【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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ウイルス性胃腸炎で更新が危ぶまれたがなんとかなった。
続きは3日後。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【56】 時には昔の話を

「おや、らっしゃい。まさか英雄様方がウチの酒場なんかに来てくれるとはな。好きなとこにかけてくんな」

 

 笑い声が漏れ出る酒場のドアを開くと、カウンター越しにスキンヘッドの細身な店主が穏やかに歓迎してくれた。

 その声に反応して、そこらからもチラホラと声がかかる。感謝の言葉や、英雄に乾杯!という音頭だ。照れちゃうね。

 委員長はさして照れてないっつーか、青海君の知り合いですか?という顔をしている。酔った人たちって知らない人にも声をかけるんだよ。こう言うと相手が不審者みてぇになっちまうな。

 まぁ知らない高校生に声かける酔っぱらいは、日本なら間違いなく立派な不審者ではあるんだが。

 

 軽く挨拶を返し手を振って、僕らは適当なテーブルに着いた。

 賑やかで活気があるが騒がしいという程ではなく、テーブルもヘコみや傷があっても不潔じゃあない。

 良いお店だ。盛り場デビューには持ってこいだと思う。

 

 委員長が最初に候補に挙げた店は、ちょっと過激過ぎたのだ。

 なにがあったかは知んねぇが、路上まで喧嘩してる奴らが転がり出てきてたからな。

 ここはちょっと敷居高そうだし僕ウイルス属性じゃないから入れないかもつって、別の通りのこちらの店を選んだもん。

 初めてだからこそイメージを先行させて、荒くれ者どもの巣窟を選んだのだろうけれど、別にあんなとこ酒場慣れしてても行く必要がないんだよね。

 まぁ、あぁいうとこはあぁいうとこで、それらしい振る舞いをすれば楽しめるし、なにより今のこの街で僕らを悪く扱う場所なんて無いだろうけれど。

 それでもできれば、最初はスタンダードに満喫できるとこが良いさ。別に食べログ☆4以上とは言わないが、じゃらんに載ってる安牌が安心ってとこ。

 

「あ、お姉さん、バーガル一つと……委員長はまず度数低めのヤツの果実水割りとかどう?」

「では、それを」

「はーい! ちょっと待っててね!」

 

 気風の良いウェイトレスさんがそう応えると、待つほどの間もなく飲み物が到着した。

 こんだけお客さんが入ってるのに、よくまぁ間違えず零さずオーダー通りにサーブできるもんだ。

 僕なんか飲食のバイトやってた時は、初バイトの緊張からハチャメチャにトチりまくって3日で自主退職に追い込まれたからな。

 ネコちゃんの配膳ロボットに載せるだけなのに皿落としたりね。客への対応も敬語あやふやだったし。作る方はそもそも野菜をフライパンで炒めた経験しか無くて応募もしなかった。そういう人間です、僕は。

 久々に日本にいた頃のダメ人間っぷりを思い出し飲むバーガルは苦いぜ……。

 

 ……そう思えば、今の僕はかなり器用になんだかんだできるようになったもんだ。

 自分の成長でこうなってんなら喜ばしい話なんだけど、これ全部ズルの付け焼刃だかんなぁ。

 ヒモになって酒飲み始めたら考えてる事がするっと口から出るようになったし、この人の為にならいくらでも動きたいと思える好きな人ができたし、敬語はまぁ……怪しくてもそれらしい口調でいればそこまで突っ込まれないという事も知れた。

 どれもこれも全部神が貸し与えた力の帰結で、僕の努力の結実じゃあない。

 それらの起点は、ぜーんぶヒモになったからだ。

 人間万事塞翁が馬とはいえ、ヒモになって良い事が起こっちゃ駄目だろ。アンビリーバボーに取り上げられちまうよ。

 

 

 

 委員長のカクテルっぽいやつはわりと美味しいのか、それとも委員長がイケる口なのか、くぴくぴと頻繁にコップを口元へと運んでいる。

 たぁいえ呑んでばかりじゃ身体に悪い。会話の合間合間に呑むくらいがちょうどいいんだ。胸やけも防いでくれる。

 こういうとこはおしゃべりしに来るもんだからな。

 つってもまだ知らない野郎と楽しく騒ぐのはハードルが高かろうし、僭越ながら僕がお相手させてもらおう。

 

「どう、お酒。結構おいしい?」

「そうですね。今の所、ジュースとそう変わりないように思えます。多少の発汗作用と利尿作用があるようには感じますが、この量なら誤差とも言えますし」

「まぁ、まだ一杯も飲んでないしね。お口に合ったならなにより。しかし、まさか僕なんかが委員長と一緒にお酒を酌み交わす事になるなんてさ。人生何があるかわかんないもんだよ。……とは言っても、異世界転移は流石にやり過ぎだけど」

 

 そこまでは聞いて無いことを赤裸々に解説してくれたので、聞かない方が良い内容はスルーしておく。

 自分の身体の変調に敏感なのは、錬金術師としての性質なのだろうか。

 薬や毒を作れる以上、他の職よりそれらが身近にあるのだから、誤って摂ってしまう可能性も高くなる。

 そこらまでフォローしてくれているなら、ずいぶん親切な話だぜ。

 ならその優しさで、ヒモ以外のまっとうな道を用意してくれても良かったんじゃがね?

 

 

「それは確かに。まさか私が飲酒をするなんて……夢にも思ってませんでした。父や母が見れば、きっと失望し落胆するでしょう」

「そうかな? もちろん怒りはするだろうけれど、まずは心配するんじゃないかって気がするけどね。というか、それよりなにより、何もかもを放り出してでも……君の無事を喜ぶと思うよ」

「そう、でしょうか……いえ、そうでしょうね」

 

 僕らは今頃日本でどういった扱いになっているのだろう。

 神隠しや集団失踪と騒がれているのか、それともまるで居なかったかのように誰もの記憶や記録から消えているのか。マジで文字通り神が隠したので神隠しが大正解です。いじわる問題じゃん。

 前者ならマスメディアがこぞって報道合戦をしている事だろうし、なんなら家族にまでその手が及んでいるかも知れない。それはちょっとやだな。叔父や叔母に、これ以上迷惑をかけたくはない。

 みんなの父兄も心労で倒れてしまわないか心配だ。

 あんなかわいい娘たちが急に消えるとか、誰も彼もが寝る間も惜しんで捜索に腐心しているに違いない。

 終われば日本に返すと言っていた以上、騒動にならないようなにがしかの改竄がされる事は期待しているのだが、そこらへん神様はちゃんとやっててくれてるんだろうか……。

 突然攫って突然送還で終わり!なんて無茶苦茶な話は、あまりにあんまりじゃないか。

 せめて魔王討伐のご褒美に、それくらいの奇跡は起こしてみせてよ。神様なんだからさ。

 

「私も両親の事を尊敬していたし、たぶん彼らも私の事を……愛してくれていたのだと、思います。……でも、だからこそ、私はみんなが羨ましくて……そして、疎ましかった。私にはできない事をなんでもないように容易く成し遂げる癖に、正しく在ろうとしないのが理解できなかった。『私が貴方なら、父の言う通りにできるのに』……そう思ったことは、一度や二度じゃないの」

 

 少しだけ酔いが回ってきたのか、朱に染まった頬が愛らしい。

 視線を逸らすことなく僕を見ながら、彼女は別のなにかを見詰めて懺悔する。

 眼鏡の奥の目を細め、僕の中の僕をその瞳に映して、あの在りし日へと記憶を遡らせる。

 

「そりゃそれくらい誰だって思うよ。妬みも嫉みも、そしてそれらに対する自己嫌悪も、きっとクラスのみんなが等しく抱えていた感情だ。僕だって橘君の弁当がめちゃめちゃ美味しそうで毎日妬んでた。あの子んちってお店かなんかやってんの? カキフライにハンバーグは凄すぎじゃんね」

「橘君は確かに洋食店の息子ですが、あれは単に彼がラグビー部で多量にカロリーが必要なだけです。……けれど、その通りなのでしょうね。人は堕するからこそ規則で律せねばならず、そして堕ちたらば這い上がらねばなりません」

 

 生きるだけで堕ちる人間を真似るようにコップの飲み口から垂れた水滴を、彼女は指で拭って縁まで押し上げる。

 その指先にて救い上げるのは、委員長らしくクラスメートなのか、はたまた己自身なのか。

 

「でもね、それは本来持つべきものではありません。人は理想論を目指すべきです。青海君、私はあなたにも嫉妬していた」

 

 突然の告白に、僕はきょとんと目を丸くする。

 そればっかりはまさかだったからだ。

 今みんなに囲まれた境遇をならともかく、少なくとも日本にいた頃この僕が誰かに嫉妬されるとは想像もしたことが無かった。

 

 だってオメェ教室の隅で机に突っ伏して寝たフリしてるぽたく君が、一体誰から妬まれる謂れがあるっつーんだよ。SNSで彼女居るだのテスト満点だの虚栄心から大嘘のマウンティングかまして、それを鵜呑みにする稀有なネット音痴に妬まれるくらいが唯一の可能性だろ。

 いや僕は寝たフリじゃなくマジで寝てたし、SNSは友達が居ないからやってなかったけど、それがプラス査定に繋がるワケも無い。むしろ余裕の無さも合わさって倍率ドンで喫水線を下回るわ。

 序盤中盤終盤隙が無く最低点をオールウェイズお出ししている有様。0Vヌメモンです。どうして最初は望まれて産まれたハズなのに、こんな生き物になっちゃうんですか……?

 これまでの人生の自己採点で脅威のマイナス八阿僧祇点を叩き出し、完全にバッド入ってしまった。これが酒の功罪か……。水が高きから低きに流れるように、一切の抵抗無く責任は酒に転嫁された。わざマシン103でみがわり覚えといて良かったぜ。

 1/4ほど減ったHPは、見ないフリしてもホントは欺瞞に気付いている己の心の証左でもある。

 上手く生きた気でいる大人だって、実は傷ついているんだね。

 しなくていい社会経験をまた一つ賽の河原の石の如く積んでしまった。ガキが大人になる為のイニシエーションにしては、ちょっとアイロニーが効きすぎてる。

 

「なんでか本当にわからないって顔をしてますね。……青海君は、あの頃から不思議な人でした。誰とも関わろうとしないのに、なんでかみんなどこかであなたを気にしていた。視界に入るあなたが、誰もの毎日の記憶に残っている」

 

 僕そんなに印象的な顔してる? きょうはなんにもないすばらしい一日だったって書かれたクラスメートの絵日記には、必ず僕が描かれてるって事か? This manじゃねぇんだぞ。ポポローシャはあっちの世界にいないしね。

 ないない、ないです。それは完全に委員長の勘違いだって。

 だってそうなら、そんなみんなからZ注目されてる僕をナヴィが「あの子、トモダチが欲しいみたい……」って解説してくれて、僕の電話帳が容量限界まで埋まってないとおかしいじゃん。

 どう考えてもイベント進めるには交流をする必要があるタイプのキャラだもん。進行度としては森の神殿前あたりに出るぞ。

 

 立て板に水で恐らく彼女には通じないであろう懐ゲーの例えを脳内で繰り広げる僕を無視し、唇をカクテルで湿らせ僕の知らない僕の話を委員長は語り続ける。

 

「クラスで誰とも話さず、休憩時間はずっと机に顔を伏せて寝てるし、授業中も時々眠りこけてる。なのに、誰もあなたを邪険には扱わない。遊びに誘う事はないし話しかけもしなくても、それでも誰かがあなたをバカにする事は一度もなかった。体育では失敗もするし、なにもないとこでこけるし、赤点で数学の先生に呼び出されたりしていたのに……なんでか、イジメの対象になることも、陰口をたたかれることも、茶化されることすらなかった」

 

 いや、それはたぶん本当に影の薄いぼっち君だったやからなだけだと思うけど……。

 単にみんなの眼中に入ってなかっただけっていうか。

 みんなだって暇じゃねぇからさぁ。

 ほら僕って小学校のクラス劇でも木の役やってるタイプだったし、人間よりもオブジェクトに近い奴なんて俎上に上げる事すらないってだけでしょ。

 それに他のバ先ではライン止めるなって怒られたし。これは完全に僕が悪い。

 

「ううん、違う。別にクラスで孤立していたのはあなただけでは無かったし、その人たちはよく揶揄われて、中にはきっと虐めに近い行為を受けている時もあった。私も一応口頭で注意はしたけれど、たぶん意味なんて無かったと思う。なのに、あなたは違った。全員があなたを視界の端に認識しながら、心のどこかで憎からず思っていた。あなたがなにかミスをしても、『またアイツやってんのかよ、しょうがねぇなぁ』って誰かが苦笑して、それで終わり。たぶん、みんなあなたを下には見ていたし、素行の悪い生徒からはナメられていたように思う。だというのに、誰もあなたを嫌ってはいなかった。……日本にいた頃はわからなかったけれど、今ならなんとなく想像がつく。あの時クラス全員が、まるで『いつか友人になる相手』かのように、あなたを受け入れていた」

 

 ……ずいぶんな買い被りだよ、委員長。

 てかもしそうなら、みんなも"いつか"じゃなく"その時"に友達になってくれればよかったのに。

 僕全然友人は募集中だったからね、人間強度下がるから友達作んなかったワケじゃなく、できないから居ないだけだったんで。

 僕も友達が欲しく向こうもいつか友達にする気だったってそんなの両片思いじゃん。僕の人生はラブコメじゃなくギャグコメディに近いと思うんだけど。

 喜劇だとまでは言わないよ、中二病はバルツァンの名湯で湯治し終えたからね。

 

「そうね。きっとあなたが話しかければ、その日のうちにでもそうなったでしょう。だから、私はあなたに嫉妬していたの」

 

 

「なにもできないのに、誰からも否定されないあなたに」

 

 

 

 

 

 

 その後開催された『冒険者と魔物』にて、委員長が初の賭け事にチャレンジし、賭けの代金を手渡された僕と逆に張った結果、突然繋がっていたハズの黄金のオーラや銀の鎖が切れるアクシデントが発生。

 目に見えて慌てふためいた委員長が、なりふり構わず僕の胸に飛び込んでキスを敢行。

 突然のロマンスを万座に見せつけ、場を沸かしたりした。

 

 どうもグリッチ対策として僕と賭けを行うと、扶養の対象から外されるらしい。難しい税制の話?

 新たな法則性を発見した委員長は、涙目で青い顔をしつつも「これは新たな発見です。急ぎ議会で共有させて頂きます」と言っていた。その議会の議事録の閲覧申請はどちらへ出せばいいですか?

 

 なんだかんだと騒ぎはあったものの、彼女は始終気が抜けているというか、重い荷物から解放されているように見えた。

 今まで言えなかったいろいろな事を、僕に打ち明けてくれたのもその一環だ。

 それはきっと彼女のずっと張り詰めていた気を、お酒と賑やかな空気が、ほんの少しだけ緩めたからかもしれない。

 

 

 二日酔いにうなされ「……二度とお酒は飲みまひぇん」とうめく正親さんを見ながら、僕はそう遠くないうちにまた誘おうと思うのだった。

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