の都合で明日にズレこんだみたいで……いや、働いていなかったワケじゃなくてぇ! ね、ねぇ青海先輩! ね!」

「みんなおかえりなさい。まぁ小金井さんは今回の指揮計画のブレーンだからさ、考える時間も必要っていうかね?」

 

 信頼のおける仲間たちにわざと少し抜けた部分を見せる小金井さんをフォローしつつ、僕らは女将が用意してくれた夕餉を食べに食堂へと向かうのだった。

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