【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
書けた場合は普段通り2日後。
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翌朝早朝、もはやすっかり聞き慣れた走り回る馬車の音で目が覚める。
流石にみんな疲れて泥のように眠っていたらしく、今日は誰も僕のベッドには入り込んでこなかったようだ。……そうだよね? いやちょっと自信が無い。
なにしろ疲労困憊のところにいい湯が刺さって更に刺激的過ぎる出来事があわさり、精神がやられて完全にぽやーっと上の空のまま部屋に帰り就寝したから、昨夜の記憶がかなり曖昧なのだ。
おいしい晩ごはんをみんなで頂いた記憶は残ってるのは幸いか、風呂前に食べてて良かったぜ。
カーテンを開けて窓の外を見やれば、初日とはうってかわり多くの店が掃除をしたりと営業の準備に入っていた。
クジラが討伐されて、バルツァンが元通りの賑やかな観光地としての姿を取り戻そうとしているのだ。
もちろんまだ情報が他の街まで出回っておらず、観光客が来るには時間がかかるだろうが、しかしギギルガム家が本気で喧伝すれば、そう遠くないうちに客足は戻るに違いない。
なんてったって今回は、娘と騎士たちが大怪鳥を討ち取ったという華々しい英雄譚だ。
前みたいに襲ってきた怪物を自分たちだけじゃ対処できません、なんて恥を晒すようなゴシップじゃあない。
金も人も伝手もなんでも使って、盛大に世間へと知らしめる事だろう。
なんなら僕らがボゥギフトに帰っても、吟遊詩人の唄として聞く事になるかも知れない。
僕たちのパーティが、この街の人々の生活を取り戻したんだと思うと、なんつーか……みんなの頑張りが報われたみたいっていうか。
大好きな人たちの活躍が誇らしく思えて嬉しくなっちゃうのは、ちょっとガキっぽ過ぎるかな。
大きな声で挨拶をして行き交う人々の明るい笑い顔を見ながら、そんな事を考えるのだった。
さてさて本日のご予定は、まずはみんなと朝ごはん、その後数時間おいて領主邸へ馬車でエスコートされ推参。
こっからはまったくの未知数となっております。マジ? マジです。
そりゃ修学旅行のしおりなんか用意されてないからな。
ギギルガム様との話も「では明日改めて、我が屋敷へ招待させてくれ」で終わっちったし。
いやしかしさぁ前は依頼を受けた冒険者としてだったからいいし、今日もたぶん詳細な報告と身内だけの食事かなんかだろうが、このままだと滞在中にパーティーとか呼ばれかねないんだよね。
貴族様のパーティーって、こちとらドレスコードは絶対に遵守できない革鎧と麻っぽい服しか無いぞ。
貴族邸に行く服をユニクロに買いに行く服はあるがユニクロがねぇ。
僕は周りから見劣りする貧相なガキんちょでもいいが、みんなには恥をかいて欲しくない。
今回の報酬でお金は山ほどあるワケだが、オーダーメイドのドレスみたいなのは作るのに時間がかかるだろうからなぁ。
今日のギギルガム様の温度感を見て、近くお呼ばれしそうなら流石にそういうのも相談しておくか。
そういうドレスをみんなに買ってあげたい……と言いたいところだが、今回は全員同じ額の報酬を得ている。
そこでみんなにドレスを僕のお金でプレゼントというと、むしろ変に気を使わせてしまうだろう。他人から金品を貰って申し訳ない気分になることに関しては一家言あるからな。
つか僕の場合、その後に三倍くらいのお小遣いをもらうハメになるのは目に見えている。
だからここは、求められれば意匠や色合いに関して意見を出していく、くらいが良いだろうな。
それにあわせるアクセサリか何かを、僕が見繕わせてもらう事にしよう。
たぶん高い服に合わせるなら、組み合わせ以前に本人の気分も大事だろう。サプライズじゃなく一緒にそれぞれ見て回るか。
みんなに気を使わせず贈り物をするなら、今回はおそらくそっちの方が良い。
というかそうなんだよな、僕らもう今めちゃめちゃな金持ちになっちゃったんだよな。
この領でクジラを倒したわけだから銀貨3000枚を報酬として貰い、素材を競売にかければ金貨で500枚くらいいくだろうって事だった。
オークションはこれからどっかにもってって開催を待って……みたいな感じで時間はかかるだろうが、即金でも9000万、一人頭千万とちょっと。百何十万をちょっとと表現するのは抵抗があるな……。
オークションの結果の総額なんて前後するだろうが、もしそのまま鵜吞みにするとしたら15億円程が転がり混むことになる。
暗算は苦手なんでどんぶり勘定にはなるが、8人で平等に等分しても1億8千万くらいか?
合わせりゃ約2億円。
うまい棒算に直すと2000万個……と思わせておいて、今や値上げで15円の為1333万個で割り切れずって感じだ。関数が変わっちゃう計算式は駄目だろ。
てか銀貨1枚一万円じゃなく三万円なのがめちゃめちゃ計算を面倒にしているぞ。
でも体感的にはこれくらいなんだよな……。
桃鉄以外で日常生活において数える事のない桁数の複雑な計算に、だんだん頭が¥マークのフラクタル模様で埋め尽くされていく。どんな形?
日本に居た頃は常に求めて四苦八苦していたハズのものが、突然降って湧いたように手の中に納まってしまった。
なんとなく、ふらりと頭が揺れる感覚がある。
これは起床直後だからなのか、それとも……異世界の方が暮らしやすい、なんて思ってしまいそうだったからか。
そこまで考えたところで扉が開き、誰かが部屋の中に入ってきた。
「青海君、起きていましたか」
「おはよう委員長、今起きたところだよ」
タオルを持った委員長が、今しがた僕が起きたばかりのベッドでころりと一回転転がってから、窓際へとやって来る。
すごいシームレスにベッドを使用された。僕でなきゃ見逃しちゃうね。
頬を染めて嬉しそうだし、何も言うまい。
「では顔を洗いに行きましょう」
寝てるかもしれないっつーのに、僕が顔を洗う時にタオルを差し出す為にわざわざ出向いたの?
ちょっと凄すぎますね。ニューヨークへ行く前の星の王子じゃねぇんだけどな。
……もしかしてもっと早い時間から、何回か来てたりしねぇだろうな?
あまりにも純度の高い行き過ぎた愛情に、脳にこびりついていた眠気がものの見事に吹き飛んだ。
これちょっと道を間違えると、とんでもねぇヤンデレみたいな事になりませんか?
……ま、初めて好きになった人と、いつだって一緒にいたいって気持ちはよくわかる。
僕にできることなら、なんだって喜んで付き合うから問題無いか。
僕はふんすふんすと息を荒くした委員長に手を引かれ、タオルを差し出してもらう為に顔を洗いに行くのであった。
■
「なるほど……昨日ヒートからも話を聞いたが、まさか本当に竜となったとはな……火球や怪鳥と竜が戦う姿はココからも見えたし疑うワケではないが、未だに信じられんよ」
龍の髭を指で摘みながら、ギギルガム様は天を仰ぎ感慨深そうに呟く。
己の娘が一族の悲願とも言える竜化を、曽祖父以来再び成功させた事に、喜びを隠せないのだろう。
今回は賓客の待遇で再び訪れたギギルガム邸にて、僕らは事の顛末を仔細に語った。
討伐後、バルツァンへ帰り着くまでに話しあった結果、僕のバフによってではなくクジラが襲い掛かってきた際本能的な枷が外れ火事場の馬鹿力的に竜への変化を成した、という事になっている。
これには随伴した騎士が、ヒート嬢に心酔するお付きたちだった事も幸いした。
他の団に所属する騎士も混ざっていたら、流石に当主様には黙っといてねなんてのは通じなかっただろう。
「いざという時に変化ができたならば、これから精進すればすぐに自在に行えるようになるだろう。我が領も竜の加護を得られれば安泰というものだ。……君たち、本当によくやってくれた。そしてすまないな。ヒートも無論貢献はしただろうが、話を聞くに実際に討ち取ったのは君たちだ。だが今回の事は、概ねヒートが主導し成し遂げたという事になってしまう」
「異論はございません。彼女の力が無ければ大怪鳥は逃げていた可能性も高く、なによりヒート様の領を思う気持ちには心打たれました。ぜひそのようになさってください」
僕らを代表して先生がそう応え、みんなもそれぞれ納得済みで頷いている。
貴族様が僕らの成果を横取りした! なんて露悪的な言い回しもできなくはないが、名声も功績もいずれ地球に帰る僕らより、ヒート嬢が手にした方が有用なのは間違いないじゃんね。
それにそもそも僕らは変に名前を売り過ぎると、またこんな厄介な依頼を持ち込まれかねないからなぁ。
きちんとした報酬だけ貰えれば、僕らはそれ以上のものは要らないのだ。
なんなら誰も彼もから崇められるより、この後の温泉街でののんびりゆったり湯けむり満喫旅情の方が楽しみまである。
目黒さんなんて転移後初の休暇旅行に珍しくウキウキで行きの馬車で鼻歌が止まんなかったし、鹿野ちゃんはそれにあわせてヨークシンシティを見下ろすクロロバリに指揮までしてたんだぞ。2人とも愛らしすぎる。
報酬は滞りなく支払われたし、ヒート嬢の事もあって更に銀貨200枚が上乗せされた。ろ、600万をポンと追加していいのか!?
8人で割りやすいようにって事だろうか、学の無いだろう庶民に対する優しい心遣い痛み入るね。
で、競売の方は大方の予想通り部位なども分け逐次行われるため、数ヶ月毎の支払いとなる旨を告げられた。
あのでっけークジラの死骸は、今も郊外にある領主所有の厳重に警備された倉庫へ何台もの魔車を駆使して運ばれているそうだ。
防具などに使えそうな部分はパーティ分だけ貰いたいと伝えると、冒険者ギルド経由で送らせてもらうと承諾を頂いた。
こんな時代にAmazonとは気が利くなんてもんじゃないぜ。先見の明があるな。
確認しなきゃいけない事も言うべき事も無い以上、僕みたいなガキが変にでしゃばって口を開くこともない。
つつがなく話は進み、昼ごはんにマナーがバッチリ問われるガチガチコース料理が出て明星先輩と僕がスーパー悪戦苦闘。
ウマいムズいウマいウマいムズい!! 食器を一切鳴らさないように食べるの気が散る!
このコッテリした肉の脂と煮詰めて形を無くした野菜を、よくわからん白濁した膜で包み淡い紫のソースをかけたヤツガチでアツい! 丼で米に載せて出してくれ!!
儀礼を意識し過ぎるあまり、脳内が逆に粗野になってしまう。心はゴム鞠、押さえ付けられれば必ず跳ね返そうとするって事やね。
しかしなんで世界が違うのに、食器やそれらを用いたマナーは大体似たような形に落ち着くんだろうか。
フォークで濃い緑色のキノコを突き刺して咥えながら、ふとそんなことを考える。1UPしそうだなこれ食うと。
二足歩行の知的生命体が取る礼儀の行き着く先は、同じものに収斂されるのかも知れない。興味深い研究テーマだ。
万一大学に進学したら、卒論の題材はこれにしよう。
間違いなく卒業できんくなるだろうな。
目黒さんと委員長はマナーを詳しくは知らないようだが、元々の所作が綺麗なのでなんとかなっていた。資質の差だ。
他のみんなとの産まれの差を感じさせられ凹む僕らを微笑ましく見ながら、ギギルガム様は「君たちほどの冒険者であれば、これからはこういう場も増える。経験の無いことはできなくて当然なのだから、今回練習しておくといい」と寛大なお言葉を仰った。
やっぱりこれからも貴族様との関わりは増加していくらしい。
偉い人との飲み会ならともかく、会食は肩肘張っちゃって身体が凝っちまうよ。
素材は高級で味付けはとびきりなハズなのに、なぜだか野営で作る燻製肉と芋のごった煮が恋しく思えるのだった。
いやでもホントにウメーんだよな……これなら頑張る甲斐はあるのかもなぁ。
昼食後、盗賊に襲われた時の話をしたり逆にクジラの被害がどれ程のものだったかを伺ったりと時は過ぎ、日も暮れる頃合いにお暇をさせてもらうことになった。
なんか緊張してたのもあってあっという間に時間が過ぎた気がする。
内容としては話して褒められてお金貰ってご飯ご馳走してもらいまた話しただけだからなぁ。
これまでの冒険ほど起伏に富んでないから、何気ない日々は瞬くように過ぎ去って感じるのかもね。
別れ際に、一週間ほどしたら次は人を集めた場で再度パーティーを催すので来てねと言われたので、やっぱりか〜と思いつつ服装についてこの場でご相談させてもらった。
へ、へへへ……僕ら見ての通りの田舎者でして……お偉い方々の集まりに見合う服なんて、とてもとても……。
つい物語に出てくる卑屈な小物みたいな事を考えてしまう心根は直した方が良い。
こういうのってTwitter(X)(こう書くとデベソのAAみたいだね)(スゲー悪口になっちゃった)のリプみたいに、テンプレを言いたいだけのあるあるカルタなんだよね。
異世界に来て絶好のシチュエーションに恵まれたら、ついついやっちゃいたくなるのがポタクの人情ってもんよ! インターネット江戸っ子だ。
するとギギルガム家御用達の服飾店を紹介してもらえるとこの事で、明日にでも向かってくれと軽く返された。
い、一週間でドレスかなんかを7人分作れるんスか!? と驚く僕に、君も作るんだから8人分だと苦笑いで訂正されてしまう。
と、とんでもねぇブラック労働だ! いやしかし通報しようにも労基と貴族のどっちが強いかわかんねぇ! チャカとダンビラみたいな話になってしまった。
そりゃ今は高級な服を頼むような客は一人も居ないだろうし、閑古鳥たちが絶賛RADの『正解』でも大合唱してるだろうけれど、突然舞い込む超納期のキツい断れない依頼とか……ちょっと前の僕らとシンクロして可哀想になってしまうなぁ。
その分代金は高いのだろうけれど、あんまり注文とかはつけないようにしよう……。