【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
僕ら以外客のいない食堂にて、普段より素材は質素なんだろうけれど、しかしとても手のこんだ美味しいご飯を頂いた。
特にこの硬めのパンくり抜いて、赤いシチューみたいなの入れたパンシチュー的なにかは大変うめーっすね! ポットじゃなくパン直入れだからポットパイじゃないよね? どっちかっつーとハニトーっぽいカジュアルさもある。すんませんどれも人生で初出なのでまったく口から出まかせっす。
なに? これなんの味? スパイスってよりはなんか鍋みたいな……わかんないねぇ!
舌があれば美味しいのはわかるのだが、何がどう美味しいか言語化するには知識がいる。感覚を享受するのは容易いけれど、それを他者に伝えるってのは技術なんだよね。
その点僕は有史以来未だに名前を付けられていないありあわせ適当炒め物だの菓子パンだのコンビニ弁当だのを食べてきた経験しか無いので、この料理のココが良いみたいな褒め方ができないのだ。貧相な食歴で申し訳ない、ライブベアラーもこれにはションボリ。
まぁでも高校生なんてたいていそんなもんだし、ね?
「ンマーイっスねぇ! めちゃめちゃお肉系の出汁が出ててたいへん美味っす! 骨からかな? 野菜も味染み込んで柔らかいのに形が残っててこれは良い仕事ッス、です!」
「マジでそう! いやわからん、そうなんかな!? わかんねーけどあり得んウメーよ! オレこんなん初めて食ったかも」
とか言ってたら鹿野ちゃんにめちゃめちゃ言語化されちゃった。凄い、思わず拍手です。パチパチ。
僕からの賞賛を受け取った彼女はえへんと胸を張り、存在しないシルクハットを上げる仕草でそれに応えた。
鹿野ちゃんは食べるのが大好きなので、僕よりよっぽど料理に詳しいし作るのも上手いんだよね。良いお嫁さんになるんだろうな、旦那さんになれる人は幸せ者だよ。
そんな彼女が、素人の手慰みで作った僕謹製お菓子を喜んで食べてくれるのが、なんだか本当に嬉しいのだ。またいろいろ作ってあげたくなる。
素直に喜んでくれる相手に人は優しくしてあげたくなってしまうもので、その点鹿野ちゃんはパーフェクトだ。素晴らしい人間性です。
更なる褒められの気配を察知した彼女は、もう一度上げた存在しないシルクハットから存在しないハトを飛ばして僕を驚かせた。が~まるちょばじゃねぇんだぞ。
対して僕とマジで同レベルな感想を叩き出した明星先輩は、見てて気持ちいい食べっぷりでパンをまるっと齧りきる。
もごもご頬張って咀嚼する姿はリスを思わせるが、これは本人に言うとはっ倒されるので黙っておこう。どうせ僕もウマすぎて同じような顔してるし。
いやー、やっぱ凄いっすね……高級宿って……。
「ホントな……たかそーな部屋は肩肘張ってヤだけどよぉ、飯はハチャメチャにウマくて、周りに人が居ないからマナーとかも気にしなくていいし、こういうのも悪くないかもな!」
そりゃこんな観光地でトップクラスの宿取ってんだから悪いわけ無いわな。
つか本来は部屋が高級感溢れてるってのもプラスに働くアピールポイントなんだが、僕ら庶民にはちと荷が重いってだけだしね。
もしかしてセレブはこういう宿に泊まった時に実家のような安心感とか言ってんのかな。空と地面の如き乖離に思わず天地開闢を感じてしまう。
しかしだからといって、飯はコレで部屋が民宿だったら一番かっつーと、それはそれでわけわかんない事になりそうだ。
薄い座布団に座り凹んだちゃぶ台囲んでパンシチューが出たら、狐狸に化かされたかと頭がバグっちまう。
商売のコンセプトってヤツも難しいぜ。
周りのみんなも各々わいきゃいはしゃぎつつ箸を進めている。いや箸じゃなくカトラリーだけど。ちゃんとスプーンやナイフのある世界で良かったよ。
このところみんなを取り巻いていた疲弊したような空気は霧散していた。
やっぱり美味しいご飯が一番の気分転換だよね。
宿場町のベッドはどうしてもボゥギフトの宿より硬かったり臭かったりがあるから、そこらも関係してるかもな。
デザートとして出てきた、クリームチーズのように練られた白い乳製品に甘く煮た豆を混ぜたモノはあまりにウマすぎて、普通に日本でも流行りそうだった。
ねっとりと酸味の効いたクリームに入った、丁寧に薄皮も剥かれた豆のホロっと崩れる食感がたいへん良く、単品でも甘みと酸味が調和しているけれど、かけるソースによっては更に化けそう。これはノーベル化学豆甘味賞ッス(鹿野ちゃん弁)。これからは食レポは僕じゃなく鹿野ちゃんに頼ることにしよう。
鹿野ちゃんは言うまでもなく、委員長と悪王寺先輩までどハマりの空気を出しているし、彼女たちの為にもぜひとも作れるようになっておきたい。上手くできれば地球に帰ったらこれの店開こうかな……。
特に委員長は日本食食べたそうにしてたから、甘い豆で小豆っぽさを感じ取り喜んでいるのかもしれない。
僕も和食に近いものをがんばって探してたんだけど、なかなかそれっぽいのが無かったんだよな〜。これは有力候補です。
久々に満腹までご飯を頂いた僕らは、そのあとは食休みを挟み温泉へとなだれ込んだ。
こ、こんな贅沢しちゃって良いのかな……? 今更になって分不相応なお大尽っぷりに支払いが怖くなってくる。
経費で落ちるとはわかっているが、それでも料金の発生にハラハラしてしまうのは貧乏人の性だ。
この店の温泉は石造りの洞窟じみた感じで、魔法灯の頼りない灯りがほの暗さを演出し、どことなくサウナに近いように感じられる。
全然黄金でできてなくて一安心だ。
ここのお湯には同量の黄金と同じ価値がある、みたいな意味だとさっきおかみさんに教えてもらったので大丈夫だろうとは思っていたが、それでも異世界なので何があるかわかんないからな。
もちろん混浴ではないです。もしそうなら入れなくなるとこなので心底ホッとした。
手早く服を脱ぎ簡易な鍵のかかる箱に入れ、垂れ流しの滝湯のようなかけ湯で汚れを落とす。桶とかは無いっぽいね。暖かなお湯をまさしく湯水のように使って身体を流すという行為自体が、今や数週間ぶりなので感動してしまう。
日本にいた頃の自分の生活が、どれだけ贅沢な行いだったのかを本当に実感させられる旅路だ。キイロオオフシトビトカゲ(誰も未だに名前を正確に覚えていないので毎回順序が入れ替わると評判)の討伐遠足に次いで子供の情操教育に良いが、やっぱりこっちも連れてきたら100パー死ぬのでやめろ。
痛くなければ覚えませぬが痛すぎて死んだら元も子もないわい。
でもこれを経験すれば、税の作文書くよりよっぽど水道に使われる税金をよろこんで払うようになると思う。青海蒼は水道局を応援しています。あと給湯器メーカーも。
流石の高級宿だけあって、つか客は僕らしかいないのもあり、お湯は当然綺麗なものだった。
清浄になった身体でちゃぽりと湯船に入ると、ちょっと熱めのお湯が血行を促進し、じわーと指先や足先に詰まった疲れが血流と共に流れて身体を巡り薄れ消えてゆく。
き、気持ち良過ぎて泣きそう……。
ぼんやりと浸かっていると、ほの暗さも相まってだんだん眠気が出るような良ーい雰囲気だ。
……めちゃめちゃココ良いなオイ! 心地よさが行き過ぎてしまい、ぽやーっとを通り越してテンションが上がってきちまったよ!
男の子は狭くて暗い場所が好きで、なおかつ全人類は暖かくてホカホカのお湯が好きだから、男の子かつ人間でベン図の積集合たる僕は特効がどちらも乗り相乗効果でシナジーが爆増。最終倍率がえらいことになって画面内に収まりきらないダメージ表記が叩き出される事になるワケだ。ついでにタルカジャもかかりクリティカルヒットかつ急所にあたって効果は抜群なのでディスガイアじみた桁数出たぞ。
三つの要素が一つになれば一つの快楽が100万パワーで、僕は無事極楽へ吹き飛ばされた。
いやしかしこんなに暖かくて狭くて暗いとこが気持ち良いとか、もしかすると僕には胎内回帰願望があるのかも……んなことねぇわ、だいたい万人が好きだろこんなもん。インターネットの底に溜まった澱に染まり過ぎている。
でもマジでスゲー良い……
カヲル君も温泉入ったらリリンの生み出した文化の極みはこっちィ!と意見を翻したことだろう。あー、でもわからん、もう彼も温泉入ってるかもな。あまりにも長い歴史の中で数限りないコラボをしてるから、全ての事をやっている可能性があるんだよエヴァは。
……あ〜〜〜〜〜。
どうせ周りに客も居ないので身体から力を抜き大の字に広げると、ぷかーと木の葉のように湯面に浮かぶ。
今マナー講師に覗かれたらブチギレられることうけあいだが、覗いてる時点でそっちがマナー違反だろ。
なんか最近さぁ、妙にバタバタしてるっつーか、忙しいというより物騒っていうか、気疲れするような展開が多かったんだよね。果たしてヒモなんて気楽な身分で気疲れとか言っていいのかはさておき。
そんなヤバいモン気軽に置いて大丈夫か? あんまり置きすぎると差し返しでコンボ食らって画面端まで持ってかれるぞ。
直近でもリッチキングは出るわ、違法ペットは出回るわ、貴族から依頼が来るわ、商業ギルドのいざこざに巻き込まれるわでもう散々だ。
すげーよ、文化祭みてーな演目の同時進行じゃん。文化祭って周回可能イベントじゃないくせに、なんで校庭や体育館で同時に違う事やるんだろうね。イベント内容全部見れないとかコンプ厨が泣いちゃわない? 周回可能なイベントなど現実には存在しないと言われればそらそうなんだが。
なんだかんだと走り回ってるせいで、地球にいた頃の毎日のルーチン疲れとはまた別種の疲労感がある。
日々のみんなとの会話や飲み会が癒やしだよ本当に。
やっぱ大好きな人たちとお話しするだけで、何もかもが全部どうでも良くなっちゃうもんね。薬物と一緒。一緒にしたら良くないわ。
水音だけが響く静寂の中、かすかな笑い声が聞こえてくる。
たぶん女湯の声が、客のいない静けさ故にここまで聞こえてしまうのだろう。
むこうも楽しそうでなにより。
やっぱ男が居ると話しにくい事もあるだろうから、僕が居ない時間ってのも時折作んないとだね。
つか、よく考えるとまだ冒険者として普通の依頼とか、全然受けれてないんだよな……。
これが終わったらちょっとみんなと相談して、そういう経験も積んできたいとこだ。
この仕事の報酬でとんでもない額のお金は懐に入るが、ただ何もせずのんびり暮らすにはちょっと世相が悪すぎる。
実際、魔王の居る世界でFIREしても仕方ねぇんだよなぁ。だって人間社会がポシャったら、単なる金と銀の塊はなんの意味も持たなくなっちゃうからね。
その場合僕はヒモとしてバフ撒くために何を頂けば良いんだろうか。イヤだよ通貨代わりだからって豚の心臓とか貰うの。やっぱり人と魔王は相容れない、相手を滅ぼさにゃならんようやね。
薄暗い中温かいお湯に漂ってぼーっとしているとウトウトしてきたので、眠気覚ましにちょっと泳いでから上がる事にした。悪い子になっちまったな、ごめんよお母さん。
ずいぶんゆっくりと浸かったつもりだったが、お風呂から上がってもまだみんなは帰ってきていなかった。
バスローブというほどのものでも無いが、きちんと寝間着まで用意されてんだから流石の高級宿だ。とはいえ多分これも、汚い服で寝られてシーツ汚されるより良いからなんだろうな。合理的なのにサービスとして完成してるんだからすげーや。
綺麗な服で綺麗なベッドに寝転がると、あまりの快適さから放心してしまう。今が僕の栄光時代かも……。
このベッドも僕が横に数人は寝れるサイズなんだけど、デカい種族が来ても泊まれるようになのだろう。改めて見ると扉もデカけりゃ天井も高い。これならふかわさんも低いとは言えまい。
なんたるホスピタリティなんだ、星三つです。おまけに1UPキノコも付けちゃう。
人生のボーナスステージにて完全に整った僕は、そのまま落ちるように眠りにつくのであった。
んぁ……?
なにかに腕を引かれた感覚で目が覚める。
窓の外の瞳大月はすっかり中天にかかり、今が真夜中である事を示している。なんでもこの異世界では月は大いなる神の瞳とされているそうだ。だからこそ瞬きして神が見ていない新月に、魔物はここぞとばかりに凶暴化するのだとか。
絞られた魔法灯が弱々しく揺らめき、豆球よりも頼りない光で室内がかろうじて見渡せた。
腕を引っ張られた方を見やれば、そこには小さくてかわいい女の子が右腕に抱きついてすぅすぅと寝息を立てていた。つまりは委員長である。
お゛わ゛ーーーーーっ゛!!!!
寝てる彼女を起こさないように唇を噛んで思いっきり口を閉ざし、しかし心は叫びたがっていたので心中で絶叫させておく。
口を締め切っていたせいで心臓は鼻から飛び出すこととなった。そのルートはばっちいぞ。
慌てながらもゆっくりと体を動かそうとして、左腕もなにかに掴まれている事に気付きバッと振り返れば、案の定先生が抱いてい先生!? この流れは鹿野ちゃんだと思ったんすけどね!? いや鹿野ちゃんなら良くて先生がマズいワケじゃあねぇが! デカいでしょだって明らかに! 気付けよ僕も!
冷静に己の体を見下ろすと、お腹に鹿野ちゃんが乗っていたし僕の下で動いてるのは目黒さんであった。し、下ァ!? 申し訳ないっつーか女の子の上に乗るのは心苦しいよ! でも確かに軽々といつも持ち上げられてるもんね!
な、なに? なんか寝てる間に戦隊モノの合体ロボットみてーになってんじゃん。
愛と勇気の力が僕らパーティに備わってるのは認めるが、ヒモをメイン機体に据えるんじゃ無いよ。僕は左手の指とかで良い。
つか僕は目黒さんが下に潜り込んでも、お腹に鹿野ちゃんが飛び乗っても起きなかったの? 我ながら鈍感すぎて怖いよ、自分が。寝てる間にマジでなんかやられても起きないんじゃねぇか。拇印とか押されて借金背負わされてたらどうしよう。
はわわわわわ……全身を包むあまりの柔らかさと、立ち込める良い匂いにはわわってしまう。やっぱりきらら漫画は卒業できていなかったようだ。ここまできたらOP終わりのジャンプの練習もみんなでしとくべきか?
一通り驚きはしたが、しかしよくよく考えればこの状態ではなにもできない。
起きて他のベッドで寝ようにも絶対に誰かを起こしちゃう。
せっかく品質の良いベッドで熟睡するみんなを、わざわざ起こしちゃうのは気が引けるんだよね。いやまぁ大事な相手の上で寝るのが一番気が引けるけど……でもこれ絶対本人が進んでやってるし……。
目黒さんの呼吸にあわせて僕が上下しているのも正直ちょっと面白い。面白がってる場合か?
もしかしてこういうトコが明星先輩の言う危機感の無さなんじゃなかろうか。でもみんなが僕に危害を加えてくるワケじゃないし……。
月が少し傾くだけの時間考え込んだ僕は、諦めるようにそのまま再び瞼を閉じるのだった。
これくらいいっか、まぁ間違いが起こったわけでもないんだしさ。
……なんかだんだん僕の中でハードルが下がってきてる気がするぞ。一線は超えないように注意しとかないとな……。
己の心にしっかりと戒めつつ、目黒さんのお腹に頭を預けて僕は眠りについた。ホントに戒めれてるかコレ……?