【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【44】 待ち人、来る

 翌朝、起きると既にみんなはベッドにおらず、リビングにあたる部屋でめいめい好きに過ごしていた。

 みんな朝早いっすねぇ。

 対して僕はまだまだ全然寝れるポテンシャルを残している。これが地力の違いだ。睡眠力こそが全ての源と妖怪の大将も仰っていた。大御所の発言を笠に着てればなんでも正当化されるワケじゃないですね、すんません。

 僕は放っとくとマジで無限に寝れるタイプなんだよな。

 人生の浪費に特化し過ぎている。終わった定向進化もホドホドにしてくれねぇと困るよ。

 

 夏の盛りなのにここの宿は暑くなくてスゲー寝良いんだよ、魔法的ななんかなのかね。

 エアコンで環境が破壊される未来は無いんだから羨ましい話だ。

 しかし魔法から出る有害な物質が堆積してないとは限らない。上手い話ってのはそう転がってるもんじゃないからなぁ。

 正直僕みたいな低俗な野郎には環境問題とかよくわかんないんだけど。

 だって子供の頃からずっと終末時計が残り数分とかを行ったり来たりしてっからさ。いい加減電波時計にでもしたらどうだ? あと五分だけっつって二度寝してたら終わりを迎えちまうのは怠け者には厳しいやな。

 どうせ真夜中迎えても、新しい朝が来るだけだろうに。夜が明ければ日が昇るって知らんのか?

 

 それはともかくこの睡眠時間の長さも、僕とみんなの基礎的な身体機能に差が開いてきたことに起因している。

 生命の精霊さんがよくわかんねぇとこに宿ってるせいで、僕はいくらレベルアップしても基礎体力とか新陳代謝とかが全然上がっていかないのだ。

 ジョギングとか走れてるしスタミナはついた気がするんだけど、それは単に運動慣れしただけかもな。

 みんなと同じだけ精霊を宿しても、飲んだ次の日は遅くまで寝ちゃうんで、みんなの新陳代謝は羨ましいとこの一つである。

 いくら深酒しても翌朝に残らない代謝機能が僕にも欲しいぜ。

 でもそんなもんがあったらあったで毎日遊び歩くのが目に見えてるから、無いのは神様からのせめてもの情けなのかも知れない。

 ありがとう神様、まっとうに生きます。

 

 

「おはよう、みんな」

「おはよーッス!」「おはようございます」「おはよ、青海君」「おはよ、う……ござ、いま、す」

 

 みんなに挨拶すると普通に返事が返って来る。なんか起きてすぐにみんながいると未だに照れちゃうね。

 昨夜のアレには誰も触れず、まるで何事もなかったかのようだ。

 夢だったのかなぁ? こういう場合夢なワケねーのよ。

 あの温もりが夢ならば、僕は夢から覚めなくて良くなっちまう……やっぱそれはヤだな、一人遊びじゃやり甲斐がねぇ。

 現実逃避しても良いことねぇので真っ向から直面することにした。喧嘩は逃げる気の無い方が勝てるようにできている。ちょっくら現実君と向き合ってやるか。

 

 実際、みんなの僕への好意が最近ちょいとばかし行き過ぎている節があるんだよな。

 僕が犬ころみてぇに好き好き大好きっつって尻尾振ってるから、それに飼い主たるニンゲン様が私もだよ〜と返してくれているだけだろと初めは軽く考えていた。しかしここんとこ、その路線から大きく外れ始めているのが僕にも分かり始めたのだ。

 

 ちょ、ちょっと……ちょっとだけ、みんなからの愛が重いかも知れん。

 おかしいな……だってヒモだぞ……?

 

 当初の予想では、僕が働かん上に金をむしってくから、貧乏神くらいの扱いを受ける気がしてたんで、大好きなみんなへの気回しと愛想でそのマイナスを挽回しようとしてたんだけど……ん!? まちがったかな……って感じで現状に至っている。

 

 いやね、もうしょうがないし今は良いのよ、今は。

 いい加減飲み友達もしつこく言ってくるし、認めよう。

 わりと今の僕はたぶん、人付き合いを上手くやってる方なんだと思う。

 その結果としてみんなからチヤホヤされてるのは、嬉しいしこっちも応え甲斐がある喜ばしい事だ。

 

 でもね、僕らはいつか地球に帰るんだ。

 その時。

 その後、僕は。

 ヒモという特別な能力を神へとお返しした果てに、本当にどうしようもないあの頃の僕に戻ってしまう。

 そうなった後のみんなのことを想うなら、絶対に“最後の特別“だけは残しておいてあげたくて。

 

 だから、その一線だけは、なにがあっても僕は超えないようにしなきゃいけない。

 まぁ昨日はその点危なかったが、みんなも寝てるヤツを相手に間違いはおかさんだろう。

 

 ……とはいえわざと嫌われようとは思えない。

 そういうのはみんなのメンタルやパフォーマンスの面からも望ましくないというのもあるし、なにより僕だって自己犠牲の聖人じゃあねぇんだ。

 みんなから嫌われるのは可能ならば避けたい。

 むこうが僕の不出来さに愛想を尽かすのは仕方なくても、この異世界でくらい尽かされない努力はしていたい。

 

 ……難しい話になっちゃったなぁ。

 単に大好きな人たちと今の状態の僕で仲良く暮らしていければそれで良いのに、地球に戻ったら僕が『王じゃないのに人の心がわからないダメダメ無能力コミュ難アホちゃん』におそらく戻っちゃうのが最悪だ。

 どれだけ鍍金を重ねても、本質の汚さは消えてなくならない。

 過去は石の下からミミズのようにはい出てくる、時間も飛ばせない僕にはあまりに過酷な試練だぜ。

 だからって地球に帰らないという選択肢は無いけどね。

 よっぽどの事情が無い限り、子どもは親と一緒に育った方が良いと僕は思っているからだ。

 

 たぶん僕は日本に帰りつくまで、この難題に悩まされる事になるのだろう。

 

 

 つっても朝っぱらからこれ以上ウジウジ悩んでても仕方ないので、さっさと顔を洗って身支度しよう。

 顔洗い終わったら、目黒さんが部屋備え付けのタオルをわざわざ手渡ししに来てくれた。

 なんか新婚みたいっすね……雰囲気がはにかんでるから、むこうもそう思ってくれたらしい。

 つか多分これ洗ってる間中見られてたな。

 そんなに面白いものじゃないと思うんだけど……背中にスクリーンセーバーとか映るように身体改造しといた方が良いか?

 

 その後、朝ごはんが楽しみ過ぎてスキップする鹿野ちゃんと手を繋いで食堂に向かい、これまたはちゃめちゃに美味しい塩味フレンチトースト的な焼いたパン(材料が満足に得られない関係からパン料理が多いと推測される)を平らげた。

 そうして小金井さんパーティも含めたみんなから、もはや毎朝の日課と化している銅貨60枚のお小遣いを頂いて黄金の橋を繋ぎ、準備万端である。

 この額だと大体帰宅するまでの間バフが持つのだそうだ(委員長調べ)。

 特筆すべきことでは無かったので言ってなかったが、僕はそういう理由で冒険に出てる間は毎日18000円貰っている。1パーティ9000円の計算だ。僕は高校生なので割り算ができる。

 ……いや特筆すべき事過ぎるし無理筋なのは承知してるけど、言いたくない事の1つや2つくらい人間にはあるよなァ!? 黙秘権ですよ黙秘権!

 あの明星先輩ですら「ん」つって傘差しだすカンタみたいな声とともに気軽に渡してくる始末だ。

 とはいえ貰ったお金でみんなの欲しがってる物を買ってプレゼントしているから、立ち位置としてはSuicaにチャージしてるのとほぼ同じではある。

 その中から僕が賭け事に使ったり生活費に貰ったりする分は、いわゆる一つの天使の分け前みたいなものなんじゃないか? ちょと無理あるか? 無理なら潔く腹を切る。

 

 委員長によるとモリモリモリ増えていく貯金をたまの賭け事でガツンと消費する事で、効率よくスーパーバフがかかるらしいっすよ……ネトゲのDPSみたいなダメージの稼ぎ方だね……。

 委員長はもはや一端の僕研究家だ。

 そろそろ他のソフトを半刺しにする事で記憶領域書き換えて、脈絡無くエンディングを呼び出したりしそうで怖い。

 

 

 そういったもろもろの準備を整えた僕らは魔車へと歩を進め……ようと宿屋を出るとそこには、十名の騎士を引き連れたヒート嬢が居た。

 知ってた僕と小金井さんの共犯者組以外のメンツは一様に驚いている。

 

「待っていたぞ、おまえたち。今回の征伐には我々も同行する」

 

 あ、今日は言葉遣いが戻ってんね。

 アレは突然のことに動揺して幼児退行しただけだったのかな。

 上位者としての立ち振る舞いが即興の演技にしては堂に入ってたから、普段からそうしてたんだろうとは思ってたんだよな。

 じゃああの言葉遣いはめちゃめちゃレアな姿だったんだ。

 ま、忘れてあげるのが優しさかもね。

 

「おや! これはヒート様、いったいどういう事でしょうか」

 

 小金井さんがわざとらしく驚いて、その真意を問いただす。

 どれだけ心が傷んでも、彼女に流れる商人の血が交渉の場において弱みを見せる事はない。

 だからこそ、仮面の下の涙を拭う誰かが彼女には必要だろう。

 力不足ではあるけれど、代役が見つかるまでは僕が精一杯努めるよ。

 

「父上よりの書簡だ、これを読めばわかる」

 

 そう言って差し出された羊皮紙(なおこの世界では羊ではなくクソデカいシューマイの皮らしい(注釈で嘘をつくべきではない(大きいウサギの皮だそうだ)))の蜜蝋を、剥がし方分かんないからコッソリ手の中でぺりぺりと取って開けば、そこには時候の挨拶から始まる飾言溢れる貴族的言い回しに富んだ長文がつらつらと書かれている。

 こっちの文字はある程度読めるようになったが、ちょっとこれ難易度高すぎるッピ!

 仕方ないので一番語学に堪能な小金井さんに読んでもらった。すいませんね。

 要約すると「我が領の騎士道精神溢れるもののふたちが、自領の直面した困難を他所の人間に全て放り投げるのを良しとせず、少しでも彼らに助力したいと請願してきた。その責任者として領主の代役である娘を付ける。どうか彼らと共に怪鳥を討って欲しい。報酬はその分も増やす。……どうか娘を頼んだ」って感じだ。

 理由はとってつけたもので本来は順序が逆というか、やはり間違いなくヒート嬢が強固に意見してそれを飲んだ形だろう。

 

「えー! つまりヒート様も来るんっスか!? 危ないっスよぉ!」

「危険は承知の上だ。我らの庭に住み着いた怪物退治を、他所の客人に押し付けるなど本来あってはならぬ事。……我々にも、どうか民草を護らせてくれ」

「よく言った! 良い心意気じゃねぇか! アタマってのはそうじゃなきゃなんねぇ、オレは構わねぇぜ」

 

 戦う事そのものにあまり積極性を持っていない心優しい鹿野ちゃんは、10歳の女の子が危ない場所に来る事を心配している。言うてる彼女もそもそも15歳なんだけどね。

 打って変わって明星先輩は、彼女の中での組織論というか上司論の規範に即したヒート嬢の心根を賞賛し、自分が護ってやるよという気概で快諾した。

 他人に頼られる事に疑問を抱き始めていた彼女だが、しかしそれでも根の姉御肌や価値観は変わらない。というよりむしろ、その価値観があるからこそ、不良たちを抱え込みアタマを張っていたのだろう。

 ここらはみんなの戦うという事へのスタンスの違いだ。

 どちらが正しくてどちらが間違っているという事もない。

 

 しかし、事この場においてもし絶対の正解があるとするならばそれは。

 

 驚愕、理解、納得、思案とまるでありもしない心の動きをトレースするかのように、シームレスに仮面を変える彼女の下す判断こそが、僕ら全員を一寸も見通せぬ暗闇の荒野の先へと連れてゆく正解の光に違いないだろう。

 

「それは心強い! もちろん同行してもらえればこちらとしても有り難いです。……ですが、ひとつだけ。同行する騎士はヒート様と他二名まで、そして騎馬でなく我々と同じ魔車移動にして頂けませんか」

 

 ピンと指を一本立てて、小金井さんは条件を付けた。

 みんな不思議そうな顔をしているし、騎士たちの中には明らかに不快そうに顔を歪めた者もいる。

 平民が貴族様に対し条件とは何事か、つってね。

 

「我々にも彼奴を討ち倒す為の作戦があります。人数が多くてはそれに支障が出てしまう。またその作戦の性質上、騎馬でバラけず一丸となって移動をする必要がある。もちろん、騎士様方のお力は我々の作戦にとってこれ以上ない力となるでしょう。けれどそもそもは我々への依頼、どうかご理解いただけますれば幸いでございます」

 

 しかしこう言われれば断ることもできない。

 なぜならそもそもこれは当主から僕らへと出した依頼であり、自分たちが着いていくのも言ってしまえば僕らに情けをかけてもらっているようなものだからだ。

 こちらの建てた作戦にまで口を挟み金級冒険者との関係を悪化させるようでは、少しでも自領の力が討伐に関わっていたという事実を残す為に動いたヒート嬢や、筋違いな頼みとなるのも承知で派遣を許した当主の顔に泥を塗ってしまう。

 

「むぅ……そうか、いや、承知した! それでは隊長と副隊長だけ随伴してくれ。他はバルツァン一帯の警備を頼む。増員として扱うように、私からの指令があった事を警備担当者へと伝えろ」

「ハッ! かしこまりました!」

 

 隊長よりも上の指揮系統最上位として、ヒート嬢が命令を下す。

 実働部隊に組み込まれ、それでいて部下からも信頼されている。

 10歳でこれとはドラゴニュートってのは恐れ入るね。つっても種族の特性だけってこたぁ無いだろう。脈々と受け継がれたその青い血に驕る事なく、他の上位者や親の一挙手一投足から振る舞いやその意図を学ぶ努力家だからこそ、こうやって現場に出ても卒なく現実的な働きができる。

 僕風情が庇護すべき子供と思っていたことを反省しなきゃならんなぁ。

 

 

 こうして僕らは、普段よりもずいぶん多い人数で空飛ぶクジラの討伐へと出発したのであった。

 

 

 

 

 

 

 んで小金井さんの指示する方向へ、休憩も無くブッ続けで街道を爆走し、結局クジラと出くわす事の無かった一日目の夜。

 街道沿いの野営地で、ヒート嬢が僕らに話しかける。

 

「で、作戦というのは我々にも共有してもらえないのか。そっちの雑用係すら教えられているというのに」

 

 吐きそうになりつつ小金井さんに抱き抱えられて出てきたのを見られてから、ヒート嬢は僕の事を蔑んだ目で見てまともに扱ってくれてないんだよな。

 どうも兵士ですら魔車の揺れ程度なんともないので、僕がとんでもない軟弱者だと判断されたらしい。

 現地の一兵卒より弱い転移者ってもう魔王を倒す為に転移する意味なくない?

 

「おやおやおや……青海先輩は肉体労働が仕事ではないだけで、けして雑用係では無いですよ? 彼はちゃんと戦闘でも日常でも万事に置いて役に立つ、素晴らしい仕事人なのです」

 僕にだけ聞こえる声で「まぁ仕事はしていませんが」と、彼女は呟く。ハイ……仰る通りで……。

 小金井さんはこっちを向いて項垂れる僕を見ると、にひひとかわいらしく笑った。

 

 なんだか共犯者になってから、小金井さんは僕に軽いイジワルを言ってからかうようになった。

 ……たぶんだけど、これは彼女なりの気の許し方なのだろう。

 小学生の男の子が好きな女子にちょっかいをかけちゃうみたいなもんだ。

 別に僕はこれも嫌じゃない。

 だって苦笑しながら返事を返してあげれば、彼女は仮面を外して幸せそうに微笑んでくれるから。

 

「ま、それは置いといて……そうですね。今日は距離を稼ごうと、ほとんどの時間を移動に費やしたので暇がありませんでしたが、確かに作戦の周知は必要でしょう」

「うむ、当然の話だ。で、あれば」

「ですが、この度の作戦は実際に現地を見てからでなければ、到底信じられぬ話となります。今から机上でお話ししても、まず間違いなく二度手間になってしまうでしょう。尊い方のお時間を浪費させては商人の名折れ。明日明るくなってから、その場を見せた上で必ずお話すると約束いたします」

「……わかった。そこまで言うなら、なにも言わん。私は失礼する。見張りは騎士たちと相談せよ」

 

 けんもほろろに自分の要請を断った小金井さんに、ヒート嬢はすっかりヘソを曲げた風で自分たちの天幕へと引き上げていった。その尻尾は大いに荒れ、暗闇に彼女が消えてからも地面を強く叩く音が何度か聞こえてくる。

 いいの? 彼女、結構本気で苛立ってるようだけど。

 

「えぇ、構いません。心苦しくはありますが、どうせ夜が明ける前にはそれどころじゃなくなっていますからねぇ。別に欺瞞の作戦くらいいくらでも思い付きますが、それを伝えても数時間でご破算です。……それに、聡明な彼女の事ですからどうせ気づきますよ。ならば嘘やごまかしをする労力も、僅かとはいえ無駄遣いに終わりますので。あと青海先輩をちょっとバカにしてるのも減点ですね」

「僕の事はともかく。夜が明ける前に……なにか、あるの?」

「えぇ、ありますとも。さ、私たちは作戦会議と参りましょう! さっさと動かないとタイムアップになっちゃいますよぉ? 夏の夜は短いんですから」

 

 ヒート嬢と接する時とはまるで真逆に嗜虐心を隠そうともしない表情で、彼女は信頼できる仲間たちの元へと僕の手を引くのだった。

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