【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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仕事の関係で五日間程お休みをもらいます。
すいませんがその間は過去話などを読み返して頂ければ……。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【45】 暗夜を切り裂く悪意

「来たっス! 後2分くらい! 硬めのカップ麺な時間ッス! 数はいっぱい!」

 

 小金井さんから驚くべき話を聞かされ、緊張の中月明かりに照らされ眠れぬ夜を過ごしていた僕らは、鹿野ちゃんの大声に即応した。

 

 索敵のできる鹿野ちゃんと悪王寺先輩の二人だけは絶対被らない4人組に別けて、僕らは普段から数時間交代で寝ずの番をしているのだが、“その時“を引いたのは鹿野ちゃんの方だったらしい。引いたのがアタリかハズレかは、難しいところだ。

 僕は一応自分の組以外の時も小刻みに起きて顔を出していたのだが、ちょうどウトウトしかけた瞬間のことだったのでビックリして天幕の支え棒で頭をぶつけた。オンギャッ!

 

 痛むデコをさすりながらも、僕はラウンドシールドと小型ナイフを身に着けてテントを飛び出す。

 すでにみんな出てきていて、真剣な表情で鹿野ちゃんから方向や数を聞いている。

 小金井さんは「なぁに、全然リッチキングの方がヤバいです。気負う必要は微塵もありませんよぉ」なんて言っていたが、ビビらずになんていられるもんか。

 

 てててと近寄る僕に気付くと、すぐさま全員がお財布から銀貨数枚ずつを差し出してきた。

 あ、はい……すんません……どうも……ありがとうございます。

 お金を貰うたび申し訳ない気持ちになるのは、いつまで経ってもアプデで修正されないあたり仕様なんだろう。

 ……ま、図太くなり過ぎても困るから、毎回気が咎めるくらいで良いのかもしれんね。感謝を忘れたヒモなんて、捨てられるのが目に見えてるでしょ?

 

 しっかりとした強度の黄金のオーラが、僕と彼女らを繋ぐ。

 そのオーラに銀の鎖が絡まるようになったのは、彼女らとキスをするようになってからだ。

 目黒さんはまだそこまでしていないのに、なぜかあの夜以降銀色が交じるようになっている。たぶんこれ精神的なものですねぇ。

 今や小金井さんパーティ以外全員と銀の繋がりもあるんだよね。

 ヤバいっすね。明星先輩も怪訝な顔でつついてくるし。

 

 

 しかし全員銅貨を刻まず銀貨なあたり、これから起こる事への緊張が感じられる。

 

 なんせ今から僕らは、悪意をもってこちらを襲う人間たちを相手にしなきゃならないんだ。

 

 

 

 

 

 

『さて、青海先輩以外の全員には話してありましたが、おそらく今夜私たちは野盗に襲撃されます。各々準備や心構えはして頂いたかと思いますが、再度入念な準備を各自お願いします』

 は?

 

 ヒート嬢がぷりぷりと怒りながら引き返した後、みんなを集めた小金井さんはさも当然とばかりにそんな事をのたまった。

 

 えっ、と……みんなは聞いた上で了承したんだね?

 

 そう……なら、うん……わかったよ。で、どうするの?

 

『おやぁ、私を責めないのですかぁ?』

 

 うん。

 僕が反対すると思ったか、僕が知ってると計画上マズいか、そのどちらかだよね?

 

『……えぇ、前者です。事前に伝えていた場合、青海先輩ならきっとみんなを矢面に立たせない方法を考えようとしたでしょう。なんなら潜入して全員タラしこもうとでもしたかもしれない。ですが私たちはもう、この安全の保証など無い、生命の危機に満ちた異世界で生きているのです。降りかかる火の粉を払う経験を、いつかは積む必要があった』

 

 間違いなく正論だ。

 確かに僕は事前に聞いていたら野盗そのものをどうにかしなくとも、みんなが人間を相手にしなくていい方法を必死に探っただろう。

 人と対峙すれば、危害を加えようと受けようとどちらにしろ酷い傷跡を残すことになりかねないからだ。

 こんな事ならばさっさと僕を木人として、対人訓練を開催しておくべきだったと強く後悔している。

 いや、先生も事前に話を聞いていたなら、その辺りはしっかりレクチャー済みか。

 ならまぁまだ、なんとかなるだろうか。

 

 そして……後半もまたおっしゃる通りである。

 安全な日本に住んでいたので平和ボケしているが、地球ですら危ない目に遭うことはあるのだから。

 言わずもがなこんな異世界ならば、なおさら経験しておかねば致命的な事態を引き起こしかねない。

 

 全部全部正しくて、ただただ僕の甘い認識が招いたものだ。

 ただでさえストレスのかかっている彼女に、さらに心労を強いた事が申し訳なかった。

 

『ごめんね、気を遣わせちゃった。これからはちゃんとみんなに話してもらえるように、きちんと現状と全員の考えを把握していけるようにするよ』

『……敵いませんね。私は産まれて初めて、正当に怒られる覚悟をしていたんですが。まさか、謝られるとは』

 

 当たり前だ。

 仲間外れにされたなんてスネるほどガキじゃねぇさ。自分が悪いなら謝るよ。

 それになにより僕は戦闘職ではない。

 どうせ後ろでバフを撒く以外できないのだから、事前に戦闘の予定を聞かされていなくても準備不足に陥ることもなかった。

 

『探知は普段通りに鹿伏ちゃんか悪王寺先輩に行なってもらいます。そして作戦は──』

 

 

 

 

 

「何事だ!」

「敵襲です! 接敵間もなく! 数は不明!」

 

 騒ぎを聞きつけたヒート嬢が騎士を引き連れて姿を現す。

 小金井さんの言葉を聞いた瞬間、騎士たちはすぐさま剣を抜きヒート嬢を守る態勢に入った。

 

 

 ヒュウ、と。

 風を切る音が聞こえた気がした瞬間、目黒さんが僕の目の前に立っていた。

 その手にはまるで夜を切り抜いたような光を通さぬ闇が蟠っていて、質量があるのかないのかわからないそのあいまいな黒点に、羽が付いた木の棒が突き刺さっている。

 

 矢!? 射られたのか!

 

 あまりにも呆気ない命の危機に、ぶわりと汗が流れ出す。

 焦って周りを見回すも、みんなそれぞれ難なく矢をやり過ごしていた。

 怪我人がいない事に……誰も死んでいない事に、心の底から安堵する。

 ありがとう、目黒さん。助かりました。

 

「テメェらァ!! ウチのセートになァにしてくれやがるッ!!!」

 

 覚悟はしていたのだろうが、実際にやられて完璧に“プッツン“きた先生が矢よりも速く駆け出す。

 一秒と経たず、森の中から野太い絶叫と罵声が聞こえてくる。

 あー、作戦とはもう違うが……ま、仕方ないよな。

 

「……いき、ます。……ひ、引きずり……出す……!」

 

 普段よりも力強く、自らを鼓舞するようにそう言って。

 目黒さんは影に満ちた地面から、その大きな手で闇夜を掴み取り、バサリとコートの如く翻して身に纏う。その手には、いつの間にか、真っ黒な手袋が嵌められていた。

 前髪で顔を見せない彼女が、暗夜の外套に袖を通したその姿は、まさしく夜という生物そのもの。

 高身長シックなコートにミステリアスな前髪と来て一気にスパダリ力が跳ね上がった目黒さんに、僕はこんな時なのに冗談抜きでドキッとした。

 本当にこの女の子は、僕が憧れて好きになってしまう全てを持っている。

 

 その僕の思考を読み取った彼女は、くるりとこちらを向いて照れくさそうにぎこちなく手を振ってから。

 階段を降りるように、足元に広がる黒い影へと一歩ずつ沈んでゆく。

 そうして、頭の先まで影に飲まれた瞬間。

 何度も悲鳴が響いていた森から、何かが飛び出してきた。

 

 見やればそれは、粗末な軽鎧を着たいかにもな山賊の姿だった。

 しかしそれはたった一人で、僕らを襲おうとしてのものではなく、まるで背中を急に押されたかのように本人も困惑している。

 たぶん影に溶けた目黒さんが、彼らを森の暗闇から弾き出しているのだろう。

 太陽が地に伏せ三日月の僅かな光しか届かぬこんな夜、世界は彼女の物になる。

 知らない内に僕の大事な人が夜の王かなんかみたいになっちゃっててビックリだよ。カッコ良すぎる……。

 

「オレのダチになに手ェ出してんだ、よッ!」

 

 即座に明星先輩が顎を蹴り飛ばし、ソイツは何が起きたかもわからぬままに沈んだ。

 同じように次々と暗闇から弾き飛ばされ森から叩き出される野盗を、流れ作業で明星先輩と小金井さんが落としていく。

 ……正直顎殴って気絶させるのもわりとヤバい気はしないでもないが、まぁ他人の命を奪おうとした報いは受けないとな。

 

 僕と悪王寺先輩はソイツらから武器を回収して回り、委員長はバフによって強力になったトリモチで拘束していく。鹿野ちゃんは変わらず索敵に集中だ。

 ヒート嬢たちは最初唖然としていたが、今は拘束された野盗を開けた野営地の真ん中へと転がしてくっつけていた。

 塊魂みてぇだ。それもう二度と取れなくなっちゃったりしません?

 

……騎士さんたちが殺して回ってもおかしくないとは思っていたが、どうやらこの場で即座にやるつもりは無いらしく一安心だ。

 身動きが取れない状態の盗賊なら、連れ帰って見せしめにでもした方が領民のガス抜きもかねて都合がよかろう。

 もちろんこんな事やったんだから裁判もクソも無く死刑なのは承知の上だが、ウチのパーティが直に取り押さえた面々をその場で殺されたらショックを受けるだろうからな。

 甘い話だが僕らはまだまだ子供なんでね。時折は甘えさせてくれよ。

 

 

「……くらえッ!!」

 

 かすかに魔術言語を聞き取ったその時、闇夜を切り裂いて突如燃え盛る火球が中空に現れ、こちらへと凄まじい勢いで迫る。

 ま、魔術師ぃ!? たかが野盗になんでそんな逸材が紛れ込んでるんだよ! こんな奥の手を隠していたのか!

 驚きに目を見開くが、すぐさま後方より轟音とともに放たれた砲弾が、その膨大なるマナを宿した魔術を容易く打ち破り爆散させた事にさらに驚いて目ん玉をかっぴらく。

 

 お゛わ゛ーーっ! バックドラフトのアトラクションみてぇ!

 

「遅い弾っスねぇ。麺も伸びちゃうッスよ」

 

 物理的対抗呪文(カウンタースペル)という世にも珍しい偉業を成し遂げた我がパーティの誇る砲術師は、ニヒルに笑うとそう呟いた。

 直後、鬱蒼とした森林から一人の男が叩き出される。

 単なる冒険者にしか見えない革鎧ながらも、その手に握られた黒楡の杖が、この男こそが先程の魔術を放った犯人であると示していた。

 口元には、今しがたもいだばかりに見える、クソ硬くて拳くらいデカいゴライトウッドの木の実が詰められている。

 あー……歯もちょっと折れてるかもしれないっすね、自分の行いを呪ってください。

 もちろんそんな状態で振りかぶられた小金井さんの拳を避けること能わず、あえなく白目を剥くことになった。

 

 

 しかし野盗の数が多いな。

 もう数十名は叩き伏せられていると思うのだが……っと!

 

「う、動くな!」

 

 僕の首元に剣が突きつけられる。

 まとめて弾き飛ばされたヤツらの中に、気絶したフリでやり過ごした抜け目ないのがいたのだ。

 放り込まれる盗賊をぶん殴る流れがほぼほぼ餅つきと化していたからな、そりゃ一人くらいは漏れもでるか。

 僕は両手を上げて降参の意を示す。

 悪人の手の中に僕の命が明確に握られているという事実に、言葉にできない怖気が表皮を這いまわり吐きそうになった。

 足を引っ張っちゃって申し訳ないという情けなさで胸が満ちていく。

 

 みながこちらを見て一瞬凍りつくが、すぐに何かに気付いて胸をなでおろした。

 明星先輩はチラと僕と森を交互に見ると、特に慌てる事なく気怠げにヤンキー座りで休憩し始めた。

 どうやら盗賊は弾切れらしく、僕の後ろに居るのが最後の一人らしい。

 

 へ? ……あぁ、そういう事か。

 首筋に感じていたハズの金属の冷たさが気付けば無くなっていた事に、僕は安堵の息を漏らす。

 ……ホント、僕はどうやって彼女たちに恩を返せば良いのだろう。

 幾度となく救われた命の恩に報いる方法を、どうにかして探していかないと。

 

 切っ先が暗闇に包まれた剣を見下ろして、そんな風に考えた。

 

「お、お前ら、コイツを庇ってただろ! このヒョロヒョロのガキが、お前らバケモノどもの弱点だ! オラ! コイツを殺されたく無かったら」

「お前、虎の弱点は尾だと思ってるタイプ?」

 

 タバコに火をつけようとして、同行者を思い出しポケットに入れなおした明星先輩のそんな一言を聞くこともできず、距離という概念を一足で消し飛ばした先生に顎を打ち抜かれた野盗は即座に気絶した。

 

「アオに何してんだテメェッッ!!!!」

 

 烈火の如き怒りで拳を震わせながら、今まで見たことも無いような敵愾心を露わに先生が吠える。

 これが僕の事を思って作られた感情だと思うと、なんだか無性に照れくさくなった。

 

「すいません先生、ありがとうござ」

「蒼! だ、大丈夫!? ケガはない!? 痛いとこは!?」

「だ、大丈夫、大丈夫ですよ。先生が助けてくれましたし、目黒さんも刃から守ってくれました。怪我はありません」

「……そ、そう、良かったぁ……」

 

 まるで我が子が事故に遭ったみたいに顔を蒼白とさせ、鬼気迫る勢いで僕の身体を確認する先生にちょっと圧されてしまう。

 心配性、とは言えないか。

 僕だって矢を射掛けられた時、みんなが怪我してないかと心臓が止まるかと思ったんだ。

 

 ……しかし今回は守られてばっかだったなぁ。

 みんなと共に旅を続けたいなら、もう少し自分の身くらい自分で守れるようにならないと。

 改めて今後の課題が見つかった僕は、帰ったら知り合いの冒険者にまた稽古をつけてもらう事を心に決めるのだった。

 護られてばかりじゃ対等とは言えない。

 なにより男の子だからね、良いところくらい見せたいさ。

 

 

 最後の野盗もトリモチで丸め込み風船芸みたいな状態にしおえると、小金井さんがパンパンと手を叩きながらみんなに声をかける。

 

「みなさん、お疲れ様でした。今ので盗賊も最後のようです。では、行きましょうか」

「行く……? どういう事だ、コガネイ。まだ敵が残っているということか?」

「えぇ、えぇ。流石はギギルガム様、ご明察の通りです。彼奴らの一人から聞き出しましたが、どうもねぐらが近くにある様子。夜が明けるまで待てば、襲撃が失敗した事に勘付き逃げられてしまうでしょう。怪鳥討伐の最中に再度襲撃されたら、万が一ということもありえます。ここは先手を打って、後顧の憂いは無くしておくべきだと愚考致します。……なにより、領主様のご令嬢がいる集団を狙ったのです。一人も逃がすわけにはいきません。あの連中はどうせ動けやしませんから、このまま放っておいてアジトの掃討が終わってから、最寄りの村を巡回中の騎士団の方に連行してもらえばよろしいかと」

「……フゥ。わかったよ。では、そちらに向かおう」

 

 段々と自分が彼女の術中にハマっていることを理解し始めたヒート嬢は、深いため息をつきながらも頷く。

 すいませんね、僕らにもいろいろ都合があるんですよ。

 ま、悪い結果にならずに済むよう、精一杯頑張りますんで。

 

 くたびれたように見えるその背中に、僕は心中で手を合わせ詫びるのだった。

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