【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【52】 『冒険者と魔物』

「こちらのお色などオススメですよ。帝都の方でも昨年たいへん流行った色合いでして……」

 

 もみじ饅頭みてぇな色合いの生地を僕の胸元に当てながら、服飾店の店長が品の良い笑顔で語りかける。

 こう表現すると「生地」がまんじゅうの生地なのか布の生地なのか分かんないな、叙述トリックだ。僕を製菓会社のゆるキャラにする気か?

 マジで言ってんのかと思うがマジなんだろうなコレ。

 これでパーティーなんか出たら、バルツァンの観光大使になっちまうよ。

 

 当たり前だが、世界が変われば衣服のセンスや流行など全く別物になる。

 それを自分が着せられるとなると、他からの目はともかく、自分の認識としてはかなり恥ずかしい目に会う可能性も十分に考えられる。

 なんてったって既に、逆バニー重装騎士エルフという前例が居るんだからな。

 先生は最近、なんか慣れてきてる感じがあるのもちょっと心配なんだよね。

 私服のセンスがどんどん薄い本に寄っていった場合、なんて言って止めればいいんだろうか。

 

 ともあれ僕は早々に、みんなのドレスへの口出しを自重する事に決めた。

 餅は餅屋、異世界のドレスは異世界のプロのドレスメーカーにお任せするに限るぜ。

 別室で採寸している女性陣には、入室前に後で好みや意見を聞かせて欲しいとは言われていたが、下手なことをすればみんなが好奇の目で見られて恥をかいてしまうからな。

 そうなれば自然、主催者のギギルガム様の顔にも泥を塗ってしまう。良いこと無しだ。

 流れに身を任せなければならない日もある。

 

 全ての提言に「それでお願いします」とだけ答える、初めての美容室に来た中学生のロボットと化した僕は、どのようなものが来ても泰然自若でいる覚悟だけ決めておくことにした。

 

 

「へぇ〜! そういうのがコッチでは主流なんですね」

「えぇ、えぇ、ぜひとも一度遊んでみてください。いやね、私も昔はよく行ってたのですが、今はこの様な仕事をしておりますから、貴族様たちと関わる以上あまりおおっぴらにそういった場所には顔を出しにくく……おっと、皆様も終わられたようですな」

 

 店長のたいへん興味深い話を拝聴していると、別室にて採寸を行っていたみんなが、ワイキャイはしゃぎながら戻ってきた。

 僕はちょっとこっちの服が色彩的に違和感を感じたけれど、この様子を見るに案外みんなはそうでもなかったらしい。性別によって流行りの色が違うだろうし、彼女たちが当たりを引けたなら何よりだ。

 

「青海クン、お待たせ〜。何の話してたの? ……遊びって、もしかして娼館とかぁ?」

 悪王寺先輩がソファに座っている僕に後ろから抱きつき、指先で頬を突いてくる。

 とんでもねぇ距離感だ、デーモンコアなら臨界してるぞ。

 こんな事を日本でもしていたなら、された男子生徒全員が「彼女は僕の事が好きなんだ」と思っている惨状が広がっていたに違いない。

 

 最近彼女はなんだか、距離が近くボディタッチが多い。

 たぶん小金井さんが可愛いイジワルを言って僕をイジるのを見て、自分もからかいたくなったとでもいったところだろう。

 ……なんとなく“そう“なのかもなと思っていた、先輩が天職として盗賊(シーフ)を賜った理由が、あながちハズレでは無かったのかも知れない。

 まぁ悪癖ではあるのだろうが……なによりそれは、一家に一人という形で各家庭に配備される予定を組まれた僕が言えた話ではない。

 マジでどうすればいいのかはちょっと未だにわからないが、解決策は未来の自分に丸投げだ。

 

「いやいや、ちょっとこの街の見所を聞いてただけですよ。みんなはドレスどうでした? お気に召しそうです?」

「ま、それは出来てからじゃないと分かんないかな〜。とは言っても、サンプルとして見せてもらったのはとっても綺麗だったよ」

「それはなにより、早くみんなの着飾った姿をみたいですね。ただ、僕はちょっと自分のセンスが流行と乖離してるのを感じたので、みんなには意見じゃなく感想を言うのが関の山になりそうかなって。もともとそんなにファッションに詳しい方じゃないですしね」

「そうなんか? あー、でもよく考えたらオレ、まだ青海の私服姿見た事ないもんなぁ。スマホに写真とか入ってねぇのか?」

 

 こった肩を解すように回す明星先輩が、僕と悪王寺先輩の話を聞いて意外そうな顔をした。

 あんだけ女の子に粉かけるようなヤツが、自分でファッションセンスが無いと認めるのが意外なんだろう。

 先輩は高級店でずっと肩凝らせてるっすね。先生の程じゃなくても先輩も体格良い分スゲーからな。よければ後で肩揉みでもさせてもらうか。

 

 いやね、そもそも僕は社会性の無いぼっちなんですから、そういうのには疎いんですよ。

 今だってみんながどんな服を着たら似合うかなとか、明星先輩はどっちかっつーとサマーっすよね、みたいなのは考えられても、自分の服に関してはファッションもクソもないのを店で買って済ましてるし。

 まずそんなに余裕があるワケじゃない世界だから、市民はオシャレなんかほとんどしてないしね。

 

「そんな感じなんで、自分の全身を写した写真なんて撮ってないっすよ。自撮りとかするタイプじゃ無かったんで」

「そーれが意外なんだよな。けっこうチグハグっつーかさ。ナンパするヤツって、もっと自分に自信があるもんじゃねぇか?」

 おっとぉ? 僕にとって宇宙よりも遠い単語が出てきたぞ。

 やった事はないしどう見てもするタイプには見えないハズなのだが、冒険者仲間とかにもよく一緒にナンパやんないかって誘われるんだよな。

 そもそもよくわかんないんだけど、ナンパって成功したら相手とどういう関係になる気なんだ?

 友達ならそんなナンパ気取らず普通にタイミング見て話しかけて成ればいいし、初対面の相手と恋人になっても好みも趣味も相性もわかんないでしょ。

 男女関係ってのはまだまだよく分かんないぜ。

 

「いや、ナンパはした事無いですからね。みんなとは遊びたいし一緒に居たいから勇気を出していろんなとこに誘ってるだけで、傍から見ててもどんな女性にも積極的ってこた無いでしょ?」

「……そう、なのかぁ? そうかぁ……なら、まぁいい、のかなぁ」

 なにが『いい』のかは分からないが、彼女なりになにか納得したのか首を傾げつつ数度頷いてパッと話を変える。

 

「あ、オイ! それよりよ! 奥にどう見てもみかわしの服っぽいのが有ったんだけど、やっぱアレ装備したら回避率上がんのかな!?」

「いや〜、そんな上手い話は……そっか、有り得るんですねこの世界なら。思えば防具や装飾品の効果って確かめた事ありませんでしたね。言われてみればファンタジーなんだから、そういうのがあってもおかしくないのか」

「な! だよな!? 身体感覚が生身のままだからよぉ、そういうRPGっぽい事と線がまだ繋がってないんだよなオレ。帰ったらヒダルのオッサンにちょっと聞いてみようぜ。オレほしふる腕輪があるなら欲しいぜ。あと普通の武器とかは要らねぇけどさ、はかぶさの剣あるならマストだろ」

 神様の居る世界でバグ使うのはちょっとリスク高くないっすか? 数値の書き換え系は特に、エラー起きたらどうなるかがホラー過ぎて試す勇気も出ねぇや。

 

 とはいえ、みんなの危険が少しでも減るならいろいろ試行錯誤しない手もない。

 僕らはステや編成から見たみんなに欲しい補助効果について、ゲーマーらしく談義をするのだった。

 

 

 

 

 

 

「……ではご一同、よろしいですね?」

 薄暗い部屋の中。

 手汗を握りしめながら、全員が声も出さずただ首を縦に振る。

 十数人程度の人間が固唾を呑んで、穴を開くほどに一点を見つめていた。

 熱い。

 夏の盛りだとはいえ、陽も沈んだ夜なのに汗が垂れる。

 まるで居並ぶ男たちの昏く燃える欲望が、現実へと影響を及ぼしているかのように。

 

 誰かが息苦しさからか、小さく喘ぐように空気を吐き出す音が室内に響く。

 このままこの時間が続けば、誰かが酸欠で倒れてしまうのではないかと思えるほどに密度をもった濃い空気の中。

 

 この世界では珍しい黒く染めた服を着込んだ線の細い男が、手元の木札の最後の一枚を裏返す。

 

 

 そこに描かれていたのは、デフォルメされた牙を剥く獣。

 

 

「「「あ゛あ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁッッ!!!!!」」」

「「「うおおおおおおオオォォォぉぉっッ!!!」」」

 

 ガッツポーズを取る者。天を仰ぎ表情を歪める者。

 対局的な動きをする二組の全員が、しかし漏れなく雄叫びをあげ吠える。

 

「えー、冒険者3、魔物4。ですのでこのクエスト、失敗となります」

 

 ディーラーが粛々とそう告げると、ガタイのいい男がクエスト成功に賭けた者たちの前に置かれた硬貨を集めて、テラ銭を抜いた残りを失敗に賭けた者たちへ配分してゆく。

 

 バルツァン名物の賭け事、『冒険者と魔物』。

 やってる事は丁半博打みたいなもんだなコレ。

 奇数枚の木札を裏返し、冒険者札が多ければクエスト成功で魔物札が多ければクエスト失敗。

 そのどちらかに銅貨30枚を一本とした棒を賭けて、勝った方は自分の賭け金と負けた方の総額を頭割りした合計から、胴元が手数料を抜いたものを分配。

 まぁそもそもの冒険者と魔物の描かれた木札の枚数が変動するから、確率的にはこちらの方がバラけてるって点は違うのか。

 詳しい部分はわかんないねぇ。そもそも地球では丁半博打どころか博打をやってないから詳しくないのよ。

 

 識字率や市民への教育の程度が低い文明度で行われるギャンブルは、シンプルかつ簡単なものに限られる。

 今の一戦であれば冒険者札8枚、魔物札10枚をシャッフルし上から7枚取ってそれを裏返した。

 わざわざ計算するような人は居ないけれど、しかし感覚的におおよそで確率の差がわかりやすい。

 

 確率的に低い方に賭ければ、高い方に賭ける人数が多い分リターンがデカい。

 とはいえ一方的すぎるとハイリスク側に誰も賭けなくなるからゲームになんないし、その辺りは毎度調整しつつ行われているようだ。

 

 普通に生活をした経験則でわかる程度のリスクリターンなので、説明されないでも体感的に理解できる。

 シンプルな運ゲーだが、だからこそ変に頭を使わないでいいので庶民は熱くなる。

 それに胴元は持ち出しが無いからイカサマを心配する必要も無い。

 娯楽の少ないこの異世界の庶民たちの間で流行るのも納得だね。

 

 目の前で数戦行われた遊戯を冷静に分析する僕の前に置かれていた賭け金を、お兄さんが淡々と持っていった。ワイの負けや。

 

 ひょんな事から店長にこの街で流行っているギャンブルの情報を聞いた僕は、夕食後にぶらりと遊びに来てみたのだ。

 みんなは今頃温泉巡りをしている頃だろう。

 バルツァンには大衆浴場的に開かれた温泉がいくつもあるのだが、なんでも今日行く所は高台にある女湯しか無い露天風呂らしい。

 先々代の皇帝の妃がワガママを言って作らせた個人用の物を、諸々の設備のランクを五つくらい下げ市民向けに改造して作ったところたいそう評判になったもので、夜に入ると満点の星空の下湯に浸かれ、この世の極楽と称されているのだとかなんとか。

 

 そんな歴史を大事にする為か男湯が無いので、僕は空いた時間を潰す娯楽を求めてここまでやってきたってワケ。冒険者4枚、魔物3枚で3枚引きィ……?

 なにも10日間近く賭け事をやってないから禁断症状が出てつい来ちゃったなんて事はまったくない。クエスト成功に張るぞ……っ!

 そもそも僕はヒモという天職についたからギャンブルをやっているのであって、殊更賭けが好きかって言われると実際のとこそうでもないんだよねあがががががががががが!!! おかしいだろ確率が!!!!!

 

 つってもこのギャンブルは直ぐに結果が出る上、一度の遊びに一本しか賭けれないと決まっているので長く遊べる、ホントに遊戯に近いものだ。

 胴元は場を開いて札めくるだけで安定して金が儲かるし、酒屋を併設してるから食い物や飲み物でも稼げる。

 めちゃめちゃ健全な大人の遊びに昇華されてんね。

 

 競魔はその性質上そうそう何レースもやれないし、ヒダルさんのように大金を賭けれちゃうからなぁ。

 それに比べりゃマジで紳士のゲームだ。

 

 なのにこんだけめくる札に見入るほど熱くなれるんだから、馬鹿な男ってのは単純なもんだぜ。

 実際僕が競魔が好きなのは、みんなが大声で叫びテンション上げて飲んで吐いて騒いでる空気が好ましいからだ。クエスト失敗に張る。

 そしてこの冒険者と魔物もまた、大の大人が真剣に見守り一喜一憂する空気が、本気で今を楽しみ騒ぎ酒を飲む時間が、とても楽しくてたまらないのだ。

 この先行きの暗い世界で、それでもなお明るく酒を呑み遊んで日々を生きようとする人間の喧騒を、僕は愛おしく思う。だっしゃーー!!! 当然よ!! こちとら数学A履修済みだ!!!

 

「カーッ、流石怪鳥を倒した冒険者様は違うねぇ」

「やーめてよオッチャン。僕は単なるお付きで、ホントに強いのは彼女たちなんだから」

「いやいや、金級冒険者のお付きだってたいしたもんじゃねぇか。なぁ?」

「そうそう、普通の人間なら走るのにもついてけねって。それに今だって勝ってたろ? 勝負勘ってヤツを持ってるんだぜきっと、あやかりてぇなぁ」

「えー? もー、オッチャンら上手いんだからぁ! 店員さーん、こっちバーガル5杯ね!」

「おっと、そういうつもりは無かったんだけどね。へへへ、あんがとさん」

 

 僕が「クエストは成功するもの」というイメージを持ってるせいで失敗にあまり張らないので、近所にある飯屋の店主らしいオッチャンたちの方がよっぽど勝ちを重ねてるのだが、そこは今回の討伐の功労者に花を持たせてヨイショしてくれてるのだろう。

 酒を一杯ずつ奢ると、鼻の下を擦ったり僕の肩をバンバン叩いたりしながら、みんな嬉しそうに受けとってくれた。

 なんでもここんとこは先行きの不安や食糧事情から、ほとんど賭場どころか店も開いてなかったらしい。

 久々に集まって全員で楽しく飲んで遊べるのが、よほどみんな嬉しいのだろう。

 

「な、兄ちゃん。一発今回の冒険譚を聞かせてくれよ。あのどデカいバケモンを、いったいどうやって倒したのか! 吟遊詩人もまだ唄にできていない、一番新しい英雄の話を!」

 麺料理屋を営むマークさんのそんな一言を聞いて、周囲の人たちからも口々に賛同の声や口笛があがる。

 チラとディーラーさんを見れば、笑顔でどうぞのジェスチャーを返してから木札を箱へと直して厨房へと入っていった。大冒険の話を肴に進むであろう酒を売る方へシフトチェンジしたらしい。

 

「しょーがないなぁ、じゃあ一席()たせてもらおうか! ギギルガム領を突然襲った空を覆うような大怪鳥を、グランダム様が呼び寄せた僕ら金級冒険者と、この領が誇る騎士団を引き連れたヒート様が見事討ち果たした、稀代の英雄の冒険譚を! ……しかしね、なんと僕らの出会いは衝突から始まったんだ。ヒート様は金級なんて肩書じゃなく、まず自分たちの実力を見せよと騎士に一当てさせ実力を測ったのさ。まずここから彼女の深謀遠慮が感じられようと言うもので……」

 

 多分あのギルドの酒場での一連の出来事を見た人間もいるだろうが、しかし表通りでの喧嘩は観衆も居ない間にすぐに決着がついたし、慌ててギルドの奥へと引っ込んだので彼女が泣いてた事まで知ってる人間は居ない。

 ここで多少盛っても、どうせ真実を知る者は居ないのだから構いやしないだろう。

 

 よっ待ってました! いいぞー! とやんややんやの合いの手を受けつつ、酔いの勢いを借りて舌を回す。

 僕は事前に話し合って決められたストーリーを、波乱も含めて情緒豊かに、しかしいかに彼女が勇猛な竜で冷静な策略家だったかをできるだけ誇張して。

 

「……そして領を襲う怨敵を前にし、腹の底より湧き上がる怒りや使命感からか、彼女は竜と化した! 数多の魔法陣を展開し飛び上がり、化け物へと肉薄すると鋭い爪で切り裂き、比類なき牙で嚙み千切る! その交戦の最中に天へと打ち上げられた火球を目にした人は、この中にもいるんじゃないかな?」

「あぁ! 見たぞ、凄まじい炎だった!」「やっぱりアレはヒート様が……!」「すげぇ……」

 

 反応の良い聴衆に気を良くした僕はご飯やお酒を奢られ何故かおひねりまで投げられつつ、この後金級冒険者の補助を受けたヒート様が怪鳥を引きずり堕とし、僕らの攻撃で弱ったソイツへ折れた木をぶん投げて串刺しにするクライマックスに至るまで。

 日付が変わりそうな時間をかけて、長々と講談師の如く語り明かすのであった。

 

 

 そして深夜にこっそりと帰宅した僕は、起きて待っていた先生にこってりと絞られる事となる。

 修学旅行の夜は消灯時間までに帰らなければいけないらしい。

 なにより行先を言っていたとはいえ、普段と違う町で深夜まで帰らないと心配になります! と怒られた。

 仰る通りで……。

 

 まっとうな大人として叱ってくれる彼女に、僕は夜遊びをした生徒らしく正座をしてお説教を食らうのであった。

 

 危うくその流れで監視も兼ねて同じベッドで寝る話になりかけたので、それだけはなんとか煙に巻いて回避に成功した。

 そんな事してたらいつかホントにパパになっちまうからねぇ!!!

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