【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
もう4章まできた。早い。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
ちょうど時間も空いたし、ちょっとみんなと別れて大通りへ。店を見て回りお土産物を選んでいく。
本来ならみんなと見て回りたいとこだが、ここんとこずっと集団行動が続いてたからな。
たまには男の居ない自由時間もあった方がいいだろう。
土産ってのは大事だぜ。なんせ僕らが旅してきましたってのは相手も知ってるからな。そこで不義理を働かない事が人間関係のコツだ。
消え物か小物かはたまた大物か、人によっての選び分けでセンスが問われる。
……なんて知った口を聞いてはみたが、こういう事は慣れてねぇんだよね。
全部バ先の店長の受け売り。
よくわかんないキーホルダーを僕に手渡しながら、そんな事を言っていた。
でも友達の欲しがりそうな物くらいなら、僕でもわりと見当がつく。
まずヒダルさんは酒でいいだろ。マグニフィス兄弟も酒で間違いない。オーランドさんも酒がいいかな。ラウ爺さんもシモン爺さんも酒……ダメだ! 知り合いがほぼ酒飲みしかいない! このままじゃ酒問屋の仕入れになっちまう!
取り敢えず安牌過ぎる酒は後回しにし、先に一通り回っていくことにする。
案外ティンとくるものが見つかるかも知れんしな。
それに少ないとはいえ、酒以外が必要な交友関係もあるんでね。
統括ギルド受付のマーガレットさんとか、錬金術師ギルドの経理のマスクネ女史、あと解体作業員のベニーなんかは下戸だ。
やっぱギルドに勤める人とはどうしたって日常的に顔を合わすし、会った相手とはいらん事をくっちゃべっちまうから自然知り合いも増える。
飲みニケーションばかりじゃいけねぇと意識を改めた僕は、きちんと世間話にもスキルポイントを割り振りマスター済みだ。嘘。この世界にそんな便利なものは無い。
思い返せば日本にいた時はバイトで客と事務的な応答をするか、店長と話すかくらいしか会話の機会が無かったのに、随分とまぁ様変わりしたものだ。
先生がエルフから人に戻る以上、僕もたぶん元には戻るんだろうけれど、もしこのまま帰ったら叔父さんも叔母さんも僕だとはわからないかも知れないな。
あの頃は気力っていうか、そういうのに回すMPみたいなモンが無かったけど、やってみれば案外なんて事無い楽しいものだった。
この『会話』っての、人類単位でウケ続けてる息の長い娯楽だし、みんながハマるのも納得のコンテンツだ。
……その反動で、ちょっと人と話さないだけで寂しくなっちゃうのは考えものだが。
店先の台に几帳面に並べられたお土産物の数々を、流し見程度に物色していく。
ほんほん……木工品が多いな。そもそも金属製品はまだこの世界じゃ高価だから、貴族向けの店でも無いと置いてないか。
しかし平民向けの店にも、翡翠やら瑪瑙やらをあしらった櫛などの高級品もわりとある。
宝石ってのは分かりやすいからな、高くて当然だと理解しやすい。
実用を超えた先の装飾品が高いのは庶民も納得できる。
逆に普段使いするもんにまで金属使って高価にするのは、なかなか理解し難い感覚だろう。
銀食器とかに金をかけるのはホントの金持ちだけっつー話か。
中には雷を纏った龍が剣に巻き付いてる木彫りのキーホルダーもあって、オイオイどこ行ってもこういうちょいダサアクセサリって子供向けで置いてるもんだなと口まで出しかけ、コレが聖堂騎士団の象徴だということをギリギリで思い出して口を噤んだ。あっっっっっぶね。
なんの気無しに背教者になるとこだった。なんでこんな危ない地雷が堂々と道端に埋没してんだよ。
徳川のジッちゃんが脳内で「シンクロニシティ」と嘯いた。こんな事の為に出張ってくるんじゃない。
結構大きな街ではあるが全部の店が開いてるワケじゃないし、開いてても全ての商品を販売用として出してないみたいで、30分くらいで大通りはある程度見て回れた。
客らしい客なんて僕くらいのもんだから、開けてる店もどっちかっつーと商品のホコリ落としに開けただけって感じ。
そもそもまだ客が来る事を想定していないんだろう。
観光地の土産物通りを独り占めとは、独裁スイッチを手に入れた因業爺みたいだな。今後の生涯で二度と使わないだろう例えをしてしまった。
「おぉ! 兄ちゃん! あの怪物倒してくれた冒険者さんだろ! あんがとなぁ! これもってってよ!」
「えー、悪いよそんな! あ、じゃあこっちのは買わしてよ。ちょうど住んでる街に似合いそうな人がいてさ。ほい、銅貨10枚ね。あ、いやいや、いいからいいから。これで酒場でも行って、僕らの名前を広めといてよ、ね」
で、そんな中をウロチョロしてたらもちろん目立ち、その上凱旋パレードにもしっかり出ちゃってたのでいたる所で声をかけられるし、なんだかんだ商品を持ってけ持ってけと押し付けられる。
流石に高い物は遠慮してるけれど、そうなると用途不明の小物やナッツ類みたいな軽い食べ物とかになっちゃうわけで、これはこれで数あっても困っちゃうって。
全然そういうつもりは無かったのに、なんか無心しに来たみたいで申し訳ねぇな。
「えぇ!? いいの!? だってこんなお肉、今の状況だとそんなに無いでしょ……アっっっツ!! わかった、ありがと! もらうから! もらうから頬には押し付けないで! うまい!」
未だ街のそこかしこで祝いの宴が催されているので、その人らからもちょくちょく一杯だの焼いた肉だのスープだのをもらってしまいお腹もはち切れそうだ。
両手いっぱいの木工品やら干した木の実やらを抱え、僕は宿屋へ引き上げて行くのだった。
「てワケでさ、みんな欲しいのあったら持ってってよ。これは街の人からみんなへの感謝の気持ちなんだし」
「なるほど……だから用途不明な置物を山のように抱えて帰ってきたんですね」
言い方。土産の置物なんてたいていそうだけども。
なんて言いつつも、ちゃっかり親指サイズのかわいい猫ちゃんを手にする委員長。
わかる、それイイよね。ちゃんと縞模様まで彫り込んでて手が込んでる。
僕も委員長が好きそうだなと思ってたんだ。
「でもそんなにみんなにツラが割れてるなら、これから散策なんてあんまりできないかも知れないわね。せっかくの異世界の温泉街なんだから、いろいろと見て回りたかったんだけど」
言い方(2秒ぶり2度目)。しかしそうとも言えないかも知れませんよ。
多分ですけど、歩き回る方がこの街にはプラスだし、ギギルガム様としても僕らには出歩いて回って欲しいだろうと思います。
なんてったって僕らはヒート嬢に次ぐ英雄だ。
領主は政治家ってワケじゃ無いから、民衆のご機嫌取りをわざわざする必要までは無いけれど、それでも力のある冒険者がこの街に居るのは未だクジラの恐怖を忘れていない民衆を安心させられる。
……それに上手くいけばココに根を下ろしてくれるかも、なんて下心もあるだろうけど。ボゥギフトがもはや第二の故郷なんで、それはちょいと難しいな。
「……な、なら、街、も見て、回り……たい、で、すけど……少し街の外も……草木と……生き、物を見に……行ってみ、たい……です」
「動植物の観察ですか。私も興味があります。青海君も連れて一度出向きましょう」
いいね。良いんだけど、僕の承認を経ぬまま僕もついてく形で纏まってたな。いくらでも着いていくが。
目黒さんは植物の生育が趣味で、宿の部屋でもいくつか手乗りサイズのを育ててたくらいだし、僕以外の動物もできれば飼いたいタイプだそうだから、生き物全般が好きなのだろう。
ちなみに委員長はそういう趣味は別に無く、目新しい素材の薬効が気になっているだけである。
話が噛み合っているようで、片方は完全にデッドオアアライブ、生死を問わない気になり方をしているのは言わぬが花だろう。
「お? いいですねぇ。じゃあピクニックとでも洒落込みますか。いくら観光地とはいえ、2週間もあればそれくらいレク無いとやる事無くなってきますからねぇ。食っちゃ寝だけじゃ人生飽きちゃいます」
文字通り山ほどある木工品をパッと見ては価値有りと価値無しに振り分けている小金井さんが、その案に乗っかり賛成する。
「そうかい? 宿屋で寝転んでたら、けっこうすぐ時間なんか経っちゃうけどね。ボクは飽くことなき睡眠の虜だよ」
「子王はよぉ、もっと旅行来たら楽しんだ方が良いんじゃねェか? 放っとくとオメェずっとゴロゴロダラダラして朝昼晩風呂入ってまたダラダラゴロゴロと……」
「い、いやいやいや! ずっとではないけどね!? ……でも旅行の醍醐味って勝手に出てくる美味しいご飯、片付けなくていい部屋、お湯使い放題のお風呂じゃない?」
ま、そこは人それぞれかなぁ。
けっこうウチのグループは、派閥がバラバラに別れてるとこありますよね。
趣味があってとかそういう集まりじゃあないし、こんだけ人数いれば嗜好がバラけるのもむべなるかなって感じですけど。
そして悪王寺先輩、私生活ではそういうちょっとだらしない部分があるのめちゃめちゃ良いですね。ギャップが可愛い。また好きになっちまう。
まじまじとご尊顔を拝んでたら、なんとなーく伝わったらしく、クスリと笑われてめちゃめちゃ芝居めいたウィンクが飛んでくる。擬音はバチコンだ。ファンサありがたすぎ……。
「助手クンはさぁ〜〜〜、ホント分かりやすいよねぇ〜〜〜」
難解な事をするのは苦手なんですよ。知恵の輪とかも自分でやらず動画で見て満足するタイプだし。
上膳据膳に関しては、僕はちょっと申し訳なくなっちゃうけど、それが良いって気持ちも理解できる。
普段使わなきゃいけない脳のリソースを全部放棄して、時間を虚無に過ごしてもいい贅沢ってのは確かに存在するからね。日常的に多忙を極める悪王寺先輩みたいに、忙殺されそうな生活をしてる人なら特にだ。
それに温泉にばっか入りまくるのも、温泉が売りの宿なら当たり前っちゃ当たり前だし。
悪王寺先輩みたいに好きな人は朝入って夜入って夜中入ってみたいなね、逆にむしろ疲れんじゃねぇかと思うんだけど。
まぁそれはこの2週間でおいおい試していって、真相を究明していこう。
今年の夏休みの研究テーマは「風呂に何回も入ると疲れが取れるのか逆に疲れるのか」だ。
この年になって自由研究もねぇがな。
「ウチは屋台巡りと温泉巡りがしたいッスよ! 温泉街といえばコレってヤツっすねぇ〜。温泉まんじゅうと温泉卵と炭酸せんべいス!」
「あー、そういう定番のが良いわねぇ。私も最後に私的な旅行に行ったのなんて、教職に就く前だから……詳しい年数は言えないけど、結構前になっちゃう。大学の頃は、なんだかんだいろいろ日本を回ったんだけど」
炭酸せんべいは温泉ありきとはいえ単に地域の銘菓な気がするが、仰るとおり一番メジャーというかセオリー通りの楽しみ方だね。
旅慣れてる先生はともかく、鹿野ちゃんも「結局行った先で一番楽しいコト」をしっかり楽しむタイプらしい。彼女も旅行慣れしてるのかも知れない。
もう流石に薄々分かってたが、たぶん鹿野ちゃんはけっこう良いとこの家の子なのだろう。
ギギルガム様との食事の際のマナーもできる組だったしな。
だから何ってワケではないが、より一層頑張って地球に返してあげなきゃなという意気込みが強くなる。
愛されて育ったこの子を親元に返して、またかけがえのない時間を過ごして欲しいと、切に願う。
なんとなく察知したが難しい事を考えてると思ったのか、当の本人は笑顔で首を傾げると、スーマリワールドのブルみてぇなダッシュで近寄り抱きついてきた。残機減っちゃうよ。
タックルからの組み付きでダメージボーナスものっちまうから、僕なんかじゃ簡単にノックアウトされちゃうね。
よーしよしよしよし。良い子だねぇ〜〜〜。
本人のたってのご希望箇所である耳の裏をわしゃわしゃやると、くすぐったそうに身をよじり擦りついてくる。
柔らかいしいい匂いだし体温高いしで実はすげー頭がクラクラするのだが、彼女がとても嬉しそうに笑う方が大事なので、そんな劣情はどうでもいいしどっかに捨て置いておく。
「オメェらはまたそうやって人前で……まぁ、鹿伏ならいいか。ホレ、鹿伏。こっちゃ来いこっち。おーしおしおしおし、グッボーイグッボーイ」
手を軽く打ち合わせ音をたてて鹿野ちゃんを呼び込む明星先輩は、完全に彼女を小動物だと認識している。ボーイでは無いのよ。
本人もめちゃめちゃ嬉しそうにじゃれついているし、これはこれで良い関係なんだろね。
「さて、鹿伏ちゃんが完全に野に戻ってしまいましたし、今日はここらで解散と致しましょうか。コレとコレとコレ、商業ギルドの有象無象用にお土産として貰っておきますね。そっちは価値あるヤツなので、みなさんの大事な人へ渡してあげてください」
なんかちょっとバランス悪いよな、と思ってた置物だけを選り抜いて摘み上げた小金井さんが解散を告げると、ハーイとみんな元気よく返事をして三々五々散っていった。
小金井さんの言葉を聞いて少し考え込んだ目黒さんが、大きな手の長い指でヒョイと大玉ヒヨコの転がる玩具を手に取ると僕に渡す。
大事な人だかららしい、照れちゃうね。本人も照れてた。かわいい。
周囲にすでに人が居ないのを確認してから、お返しに背伸びをして屈んだ彼女のデコの辺りの前髪に口付けをすると、瞬間的に首筋が真っ赤になってモジモジしつつ影に消えていった。かわいい。
さて、僕はこのままじゃ絶対に晩ごはん入らなそうだし、裏庭で筋トレでもさせてもらおうかな……。
その後、鹿野ちゃんがずっと背にしがみついていた事に気付いたのは、妙に腕立てが出来なくなった僕が地面へと倒れ伏してからであった。