【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
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そもそも今回の事件は、超巨大生物による災害を好機と見たボゥギフト商業ギルドが、バルツァンの商圏を狙った事に端を発しています。
もちろんバルツァンにだって商業ギルドはありますが、商業ギルド自体がそもそもギルドとは名ばかりな、都市ごとで極めて独立性の高い組織です。
冒険者ギルドのように、冒険者という職を作り食い詰め者を減らした上で魔物を狩らせ、地域、ひいては国内の脅威を取り除くという一貫した方向性が無い。
集団として貫かれた軸が無く、ただそれぞれが利益を追いその地域を蚕食する。
単なる商人の集まりが、その方が都合が良いという理由で組合という組織を作っている、という解釈の方が適切でしょう。
欲に忠実でガメつい商人という人種らしい俗物加減、嫌になってしまいますねぇ?
『そういう鮮烈なまでに清々しい強欲も、僕は嫌いじゃあないよ。
『そもそもたいていの人間は、それだけの出力が出せないからこそ出せる相手を疎むんだ。
『自分じゃできない事を、精神的コストすら支払わず自然と成し遂げる人を、ただ持たぬ者が悪し様に言っているだけさ。
『現状で満足せず"何か"を求め続ける力を、別の呼び方でバイタリティという。
『いつまでだって余念なく、常に最良を求められる根気は、サボりグセのある怠け者としては見習いたいとこだね』
……本心からそう言ってくれるのは、多分センパイくらいのものですよ。
しかし今回は、先輩の擁護空しくその欲望が悪い方向へ働いたワケです。
突然現れた空飛ぶクジラが街道を通る行商やら商隊やら旅行客やらを、見境なくパクパク丸のみし始めた時……ボゥギフトの商業ギルドはあろうことか情報を秘匿しました。
ボゥギフトを治めるヘイルニヒト家へ進言するでも、冒険者ギルドへ情報を流すでもなく、むしろできるだけそういった情報が出回らないように緘口令を敷いた。
この文明度における情報というのは、ほとんどが商人か間者を介して流れます。
市井の人々が伝え聞く話など、あまりに遅くて情報化社会を生きていた我々にとってあくびが出てしまうようなスピード感です。
無論、それぞれ他に情報源を持っているでしょうし──ヘイルニヒト家は武家の猪武者という話ですから、もしかしたら持ってないかもしれませんが──そうでなくても、いずれどこかから情報は流れ、救援を出すことだったでしょう。
だが、商業ギルドはそれをできるだけ遅らせたかった。
少しでもバルツァンの商人どもの資本を削り、遠く離れたボゥギフトの商会がその商圏に食い込む、ないしは乗っ取りたかったからです。
ま、ここまでは出発前からわかっていた話ですね。
というかセンパイがベヒモスさんから聞き出してくれたから判明した情報ですし。
あ、やっぱり? 思いますよね、ベヒモス系獣人だって。本人には言いませんけど。言ってもわかんないし。
で、話を聞いた時に脳裏を掠めたのが、ボゥギフトで現在流れている麻薬についての情報でした。
これは悪王寺先輩が商業ギルドからもともと依頼されていたものです。
たしかセンパイも一緒に潜入調査をされたとか?
『あぁ……あのハチャメチャ危険なブリーダーの所行ったのって、麻薬の売人の情報を集めにだったんだね。
『一匹いたら都市機能がマッハなかわいいいきものが既に繁殖してたのを見て、肝が一瞬で冷え切って-196℃に瞬間凍結されちゃったよ』
そういやあの後、アレの子供がどうも悪王寺先輩の部屋で見つかったらしいんですよね。
たぶん鞄に潜り込んでしまったんだろうとの事だったんですが、鞄の中に餌が無かったのが不幸中の幸いですよ。
なんでも日本で高校生として生活する夢を見たとか、その頃には交友が無かったはずなのになんでとか、ボクは探偵じゃないんだけどとか、色々言ってました。
『えぇ!? そうなの!? ……風呂入ってんのに、めちゃめちゃ嫌な汗かいちゃった。もしかしたら悪王寺先輩が狂ってたかも知れない要因を見逃してたなんて、ちょっと吐きそう……』
まぁまぁ、結果的に大丈夫だったんですから。
なにもかもに完璧に気づけて対応できる人間なんて居ませんよ。
人はうっかりミスをするし、容易く手を抜いてしまうし、簡単に破滅します。
話を戻しましょう。
悪王寺先輩が調べた結果、どうも数ヶ月前からボゥギフトへの黒粉の流入量が倍増していたようです。
もちろん、そこらの売人なんて正確な帳簿をつけませんから、貨幣の流れを見たおおよその概算ですがね。
明星先輩にもスラム近くの教会へそれとなく聞き込みに行ってもらいましたが、やはり貧困地区では中毒者が目に付くようになった、と。
物事には因果があります。
原因があって、理屈があって、結果がある。
商機っていうのは、原因たりうる要素を見て、人々の心理に及ぼす理屈を考え、結果を予測して導き出すものです。
最後のドミノが倒れるのは、最初のドミノが倒されたから。
そこでボゥギフトにおける麻薬の増加という結果には、おそらく「他の流行地域での販売が上手くいかなくなった」という原因があるだろうと予測しました。
まぁ、ある程度当て推量ですが、そこまで確率として低いとは思いませんでした。
そもそもこのバルツァンは帝国随一の観光地です。
観光などという物がそもそも殆どないこんな時代に、これだけ小金持ちの人や潤沢な物資が流入し続ける場所などここか首都くらいのものでしょう。
そんな場所には、得てして薄ら暗い商売が根付くものです。
もちろんこの街には賭場もありますし、いかがわしいお店も数多くある。
そこらへんで小売りの売人がせせこましく糊口を凌いでいる姿なんて、簡単に思い浮かべるでしょう?
軽くギルドの資料をあたりましたが、やはりバルツァンにおける黒粉に限らない麻薬類の検挙率は他地域に比べ高い傾向にあった。
たぶんこれくらいは、ボゥギフト商業ギルドの中でもかなりの人数が気付いていたでしょうね。
……ボゥギフトは外れ値というか、交易都市にもかかわらずあれほど治安が良いのは、おそらくヘイルニヒト家の騎士たちが極めて精強かつ道義的精神に溢れているからかと。
お上に目をつけられたらマズい商品の在庫を、ずっと抱えておくのはそもそもたいへんリスキーです。
しかし物流がまだまだ未熟なこの世界で、そう簡単に大量に運んで捌く事はできない。
街道を往く商隊の馬車だって、結構な頻度で巡回の騎士に調べられますからね。
普段から町中には置かず人目につかない場所に隠匿し、大量輸送はせず確実に隠せる量を、いくつかの地域へと分散させて売りさばくのが定石でしょう。
すでに存在するお得意先に降ろし続けるよりは危険ですが、そのお得意先に持ってって丸々クジラに呑まれちゃうくらいなら、そちらを取るのが普通だ。
だからこそ、私はこの地域には未だ多量の黒粉が眠っていると考えたのです。
例えば盗賊のアジトなんて、在庫の保管場所にうってつけに思えます。
……ですが、ここでついにタイムリミットに至り、出発の時を迎えました。
大雑把な筋道は建てられましたが、しかしあまりにもアバウトな青写真。
ここからは全部アドリブときた。
日本にいた頃にこんな段取りで働いてたら、閑職に飛ばされても文句言えません。
それがまさか自分がこんな立場に立たされるとはねぇ。人生の数奇さには、ほとほと驚かされるばかりです。
道中の宿場でもいくつか悪王寺先輩に聞き込みをしてもらいましたが、立てた予測はそう的外れではなさそうで胸を撫で下ろしたものです。
いくら勝算があるとはいえ、それでも今回かかっているのはみんなのこれからの安全。
抜けてきた修羅場とは毛色が違い過ぎる。
あの一週間、気が気ではない時間もままありました。
けれど、曖昧な目論見が完璧な結実を迎え、普段通りの負けようが無い計画へと至ったのは、ギギルガムさん家で一帯の地図を見た時でした。
クジラ以外の何かによる襲撃だと断定できる被害が、あの中にはいくつもあった。
野盗を使って他の店が関わる商隊を襲わせ、クジラによる被害に見せかける工作を行った。
痕跡を消す意味も兼ねて地面に擦れた後を残せば、勝手にクジラのものだと判断してくれるのだから楽なものだったでしょう。
あのバカでかい鳥類なんだか哺乳類なんだかわからない生物には、意志がありません。
ましてや『ココでこの商会が襲われると都合が良い』なんて、考えもしないでしょう。
そんな醜い欲望が透けて見え、鼻の曲がるような悪意が香る。
見慣れ嗅ぎ慣れた、欲に目が眩んだ悪人どもの謀。
他人の足を引っ張ってでも出し抜こうという商人の原罪。
犯罪と商売の二足の草鞋を履く外道の足跡。
まるでルミノール反応のように浮かび上がるそれらが、馬鹿どもの意図の全てを私に教えてくれる。
この都市における勢力図も、襲撃に用いた盗賊のアジトの場所も、各商会の展望も、それらの商会がどれだけ手を血に染めドス黒い腹の中を肥やしてきたかも。
全部把握するのは、赤子の親に玩具を買わせるよりも容易い事でした。
この時点で、ヒート嬢と騎士たちを伴って盗賊のアジトへ踏み込む事を決定しました。
その事実さえあれば、全ての条件を達成することができると判断したからです。
だから彼女の稚気を煽る為、ギギルガム様が何気なく失言するよう誘導し、センパイにフォローもさせず、あの会談を終わらせた。
彼女が自分を、自領の騎士たちを、父親に認めてもらいたいと考えるだろうから。
それを父親は、ドラゴニュートとしての、貴族としての成長だと認めるだろうから。
親子の間に、見返りを求めぬ愛が存在すると仮定した時、間違いなくそうなるだろうから。
私はそれらを、利用した。
……クジラの餌にする為の食料の買い出し組には、関与した……まぁこの段階ではまだ「と思しき」を付けておくべきですが、それらの商会を回ってもらいました。
これには複数の目的があります。
まず一つは動機作り。
私達を狙った野盗の襲撃は、べつにそれらの商会が指示したワケでは無いでしょう。
真っ直ぐにアジトへと向かってきた冒険者の一団を、野盗が勝手に判断して迎え撃っただけです。
けれどそのアジトに、事前に私達が食料を買い漁っていた店と繋がっていた証拠があれば、それは店が指示をして襲わせたようにしか見えません。
なんせその高値で売った食料をまるまま回収できれば、さらに高値で別の人間に売れるのですから。
今まで何度も盗賊に商隊を襲わせてきた奴らの動機としては十分でしょう。
そして二つめは、その為の秘匿された書類や裏帳簿の奪取です。
これは悪王寺先輩に頼みました。
買い出しに出た商会で、黒井先輩の影術によるサポートを受けた隠密を使い、家探しをお願いしたのです。
あのお二人が合わされば、煌々とサーチライトに照らされた牢獄にいようと誰にも見つからず脱獄できるでしょう。
たいていこういう場所にしまうだろう、という隠し場所は推測出来ましたが、そこからは鹿伏ちゃんの感知頼りです。
こういう事はあまり頼みたく無かったのですが、やむを得ずですよ。
ですが彼女もまた凄まじいですねぇ。
なんとなくで机の引き出しに隠された二重底を見抜く、税務署も欲しがる逸材ですよぉ。
そしてその誰もが、あなたのバフを受けていたからこれを成し得た……友情と金銭がもたらした勝利。
ジャンプもたしか標語にしてましたよね?
『努力はお金で代替できると思ってるんだねぇ……』
勝利もですよ。友情だけはできませんが。
『しかし、そうか。だから買い出しの時に妙に時間がかかってたんだね。いくら慣れがあるとはいえ、僕がいくつかの手続きを熟すよりも遅いのはちょっと違和感があったから』
そうですね、明星先輩と先生には、こちらの教会へ顔を出してもらいました。
やはりここらの貧困地域では、年々麻薬による中毒者が増加傾向にあったそうです。
クジラが出る前は、かなり深刻な問題としてギギルガム様も気にかけていたとのことで。
観光地での正規の商売というパイの奪い合いに脱落した者たちが、新たに粗悪なパイを焼いていたんでしょう。
……そして当然、一つ目のパイを食べたにも関わらず二つ目にも手を伸ばすごうつくばりもいる。
むしろ今やそちらの方が多かったのかも知れませんね。
グランダム様も、いい加減この悪循環を一掃したがっておられたのは想像に難くない。
資金力が強い領地とはつまり、商人が力を持っていると言い換えても語弊がありません。
そしてそんな地位に浮かれたバカどもが、領地の危機に足を引っ張りあっていた。
業腹ここに極まれり、と言えるでしょう。
だからこそ彼は、このまたとないチャンスを逃さない。
今頃私達の計画には気づかれているかも知れませんが……そこは見て見ぬフリをするのが、賢い大人の仕事術ってヤツです。
騎士を引き連れたギギルガム家の令嬢が野盗のアジトに踏み込み麻薬と内通の証拠を抑え、更に地域を襲っていた大怪鳥を討伐して凱旋したのです。
こんな決定的な結末に異議を挟める者など、誰一人いないでしょう。
これから私たちは、ただ温泉にゆっくり浸かりながら、この町に巣喰った悪人どもの破滅を待つだけでいい。
私たちはボゥギフト商業ギルドの思惑通りバルツァンの商圏に大きな風穴を開け、ギルドや貴族に恩を売り信頼を得た上で、払いの良い金をせしめる。
グランダム様は怪鳥と盗賊まで討伐された上に、政策に口を出してくる上に犯罪も犯す金だけ持った邪魔な平民が消えて力を増し。
この街で足を引っ張りあっていた悪党どもは、お縄につき牢の中……もしくはひと足お先に地獄へバカンス。
こうして小金井山算金一世一代のクソめんどくさい案件は、無事大団円を迎えたのでしたとさ……めでたしめでたし。
みごとに三方得という奴です。
これからは近江商人を名乗っても良いかもしれませんねぇ? まぁ私の生家は関東を拠点としておりますが。
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……長い話になりましたが、以上がギギルガム親子の愛を利用した悪人が企んだ、計画の全貌です。
すべてが上手くいったという結果論で、その罪業を酌量減軽して頂くつもりは毛頭ございません。
『そうだね。小金井さんの良心の呵責が、そんな事実で軽くなるとは思わない。きっとこれからも、ヒート嬢を見る度に罪悪感が鎌首をもたげるだろう。
『でもね、小金井さんはあの夜の約束通り、すべてを上手く運び全員幸せなエンディングを達成した。
『だったら、今度は僕の番。
『これから君が自分を許せるその日まで、一緒にその重みを背負うよ』
……熱いプロポーズですねぇ。
『そういうつもりは無いんだけどね……ヒモなんて金にならない生き物、商人は一番苦手そうだし?』
おや? センパイも他者の欲しいものを見誤る時があるんですねぇ。
商人こそがもっとも、金にならない物を求めているんです。
この世のほとんど全てを換金できると信じているからこそ、たった一握りの換算できないなにかを渇望している。
無償の愛に、飢えている。
稀代の商人たる小金井山算金が、それを保証しましょう。
ですので、これは……その愛に対する前金です。
……これは……思っていたよりも、痺れますね。
今度からは、一回金貨一枚でどうです?